消 費 税 率 引 上 げ 再 延 期 による 社 会 保 障 への 影 響 厚 生 労 働 委 員 会 調 査 室 寺 澤 泰 大 平 成 28 年 6 月 1 日 第 190 回 国 会 ( 常 会 )の 論 戦 の 幕 が 閉 じられたその 日 の 夜 安 倍 内 閣 総 理 大 臣 は 記 者 会 見 を 開 き 消 費 税 率 10%への 引 上 げを 平 成 31 年 10 月 まで 更 に2 年 半 延 期 することを 表 明 した 1 消 費 税 率 引 上 げの 延 期 表 明 は 約 1 年 半 ぶり2 回 目 である 社 会 保 障 税 一 体 改 革 に 基 づき 消 費 税 率 引 上 げによる 増 収 分 の 全 額 2 は 社 会 保 障 に 充 て られる このため 消 費 税 率 引 上 げが 再 び 延 期 されれば その 間 引 上 げ 分 の 税 収 が 得 ら れず 当 初 予 定 していた 社 会 保 障 の 施 策 への 影 響 は 避 けられない 本 稿 は 消 費 税 率 引 上 げの 再 延 期 が 社 会 保 障 の 施 策 に 与 える 影 響 について 前 回 の 延 期 時 の 対 応 3 に 加 え 現 在 勘 案 すべき 状 況 を 踏 まえて 整 理 するとともに 今 後 の 社 会 保 障 制 度 改 革 への 対 応 について 検 討 するものである 1. 前 回 の 消 費 税 率 引 上 げ 延 期 に 伴 う 対 応 (1) 社 会 保 障 税 一 体 改 革 による 当 初 の 見 込 み 平 成 24 年 の 民 主 自 民 公 明 3 党 合 意 に 基 づく 社 会 保 障 税 一 体 改 革 では 当 初 消 費 税 率 を 平 成 26 年 4 月 に5%から8%へ 平 成 27 年 10 月 に 10%へ 引 き 上 げることとして いた これにより 当 初 の 段 階 では 消 費 税 率 が 10%となって 税 収 が 満 年 度 化 4 する 平 成 29 年 度 に 増 収 分 (5% 分 )が 14 兆 円 程 度 となると 見 込 まれていた 5 増 収 分 については まず 基 礎 年 金 国 庫 負 担 割 合 を2 分 の1とする 措 置 に 3.2 兆 円 程 度 を 振 り 向 けた 上 で 残 額 を 満 年 度 の 社 会 保 障 の 充 実 6 及 び 消 費 税 率 引 上 げに 伴 う 社 会 保 障 4 経 費 の 増 7 と 後 代 への 負 担 のつけ 回 しの 軽 減 8 がおおむね1:2の 比 率 とな るよう 按 分 することとされている これにより 社 会 保 障 の 充 実 に 2.8 兆 円 程 度 消 費 税 率 引 上 げに 伴 う 社 会 保 障 4 経 費 の 増 に 0.8 兆 円 程 度 後 代 への 負 担 のつけ 回 しの 軽 減 に 7.3 兆 円 程 度 をそれぞれ 振 り 向 けるとされていた( 図 表 1) 1 安 倍 総 理 記 者 会 見 ( 平 28.6.1) 会 見 全 文 は 首 相 官 邸 ウェブサイト<http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe /statement/2016/0601kaiken.html> 参 照 ( 平 28.6.21 最 終 アクセス) 2 国 分 の 消 費 税 収 は 全 額 社 会 保 障 財 源 化 地 方 分 の 消 費 税 収 は 従 来 の 地 方 消 費 税 1% 分 を 除 き 社 会 保 障 財 源 化 3 前 回 の 消 費 税 率 引 上 げ 延 期 に 伴 う 社 会 保 障 への 影 響 の 詳 細 については 杉 山 綾 子 消 費 税 率 引 上 げ 延 期 によ る 社 会 保 障 の 充 実 への 影 響 立 法 と 調 査 No.362( 平 27.3) 参 照 4 国 の 会 計 年 度 と 消 費 税 を 納 税 する 者 の 事 業 年 度 が 必 ずしも 一 致 しないこと 等 により ある 年 度 に 消 費 税 率 を 引 き 上 げても 増 収 分 の 満 額 が 歳 入 となるのは 翌 年 度 以 降 となる 5 消 費 税 率 1% 当 たりの 増 収 額 は 約 2.7 兆 円 ~2.8 兆 円 とされている 以 下 金 額 は 特 に 断 りのない 限 り 公 費 ( 国 及 び 地 方 )の 額 6 基 礎 年 金 国 庫 負 担 割 合 2 分 の1への 恒 久 的 引 上 げ 等 による 社 会 保 障 の 安 定 化 のほか 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 医 療 介 護 の 充 実 年 金 制 度 の 改 善 といった 社 会 保 障 の 充 実 を 行 うこととされている 7 社 会 保 障 4 経 費 である 年 金 医 療 介 護 子 育 てについての 物 価 上 昇 に 伴 う 増 8 高 齢 化 等 に 伴 う 自 然 増 を 含 む 安 定 財 源 が 確 保 できていない 既 存 の 社 会 保 障 費 に 充 てるもの 126 立 法 と 調 査 2016.7 No. 378( 参 議 院 事 務 局 企 画 調 整 室 編 集 発 行 )
図 表 1 消 費 税 増 収 分 の 使 途 の 見 込 み( 平 成 26 年 10 月 時 点 ) 後 代 への 負 担 のつけ 回 しの 軽 減 (14 兆 円 程 度 ) 消 費 税 率 引 上 げに 伴 う 社 会 保 障 4 経 費 の 増 社 会 保 障 の 充 実 基 礎 年 金 国 庫 負 担 割 合 1/2 (9 兆 円 台 半 ば 程 度 ) 7.3 兆 円 程 度 (8 兆 円 程 度 ) 4 兆 円 強 (5 兆 円 程 度 ) 3 兆 円 強 0.8 兆 円 程 度 1.3 兆 円 程 度 2: 0.3 兆 円 程 度 0.4 兆 円 程 度 2.8 兆 円 程 度 0.2 兆 円 程 度 1.35 兆 円 程 度 1.8 兆 円 強 0.5 兆 円 程 度 1 2.95 兆 円 程 度 約 3 兆 円 程 度 約 3 兆 円 程 度 3.2 兆 円 程 度 おおむね 2 1 : 平 成 26 年 度 平 成 27 年 度 平 成 27 年 度 ( 消 費 税 率 8%のままの 場 合 )(10 月 から10%とした 場 合 ) 平 成 29 年 度 ( 満 年 度 時 ) ( 出 所 ) 財 務 省 主 計 局 消 費 税 増 収 分 の 使 途 について ( 平 26.10.8 財 政 制 度 等 審 議 会 財 政 制 度 分 科 会 資 料 )から 作 成 ( 注 ) 金 額 は 公 費 ベース( 国 地 方 の 合 計 額 ) なお 上 記 の 金 額 は 資 料 作 成 時 点 における 案 消 費 税 増 収 分 については 平 成 26 年 度 及 び 27 年 度 については 消 費 税 収 1% 当 たり 2.7 兆 円 29 年 度 については 1% 当 たり 2.8 兆 円 とそれぞれ 仮 定 し 機 械 的 に 試 算 されている なお 消 費 税 率 を 10%に 引 き 上 げた 場 合 でも 社 会 保 障 4 経 費 に 充 てられる 消 費 税 収 は 消 費 税 率 5% 段 階 での 税 収 分 9 を 含 めて 計 25.2 兆 円 である 一 方 社 会 保 障 4 経 費 に 要 す る 額 は 44.5 兆 円 であり その 差 額 は 19.3 兆 円 に 及 ぶ 10 (2) 前 回 の 消 費 税 率 引 上 げ 延 期 平 成 26 年 11 月 18 日 安 倍 総 理 は 記 者 会 見 を 開 き 消 費 税 率 10%への 引 上 げを 当 初 予 定 の 平 成 27 年 10 月 から 平 成 29 年 4 月 まで1 年 半 延 期 することを 表 明 した 11 その 後 衆 議 院 総 選 挙 を 経 て 平 成 27 年 の 第 189 回 国 会 ( 常 会 )において 消 費 税 率 引 上 げ 延 期 等 の 内 容 を 含 む 所 得 税 法 等 改 正 案 が 成 立 し 12 消 費 税 率 10%への 引 上 げ 延 期 が 確 定 した 当 初 の 見 込 みでは 平 成 27 年 10 月 に 消 費 税 率 を 10%に 引 き 上 げた 場 合 平 成 27 年 度 における 消 費 税 増 収 分 は9 兆 円 台 半 ば 程 度 となり そのうち 1.8 兆 円 強 を 社 会 保 障 の 充 実 に 充 てるとされていた しかし 引 上 げ 延 期 により 同 年 度 において 社 会 保 障 の 充 実 に 充 てられるのは 約 1.35 兆 円 にとどまることになった( 図 表 1) これにより 施 策 の 優 先 順 位 付 けが 必 要 となり 以 下 の 施 策 が 先 送 りないし 一 部 実 施 となった ア 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 支 給 平 成 24 年 11 月 に 成 立 した 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 支 給 法 13 により 低 所 得 の 年 金 受 給 者 14 に 対 する 福 祉 的 給 付 として 保 険 料 納 付 済 月 数 に 応 じて 最 大 月 額 5,000 円 ( 基 準 額 9 従 来 の 地 方 消 費 税 1% 分 を 除 く 10 計 数 は 平 成 26 年 における 平 成 29 年 度 時 点 の 見 込 み 社 会 保 障 制 度 改 革 推 進 会 議 事 務 局 社 会 保 障 の 安 定 財 源 確 保 ( 平 26.7.17 社 会 保 障 制 度 改 革 推 進 会 議 ) 11 安 倍 総 理 記 者 会 見 ( 平 26.11.18) 会 見 全 文 は 首 相 官 邸 ウェブサイト<http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe /statement/2014/1118kaiken.html> 参 照 ( 平 28.6.21 最 終 アクセス) 12 所 得 税 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 ( 平 成 27 年 法 律 第 9 号 )により 消 費 税 率 10%への 引 上 げ 時 期 が 平 成 27 年 10 月 1 日 から 平 成 29 年 4 月 1 日 に 延 期 されるとともに 景 気 判 断 条 項 が 削 除 された 13 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 支 給 に 関 する 法 律 ( 平 成 24 年 法 律 第 102 号 ) 14 住 民 税 が 家 族 全 員 非 課 税 で 前 年 の 年 金 収 入 +その 他 所 得 の 合 計 額 が 老 齢 基 礎 年 金 満 額 ( 平 成 28 年 度 で 約 78 万 円 ) 以 下 である 者 127
年 額 60,000 円 )の 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 が 支 給 されることとされた 15 対 象 者 数 は 計 約 790 万 人 16 所 要 額 ( 国 費 )は 平 成 27 年 度 に 約 1,900 億 円 平 年 度 で 約 5,600 億 円 と 見 込 まれていた この 給 付 金 の 施 行 は 消 費 税 率 10%への 引 上 げの 時 期 と 規 定 されている 17 このため 引 上 げ 延 期 と 連 動 して 同 給 付 金 の 支 給 も 先 送 りとなった イ 年 金 受 給 資 格 期 間 の 短 縮 平 成 24 年 8 月 に 成 立 した 年 金 機 能 強 化 法 18 により 将 来 の 無 年 金 者 の 発 生 を 抑 制 する ため 年 金 受 給 資 格 期 間 を 現 行 の 25 年 間 から 10 年 間 に 短 縮 することとされた この 措 置 により 年 金 受 給 につながると 考 えられる 者 の 数 は 約 17 万 人 所 要 額 ( 国 費 )は 平 成 27 年 度 に 75 億 円 平 年 度 で 約 300 億 円 と 見 込 まれていた 19 受 給 資 格 期 間 の 短 縮 の 施 行 は 消 費 税 率 10%への 引 上 げの 時 期 と 規 定 されている 20 このため 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 と 同 様 引 上 げ 延 期 と 連 動 して 実 施 が 先 送 りとなった ウ 低 所 得 者 の 介 護 保 険 料 の 軽 減 介 護 保 険 制 度 において 65 歳 以 上 の 者 は 第 1 号 被 保 険 者 として 所 得 に 応 じた 保 険 料 を 負 担 する 保 険 料 の 算 定 は 原 則 として 本 人 が 市 町 村 民 税 非 課 税 ( 世 帯 に 課 税 者 あり) かつ 本 人 の 年 金 収 入 等 が 80 万 円 超 の 者 を 基 本 とし これに 所 得 段 階 に 応 じて 設 定 された 倍 率 を 掛 けることによって 行 う( 図 表 2) このうち 低 所 得 である 第 1 段 階 から 第 3 段 階 の 者 について 消 費 税 率 10%への 引 上 21 げによる 増 収 分 から 公 費 を 投 入 し 平 成 26 年 6 月 に 成 立 した 医 療 介 護 総 合 確 保 推 進 法 に 基 づいて 保 険 料 の 軽 減 を 図 ることとされていた( 図 表 2 中 の2) 対 象 者 は 計 約 1,130 万 人 であり 所 要 額 は 約 1,400 億 円 と 見 込 まれていた しかしながら 引 上 げ 延 期 により 第 1 段 階 の 者 のみ 軽 減 の 対 象 とするとともに 軽 減 の 幅 も 0.3 倍 から 0.45 倍 に 縮 小 して 実 施 することとなった( 図 表 2 中 の1) これに 要 する 額 は 平 成 28 年 度 において 218 億 円 である 22 15 老 齢 年 金 受 給 者 障 害 年 金 受 給 者 及 び 遺 族 年 金 受 給 者 にそれぞれ 支 給 される なお 1 級 の 障 害 基 礎 年 金 受 給 者 に 対 しては 月 額 6,250 円 が 支 給 される また 所 得 基 準 を 上 回 る 一 定 範 囲 の 者 に 補 足 的 老 齢 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 が 支 給 される 16 老 齢 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 対 象 者 は 約 500 万 人 補 足 的 老 齢 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 対 象 者 は 約 100 万 人 障 害 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 又 は 遺 族 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 対 象 者 は 約 190 万 人 ( 平 成 24 年 時 点 の 推 計 ) 17 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 支 給 法 は 社 会 保 障 の 安 定 財 源 の 確 保 等 を 図 る 税 制 の 抜 本 的 な 改 革 を 行 うための 消 費 税 法 の 一 部 を 改 正 する 等 の 法 律 ( 平 成 24 年 法 律 第 68 号 ) 附 則 第 1 条 第 2 号 に 掲 げる 規 定 の 施 行 の 日 す なわち 消 費 税 率 10%への 引 上 げ 時 期 から 施 行 することとされている このため 施 行 を 消 費 税 率 10%への 引 上 げ 時 期 と 連 動 させる 限 り 法 改 正 を 要 しない 18 公 的 年 金 制 度 の 財 政 基 盤 及 び 最 低 保 障 機 能 の 強 化 等 のための 国 民 年 金 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 ( 平 成 24 年 法 律 第 62 号 ) 19 平 成 24 年 時 点 の 推 計 20 年 金 機 能 強 化 法 において 年 金 受 給 資 格 期 間 の 短 縮 は 社 会 保 障 の 安 定 財 源 の 確 保 等 を 図 る 税 制 の 抜 本 的 な 改 革 を 行 うための 消 費 税 法 の 一 部 を 改 正 する 等 の 法 律 ( 平 成 24 年 法 律 第 68 号 ) 附 則 第 1 条 第 2 号 に 掲 げ る 規 定 の 施 行 の 日 すなわち 消 費 税 率 10%への 引 上 げ 時 期 から 施 行 することとされている このため 施 行 を 消 費 税 率 10%への 引 上 げ 時 期 と 連 動 させる 限 り 法 改 正 を 要 しない 21 地 域 における 医 療 及 び 介 護 の 総 合 的 な 確 保 を 推 進 するための 関 係 法 律 の 整 備 等 に 関 する 法 律 ( 平 成 26 年 法 律 第 83 号 ) 22 平 成 27 年 度 においては 221 億 円 128
図 表 2 低 所 得 者 の 介 護 保 険 料 軽 減 措 置 ( 出 所 ) 厚 生 労 働 省 政 策 統 括 官 ( 社 会 保 障 担 当 ) 介 護 保 険 の1 号 保 険 料 の 低 所 得 者 軽 減 強 化 ( 平 28.4.21 第 6 回 社 会 保 障 制 度 改 革 推 進 会 議 資 料 )から 作 成 ( 注 ) 被 保 険 者 数 は 平 成 27 年 10 月 1 日 現 在 の 人 口 推 計 を 基 に 算 出 されている 2. 消 費 税 率 引 上 げ 再 延 期 に 伴 って 想 定 される 影 響 (1) 消 費 税 率 10% 時 の 実 施 事 項 の 再 延 期 安 倍 総 理 は 引 上 げ 再 延 期 を 表 明 した 際 社 会 保 障 については 給 付 と 負 担 のバランスを 考 えれば ( 中 略 ) 引 き 上 げた 場 合 と 同 じことを 全 て 行 うことはできない と 述 べた 23 平 成 29 年 度 以 降 において 施 策 の 優 先 順 位 付 けがどのように 行 われるのかは 現 時 点 ( 平 成 28 年 6 月 21 日 現 在 )では 必 ずしも 明 らかではないが 今 後 消 費 税 率 引 上 げ 再 延 期 のための 法 改 正 が 行 われるとともに 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 支 給 及 び 年 金 受 給 資 格 期 間 の 短 縮 の 施 行 期 日 が 消 費 税 率 10%への 引 上 げ 時 期 に 連 動 する 形 で 維 持 され かつこれらの 実 施 のため の 特 段 の 予 算 措 置 等 が 行 われない 場 合 には 前 回 の 延 期 時 と 同 様 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 支 給 及 び 年 金 受 給 資 格 期 間 の 短 縮 の 実 施 も 先 送 りされることになる その 場 合 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 支 給 については 約 790 万 人 が 年 金 受 給 資 格 期 間 の 短 縮 については 約 17 万 人 が 影 響 を 受 ける 24 また 低 所 得 者 の 介 護 保 険 料 軽 減 措 置 の 完 全 実 施 についても そのための 財 源 が 別 途 確 保 されなければ 行 われない その 場 合 保 険 料 第 2 段 階 及 び 第 3 段 階 の 計 約 480 万 人 が 追 加 的 な 軽 減 措 置 を 受 けられず 第 1 段 階 の 約 650 万 人 が 限 定 的 な 軽 減 措 置 にとどまる 状 態 が 続 く 23 安 倍 総 理 記 者 会 見 ( 平 28.6.1) 24 なお 年 金 受 給 資 格 期 間 の 短 縮 については 批 判 がある 山 崎 泰 彦 ( 元 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 委 員 )は 今 まで 25 年 という 資 格 期 間 が かろうじて 保 険 料 を 納 め 続 けることへのインセンティブとなってい たが それが 10 年 に 短 縮 されることによって 薄 まることが 懸 念 されると 指 摘 している また 宮 武 剛 ( 同 )は 年 金 史 上 まれにみる 悪 法 であり 結 果 として 低 年 金 者 を 大 量 生 産 する 恐 れが 極 めて 強 い と 指 摘 してい る 宮 武 剛 山 崎 泰 彦 原 勝 則 社 会 保 障 改 革 の 評 価 と 今 後 の 課 題 行 方 ( 座 談 会 ) 週 刊 社 会 保 障 No.2856 ( 平 28.1.4)35 頁 129
(2) 当 面 対 応 が 必 要 な 事 項 今 回 引 上 げが 再 延 期 されれば 前 回 の 延 期 による 期 間 を 加 えて 計 4 年 間 にわたって 増 収 分 が 得 られない 期 間 が 生 じることになる そして 今 後 の 対 応 をより 難 しくしているの は 前 回 の 延 期 後 追 加 的 な 財 源 を 必 要 とする 課 題 が 新 たに 浮 かび 上 がっていることであ る さらに 延 期 している 期 間 中 も 社 会 保 障 のニーズは 増 加 し 続 けており それに 対 応 す るための 社 会 保 障 改 革 も 既 に 実 施 され 始 めていることも 問 題 となる 前 者 については 平 成 28 年 6 月 2 日 に 閣 議 決 定 された ニッポン 一 億 総 活 躍 プラン に 基 づく 保 育 士 及 び 介 護 人 材 の 処 遇 改 善 を 始 めとする 課 題 等 が 挙 げられる 後 者 については 毎 年 1 兆 円 規 模 で 医 療 費 を 含 めた 社 会 保 障 給 付 費 が 増 加 している 中 で 25 子 ども 子 育 て 支 援 新 制 度 及 び 医 療 保 険 制 度 改 革 が 既 に 動 き 始 めていることや 経 済 財 政 再 生 計 画 に 基 づく 集 中 改 革 期 間 ( 平 成 28~30 年 度 )における 社 会 保 障 関 係 費 の 伸 びの 抑 制 方 針 が 進 められていることが 制 約 条 件 となる 以 下 当 面 対 応 が 必 要 な 主 な 事 項 を 挙 げる ア 保 育 士 及 び 介 護 人 材 の 処 遇 改 善 等 の 実 現 ニッポン 一 億 総 活 躍 プラン は 保 育 士 の 処 遇 について 更 なる 質 の 向 上 の 一 環 としての2% 相 当 の 処 遇 改 善 を 行 うとともに ( 中 略 )キャリアアップの 仕 組 みを 構 築 し 保 育 士 としての 技 能 経 験 を 積 んだ 職 員 について 現 在 4 万 円 程 度 ある 全 産 業 の 女 性 労 働 者 との 賃 金 差 がなくなるよう 追 加 的 な 処 遇 改 善 を 行 う としている 介 護 人 材 の 処 遇 については 平 成 29 年 度 (2017 年 度 )からキャリアアップの 仕 組 みを 構 築 し 月 額 平 均 1 万 円 相 当 の 改 善 を 行 う としている 26 安 倍 総 理 は 記 者 会 見 で 保 育 士 介 護 職 員 等 の 処 遇 改 善 など 一 億 総 活 躍 プランに 関 する 施 策 については アベノミクスの 果 実 の 活 用 も 含 め 財 源 を 確 保 して 優 先 して 実 施 していく 考 え であると 述 べている 27 また 安 倍 総 理 は 同 時 に 保 育 の 受 け 皿 50 万 人 分 の 確 保 について 平 成 29 年 度 まで の 達 成 に 向 け 約 束 どおり 実 施 すること 介 護 離 職 ゼロ に 向 けた 介 護 の 受 け 皿 50 万 人 分 の 整 備 もスケジュールどおり 確 実 に 進 めていくことも 表 明 した 28 保 育 の 受 け 皿 50 万 人 分 の 確 保 には 約 1,000 億 円 保 育 士 及 び 介 護 人 材 の 処 遇 改 善 には 約 2,000 億 円 を 要 す ると 見 込 まれている 消 費 税 率 引 上 げによる 増 収 分 が 見 込 めない 中 でこれらを 優 先 的 に 実 施 するためには 何 らかの 形 で 恒 久 財 源 を 確 保 する 必 要 がある イ 子 ども 子 育 て 支 援 新 制 度 への 対 応 平 成 27 年 度 から 開 始 された 子 ども 子 育 て 支 援 新 制 度 には 最 終 的 に 計 1 兆 円 超 の 財 源 が 必 要 であり このうち 7,000 億 円 を 消 費 税 増 収 分 から 充 てるとされている 前 回 の 消 費 税 率 引 上 げ 延 期 の 際 には 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 が 優 先 的 に 取 り 組 む 施 策 の 一 つとして 位 置 付 けられたことにより 増 収 分 が 限 られる 中 平 成 27 年 度 に 約 5,000 億 円 25 国 民 医 療 費 は 平 成 23 年 度 38.6 兆 円 平 成 24 年 度 39.2 兆 円 平 成 25 年 度 40.1 兆 円 ( 厚 生 労 働 省 国 民 医 療 費 の 概 況 各 年 度 ) 社 会 保 障 給 付 費 は 平 成 23 年 度 107.5 兆 円 平 成 24 年 度 109.0 兆 円 平 成 25 年 度 110.7 兆 円 ( 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 社 会 保 障 費 用 統 計 各 年 度 ) 26 障 害 福 祉 人 材 の 処 遇 についても 介 護 人 材 と 同 様 の 考 え 方 に 立 って 予 算 編 成 過 程 で 検 討 するとされている 27 安 倍 総 理 記 者 会 見 ( 平 28.6.1) 28 安 倍 総 理 記 者 会 見 ( 平 28.6.1) 130
が 平 成 28 年 度 に 約 6,000 億 円 が 確 保 された しかし 残 る 1,000 億 円 の 確 保 は 引 上 げが 再 延 期 されれば 不 透 明 となる 上 消 費 税 増 収 分 以 外 から 充 てる 3,000 億 円 の 恒 久 財 源 についてはいまだ 確 保 のめどが 立 っていない 上 述 の 保 育 の 受 け 皿 確 保 などは 消 費 税 増 収 分 とは 別 の 財 源 を 調 達 して 実 施 される 可 能 性 もあるが 保 育 のニーズがピークに 達 するとされる 平 成 29 年 度 末 を 消 費 税 増 収 分 が 見 込 めないまま 迎 えることには 変 わりがない ウ 年 金 生 活 者 等 支 援 臨 時 福 祉 給 付 金 に 代 わる 対 応 平 成 27 年 度 補 正 予 算 及 び 平 成 28 年 度 予 算 に 基 づき 低 所 得 の 高 齢 者 及 び 低 所 得 の 障 害 遺 族 基 礎 年 金 受 給 者 に 対 し1 人 30,000 円 の 年 金 生 活 者 等 支 援 臨 時 福 祉 給 付 金 の 支 給 が 行 われている 所 要 額 ( 国 費 )は 高 齢 者 向 けと 障 害 遺 族 年 金 受 給 者 向 けとを 合 わ せて 計 約 4,070 億 円 ( 事 務 費 含 む)である 同 給 付 金 は 賃 金 引 上 げの 恩 恵 が 及 びにく い 低 年 金 受 給 者 への 支 援 によるアベノミクスの 成 果 の 均 てんの 観 点 や ( 中 略 ) 所 得 全 体 の 底 上 げを 図 る 観 点 に 立 ち 社 会 保 障 税 一 体 改 革 の 一 環 として 平 成 29 年 度 から 実 施 さ れる 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 前 倒 し 的 な 位 置 づけになることも 踏 まえ また 平 成 28 年 前 半 の 個 人 消 費 の 下 支 えにも 資 するよう 実 施 するとされている 29 この 給 付 金 の 支 給 は1 回 限 りであることから 消 費 税 率 引 上 げを 再 延 期 した 場 合 の 扱 いについては 決 まっていない ただし 同 給 付 金 が 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 の 前 倒 し 的 な 位 置 づけ を 含 んだものとされた 以 上 平 成 29 年 度 以 降 に 年 金 生 活 者 支 援 給 付 金 が 支 給 されない 期 間 が 生 じる 場 合 には その 間 に 何 らかの 対 応 を 行 うべきとの 声 が 上 がる 可 能 性 もある 仮 にそうした 対 応 を 行 う 場 合 額 や 支 給 対 象 の 設 定 の 仕 方 にもよるが 相 当 な 規 模 の 財 源 が 必 要 となる エ 医 療 保 険 制 度 改 革 への 対 応 平 成 27 年 6 月 に 成 立 した 医 療 保 険 制 度 改 革 関 連 法 30 により 厳 しい 財 政 状 況 にある 国 民 健 康 保 険 への 財 政 支 援 が 進 められることとなった 平 成 27 年 度 以 降 国 民 健 康 保 険 へ の 財 政 支 援 を 段 階 的 に 拡 充 し 平 成 30 年 度 以 降 は 毎 年 約 3,400 億 円 を 国 民 健 康 保 険 に 投 じることがその 柱 である 平 成 28 年 度 において 社 会 保 障 の 充 実 として 消 費 税 財 源 等 から 国 民 健 康 保 険 への 財 政 支 援 の 拡 充 等 に 充 てられるのは 計 約 2,200 億 円 である 平 成 29 年 度 には 後 期 高 齢 者 支 援 金 の 全 面 総 報 酬 割 の 導 入 によって 生 じる 国 費 31 の 増 加 分 が 約 1,200 億 円 となり その 分 を 財 源 として 見 込 めるとはいえ 平 成 30 年 度 から 都 道 府 県 に 設 置 される 国 民 健 康 保 険 の 財 政 安 定 化 基 金 を 当 初 予 定 どおり 2,000 億 円 規 模 で 実 施 するためには 平 成 29 年 度 に 基 金 への 積 み 増 しを 1,400 億 円 規 模 で 行 う 必 要 がある 29 一 億 総 活 躍 担 当 大 臣 総 務 大 臣 財 務 大 臣 厚 生 労 働 大 臣 年 金 生 活 者 等 支 援 臨 時 福 祉 給 付 金 の 実 施 に ついて ( 平 27.12.18) 30 持 続 可 能 な 医 療 保 険 制 度 を 構 築 するための 国 民 健 康 保 険 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 ( 平 成 27 年 法 律 第 31 号 ) 31 被 用 者 保 険 者 間 における 後 期 高 齢 者 支 援 金 の 按 分 は これまで 加 入 者 割 ( 加 入 人 数 に 応 じた 按 分 )と 総 報 酬 割 ( 報 酬 額 に 応 じた 按 分 )とを 組 み 合 わせて 行 っていたが 平 成 27 年 度 以 降 総 報 酬 割 部 分 を 段 階 的 に 拡 大 し 平 成 29 年 度 以 降 は 全 面 的 に 総 報 酬 割 とすることとされた これにより 協 会 けんぽの 負 担 能 力 の 低 さ に 着 目 して 行 われていた 国 庫 補 助 が 投 入 不 要 となり 別 の 財 源 に 充 てることができることとなった 当 該 額 は 平 成 28 年 度 において 約 1,200 億 円 平 成 29 年 度 において 約 2,400 億 円 131
加 えて 被 用 者 保 険 における 前 期 高 齢 者 納 付 金 負 担 の 軽 減 のため 高 齢 者 医 療 円 滑 化 等 補 助 金 ( 国 費 )を 段 階 的 に 拡 充 することも 予 定 されている 平 成 28 年 度 予 算 ではこれ に 210 億 円 が 充 てられているが 平 成 29 年 度 には 約 600 億 円 を 要 すると 見 込 まれている これらを 考 慮 すると 消 費 税 増 収 分 が 見 込 めない 状 況 において 医 療 保 険 制 度 改 革 を 予 定 どおり 進 めるためには 平 成 29 年 度 において 少 なくとも 600 億 円 規 模 を 他 の 財 源 から 調 達 する 必 要 がある オ 経 済 財 政 再 生 計 画 に 基 づく 社 会 保 障 関 係 費 の 伸 び 抑 制 への 対 応 平 成 27 年 6 月 30 日 に 閣 議 決 定 された 経 済 財 政 運 営 と 改 革 の 基 本 方 針 2015 ( 骨 太 方 針 2015)の 中 に 位 置 付 けられた 経 済 財 政 再 生 計 画 において 社 会 保 障 関 係 費 ( 国 費 ) の 実 質 的 な 増 加 を 集 中 改 革 期 間 ( 平 成 28 年 度 から 30 年 度 までの3 年 間 ) 内 に 1.5 兆 円 程 度 に 抑 制 する 方 針 が 示 された この 方 針 に 基 づき 平 成 28 年 度 予 算 概 算 要 求 の 段 階 で 約 6,700 億 円 と 見 込 まれた 社 会 保 障 関 係 費 の 伸 び 分 は 診 療 報 酬 のマイナス 改 定 等 によって 捻 出 した 財 源 と 相 殺 した 結 果 約 5,000 億 円 に 抑 制 された この 対 応 は 平 成 30 年 度 まで 継 続 される 見 込 みであるこ とから 増 加 を 続 ける 社 会 保 障 関 係 費 の 伸 びを 年 間 5,000 億 円 程 度 に 抑 制 するために 平 成 29 年 度 以 降 も 制 度 改 正 等 による 財 源 捻 出 の 必 要 に 迫 られる 3. 社 会 保 障 税 一 体 改 革 の 行 方 (1) 社 会 保 障 分 野 の 削 減 による 費 用 の 捻 出 社 会 保 障 の 充 実 メニューは 消 費 税 増 収 分 のみによって 賄 われているのではなく 社 会 保 障 分 野 の 削 減 によって 捻 出 した 分 もその 財 源 に 含 まれている 例 えば 平 成 28 年 度 に おける 社 会 保 障 の 充 実 の 合 計 額 は 1.53 兆 円 であるが これは 消 費 税 増 収 分 1.35 兆 32 円 に 社 会 保 障 制 度 改 革 プログラム 法 等 に 基 づく 重 点 化 効 率 化 により 捻 出 した 0.29 兆 円 を 加 えた 1.64 兆 円 から 簡 素 な 給 付 措 置 ( 臨 時 福 祉 給 付 金 ) 等 の 0.11 兆 円 を 差 し 引 い た 額 である したがって 消 費 税 率 10%への 引 上 げによる 増 収 分 が 見 込 めないとしても 現 実 には 消 費 税 率 8%までの 増 収 分 に 加 え 既 存 の 施 策 の 削 減 などによって 恒 久 財 源 を 捻 出 しながら 社 会 保 障 の 充 実 のための 一 定 の 施 策 が 進 められることになろう 33 とはいえ 平 成 29 年 度 は 通 常 の 診 療 報 酬 改 定 (2 年 ごと) 及 び 介 護 報 酬 改 定 (3 年 ごと) の 該 当 年 度 ではなく 社 会 保 障 分 野 での 大 きな 制 度 改 正 も 後 期 高 齢 者 の 保 険 料 軽 減 特 例 措 置 の 見 直 し 34 を 除 き あらかじめ 決 まっているわけではない このため 近 年 のように 診 療 報 酬 介 護 報 酬 改 定 や 生 活 保 護 の 見 直 しといった 制 度 改 正 による 財 源 の 捻 出 35 は 困 難 32 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 ( 平 成 25 年 法 律 第 112 号 ) 33 なお 消 費 税 収 の 配 分 について 後 代 への 負 担 のつけ 回 しの 軽 減 以 外 の 配 分 を 多 くすることを 考 えても よかったとの 指 摘 もある 横 山 三 加 子 記 者 の 目 消 費 増 税 再 延 期 と 参 院 選 ( 上 ) 毎 日 新 聞 ( 平 28.6.9) 34 低 所 得 者 及 び 元 被 扶 養 者 の 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 保 険 料 について 予 算 措 置 により 軽 減 特 例 が 講 じられている が 平 成 29 年 度 から 段 階 的 に 縮 小 されることとされている 同 措 置 に 係 る 平 成 28 年 度 所 要 額 は 945 億 円 35 近 年 の 社 会 保 障 制 度 の 見 直 しによる 削 減 額 は 平 成 25 年 度 に 生 活 保 護 の 適 正 化 により 約 1,200 億 円 平 成 26 年 度 に 薬 価 改 定 や7 対 1 入 院 基 本 料 算 定 病 床 の 要 件 厳 格 化 等 により 約 1,700 億 円 平 成 27 年 度 に 介 護 報 酬 改 定 や 協 会 けんぽ 国 庫 補 助 の 見 直 し 等 により 約 1,700 億 円 平 成 28 年 度 に 薬 価 改 定 等 により 約 1,700 億 円 132
と言われている その一方で社会保障 税一体改革による 社会保障の充実 に係る各施 策は既に本格的な実施及び拡大の段階に移っており 図表3 それぞれにおいて一定の額 を要することは上記で例を挙げたとおりである こうした状況においては これまで議論 が分かれていた事項についても検討の俎上に置かれ 費用の削減が模索されるようになる と想定される 例えば 経済 財政再生計画は 外来時の定額負担の導入 医療保険の高額療養費や後 期高齢者の窓口負担の在り方の見直し 介護保険の高額介護サービス費制度や利用者負担 の在り方の見直し 公的保険給付の範囲や内容の見直し 軽度者に対する生活援助サービ ス 福祉用具貸与等の介護保険給付の見直し 市販薬類似品に係る保険給付の見直し等と いった制度改革事項を挙げている これらは 平成 28 年5月 18 日の財政制度等審議会に よる建議 経済 財政再生計画 の着実な実施に向けた建議 でも検討を進める必要があ るとされている 図表3 社会保障 税一体改革による 社会保障の充実 に係る実施スケジュール 出所 厚生労働省政策統括官 社会保障担当 社会保障 税一体改革による社会保障の充実に係る実施スケジュールに ついて 平 28.4.21 第6回社会保障制度改革推進会議資料 を基に 平成 31 年度の欄 消費税率 10 への引上げ 延期及び平成 28 年度予算額等を追記し 一部省略して作成 なお 消費税率引上げの代替として 行政の無駄遣いの削減や議員定数の削減が引き合 いに出されることがある これらの議論は排除されるべきものではないが それによる影 響やそれぞれの予算規模36を踏まえた上での冷静な議論が必要である 36 消費税率1 当たりの増収額は約 2.7 兆円 2.8 兆円 これに対し 例えば平成 28 年度における国家公務 員人件費 行政機関分 自衛官及び特別機関分を除く は3兆 538 億円 衆参両院の予算額は計 1,189 億円 政党交付金の額は 320 億円 133 立法と調査 2016. 7 No. 378
(2) 将 来 世 代 に 負 担 を 先 送 りせず 受 益 と 負 担 の 均 衡 を 図 る 必 要 性 前 回 の 消 費 税 率 引 上 げ 延 期 表 明 の 際 安 倍 総 理 は 再 び 延 期 することはない ここで 皆 さんにはっきりとそう 断 言 いたします 平 成 29 年 4 月 の 引 き 上 げについては 景 気 判 断 条 項 を 付 すことなく 確 実 に 実 施 いたします と 述 べた 37 その 後 も リーマンショック 級 や 大 震 災 級 の 事 態 が 発 生 しない 限 り 予 定 どおり 平 成 29 年 4 月 から 消 費 税 率 を 10%に 引 き 上 げることを 重 ねて 明 らかにしていた ところが 今 回 安 倍 総 理 は これらの 事 態 が 発 生 していないと 認 めながら 新 しい 判 断 により 消 費 税 率 引 上 げを 再 延 期 すると 表 明 した また 民 進 党 を 始 め 主 要 政 党 も 軒 並 み 平 成 29 年 4 月 の 消 費 税 率 引 上 げに 反 対 している 消 費 税 率 引 上 げの 先 行 きは 極 めて 不 透 明 と なった 38 社 会 保 障 税 一 体 改 革 関 連 法 についても もはやご 破 算 にしたのと 同 じ との 悲 観 的 な 見 方 がある 39 ここで 社 会 保 障 税 一 体 改 革 の 理 念 を 振 り 返 ってみたい 民 主 自 民 公 明 3 党 によ り 議 員 立 法 として 提 出 され 平 成 24 年 6 月 に 成 立 した 社 会 保 障 制 度 改 革 推 進 法 は 安 定 した 財 源 を 確 保 しつつ 受 益 と 負 担 の 均 衡 がとれた 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 る とともに 国 民 が 広 く 受 益 する 社 会 保 障 に 係 る 費 用 をあらゆる 世 代 が 広 く 公 平 に 分 かち 合 う 観 点 等 から 社 会 保 障 給 付 に 要 する 費 用 に 係 る 国 及 び 地 方 公 共 団 体 の 負 担 の 主 要 な 財 源 には 消 費 税 及 び 地 方 消 費 税 の 収 入 を 充 てるものとする と 規 定 している 40 また 社 会 保 障 制 度 改 革 推 進 法 に 基 づき 設 置 された 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 は 平 成 25 年 8 月 に 公 表 した 報 告 書 において 現 在 の 世 代 が 享 受 する 社 会 保 障 給 付 について 給 付 に 見 合 った 負 担 を 確 保 せず その 負 担 を 将 来 の 社 会 を 支 える 世 代 に 先 送 ることは 財 政 健 全 化 の 観 点 のみならず 社 会 保 障 の 持 続 可 能 性 や 世 代 間 の 公 平 の 観 点 からも 大 きな 問 題 であり 速 やかに 解 消 し 将 来 の 社 会 を 支 える 世 代 の 負 担 ができる 限 り 少 なくなるように する 必 要 がある と 指 摘 している これらに 示 されているような 将 来 世 代 に 負 担 を 先 送 りせず 受 益 と 負 担 の 均 衡 を 図 る 必 要 性 への 認 識 が 社 会 保 障 税 一 体 改 革 の 議 論 を 通 じて 国 民 の 間 で 一 定 程 度 共 有 されたと すれば こうした 認 識 を 無 にしないためにも 今 後 も 議 論 を 続 ける 必 要 がある その 際 社 会 保 障 制 度 改 革 プログラム 法 に 基 づいて 内 閣 に 設 置 された 社 会 保 障 制 度 改 革 推 進 会 議 が 果 たすべき 役 割 は 大 きい 同 推 進 会 議 は 消 費 税 率 引 上 げ 再 延 期 の 方 針 表 明 後 には 開 催 さ れていないが( 平 成 28 年 6 月 21 日 現 在 ) 今 後 どのような 方 向 性 を 示 すのか 注 視 したい (てらさわ やすひろ) 37 安 倍 総 理 記 者 会 見 ( 平 26.11.18) 38 1つの 内 閣 が2 度 も 延 期 したわけだから 国 民 から 見 れば もう 増 税 はないと 約 束 したのも 同 然 だ との 指 摘 がある 御 厨 貴 税 制 を 政 局 に 使 った 朝 日 新 聞 ( 平 28.6.2) 39 土 居 丈 朗 財 政 難 は 必 至 対 処 必 要 読 売 新 聞 ( 平 28.6.2) 40 社 会 保 障 制 度 改 革 推 進 法 ( 平 成 24 年 法 律 第 64 号 ) 第 1 条 及 び 第 2 条 134