重 篤 副 作 用 疾 患 別 対 応 マニュアル アカシジア 平 成 22 年 3 月 厚 生 労 働 省
本 マニュアルの 作 成 に 当 たっては 学 術 論 文 各 種 ガイドライン 厚 生 労 働 科 学 研 究 事 業 報 告 書 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 の 保 健 福 祉 事 業 報 告 書 等 を 参 考 に 厚 生 労 働 省 の 委 託 により 関 係 学 会 においてマニュア ル 作 成 委 員 会 を 組 織 し 社 団 法 人 日 本 病 院 薬 剤 師 会 とともに 議 論 を 重 ねて 作 成 されたマニュアル 案 をもとに 重 篤 副 作 用 総 合 対 策 検 討 会 で 検 討 され 取 り まとめられたものである 日 本 臨 床 精 神 神 経 薬 理 学 会 マニュアル 作 成 委 員 会 堀 口 淳 稲 見 康 司 竹 内 賢 内 藤 宏 島 根 大 学 医 学 部 精 神 医 学 講 座 教 授 愛 媛 労 災 病 院 精 神 科 部 長 福 島 県 立 医 科 大 学 医 学 部 神 経 精 神 医 学 教 室 兼 任 准 教 授 藤 田 保 健 衛 生 大 学 医 学 部 精 神 神 経 科 学 准 教 授 ( 敬 称 略 ) 社 団 法 人 日 本 病 院 薬 剤 師 会 飯 久 保 尚 東 邦 大 学 医 療 センター 大 森 病 院 薬 剤 部 部 長 補 佐 井 尻 好 雄 大 阪 薬 科 大 学 臨 床 薬 剤 学 教 室 准 教 授 大 嶋 繁 城 西 大 学 薬 学 部 医 薬 品 情 報 学 講 座 准 教 授 小 川 雅 史 大 阪 大 谷 大 学 薬 学 部 臨 床 薬 学 教 育 研 修 センター 実 践 医 療 薬 学 講 座 教 授 大 濵 修 福 山 大 学 薬 学 部 医 療 薬 学 総 合 研 究 部 門 教 授 笠 原 英 城 社 会 福 祉 法 人 恩 賜 財 団 済 生 会 千 葉 県 済 生 会 習 志 野 病 院 副 薬 剤 部 長 小 池 香 代 名 古 屋 市 立 大 学 病 院 薬 剤 部 主 幹 後 藤 伸 之 名 城 大 学 薬 学 部 医 薬 品 情 報 学 研 究 室 教 授 小 林 道 也 北 海 道 医 療 大 学 薬 学 部 実 務 薬 学 教 育 研 究 講 座 准 教 授 鈴 木 義 彦 国 立 病 院 機 構 東 京 医 療 センター 薬 剤 科 長 高 柳 和 伸 財 団 法 人 倉 敷 中 央 病 院 薬 剤 部 長 濱 敏 弘 癌 研 究 会 有 明 病 院 薬 剤 部 長 林 昌 洋 国 家 公 務 員 共 済 組 合 連 合 会 虎 の 門 病 院 薬 剤 部 長 ( 敬 称 略 ) 1
重 篤 副 作 用 総 合 対 策 検 討 会 飯 島 正 文 昭 和 大 学 病 院 院 長 皮 膚 科 教 授 池 田 康 夫 早 稲 田 大 学 理 工 学 術 院 先 進 理 工 学 部 生 命 医 科 学 教 授 市 川 高 義 日 本 製 薬 工 業 協 会 医 薬 品 評 価 委 員 会 PMS 部 会 委 員 犬 伏 由 利 子 消 費 科 学 連 合 会 副 会 長 岩 田 誠 東 京 女 子 医 科 大 学 病 院 医 学 部 長 神 経 内 科 主 任 教 授 上 田 志 朗 千 葉 大 学 大 学 院 薬 学 研 究 院 医 薬 品 情 報 学 教 授 笠 原 忠 慶 應 義 塾 常 任 理 事 薬 学 部 教 授 金 澤 實 埼 玉 医 科 大 学 呼 吸 器 内 科 教 授 木 下 勝 之 社 団 法 人 日 本 医 師 会 常 任 理 事 戸 田 剛 太 郎 財 団 法 人 船 員 保 険 会 せんぽ 東 京 高 輪 病 院 名 誉 院 長 山 地 正 克 財 団 法 人 日 本 医 薬 情 報 センター 理 事 林 昌 洋 国 家 公 務 員 共 済 組 合 連 合 会 虎 の 門 病 院 薬 剤 部 長 松 本 和 則 獨 協 医 科 大 学 特 任 教 授 森 田 寛 お 茶 の 水 女 子 大 学 保 健 管 理 センター 所 長 座 長 ( 敬 称 略 ) 2
本 マニュアルについて 従 来 の 安 全 対 策 は 個 々の 医 薬 品 に 着 目 し 医 薬 品 毎 に 発 生 した 副 作 用 を 収 集 評 価 し 臨 床 現 場 に 添 付 文 書 の 改 訂 等 により 注 意 喚 起 する 警 報 発 信 型 事 後 対 応 型 が 中 心 である しかしな がら 1 副 作 用 は 原 疾 患 とは 異 なる 臓 器 で 発 現 することがあり 得 ること 2 重 篤 な 副 作 用 は 一 般 に 発 生 頻 度 が 低 く 臨 床 現 場 において 医 療 関 係 者 が 遭 遇 する 機 会 が 少 な いものもあること などから 場 合 によっては 副 作 用 の 発 見 が 遅 れ 重 篤 化 することがある 厚 生 労 働 省 では 従 来 の 安 全 対 策 に 加 え 医 薬 品 の 使 用 により 発 生 する 副 作 用 疾 患 に 着 目 した 対 策 整 備 を 行 うとともに 副 作 用 発 生 機 序 解 明 研 究 等 を 推 進 することにより 予 測 予 防 型 の 安 全 対 策 への 転 換 を 図 ることを 目 的 として 平 成 17 年 度 から 重 篤 副 作 用 総 合 対 策 事 業 をスター トしたところである 本 マニュアルは 本 事 業 の 第 一 段 階 早 期 発 見 早 期 対 応 の 整 備 (4 年 計 画 )として 重 篤 度 等 から 判 断 して 必 要 性 の 高 いと 考 えられる 副 作 用 について 患 者 及 び 臨 床 現 場 の 医 師 薬 剤 師 等 が 活 用 する 治 療 法 判 別 法 等 を 包 括 的 にまとめたものである 記 載 事 項 の 説 明 本 マニュアルの 基 本 的 な 項 目 の 記 載 内 容 は 以 下 のとおり ただし 対 象 とする 副 作 用 疾 患 に 応 じ て マニュアルの 記 載 項 目 は 異 なることに 留 意 すること 患 者 の 皆 様 へ 患 者 さんや 患 者 の 家 族 の 方 に 知 っておいて 頂 きたい 副 作 用 の 概 要 初 期 症 状 早 期 発 見 早 期 対 応 のポイントをできるだけわかりやすい 言 葉 で 記 載 した 医 療 関 係 者 の 皆 様 へ 早 期 発 見 と 早 期 対 応 のポイント 医 師 薬 剤 師 等 の 医 療 関 係 者 による 副 作 用 の 早 期 発 見 早 期 対 応 に 資 するため ポイントにな る 初 期 症 状 や 好 発 時 期 医 療 関 係 者 の 対 応 等 について 記 載 した 副 作 用 の 概 要 副 作 用 の 全 体 像 について 症 状 検 査 所 見 病 理 組 織 所 見 発 生 機 序 等 の 項 目 毎 に 整 理 し 記 載 した 3
副 作 用 の 判 別 基 準 ( 判 別 方 法 ) 臨 床 現 場 で 遭 遇 した 症 状 が 副 作 用 かどうかを 判 別 ( 鑑 別 )するための 基 準 ( 方 法 )を 記 載 し た 判 別 が 必 要 な 疾 患 と 判 別 方 法 当 該 副 作 用 と 類 似 の 症 状 等 を 示 す 他 の 疾 患 や 副 作 用 の 概 要 や 判 別 ( 鑑 別 ) 方 法 について 記 載 した 治 療 法 副 作 用 が 発 現 した 場 合 の 対 応 として 主 な 治 療 方 法 を 記 載 した ただし 本 マニュアルの 記 載 内 容 に 限 らず 服 薬 を 中 止 すべきか 継 続 すべきかも 含 め 治 療 法 の 選 択 については 個 別 事 例 において 判 断 されるものである 典 型 的 症 例 本 マニュアルで 紹 介 する 副 作 用 は 発 生 頻 度 が 低 く 臨 床 現 場 において 経 験 のある 医 師 薬 剤 師 は 少 ないと 考 えられることから 典 型 的 な 症 例 について 可 能 な 限 り 時 間 経 過 がわかるよ うに 記 載 した 引 用 文 献 参 考 資 料 当 該 副 作 用 に 関 連 する 情 報 をさらに 収 集 する 場 合 の 参 考 として 本 マニュアル 作 成 に 用 いた 引 用 文 献 や 当 該 副 作 用 に 関 する 参 考 文 献 を 列 記 した 医 薬 品 の 販 売 名 添 付 文 書 の 内 容 等 を 知 りたい 時 は 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 の 医 薬 品 医 療 機 器 情 報 提 供 ホームページの 添 付 文 書 情 報 から 検 索 することが 出 来 ます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬 の 副 作 用 により 被 害 を 受 けた 方 への 救 済 制 度 については 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 のホームページの 健 康 被 害 救 済 制 度 に 掲 載 されています (http://www.pmda.go.jp/) 4
アカシジア 英 語 名 :akathisia A. 患 者 の 皆 様 へ ここでご 紹 介 している 副 作 用 は 必 ず 起 こるというものではありませんが 薬 物 によっては 数 十 %の 服 用 者 に 起 こると 言 われています 副 作 用 とは 気 づかずに 放 置 していると 病 状 に 深 刻 な 影 響 を 及 ぼすことがありますので 早 めに 対 処 することが 大 切 です そこで より 安 全 な 治 療 を 行 う 上 でも 本 マニュアルを 参 考 にして 患 者 さんご 自 身 またはご 家 族 にこのような 副 作 用 があるこ とを 知 っていただき 以 下 のような 症 状 に 気 づかれたら 早 急 に 医 師 又 は 薬 剤 師 に 連 絡 してくださ い 精 神 科 のお 薬 (とりわけ 抗 精 神 病 薬 )の 服 用 中 に 起 こることのあ る 副 作 用 です アカシジアは 抗 精 神 病 薬 だけではなく 抗 うつ 薬 や 一 部 の 医 師 から 処 方 された 胃 腸 薬 などによっても 引 き 起 こされる ことがあります これらのお 薬 を 服 用 していて 下 に 示 したような 症 状 がみられた 場 合 には 自 己 判 断 で 服 用 を 中 止 したり 放 置 したり せずに 早 急 に 医 師 又 は 薬 剤 師 に 連 絡 してください 自 己 判 断 での 服 用 の 中 止 によって さらに 重 篤 な 症 状 が 出 現 する 場 合 があること に 注 意 して 下 さい 体 や 足 がソワソワしたりイライラして じっと 座 っていたり 横 になっていたりできず 動 きたくなる じっとしておれず 歩 きたくなる 体 や 足 を 動 かしたくなる 足 がむずむずする 感 じ じっと 立 ってもおれず 足 踏 みしたくなる など 5
また ご 家 族 の 方 も 患 者 さんに 前 に 書 いたような 症 状 が 見 られ たり 貧 乏 揺 すり や ベッド 上 での 体 動 の 繰 り 返 し 理 由 な くイライラと 歩 き 回 る などに 気 づいた 場 合 には 薬 の 副 作 用 の 可 能 性 があるので すぐに 医 師 又 は 薬 剤 師 に 相 談 してください 1.アカシジアとは? アカシジアは 静 座 不 能 症 と 訳 されていて 座 ったままでじっとし ていられず そわそわと 動 き 回 るという 特 徴 があります アカシジ アの 原 因 薬 では 抗 精 神 病 薬 によるものが 多 いのですが 抗 うつ 薬 や 一 部 の 医 師 から 処 方 された 胃 腸 薬 などによっても 引 き 起 こされる ことがあります 多 くの 場 合 には 服 用 を 始 めて 数 日 後 に 出 現 しま すが 数 カ 月 間 以 上 同 じ 薬 を 飲 み 続 けた 後 に 出 現 する 場 合 もありま す 前 述 の 症 状 がみられ 落 ち 着 かず 廊 下 を 行 ったり 来 たりなど ずっと 歩 き 回 ったりします このように 落 ち 着 きがなくなったり 興 奮 して 歩 き 回 ったりする アカシジアの 症 状 を 抗 精 神 病 薬 などの 服 用 を 必 要 とした 元 来 の 精 神 疾 患 による 精 神 症 状 であると 勘 違 いしてはいけません 病 気 が 悪 化 したと 勘 違 いして 自 分 で 勝 手 に 服 用 中 のお 薬 をたくさん 飲 んで しまうと 一 般 的 にはさらにアカシジアが 悪 化 します あまりに 苦 しくて 衝 動 的 に 自 分 を 傷 つけたり 自 殺 したいとさえ 感 じ 危 険 な 行 為 に 及 ぶ 場 合 さえもあります 6
2. 早 期 発 見 と 早 期 対 応 のポイント 抗 精 神 病 薬 などの 医 薬 品 を 服 用 していて 前 述 のような 症 状 す なわち 座 ったままでいられない じっとしていられない 下 肢 のむずむず 感 灼 熱 感 下 肢 の 絶 え 間 ない 動 き 足 踏 み 姿 勢 の 頻 繁 な 変 更 などの 症 状 がみられる 場 合 には 自 己 判 断 で 服 用 を 中 止 したり 放 置 したりせずに 早 急 に 医 師 または 薬 剤 師 に 連 絡 し てください 自 己 判 断 での 服 用 の 中 止 で さらに 異 なる 重 篤 な 副 作 用 が 出 現 する 場 合 があるので 注 意 して 下 さい アカシジアの 自 覚 症 状 は たいていは 歩 行 や 運 動 によって 軽 減 さ れることが 大 きな 特 徴 の 一 つです またアカシジアのために 夜 間 に 寝 付 きにくいといった 不 眠 症 を 伴 うこともあります アカシジア の 状 態 がある 人 に 気 持 ちと 身 体 のどちらがソワソワしますか と 質 問 すると 多 くは 身 体 がソワソワします と 答 えます これ は 大 切 なアカシジアの 発 見 法 のひとつです アカシジアは 本 人 に とってはきわめて 不 快 な 症 状 であり 急 いで 対 処 しないと 元 来 の 精 神 疾 患 に 対 する 治 療 薬 の 服 用 が 恐 ろしくなり 服 用 を 拒 絶 するよ うになってしまう 場 合 すらあります アカシジアの 症 状 は 薬 物 の 投 与 開 始 や 増 量 後 数 日 以 内 に 出 現 することが 多 いのですが 数 カ 月 間 以 上 服 用 を 続 けた 後 に 出 現 す ることもあります 症 状 は 可 逆 的 なもので 薬 物 の 投 与 中 止 や 減 量 によって 消 失 または 軽 減 します また アカシジアを 治 療 するため のいくつかのお 薬 があります アカシジアの 症 状 が 重 篤 な 場 合 には これらのお 薬 の 筋 肉 内 注 射 によって 速 やかに 症 状 を 軽 減 すること ができます 7
医 薬 品 の 販 売 名 添 付 文 書 の 内 容 等 を 知 りたい 時 は 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 医 薬 品 医 療 機 器 情 報 提 供 ホームページの 添 付 文 書 情 報 から 検 索 することが 出 来 ます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬 の 副 作 用 により 被 害 を 受 けた 方 への 救 済 制 度 については 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 のホームページの 健 康 被 害 救 済 制 度 に 掲 載 されています (http://www.pmda.go.jp/) 8
B. 医 療 関 係 者 の 皆 様 へ 1. 早 期 発 見 と 早 期 対 応 のポイント アカシジアは 主 に 抗 精 神 病 薬 による 副 作 用 の 一 つとして 広 く 知 られてい るが 一 般 診 療 で 使 用 される 制 吐 薬 や 胃 腸 薬 などもその 原 因 になりうること を 念 頭 に 置 く 必 要 がある アカシジア 自 体 は 直 接 生 命 を 脅 かすものではない が それが 見 逃 され 長 期 にわたって 患 者 を 悩 ませていたり 時 にはアカシジ アによる 症 状 の 治 療 目 的 で 入 院 となるケースもある この 苦 痛 を 伴 うアカシ ジアによる 異 常 行 動 は しばしば 元 来 の 精 神 疾 患 に 伴 う 治 療 抵 抗 性 の 精 神 症 状 や 不 安 発 作 と 誤 診 され 適 切 な 処 置 がなされないまま 不 安 焦 燥 が 悪 化 し 時 に 自 傷 行 為 や 自 殺 に 繋 がる 可 能 性 も 指 摘 されている 1) そこで 早 期 発 見 のポイントとしては アカシジアを 引 き 起 こす 可 能 性 のあ る 薬 剤 の 使 用 にあたり 積 極 的 な 問 診 により 現 症 を 十 分 に 評 価 し 薬 剤 投 与 後 に 発 現 した 投 与 前 の 精 神 症 状 とは 異 なる 落 ち 着 きのなさ に 注 目 するこ とが 肝 要 である また 全 身 状 態 の 悪 い 患 者 の 診 療 においては 足 や 臀 部 の 違 和 感 同 一 姿 勢 が 保 てない 点 などに 注 目 した 積 極 的 な 問 診 による 症 状 の 把 握 が 求 められる 特 に アカシジアを 惹 起 する 可 能 性 のある 薬 剤 の 注 射 に よる 処 置 後 の 30 分 から 2 時 間 以 内 に 急 速 に 投 与 前 の 精 神 症 状 とは 異 なる 落 ち 着 きのなさ が 出 現 した 際 は まずアカシジアを 疑 うことから 鑑 別 診 断 を 始 める (1) 好 発 時 期 アカシジアは 急 性 アカシジア 遅 発 性 アカシジア 離 脱 性 アカシジア 慢 性 アカシジアに 分 類 される 2) 最 も 頻 度 の 高 い 急 性 アカシジアは 原 因 薬 剤 の 投 与 開 始 か 増 量 後 時 には 原 因 薬 剤 によるパーキンソン 症 候 群 やア カシジアなどの 予 防 目 的 で 併 用 投 与 されていた 抗 コリン 薬 の 減 量 ないし 中 9
止 後 6 週 間 以 内 に 症 状 が 発 現 すると 言 われている 従 って アカシジア が 疑 われた 場 合 の 原 因 薬 剤 の 検 索 は 最 近 新 たに 投 与 された 薬 剤 か 用 量 を 変 更 された 薬 剤 を アカシジア 出 現 後 から 6 週 間 前 まで 遡 って 検 討 する 必 要 がある しかし 多 くの 報 告 例 では 原 因 薬 剤 の 使 用 開 始 後 3 日 から 2 週 間 以 内 に 発 現 しているものが 多 い 一 方 遅 発 性 アカシジアは 原 因 薬 剤 を 投 与 開 始 後 3 ヶ 月 以 上 経 ってから 発 現 するものをいう また 離 脱 性 アカシジアは すでに 3 ヶ 月 以 上 原 因 薬 剤 が 投 与 されており その 中 断 により 6 週 間 以 内 に 発 症 したものである アカシジアの 症 状 が 3 ヶ 月 以 上 続 いたものは 慢 性 アカシジアと 呼 称 され るが その 際 には 慢 性 アカシジア 急 性 発 症 あるいは 慢 性 アカシジア 遅 発 性 発 症 と 付 記 される (2) 患 者 側 のリスク 因 子 統 合 失 調 症 や 気 分 障 害 患 者 では 複 数 の 抗 精 神 病 薬 を 投 与 される 機 会 が 多 く 常 に 注 意 を 要 する 化 学 療 法 や 緩 和 ケア 医 療 においては 全 身 状 態 が 悪 化 していても 多 剤 併 用 療 法 が 必 要 となる 場 合 が 多 く 制 吐 薬 と 抗 潰 瘍 薬 あるいは 向 精 神 薬 などの 相 互 作 用 にも 注 意 すべきである 特 に 広 く 用 いられるメトクロプラミドなどの 制 吐 薬 は その 通 常 用 量 や 1 回 の 注 射 に よる 使 用 の 際 にもアカシジアが 出 現 する 場 合 があり 3,4) アカシジアの 発 現 が 見 逃 されている 場 合 もあり 得 るので 注 意 を 喚 起 したい さらに 鉄 欠 乏 や 糖 尿 病 がアカシジア 発 現 の 危 険 因 子 であることも 指 摘 されており 身 体 面 の 評 価 も 忘 れてはならない 5) (3) 投 薬 上 のリスク 因 子 アカシジアは 古 くはハロペリドールなどの 定 型 抗 精 神 病 薬 によって 発 現 する 副 作 用 である 錐 体 外 路 症 状 の 一 型 として パーキンソニズムと 同 様 10
に 良 く 知 られていた 副 作 用 である 定 型 抗 精 神 病 薬 によるアカシジアは 一 般 的 には 他 覚 的 に 観 察 できる 症 状 が 特 徴 的 であるため 診 断 は 比 較 的 容 易 であった 一 方 最 近 ではリスペリドンなどのような 錐 体 外 路 系 の 副 作 用 の 発 現 が 少 ないと 言 われている 非 定 型 抗 精 神 病 薬 が 主 に 使 用 される 機 会 が 多 くなったが 非 定 型 抗 精 神 病 薬 によってもアカシジアの 発 現 は 高 頻 度 である しかしながら 非 定 型 抗 精 神 病 薬 によるアカシジアは 定 型 抗 精 神 病 薬 のそれと 比 較 して 自 他 覚 症 状 とも 軽 症 な 場 合 が 多 いようであり その ため 見 逃 されてしまうこともあり 症 状 が 重 篤 化 して 初 めて 診 断 される 場 合 もある (4) 患 者 が 早 期 に 自 覚 しうる 症 状 典 型 的 な 自 覚 症 状 は 強 い 不 安 焦 燥 感 や 内 的 不 隠 と 手 足 や 体 全 体 を 揺 り 動 かしたくなる 駆 り 立 てられるような 強 い 衝 動 である 患 者 は 足 をじ っとしていられず 足 を 動 かしたい 欲 求 に 気 づいている 静 止 を 強 いられ ると 内 的 不 隠 が 増 強 する アカシジアの 評 価 は 患 者 の 主 観 的 な 訴 えが 強 く 反 映 されるため 客 観 的 な 評 価 が 難 しいとされてきた 診 断 や 観 察 の 参 考 のために 稲 田 らによ り 紹 介 された 日 本 語 版 の Barnes による 薬 原 性 アカシジア 評 価 尺 度 6,7) を 紹 介 する( 表 1) これは 客 観 症 状 主 観 症 状 主 観 症 状 に 対 する 苦 痛 の 3 項 目 に 6 段 階 評 価 の 総 括 評 価 1 項 目 を 加 えた 計 4 項 目 で 構 成 されており 各 アンカーポイントの 記 述 は アカシジアの 発 現 から 重 症 化 の 病 像 を 理 解 す る 上 でも 参 考 になる 臨 床 医 は その 発 現 を 低 く 認 知 していることが 各 研 究 から 指 摘 されており 各 評 点 の 合 計 点 数 とその 推 移 は 経 時 的 な 病 状 変 化 の 把 握 を 可 能 とする 11
表 1 薬 原 性 アカシジア 評 価 尺 度 (Barnes TRE) --------------------------------------------------------------------------------------- 患 者 氏 名 : 内 的 不 隠 に 関 連 した 苦 痛 患 者 調 査 番 号 : 0: 苦 痛 なし 病 院 番 号 : 1: 軽 度 病 棟 : 2: 中 等 度 評 価 者 : 3: 重 度 ---------------------------------------- まず 座 位 で その 後 何 気 ない 会 話 をしなが ら 立 位 で 評 価 する(どちらの 状 態 でも 最 低 2 分 間 は 観 察 すること) 他 の 状 態 で 観 察 された 症 状 ( 例 えば 病 棟 で 何 等 かの 活 動 をしている ときなど)も 評 価 の 対 象 にいれてよい 続 い て, 直 接 質 問 することによって 患 者 が 持 つ 主 観 的 症 状 を 引 き 出 す 客 観 症 状 0: 正 常 時 に 下 肢 のそわそわした 動 きがある 1: 特 徴 的 なそわそわした 動 きがみられる 下 肢 ののろのろ 歩 きやとぼとぼ 歩 き 座 位 で の 片 足 の 振 り 回 し;また 立 位 での 足 の 揺 り 動 かしや 足 踏 み;ただしこうした 運 動 がみ られるのは 観 察 時 間 の 半 分 以 下 である 2: 上 の 1 で 記 載 されたような 現 象 が 観 察 時 間 の 半 分 以 上 で 認 められる 3: 患 者 は 絶 えず 特 徴 的 な 不 穏 運 動 をしている また 観 察 期 間 中 に 歩 かないでじっと 立 った ままや 座 ったままでいることができない 主 観 症 状 内 的 不 隠 の 自 覚 の 程 度 0: 内 的 不 穏 感 は 存 在 しない 1: 非 特 異 的 な 内 的 不 穏 感 2: 患 者 は 足 をじっとしていられなかったり 足 を 動 かしたいという 欲 求 に 気 づいている また じっと 立 っているように 言 われた 時 に 内 的 不 穏 に 対 する 不 満 が 特 に 悪 化 する 3:ほとんどいつでも 動 いているという 強 烈 な 強 迫 感 を 持 ったり ほとんどいつでも 歩 い ていたいという 強 い 欲 求 を 訴 える 12 アカシジアの 包 括 的 臨 床 評 価 0:なし 内 的 不 穏 に 対 する 自 覚 の 事 実 がない 内 的 不 穏 の 主 観 的 な 訴 えや 下 肢 を 動 かしたいと いう 強 迫 的 な 欲 求 がない 場 合 に アカシジ アの 特 徴 的 な 運 動 不 穏 が 観 察 された 場 合 仮 性 アカシジアに 分 類 する 1: 疑 わしい 非 特 異 的 な 内 的 緊 張 とそわそわした 運 動 2: 軽 度 のアカシジア 下 肢 の 不 穏 に 気 づいており じっと 立 って いるように 言 われたときに 内 的 不 穏 が 悪 化 する そわそわした 運 動 が 存 在 するが 特 徴 的 なアカシジアの 運 動 不 穏 は 必 ずしも 観 察 されない こうした 状 態 はほとんどある いは 全 く 苦 痛 の 原 因 にはなっていない 3: 中 等 度 のアカシジア 上 の 軽 度 のアカシジアで 記 載 した 不 穏 に 気 づいている これにあわせて 立 位 時 にお ける 足 の 揺 り 動 かしのような 特 徴 的 な 運 動 不 穏 が 観 察 される 患 者 はその 状 態 を 苦 痛 に 感 じる 4: 顕 著 なアカシジア 内 的 不 穏 の 主 観 的 症 状 の 中 に 歩 いていた いという 強 迫 的 な 欲 求 があるが 患 者 は 少 なくとも 5 分 間 以 上 は 座 っていることがで きる その 状 態 は 明 らかに 苦 痛 である 5: 重 度 のアカシジア 患 者 はほとんどいつも あちこち 歩 き 回 り たいという 強 い 強 迫 感 を 訴 える 2 3 分 以 上 座 っていたり 横 になっていることができ ない 強 烈 な 苦 痛 と 不 眠 を 伴 う 持 続 的 な 不 穏 状 態 --------------------------------------------------------------------------------------- 原 著 者 である London 大 学 Charing Cross and Westminster 医 学 部 精 神 科 の Barnes 博 士 と 評 価 尺 度 原 版 の 著 作 権 を 持 つ Royal College of Psychiatrists の 承 諾 のもとに Inada ら(1996)によって 翻 訳 およ び 信 頼 性 検 討 がなされた Barnes アカシジア 評 価 尺 度 原 版 著 作 権 者 および 日 本 語 版 著 作 権 者 の 許 可 を 得 て 掲 載 日 本 語 版 (C) 稲 田 俊 也
(5) 早 期 発 見 に 必 要 な 検 査 と 実 施 時 期 現 時 点 では 日 常 臨 床 で 利 用 できる 早 期 発 見 のための 特 別 な 検 査 法 はな い 運 動 亢 進 症 状 を 客 観 的 に 捉 える 目 的 で 運 動 センサーを 内 蔵 した 測 定 器 具 や 市 販 の 万 歩 計 で 定 量 的 に 運 動 量 を 測 定 できても 診 断 的 な 意 義 は 少 ない したがって 表 1 のアカシジア 評 価 尺 度 等 を 参 考 に 日 常 診 療 の 中 での 詳 細 な 問 診 や 観 察 を 注 意 深 く 行 う 必 要 がある その 際 には 躯 幹 上 肢 下 肢 の 3 つの 身 体 領 域 と 臥 位 座 位 立 位 のそれぞれの 姿 勢 で 評 価 することが 望 ましい 一 方 アカシジアの 原 因 薬 剤 の 同 定 は 重 要 である ので 原 因 になりうる 主 な 医 薬 品 リストを 表 2に 示 した 表 2 アカシジアを 引 き 起 こす 可 能 性 のある 薬 剤 抗 精 神 病 薬 フェノチアジン 系 :プロクロルペラジン クロルプロマジン ペルフェナジン クロルプロマジン プロメタジン 配 合 剤 など ブチロフェノン 系 :ハロペリドール ブロムペリドール チミペロンなど ベンザミド 系 :スルピリド スルトプリド ネモナプリド チアプリドなど 非 定 型 抗 精 神 病 薬 :リスペリドン オランザピン クエチアピン ペロスピロン アリピプラゾール ブロナセリン 抗 うつ 薬 三 環 系 :アミトリプリチン アモキサピン イミプラミン クロミプラミンなど 四 環 系 :マプロチリン ミアンセリンなど その 他 :スルピリド トラゾドンなど SSRI:フルボキサミン パロキセチン セルトラリン SNRI:ミルナシプラン 抗 けいれん 薬 気 分 安 定 薬 :バルプロ 酸 ナトリウム 抗 不 安 薬 :タンドスピロン 抗 認 知 症 薬 :ドネペジル 消 化 性 潰 瘍 用 薬 :ラニチジン ファモチジン クレボプリド スルピリド 消 化 器 用 薬 :ドンペリドン メトクロプラミド イトプリド オンダンセトロン モサプリド 抗 アレルギー 薬 :オキサトミド 血 圧 降 下 薬 :マニジピン ジルチアゼム レセルピン メチルドパ 抗 がん 剤 :イホスファミド カペシタビン カルモフール テガフール フルオロウラシル その 他 :ドロペリドール フェンタニル インターフェロン 等 の 製 剤 13
( 付 記 ) (A)[ 患 者 指 導 の 実 際 ] 体 や 足 がソワソワしたりイライラする じっと 座 っていたり 横 になっていたりでき ず 動 きたくなる じっとしておれず 歩 きたくなる 体 や 足 を 動 かしたくなる 足 がむずむずする 感 じ じっと 立 ってもおれず 足 踏 みしたくなる など じっとしていられない 落 ち 着 かない 足 がむずむずする 一 つの 姿 勢 が 保 てな い などの 症 状 に 気 づいた 場 合 には すぐに 医 師 に 相 談 してください (B)[ 患 者 家 族 等 への 指 導 ] 今 から 説 明 する 副 作 用 は 誰 にでも 起 こるものではありませんが 服 用 中 の 患 者 さんに 上 に 書 いたような 症 状 が 見 られたり 貧 乏 揺 すり や ベッド 上 での 体 動 の 繰 り 返 し 理 由 なくイライラと 歩 き 回 る などに 気 づいた 場 合 には 薬 の 副 作 用 の 可 能 性 があるの で すぐに 医 師 に 相 談 してください 2. 副 作 用 の 概 要 急 性 アカシジアとは 静 座 不 能 症 とも 呼 ばれ 強 い 不 安 焦 燥 感 や 内 的 不 隠 を 伴 う じっとしていられない じっと 座 っていられない 状 態 を 示 す 20 世 紀 前 半 には アカシジアはパーキンソン 病 や 脳 炎 後 のパーキンソニズムの 患 者 に 稀 に 発 現 する 脳 器 質 性 の 神 経 症 状 と 考 えられていた しかし 1950 年 代 のドパミン 遮 断 を 薬 理 作 用 とする 抗 精 神 病 薬 の 開 発 以 降 は アカシジアは 薬 剤 誘 発 性 の 錐 体 外 路 系 の 副 作 用 として 広 く 知 られるようになった したが って 一 般 にアカシジアは 主 にドパミン 遮 断 薬 により 発 現 し その 中 止 ない し 減 量 あるいは 中 枢 性 抗 コリン 薬 の 併 用 などにより 症 状 は 軽 減 ないし 消 失 する その 発 生 頻 度 は 定 型 抗 精 神 病 薬 では 20~40%と 報 告 されているが 錐 体 外 路 症 状 の 軽 減 を 図 って 開 発 された 非 定 型 抗 精 神 病 薬 でも 発 生 頻 度 はそ れほど 減 っていないという 指 摘 もある アカシジアの 発 生 機 序 はドパミン 遮 断 作 用 が 一 因 と 考 えられているが 十 分 に 解 明 されているわけではなく 最 近 では 選 択 的 セロトニン 再 取 り 込 み 阻 害 薬 (SSRI)などドパミン 遮 断 作 用 を 14
有 しない 薬 剤 での 報 告 もなされており アカシジアを 起 こしうる 薬 剤 は 抗 精 神 病 薬 以 外 にも 多 岐 にわたる (1) 自 覚 的 症 状 と 他 覚 的 症 状 表 1に 示 したように アカシジアの 症 状 は 客 観 症 状 と 主 観 症 状 の 二 つの 側 面 から 評 価 する 事 が 必 要 である 主 観 症 状 は 内 的 不 隠 と 手 足 や 体 全 体 を 動 かしたいという 強 い 衝 動 に 駆 られるものである 具 体 的 には 足 の 裏 や 臀 部 がむずむずして 落 ち 着 かずイライラするが 歩 き 回 ったり 足 を 組 み かえたり 貧 乏 揺 すりのような 運 動 をしたりすることで この 症 状 は 軽 減 する このため 症 状 悪 化 に 伴 い 自 制 が 困 難 となると 明 確 な 運 動 亢 進 症 状 が 客 観 症 状 として 観 察 されることとなる また 苦 痛 が 耐 えられないも のとなると 自 傷 行 為 や 自 殺 企 図 に 至 ることもあり 注 意 を 要 する 一 方 軽 症 例 では 他 覚 的 な 症 状 に 乏 しく 自 覚 症 状 も もともとじっと していることが 苦 手 という 患 者 の 安 易 な 返 答 によって 見 逃 されてしまう 場 合 もあり 最 近 の 状 態 に 焦 点 を 当 てた 詳 細 な 問 診 により 初 めて 明 らかに されることもある (2) 臨 床 検 査 値 アカシジアを 直 接 支 持 する 検 査 所 見 はないが 血 清 鉄 の 低 下 や 糖 尿 病 が アカシジアの 促 進 因 子 として 指 摘 5) されており 血 液 生 化 学 検 査 での 評 価 は 参 考 になる (3) 発 生 機 序 8) 急 性 アカシジアは 他 の 錐 体 外 路 症 状 とは 異 なり 運 動 亢 進 症 状 という 運 動 過 多 に 加 え 強 い 不 安 焦 燥 感 や 内 的 不 隠 という 精 神 症 状 を 有 しているこ とが 特 徴 である 従 ってその 発 生 機 序 も 黒 質 線 条 体 系 と 関 連 する 他 の 錐 体 15
外 路 症 状 とは 異 なり 中 脳 辺 縁 系 や 中 脳 皮 質 系 のドパミン 遮 断 作 用 が 原 因 のひとつとして 想 定 されている 事 実 中 枢 性 抗 コリン 薬 への 反 応 性 も アカシジアでは 50% 程 度 と 低 く 中 枢 性 抗 コリン 薬 の 薬 原 性 パーキンソニ ズムに 対 する 80~90%の 有 効 性 に 比 べて 明 らかに 低 い 一 方 SSRI のような 薬 剤 もアカシジアを 誘 発 するが セロトニン 神 経 系 の 亢 進 は 腹 側 被 蓋 野 から 中 脳 辺 縁 系 と 中 脳 皮 質 系 のドパミン 神 経 系 に 対 して 抑 制 的 に 働 くこ とが 原 因 と 考 えられている また アカシジアに 効 果 がある 薬 剤 の 作 用 機 序 から アカシジアの 病 態 を 説 明 しようとする 考 え 方 もあり 各 種 の 仮 説 が 提 唱 されている ベンゾ ジアゼピン 系 薬 剤 の 有 用 性 からは GABA 系 機 能 の 低 下 説 が プロプラノロー ルなどのβブロッカー 等 が 有 効 なことからノルアドレナリン 系 機 能 の 亢 進 説 などが 提 唱 されている また 血 清 鉄 の 低 下 糖 尿 病 との 関 連 や その 他 の 神 経 伝 達 系 の 相 互 作 用 が 関 与 していると 考 えられ 最 終 的 には 大 脳 基 底 核 回 路 の 機 能 不 全 によりアカシジアが 発 生 すると 考 えられている なお 遅 発 性 アカシジアは 抗 精 神 病 薬 の 長 期 投 与 による 後 シナプスの 感 受 性 亢 進 が 原 因 と 考 えられている (4) 医 薬 品 ごとの 特 徴 薬 剤 の 種 類 によって 発 現 するアカシジア 症 状 の 相 違 はないが 非 定 型 抗 精 神 病 薬 が 主 流 となり 重 症 例 に 遭 遇 する 機 会 は 減 っている しかし ア カシジアの 発 現 頻 度 が 減 っているのではなく むしろその 過 小 診 断 が 危 惧 されている 9) 非 定 型 抗 精 神 病 薬 の 中 でのアカシジアの 発 現 頻 度 について は セロトニン ドパミン 遮 断 薬 に 分 類 されるリスペリドンなどでは 比 較 的 頻 度 が 高 く クエチアピン オランザピンでは 少 ない 傾 向 がある 10) 非 定 型 抗 精 神 病 薬 のなかのアリピプラゾールは これらの 薬 剤 の 中 ではアカ シジアの 発 現 が 8.9%と 他 の 非 定 型 抗 精 神 病 薬 の 2.3%に 比 べやや 頻 度 が 高 16
い アリピプラゾールの 開 始 時 あるいはアリピプラゾールへの 薬 剤 変 更 時 には 急 性 および 遅 発 性 アカシジアの 出 現 に 特 に 注 意 を 払 うべきである 11) (5) 副 作 用 発 現 頻 度 参 考 1 薬 事 法 第 77 条 の4の2に 基 づく 副 作 用 報 告 件 数 を 参 照 (6) 自 然 発 症 の 頻 度 ( 年 間 推 定 患 者 数 ) アカシジアの 発 現 頻 度 については 文 献 により 大 きな 差 異 があるが 定 型 抗 精 神 病 薬 では 平 均 20~40%と 報 告 されている 12) 一 方 最 近 行 われた 大 規 模 な 試 験 では 定 型 抗 精 神 病 薬 のペルフェナジンを 対 照 として 検 討 し た 結 果 非 定 型 抗 精 神 病 薬 の 錐 体 外 路 症 状 の 発 現 率 との 間 には 有 意 差 が 認 められなかったという 報 告 もある 13) わが 国 での 非 定 型 抗 精 神 病 薬 による アカシジア 出 現 率 は 各 長 期 試 験 の 結 果 からは リスペリドンが 22.9% ペロスピロンが 40% クエチアピンが 5.2% オランザピンが 17.6%であ った 14) 3. 副 作 用 の 判 別 基 準 ( 判 別 方 法 ) 臨 床 研 究 に 推 奨 されており アカシジアの 判 別 で 参 考 となる 診 断 基 準 を 表 3 に 示 す 典 型 例 のアカシジアは 抗 精 神 病 薬 などの 原 因 薬 の 投 与 後 に 患 者 が 静 座 不 能 の 苦 痛 を 訴 えるので 判 別 は 容 易 である しかし 錐 体 外 路 系 の 副 作 用 を 軽 減 した 非 定 型 抗 精 神 病 薬 制 吐 剤 眩 暈 剤 のみならず ドパミン 遮 断 作 用 を 有 しない 他 の 薬 剤 によるアカシジアでは 当 初 は 症 状 が 軽 微 なため に 判 別 に 苦 慮 する 場 合 もある また 急 性 ジストニア パーキンソニズムなど 他 の 錐 体 外 路 症 状 を 併 発 していると 運 動 亢 進 症 状 が 目 立 たないこともある したがって 運 動 亢 進 症 状 の 原 因 が 内 的 不 穏 感 によるなどを 充 分 問 診 したり 17
急 性 ジストニアやパーキンソニズムなど 他 の 錐 体 外 路 症 状 の 併 存 や むずむ ず 脚 症 候 群 (restless legs 症 候 群 )の 併 存 などを 参 考 にして 総 合 的 に 判 断 する 判 断 が 難 しい 場 合 は 積 極 的 に 疑 わしい 薬 剤 の 減 量 や 中 止 を 試 みるこ とも 大 切 である なお 薬 剤 誘 発 性 アカシジア 以 外 にも アカシジアが 嗜 眠 性 脳 炎 や 鉄 欠 乏 性 貧 血 の 患 者 あるいは 脳 炎 後 遺 症 の 患 者 やパーキンソン 病 患 者 に 見 られることが 報 告 されているが 極 めて 稀 ではある 表 3 DSM-Ⅳ-TR の 333.99 神 経 遮 断 薬 誘 発 性 急 性 アカシジアの 研 究 用 基 準 案 A. 落 ち 着 きのなさの 主 観 的 訴 えが 神 経 遮 断 薬 の 使 用 後 現 れる. B. 以 下 のうち 少 なくとも 1 つが 観 察 される. (1) 足 のそわそわとした,または 揺 らす 動 き. (2) 立 っているときに, 片 足 ずつ 交 互 にして 身 体 を 揺 らす. (3) 落 ち 着 きのなさを 和 らげるために 歩 き 回 る. (4) 少 なくとも 数 分 間,じっと 座 っていることまたは 立 っていることができない. C. 基 準 A および B の 症 状 は, 神 経 遮 断 薬 の 投 与 を 開 始 してまたは 増 量 して,または 急 性 の 錐 体 外 路 症 状 を 治 療 (または 予 防 )するために 用 いていた 薬 剤 ( 例 : 中 枢 性 抗 コリン 薬 )を 減 量 して 4 週 間 以 内 に 現 れる. D. 基 準 A の 症 状 は 精 神 疾 患 ( 例 : 統 合 失 調 症, 物 質 離 脱, 大 うつ 病 エピソードまたは 躁 病 エピソ ードの 焦 燥, 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 の 過 活 動 )ではうまく 説 明 されない. 症 状 が 精 神 疾 患 でう まく 説 明 される 証 拠 には, 以 下 のものが 含 まれるであろう: 神 経 遮 断 薬 が 投 与 される 前 に 症 状 が 現 れること, 神 経 遮 断 薬 を 増 量 しても 落 ち 着 きのなさが 増 悪 しないこと, 薬 物 による 介 入 に よっても 軽 快 しないこと( 例 : 神 経 遮 断 薬 を 減 量 しても,またはアカシジアを 治 療 するための 薬 剤 で 治 療 しても 改 善 が 認 められない) E. 基 準 A の 症 状 は, 神 経 遮 断 薬 以 外 の 薬 物 によるものでもなく,また 神 経 疾 患 または 他 の 一 般 身 体 疾 患 によるものでもない. 症 状 が 一 般 身 体 疾 患 によるという 証 拠 には 以 下 のものが 含 まれる であろう: 神 経 遮 断 薬 が 投 与 される 前 に 症 状 が 現 れること,または 処 方 内 容 を 変 更 していない にもかかわらず 症 状 が 進 行 すること,である. DSM-Ⅳ-TR 精 神 疾 患 の 診 断 統 計 マニュアル 新 訂 版, 医 学 書 院,2004. 4. 判 別 が 必 要 な 疾 患 と 判 別 方 法 不 安 焦 燥 精 神 運 動 興 奮 感 覚 障 害 運 動 亢 進 症 状 を 示 す 全 ての 疾 患 や 薬 物 による 副 作 用 が 鑑 別 の 対 象 となる 具 体 的 にはうつ 状 態 躁 状 態 不 安 焦 燥 状 態 パニック 発 作 精 神 病 状 態 精 神 運 動 興 奮 心 気 状 態 などの 精 神 症 状 および 抗 うつ 薬 による activation syndrome や 運 動 亢 進 や 異 常 感 覚 な 18
どにおいてアカシジアと 類 似 した 症 状 を 呈 する 遅 発 性 ジスキネジア またむ ずむず 脚 症 候 群 (restless legs 症 候 群 ) 及 びごくまれに 見 られる 非 薬 剤 性 のアカシジアとの 鑑 別 を 考 慮 する 必 要 がある 低 血 糖 状 態 との 鑑 別 の 必 要 性 も 指 摘 されている 15) (1) 精 神 症 状 との 鑑 別 薬 剤 投 与 後 に 精 神 症 状 が 悪 化 した 場 合 投 与 薬 剤 が 抗 精 神 病 薬 や 抗 うつ 薬 であった 場 合 には 原 疾 患 の 増 悪 と 判 別 する 必 要 があるのはいうまでも ない 抗 精 神 病 薬 以 外 の 薬 剤 の 投 与 後 にアカシジアが 発 症 した 場 合 には 新 たに 出 現 した 精 神 症 状 と 誤 認 される 可 能 性 がある したがって 特 に 抗 精 神 病 薬 以 外 の 薬 剤 を 投 与 している 場 合 には それらの 薬 剤 の 投 与 後 に 焦 燥 感 衝 動 性 興 奮 といった 症 状 が 出 現 したときには アカシジアを 少 しで も 疑 ってみることがなによりも 重 要 であり 原 発 性 の 症 状 が 静 座 不 能 なの か 不 安 焦 燥 なのかを 確 認 する アカシジアでは 症 状 が 歩 行 や 運 動 によっ て 軽 減 されることも 特 徴 だが アカシジア 以 外 の 精 神 症 状 による 焦 燥 精 神 運 動 興 奮 の 場 合 には 歩 行 ではあまり 軽 減 されない アカシジアでは 下 肢 等 に 異 常 感 覚 (むずむず 感 じりじり 感 )を 伴 うことも 多 く さらにそ うした 症 状 に 対 する 対 処 行 動 として 診 察 室 場 面 でも 足 踏 みをしたり そわ そわと 動 かしたりすることも 多 く こうした 症 状 の 存 在 はアカシジアであ ることの 傍 証 となる 16) しかし 精 神 症 状 等 のために 意 志 の 疎 通 が 困 難 な 場 合 には 精 神 症 状 とアカシジアとの 鑑 別 は 困 難 であり 16) 急 性 アカシジ アに 対 する 治 療 を 行 ってみて 改 善 の 有 無 で 事 後 的 に 判 断 せざるを 得 ない 場 合 もある Activation syndrome(または stimulation syndrome)とは 特 に 抗 うつ 薬 による 中 枢 神 経 刺 激 様 症 状 全 般 を 指 す 用 語 であり 近 年 抗 うつ 薬 による 自 殺 関 連 事 象 をめぐって 注 目 されているが その 用 語 の 意 味 する 病 態 や 症 19
状 は 多 種 多 様 であり まだ 十 分 に 確 立 された 概 念 とはいえない 一 般 に activation syndrome とされている 症 状 としては 不 安 易 刺 激 性 軽 躁 焦 燥 敵 意 躁 パニック 発 作 衝 動 性 不 眠 アカシジアがあり 15B) そ の 意 味 では 薬 剤 誘 発 性 のアカシジアも activation syndrome の 一 症 状 と 捉 えることも 可 能 である Activation syndrome の 中 でもアカシジア 以 外 の 症 状 群 では 歩 き 回 らずにはいられないといった 運 動 亢 進 への 傾 向 はそれほ ど 強 くなく またアカシジアと 異 なりβ 遮 断 薬 は 有 効 ではない 1) といった 点 が 鑑 別 点 になるが いずれにせよ SSRI の 処 方 がかつての 三 環 系 抗 うつ 薬 とは 比 べ 物 にならないほどに 一 般 的 になっている 今 日 では activation syndrome の 1 型 としてのアカシジアにも 十 分 な 注 意 を 払 うべきである (2)むずむず 脚 症 候 群 との 鑑 別 むずむず 脚 症 候 群 (restless legs 症 候 群 18) )は 特 に 夕 方 から 夜 間 にか けて 多 くは 下 肢 の 深 部 に むずむずする 虫 が 這 うような ちくちく 刺 されるような ひっぱられるような などと 表 現 されるような 名 状 し がたい 不 快 感 が 生 じるものであり このため 入 眠 困 難 をきたすことを 特 徴 とする 病 態 である 異 常 感 覚 は 下 肢 を 動 かすと 消 失 するため 患 者 は 下 肢 をばたばたと 動 かしたり 屈 伸 を 繰 り 返 したり 締 め 付 けたりこすったり する 症 状 が 強 い 場 合 には 一 晩 に 何 度 も 起 き 上 がって 歩 き 回 ることがある すなわち 両 者 とも 体 を 動 かさないではいられないといった 運 動 亢 進 への 傾 向 を 有 することなど 類 似 点 が 多 いために その 両 者 の 異 同 が 古 くから 問 題 とされてきた さらに 薬 剤 誘 発 性 アカシジアの 患 者 がむずむず 脚 症 候 群 を 併 せ 持 つ 場 合 も 多 いが むずむず 脚 症 候 群 では 下 肢 の 異 常 感 覚 が 一 次 症 状 としてあり 症 状 は 夜 間 就 床 時 の 眠 気 が 訪 れてくる 時 期 に 発 現 し 入 眠 困 難 をきたすといった 特 徴 があるのに 対 して 5,19) アカシジアでは 眠 気 と 関 係 なく 日 中 でも 座 位 や 臥 位 などじっとしていると 症 状 が 増 強 し 運 動 への 20
強 い 衝 動 が 一 次 症 状 となる 睡 眠 に 対 する 影 響 も 両 者 で 異 なっており 睡 眠 ポリグラフによる 検 討 では アカシジアではむずむず 脚 症 候 群 に 比 べて 睡 眠 障 害 がより 軽 度 であるとの 報 告 がある 20) (3) 遅 発 性 ジスキネジアとの 鑑 別 遅 発 性 ジスキネジアは 抗 精 神 病 薬 の 慢 性 投 与 すなわち 通 常 は 3 カ 月 以 上 継 続 投 与 した 後 に 生 じる 不 随 意 運 動 である 主 に 口 頬 舌 下 顎 など 顔 面 周 囲 に 生 じ 時 に 四 肢 躯 幹 に 舞 踏 病 様 の 不 随 意 運 動 として 発 現 する 場 合 も ある 同 様 に 通 常 は 抗 精 神 病 薬 を 3 カ 月 以 上 継 続 投 与 した 後 に 生 じる 遅 発 性 アカシジアはこの 遅 発 性 ジスキネジアを 合 併 しやすく またアカシジア 自 体 遅 発 性 ジスキネジアの 前 駆 症 状 として 出 現 することもある 21) 下 肢 や 躯 幹 に 生 じる 遅 発 性 ジスキネジアではアカシジアにみられる 静 座 不 能 との 鑑 別 が 必 要 だが 患 者 はこの 不 随 意 運 動 に 対 する 苦 痛 をアカシジアほどには 訴 えな いし 苦 痛 の 軽 減 のために 歩 き 回 ることもない また 遅 発 性 ジスキネジアで 生 じる 運 動 は 不 随 意 運 動 であるが アカシジアの 運 動 亢 進 は 苦 痛 の 軽 減 のた めの 歩 き 回 るなどの 随 意 運 動 である 22) (4) 非 薬 剤 性 のアカシジア アカシジアは 薬 剤 の 投 与 によるものだけではなく 脳 炎 脳 炎 後 パーキ ンソン 症 候 群 パーキンソン 病 両 側 前 頭 部 の 外 傷 といった 中 枢 神 経 系 の 疾 患 でも 発 現 する これらによるアカシジアと 薬 剤 性 のアカシジアとの 鑑 別 は アカシジアの 出 現 前 に 抗 精 神 病 薬 やアカシジアを 発 現 させうる 薬 剤 が 投 与 されていることや 投 与 と 発 症 時 期 や 臨 床 経 過 の 間 の 時 間 的 な 関 連 が 認 められることで 区 別 できる 16) 薬 剤 の 投 与 時 期 が 不 明 瞭 な 患 者 や 多 種 類 の 薬 剤 が 併 用 投 与 されている 患 者 あるいは 他 の 身 体 疾 患 を 有 している 患 者 で 慢 性 アカシジアがみられる 場 合 には アカシジアの 原 因 が 判 別 困 難 21
となる 症 例 もある 5. 治 療 方 法 薬 剤 誘 発 性 アカシジアは 薬 剤 による 副 作 用 であるので その 発 現 予 防 が 最 善 の 対 策 である その 対 策 の 第 一 は 抗 精 神 病 薬 の 投 与 が 必 要 な 患 者 の 場 合 には 非 定 型 抗 精 神 病 薬 を 用 いることである 非 定 型 抗 精 神 病 薬 は 定 型 抗 精 神 病 薬 に 比 較 して アカシジア 発 症 のリスクが 少 ない しかしながら 薬 剤 誘 発 性 の 急 性 アカシジアが 発 症 してしまった 場 合 には 救 急 対 応 として 中 枢 性 抗 コリン 薬 (ビペリデン トリヘキシフェニジル)ま たはベンゾジアゼピン 系 薬 剤 (ジアゼパム クロナゼパム)の 投 与 が 有 効 で ある 特 にビペリデンには 注 射 製 剤 があるので 診 断 的 治 療 目 的 でも 用 いら れる 次 に 可 能 な 範 囲 での 原 因 薬 物 の 減 量 変 更 を 行 う 抗 精 神 病 薬 の 場 合 一 般 的 に 高 力 価 高 用 量 の 場 合 にアカシジアが 出 現 しやすいことが 知 られてい るので 非 定 型 抗 精 神 病 薬 の 弱 力 価 のものに 置 換 するか できるだけ 減 量 す るようにする SSRI の 場 合 どの 薬 剤 がアカシジアを 引 き 起 こしやすいかは 知 られていない わが 国 で 使 用 可 能 である 全 ての SSRI がいずれもアカシジア を 引 き 起 こしうる 仮 に 減 量 や 変 更 が 困 難 な 場 合 には 対 症 的 な 薬 物 療 法 を 行 う 中 枢 性 抗 コリ ン 薬 は 本 邦 では 一 般 にアカシジアの 治 療 に 用 いることの 多 い 薬 剤 であり その 有 効 性 については 多 数 の 報 告 があるが 中 枢 性 抗 コリン 薬 には 排 尿 障 害 便 秘 口 渇 などの 身 体 症 状 せん 妄 記 憶 障 害 認 知 障 害 などの 精 神 症 状 の 発 現 のリ スクがあるので 安 易 に 慢 性 的 に 用 いるべきではない 抗 精 神 病 薬 の 場 合 薬 物 療 法 開 始 3 ヶ 月 を 経 た 後 にアカシジアなどの 錐 体 外 路 症 状 が 出 現 すること は 少 ないので もし 治 療 初 期 に 中 枢 性 抗 コリン 薬 の 併 用 の 必 要 があっても 3 ヶ 月 目 以 降 は 中 枢 性 抗 コリン 薬 を 漸 減 したり 中 止 を 試 みるとよい 23) 22
欧 米 でも 中 枢 性 抗 コリン 薬 の 有 効 性 は 古 くから 指 摘 されてきたが 近 年 で はアカシジアに 対 する 薬 物 療 法 としてはβ 遮 断 薬 が 第 一 選 択 となっている 1,2,24) なかでもβ 遮 断 薬 の 中 では 脂 溶 性 でかつ 非 選 択 的 なプロプラノロー ルが 中 枢 移 行 性 に 優 れており 選 択 的 なβ 2 遮 断 薬 と 比 較 しても 有 効 性 が 高 い 25,26) β 遮 断 薬 を 用 いる 際 用 量 変 更 時 には 血 圧 と 脈 拍 とをモニターする ジアゼパム 28) クロナゼパム 29) などのベンゾジアゼピン 系 薬 剤 のアカシジ アに 対 する 有 効 性 も 確 立 されている アカシジアと 精 神 運 動 興 奮 とを 区 別 し がたい 場 合 や 極 度 の 不 安 を 伴 う 場 合 にはベンゾジアゼピン 系 薬 剤 が 有 用 であ る ただし ベンゾジアゼピン 系 薬 剤 も 中 枢 性 抗 コリン 薬 と 同 様 に 慢 性 投 与 による 副 作 用 や 依 存 の 問 題 が 発 生 する 可 能 性 があり 長 期 連 用 は 避 けるべ きである その 他 薬 剤 誘 発 性 の 急 性 アカシジアの 対 処 薬 として α 2 作 動 薬 のクロニ ジン 30) 抗 パーキンソン 薬 であるアマンタジン 2) セロトニンの 前 駆 体 であ る L-トリプトファン 31) 抗 てんかん 薬 のバルプロ 酸 MAO 阻 害 薬 のモクロベ ミド( 国 内 未 発 売 ) 32) 5HT 2 遮 断 薬 のリタンセリン( 国 内 未 発 売 ) 2) ビタミ ンB 6 鉄 剤 33) 電 気 けいれん 療 法 などの 有 効 性 も 報 告 されているが 系 統 的 な 研 究 は 行 われていない 次 に 遅 発 性 アカシジアの 治 療 についてであるが これは 急 性 アカシジアの 治 療 と 比 較 して 難 渋 する 点 が 多 い 可 能 であれば 急 性 アカシジアと 同 様 に 原 因 薬 物 の 減 量 や 中 止 を 検 討 する また 第 一 世 代 の 抗 精 神 病 薬 が 使 用 されてい る 場 合 には 第 二 世 代 の 抗 精 神 病 薬 に 変 更 する 急 性 アカシジアと 異 なり 中 枢 性 抗 コリン 薬 は 無 効 である むしろ 中 枢 性 抗 コリン 薬 が 抗 精 神 病 薬 と 併 用 されている 場 合 には 中 枢 性 抗 コリン 薬 を 中 止 すれば 遅 発 性 アカシジアが 改 善 する 場 合 がある クロニジン プロプラノロールなどのアドレナリン 系 を 抑 制 する 薬 剤 や クロナゼパム ロラゼパムのようなベンゾジアゼピン 系 薬 剤 を 用 いることで 症 状 が 軽 減 する 場 合 もある 23
6. 典 型 的 症 例 概 要 症 例 1 48 歳 女 性 1 年 前 より 意 欲 低 下 不 安 恐 怖 感 過 食 不 眠 動 悸 過 呼 吸 などを 呈 し A 病 院 にてパロキセチンを 主 剤 として 加 療 されていた 48 歳 時 B 精 神 科 病 院 を 受 診 うつ 状 態 にて1 日 量 としてパロキセチン 40mg 炭 酸 リチウム 300mg に 加 え アモキサピン 50mg が 追 加 処 方 された 2 週 後 には 気 持 ちがすっきりしてきて 意 欲 が 回 復 し 恐 怖 や 不 安 も 和 らぎ 自 覚 的 には 抑 うつ 気 分 はかなり 改 善 した 一 方 ちょっとソワソワするような 感 じがあると 述 べた しかし 更 なる 抗 うつ 作 用 を 期 待 し アモキサピンは 100mg に 増 量 された その 2 週 後 には さらにイライラ ソワソワ じっとしていられない 感 じが 強 くなったと 訴 えた 歩 き 回 っても 楽 にはならないが 歩 き 回 らずにはいられ ないという アカシジアであると 判 断 し クロナゼパムを 1mg 追 加 したが 十 分 な 効 果 を 示 さず 翌 週 にはアモキサピンを 50mg に 減 量 し クロナゼパムを 中 止 プロプラノロールを 30mg 追 加 した 血 圧 138/90mmHg 脈 拍 80/ 分 であった プロプラノロールを 追 加 した 翌 週 になると ソワソワはまだ 完 全 には 軽 快 していなかったが 耐 えられないほどではないと 述 べた 血 圧 は 118/88mmHg であった プロプラノロールを 60mg に 増 量 したところ その 翌 週 にはソワソ ワはおさまり じっとしていることができ 気 分 的 にも 落 ち 着 き 意 欲 もそ こそこ 維 持 できていると 述 べた 24
7. 引 用 文 献 参 考 資 料 1) Iqbal N, Lambert T, Masand P : Akathisia: Problem of History or Concern of Today. CNS Spectr 12(9 Suppl 14):1-16 (2007) 2) Miller CH, Fleischhacker WW : Managing Antipsychotic-Induced Acute and Chronic Akathisia. Drug Safety 22:73-81 (2000) 3) Moos DD, Hansen DJ: Metoclopramide and extrapyramidal symptoms: a case report. J Perianesth Nurs 23(5):292-299 (2008) 4) 辻 陽 子, 弥 山 秀 芳, 上 村 祐 子, 北 中 直 子, 米 田 篤 司, 三 箇 山 宏 樹, 太 田 由 子, 寺 村 重 郎, 椹 木 晋, 堀 越 順 彦, 山 田 正 法, 松 浦 節, 北 出 浩 章, 森 毅, 奥 野 雅 史, 小 倉 徳 裕, 高 田 秀 穂 : 癌 の 緩 和 ケアで 使 用 した 制 吐 剤 によって 惹 起 された 薬 原 性 アカシジアの3 例. 癌 と 化 学 療 法 33(2): 267-269 (2006) 5) 堀 口 淳, 山 下 英 尚, 倉 本 恭 成, 水 野 創 一 : アカシジアの 最 近 の 動 向. 日 本 神 経 薬 理 学 雑 誌 19:1-19 (1999) 6) Barnes TR: A rating scale for drug-induced akathisia. Br J Psychiatry 154:672-676 (1989) 7) 稲 田 俊 也, 野 崎 昭 子 : BAS 日 本 語 版 薬 原 性 錐 体 外 路 症 状 (EPS)の 軽 減 に 向 けて その 病 態 と 治 療 薬 原 性 錐 体 外 路 症 状 の 適 正 な 評 価. 臨 床 精 神 薬 理 5(1):31-38 (2002) 8) 上 村 誠 : 薬 原 性 急 性 アカシジアの 病 態 薬 原 性 錐 体 外 路 症 状 (EPS)と 病 態 的 に 同 根 か 臨 床 精 神 薬 理 5(1):39-45 (2002) 9) Hirose S: The causes of underdiagnosing akathisia.schizophr Bull 29(3):547-558 (2003) 10) Weiden PJ: EPS profiles: the atypical antipsychotics are not all the same. J Psychiatr Pract 13(1):13-24 (2007) 11) Kerwin R, Millet B, Herman E, Banki CM, Lublin H, Pans M, Hanssens L, L'Italien G, McQuade RD, Beuzen JN: A multicentre, randomized, naturalistic, open-label study between aripiprazole and standard of care in the management of community-treated schizophrenic patients Schizophrenia Trial of Aripiprazole: (STAR) study. Eur Psychiatry. 22(7):433-443 (2007) 12) Holloman LC, Marder SR: Management of acute extrapyramidal effects induced by antipsychotic drugs. Am J Health Syst Pharm 54(21):2461-2477 (1997) 13) Miller del D, Caroff SN, Davis SM, Rosenheck RA, McEvoy JP, Saltz BL, Riggio S, Chakos MH, Swartz MS, Keefe RS, Stroup TS, Lieberman JA: Clinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness (CATIE) Investigators.Extrapyramidal side-effects of antipsychotics in a randomised trial.br J Psychiatry 193(4):279-288 (2008) 14) 原 田 俊 樹 : 新 精 神 科 治 療 ガイドライン ( 第 11 章 ) 精 神 および 行 動 の 障 害 にしばしば 随 伴 する 他 の 障 害 (2) 続 発 性 パーキンソン 症 候 群 と 薬 剤 性 錐 体 外 路 症 候 群 ( 解 説 / 特 集 ). 精 神 科 治 療 学 20( 増 刊 ):312-315 (2005) 15) Suzuki Y, Watanabe J, Fukui N,Ozdemir V, Someya T:Hypoglycemia induced by second generation antipsychotic agents in non-diabetic schizophrenic patients. BMJ 338:a1792 (2009). 16) 八 木 剛 平, 稲 田 俊 也, 神 庭 重 信 : アカシジアの 診 断 と 治 療 -とくに 精 神 症 状 との 関 連 について-. 精 神 科 治 療 学 6:13-26 (1991) 17) 田 中 輝 明, 井 上 猛, 鈴 木 克 治, 北 市 雄 士, 増 井 拓 哉, 傳 田 健 三, 小 山 司 : 抗 うつ 薬 による activation syndrome の 臨 床 的 意 義 - 双 極 スペクトラム 障 害 の 観 点 から-. 精 神 神 経 学 雑 誌 109:730-742 (2007)? 25
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参 考 1 薬 事 法 第 77 条 の4の2に 基 づく 副 作 用 報 告 件 数 ( 医 薬 品 別 ) 注 意 事 項 1) 薬 事 法 第 77 条 の4の2の 規 定 に 基 づき 報 告 があったもののうち 報 告 の 多 い 推 定 原 因 医 薬 品 を 列 記 したもの 注 ) 件 数 とは 報 告 された 副 作 用 の 延 べ 数 を 集 計 したもの 例 えば 1 症 例 で 肝 障 害 及 び 肺 障 害 が 報 告 された 場 合 に は 肝 障 害 1 件 肺 障 害 1 件 として 集 計 2) 薬 事 法 に 基 づく 副 作 用 報 告 は 医 薬 品 の 副 作 用 によるものと 疑 われる 症 例 を 報 告 するもので あるが 医 薬 品 との 因 果 関 係 が 認 められないものや 情 報 不 足 等 により 評 価 できないものも 幅 広 く 報 告 されている 3) 報 告 件 数 の 順 位 については 各 医 薬 品 の 販 売 量 が 異 なること また 使 用 法 使 用 頻 度 併 用 医 薬 品 原 疾 患 合 併 症 等 が 症 例 により 異 なるため 単 純 に 比 較 できないことに 留 意 すること 4) 副 作 用 名 は 用 語 の 統 一 のため ICH 国 際 医 薬 用 語 集 日 本 語 版 (MedDRA/J)ver. 12.0 に 収 載 されている 用 語 (Preferred Term: 基 本 語 )で 表 示 している 年 度 副 作 用 名 医 薬 品 名 件 数 平 成 19 年 度 平 成 20 年 度 アカシジア アカシジア 塩 酸 チアプリド 2 塩 酸 セルトラリン 2 塩 酸 パロキセチン 水 和 物 2 マレイン 酸 フルボキサミン 1 アリピプラゾール 1 リスペリドン 1 塩 酸 イミプラミン 1 合 計 10 ブロナンセリン 2 塩 酸 パロキセチン 水 和 物 1 ハロペリドール 1 塩 酸 ミアンセリン 1 アリピプラゾール 1 リスペリドン 1 合 計 7 医 薬 品 の 販 売 名 添 付 文 書 の 内 容 等 を 知 りたい 時 は 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 の 医 薬 品 医 療 機 器 情 報 提 供 ホームページの 添 付 文 書 情 報 から 検 索 することができます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬 の 副 作 用 により 被 害 を 受 けた 方 への 救 済 制 度 については 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 のホームページの 健 康 被 害 救 済 制 度 に 掲 載 されています (http://www.pmda.go.jp/) 27
参 考 2 ICH 国 際 医 薬 用 語 集 日 本 語 版 (MedDRA/J)ver.12.1 における 主 な 関 連 用 語 一 覧 日 米 EU 医 薬 品 規 制 調 和 国 際 会 議 (ICH)において 検 討 され 取 りまとめられた ICH 国 際 医 薬 用 語 集 (MedDRA) は 医 薬 品 規 制 等 に 使 用 される 医 学 用 語 ( 副 作 用 効 能 使 用 目 的 医 学 的 状 態 等 )についての 標 準 化 を 図 ることを 目 的 としたものであり 平 成 16 年 3 月 25 日 付 薬 食 安 発 第 0325001 号 薬 食 審 査 発 第 0325032 号 厚 生 労 働 省 医 薬 食 品 局 安 全 対 策 課 長 審 査 管 理 課 長 通 知 ICH 国 際 医 薬 用 語 集 日 本 語 版 (MedDRA/J) の 使 用 について により 薬 事 法 に 基 づく 副 作 用 等 報 告 において その 使 用 を 推 奨 しているところである 下 記 にMedDRAのPT( 基 本 語 )である アカシジア とそれにリンクするLLT( 下 層 語 )を 示 す また MedDRA でコーディングされたデータを 検 索 するために 開 発 された MedDRA 標 準 検 索 式 (SMQ)には アカシジア(SMQ) が 錐 体 外 路 症 候 群 (SMQ) の 下 位 のサブ SMQ として あるので これを 利 用 すれば MedDRA でコーディングされたデータから 包 括 的 な 症 例 検 索 が 実 施 することができる 名 称 PT: 基 本 語 (Preferred Term) アカシジア LLT: 下 層 語 (Lowest Level Term) アカシジア 増 悪 運 動 不 穏 強 迫 性 運 動 過 多 英 語 名 Akathisia Akathisia aggravated Motor restlessness Motor unrest compulsive 28