東 京 健 安 研 セ 年 報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst.P.H., 57, 267-271, 26 ミネラル 補 給 用 サプリメントのミネラル 含 有 量 調 査 荻 本 真 美 *1, 植 松 洋 子 *1, 樺 島 順 一 郎 *1, 鈴 木 公 美 *1, 安 野 哲 子 *1, 鴻 丸 裕 一 *2, 齋 藤 哲 夫 *3, 中 村 理 奈 *4 *1, 伊 藤 弘 一 Determination of Mineral Contents in Commercial Mineral Supplements Mami OGIMOTO *1,Yoko UEMATSU *1,Junichiro KABASHIMA *1, Kumi SUZUKI *1, Tetsuko YASUNO *1, Yuichi KOHMARU *2, Tetsuo SAITOH *3, Rina NAKAMURA *4 and Koichi ITO *1 The contents of minerals (,, Fe, Cu, Zn and Cr) were determined for 71 commercial mineral supplements. Obtained values were compared with the dietary allowance indicated in the Japanese Nutrient-based Dietary Reference Intakes 25. Maximum daily intake of Fe, Zn, Cu and Cr exceeded the recommended dietary allowances for most of the products. The supply of minerals by continuous intake of these products, in addition to the supply from daily meals, would lead to excess intake of minerals. Keywords:サプリメント supplement, カルシウム calcium, マグネシウム magnesium, 鉄 iron, 銅 copper, 亜 鉛 zinc, クロム chromium, 誘 導 結 合 プラズマ 発 光 分 光 分 析 inductively coupled plasma emission spectrometry, 推 奨 量 recommended dietary allowance, 目 安 量 adequate intake は じ め に ミネラルは 各 種 生 理 作 用, 代 謝 調 節 作 用 などと 密 接 な 関 係 を 有 し, 生 体 調 節 に 不 可 欠 なものであり, 適 正 摂 取 量 が 存 在 する.わが 国 のミネラル 摂 取 指 針 として, 平 成 11 年 には, 従 来 のカルシウムと 鉄 などに 加 え, 銅,ヨウ 素,マンガン,セレン, 亜 鉛,モリブデン,クロムの 7 つの 微 量 ミネラルについて 摂 取 基 準 が 設 けられた 1). 平 成 17 年 には, 栄 養 素 の 過 剰 摂 取 の 予 防 に,より 力 点 を 置 いた 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 (25 年 版, 厚 生 労 働 省 ) ( 食 事 摂 取 基 準 )が 策 定 された 2). 現 在,これらの ミネラルを 含 有 するサプリメントが 数 多 く 市 場 に 出 回 っており, 安 易 に 必 要 以 上 のミネラルを 摂 取 する 可 能 性 が 高 くなっている.そこで 今 回, 市 販 ミネラル 補 給 用 サ プリメントについて,カルシウム,マグネシウム, 鉄, 銅, 亜 鉛 およびクロムの 6 元 素 の 含 有 量 を 調 査 し, 食 事 摂 取 基 準 に 設 定 された 推 奨 量 (ある 性 年 齢 階 級 に 属 する 人 々のほとんど(97~98%)が 一 日 の 必 要 量 を 満 たすと 推 定 される 一 日 の 摂 取 量 ), 目 安 量 ( 推 奨 量 を 算 定 するのに 十 分 な 科 学 的 根 拠 が 得 られない 場 合 に,ある 性 年 齢 階 級 に 属 する 人 々が 良 好 な 栄 養 状 態 を 維 持 するのに 十 分 な 量 )との 比 較 検 討 を 行 った. 実 験 方 法 1. 試 料 市 販 ミネラル 補 給 用 サプリメント71 製 品 ( 国 産 品 52 製 品, 輸 入 品 19 製 品 )を 用 いた. 2. 試 薬 硝 酸 : 特 級 ( 比 重 1.42), 和 光 純 薬 工 業 ( 株 ) 製.カルシ ウム,マグネシウム, 鉄, 亜 鉛, 銅,クロムの 各 標 準 液 : 関 東 化 学 ( 株 ) 製 原 子 吸 光 分 析 用 ( 各 1, mg/l). 水 : 超 純 水 水 装 置 により 精 製 したもの. 3. 装 置 誘 導 結 合 プラズマ 発 光 分 光 分 析 計 :サーモジャーレルアッ シュ 社 製 IRIS Advantage,マイクロ 波 式 分 解 装 置 :CEM 社 製 MDS-2 型, 超 純 水 製 造 装 置 :Yamato Millipore 製 AutoPure WQ5. 4. 分 析 法 安 野 らの 方 法 3) に 従 って 試 験 溶 液 を 調 製 した.すなわち, 試 料.5 gを 精 密 に 量 りとり, 硝 酸 (1 2)1 mlを 加 え,マ イクロ 波 式 分 解 装 置 で3 分 加 熱 して 分 解 した 後, 水 を 加 え 正 確 に2 mlとした.このとき 不 純 物 があれば,.45 µm *1 東 京 都 健 康 安 全 研 究 センター 食 品 化 学 部 食 品 添 加 物 研 究 科 169-73 東 京 都 新 宿 区 百 人 町 3-24-1 *1 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health 3-24-1, Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169-73 Japan *2 東 京 都 健 康 安 全 研 究 センター 広 域 監 視 部 食 品 監 視 指 導 課 *3 多 摩 府 中 保 健 所 生 活 環 境 安 全 課 *4 福 祉 保 健 局 健 康 安 全 室 環 境 保 健 課
268 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. P. H., 57, 26 2 15 1 6mg a 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 22 23 24 25 26 27 28 29 3 31 32 33 34 35 36 37 38 39 4 41 42 43 44 45 46 47 48 49 5 51 52 53 54 55 56 57 58 59 6 61 62 63 64 65 66 67 68 69 7 71 2 15 1 5 28mg b 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 22 23 24 25 26 27 28 29 3 31 32 33 34 35 36 37 38 39 4 41 42 43 44 45 46 47 48 49 5 51 52 53 54 55 56 57 58 59 6 61 62 63 64 65 66 67 68 69 7 71 3 Fe 2 1 6.5mg b 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 22 23 24 25 26 27 28 29 3 31 32 33 34 35 36 37 38 39 4 41 42 43 44 45 46 47 48 49 5 51 52 53 54 55 56 57 58 59 6 61 62 63 64 65 66 67 68 69 7 71 Cu Zn 5 4 3 2 1 6 5 4 3 2 1 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 65 67 69 71 c.7mg b 7mg b 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 22 23 24 25 26 27 28 29 3 31 32 33 34 35 36 37 38 39 4 41 42 43 44 45 46 47 48 49 5 51 52 53 54 55 56 57 58 59 6 61 62 63 64 65 66 67 68 69 7 71 8 d Cr 6 4 2 3µg b 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2 21 22 23 24 25 26 27 28 29 3 31 32 33 34 35 36 37 38 39 4 41 42 43 44 45 46 47 48 49 5 51 52 53 54 55 56 57 58 59 6 61 62 63 64 65 66 67 68 69 7 71 Group 1 2 3 4 5 6 7 8 Fig.1 Dairy intake/recommended dietary allowance in Commercial Mineral Supplements : privately imported products : imported products a : adequate intake, b : recommended diatary allowance, c : 21%, d : 28% Containing minerals Group 1 : more than 3 minerals, Group 2 : and, Group 3 :, Group 4 :, Group 5 : mainly Fe, Group 6 : mainly Zn, Group 7 : Zn and Cr, Group 8 : Cr Dairy intake/recommended dietary allowance (%)
東 京 健 安 研 セ 年 報 57, 26 269 Fig. 2 Dairy intake/recommended dietary allowance(% ) % 8 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 13 Dairy intake/recommended dietary allowance of Minerals in 13 Multi-mineral supplements Fe Cu Zn Cr のフィルターでろ 過 し,カルシウム,マグネシウムにつ いては1~5 µg/ml, 鉄, 銅, 亜 鉛 およびクロムについて は.5~1 µg/mlの 範 囲 で 含 まれるように 水 で 希 釈 し,ICP 法 により 測 定 した. 標 準 液 は 硝 酸 (1 1)で 希 釈 し, カルシウムおよびマグネシウムは5 µg/ml, 鉄, 銅, 亜 鉛 およびクロムは1 µg/mlを 含 有 する 混 合 標 準 溶 液 を 調 製 し, 硝 酸 (1 1)をブランクとして 混 合 標 準 溶 液 と の2 点 検 量 線 を 作 成 し, 試 験 溶 液 中 の 濃 度 を 算 出 した. 結 果 及 び 考 察 含 有 ミネラルにより 次 の8グループに 分 類 し, 各 製 品 について,6 種 類 のミネラル 含 有 量 を 測 定 し, 製 品 ごと に 推 奨 量, 目 安 量 と 比 較 し,その 結 果 をFig. 1 に 示 した. 各 グループは,グループ1:3 種 類 以 上 のミネ ラルを 含 有 するマルチミネラル(No.1から13),グルー プ2:カルシウムとマグネシウムを 含 有 (No.14から24), グループ3:カルシウムを 含 有 (No.25から27),グルー プ4:マグネシウムを 含 有 (No.28と29),グループ5: 主 として 鉄 を 含 有 (No.3から36),グループ6: 主 とし て 亜 鉛 を 含 有 (No.37から41),グループ7: 亜 鉛 とクロ ムを 含 有 (No.42から56),グループ8:クロムを 含 有 (No.57から71)として,Fig. 1に 示 した.なお, 比 率 は 各 製 品 に 表 示 された 用 法 用 量 をもとに, 測 定 値 から 換 算 した 各 製 品 からの 一 日 最 大 摂 取 量 と 食 事 摂 取 基 準 中 の3~49 歳 女 性 の 一 日 摂 取 量 の 値,マグネシウム, 鉄, 銅, 亜 鉛,クロムは 推 奨 量,カルシウムは 目 安 量 と 比 較 し,それらに 対 する 充 足 率 (%)として 示 した. 1.3 種 類 以 上 のミネラル 含 有 製 品 (グループ1) 各 製 品 中 のミネラル 含 有 量 の 推 奨 量 に 対 する 充 足 率 をFig. 2に 示 した.すべての 成 分 が 推 奨 量 を 超 えていたの は1 製 品 (No.1), 特 定 の 成 分 が 超 えていたのは6 製 品 (No.2,3,6,9,11,13)で, 特 に 鉄, 銅, 亜 鉛,ク ロムなどの 微 量 ミネラルでは, 推 奨 量 を 大 幅 に 上 回 る 例 が 見 られた.これらのミネラルはすでに 食 事 から 十 分 量 が 摂 取 されており 4),マルチミネラル 製 品 を 摂 取 するこ とで, 気 が 付 かないうちに 必 要 以 上 に 摂 取 してしまう 可 能 性 がある. 各 ミネラルの 充 足 率 は 製 品 によって 大 きな 開 きがあり, 中 でも 製 品 No.11ではカルシウム15%,クロム 75%であり,ミネラル 充 足 率 を 比 較 したところ, 約 5 倍 の 開 きがあった.マルチミネラルといっても,それぞれのミネ ラルが 製 品 中 にバランスよく 含 まれていることは 少 なく,マ ルチミネラルを 飲 んでいれば,バランスよくミネラルを 摂 取 できるとは 限 らないということを 示 唆 していた.また,いず れの 成 分 も 少 なかったのは6 製 品 (No.4,5,7,8,1,12) であった.また,3 種 類 以 上 のミネラルを 含 む 製 品 では, 単 品 のミネラルの 含 有 量 よりもそれぞれの 含 有 量 が 低 い 可 能 性 があると 考 えられたが, 単 品 のミネラル 含 有 量 と 比 較 した ところ,おおむね 同 レベルの 含 有 量 であった. 2.カルシウム マグネシウム 含 有 量 の 比 較 (グループ 1, 2, 3. 4) これらのミネラルは 骨 や 歯 の 形 成,あるいは 生 体 調 節 に 必 須 である.カルシウムは 細 胞 の 増 殖, 筋 肉 の 収 縮 など 数 多 く の 体 内 代 謝 を 促 進 する 作 用 を 持 つ 5).このカルシウムの 作 用 に 拮 抗 的 な 機 能 分 担 を 担 っているのがマグネシウムである 生 理 的 なカルシウムチャンネルブロッカーとして 機 能 し, 心 筋 細 胞 へのカルシウム 流 入 の 抑 制, 血 圧 降 下 などの 働 きをし ている 6).カルシウムとマグネシウムの 適 正 な 比 率 は 2:1 と 言 われており,このバランスが 崩 れると 循 環 器 系 疾 患 など 様 々な 健 康 障 害 を 引 き 起 こす 7). 欧 米 諸 国 で 販 売 されている サプリメントのカルシウムとマグネシムの 含 有 量 の 比 率 は, ほとんど 2:1 である.そこで, 今 回 カルシウムとマグネシ ウムを 含 有 する 製 品 についてその 比 率 の 比 較 を 行 った.その 結 果,Fig. 3 に 示 すように,24 製 品 中 17 製 品 では 適 正 な 比 率 で 配 合 されていた(No.1, 2, 3, 6, 8, 1, 11, 12, 13, 15-2, 22, 24). 平 成 15 年 国 民 健 康 栄 養 調 査 でのミネラル 摂 取 状 況 によ ると 4), 鉄, 亜 鉛, 銅 などは 十 分 摂 取 されているが,カルシ ウムについては 目 安 量 6 mg のところ 532 mg,マグネシウ ムについては 推 奨 量 28 mg のところ 242 mg と 1~15% 不 足 していることが 報 告 されている. 今 回,カルシウム,マグネ シウムそれぞれ 単 体 で 含 有 するものが 5 製 品 あったが, 摂 取 する 場 合 は, 両 者 を 適 正 に 含 有 する 製 品 を 利 用 するなど,カ ルシウム,マグネシウム 双 方 をバランスよく 摂 取 することが 肝 要 と 考 えられた.
27 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. P. H., 57, 26 1% 8 6 4 2 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1111213141516171819221222324 : =2 : 1 Fig. 3 Proportion of lcium contents to Magnesium contents 3. 鉄 含 有 量 の 比 較 (グループ 1, 5) 鉄 は 赤 血 球 形 成 に 必 須 であり, 成 長 期 の 男 女,および 受 胎 可 能 年 齢 の 女 性 についてはしばしば 欠 乏 症 が 問 題 となっていた 8).しかし, 最 近 では,サプリメントとし て 容 易 に 入 手 できるようになり,アメリカでは 成 人 男 性, 閉 経 後 の 女 性 での 過 剰 摂 取 が 問 題 となりつつある 9). 鉄 の 蓄 積 によりアテローム 性 動 脈 硬 化 症 などの 心 臓 病 の 危 険 性 が 高 まるという 報 告 もある 1). 鉄 は 難 吸 収 性 で あると 同 時 に 難 排 泄 性 であるため 8),アメリカでは, 高 濃 度 の 鉄 を 摂 取 することと 体 内 への 蓄 積 との 関 連 から, 成 人 男 性, 閉 経 後 の 女 性 では, 鉄 サプリメントや 鉄 強 化 食 品 の 摂 取 を 避 けることが 賢 明 であるとされている 11). 今 回 の 結 果 では 鉄 を 含 有 する 18 製 品 のうち 11 製 品 が 推 奨 量 を 上 回 っており, 推 奨 量 の 約 3 倍 含 有 されている 製 品 (No.1, 3)もあった(Fig. 1). 4. 銅 含 有 量 の 比 較 (グループ 1, 5, 7) 銅 は 主 に 鉄 の 吸 収 を 助 け,ヘモグロビンや 赤 血 球 の 生 成, 骨 強 化 などに 関 与 するミネラルである 12).しかし, 銅 は 食 物 中 の 含 量 が 過 剰 も 欠 乏 も 生 じない 枠 内 に 収 ま っており, 銅 の 過 剰 や 欠 乏 による 健 康 障 害 が 特 殊 な 場 合 を 除 いて 極 めてまれであるため, 現 在 でもなかなか 重 要 性 には 注 意 が 向 けられていない. 今 回 の 製 品 でも 銅 単 品 のサプリメントはなく,マルチミネラル 13 製 品 中 9 製 品,また, 鉄, 亜 鉛 含 有 サプリメント 中, 各 1 製 品 に 含 有 されていたのみであったが,8 製 品 で 推 奨 量 を 超 えて おり, 推 奨 量 の 5 倍 近 く 含 有 されている 製 品 (No.1)も あった. 銅 の 上 限 量 は 推 奨 量 の 約 14 倍 であるため, 摂 取 量 が 過 剰 になることはほとんどないが,やはり 必 要 以 上 に 摂 取 することは 望 ましくないと 考 えられる. 5. 亜 鉛 含 有 量 の 比 較 (グループ 1, 6, 7) 亜 鉛 は 主 として 酵 素 の 構 成 成 分 として 重 要 な 役 割 を 果 たしており, 実 際 に 2 種 類 以 上 の 酵 素 に 亜 鉛 が 必 要 であることがわかっている 13). 特 に 最 近 では 亜 鉛 の 欠 乏 により 味 覚 障 害 が 起 こることがクローズアップされ, 亜 鉛 含 有 サプリメントが, 多 く 市 場 に 出 回 るようになっ た. 今 回 の 結 果 では 亜 鉛 を 含 有 する 32 製 品 のうち 17 製 品 が 推 奨 量 を 上 回 っており, 中 でも, 亜 鉛 を 主 成 分 とする 製 品 では, 推 奨 量 の 5 倍 から 6 倍 の 一 日 最 大 摂 取 量 を 指 示 して いたものが 3 製 品 (No.43~45)あり, 最 も 含 有 量 の 多 いもの (No.42)では 推 奨 量 の 21 倍 であった.なお No.42 は 個 人 輸 入 品 であった. 亜 鉛 は 過 剰 摂 取 により, 銅 の 吸 収 を 阻 害 して 低 色 素 性 貧 血 を 引 き 起 こす 可 能 性 があるため 14), 注 意 を 要 する. 6.クロム 含 有 量 の 比 較 (グループ 1, 7, 8) クロムはクロム 含 有 糖 許 容 因 子 (GTF)として 糖 および 脂 質 代 謝 に 重 要 な 役 割 を 果 たしている.クロムはバランスのと れた 食 事 から 十 分 量 摂 取 することができ,クロム 欠 乏 は 非 常 に 少 ない.クロムサプリメントは 2 型 糖 尿 病 治 療, 血 中 コレ ステロール 低 下, 体 重 減 少 促 進 などの 目 的 で 用 いられている 15) と 考 えられるが,その 効 果 については,あるという 報 告 と, 不 確 かであるという 報 告 があり 16) はっきりとは 確 認 さ れていない.また, 過 剰 摂 取 についても, 健 康 影 響 はないと いう 報 告 15), 慢 性 腎 不 全 などの 障 害 を 起 こすという 報 告 が あり 17), 安 全 性 についても 十 分 確 認 はされていない.また, アメリカからの 個 人 輸 入 品 には,クロムはインシュリン 活 性 を 上 げるので, 糖 尿 病 患 者 は 医 師 の 管 理 下 でのみクロムのサ プリメントを 使 用 するようにという 注 意 書 きがあり, 医 師 か ら 処 方 された 薬 を 飲 んでいる 患 者 が,クロムのサプリメント を 使 用 すると, 逆 に 低 血 糖 に 陥 る 可 能 性 があることを 示 唆 し ている. 今 回 入 手 した 国 産 のサプリメントにはその 表 示 はな かったが, 国 内 製 品 でも 個 人 輸 入 品 と 同 程 度 のクロムを 含 有 する 製 品 があり, 我 が 国 でも 表 示 が 望 まれる.クロム 含 有 サ プリメント 3 製 品 中, 推 奨 量 を 超 える 製 品 が 19 製 品 あり, 推 奨 量 の 6 倍 を 超 えた 7 製 品 のうち 3 製 品 が 個 人 輸 入 品 であ った.また, 長 期 使 用 により 腎 障 害 が 起 きるとされる 17) 一 日 摂 取 量 6 µg を 超 えるものが 1 製 品 あった.これらのこ とからも,クロム 含 有 サプリメントを 使 用 する 際 には, 注 意 が 必 要 と 考 えられる. 7. 輸 入 品 と 国 産 品 のミネラル 含 有 量 の 比 較 輸 入 品 と 国 産 品 でミネラル 含 有 量 に 差 があるかどうかを 調 べた.その 結 果, 一 日 最 大 摂 取 量 が 推 奨 量 を 上 回 る 製 品 数 / 全 体 の 製 品 数 は,カルシウム: 輸 入 品 1/9, 国 産 品 /17, マ グネシウム: 輸 入 品 1/1, 国 産 品 /17, 鉄 : 輸 入 品 4/8, 国 産 品 6/1, 銅 : 輸 入 品 4/6, 国 産 品 4/5, 亜 鉛 : 輸 入 品 5/1, 国 産 品 13/21 で,これらのミネラルについては 輸 入 品 と 国 産 品 でほとんど 差 は 認 められなかった.しかし,クロムについ ては 輸 入 品 3/8, 国 産 品 14/19 とむしろ 国 産 品 のほうが 推 奨 量 を 上 回 る 製 品 が 多 かった. 一 方, 個 人 輸 入 品 では 3/3 とす べての 製 品 が 推 奨 量 を 超 えていた. 輸 入 クロム 含 有 サプリメ ントはすべてアメリカからのものであった.したがって,ア メリカにおいても 含 有 量 の 高 い 製 品 と 低 い 製 品 があり, 購 入 にあたっては 含 有 ミネラル 量 を 確 認 することが 望 ましい.
東 京 健 安 研 セ 年 報 57, 26 271 ま と め ミネラルの 摂 取 については, 近 年, 生 活 習 慣 病 との 関 連 が 明 らかにされ 8),その 機 能, 役 割 が 再 認 識 され ている.また 今 まで 行 われてきた 国 民 栄 養 調 査 に より 4),カルシウム,マグネシウムなどの 不 足 が 指 摘 されているが, 骨 粗 しょう 症, 鉄 欠 乏 性 貧 血 などの 明 白 な 欠 乏 症 状 が 出 現 しない 限 り,ミネラルが 不 足 して いるかどうかはわかりにくい.また,このような 欠 乏 症 については, 医 師 の 診 断 に 基 づいた 医 薬 品 の 投 与 に より 改 善 されるべきものであり, 市 販 のミネラルサプ リメントを 利 用 すべきではない.サプリメントはあく まで, 食 生 活 の 偏 りなどによるミネラル 不 足 を 補 うレ ベルのものであると 考 える.それと 同 時 に, 消 費 者 の 判 断 の 目 安 として, 輸 入 品 を 含 め, 各 製 品 からのミネ ラルの 一 日 摂 取 量 が,わが 国 の 推 奨 量 のどのくらいに 相 当 するかを 製 品 に 表 示 することが 望 まれる. さらに 鉄 や 銅, 亜 鉛,クロムなどそれほど 不 足 して いないとされるミネラルについて, 推 奨 量 を 超 えて 含 有 する 製 品 が 多 く 出 回 っていることも 判 明 した. 特 に, クロム 含 有 サプリメントでは,ダイエットを 目 的 とし ている 製 品 が 多 く, 商 品 名 にダイエットをうたってい るものが,7 製 品 (No.39, 58, 62, 63, 66, 67, 69)あり, そのうち 6 製 品 で 推 奨 量 を 超 えていた. 当 然 ながら, これらの 製 品 を 取 り 続 けることは, 必 要 以 上 のミネラ ル 摂 取 につながり, 決 して 望 ましいことではない. (この 研 究 は 平 成 15 16 年 度 広 域 監 視 部 食 品 監 視 指 導 課 先 行 調 査 ミネラル 補 給 用 健 康 食 品 の 流 通 実 態 調 査 及 び 含 有 量 調 査 の 一 環 として 行 ったものである.) 文 献 1) 健 康 栄 養 情 報 研 究 会 編 : 第 6 次 改 定 日 本 人 の 栄 養 所 要 量 食 事 摂 取 基 準,1999, 第 一 出 版, 東 京. 2) 厚 生 労 働 省 策 定 : 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 (25 年 版 ), 25, 第 一 出 版, 東 京. 3) 安 野 哲 子, 植 松 洋 子, 萩 原 輝 彦, 他 : 東 京 衛 研 年 報, 56, 175-178, 25. 4) 健 康 栄 養 情 報 研 究 会 編 : 平 成 15 年 国 民 健 康 栄 養 調 査 報 告,25, 第 一 出 版, 東 京. 5) Weaver, C.M. and Heaney, R.P.: lcium. In Shils, M.E., Olson, J.A., Shike, M. and Ross, A.C. eds. Modern Nutrition in Health and Disease, 9th ed., 141-155, 1999, Williams and Wilkins, Baltimore. 6) Altura, B.M., Altura, B.T., rella, A., et al.: n. J. Physiol. Pharmacol., 65, 729-745, 1987. 7) Altura, B.M. and Altura, B.T.: Cell. Mol. Biol. Res., 41, 347-359, 1995. 8) 鈴 木 継 美, 和 田 攻 編 :ミネラル 微 量 元 素 の 栄 養 学,364, 1994, 第 一 出 版, 東 京. 9) U.S.Food and Drug Administration, Center for Food Safety and Applied Nutrition: http:// www.cfsan.fda.gov/ ~ rdb/opa-g152.html 1) de Valk, B. and Marx, J.J.: Arch. Intern. Med., 159, 1542-1548, 1999, 11) Food and Nutrition Board ed.: Dietary Reference Intakes for Vitamin A, Vitamin K, Arsenic, Boron, Chromium, Copper, Iodine, Iron, Manganese, Molybdenum, Nickel, Silicon, Vanadium and Zinc., 378, 2, National Academy press, Washington, D.C. 12) Bowman, B.A. and Russel, R.M. eds. ( 木 村 修 一 / 小 林 修 平 翻 訳 監 修 ):Present Knowledge in Nutrition, 8th ed.( 最 新 栄 養 学, 第 8 版 ), 387, 22, ILSI press( 建 社 ),Washington, D.C. ( 東 京 ). 13) Hendler, S.S. ed. PDR for Nutritional Supplements, 534, 21, Medical Economics, Montvale. 14) Fisher, P.W.F., Giroux, A. and L Abbe, M.: Am. J. Clin. Nutr., 4, 743-746, 1984. 15) Preuss, H.G. and Anderson, R.A.: Curr. Opin. Clin. Nutr. Metab. re., 1, 59-512, 1998. 16) http://www.cfsan.fda.gov/ ~ dms/qhccr.html 17) Wasser, W.G. and Feldman, N.S.: Ann. Int. Med., 126, 41, 1997.