目 次 厚 生 年 金 基 金 の 基 礎 知 識 3 厚 生 年 金 基 金 加 入 企 業 の 会 計 上 の 取 扱 いと 新 たな 給 付 設 計 8 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 企 業 の 課 題 13 2



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厚 生 年 金 基 金 の 制 度 改 正 と 加 入 企 業 の 課 題 新 日 本 有 限 責 任 監 査 法 人 1

目 次 厚 生 年 金 基 金 の 基 礎 知 識 3 厚 生 年 金 基 金 加 入 企 業 の 会 計 上 の 取 扱 いと 新 たな 給 付 設 計 8 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 企 業 の 課 題 13 2

厚 生 年 金 基 金 の 基 礎 知 識 サマリー 厚 生 年 金 基 金 は 最 盛 期 には 約 1,900 基 金 に 約 1,200 万 人 が 加 入 する 日 本 における 代 表 的 な 企 業 年 金 制 度 でした しかし その 後 の 環 境 の 変 化 によって 状 況 は 大 きく 変 わっています 本 稿 では 厚 生 年 金 基 金 の 仕 組 みと 創 設 から 現 在 までの 歴 史 を 振 り 返 ることで その 概 要 を 説 明 します I 厚 生 年 金 基 金 の 仕 組 み 厚 生 年 金 基 金 は 企 業 年 金 の 一 つで 日 本 の 3 階 建 ての 年 金 構 造 のうち 2 階 部 分 の 一 部 と 3 階 部 分 の 給 付 を 行 うものです(< 図 1> 参 照 ) 図 1 日 本 の 年 金 制 度 の 体 系 出 典 : 厚 生 労 働 省 社 会 保 障 審 議 会 企 業 年 金 部 会 第 2 回 数 値 は 2013 年 3 月 末 時 点 厚 生 年 金 基 金 の 大 きな 特 徴 は 国 の 厚 生 年 金 の 保 険 料 の 一 部 を 3 階 部 分 に 当 たる 上 乗 せ 部 分 の 掛 金 とあわせて 運 用 し 厚 生 年 金 のうち 老 齢 厚 生 年 金 ( 報 酬 比 例 部 分 )の 給 付 の 一 部 を 代 行 することです 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 場 合 としていない 場 合 を 比 較 してみます(< 図 2> 参 照 ) この 図 の 数 値 はモデル 例 ですが 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 場 合 厚 生 年 金 の 保 険 料 率 約 16% のうち 約 4%を 上 乗 せ 部 分 の 掛 金 約 1%とあわせて 厚 生 年 金 基 金 に 納 付 し 代 行 給 付 と 上 乗 せ 給 付 が 厚 生 年 金 基 金 から 支 給 されます 代 行 部 分 だけを 考 えてみると 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 し ている 場 合 としていない 場 合 では 保 険 料 の 納 付 先 と 給 付 の 支 給 元 が 国 か 厚 生 年 金 基 金 かとい 3

う 違 いはありますが 給 付 の 内 容 に 違 いはありません しかし 厚 生 年 金 基 金 は 国 に 納 めるべき 保 険 料 を 国 に 代 わって 運 用 することになります このことが 厚 生 年 金 基 金 の 大 きな 特 徴 です 図 2 出 典 : 厚 生 労 働 省 社 会 保 障 審 議 会 企 業 年 金 部 会 第 2 回 数 値 はモデル 例 II 厚 生 年 金 基 金 の 歴 史 1. 創 設 ~バブル 崩 壊 前 厚 生 年 金 基 金 の 仕 組 みは 1965 年 の 厚 生 年 金 の 大 幅 な 給 付 改 善 (いわゆる 1 万 円 年 金 の 実 現 )の 際 これによる 保 険 料 の 引 き 上 げに 反 対 する 経 済 界 側 から 国 の 年 金 を 改 善 することと 当 時 充 実 しつつあった 退 職 金 との 調 整 が 必 要 との 主 張 があったことを 契 機 として 創 設 され 66 年 から 厚 生 年 金 基 金 の 設 立 が 始 まりました 厚 生 年 金 基 金 は 企 業 や 業 界 団 体 等 が 厚 生 労 働 大 臣 の 認 可 を 受 けて 設 立 する 法 人 です 設 立 形 態 として 単 独 型 連 合 型 総 合 型 があります u u u 単 独 型 : 企 業 が 単 独 で 設 立 連 合 型 : 主 力 企 業 と 関 連 企 業 で 設 立 主 力 企 業 の 関 連 企 業 で 設 立 等 総 合 型 : 業 界 団 体 や 健 康 保 険 組 合 等 を 母 体 として( 主 に 中 小 企 業 が) 共 同 で 設 立 厚 生 年 金 基 金 は 免 除 保 険 料 率 が 固 定 されていたために 加 入 者 が 比 較 的 若 い 集 団 では 有 利 であったことや 3 階 部 分 の 資 産 と 代 行 部 分 の 資 産 をあわせて 運 用 することによりスケールメリ ットが 生 じるとともに 代 行 部 分 について 予 定 を 上 回 る 運 用 ( 利 差 益 )ができた 場 合 その 利 差 益 を 3 階 部 分 の 給 付 改 善 の 原 資 に 充 てることができるといったメリットがありました 代 行 部 分 の 運 用 利 回 りの 予 定 は 5.5%で 固 定 されていたため( 後 に 99 年 以 降 は 厚 生 年 金 本 体 の 利 回 りに 変 更 ) バブル 崩 壊 までは 安 定 的 にメリットを 享 受 できることが 多 く 厚 生 年 金 基 金 は 大 きく 普 及 しま した(< 図 3> 参 照 ) 4

図 3 厚 生 年 金 基 金 数 加 入 員 数 の 推 移 ( 創 設 ~1996 年 ) 出 典 : 企 業 年 金 連 合 会 新 しい 企 業 年 金 基 礎 資 料 2. バブル 崩 壊 しかし バブル 崩 壊 後 は 運 用 利 回 りの 実 績 が 予 定 を 下 回 る( 利 差 損 )ことが 多 くなりました 利 差 損 が 発 生 した 場 合 加 入 企 業 は 掛 金 を 引 き 上 げることで 損 失 を 負 担 する 必 要 があります こ のため 代 行 部 分 がリスクとして 捉 えられるようになり 厚 生 年 金 基 金 の 数 は 96 年 の 1,883 をピ ークに 減 少 に 転 じました さらに 2000 年 の 退 職 給 付 会 計 の 導 入 により 総 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 のように 自 社 の 拠 出 に 対 応 する 年 金 資 産 の 額 を 合 理 的 に 計 算 できないときを 除 き 企 業 の 財 務 諸 表 上 に 代 行 部 分 を 含 めた 会 計 上 の 債 務 を 反 映 することが 求 められるようになりました このような 環 境 の 下 で 02 年 の 確 定 給 付 企 業 年 金 法 の 施 行 によって 代 行 返 上 ( 代 行 部 分 の 国 への 返 上 により 厚 生 年 金 基 金 が 3 階 部 分 のみの 確 定 給 付 企 業 年 金 へ 移 行 すること)が 可 能 になると 単 独 連 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 の 大 半 は 代 行 返 上 を 行 いました しかし 総 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 は 多 くの 場 合 3 階 部 分 の 給 付 が 薄 く 代 行 返 上 を 行 うと 年 金 制 度 としての 存 在 感 が 小 さくなってしまうこと 退 職 給 付 会 計 の 影 響 が 比 較 的 小 さかったこと さらには 多 数 の 企 業 によっ て 設 立 されているために 意 思 決 定 がスムーズに 進 まないといったことから 代 行 返 上 を 行 うケー スはほとんどありませんでした(< 図 4> 参 照 ) 5

図 4 厚 生 年 金 基 金 数 加 入 員 数 の 推 移 (1996~2012 年 ) 出 典 : 企 業 年 金 連 合 会 新 しい 企 業 年 金 基 礎 資 料 3. リーマンショック~ 現 在 近 年 になると 長 期 にわたる 金 利 水 準 の 低 下 で 厳 しい 運 用 環 境 にあった 上 に リーマンショッ クによって 引 き 起 こされた 世 界 的 金 融 危 機 により 金 融 市 場 は 一 段 と 不 安 定 さが 増 してきました (< 図 5> 参 照 ) 図 5 厚 生 年 金 基 金 の 運 用 利 回 りの 推 移 出 典 : 厚 生 労 働 省 社 会 保 障 審 議 会 企 業 年 金 部 会 第 3 回 および 企 業 年 金 連 合 会 資 産 運 用 実 績 調 査 を 基 に 作 成 6

また 年 金 制 度 の 成 熟 化 に 加 えて 高 齢 化 の 進 行 や 産 業 構 造 の 変 化 により 現 役 加 入 者 に 対 し 年 金 受 給 者 の 割 合 が 大 きい 厚 生 年 金 基 金 も 見 られるようになりました あるいは 母 体 となって いる 企 業 の 経 営 状 況 が 厳 しいケースもあります これらの 要 因 により 積 立 不 足 の 状 態 が 恒 常 化 し 大 きな 積 立 不 足 が 生 じても 掛 金 を 引 き 上 げて 解 消 することが 困 難 となり 代 行 部 分 の 債 務 を 年 金 資 産 が 下 回 る(いわゆる 代 行 割 れ) 厚 生 年 金 基 金 も 現 れるようになりました III AIJ 事 件 と 厚 生 年 金 基 金 12 年 2 月 に AIJ 投 資 顧 問 による 年 金 資 産 消 失 事 件 が 発 覚 しました この 事 件 で 被 害 を 受 け た 団 体 のうち 9 割 程 度 は 総 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 であり これを 契 機 として 厚 生 年 金 基 金 の 厳 しい 財 政 状 況 がクローズアップされることとなりました 厚 生 年 金 基 金 が 代 行 割 れの 状 態 のまま 解 散 し その 穴 埋 めを 母 体 企 業 ができなかった 場 合 厚 生 年 金 本 体 の 財 政 に 影 響 を 及 ぼす 可 能 性 な どが 議 論 され 13 年 6 月 に 財 政 状 況 が 良 い 一 部 の 厚 生 年 金 基 金 を 除 いて 厚 生 年 金 基 金 は 解 散 もしくは 他 制 度 への 移 行 を 促 す 方 向 とする 法 律 が 成 立 しました これにより 厚 生 年 金 基 金 は 創 設 から 約 50 年 で 大 幅 に 縮 小 されることになりました 7

厚 生 年 金 基 金 加 入 企 業 の 会 計 上 の 取 扱 いと 新 たな 給 付 設 計 サマリー 一 定 の 場 合 に 厚 生 年 金 基 金 の 解 散 を 促 す 法 律 が 成 立 しました それによって 各 厚 生 年 金 基 金 および その 加 入 企 業 では 今 後 の 方 向 性 を 検 討 することになります 本 稿 では その 際 の 視 点 を 示 すとともに 検 討 の 参 考 として 会 計 上 の 取 扱 いを 解 説 します また 今 回 の 法 律 改 正 にあ わせて 弾 力 化 されているキャッシュ バランス プランの 設 計 要 件 について その 概 要 と 検 討 課 題 を 示 します I 法 改 正 の 概 要 2012 年 2 月 に 発 覚 した AIJ 投 資 顧 問 の 問 題 を 契 機 に 企 業 年 金 の 在 り 方 に 関 する 議 論 が 行 われました AIJ 問 題 の 多 くが 総 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 で 発 生 していることに 加 えて 公 的 年 金 の 一 部 を 代 行 している 厚 生 年 金 基 金 の 財 政 問 題 が 最 終 的 には 公 的 年 金 の 財 政 に 影 響 を 与 えるの ではないか との 懸 念 があること さらには AIJ 問 題 に 限 らず 積 立 不 足 の 問 題 は もっと 広 範 囲 に 及 ぶとの 認 識 の 下 で 議 論 が 展 開 されました また 現 在 の 厚 生 年 金 基 金 の 大 半 が 総 合 型 で あり 加 入 事 業 所 には 小 規 模 な 企 業 が 多 いため これらの 企 業 が 他 の 企 業 年 金 等 を 導 入 しやすく するための 改 善 策 の 必 要 性 なども 論 じられました 13 年 6 月 に 成 立 した 改 正 法 (14 年 4 月 1 日 施 行 )では 厚 生 年 金 基 金 制 度 は 廃 止 するので はなく 自 主 的 な 解 散 を 促 す 措 置 や 一 定 の 基 準 を 満 たさない 場 合 における 解 散 命 令 の 発 動 を 可 能 にすることを 前 提 に 制 度 としては 存 続 することになりました 今 回 の 法 改 正 を 受 けて それぞれの 厚 生 年 金 基 金 では 存 続 する 公 的 年 金 の 代 行 を 返 上 し て 確 定 給 付 企 業 年 金 に 移 行 する 又 は 解 散 するという いずれかの 検 討 をすることになります 1. 厚 生 年 金 基 金 が 存 続 する 場 合 や 確 定 給 付 企 業 年 金 へ 移 行 する 場 合 の 加 入 企 業 の 検 討 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 各 企 業 においては 厚 生 年 金 基 金 が 存 続 する 場 合 や 確 定 給 付 企 業 年 金 へ 移 行 する 場 合 には 次 のような 検 討 をすることになります 1 2 3 そのまま 加 入 を 継 続 するか 脱 退 するか 脱 退 する 場 合 には 独 自 の 企 業 年 金 を 再 建 するかどうか 退 職 金 制 度 として 復 活 するか どうか 中 小 企 業 退 職 金 共 済 へ 加 入 するかどうか( 加 入 の 条 件 を 満 たす 必 要 あり) 8

2. 厚 生 年 金 基 金 が 解 散 する 場 合 の 加 入 企 業 の 検 討 厚 生 年 金 基 金 が 解 散 する 場 合 には 加 入 している 各 企 業 においては 次 のような 検 討 をする ことになります 1 2 独 自 の 企 業 年 金 ( 確 定 給 付 企 業 年 金 確 定 拠 出 年 金 )を 再 建 するかどうか 退 職 金 制 度 として 復 活 するかどうか 中 小 企 業 退 職 金 共 済 へ 加 入 するかどうか( 加 入 の 条 件 を 満 たす 必 要 あり) II 厚 生 年 金 基 金 に 関 連 する 会 計 上 の 取 扱 い 厚 生 年 金 基 金 に 関 連 する 会 計 上 の 取 扱 いの 概 要 は 次 のとおりであり 前 述 のⅠ.1およびⅠ. 2の 検 討 に 当 たって 踏 まえておく 必 要 があります なお 対 応 するべきタイミングに 注 意 を 払 うこ とがポイントです 1. 総 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 場 合 総 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 は 退 職 給 付 会 計 上 は 複 数 事 業 主 制 度 に 当 たります 複 数 事 業 主 制 度 は 自 社 の 負 担 に 属 する 年 金 資 産 の 額 を 合 理 的 に 計 算 できるかどうかで 会 計 処 理 および 開 示 が 異 なります 合 理 的 に 計 算 できる 場 合 には 退 職 給 付 債 務 の 計 算 などを 伴 う 確 定 給 付 制 度 の 会 計 処 理 および 開 示 ( 小 規 模 企 業 における 簡 便 法 を 含 む)を 行 うことになります 一 方 合 理 的 に 計 算 できない 場 合 には 当 該 制 度 に 基 づく 要 拠 出 額 をもって 費 用 処 理 し 当 該 年 金 制 度 全 体 の 直 近 の 積 立 状 況 等 について 注 記 することとされています 複 数 事 業 主 制 度 において 自 社 の 拠 出 に 対 応 する 年 金 資 産 の 額 を 合 理 的 に 計 算 することが できないときとは 事 業 主 ごとに 未 償 却 過 去 勤 務 債 務 に 係 る 掛 金 率 や 掛 金 負 担 割 合 等 の 定 めが なく 掛 金 が 一 律 に 決 められている 場 合 をいうものとする とされています そのため おそらくほ とんど 全 ての 総 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 会 社 において 要 拠 出 額 をもって 費 用 処 理 し 当 該 厚 生 年 金 基 金 の 直 近 の 積 立 状 況 等 を 注 記 していると 考 えられます このような 会 計 処 理 を 行 っている 会 社 が 加 入 している 厚 生 年 金 基 金 から 他 の 確 定 給 付 型 の 退 職 給 付 制 度 ( 確 定 給 付 企 業 年 金 又 は 退 職 金 )へ 移 行 する 場 合 の 取 扱 いは 企 業 会 計 基 準 委 員 会 実 務 対 応 報 告 第 2 号 退 職 給 付 制 度 間 の 移 行 等 の 会 計 処 理 に 関 する 実 務 上 の 取 扱 い の Q9 に 詳 しく 記 載 されています 具 体 的 には 未 積 立 退 職 給 付 債 務 の 額 ( 又 は 年 金 資 産 が 退 職 給 付 債 務 を 超 える 額 )については 移 行 の 時 点 において 一 時 の 損 益 ( 原 則 として 特 別 損 益 )として 処 理 することなどが 記 載 されています また このような 会 計 処 理 を 行 っている 会 社 が 加 入 している 厚 生 年 金 基 金 が 解 散 又 は 厚 生 年 金 基 金 から 脱 退 する 場 合 については 実 務 対 応 報 告 第 2 号 の Q10 に 詳 しく 記 載 されています 9

Q10 では Q9 の 場 合 を 除 くとした 上 で 解 散 又 は 脱 退 に 伴 って 追 加 的 な 拠 出 が 求 められる 場 合 には 当 該 要 拠 出 額 を 費 用 として 処 理 するとされています なお 厚 生 年 金 基 金 の 代 議 員 会 の 議 決 を 得 たことにより 翌 期 以 降 に 解 散 又 は 脱 退 による 損 失 の 発 生 の 可 能 性 が 高 く かつ その 金 額 を 合 理 的 に 見 積 もることができる 場 合 には 当 該 損 失 見 積 額 を 当 期 の 費 用 ( 原 則 として 特 別 損 失 )として 計 上 し 厚 生 年 金 基 金 解 散 損 失 引 当 金 等 の 適 切 な 科 目 をもって 処 理 する 必 要 があると されています また そのような 場 合 以 外 で 解 散 又 は 脱 退 による 損 失 の 発 生 の 可 能 性 が 高 いか 又 は 可 能 性 がある 程 度 予 想 される 場 合 には 当 該 解 散 又 は 脱 退 が 翌 期 以 降 の 財 務 諸 表 に 与 える 影 響 額 などを 当 期 の 財 務 諸 表 に 注 記 することとされています これらの 点 に 関 連 して 例 えば 厚 生 年 金 基 金 からの 給 付 が 退 職 金 の 内 枠 規 定 となっている ケースで 当 該 基 金 が 解 散 するような 場 合 には 退 職 金 としての 支 給 額 が 増 加 することによって 他 の 確 定 給 付 型 の 退 職 給 付 制 度 へ 移 行 する 場 合 の 取 扱 いが 該 当 する 可 能 性 があります 2. 単 独 型 連 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 場 合 単 独 型 又 は 連 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 場 合 で 自 社 の 負 担 に 属 する 年 金 資 産 の 額 を 合 理 的 に 計 算 できる 場 合 には 退 職 給 付 債 務 の 計 算 などを 伴 う 確 定 給 付 制 度 の 会 計 処 理 お よび 開 示 を 行 っていると 考 えられます なお 合 理 的 に 計 算 できない 場 合 には 総 合 型 と 同 様 の 処 理 になります ただし その 場 合 であっても 親 会 社 等 の 特 定 の 事 業 主 に 属 する 従 業 員 に 係 る 給 付 等 が 制 度 全 体 の 中 で 著 しく 大 きな 割 合 を 占 めているときは 当 該 親 会 社 等 の 財 務 諸 表 上 自 社 の 拠 出 に 対 応 する 年 金 資 産 の 額 を 合 理 的 に 計 算 できないケースには 当 たらないものとされて います 厚 生 年 金 基 金 は 公 的 年 金 を 代 行 する 部 分 があることから 国 との 関 係 で 特 別 な 仕 組 みがあり その 会 計 上 の 取 扱 いについては さまざまな 議 論 があります しかし 現 状 の 日 本 基 準 では 代 行 部 分 を 含 めて 通 常 の 退 職 給 付 と 同 様 の 方 法 で 退 職 給 付 債 務 等 の 計 算 と 会 計 処 理 が 行 われて います これらの 事 情 については 企 業 会 計 基 準 委 員 会 実 務 対 応 報 告 第 22 号 厚 生 年 金 基 金 に 係 る 交 付 金 の 会 計 処 理 に 関 する 当 面 の 取 扱 い に 詳 しく 記 載 されています III 運 用 実 績 連 動 型 のキャッシュ バランス プランについて 厚 生 年 金 基 金 が 解 散 した 際 や 厚 生 年 金 基 金 から 脱 退 した 際 の 代 替 制 度 の 選 択 肢 の 一 つと して キャッシュ バランス プランが 考 えられます 今 回 の 法 律 改 正 にあわせて キャッシュ バラ ンス プランの 設 計 要 件 が 弾 力 化 されました キャッシュ バランス プランで 用 いられる 再 評 価 率 の 設 定 方 法 の 拡 大 として 積 立 金 の 運 用 利 回 りの 実 績 が 採 用 可 能 となりました また 従 来 は 再 評 価 に 用 いる 指 標 は 単 年 度 ベースでゼロを 下 限 とされていましたが 改 正 後 は 指 標 はプラス 10

の 時 もマイナスの 時 も そのまま 適 用 する 設 計 が 可 能 となりました ただし 退 職 に 当 たっては 再 評 価 を 行 わなかった 場 合 の 額 を 下 回 らないものであることとされました これは 退 職 に 当 たっ て 加 入 期 間 を 通 じたトータルの 指 標 がマイナスの 場 合 には ゼロを 下 限 とする 保 証 規 定 を 設 ける 必 要 があることを 意 味 します このアイデアは 日 本 年 金 数 理 人 会 が 09 年 に 公 表 した 我 が 国 におけるハイブリッド 型 企 業 年 金 制 度 の 拡 充 について で 提 言 された 運 用 指 標 連 動 型 確 定 給 付 制 度 (Benchmark Related Plan:BR 制 度 ) や それをもとにした 関 係 団 体 からの 要 望 に 基 づくものであると 考 えられます 積 立 金 の 運 用 利 回 りの 実 績 を 指 標 とする 給 付 設 計 は 日 本 年 金 数 理 人 会 の 提 言 が 想 定 して いる 指 標 ( 市 場 ベンチマーク)とは 異 なります いずれにしても 年 金 制 度 の 運 用 実 績 と 給 付 額 の 計 算 の 連 動 性 を 高 めて 年 金 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 めようとする 着 想 であることは 共 通 してい ます ただし 給 付 額 が 積 立 金 の 運 用 実 績 と 市 場 ベンチマークのどちらに 基 づくかで システム 設 計 あるいは 労 使 の 合 意 や 年 金 基 金 の 意 思 決 定 の 在 り 方 に 違 いがあるように 思 われます このような 仕 組 みは 一 見 簡 単 そうに 思 えるかもしれませんが 実 は 研 究 すべき 要 素 があると 考 えられます 1 できるだけリアルタイムで 運 用 実 績 を 反 映 する 仕 組 みが 望 まれます 運 用 実 績 は 日 々 動 くものなので 従 来 のキャッシュ バランス プラン( 例 えば 前 年 の 国 債 の 応 募 者 利 回 り の 平 均 を 翌 年 度 適 用 )のように 過 去 の 実 績 を 期 ズレの 形 で 適 用 するような 仕 組 みは 設 計 の 狙 いに 沿 わないように 思 われます 2 3 4 5 会 社 と 従 業 員 で 運 用 に 関 する 利 害 が 相 反 します 運 用 実 績 に 基 づいて 給 付 額 が 計 算 さ れながら 退 職 時 には 勤 務 期 間 を 通 じた 利 回 りゼロが 保 証 されるとなれば そのことを 踏 まえ 従 業 員 側 としては 大 きな 運 用 益 を 得 る 可 能 性 を 高 めるためにリスクの 高 い 運 用 を 希 望 する 可 能 性 があります その 場 合 には 会 社 は 保 証 という 大 きなリスクを 抱 えること になります 一 方 で 非 常 に 低 いリスクの 運 用 を 採 用 するのであれば このような 複 雑 な 仕 組 みを 導 入 するほどの 意 味 があるのかどうか 疑 問 かもしれません 運 用 計 画 に 関 する 労 使 の 理 解 と 合 意 形 成 が 前 提 になると 考 えられます 経 済 が 右 肩 上 がりで 高 成 長 の 時 代 であれば それほどでもないかもしれませんが 現 下 の 情 勢 では こ の 点 の 重 要 性 は 高 いと 考 えられます 個 々の 従 業 員 にとっては 自 己 の 意 思 で 運 用 判 断 しないにもかかわらず 運 用 実 績 が 給 付 に 反 映 される 制 度 であることから 加 入 しない 選 択 肢 や 確 定 拠 出 年 金 の 併 設 による 選 択 加 入 の 仕 組 みも 検 討 事 項 となります 運 用 実 績 を 給 付 額 に 反 映 させるとなると 基 本 的 には 常 に 積 立 不 足 のない 状 態 が 維 持 されるルールが 必 要 でしょう さらには 退 職 時 点 に 利 回 りゼロを 保 証 する 点 について い 11

かなる 財 政 運 営 基 準 を 設 けるべきか 従 来 とは 違 う 視 点 を 加 えるべきではないでしょうか 例 えば 運 用 実 績 を 全 て 給 付 に 回 すと 年 金 制 度 内 に 利 回 り 保 証 のための 資 本 がなくな るため そうならないような 基 準 を 検 討 することが 必 要 です 6 そして 最 後 に 会 計 上 の 取 扱 いがあります このような 仕 組 みは 欧 州 に 実 例 があり それに 国 際 会 計 基 準 (IAS19 号 )を 適 用 するに 当 たっては 給 付 建 て 制 度 (DB 制 度 )とし て 取 り 扱 われることになり その 在 り 方 は 議 論 の 対 象 となっています 日 本 の 退 職 給 付 会 計 基 準 は IAS19 とコンバージェンスしているので 日 本 で 今 後 このような 仕 組 みが 導 入 されるとすれば この 点 でも 海 外 における 議 論 が 日 本 にも 入 ってくることになると 考 えられ ます 執 筆 者 紹 介 新 日 本 有 限 責 任 監 査 法 人 エグゼクティブディレクター 藤 井 康 行 (Yasuyuki Fujii) E-mail : fujii-ysyk@shinnihon.or.jp 年 金 数 理 人 公 益 社 団 法 人 日 本 年 金 数 理 人 会 正 会 員 公 益 社 団 法 人 日 本 アクチュアリー 会 正 会 員 企 業 会 計 基 準 委 員 会 退 職 給 付 専 門 委 員 会 委 員 IASB Employee Benefits Working Group 委 員 国 際 アクチュアリー 会 数 理 基 準 委 員 会 IAS19 タスクフォース 委 員 長 日 本 年 金 数 理 人 会 退 職 給 付 会 計 基 準 委 員 会 委 員 長 日 本 アクチュアリー 会 退 職 給 付 会 計 基 準 部 会 部 会 長 12

厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 企 業 の 課 題 サマリー 厚 生 年 金 基 金 の 制 度 改 正 により 一 部 の 財 政 状 況 が 良 い 厚 生 年 金 基 金 を 除 き 解 散 もしくは 他 制 度 への 移 行 が 促 される 方 向 となりました これによって 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 各 企 業 は 引 き 続 き 加 入 するか 脱 退 するか 解 散 後 や 脱 退 後 の 後 継 となる 制 度 を 設 けるかどうか と いった 検 討 をすることになります 本 稿 では 特 に 総 合 型 の 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 企 業 が 検 討 するポイントについて 概 観 します I 厚 生 年 金 基 金 の 方 向 性 法 改 正 により 厚 生 年 金 基 金 は 積 立 状 況 に 応 じて< 表 1>の 対 応 をすることとなりました 表 1 厚 生 年 金 基 金 が 解 散 する 場 合 は 代 行 部 分 は 国 に 返 還 することになり 年 金 資 産 が 残 る 場 合 は 加 入 員 や 年 金 受 給 者 に 分 配 することになっています しかし 今 回 の 法 改 正 によって 個 々の 企 業 が 代 替 制 度 として 確 定 給 付 企 業 年 金 や 確 定 拠 出 年 金 中 小 企 業 退 職 金 共 済 を 選 択 する 場 合 は 代 行 部 分 を 国 に 返 還 した 残 りの 年 金 資 産 を 分 配 せずに 代 替 制 度 へ 移 換 できるようになりま した 一 方 で 代 行 割 れの 状 態 で 解 散 する 場 合 には 代 行 部 分 の 債 務 に 不 足 する 額 を 加 入 企 業 が 拠 出 する 必 要 があります この 場 合 年 金 資 産 は 残 らないので 加 入 員 や 年 金 受 給 者 への 分 配 はありません 厚 生 年 金 基 金 が 代 行 返 上 する 場 合 は 代 行 部 分 を 国 に 返 還 し いわゆる 3 階 部 分 のみの 確 定 給 付 企 業 年 金 へ 移 行 することになります 残 りの 年 金 資 産 は 確 定 給 付 企 業 年 金 に 移 換 され 積 立 不 足 があれば 移 行 後 に 掛 金 で 穴 埋 めしていきます 代 行 返 上 の 際 は 上 乗 せ 部 分 の 給 付 内 容 が 見 直 されることが 通 常 なので 厚 生 年 金 基 金 が 代 行 返 上 を 検 討 している 場 合 は 返 上 後 の 給 付 内 容 も 確 認 すべき 点 の 一 つです 13

II 企 業 における 検 討 ポイント 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 企 業 は その 積 立 状 況 と 方 向 性 ( 解 散 代 行 返 上 存 続 )を 踏 ま えて 自 社 の 対 応 を 検 討 していきます 主 な 選 択 肢 における 検 討 ポイントを 解 説 します 1. 早 期 に 脱 退 を 検 討 する 場 合 厚 生 年 金 基 金 から 脱 退 する 際 は 規 約 に 定 められた 額 の 一 括 拠 出 が 必 要 で 脱 退 時 点 の 加 入 員 には それまでの 加 入 期 間 に 見 合 う 給 付 が 行 われます なお 脱 退 後 の 期 間 に 関 する 代 行 部 分 は 厚 生 年 金 として 国 から 支 給 されます(< 図 1> 参 照 ) 図 1 表 2 脱 退 する 際 の 主 な 検 討 ポイントは< 表 2>のとおりです 14

2. 解 散 まで 継 続 加 入 する 場 合 厚 生 年 金 基 金 に 解 散 まで 継 続 加 入 する 場 合 代 行 割 れしているケースでは 代 行 部 分 の 債 務 に 不 足 する 額 を 加 入 企 業 が 拠 出 する 必 要 があります 代 行 割 れをしていないケースでは 解 散 に 伴 う 厚 生 年 金 基 金 への 拠 出 は 必 要 なく 残 った 年 金 資 産 が 加 入 員 や 年 金 受 給 権 者 に 分 配 されま す 代 行 部 分 は 国 へ 返 還 され 国 から 支 給 されます(< 図 2> 参 照 ) 図 2 解 散 する 際 の 主 な 検 討 ポイントは< 表 3>のとおりです 表 3 15

3. 代 替 制 度 の 検 討 厚 生 年 金 基 金 から 脱 退 した 場 合 でも 厚 生 年 金 基 金 が 解 散 した 場 合 でも 将 来 の 勤 続 期 間 に 係 る 上 乗 せ 部 分 の 給 付 はなくなるので 代 替 制 度 を 設 けるかどうかを あわせて 検 討 することに なります 代 替 制 度 を 設 ける 場 合 の 検 討 ポイントは< 表 4>のとおりです 表 4 代 替 制 度 を 設 ける 場 合 の 検 討 ポイント また 退 職 給 付 制 度 をしばらく 変 更 しておらず 現 在 の 人 事 制 度 に 合 っていないようなケース では 厚 生 年 金 基 金 の 解 散 を 機 に 厚 生 年 金 基 金 以 外 の 退 職 給 付 制 度 全 体 の 見 直 しを 検 討 する ことも 考 えられます III おわりに 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 している 会 社 を 訪 問 すると ( 特 に 若 い 世 代 の) 従 業 員 は 退 職 金 に 対 す る 興 味 が 薄 く 会 社 が 厚 生 年 金 基 金 に 加 入 していることを 知 らない という 声 を 聞 くことがあります しかし いざ 老 後 を 迎 えてみると 通 常 は 年 金 の 他 に 収 入 はありません 厚 生 年 金 基 金 から 脱 退 した 場 合 や 厚 生 年 金 基 金 が 解 散 した 後 に 代 替 制 度 を 設 けない あるいは 前 払 い 退 職 金 を 支 給 して 年 金 制 度 は 設 けないという 選 択 肢 もありますが 人 材 の 確 保 や 安 心 して 働 ける 環 境 の 提 供 といった 年 金 制 度 本 来 の 趣 旨 を 踏 まえ 長 期 的 な 視 点 で 貴 社 にとって 最 適 な 制 度 を 構 築 されるこ とを 願 っています 16

執 筆 者 紹 介 EY トランザクション アドバイザリー サービス 株 式 会 社 ディレクター 福 原 琢 磨 (Takuma Fukuhara) E-mail : takuma.fukuhara@jp.ey.com 年 金 数 理 人 公 益 社 団 法 人 日 本 年 金 数 理 人 会 正 会 員 公 益 社 団 法 人 日 本 アクチュアリー 会 正 会 員 生 命 保 険 会 社 における 年 金 数 理 部 門 を 経 て 当 社 に 入 社 主 に M&A 時 におけ る 年 金 デューデリジェンス 年 金 制 度 に 関 するアドバイザリーサービス 退 職 給 付 債 務 計 算 業 務 を 行 っている 17

お 問 い 合 わせ 先.or.jp 新 日 本 有 限 責 任 監 査 法 人 ナレッジ 本 部 厚 生 年 金 基 金 プロジェクト 担 当 knowledge@shinnihon 18 発 行 日 :2014 年 5 月 23 日 無 断 転 載 複 写 を 禁 じます

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