子 宮 内 膜 症 Fact Note Japan Enlightenment Committee In Endometriosis(JECIE)
子 宮 内 膜 症 Fact Note 制 作 にあたり 日 本 人 の 平 均 初 経 は 12 歳 平 均 閉 経 は 50 歳 で その 間 数 え 切 れな いほど 月 経 を 経 験 します 2004 年 の 働 く 女 性 の 健 康 に 関 する 実 態 調 査 ( 女 性 労 働 協 会 調 査 )によると 当 時 の 月 経 痛 を 有 する 女 性 は 2079 万 人 そのうち 日 常 生 活 に 支 障 をきたすほどひどい 月 経 痛 いわゆる 月 経 困 難 症 という 治 療 が 必 要 な 状 態 の 女 性 は 783 万 人 とされました 調 査 から 10 年 近 くの 間 にますます 患 者 は 増 え 続 け 現 在 の 推 定 患 者 数 は 800 万 人 を 超 しました 月 経 困 難 症 を 引 き 起 こす 一 因 に 子 宮 内 膜 症 という 病 気 があります 子 宮 内 膜 症 は 周 辺 臓 器 との 癒 着 により 激 しい 痛 みを 引 き 起 こしたり 不 妊 のリ スクを 高 めたりするだけでなく 卵 巣 がん 化 の 危 険 も 指 摘 されています そうした 病 気 を 知 らせてくれる 重 要 なサインが 月 経 痛 です しかし 周 知 不 足 から 多 くの 女 性 が 産 婦 人 科 による 治 療 を 受 けずに 子 宮 内 膜 症 を 進 行 させて 苦 しんでいます 本 Fact Note は 報 道 マスコミに 携 わる 皆 様 にこうした 実 情 を 知 っていただくために 制 作 しました Fact Note を 通 して 月 経 困 難 症 と 子 宮 内 膜 症 がいかに 女 性 の 生 活 に 悪 影 響 を 与 える 病 気 かをご 理 解 のうえ 多 くの 方 々にお 知 らせいただき 潜 在 患 者 を 早 期 に 産 婦 人 科 受 診 に 導 ける よう 皆 様 のお 力 をお 貸 しください Japan Enlightenment Committee In Endometriosis(JECIE) JECIE は 女 性 の 健 やかで 愁 いのない 生 活 を 願 い 子 宮 内 膜 症 の 啓 発 と 産 婦 人 科 を 受 診 しやすい 環 境 づくりをめざして 活 動 しています
目 次 prologue 月 経 とは 1 月 経 の 仕 組 み 1 正 常 な 月 経 と 月 経 異 常 2 月 経 痛 が 起 こるメカニズム 2 月 経 困 難 症 とは 3 月 経 痛 は 病 気 のサイン 3 機 能 性 月 経 困 難 症 と 器 質 性 月 経 困 難 症 4 子 宮 内 膜 症 とは 6 あなどると 恐 い 子 宮 内 膜 症 6 子 宮 内 膜 症 の 原 因 7 子 宮 内 膜 症 の 症 状 とその 後 8 子 宮 内 膜 症 の 実 態 と 問 題 点 9 月 経 困 難 症 子 宮 内 膜 症 の 治 療 10 病 態 にあった 治 療 を 10 薬 物 療 法 10 手 術 療 法 12 月 経 困 難 症 子 宮 内 膜 症 が 与 える 影 響 と 早 期 発 見 の 意 義 13 QOL( 生 活 の 質 )の 低 下 13 産 婦 人 科 受 診 のすすめ 13 資 料 わが 国 の 晩 産 化 少 産 化 傾 向 15 代 表 的 な 婦 人 科 の 病 気 16
prologue 月 経 とは 月 経 の 仕 組 み ( 図 1) 月 経 は 一 部 の 霊 長 類 のみにあらわれる 現 象 です 女 性 の 身 体 は 思 春 期 になると 将 来 の 妊 娠 出 産 の 準 備 を 始 めます 卵 巣 の 表 面 には 胎 児 時 代 から 作 られる 原 始 卵 胞 ( 卵 子 の 元 )があり 思 春 期 になると 脳 下 垂 体 から 分 泌 された 卵 胞 刺 激 ホルモンが 血 流 に 乗 って 卵 巣 に 届 き 卵 胞 と いう 水 風 船 のようなものを 作 ります 卵 胞 が 成 長 すると 中 に 入 っていた 卵 子 が 放 出 されます これが 排 卵 です 放 出 された 卵 子 は 卵 管 采 に 取 り 込 まれ 卵 管 で 精 子 を 待 ちます 並 行 して 子 宮 も 受 精 卵 を 迎 える 準 備 を 始 めます 子 宮 内 では 受 精 卵 が 着 床 するときのクッシ ョンの 役 目 を 果 たすために 子 宮 内 膜 が 成 長 していきます 子 宮 内 膜 は 卵 胞 ホルモン(エストロ ゲン)によって 厚 くなり 黄 体 ホルモン(プロゲステロン)によって 栄 養 を 蓄 えながら 維 持 さ れ 受 精 卵 を 待 ちます しかし 受 精 卵 が 訪 れず 着 床 もなければホルモン 分 泌 量 は 減 り その 結 果 子 宮 内 膜 は 子 宮 からはがれ 落 ち 月 経 が 始 まります つまり 月 経 は 妊 娠 の 準 備 のために 成 長 した 子 宮 内 膜 が 不 要 になった 結 果 生 じる 現 象 なので す こうした 排 卵 と 月 経 は 50 歳 前 後 の 閉 経 まで 何 度 も 繰 り 返 されていきます 図 1 排 卵 から 月 経 までの 流 れ 1 通 常 1 ヵ 月 に 1 度 1 つの 卵 子 が 選 ばれ 成 長 を 開 始 する 2 卵 胞 の 成 長 に 伴 いエストロゲンが 分 泌 される 受 精 卵 を 迎 える 準 備 のために 子 宮 内 膜 が 成 長 する 3エストロゲン 量 がピークになると 脳 下 垂 体 からの 指 令 で 卵 胞 から 卵 子 が 飛 び 出 す( 排 卵 ) 卵 管 采 が 卵 子 を 吸 い 上 げて 卵 管 に 取 り 込 み 精 子 を 待 つ 4プロゲステロンを 分 泌 する 黄 体 が 作 られる 5 排 卵 した 卵 巣 の 一 部 が 黄 体 に 変 わり プロゲステロンが 分 泌 さ れる エストロゲンによって 厚 くなった 子 宮 内 膜 をプロゲステロンが 維 持 させて 受 精 卵 を 待 つ 6 黄 体 がしぼむ 妊 娠 が 成 立 しないと エストロゲンとプロゲステロンの 分 泌 の 減 少 に 伴 い 子 宮 内 膜 ははがれ 落 ち 月 経 となる 子 宮 内 部 は フカフカのベッド 状 態 卵 胞 期 排 卵 黄 体 期 1 2 3 4 5 6 卵 胞 ホルモン 子 宮 内 膜 を 厚 くする 作 用 子 宮 内 膜 の 厚 み 着 床 に 備 えて 徐 々に 成 長 黄 体 ホルモン 子 宮 内 膜 を 維 持 する 作 用 1
正 常 な 月 経 と 月 経 異 常 ( 表 1) 個 人 差 はありますが 月 経 は 平 均 すると 28 日 前 後 の 周 期 で 起 こり 期 間 は 3~7 日 間 程 度 経 血 量 はおおよそ 50~180mlが 正 常 値 とされる 範 囲 です 周 期 の 不 順 や 月 経 期 間 が 極 端 に 短 かったり 長 かったり 貧 血 になるほど 出 血 量 が 多 い 場 合 は 産 婦 人 科 に 相 談 すべき 状 態 です 表 1 平 均 的 月 経 の 目 安 と 月 経 異 常 月 経 周 期 正 常 な 状 態 異 常 な 状 態 考 えられる 疾 患 頻 発 月 経 周 期 が 短 い 機 能 性 子 宮 出 血 頻 繁 に 出 血 がある ( 不 正 出 血 ) 25~38 日 いつも 間 隔 が 40 日 以 上 たまにしかこない 稀 発 月 経 無 排 卵 性 出 血 3 ヵ 月 以 上 月 経 がない 無 月 経 月 経 期 間 3~7 日 8 日 以 上 が 続 く 過 長 月 経 極 端 に 少 ない 過 少 月 経 月 経 血 量 50~180ml 多 い ( 昼 でも 夜 用 ナプキンが 3 日 以 上 必 要 タンポンとナプ キンの 併 用 が 不 可 欠 以 前 と 比 べて 多 くなった など) 過 多 月 経 大 きなレバー 状 の 凝 血 が 混 じる 月 経 痛 軽 い 腹 痛 腰 痛 頭 重 など 生 活 に 支 障 をきたすほどの 痛 み 吐 き 気 など 月 経 困 難 症 正 常 な 状 態 の 範 囲 を 超 えていたら 産 婦 人 科 に 相 談 しましょう ( 思 春 期 は 月 経 が 安 定 していないことから 上 記 の 平 均 的 月 経 にあてはまらないこともあります) 月 経 痛 が 起 こるメカニズム ( 図 2) 月 経 痛 の 強 弱 は プロスタグランジンの 量 が 影 響 妊 娠 に 至 らない 場 合 子 宮 内 膜 ははがれ 落 ちて 月 経 になりますが その 際 に 経 血 を 排 出 させよう と 子 宮 が 収 縮 します その 力 が 過 剰 になると 月 経 痛 が 生 じます そのときに 影 響 するのがプロスタグランジン という 物 質 です プロスタグランジンは 子 宮 内 膜 で 生 成 されるため 子 宮 内 膜 が 増 殖 すればそれだ けプロスタグランジンも 多 く 生 成 され 子 宮 を 収 縮 させる 力 も 強 まり 月 経 痛 が 強 くなるのです 図 2 月 経 痛 のメカニズム 卵 胞 発 育 / 排 卵 卵 胞 ホルモン(エストロゲン) 黄 体 ホルモン(プロゲステロン)の 分 泌 子 宮 内 膜 の 増 殖 月 経 痛 の 強 弱 に 影 響 する 成 分 子 宮 内 膜 で プロスタグランジンが 増 加 子 宮 の 収 縮 れん ( 子 宮 平 滑 筋 血 管 の 攣 * 攣 縮 : 痙 攣 様 の 収 縮 月 経 痛 しゅく 縮 * ) +αの 基 礎 知 識 卵 胞 ホ ル モ ン 黄 体 ホ ル モ ン 女 性 に 不 可 欠 な エストロゲン とプロゲステロン 両 者 を 一 言 で 表 現 すると エストロゲンは 女 性 美 のためのホルモン プロゲステロンは 母 性 のためのホル モン でしょう 両 者 は 密 接 な 関 係 にあり そのバランスが 崩 れたり 枯 渇 すると 女 性 特 有 のさまざまな 不 調 につながります 両 者 とも 月 経 痛 の 緩 和 をはじめ 産 婦 人 科 治 療 には 欠 かせない 重 要 な 成 分 です 2
月 経 困 難 症 とは 月 経 痛 は 病 気 のサイン たかが 月 経 痛 されど 月 経 痛 日 本 では 月 経 は 病 気 ではない という 考 えから 月 経 痛 は 我 慢 するもの という 意 識 が 根 強 くあります しかし 日 常 生 活 に 支 障 をきたすほどの 月 経 痛 は 月 経 困 難 症 という 産 婦 人 科 の 受 診 が 必 要 な 状 態 です 痛 みの 尺 度 は 個 人 差 がありますが 月 経 のたびに 症 状 が 重 くなってきたり 鎮 痛 薬 ( 痛 み 止 め 薬 )の 効 果 が 感 じられなくなったり 徐 々に 服 用 量 が 増 えてきたり 月 経 期 間 以 外 でも 痛 み を 感 じてきたら 何 らかの 病 気 が 原 因 で 痛 みを 引 き 起 こしている 可 能 性 が 高 いと 考 えられます ( 図 3) つまり 月 経 痛 は 病 気 を 知 らせる 重 要 なサインでもあるのです 図 3 月 経 痛 で 医 療 機 関 を 受 診 した 女 性 の 疾 患 別 推 定 患 者 率 機 能 性 月 経 困 難 症 * 46.4% 子 宮 内 膜 症 卵 巣 機 能 不 全 子 宮 腺 筋 症 子 宮 筋 腫 14.7% 13.5% 13.3% 12.8% その 他 4.7% 0 10 20 30 40 50 (%) 1 年 間 の 月 経 痛 を 主 訴 とする 推 定 患 者 数 は 89 万 5631 人 そのうち 機 能 性 月 経 困 難 症 は 41 万 5312 人 (46.4%) 子 宮 内 膜 症 は 13 万 1650 人 (14.7%)だったが 現 在 の 患 者 数 はさらに 増 加 している * 機 能 性 月 経 困 難 症 についてはP.4 を 参 照 ( 平 成 16 年 度 厚 生 労 働 科 学 研 究 : 女 性 の 各 ライフステージに 応 じた 健 康 支 援 システムの 確 立 に 向 けた 総 合 的 研 究 より 作 図 ) 月 経 困 難 症 は 治 療 が 必 要 な 病 気 月 経 困 難 症 とは 月 経 に 伴 う 症 状 が 日 常 生 活 が 困 難 になるほど 病 的 に 強 くあらわれる 状 態 です 日 本 では 現 在 800 万 人 以 上 もの 月 経 困 難 症 患 者 がいると 推 定 されていますが そのう ち 医 療 機 関 を 受 診 して 治 療 を 受 けている 人 はごくわずかの 10%といわれています( 図 4) 図 4 月 経 困 難 症 患 者 の 現 状 総 患 者 800 万 人 以 上 治 療 を 受 けている 人 は わずか 10% 参 考 2012 年 15~50 歳 の 女 性 人 口 :2673 万 2000 人 ( 総 務 省 統 計 局 人 口 推 計 より 2012 年 10 月 1 日 現 在 ) 3
図 5 のアンケート 結 果 からもわかるように 月 経 痛 がかなりひどい どちらかといえばひ どい 状 態 でも 医 療 機 関 を 受 診 しない 女 性 が 多 いのは ひどい 月 経 痛 は 病 気 だということが 知 られていないからです 図 5 月 経 痛 症 状 別 通 院 状 況 ( 対 象 :20-49 歳 1000 人 ) 現 在 通 院 している 過 去 に 受 診 したことがある 一 度 も 受 診 したことがない 月 経 痛 がかなりひどい 15.2 45.6 39.2 どちらかといえばひどい どちらともいえない どちらかといえばひどくない 4.6 1.2 0.9 5.1 13.8 33.3 94.0 85.0 62.1 ひどくない 3.1 96.9 0% 20% 40% 60% 80% 100% ( 生 理 と 生 理 痛 アンケート: ハー ストーリィ 2007 年 ) 機 能 性 月 経 困 難 症 と 器 質 性 月 経 困 難 症 月 経 困 難 症 は 身 体 的 な 異 常 が 認 められない 機 能 性 と 子 宮 や 卵 巣 の 病 気 が 原 因 で 起 こる 器 質 性 に 大 別 されます( 表 2) 機 能 性 月 経 困 難 症 は 10 代 後 半 から 20 代 前 半 に 多 く 器 質 性 月 経 困 難 症 は 加 齢 とともに 徐 々に 増 えていきます( 図 6) プロスタグランジンの 影 響 (P.2 参 照 )による 機 能 性 月 経 困 難 症 は 身 体 の 成 熟 化 や 妊 娠 出 産 によって 改 善 されていきますが 器 質 性 月 経 困 難 症 は 子 宮 や 卵 巣 の 何 らかの 異 常 が 原 因 で 生 じているため その 原 因 を 探 り 根 本 的 な 治 療 を 行 わない 限 り 改 善 されません 自 然 治 癒 す ることはないので 治 療 を 受 けずに 鎮 痛 薬 などで 痛 みだけを 抑 えていると 病 気 はどんどん 進 展 していきます 表 2 月 経 困 難 症 の 種 類 種 類 機 能 性 月 経 困 難 症 器 質 性 月 経 困 難 症 原 因 プロスタグランジンによる 子 宮 の 収 縮 骨 盤 内 の 充 血 過 多 月 経 による 経 血 の 排 出 困 難 子 宮 発 育 不 全 ストレスなど 子 宮 内 膜 症 子 宮 腺 筋 症 子 宮 筋 腫 子 宮 の 形 態 異 常 性 器 の 炎 症 クラミジア 感 染 など 発 症 時 期 初 経 後 1 2 年 頃 から 初 経 後 10 年 頃 から 多 い 年 齢 10 代 後 半 ~20 代 前 半 20~40 代 痛 みの 時 期 月 経 開 始 前 後 や 月 経 時 のみ 月 経 中 だけでなく 月 経 時 以 外 にも 生 じる 治 療 法 薬 物 療 法 ( 鎮 痛 薬 ホルモン 薬 漢 方 薬 ) 精 神 面 の 指 導 原 因 となっている 病 気 の 治 療 ( 薬 物 療 法 手 術 ) 4
図 6 機 能 性 器 質 性 月 経 困 難 症 の 割 合 20 代 30 代 40 代 32.2% 37.4% 46.4% 53.6% 62.6% 67.8% 機 能 性 器 質 性 0 20 40 60 80 (%) 若 い 世 代 は 機 能 性 が 多 く 年 齢 が 上 がるにつれ 器 質 性 が 増 加 ( 平 成 12 年 度 厚 生 科 学 研 究 報 告 書.2000 年 より 作 図 ) 月 経 困 難 症 は 子 宮 内 膜 症 の 予 備 軍 器 質 性 月 経 困 難 症 の 原 因 を 調 べたデータによると 20 代 30 代 は 半 数 以 上 に 子 宮 内 膜 症 と いう 病 気 が 発 見 されました( 図 7) 子 宮 内 膜 症 は 近 年 患 者 が 増 え 続 けている 病 気 で 月 経 困 難 症 の 人 は 子 宮 内 膜 症 のリスクが 2.6 倍 高 まると 報 告 されています(Treloar SA, et al:early men-strual characteristics associated with subsequent diagnosis of endometriosis. Am J Obstet Gynecol 2010; 202(6): 534.e1-6) それゆえ 月 経 困 難 症 の 段 階 でしっかり 治 療 して 子 宮 内 膜 症 への 進 展 を 防 ぐ 意 義 があるのです 図 7 年 代 別 器 質 性 月 経 困 難 症 の 原 因 20 代 20 代 30 代 のトップは 断 トツで 子 宮 内 膜 症 30 代 40 代 40 代 になると 子 宮 筋 腫 も 増 加 子 宮 内 膜 症 子 宮 筋 腫 卵 巣 嚢 腫 子 宮 腺 筋 症 その 他 0 20 40 60 80 (%) ( 平 成 12 年 度 厚 生 科 学 研 究 報 告 書.2000 年 より 作 図 ) 5
子 宮 内 膜 症 とは あなどると 恐 い 子 宮 内 膜 症 月 経 と 連 動 して 悪 化 していく 病 気 子 宮 内 膜 症 とは 本 来 子 宮 内 にあるべき 子 宮 内 膜 に 似 た 組 織 ( 子 宮 内 膜 症 組 織 )が 子 宮 以 外 の 場 所 に 発 生 して( 図 8) 月 経 が 起 こるたびに 増 殖 悪 化 していく 病 気 です 子 宮 内 膜 は 不 要 になると 子 宮 外 に 排 出 され 月 経 となりますが(P.1 参 照 ) 行 き 場 がない 子 宮 内 膜 症 組 織 の 出 血 は 体 内 で 炎 症 を 起 こし やがては 周 辺 組 織 と 癒 着 して 痛 みや 不 妊 の 原 因 となっていきます また 卵 巣 に 発 生 すると 袋 ができて 中 に 血 液 が 溜 まっていきます 古 い 血 液 の 色 がチョコレート 色 をしていることからチョコレート 嚢 胞 といい 破 裂 の 危 険 や 卵 巣 が んに 変 化 するリスクの 高 さが 指 摘 されています 図 8 子 宮 内 膜 症 の 発 生 しやすい 部 位 手 術 で 摘 出 した 子 宮 内 膜 症 組 織 6
また 子 宮 内 膜 症 は 子 宮 から 遠 く 離 れた 部 位 にも 発 生 します ヘソ 周 辺 に 病 巣 ができるとヘ そ ソから 出 血 し 横 隔 膜 や 肺 にできると 気 胸 や 血 痰 の 原 因 となり 鼠 が 腫 れたりします けい 径 部 にできると 脚 の 付 け 根 子 宮 内 膜 症 の 原 因 月 経 がある 限 りリスクは 続 く 子 宮 内 膜 症 の 原 因 は 月 経 です 発 生 機 序 ははっきりとは 解 明 されていませんが 卵 管 を 通 し て 逆 流 する 経 血 に 含 まれる 何 らかの 因 子 が 大 きく 関 わっているという 説 が 有 力 です 昔 の 女 性 は 初 経 から 妊 娠 出 産 までの 期 間 が 短 く 子 宮 内 膜 症 になる 前 に 妊 娠 出 産 授 乳 で 卵 巣 が 休 めて 月 経 がこない 期 間 がありました また 多 産 のため 月 経 のない 期 間 も 長 く 生 涯 の 月 経 回 数 も 少 なかったので 子 宮 内 膜 症 のリスクが 低 くてすみました しかし 現 代 女 性 は 初 経 が 早 く また 晩 婚 晩 産 化 少 産 化 傾 向 にあり 閉 経 も 遅 くなったこ とから 生 涯 の 月 経 回 数 が 格 段 に 増 えています 月 経 回 数 の 増 加 で 経 血 が 逆 流 する 機 会 やエ ストロゲンにさらされる 機 会 が 増 えたことに 伴 い 子 宮 内 部 以 外 で 内 膜 症 組 織 が 増 殖 する 機 会 も 増 え 子 宮 内 膜 症 を 発 症 しやすい 環 境 にあるのです これが 子 宮 内 膜 症 患 者 が 増 加 した 理 由 です( 図 9) 図 9 月 経 回 数 の 変 化 昔 の 女 性 現 代 女 性 初 経 年 齢 の 早 まり 閉 経 時 期 も 遅 くなった 出 産 が 遅 くなったり 生 涯 出 産 しなくなった 現 代 女 性 は 排 卵 月 経 回 数 が 増 えたことで 子 宮 内 膜 症 が 発 生 しや すい 状 況 にある 7
子 宮 内 膜 症 の 症 状 とその 後 特 徴 的 な 症 状 は 痛 み と 不 妊 Quality of Life Q O L ( 生 活 の 質 )の 低 下 も 深 刻 子 宮 内 膜 症 の 症 状 は 多 岐 にわたりますが( 図 10) 特 徴 的 な 症 状 は 痛 みの 強 さ と 不 妊 です 痛 みの 強 さは 病 巣 ができる 位 置 によって 異 なりますが ダグラス 窩 という 腹 部 の 奥 深 くに 発 生 する 深 部 子 宮 内 膜 症 は 特 に 痛 みが 強 く 周 辺 臓 器 と 癒 着 が 進 むと 性 交 痛 や 排 便 痛 が 生 じます 子 宮 内 膜 症 による 痛 みのせいで 学 校 や 仕 事 を 休 まなくてはならなくなったり 家 事 ができな くなったり 楽 しいイベントも 楽 しめなかったりとさまざまな 面 で 生 活 に 支 障 をきたし QOL ( 生 活 の 質 )の 低 下 をもたらします また 不 妊 は 子 宮 内 膜 症 を 診 断 するうえで 重 要 事 項 のひとつになっているように 子 宮 内 膜 症 によるさまざまな 障 害 が 妊 娠 を 阻 害 する 要 因 となっています( 表 3) 近 年 妊 娠 を 望 んでい るにも 関 わらずなかなか 妊 娠 できない 女 性 が 増 えていますが 原 因 不 明 の 不 妊 女 性 の 約 半 数 は 子 宮 内 膜 症 があるともいわれています チョコレート 嚢 胞 は 加 齢 とともにがん 化 の 危 険 が 増 加 さらに 子 宮 内 膜 症 は 良 性 腫 瘍 ですが チョコレート 嚢 胞 患 者 の 卵 巣 がん 発 症 率 は 子 宮 内 膜 症 がない 人 の 8 倍 以 上 という 高 いリスクが 報 告 されています ( 小 林 浩 : 日 産 婦 誌 2005;57: N351-N355 ほか) チョコレート 嚢 胞 と 卵 巣 がんの 合 併 率 も 年 齢 とともに 高 くなります( 表 4) 明 細 胞 がんや 類 内 膜 腺 がんといった 特 殊 ながんの 発 生 にも 関 わっている 可 能 性 も 指 摘 されてい るように(Kobayashi H, et al:int J Gynecol Cancer 2007;17:37-43) あなどれない 病 気 なのです 図 10 子 宮 内 膜 症 の 主 な 症 状 ( 複 数 回 答 ) 月 経 痛 90% 月 経 時 以 外 の 下 腹 部 痛 腰 痛 レバー 状 の 塊 が 出 る 排 便 痛 69% 64% 63% 62% 腹 部 膨 満 感 疲 労 感 や 消 耗 感 性 交 痛 月 経 量 が 多 い 不 妊 状 態 52% 49% 46% 45% 38% 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (%) その 他 : 頭 痛 下 痢 便 秘 肩 こり 足 の 痛 み 吐 き 気 や 嘔 吐 頻 尿 発 熱 めまい など 痛 みを 訴 える 症 状 が 多 いのが 特 徴 だが 必 ずしもそうした 症 状 が 出 るとは 限 らない ( 日 本 子 宮 内 膜 症 協 会 2006 年 調 査 より 引 用 ) 8
表 3 子 宮 内 膜 症 と 不 妊 症 子 宮 内 膜 症 患 者 では 30~50%が 不 妊 症 不 妊 症 患 者 の 25~50%が 子 宮 内 膜 症 子 宮 内 膜 症 による 不 妊 原 因 排 卵 障 害 卵 子 のピックアップ 障 害 受 精 障 害 受 精 卵 の 輸 送 障 害 着 床 障 害 表 4 子 宮 内 膜 症 (チョコレート 嚢 胞 )と 卵 巣 がんの 合 併 率 年 代 合 併 率 ( 卵 巣 がん 合 併 数 /チョコレート 嚢 胞 ) 20 代 0.58% (11/1908 人 ) 30 代 1.30% (45/3450 人 ) 40 代 4.11% (97/2362 人 ) 50 代 21.93% (91/ 415 人 ) 60 代 49.09% (27/ 55 人 ) 70 代 以 上 40.74% (11/ 27 人 ) ( 小 畑 孝 四 郎 : 卵 巣 子 宮 内 膜 症 の 癌 化 とその 治 療. 日 産 婦 会 誌 2003; 55: 890-902 より) 子 宮 内 膜 症 の 実 態 と 問 題 点 治 療 を 受 けているのはわずか 10% 女 性 のライフサイクルの 変 化 に 伴 い 子 宮 内 膜 症 患 者 は 年 々 増 加 の 一 途 にあります 子 宮 内 膜 症 は 月 経 がある 女 性 の 約 10%にみられ 現 在 日 本 での 患 者 数 は 260 万 人 以 上 と 推 計 されて います しかし 月 経 困 難 症 と 同 様 多 くの 女 性 がきちんと 産 婦 人 科 の 治 療 を 受 けておらず 治 療 を 受 けている 人 はわずか 10%しかいません 子 宮 内 膜 症 は 慢 性 の 進 行 性 の 病 気 なので 一 生 付 き 合 っていく 覚 悟 が 必 要 です( 図 11) 大 事 なことは ためらわずに 産 婦 人 科 医 の 診 断 を 受 けること 自 覚 症 状 のないまま 進 行 する 病 気 があるなかで 子 宮 内 膜 症 では 月 経 痛 が 病 気 を 知 らせる 貴 重 なサインです 産 婦 人 科 受 診 診 断 の 遅 れは 病 気 をどんどん 進 行 進 展 させ( 図 12) 重 症 化 させる 原 因 につながります 図 11 年 代 別 リスク 10 歳 20 歳 30 歳 40 歳 50 歳 月 経 困 難 症 子 宮 内 膜 症 の 予 備 群 子 宮 内 膜 症 チョコレート 嚢 胞 卵 巣 がん 痛 みによる QOL の 低 下 妊 娠 力 の 低 下 がん 化 リスクが 上 昇 図 12 子 宮 内 膜 症 患 者 595 人 の 診 断 内 訳 骨 盤 腹 膜 子 宮 内 膜 症 ( 腹 膜 病 変 ) 卵 巣 チョコレート 嚢 胞 他 臓 器 子 宮 内 膜 症 癒 着 ダグラス 窩 閉 鎖 5% 29% 36% 75% 82% 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 (%) ( 日 本 子 宮 内 膜 症 協 会 2001 年 調 査 を 改 変 引 用 ) 9
月 経 困 難 症 子 宮 内 膜 症 の 治 療 病 態 にあった 治 療 を 軽 症 は 薬 物 療 法 重 症 は 手 術 とホルモン 薬 で 子 宮 内 膜 症 の 治 療 は 薬 物 療 法 (ホル モン 療 法 )と 外 科 手 術 があり 重 症 度 や 妊 娠 を 希 望 する 時 期 によって 治 療 法 が 選 択 されます( 図 13) 軽 症 早 期 の 場 合 はまずホルモン 薬 で 改 善 をはかりますが 癒 着 やチョコ レート 嚢 胞 がある 場 合 は 手 術 を 先 に 行 ったうえで ホルモン 療 法 で 再 発 防 止 をはかります チョコレート 嚢 胞 では 先 にホルモン 療 法 で 嚢 胞 を 縮 小 させて から 手 術 を 行 う 場 合 もあります 図 13 子 宮 内 膜 症 の 治 療 法 手 術 病 変 の 切 除 癒 着 の 剥 離 ホルモン 療 法 ホルモン 療 法 手 術 病 変 の 切 除 癒 着 の 剥 離 再 発 防 止 のための ホルモン 療 法 再 発 防 止 のための ホルモン 療 法 再 発 しやすい 子 宮 内 膜 症 は 閉 経 までの 管 理 が 重 要 しかし 手 術 を 行 っても 月 経 がある 限 り 再 発 リスクからは 逃 れられないので 妊 娠 を 希 望 する 期 間 を 除 いて ホルモン 療 法 を 続 けて 再 発 を 防 ぐ 必 要 があります さまざまな 面 を 考 慮 しても 早 期 に 受 診 し 軽 症 のうちに 治 療 を 始 めることが 重 要 です 閉 経 薬 物 療 法 痛 みのコントロールは 鎮 痛 薬 や 漢 方 薬 で 病 気 の 改 善 はホルモン 療 法 で 薬 物 療 法 には 痛 みの 改 善 を 目 的 とした 鎮 痛 薬 や 漢 方 薬 を 用 いた 対 症 療 法 と 排 卵 を 止 めて 症 状 と 病 巣 の 改 善 をはかるホルモン 療 法 があります 鎮 痛 薬 とホルモン 薬 は 作 用 が 異 なり( 図 14) 月 経 のたびに 悪 化 していく 子 宮 内 膜 症 の 進 行 を 止 めるにはホルモン 療 法 による 治 療 が 不 可 欠 です( 図 15) 日 本 ではホルモン 療 法 やホルモン 薬 に 対 して 抵 抗 がある 人 もいますが ホルモン 薬 は 長 年 世 界 的 に 使 用 されている 薬 で 安 全 性 も 確 認 されています 月 経 痛 を 緩 和 させるための 月 経 困 難 症 子 宮 内 膜 症 の 治 療 薬 として 国 が 承 認 した 薬 であり 健 康 保 険 が 適 用 されます ホルモン 療 法 は 子 宮 内 膜 症 の 進 行 度 や 患 者 の 年 齢 や 状 態 を 加 味 して 選 択 されますが 主 流 は 低 用 量 または 超 低 用 量 エストロゲン/プロゲスチン 配 合 薬 です( 表 5) 卵 巣 から 作 られる ホルモン(エストロゲンとプロゲステ ロン=P.2 +αの 基 礎 知 識 参 照 )と 類 似 成 分 で 生 体 バランスを 整 えて 症 状 を 改 善 させていきます 図 14 月 経 困 難 症 治 療 薬 の 作 用 の 違 い 卵 胞 ホルモン 黄 体 ホルモンの 生 成 ホルモン 薬 子 宮 内 膜 の 増 殖 を 抑 える 子 宮 内 膜 の 増 殖 鎮 痛 薬 痛 みの 原 因 物 質 の 生 成 痛 みの 原 因 物 質 プロスタグ ランジンの 生 成 を 抑 える 月 経 痛 10
なお ホルモン 療 法 を 行 っている 期 間 は 排 卵 が 止 まるので 妊 娠 を 希 望 する 場 合 は 服 薬 を 中 止 する 必 要 がありますが 中 止 後 にすぐに 妊 娠 に 臨 んでも 問 題 ありません 図 15 ホルモン 療 法 の 効 果 ホルモン 薬 による 排 卵 休 止 卵 胞 ホルモン(エストロゲン)と 黄 体 ホルモン(プロゲステロン)の 分 泌 調 整 月 経 痛 の 原 因 物 質 (プロスタグランジン)の 減 少 必 要 最 低 限 の 子 宮 収 縮 月 経 痛 の 緩 和 必 要 最 低 限 の 子 宮 内 膜 経 血 量 の 減 少 エストロゲンにさらされる 機 会 の 減 少 骨 盤 内 への 経 血 逆 流 量 の 減 少 子 宮 内 膜 症 のリスク 低 下 表 5 月 経 困 難 症 子 宮 内 膜 症 の 薬 物 療 法 分 類 薬 名 痛 み の 緩 和 病 変 の 改 善 進 行 抑 制 再 発 予 防 備 考 * 費 用 の 目 安 ( 月 額 ) 対 症 療 法 鎮 痛 薬 漢 方 薬 年 齢 妊 娠 希 望 の 有 無 に 関 係 なく 使 用 できるが 病 気 の 進 展 を 止 めることは できない - 約 3,000 円 ホ ル モ ン 療 法 低 用 量 エストロゲン/ プロゲスチン 配 合 薬 または 超 低 用 量 エストロゲン/ プロゲスチン 配 合 薬 ジエノゲスト 合 成 エストロゲンと 合 成 プロゲステロンの 配 合 薬 ピルと 同 じように 長 期 間 にわた り 使 用 できるのでホルモンバランスが 整 い 痛 みの 解 消 だけでなく 月 経 前 症 候 群 (PMS)やニキビの 解 消 などにも 効 果 がある ホルモン 療 法 の 第 一 選 択 薬 飲 み 始 めは 吐 き 気 や 不 正 出 血 などが 起 こる 例 もあるが 3 ヵ 月 ほど 続 けて 飲 み 続 けるうちに 解 消 することが 多 い 合 成 プロゲステロンのひとつ 内 服 薬 子 宮 内 膜 症 病 巣 への 直 接 作 用 や 慢 性 の 痛 みに 効 果 が 高 い 低 用 量 ホルモ ン 薬 が 使 用 できない 例 に 選 択 副 作 用 として 月 経 時 以 外 の 不 正 出 血 が 起 こる 2,000~3,000 円 5,000~7,000 円 GnRH アゴニスト 点 鼻 または 注 射 閉 経 状 態 にするため 更 年 期 障 害 の 症 状 や 骨 密 度 低 下 が 生 じるので 最 長 6 ヵ 月 治 療 した 後 は 休 薬 が 必 要 手 術 前 の 治 療 として 使 われたり 低 用 量 ホルモン 薬 やジエノゲ ストが 使 用 できない 例 に 選 択 18,000~20,000 円 * 健 康 保 険 3 割 負 担 の 場 合 11
手 術 療 法 卵 巣 や 子 宮 を 摘 出 することもあり 手 術 では 子 宮 内 膜 症 組 織 を 取 り 除 き 癒 着 をはがして 痛 みや 不 妊 の 改 善 をはかり ます 患 者 の 年 齢 や 妊 娠 希 望 などを 考 慮 し て 開 腹 か 腹 腔 鏡 で 卵 巣 子 宮 を 残 す 保 存 手 術 か 進 行 によっては 子 宮 や 卵 巣 をすべ て 摘 出 する 根 治 手 術 が 選 択 されます( 図 16) 卵 巣 にできるチョコレート 嚢 胞 (P.6 参 照 )では 良 性 悪 性 の 鑑 別 を 行 う 目 的 で 腹 腔 鏡 を 使 って 嚢 胞 部 分 を 摘 出 します 卵 巣 手 術 はどうしても 正 常 部 分 のダメ ージが 避 けられないため 手 術 をしても 必 ずしも 不 妊 が 解 消 されるとは 限 りません また 何 度 も 手 術 を 受 ければそれだけ 妊 娠 できる 力 が 低 下 するリスクが 高 まること から 再 発 防 止 に 術 後 の 薬 物 療 法 (ホルモ ン 療 法 )が 勧 められています 早 期 発 見 早 期 治 療 で 手 術 を 回 避 肉 体 的 精 神 的 経 済 的 な 負 担 をもたら す 手 術 を 回 避 する 一 番 の 方 法 は 早 期 発 見 早 期 治 療 です 月 経 困 難 症 の 段 階 で 薬 物 療 法 を 開 始 すれば 手 術 が 必 要 になるほ どの 重 症 化 は 避 けられます 自 分 の 子 宮 や 卵 巣 を 守 るためにも 早 期 発 見 早 期 治 療 は 重 要 です 図 16 子 宮 内 膜 症 の 手 術 療 法 保 存 手 術 ( 病 巣 除 去 癒 着 剥 離 ) 今 後 妊 娠 を 予 定 している 場 合 卵 巣 機 能 をできるだけ 残 したい 場 合 準 根 治 術 ( 最 低 片 側 卵 巣 を 残 す) 今 後 妊 娠 は 予 定 していない が 卵 巣 機 能 をできるだけ 残 したい 場 合 根 治 術 ( 子 宮 両 側 卵 巣 卵 管 摘 出 ) 妊 娠 の 予 定 がなく 卵 巣 機 能 がなくなっても 良 い 場 合 12
月 経 困 難 症 子 宮 内 膜 症 が 与 える 影 響 と 早 期 発 見 の 意 義 QOL( 生 活 の 質 )の 低 下 月 経 痛 は 我 慢 せずに 産 婦 人 科 で 治 療 を 月 経 痛 がつらければ すみやかに 産 婦 人 科 を 訪 れ 診 断 を 受 けることが 重 要 です 痛 みの 感 じ 方 は 個 人 差 があり 表 現 が 難 しいので 問 診 では 月 経 痛 が 日 常 生 活 にどの 程 度 の 支 障 をきたしているか また 鎮 痛 薬 の 使 用 頻 度 や 量 などを 伝 えるとよい 診 断 材 料 になります( 表 6) 表 6 月 経 痛 の 症 状 をあらわす 目 安 点 数 症 状 1 痛 みの 程 度 0 点 なし 1 点 学 業 家 事 仕 事 に 若 干 の 支 障 がある 2 点 横 になって 休 憩 したくなるほど 学 業 家 事 仕 事 へ 支 障 をきたす 3 点 1 日 以 上 寝 込 み 学 業 家 事 仕 事 ができない 2 鎮 痛 薬 の 使 用 頻 度 0 点 なし 1 点 直 前 (あるいは 現 在 )の 月 経 期 間 中 に 1 日 使 用 した 2 点 直 前 (あるいは 現 在 )の 月 経 期 間 中 に 2 日 使 用 した 3 点 直 前 (あるいは 現 在 )の 月 経 期 間 中 に 3 日 以 上 使 用 した 1と2の 合 計 が 3 点 以 上 の 場 合 は 産 婦 人 科 での 治 療 が 必 要!! (Harada T, et al: Fertil Steril 2008; 90: 1583-1588 を 引 用 改 変 ) 産 婦 人 科 受 診 のすすめ 月 経 痛 は 異 変 を 自 覚 できる 大 事 なサイン! 異 常 を 感 じたらすぐ 産 婦 人 科 へ 子 宮 内 膜 症 の 病 巣 は 超 音 波 検 査 CT MRI 図 17 子 宮 内 膜 症 を 疑 うサイン では 映 らないため 腹 腔 鏡 で 腹 内 を 視 診 しない と 確 定 診 断 は 難 しく 他 の 病 気 による 手 術 や 帝 鎮 痛 薬 が 効 かないほど 月 経 痛 がひどい 王 切 開 などで 開 腹 して 病 変 が 発 見 されることも 徐 々に 月 経 痛 がひどくなってきている 珍 しくありません 月 経 以 外 のときでも 下 腹 部 痛 がある 機 能 性 月 経 困 難 症 は 子 宮 内 膜 症 の 予 備 軍 です 性 交 時 に 腰 が 引 けるほど 痛 い が(P.5 参 照 ) 子 宮 内 膜 症 に 進 展 するまでの 期 排 便 のときに 痛 みがある 間 は 明 らかになっていないため 月 経 困 難 症 の 肛 門 の 奥 のほうが 痛 い 段 階 でホルモン 療 法 を 開 始 して 手 術 が 必 要 に なかなか 妊 娠 できない なるほどの 重 症 化 を 避 けることが 大 切 です 1 つでも 該 当 したら 産 婦 人 科 に 相 談 しましょう 異 常 な 月 経 痛 は 病 気 を 知 らせる 重 要 なサイン です 身 体 の 内 部 で 静 かに 進 行 していく 病 気 があることを 意 識 して 痛 みの 変 化 に 気 を 配 り 異 常 を 感 じたらすみやかに 産 婦 人 科 を 受 診 することが 重 要 です( 図 17) 産 婦 人 科 での 診 察 は まず 問 診 から 始 まり 内 診 は 必 要 な 人 にしか 行 いません 月 経 痛 がい 13
ままでと 変 わってきたと 感 じたら ためらわずに 産 婦 人 科 を 受 診 して 診 断 を 受 けることが 重 要 です( 図 18) 欧 米 では 婦 人 科 を 女 性 の 健 康 をトータルに 管 理 する 科 として 活 用 しています 内 科 では 診 断 がつかない 女 性 特 有 の 病 気 もあることから 産 婦 人 科 をもっと 気 軽 に 活 用 しましょう 図 18 産 婦 人 科 診 療 問 診 内 診 視 診 触 診 で 子 宮 卵 巣 周 辺 部 位 をチェック 必 要 に 応 じて 経 腟 超 音 波 検 査 子 宮 卵 巣 のチェック 血 液 検 査 子 宮 頸 がん 検 査 など ( 細 胞 診 HPV 検 査 ) 検 査 結 果 により 精 密 検 査 組 織 診 MR 腹 腔 鏡 検 査 など 産 科 周 産 期 医 学 腫 瘍 学 がんなどの 治 療 婦 人 科 生 殖 内 分 泌 思 春 期 から 老 年 期 までのホルモン 関 連 の 病 気 の 治 療 最 近 は 専 門 分 野 を 明 確 にして 産 科 と 区 別 した 婦 人 科 も 増 えた 思 春 期 外 来 女 性 外 来 レディースク リニック ウィメンズクリニック といった 名 称 で 受 診 しやす い 環 境 も 工 夫 されている 14
資 料 わが 国 の 晩 産 化 少 産 化 傾 向 婚 姻 外 出 産 が 少 ない 日 本 では 年 々 未 婚 率 が 上 がり また 結 婚 年 齢 が 遅 くなっていることに 伴 い 出 産 の 高 齢 化 と 少 産 化 が 進 んでいる そのため 休 みなく 月 経 が 続 く 期 間 が 延 び 近 年 の 子 宮 内 膜 症 患 者 の 増 加 に 大 きな 影 響 を 与 えている 女 性 の 生 涯 未 婚 率 の 推 移 (%) 12 10 10.61% 8 6 4 2 1.88% 3.34% 4.45% 4.33% 5.82% 0 1960 1970 1980 1990 2000 2010 ( 年 ) ( 総 務 省 統 計 局 国 勢 調 査 報 告 より 作 図 ) 生 涯 未 婚 率 : 45~49 歳 と 50~54 歳 未 婚 率 の 平 均 値 から 50 歳 時 点 で 1 回 も 結 婚 したことがない 人 の 割 合 を 算 出 した 統 計 指 標 初 産 年 齢 の 変 化 ( 人 ) 1,000,000 900,000 800,000 700,000 600,000 500,000 400,000 300,000 200,000 100,000 0 1970 年 1980 年 1990 年 2000 年 2010 年 19 歳 以 下 20~24 歳 25~29 歳 30~34 歳 35~39 歳 40~44 歳 45 歳 以 上 ( 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 : 人 口 統 計 資 料 集 より 作 図 ) 40 年 前 と 比 較 して 近 年 は 総 出 産 数 が 減 少 しただけでなく 晩 産 化 傾 向 にあり 35 ~39 歳 の 出 産 数 は 30~40 年 前 よりも 増 加 している 15
代 表 的 な 婦 人 科 の 病 気 子 宮 内 膜 症 以 外 にも 無 症 状 で 進 行 進 展 し 不 調 を 自 覚 したときには 重 症 化 している 婦 人 科 の 病 気 はたくさんある 自 分 の 身 体 を 守 るためにも 最 低 年 に 1 度 は 産 婦 人 科 でチェックを 受 け てほしい 婦 人 科 の 病 気 例 月 経 異 常 疾 患 名 備 考 無 月 経 稀 発 月 経 頻 発 月 経 月 経 困 難 症 月 経 前 症 候 群 子 宮 内 膜 症 子 宮 筋 腫 チョコレート 嚢 胞 先 天 的 異 常 ホルモン 分 泌 の 異 常 ストレスなど 原 因 はさまざま 卵 胞 の 成 熟 が 遅 れて 卵 胞 期 が 延 び 月 経 周 期 が 40 日 以 上 に 卵 胞 期 の 短 縮 黄 体 機 能 不 全 などにより 月 経 周 期 が 24 日 以 内 に 子 宮 収 縮 力 の 増 強 または 原 因 となる 疾 患 の 影 響 により 日 常 生 活 に 支 障 をきたす ほどの 月 経 痛 が 発 生 ホルモンの 影 響 で 月 経 開 始 前 に 精 神 身 体 に 症 状 をきたす 子 宮 内 膜 に 似 た 組 織 が 子 宮 以 外 で 発 生 し 月 経 のたびに 悪 化 する 進 行 性 疾 患 卵 巣 に 古 い 経 血 が 溜 まり 強 い 痛 みや 破 裂 の 危 険 も 卵 巣 がんのリスクが 高 まる 深 部 子 宮 内 膜 症 ダグラス 窩 にできた 子 宮 内 膜 症 の 病 変 が 周 辺 臓 器 と 癒 着 すると 強 い 痛 みを 起 こす 子 宮 腺 筋 症 卵 巣 嚢 腫 が ん 子 宮 頸 がん 子 宮 体 がん 子 宮 腟 がん 外 陰 がん 卵 巣 がん 絨 毛 がん 性 感 染 症 子 宮 平 滑 筋 が 異 常 に 増 殖 した 良 性 腫 瘍 で 無 症 状 で 進 行 して 貧 血 や 過 多 月 経 を 生 じさせる 月 経 血 にレバー 状 の 大 きな 塊 が 混 じるのが 特 徴 子 宮 内 膜 に 似 た 組 織 が 子 宮 の 筋 層 内 で 増 殖 し 周 囲 の 筋 肉 が 硬 化 して 子 宮 が 膨 張 していく 良 性 疾 患 強 い 痛 みや 過 多 月 経 を 生 じさせる 卵 巣 に 液 体 が 貯 留 する 良 性 腫 瘍 一 般 的 に 無 症 状 で 進 行 し 肥 大 化 も 子 宮 頸 部 への HPV の 持 続 感 染 が 大 きく 影 響 日 本 では 若 年 層 に 患 者 が 増 加 中 エストロゲンが 影 響 して 子 宮 内 膜 に 発 生 するがん 腟 内 に 発 生 するがん HPV の 持 続 感 染 が 影 響 外 陰 部 に 発 生 するがん HPV の 持 続 感 染 の 影 響 排 卵 回 数 の 多 さ 食 生 活 の 欧 米 化 などが 影 響 チョコレート 嚢 胞 からがん 化 することも 胎 盤 の 一 部 である 絨 毛 細 胞 の 悪 性 化 によるがん クラミジア 淋 菌 梅 毒 トリコモナス カンジダなど 性 行 為 により 感 染 16
MEMO 17
Japan Enlightenment Committee In Endometriosis(JECIE) * 子 宮 内 膜 症 Fact Note 監 修 者 実 行 委 員 長 * 百 枝 幹 雄 聖 路 加 国 際 病 院 副 院 長 女 性 総 合 診 療 部 部 長 副 実 行 委 員 長 * 甲 賀 かをり 東 京 大 学 医 学 部 産 婦 人 科 准 教 授 小 林 浩 奈 良 県 立 医 科 大 学 産 婦 人 科 学 教 授 実 行 委 員 明 楽 重 夫 日 本 医 科 大 学 産 婦 人 科 教 授 安 達 知 子 総 合 母 子 保 健 センター 愛 育 病 院 副 院 長 産 婦 人 科 部 長 岩 部 富 夫 山 陰 労 災 病 院 産 婦 人 科 部 長 周 産 期 センター 長 江 夏 亜 希 子 四 季 レディースクリニック 院 長 大 須 賀 穣 東 京 大 学 医 学 部 産 科 婦 人 科 教 授 太 田 郁 子 倉 敷 平 成 病 院 婦 人 科 医 長 小 畑 孝 四 郎 近 畿 大 学 医 学 部 奈 良 病 院 産 婦 人 科 教 授 * 北 出 真 理 順 天 堂 大 学 医 学 部 大 学 院 医 学 研 究 科 産 婦 人 科 学 准 教 授 北 脇 城 京 都 府 立 医 科 大 学 産 婦 人 科 学 教 室 教 授 髙 橋 健 太 郎 滋 賀 医 科 大 学 地 域 周 産 期 医 療 学 講 座 教 授 楢 原 久 司 大 分 大 学 医 学 部 産 科 婦 人 科 教 授 能 瀬 さやか 国 立 スポーツ 科 学 センター メディカルセンター 医 師 原 田 省 鳥 取 大 学 医 学 部 生 殖 機 能 医 学 教 授 前 田 長 正 高 知 大 学 医 学 部 産 科 婦 人 科 学 講 座 教 授 村 上 節 滋 賀 医 科 大 学 産 科 学 婦 人 科 学 講 座 教 授 会 計 監 査 苛 原 稔 徳 島 大 学 大 学 院 ヘルスバイオサイエンス 研 究 部 産 科 婦 人 科 学 分 野 教 授 深 谷 孝 夫 東 北 薬 科 大 学 病 院 産 婦 人 科 顧 問 代 表 顧 問 寺 川 直 樹 社 会 福 祉 法 人 石 井 記 念 愛 染 園 附 属 愛 染 橋 病 院 院 長 顧 問 今 村 定 臣 公 益 社 団 法 人 日 本 医 師 会 常 任 理 事 木 下 勝 之 公 益 社 団 法 人 日 本 産 婦 人 科 医 会 会 長 久 保 田 俊 郎 東 京 医 科 歯 科 大 学 大 学 院 医 歯 学 総 合 研 究 科 生 殖 機 能 協 関 学 教 授 小 西 郁 生 京 都 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 婦 人 科 学 産 科 学 教 授 武 谷 雄 二 独 立 行 政 法 人 労 働 者 健 康 福 祉 機 構 理 事 長 星 合 昊 大 阪 府 済 生 会 富 田 林 病 院 院 長 水 沼 英 樹 弘 前 大 学 医 学 部 産 婦 人 科 学 教 室 教 授 吉 村 泰 典 一 般 社 団 法 人 吉 村 やすのり 生 命 の 環 境 研 究 所 所 長 協 力 一 般 社 団 法 人 日 本 生 殖 医 学 会 公 益 社 団 法 人 日 本 産 科 産 婦 人 科 学 会 公 益 社 団 法 人 日 本 産 婦 人 科 医 会 公 益 財 団 法 人 日 本 対 がん 協 会 公 益 社 団 法 人 日 本 医 師 会 日 本 エンドメトリオーシス 学 会 一 般 社 団 法 人 日 本 産 科 産 婦 人 科 内 視 鏡 学 会 日 本 思 春 期 学 会 一 般 社 団 法 人 日 本 女 性 医 学 学 会 (2014 年 9 月 1 日 現 在 )
子 宮 内 膜 症 Fact Note から 図 表 を 引 用 される 場 合 のお 願 い 各 図 表 とも 引 用 元 を 明 記 してご 利 用 ください 引 用 元 の 記 載 のない 図 表 は 日 本 子 宮 内 膜 症 啓 発 会 議 子 宮 内 膜 症 Fact Note より 引 用 の 記 載 をお 願 いします 子 宮 内 膜 症 Fact Note 2013 年 11 月 20 日 発 行 問 い 合 わせ 先 JECIE 事 務 局 電 話 :03-6228-4804 FAX:03-6228-4364 E-mail:info@jecie.jp HP:http://www.jecie.jp/ 104-0045 東 京 都 中 央 区 築 地 1-4-8 築 地 ホワイトビル 803