年 金 担 保 貸 付 事 業 の 在 り 方 に 関 する 意 見 について 年 金 担 保 貸 付 事 業 の 在 り 方 に 関 する 研 究 会
1. 研 究 会 の 目 的 と 概 要 (1) 研 究 会 のテーマ 背 景 目 的 年 金 担 保 貸 付 制 度 は 年 金 受 給 者 が 生 業 医 療 住 居 などにおける 不 意 の 出 費 のために 一 時 的 に 資 金 が 必 要 となった 場 合 に 年 金 受 給 権 を 担 保 として 小 口 資 金 を 貸 し 付 ける 制 度 で あり 公 的 な 融 資 制 度 として 昭 和 50 年 から 旧 年 金 福 祉 事 業 団 において 実 施 されてきた その 後 年 金 担 保 貸 付 事 業 の 実 施 主 体 は 平 成 13 年 に 社 会 福 祉 医 療 事 業 団 に 引 き 継 が れ さらに 平 成 15 年 10 月 に 現 在 の( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 に 組 織 を 改 編 平 成 16 年 4 月 に 旧 労 働 福 祉 事 業 団 の 解 散 により 労 災 年 金 担 保 貸 付 事 業 が 同 機 構 に 引 き 継 がれ 現 在 に 至 ってい る 年 金 は 高 齢 者 等 の 生 活 を 支 える 主 要 な 収 入 源 であることから その 受 給 権 が 不 当 に 侵 害 されないよう 年 金 各 法 において 担 保 に 供 することが 原 則 禁 止 されているところであ るが 唯 一 の 例 外 として ( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 の 行 う 小 口 融 資 のみ 認 められているところで ある 年 金 担 保 貸 付 制 度 においては 生 活 保 護 受 給 者 に 対 する 貸 付 制 限 など 他 の 政 策 との 整 合 性 などにも 配 慮 しつつ 制 度 改 善 を 行 ってきたところであるが 貸 金 業 法 の 改 正 多 重 債 務 者 問 題 など 制 度 を 取 り 巻 く 環 境 が 変 化 していることなどを 踏 まえ 事 業 の 意 義 役 割 等 を 幅 広 く 研 究 する 必 要 があることから( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 が 年 金 担 保 貸 付 事 業 の 在 り 方 に 関 する 研 究 会 を 設 置 した 本 研 究 会 は ( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 の 委 嘱 を 受 けた 各 分 野 の 有 識 者 による 意 見 交 換 や 討 議 の 場 を 設 け ( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 への 助 言 の 範 囲 に 留 めず 他 の 施 策 との 関 係 も 含 め 幅 広 く 様 々 な 視 点 から 委 員 には 発 言 いただき 社 会 保 障 制 度 や 社 会 福 祉 制 度 等 も 展 望 した 幅 広 い 論 点 整 理 を 行 ったところである 1
(2) 研 究 会 のメンバー 研 究 会 は 社 会 保 障 社 会 福 祉 消 費 者 金 融 消 費 者 保 護 等 の 分 野 の 有 識 者 である 以 下 のメンバーを 委 員 として 開 催 し 討 議 を 行 った 研 究 会 の 座 長 は 首 都 大 学 東 京 都 市 教 養 学 部 教 授 岡 部 卓 氏 を 選 出 し 議 事 運 営 を 行 った 研 究 会 メンバー 石 川 和 男 専 修 大 学 客 員 教 授 岡 部 卓 首 都 大 学 東 京 都 市 教 養 学 部 教 授 駒 村 康 平 慶 應 義 塾 大 学 経 済 学 部 教 授 馬 場 康 彦 明 星 大 学 人 文 学 部 教 授 原 早 苗 埼 玉 大 学 経 済 学 部 非 常 勤 講 師 晝 間 文 彦 早 稲 田 大 学 商 学 部 教 授 宮 村 健 一 郎 東 洋 大 学 経 営 学 部 教 授 ( 敬 称 略 座 長 ) (3) 研 究 会 の 開 催 状 況 [ 第 一 回 ] 平 成 20 年 1 月 25 日 ( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 内 会 議 室 [ 第 二 回 ] 平 成 20 年 2 月 18 日 虎 ノ 門 パストラル 会 議 室 [ 第 三 回 ] 平 成 20 年 3 月 14 日 虎 ノ 門 パストラル 会 議 室 [ 第 四 回 ] 平 成 20 年 7 月 7 日 ( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 内 会 議 室 2
(4) 研 究 会 での 活 動 内 容 [ 第 一 回 ] 討 議 の 対 象 となる 年 金 担 保 貸 付 事 業 について その 目 的 と 沿 革 実 際 の 貸 付 条 件 融 資 実 績 資 金 使 途 実 態 等 について 事 務 局 より 説 明 を 受 けた 後 本 制 度 に 関 する 質 疑 自 由 討 議 を 行 った [ 第 二 回 ] 年 金 担 保 貸 付 事 業 の 主 たる 利 用 者 である 高 齢 者 に 対 する 公 的 及 び 民 間 の 主 要 な 金 融 サービスについて 事 務 局 より 説 明 を 受 けた 後 それらに 関 する 質 疑 本 制 度 及 び 周 辺 制 度 に 関 する 自 由 討 議 を 行 った [ 第 三 回 ] 本 研 究 会 でこれまで 議 論 されてきた 内 容 を 踏 まえて 事 務 局 で 論 点 整 理 を 行 い それを 議 論 のたたき 台 として 研 究 会 メンバー 間 の 討 議 を 行 った 討 議 では 本 制 度 の 存 在 意 義 と 役 割 本 制 度 自 体 の 運 営 に 関 する 検 討 課 題 本 制 度 を 取 り 巻 く 社 会 保 障 制 度 社 会 福 祉 制 度 等 に 関 連 する 検 討 課 題 などの 議 論 を 行 い この 議 論 を 踏 まえた 論 点 整 理 を 行 った [ 第 四 回 ] 第 三 回 の 論 点 整 理 に 基 づいて 作 成 した 報 告 書 案 について 研 究 会 メンバーの 意 見 交 換 を 行 い 取 りまとめた 3
2. 年 金 担 保 貸 付 制 度 の 役 割 と 課 題 に 関 する 論 点 整 理 本 研 究 会 は 年 金 担 保 貸 付 制 度 の 在 り 方 について 様 々な 視 点 から 自 由 な 議 論 を 行 い 制 度 を 運 営 するに 当 たっての 課 題 とそれらへの 対 応 について 以 下 のように 論 点 整 理 した 論 点 の 中 には ( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 の 業 務 範 囲 を 超 えた 事 項 も 含 まれているが 今 後 本 制 度 に 関 して 更 に 深 い 論 議 が 行 われる 場 合 を 想 定 し 将 来 の 検 討 課 題 として 整 理 した なお 論 点 整 理 を 目 的 とした 研 究 会 の 性 格 から 本 項 では 多 くの 論 点 において 敢 え て 複 数 の 意 見 を 併 記 して 結 論 を 示 さない 体 裁 としている (1) 本 制 度 の 検 討 に 当 たっての 現 状 認 識 イ 年 金 制 度 は 主 たる 目 的 が 高 齢 者 等 の 所 得 保 障 にあり その 中 で 年 金 担 保 貸 付 制 度 は 高 齢 者 等 が 医 療 費 や 住 居 の 改 修 費 用 等 一 時 的 な 資 金 が 必 要 となった 場 合 に 小 口 資 金 を 低 利 で 融 資 する 公 的 融 資 制 度 として 年 金 制 度 を 補 完 する 役 割 を 担 って おり 毎 年 度 約 20 万 人 の 年 金 受 給 者 の 資 金 需 要 に 対 応 している ロ 本 制 度 創 設 の 背 景 には 一 時 的 な 出 費 が 生 じた 際 資 金 を 用 立 てることができな い 者 が 悪 質 な 貸 金 業 者 から 高 利 の 融 資 を 受 け 生 活 困 窮 に 陥 るといった 事 例 が 見 受 けられたこともあり 本 制 度 が 存 在 することにより こうした 事 例 を 防 ぐ 役 割 も 担 っている ハ 他 方 近 年 年 金 受 給 者 が 融 資 後 の 生 活 を 考 慮 せずに 年 金 担 保 融 資 を 受 け この 返 済 のため 受 給 する 年 金 の 範 囲 内 での 生 活 費 等 を 賄 うことが 困 難 となり 生 活 保 護 を 受 ける 者 本 制 度 を 借 入 先 の 一 つとして 利 用 する 多 重 債 務 者 や 本 制 度 利 用 と 生 活 保 護 受 給 を 繰 り 返 す 者 の 存 在 が 指 摘 されるなど 本 制 度 の 本 意 としない 事 例 が 生 じてい る ニ このような 課 題 に 対 して これまで 個 々の 年 金 受 給 者 の 生 活 を 勘 案 し 返 済 方 法 の 選 択 肢 を 増 やすなど 一 定 の 措 置 は 講 じてきたところであるが 更 に 本 制 度 の 運 営 に 当 たってどのように 対 応 を 行 うべきか 或 いは 他 の 制 度 による 対 応 を 考 える 必 要 はないか 今 後 検 討 していくべきと 考 えられる 4
(2) 本 制 度 の 運 営 に 当 たって 検 討 すべき 課 題 イ 利 用 希 望 者 に 必 要 な 情 報 提 供 の 在 り 方 について (イ) 融 資 制 度 の 利 用 希 望 者 が 無 理 な 借 入 により 生 活 困 窮 に 陥 らないよう 広 報 の 内 容 方 法 について 配 慮 が 必 要 である (ロ) 本 制 度 がなければ 違 法 金 融 の 利 用 により 生 活 困 窮 に 陥 る 恐 れの 高 い 人 など 真 に 本 制 度 を 必 要 とする 人 に 必 要 な 情 報 が 過 不 足 なく 伝 わる 方 策 を 検 討 すべき である ロ 貸 付 の 際 の 手 続 き 対 応 方 法 について (イ) 窓 口 での 指 導 相 談 について 貸 付 に 当 たっては 生 活 困 窮 に 陥 らないような 借 り 方 更 に 必 要 な 場 合 には 他 の 福 祉 施 策 の 利 用 等 についての 指 導 や 助 言 を 行 うことが 必 要 である (ロ) 使 途 や 回 数 などに 応 じた 審 査 の 在 り 方 について 資 金 使 途 や 借 入 回 数 或 いは 借 入 金 額 に 応 じた 審 査 の 在 り 方 について 次 のよう な 意 見 があった a. 一 時 的 な 資 金 需 要 に 対 応 するという 本 制 度 の 趣 旨 に 照 らし 資 金 の 使 途 を 一 定 の 範 囲 内 にする 或 いは 借 入 回 数 や 借 入 金 額 に 応 じて 審 査 方 法 を 変 えるなど 審 査 をより 厳 格 にする 必 要 がある b. 審 査 を 厳 格 にすることにより 本 来 本 制 度 を 必 要 とする 年 金 受 給 者 への 貸 付 に 支 障 を 来 すこととならないか という 視 点 からも 検 討 することが 必 要 である c. 資 金 使 途 による 制 限 については 資 金 使 途 を 偽 っている 者 について 真 の 使 途 を 確 認 することは 容 易 ではないことから 慎 重 に 対 応 する 必 要 がある 5
(ハ) その 他 具 体 的 な 審 査 方 法 の 見 直 しとしては 以 下 のような 方 法 を 検 討 すべ きである なお 検 討 に 当 たっては (ロ)bと 同 様 な 視 点 からの 検 討 も 併 せて 行 うことが 必 要 である a. 借 入 者 の 年 金 とその 他 の 所 得 に 見 合 った 借 入 額 とする b. 貸 付 金 が 使 途 目 的 以 外 に 使 用 されないよう 支 払 先 を 確 認 し 支 払 先 に 直 接 振 り 込 む c. 信 用 情 報 機 関 を 利 用 した 照 会 を 行 う d. 同 居 者 の 収 入 状 況 など 世 帯 情 報 を 審 査 項 目 に 追 加 する e. 多 重 債 務 者 等 借 入 状 況 に 問 題 の 多 い 申 込 者 は 行 政 等 による 相 談 窓 口 との 連 携 を 深 める (ニ) 情 報 管 理 の 在 り 方 審 査 に 当 たって 情 報 収 集 を 強 化 していくと 貸 付 に 関 する 利 用 者 の 個 人 情 報 等 が 蓄 積 されることになり 他 の 公 的 機 関 に 対 する 情 報 提 供 情 報 保 護 の 徹 底 等 の 情 報 管 理 の 在 り 方 についても 検 討 するべきである ハ 借 入 金 の 返 済 について 借 入 金 の 返 済 中 に やむを 得 ない 事 情 により 生 活 に 困 窮 した 者 に 対 しては 一 定 期 間 の 返 済 猶 予 や 返 済 期 間 の 延 長 など 柔 軟 な 対 応 について 検 討 する 必 要 がある また 満 額 返 済 を 止 めて 一 定 割 合 の 年 金 が 手 元 に 入 ってくるようにすることや 中 途 で 繰 上 償 還 した 場 合 は 次 の 借 入 まで 一 定 期 間 を 置 くことについても 検 討 すべきであ る ニ 運 営 の 見 直 しに 当 たっては 全 国 の 金 融 機 関 の 窓 口 で 差 異 のない 対 応 がとられるよう ( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 は 関 係 機 関 と 十 分 に 協 議 調 整 すべきである 6
(3) 本 制 度 を 取 り 巻 く 外 部 環 境 に 関 する 検 討 課 題 イ 高 齢 社 会 の 中 でセーフティネットの 観 点 から 今 後 低 所 得 者 層 等 に 対 しては 行 政 等 の 生 活 相 談 サービスを 含 めたきめ 細 かな 支 援 施 策 を 充 実 していく 必 要 がある ロ 生 活 保 護 制 度 生 活 福 祉 資 金 貸 付 制 度 やリバースモーゲージ 等 の 他 の 公 的 制 度 との 役 割 分 担 を 考 えながら 年 金 担 保 融 資 事 業 を 行 う 必 要 がある ハ 低 所 得 者 に 単 に 資 金 支 援 するのではなく 家 計 管 理 のノウハウを 助 言 指 導 するス タッフが 必 要 である (イ) 例 えば イギリスでは 家 計 管 理 の 指 導 を 公 的 なソーシャルワーカー 或 いは 民 間 事 業 者 がしており アメリカでも 自 己 破 産 防 止 のため 家 計 管 理 の 助 言 を 企 業 やNP Oなどが 行 っている (ロ) 現 在 日 本 にはそのような 制 度 がなく 家 計 管 理 のアドバイザー 制 度 を 作 ること が 必 要 と 考 える 7
(4) まとめ イ 年 金 担 保 貸 付 制 度 は 年 金 受 給 者 に 対 して 小 口 資 金 を 低 利 で 融 資 する 制 度 として 毎 年 度 約 20 万 人 の 利 用 者 を 得 てその 自 立 した 生 活 を 支 えており また 本 制 度 がなけ れば 高 利 融 資 を 受 けることなどで 生 活 困 窮 に 陥 る 事 例 が 相 当 数 増 加 することが 想 定 される ロ 近 年 においては 返 済 方 法 に 定 額 償 還 制 を 導 入 するなど 利 用 者 が 生 活 困 窮 に 陥 る ことのないような 措 置 が 講 じられてきている ハ 以 上 のことから 本 制 度 は 高 齢 社 会 の 中 で 一 定 の 役 割 を 果 たしていると 評 価 するこ とができるが 他 方 2.(1)ハで 指 摘 した 状 況 に 対 応 して 一 層 の 制 度 運 営 の 改 善 を 図 っていくことが 必 要 であり ( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 においては 本 稿 で 指 摘 した 論 点 に ついて 更 に 検 討 を 深 めることを 期 待 する ニ また 本 研 究 会 では(3)で( 独 ) 福 祉 医 療 機 構 の 対 応 範 囲 を 超 える 論 点 も 提 示 し たところであるが これらの 論 点 については 今 後 各 方 面 において 議 論 の 検 討 材 料 と して 活 用 されることを 期 待 する 8