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Transcription:

KISER Discussion Paper Series No.19 2010/07 税 制 改 革 による 格 差 是 正 策 の 検 討 鈴 木 善 充 ( 財 ) 関 西 社 会 経 済 研 究 所 研 究 員 1

本 稿 の 内 容 は 全 て 執 筆 者 の 責 任 により 執 筆 されたものであり ( 財 ) 関 西 社 会 経 済 研 究 所 の 公 式 見 解 を 示 すものではない 2

1 税 制 改 革 による 格 差 是 正 策 の 検 討 2 鈴 木 善 充 ( 財 ) 関 西 社 会 経 済 研 究 所 研 究 員 要 旨 本 稿 では 鳩 山 政 権 において 検 討 されている 累 進 税 率 表 の 強 化 給 付 付 き 税 額 控 除 の 導 入 などの 格 差 是 正 策 の 必 要 性 について 検 証 をおこなった 本 稿 で 得 られた 結 果 は 以 下 の 通 りである 第 一 に 所 得 税 の 最 高 税 率 を 現 行 から 50%に 上 昇 させるという 税 制 改 革 (ケースⅠ)と 80 代 の 抜 本 的 税 制 改 革 以 前 の 累 進 税 率 表 に 戻 すという 税 制 改 革 (ケースⅡ)をシミュレー ションした シミュレーションの 結 果 から ケースⅠは 現 行 制 度 と 比 較 して 最 高 税 率 が 適 用 される 所 得 階 級 にしか 影 響 がないので 再 分 配 係 数 については 0.002 ポイントの 増 加 に 留 まる ケースⅡでは 所 得 階 層 中 間 層 の 税 収 シェアが 増 すことから 再 分 配 係 数 が 現 行 と 比 較 して 0.01 ポイント 増 加 することがわかった なお 増 収 規 模 はケースⅠが 0.83 兆 円 であ り ケースⅡが 7.21 兆 円 となった 第 二 に アメリカとカナダで 実 施 されている 給 付 付 き 税 額 控 除 を 参 考 にして 日 本 で 導 入 した 場 合 をシミュレーション 分 析 した 我 が 国 でアメリカ 型 ( 子 なし)の 給 付 付 き 税 額 控 除 を 導 入 すると 給 付 に 必 要 な 額 は 約 1,000 億 円 という 試 算 結 果 を 得 た この 所 得 税 改 革 案 は 規 模 としては 極 めて 小 さい 家 計 負 担 や 再 分 配 効 果 は 極 めて 小 さいと 予 測 される 次 にカナダ 型 の 給 付 付 き 税 額 控 除 をシミュレーションした シミュレーション 結 果 によ ると 超 過 減 額 率 5%の 消 費 税 額 控 除 をおこなうと 再 分 配 係 数 がプラス 0.40%となり 消 費 税 増 税 によって 税 収 が 確 保 され 所 得 再 分 配 効 果 が 得 られることがわかった JEL Classification: D31,H24 Keywords: 所 得 税, 消 費 税, 給 付 付 き 税 額 控 除, 所 得 再 分 配 1 本 稿 は,( 財 ) 関 西 社 会 経 済 研 究 所 の 研 究 プロジェクトである 抜 本 的 税 財 政 改 革 研 究 会 での 研 究 報 告 の 一 部 に 加 筆 と 修 正 をおこなったものである 研 究 会 においては, 橋 本 恭 之 教 授 ( 関 西 大 学 ), 日 高 政 浩 教 授 ( 大 阪 学 院 大 学 ), 真 鍋 雅 史 特 任 研 究 員 ( 大 阪 大 学 ), 入 江 啓 彰 研 究 員 ( 関 西 社 会 経 済 研 究 所 ), 武 者 加 苗 研 究 員 ( 関 西 社 会 経 済 研 究 所 )より 多 くの 助 言 とコメントを 頂 いた 記 して 感 謝 したい 2 連 絡 先 :oh-s@kiser.or.jp 3

1. はじめに 2009 年 9 月 に 発 足 した 民 主 党 主 体 の 連 立 政 権 ( 以 下 現 政 権 と 略 称 する)では 格 差 是 正 に 取 り 組 む 姿 勢 をみせている 過 去 の 政 権 である 小 泉 政 権 下 に 実 施 された 規 制 緩 和 によ り 製 造 業 への 労 働 者 派 遣 が 認 められたこと 三 位 一 体 改 革 に 伴 う 交 付 税 削 減 が 地 方 経 済 を 疲 弊 させ 地 方 の 雇 用 環 境 を 悪 化 させたことなどが 格 差 拡 大 の 原 因 だとも 言 われている 3 このような 課 税 前 所 得 格 差 の 拡 大 に 加 えて 所 得 再 分 配 効 果 も 低 下 してきたと 言 われてい る 日 本 では 1986 年 の 抜 本 的 税 制 改 革 以 降 所 得 税 の 累 進 税 率 表 のフラット 化 が 実 施 さ れてきたことに 伴 い 所 得 税 の 再 分 配 効 果 が 低 下 してきたというわけだ 民 主 党 のマニフェストの 詳 細 版 である 政 策 集 INDEX 2009 においては 相 対 的 に 高 所 得 者 に 有 利 な 所 得 控 除 を 整 理 し 税 額 控 除 手 当 給 付 付 き 税 額 控 除 への 切 り 替 えを 行 い 下 への 格 差 拡 大 を 食 い 止 めます とし 4 給 付 付 き 税 額 控 除 については 生 活 保 護 な どの 社 会 保 障 制 度 の 見 直 しと 合 わせて 1 基 礎 控 除 に 替 わり 低 所 得 者 に 対 する 生 活 支 援 を 行 う 給 付 付 き 税 額 控 除 2 消 費 税 の 逆 進 性 緩 和 対 策 として 基 礎 的 な 消 費 支 出 にかかる 消 費 税 相 当 額 を 一 律 に 税 額 控 除 し 控 除 しきれない 部 分 については 給 付 をする 給 付 付 き 消 費 税 額 控 除 3 就 労 への 動 機 付 けのため 就 労 時 間 の 伸 びに 合 わせて 給 付 付 き 税 額 控 除 の 額 を 増 額 させ 就 労 による 収 入 以 上 に 実 収 入 が 大 きく 伸 びる 形 で 就 労 を 促 進 する 給 付 付 き 税 額 控 除 のいずれかの 目 的 若 しくはその 組 み 合 わせの 形 で 導 入 することを 検 討 します としている 5 本 稿 の 目 的 は 現 政 権 において 検 討 されている 累 進 税 率 表 の 強 化 給 付 付 き 税 額 控 除 の 導 入 などの 格 差 是 正 策 が 本 当 に 必 要 かどうかを 検 証 することである 2. 格 差 の 現 状 と 推 移 2.1 所 得 格 差 の 現 状 と 推 移 まず 所 得 格 差 の 現 状 と 推 移 からみていこう 図 1は 国 民 生 活 基 礎 調 査 により 計 測 したジニ 係 数 の 推 移 を 描 いたものである この 図 では 全 世 帯 と 高 齢 者 世 帯 のジニ 係 数 3 ただし 国 民 生 活 基 礎 調 査 ( 平 成 19 年 版 ) によると 小 泉 政 権 が 誕 生 した 2001 年 の 当 初 所 得 におけ るジニ 係 数 は 0.3965 であるのに 対 して 小 泉 内 閣 が 退 陣 した 2006 年 の 当 初 所 得 におけるジニ 係 数 は 0.3981 となっており 小 泉 政 権 下 での 格 差 拡 大 の 度 合 いはそれほど 大 きくない 4 民 主 党 (2009)19 ページ 40 行 目 から 引 用 5 民 主 党 (2009)20 ページ 2 行 目 から 引 用 4

が 描 かれている 6 1985 年 の 全 世 帯 のジニ 係 数 は 0.348 であったのに 対 して 2005 年 のジ ニ 係 数 は 0.397 となっている この 近 年 における 所 得 格 差 拡 大 の 原 因 のひとつ 考 えられる のが 人 口 の 高 齢 化 である 高 齢 者 世 帯 と 全 世 帯 のジニ 係 数 を 比 較 すると 高 齢 者 世 帯 のジ ニ 係 数 のほうが 高 くなっている たとえば 2005 年 については 高 齢 者 世 帯 のジニ 係 数 は 0.438 となっており 全 世 帯 の 0.397 よりも 大 きくなっている 人 口 が 高 齢 化 するにつれて より 所 得 格 差 が 大 きい 高 齢 者 の 比 率 が 高 まることで 全 世 帯 のジニ 係 数 が 上 昇 していくと いうわけだ ただし 高 齢 者 世 帯 のジニ 係 数 は 近 年 低 下 傾 向 が 見 られる たとえば 1995 年 の 高 齢 者 世 帯 のジニ 係 数 は 0.460 であったのに 対 して 2005 年 の 高 齢 者 世 帯 のジニ 係 数 は 0.438 となっている この 低 下 の 原 因 には 高 齢 者 世 帯 の 所 得 に 占 める 年 金 収 入 の 比 率 の 上 昇 などが 考 えられる 0.480 0.460 36% 40% 35% 0.440 29% 30% 0.420 0.400 20% 23% 25% 20% 0.380 16% 0.360 15% 0.340 10% 0.320 5% 0.300 1985 年 1990 年 1995 年 2000 年 2005 年 0% 65 歳 以 上 世 帯 シェア 総 数 65 歳 以 上 出 所 : 厚 生 労 働 省 国 民 生 活 基 礎 調 査 各 年 版 より 作 成 7 図 1 1985 年 から 2005 年 までのジニ 係 数 の 推 移 図 2は 2009 年 10 月 に 厚 生 労 働 省 が 公 表 した 相 対 的 貧 困 率 の 推 移 のグラフである 相 6 高 齢 者 世 帯 とは 65 歳 以 上 の 者 のみで 構 成 するか 又 はこれに 18 歳 未 満 の 未 婚 の 者 が 加 わった 世 帯 とされている 7 1985 年 については 国 民 生 活 基 礎 調 査 の 前 身 である 国 民 生 活 実 態 調 査 を 用 いている 5

対 的 貧 困 率 とは 等 価 可 処 分 所 得 の 中 央 値 の 半 分 に 満 たない 世 帯 人 員 の 割 合 である 8 1997 年 の 貧 困 率 は 13.4%となっているのに 対 して 2006 年 の 貧 困 率 は 15.7%となっており 貧 困 率 が 上 昇 してきたことがわかる さらに 子 どもの 貧 困 率 も 1997 年 の 13.4%から 2006 年 の 14.2%へと 上 昇 している 9 % 16.0 15.5 15.0 15.3 14.9 15.7 14.5 14.6 14.5 14.0 14.2 13.5 13.4 13.7 13.0 12.5 貧 困 率 子 どもの 貧 困 率 12.0 調 査 年 1998 年 2001 年 2004 年 2007 年 ( 調 査 対 象 年 ) (1997 年 ) (2000 年 ) (2003 年 ) (2006 年 ) 出 所 : 厚 生 労 働 省 相 対 的 貧 困 率 の 公 表 について 2009 年 10 月 20 日 より 引 用 図 2 相 対 的 貧 困 率 の 推 移 表 1 既 存 研 究 における 格 差 拡 大 に 関 する 見 解 格 差 の 見 解 主 要 な 研 究 高 齢 化 大 竹 斉 藤 (1999) 大 竹 (2005) 小 塩 (2006) 核 家 族 化 小 塩 (2006) 年 齢 階 層 内 格 差 拡 大 岩 本 (2000) 橘 木 浦 川 (2006) 阿 部 (2006) 白 波 瀬 (2006) 営 業 所 得 者 の 格 差 拡 大 呉 (2009) 非 正 規 労 働 者 の 増 加 太 田 (2005) 内 閣 府 (2009) 8 等 価 可 処 分 所 得 は 可 処 分 所 得 を 世 帯 人 員 の 平 方 根 で 除 したものとされ 可 処 分 所 得 は 社 会 保 障 給 付 を 含 む 所 得 から 所 得 税 住 民 税 社 会 保 険 料 固 定 資 産 税 を 差 し 引 いたものとされている 9 OECD では 17 歳 以 下 の 子 ども 全 体 に 占 める 中 央 値 の 半 分 に 満 たない 子 どもの 割 合 と 定 義 されている 6

このような 近 年 における 格 差 拡 大 の 原 因 について 既 存 研 究 の 見 解 をまとめたものが 表 1 である まず 格 差 拡 大 の 要 因 として 高 齢 化 を 挙 げているものとしては 大 竹 斉 藤 (1999) 大 竹 (2005) 小 塩 (2006)などがある たとえば 大 竹 (2005)は 日 本 の 所 得 格 差 の 変 化 の 特 徴 は 所 得 格 差 拡 大 の 主 要 要 因 は 人 口 高 齢 化 であり 年 齢 内 の 所 得 格 差 の 拡 大 は 小 さい と 述 べている 10 小 塩 (2006)も 1983 年 から 2001 年 にかけての 格 差 拡 大 のうち 人 口 高 齢 化 と 世 帯 規 模 の 変 化 によって 説 明 できる 部 分 は 前 者 50.9%と 後 者 13.9% の 合 計 すなわち 64.8%ということになる と 指 摘 している 11 核 家 族 化 による 単 身 世 帯 の 増 加 がみかけ 上 の 格 差 拡 大 につながっているかを 検 証 したも のとしては 前 述 の 小 塩 (2006)が 存 在 する 小 塩 (2006)は 所 得 再 分 配 調 査 の 個 票 データの 分 析 から 年 齢 階 層 内 の 格 差 拡 大 は 世 帯 規 模 の 縮 小 という 社 会 的 な 要 因 でかな り 説 明 できる なかでも 子 供 世 帯 と 独 立 して 生 活 する 高 齢 世 帯 の 増 加 が 社 会 全 体 の 格 差 拡 大 に 大 きく 貢 献 している と 述 べている 12 岩 本 (2000)は 高 齢 化 による 見 かけ 上 の 不 平 等 拡 大 効 果 について 先 行 研 究 とは 異 なる 結 果 を 提 示 している 岩 本 (2000)によると 年 齢 別 人 口 効 果 は 消 費 所 得 とも 20% 以 下 と 小 さく 年 齢 階 層 内 効 果 が 大 きな 比 重 を 占 めている とし 世 代 内 の 格 差 拡 大 を 指 摘 し ている 13 高 齢 化 による 効 果 は 認 めつつも 年 齢 階 層 内 の 格 差 拡 大 を 問 題 視 しているのが 橘 木 浦 川 (2006)である 橘 木 浦 川 (2006)は 所 得 再 分 配 調 査 の 個 票 データによ って 所 得 上 位 10% 世 帯 の 所 得 と 所 得 下 位 10 % 世 帯 の 所 得 との 比 率 が 1990 年 代 以 降 に 拡 大 し, 特 に 若 年 世 帯 において 格 差 拡 大 が 大 きいとしている 高 齢 者 世 帯 における 所 得 の 比 率 の 格 差 が 拡 大 しているだけでなく 若 年 就 労 世 帯 における 所 得 格 差 拡 大 を 指 摘 している 14 一 方 阿 部 (2006)は 80 年 代 後 半 から 2002 年 にかけての 約 5 ポイントの 貧 困 率 の 上 昇 は 人 口 の 高 齢 化 に 説 明 されるものではなく むしろ この 期 間 の 各 年 齢 層 ( 子 供 壮 年 者 高 齢 者 )の 貧 困 率 の 上 昇 に 起 因 するところが 大 きい と 述 べている 15 白 波 瀬 (2006) も 1990 年 代 に 若 い 世 代 での 年 齢 階 層 内 の 格 差 拡 大 がみられるとして サイズが 縮 小 してい る 若 年 世 帯 主 層 において 経 済 格 差 の 拡 大 が 近 年 大 きい と 述 べている 16 ただし 白 波 瀬 10 11 12 13 14 15 16 大 竹 (2005)35 ページから 引 用 小 塩 (2006)24 ページから 引 用 小 塩 (2006)36 ページから 引 用 岩 本 (2000)89 ページから 引 用 橘 木 浦 川 (2005)235 ページ 参 照 阿 部 (2006)133 ページから 引 用 白 波 瀬 (2006)59 ページから 引 用 7

(2008)は 最 も 所 得 格 差 が 拡 大 し 貧 困 率 が 高 い 20 代 前 半 の 世 帯 主 割 合 は 1980 年 代 半 ばにおいても 4%にも 満 たない 少 数 派 であり 2000 年 になるとその 割 合 はさらに 減 少 して 2% 程 度 になった として 若 年 世 代 の 格 差 拡 大 が 全 体 の 格 差 拡 大 に 与 える 影 響 は 小 さいと も 指 摘 している 17 さらに 高 齢 化 以 外 の 格 差 拡 大 の 原 因 として 営 業 所 得 者 の 格 差 拡 大 を 指 摘 しているのが 呉 (2009)である 呉 (2009)では 営 業 所 得 者 全 体 では,タイル 尺 度 は 0.2189 から 0.5849 へと 167% 拡 大 している しかし, 低 所 得 階 層 においては,ほとんど 変 化 していない 中 所 得 階 層 では 11%であり, 全 体 の 不 平 等 度 の 変 化 率 と 比 較 すれば,その 値 は 小 さい 高 所 得 階 層 の 変 化 率 は,137%となっている また 寄 与 度 についても 2005 年 時 点 では 0.1232 と なっており,1985 年 の 寄 与 度 である 0.013 と 比 較 して 大 きくなっている とされている 18 格 差 拡 大 の 要 因 としての 非 正 規 労 働 者 の 増 加 について 言 及 しているものが 太 田 (2005) 内 閣 府 (2009)である 太 田 (2005)は 雇 用 者 全 体 のジニ 係 数 や 対 数 分 散 等 の 不 平 等 尺 度 の 上 昇 の 多 くは 非 正 規 雇 用 者 構 成 比 の 上 昇 による としている 19 内 閣 府 (2009)は 2002 年 から 2007 年 にかけての 賃 金 格 差 の 拡 大 には 非 正 規 雇 用 者 の 増 加 が 労 働 所 得 の 格 差 拡 大 の 主 因 となっている としている 20 2.2 税 制 の 再 分 配 効 果 の 現 状 と 推 移 以 上 でみてきたような 課 税 前 所 得 の 格 差 拡 大 に 対 して 格 差 是 正 策 として 期 待 されてい るのが 税 社 会 保 障 制 度 による 再 分 配 効 果 である 税 制 の 再 分 配 効 果 についてみるときは 構 造 的 累 進 度 を 測 定 するものと 分 配 累 進 度 を 測 定 するものに 大 別 できる 構 造 的 累 進 度 と は 所 得 税 制 度 自 体 の 持 つ 累 進 度 を 測 定 するものであり 分 配 累 進 度 とは 課 税 前 の 所 得 分 布 と 課 税 後 の 所 得 分 布 を 比 較 することで 税 制 による 再 分 配 効 果 をみようとするものだ 17 18 19 20 白 波 瀬 (2008)43 ページから 引 用 呉 (2009)10 ページから 引 用 太 田 (2005)20 ページ 3 行 目 から 引 用 内 閣 府 (2009)229 ページ 5 行 目 から 引 用 8

表 2 税 制 の 再 分 配 効 果 に 関 する 研 究 分 析 対 象 主 要 な 研 究 構 造 的 累 進 度 の 測 定 藤 田 (1992) 下 野 布 施 (1998) 林 (1997) 中 村 (2005) 分 配 累 進 度 の 測 定 橘 木 八 木 (1994) 深 江 望 月 野 村 (2006) 林 (1995) 呉 (2009) 橋 本 (2009) 表 2は 税 制 の 再 分 配 効 果 に 関 する 先 行 研 究 を 構 造 的 累 進 度 を 測 定 したものと 分 配 累 進 度 を 測 定 したものに 分 類 したものだ 構 造 的 累 進 度 の 指 標 としては Musgrave and Thin(1948)が 定 義 した 平 均 税 率 累 進 性 税 負 担 累 進 性 残 余 所 得 累 進 性 を 利 用 した 研 究 や 租 税 関 数 を 用 いた 研 究 がおこなわれている 藤 田 (1992)は Musgrave and Thin(1948)の 累 進 度 指 標 を 1990 年 と 1980 年 について 比 較 し 税 制 改 革 による 税 率 構 造 と 税 負 担 水 準 の 大 幅 な 変 更 にもかかわらず 中 略 実 効 平 均 税 率 表 の 勾 配 はそれほどフラット 化 し ていない と 述 べている 21 租 税 関 数 を 用 いて 構 造 的 な 累 進 度 を 計 測 したものとしては 下 野 布 施 (1998) 林 (1997) 中 村 (2005)などがある 下 野 布 施 (1998)は 1963 年 ~1995 年 の 家 計 調 査 年 報 の 勤 労 者 標 準 世 帯 における 勤 め 先 収 入 と 勤 労 所 得 税 を 利 用 し 給 与 所 得 に 関 する 租 税 関 数 を 推 計 し 課 税 最 低 限 以 上 の 所 得 階 層 内 でも 所 得 税 が 比 例 税 に 近 いので 再 分 配 効 果 はほとんど 働 かない と 述 べている 22 累 進 度 の 要 因 分 解 をおこなっているものが 林 (1997) 中 村 (2005)である 林 (1997)は 日 本 の 所 得 税 の 弾 力 性 の 決 定 要 因 を 控 除 要 因 と 税 率 構 造 要 因 に 分 解 し わが 国 の 所 得 税 制 度 の 弾 力 性 は 主 として 定 額 の 所 得 控 除 によってほぼその 大 きさが 決 定 されている としている 23 中 村 (2005)は 1989 年 ~99 年 にかけての 日 本 の 給 与 所 得 税 の 累 進 度 の 推 移 を 測 定 し 累 進 度 は 時 系 列 でみて 低 下 しているが それは 控 除 要 因 の 低 下 の 影 響 が 大 きい と 指 摘 してい る 24 以 上 のような 構 造 的 累 進 度 の 測 定 だけでは 本 当 の 意 味 での 再 分 配 効 果 をみることはで きない なぜならば かりに 累 進 度 の 強 化 をめざして 最 高 税 率 を 大 幅 に 引 き 上 げたとして も その 最 高 税 率 が 適 用 される 納 税 者 が 存 在 しないときは その 最 高 税 率 は 事 実 上 再 分 配 効 果 を 持 たないからだ そのため 税 制 の 再 分 配 効 果 を 測 定 するためには 通 常 再 分 21 藤 田 (1992)144 ページから 引 用 22 下 野 布 施 (1998)44 ページから 引 用 下 野 布 施 (1998)は 本 稿 で 言 及 した 租 税 関 数 に 加 えて 課 税 最 低 限 を 考 慮 したタイプも 推 計 している 23 林 (1997)211 ページから 引 用 24 中 村 (2005)112 ページから 引 用 9

配 係 数 を 用 いた 分 配 累 進 度 の 測 定 がおこなわれている 25 橘 木 八 木 (1994)は ジニ 係 数 を 計 測 してみると 税 による 所 得 再 分 配 が 稼 得 所 得 においては 機 能 しているものの 資 産 所 得 まで 含 めた 総 所 得 に 対 しては 機 能 が 大 きく 低 下 している と 述 べている 26 林 (1995)は 所 得 分 配 と 所 得 税 制 の 両 方 の 変 化 を 考 慮 して 所 得 税 の 累 進 度 を 計 測 している 林 (1995)は 60 年 代 から 70 年 代 後 半 にかけて 低 下 80 年 代 には 上 昇 という 傾 向 が 表 れており 1989 年 度 の 税 制 改 革 を 経 た 今 日 では 60 年 代 と 同 程 度 の 累 進 度 になっている と 述 べている 27 深 江 望 月 野 村 (2006)は タイル 係 数 を 用 いて 再 分 配 効 果 の 要 因 分 析 をおこない 申 告 所 得 税 において 高 所 得 階 層 ( 上 )は 2 度 のボトム 効 果 およびジャンピング 効 果 を 有 する 時 期 において 非 常 に 大 きな 変 動 を 伴 っており 全 体 の 再 分 配 効 果 の 変 動 に 対 し 大 きな 影 響 を 与 えている 所 得 階 層 別 の 再 分 配 効 果 における 税 率 効 果 は 税 率 のフラット 化 の 影 響 を 反 映 し 全 体 としては 低 下 傾 向 にあ る また 2 度 のボトム 効 果 は 特 に 高 所 得 階 層 ( 上 )の 税 率 効 果 の 低 下 によってほぼ 説 明 される と 指 摘 している 28 呉 (2009)は 抜 本 的 税 制 改 革 以 降 の 税 制 改 正 による 再 分 配 効 果 への 影 響 を 当 該 年 度 の 所 得 分 布 と 税 制 から 計 測 した 課 税 後 ジニ 係 数 と 抜 本 的 税 制 改 革 前 における 所 得 分 布 に 当 該 年 度 税 制 を 適 用 して 求 めた 課 税 後 ジニ 係 数 を 比 較 するという 手 法 によって 抜 本 的 税 制 改 革 以 降 の 税 制 改 革 による 所 得 再 分 配 効 果 を 分 析 し 抜 本 的 税 制 改 革 以 降 は, 累 進 税 率 の フラット 化 が 進 められたが 税 制 そのものによる 再 分 配 効 果 は 小 さかった と 結 論 付 けてい る 29 橋 本 (2009)は 所 得 者 別 の 再 分 配 効 果 の 計 測 の 結 果 として 小 泉 政 権 下 の 再 分 配 効 果 の 低 下 は 税 制 のフラット 化 によるものでなく 景 気 拡 大 にともなう 株 価 上 昇 など が 分 離 課 税 対 象 の 所 得 の 比 率 を 高 めたことによる 可 能 性 が 高 い と 指 摘 している 30 25 分 配 累 進 度 の 測 定 には 再 分 配 係 数 以 外 にも 様 々な 指 標 が 用 いられている 詳 しくは 藤 田 (1992) を 参 照 されたい 26 橘 木 八 木 (1994)45 ページ 11 行 目 から 引 用 27 林 (1997)36 ページから 引 用 28 深 江 望 月 野 村 (2007)138 ページから 引 用 深 江 望 月 野 村 (2006)では 昭 和 44 年 から 昭 和 50 年 および 昭 和 62 年 から 平 成 3 年 における 所 得 税 の 再 分 配 効 果 が 急 激 な 変 動 を 伴 うとして ボトム 効 果 平 成 11 年 における 所 得 税 の 再 分 配 効 果 は 急 上 昇 するとして ジャンピング 効 果 とそれぞれ 呼 んで いる 29 呉 (2009)20 ページから 引 用 30 橋 本 (2009)19 ページから 引 用 10

3. 累 進 税 率 表 強 化 による 再 分 配 効 果 の 計 測 3.1 累 進 税 率 表 強 化 の 独 自 案 所 得 格 差 の 是 正 の 役 割 を 担 う 所 得 税 制 は 87 年 の 中 曾 根 税 制 改 革 以 降 は 累 進 度 を 弱 める 方 向 に 改 革 が 進 められてきた 89 年 の 竹 下 税 制 改 革 では 消 費 税 導 入 と 同 時 に 所 得 税 の 減 税 が 実 施 された 31 表 3 シミュレーションのケース 別 累 進 税 率 表 現 行 制 度 (2008 年 ) ケースⅠ ケースⅡ(1984 年 当 時 ) 課 税 所 得 区 分 限 界 税 率 課 税 所 得 区 分 限 界 税 率 課 税 所 得 区 分 限 界 税 率 195 万 円 以 下 5% 195 万 円 以 下 5% 60 万 円 以 下 (50 万 円 以 下 ) 10.50% 195 万 円 超 10% 195 万 円 超 10% 60 万 円 超 (50 万 円 超 ) 12% 330 万 円 超 20% 330 万 円 超 20% 140 万 円 超 (120 万 円 超 ) 14% 695 万 円 超 23% 695 万 円 超 23% 230 万 円 超 (200 万 円 超 ) 17% 900 万 円 超 33% 900 万 円 超 33% 350 万 円 超 (300 万 円 超 ) 21% 1800 万 円 超 40% 1800 万 円 超 50% 460 万 円 超 (400 万 円 超 ) 25% 690 万 円 超 (600 万 円 超 ) 30% 920 万 円 超 (800 万 円 超 ) 35% 1150 万 円 超 (1000 万 円 超 ) 40% 1390 万 円 超 (1200 万 円 超 ) 45% 1730 万 円 超 (1500 万 円 超 ) 50% 2310 万 円 超 (2000 万 円 超 ) 55% 3460 万 円 超 (3000 万 円 超 ) 60% 5770 万 円 超 (5000 万 円 超 ) 65% 9240 万 円 超 (8000 万 円 超 ) 70% これに 対 して 近 年 の 格 差 是 正 論 の 高 まりのなかで 累 進 税 率 表 の 見 直 しが 主 張 される ようになってきた 前 政 権 である 麻 生 内 閣 のもとでも 中 期 プログラム において 32 個 人 所 得 課 税 については 格 差 の 是 正 や 所 得 再 分 配 機 能 の 回 復 の 観 点 から 各 種 控 除 や 税 率 構 造 を 見 直 す 最 高 税 率 や 給 与 所 得 控 除 の 上 限 の 調 整 等 により 高 所 得 者 の 税 負 担 を 引 き 上 げるとともに 給 付 付 き 税 額 控 除 の 検 討 を 含 む 歳 出 面 も 合 わせた 総 合 的 取 組 の 中 で 子 育 て 等 に 配 慮 して 中 低 所 得 者 世 帯 の 負 担 の 軽 減 を 検 討 する とされていた 33 民 主 党 も 累 進 税 31 橋 本 大 竹 跡 田 齊 藤 本 間 (1989)ではこれらの 税 制 改 革 が 所 得 再 分 配 にどのような 影 響 をもつ のかを 分 析 している 橋 本 大 竹 跡 田 齊 藤 本 間 (1989)は 所 得 税 の 再 分 配 効 果 は 昭 和 59 年 では 約 4.9%であったが 中 曾 根 改 革 で 若 干 低 下 し 竹 下 改 革 では 約 4.1%に 低 下 する としている (185 ペ ージから 引 用 ) 32 2008 年 12 月 24 日 閣 議 決 定 された 持 続 可 能 な 社 会 保 障 構 築 とその 安 定 財 源 確 保 に 向 けた 中 期 プロ グラム を 指 す 33 中 期 プログラム 4 ページから 引 用 11

率 表 の 見 直 しの 方 向 性 を 検 討 しているといわれている そこで 本 稿 では 累 進 税 率 表 強 化 の 独 自 案 として2ケースを 想 定 し シミュレーション をおこなうこととした ケースⅠは 中 期 プログラム を 意 識 した 最 高 税 率 引 上 げケース であり 限 界 税 率 を 現 行 の 40%から 50%にするものである ケースⅡは 80 年 代 の 抜 本 的 税 制 改 革 以 前 である 1984 年 の 累 進 税 率 表 を 適 用 させた 想 定 である 1984 年 と 現 在 では 物 価 水 準 が 異 なることを 考 慮 し 課 税 所 得 区 分 を 消 費 者 物 価 指 数 によって 調 整 した 34 表 3-3 は 現 行 制 度 (2008 年 )と 課 税 所 得 区 分 を 物 価 調 整 した 税 制 改 革 前 の 税 制 (1984 年 )を 比 較 したものである 3.2 累 進 税 率 表 強 化 による 増 収 額 の 推 計 給 付 付 き 税 額 控 除 を 制 度 設 計 するにあたって 給 付 部 分 の 財 源 はケースⅠやケースⅡ で 賄 うことができるのだろうか 本 節 では 改 革 案 での 増 収 額 を 試 算 することにする 本 稿 では 橋 本 呉 (2008)における 所 得 税 予 測 モデルを 踏 襲 する 橋 本 呉 (2008) のモデルは 税 務 統 計 から 見 た 民 間 給 与 の 実 態 と 申 告 所 得 税 の 実 態 によりミクロレ ベルの 所 得 階 級 別 の 税 負 担 を 計 測 したうえに 納 税 者 数 を 乗 じてマクロレベルに 調 整 するこ とで 税 収 予 測 をおこなうモデルである よって 税 制 改 革 による 影 響 をミクロレベルからマ クロレベルにいたるまで 精 緻 にとらえることができる 以 下 ではシミュレーションの 方 法 について 述 べることにする かりに 日 本 におけるすべての 納 税 者 について 所 得 等 のデータが 公 表 されているなら ば 税 法 にしたがって 計 算 すれば 正 確 な 税 収 額 を 推 計 することが 可 能 である しかし 残 念 ながら 日 本 では 税 務 統 計 の 個 票 データは 公 開 されていない そこで 本 稿 では 国 税 庁 の 2007 年 の 税 務 統 計 から 見 た 申 告 所 得 税 の 実 態 および 税 務 統 計 から 見 た 民 間 給 与 の 実 態 に 掲 載 されているデータを 使 用 した 税 務 統 計 から 見 た 民 間 給 与 の 実 態 のデータ は 源 泉 所 得 税 税 収 の 給 与 分 の 税 収 予 測 に 利 用 し 税 務 統 計 から 見 た 申 告 所 得 税 の 実 態 に 掲 載 されているデータは 申 告 所 得 税 収 のうち 譲 渡 所 得 税 利 子 配 当 所 得 税 などの 分 離 課 税 分 の 税 収 を 除 いた 部 分 の 税 収 予 測 に 利 用 する この 統 計 書 には 所 得 階 級 別 の 所 得 金 額 各 種 所 得 控 除 金 額 人 員 等 が 掲 載 されている 35 所 得 税 収 の 推 計 の 具 体 的 な 手 順 は 34 物 価 調 整 には 1984 年 基 準 の 消 費 者 物 価 指 数 ( 総 合 )を 用 いた 所 得 区 分 の 値 に 端 数 が 出 る 場 合 には 万 円 単 位 を 切 り 捨 てしている 35 税 額 の 計 算 においては 基 礎 控 除 配 偶 者 控 除 扶 養 控 除 だけでなく 老 年 者 控 除 老 年 寡 婦 控 除 12

以 下 の 通 りである ステップ 1 2007 年 度 の 所 得 階 級 別 の 平 均 所 得 に 税 法 を 適 用 し 階 級 別 平 均 税 額 を 計 算 36 ステップ 2 階 級 別 平 均 税 額 に 人 員 を 乗 じて 階 級 別 税 収 額 を 推 計 ステップ 3 階 級 別 税 収 額 を 合 計 し 2007 年 度 のモデル 上 の 税 収 額 を 推 計 ステップ 4 モデル 上 の 税 収 額 と 現 実 の 税 収 額 から 調 整 係 数 を 算 出 ステップ 5 2009 年 の 所 得 分 布 を 一 定 の 経 済 想 定 にもとづき 推 計 ステップ 6 2009 年 の 所 得 分 布 に 税 法 を 適 用 し モデル 上 の 税 収 を 算 出 し 調 整 係 数 を 用 いて 調 整 ステップ 5 の 経 済 想 定 の 人 口 成 長 率 には 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 による 生 産 年 齢 人 口 の 予 測 値 を 使 用 した 2009 年 の 実 質 賃 金 上 昇 率 と 物 価 の 値 は 関 西 社 会 経 済 研 究 所 (2009 年 2 月 24 日 発 表 )の 予 測 値 を 用 いた 本 稿 におけるシミュレーションモデルの 精 度 を 確 認 するために 扶 養 控 除 廃 止 による 増 収 額 を 試 算 してみよう 扶 養 控 除 廃 止 は 民 主 党 が 2009 年 総 選 挙 時 にマニフェストで 子 ども 手 当 の 財 源 の 一 部 として 取 り 上 げた 経 緯 がある 新 政 権 となって 新 しい 陣 容 になった 政 府 税 制 調 査 会 資 料 では 扶 養 控 除 廃 止 による 増 収 額 を 試 算 している 表 4は 本 稿 のシミュレ ーションモデルでの 税 収 試 算 と 自 民 党 による 税 収 試 算 の 結 果 を 比 較 したものである 結 果 をみると 本 稿 の 試 算 と 政 府 税 制 調 査 会 資 料 の 試 算 はほぼ 同 じ 値 となっている 37 表 4 政 府 試 算 と 独 自 試 算 の 税 収 変 化 額 扶 養 控 除 廃 止 税 調 資 料 独 自 試 算 0.8 兆 円 増 収 1.0 兆 円 増 収 表 4はシミュレーションモデルによるケースとケースにおける 増 収 額 を 推 計 した 結 障 害 者 控 除 など 税 務 統 計 に 記 載 されている 所 得 控 除 の 情 報 をすべて 利 用 した 36 税 務 統 計 には 特 別 障 害 者 控 除 額 障 害 者 控 除 額 老 年 者 控 除 額 特 定 寡 婦 控 除 額 などの 利 用 人 数 が 階 級 別 に 記 載 されている 階 級 別 の 利 用 人 数 を 階 級 毎 の 人 員 で 割 ることでこれらの 所 得 控 除 の 利 用 率 がわ かる 税 額 の 計 算 の 際 には 税 法 で 規 定 されている 各 種 控 除 額 に 利 用 率 を 計 算 して 階 級 毎 の 平 均 的 な 税 額 を 求 めた 37 政 府 税 制 調 査 会 資 料 (2009 年 10 月 27 日 )( 所 得 課 税 )16 ページ 参 照 13

果 である ケースは 最 高 税 率 を 変 更 するだけなので 税 率 適 用 者 が 少 ないために 増 収 規 模 は 0.83 兆 円 程 度 となる ケースⅡは 累 進 税 率 表 がフラット 化 以 前 の 水 準 に 戻 るために 増 収 額 は 7.21 兆 円 と 大 きくなる 表 5 シミュレーションによるマクロ 税 収 と 増 収 額 現 行 税 制 ケースⅠ ケースⅡ 税 収 税 収 増 収 額 税 収 増 収 額 11.87 兆 円 12.70 兆 円 0.83 兆 円 19.08 兆 円 7.21 兆 円 3.3 独 自 案 による 負 担 の 変 化 350 300 税 負 担 額 j ( ~ 万 i 円 z ) S ナ 250 200 150 100 現 行 ケースⅠ ケースⅡ 50 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1500 2000 (81) (144) (247) (343) (438) (537) (633) (731) (829) (927) (1155) (1664) 所 得 階 級 ( 単 位 : 万 円 ) ( 平 均 ) 出 所 : 国 税 庁 税 務 統 計 から 見 た 民 間 給 与 の 実 態 ( 平 成 19 年 ) より 作 成 図 3 所 得 階 級 別 の 税 負 担 額 ( 単 位 : 万 円 ) それでは 独 自 案 による 家 計 の 税 負 担 の 変 化 についてもシミュレーションしてみよう 図 3は ケースⅠ Ⅱでの 所 得 階 級 別 の 税 負 担 額 を 現 行 税 制 のもとでの 負 担 と 比 較 したも のである ケースⅠでは 源 泉 分 における 最 高 所 得 階 級 にしか 変 化 がない ケースⅡでは 第 1 階 級 を 除 いて 各 所 得 階 級 において 税 負 担 額 が 増 加 する 14

30% 25% 20% 15% 10% ケースⅡ 5% ケースⅠ 0% 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1500 2000 (81) (144) (247) (343) (438) (537) (633) (731) (829) (927) (1155) (1664) 所 得 階 級 ( 単 位 : 万 円 ) ( 平 均 ) 出 所 : 国 税 庁 税 務 統 計 から 見 た 民 間 給 与 の 実 態 ( 平 成 19 年 ) より 作 成 図 4 所 得 階 級 別 の 税 収 シェア 次 に 所 得 階 級 別 の 税 収 シェアがどのようになるかをみたものが 図 1である この 図 で は ケースⅠは 最 高 税 率 を 40%から 50%に 引 き 上 げたケースで 各 所 得 階 層 が 階 層 全 体 で 負 担 する 中 での 税 収 シェアを ケースは 抜 本 税 制 改 革 前 の 税 率 表 にしたケースで 各 所 得 階 層 が 階 層 全 体 で 負 担 する 中 での 税 収 シェアを 示 している 図 3に 所 得 分 布 を 乗 じて 各 階 層 の 税 収 を 出 し それを 各 所 得 階 層 の 税 収 を 足 し 合 わせた 値 で 割 ったものである ケース ⅠとケースⅡを 比 較 すると 800 万 円 以 上 の 所 得 階 層 では 個 人 レベルではケースⅠよりもケ ースⅡの 方 が 税 負 担 額 は 高 くなるが 税 収 シェアでは 逆 転 する これは 所 得 分 布 が 集 中 す る 低 所 得 者 層 から 中 所 得 者 層 においてケースⅡによる 増 税 額 が 多 いためである 図 4に 示 されている 12 所 得 階 級 を 100 万 円 未 満 階 層 から 400 万 円 未 満 階 層 までを 低 所 得 階 層 500 万 円 未 満 階 層 から 800 万 円 未 満 階 層 までを 中 所 得 階 層 900 万 円 未 満 階 層 から 2,000 万 円 以 上 階 層 までを 高 所 得 階 層 と 所 得 階 層 を 3 つにわけよう 低 所 得 階 層 では 第 1 階 級 を 除 いて 税 負 担 が 110%から 127% 増 加 することになる 中 所 得 階 層 では 第 5 階 級 が 最 も 税 負 担 が 増 加 し 142% 増 加 することになる 高 所 得 階 層 では 税 負 担 増 加 率 は 46%から 15

23% 程 度 におさまることになる 表 6 現 行 と 改 革 ケースの 再 分 配 効 果 の 比 較 現 行 ケースⅠ ケースⅡ ジニ 係 数 0.327 0.326 0.323 再 分 配 係 数 0.038 0.040 0.048 表 6は 現 行 制 度 とシミュレーションケースで 再 分 配 効 果 をジニ 係 数 の 変 化 率 によって 比 較 した 結 果 である ケースⅠは 現 行 制 度 と 比 較 して 最 高 税 率 が 適 用 される 所 得 階 級 にし か 影 響 がないので 再 分 配 係 数 については 0.002 ポイントの 増 加 に 留 まっている 一 方 でケ ースⅡではすべての 所 得 階 級 において 増 税 となる また 所 得 階 層 中 間 層 の 税 収 シェアが 増 すことになっていることから 再 分 配 係 数 が 現 行 と 比 較 して 0.01 ポイント 増 加 することに なる ケースⅡをシミュレーションした 結 果 から 1980 年 代 に 行 われた 累 進 税 率 表 フラット 化 への 潮 流 が 始 まる 以 前 の 水 準 である 抜 本 的 税 制 改 革 以 前 に 戻 すことで 所 得 税 収 が 7.21 兆 円 の 増 収 が 予 測 され 一 般 的 なサラリーマン 給 与 所 得 者 内 における 所 得 再 分 配 係 数 は 現 行 より 0.01 ポイント 増 加 することがわかった 16

3.4 給 付 付 き 税 額 控 除 の 検 討 表 7 給 付 付 き 税 額 控 除 への 見 解 見 解 政 府 ( 自 民 党 ) 38 給 付 付 き 税 額 控 除 の 検 討 を 含 む 歳 出 面 も 合 わせた 総 合 的 取 組 の 中 で 子 育 て 等 に 配 慮 して 中 低 所 得 者 世 帯 の 軽 減 を 検 討 39 政 府 税 調 社 会 保 障 政 策 の 観 点 から 既 存 の 給 付 や 低 所 得 対 策 との 関 係 を 踏 まえての 整 理 が 必 要 ミーンズテストや 財 源 確 保 の 議 論 外 国 事 例 を 参 考 にして 検 討 を 継 続 40 自 民 党 給 付 付 き 税 額 控 除 の 検 討 を 含 む 総 合 的 取 り 組 みの 中 で 中 低 所 得 者 世 帯 の 負 担 軽 減 を 検 討 41 民 主 党 所 得 再 分 配 機 能 を 高 めるために 所 得 控 除 を 税 額 控 除 化 + 給 付 付 き 税 額 控 除 給 付 額 は 社 会 保 険 料 負 担 額 の 範 囲 内 表 7は 給 付 付 き 税 額 控 除 についての 自 民 党 民 主 党 政 府 税 調 前 政 権 下 での 政 府 見 解 をまとめたものである 給 付 付 き 税 額 控 除 には 森 信 (2008a)に 従 えば 1 勤 労 税 額 控 除 2 児 童 税 額 控 除 3 社 会 保 険 料 負 担 軽 減 税 額 控 除 4 消 費 税 逆 進 性 対 策 税 額 控 除 の 4 類 型 が 存 在 している 42 自 民 党 民 主 党 政 府 で 言 及 されている 給 付 付 き 税 額 控 除 は この 4 類 型 のいずれかにあてはまる 民 主 党 のアクションプログラムは 4 類 型 すべてに 言 及 して いるし 自 民 党 の 税 制 改 正 大 綱 では 格 差 是 正 策 としての1を 中 期 プログラム では1お よび 子 育 て 支 援 としての2を 検 討 対 象 としているものと 推 測 される 38 持 続 可 能 な 社 会 保 障 構 築 とその 安 定 財 源 確 保 に 向 けた 中 期 プログラム (2008 年 12 月 24 日 閣 議 決 定 )より 参 照 39 政 府 税 制 調 査 会 (2007) 抜 本 的 な 税 制 改 正 に 向 けた 基 本 的 考 え 方 より 参 照 40 自 民 党 税 制 改 正 大 綱 (2008 年 12 月 12 日 )より 参 照 41 民 主 党 税 制 抜 本 改 革 アクションプログラム(2008 年 12 月 24 日 )より 参 照 42 消 費 税 逆 進 性 対 策 税 額 控 除 を 以 下 では 消 費 税 額 控 除 とする 17

表 8 日 本 の 主 な 給 付 付 き 税 額 控 除 の 提 言 方 式 目 的 特 徴 田 近 八 塩 (2007) 給 付 付 き 税 額 控 除 格 差 是 正 基 礎 配 偶 者 扶 養 控 除 廃 止 国 民 1 人 あたり 一 律 の 税 額 控 除 森 信 (2009) 給 付 付 き 税 額 控 除 格 差 是 正 世 帯 収 入 100 万 円 から 350 万 円 の 勤 労 者 世 帯 に 30 万 円 の 税 額 控 除 税 額 控 除 の 方 が 所 得 税 + 住 民 税 + 社 会 保 険 料 より 多 い 場 合 は 超 過 分 を 給 付 世 帯 所 得 300 万 円 を 超 えて 徐 々に 控 除 額 を 減 らして 350 万 円 で 消 滅 させる 森 信 (2009) 森 信 (2008b) 児 童 税 額 控 除 子 育 て 支 援 課 税 所 得 200 万 円 以 下 で 23 歳 未 満 の 扶 養 親 族 を 持 つ 納 税 者 に 扶 養 親 族 1 人 当 たり 5 万 円 の 税 額 控 除 43 扶 養 配 偶 者 控 除 縮 小 課 税 所 得 200 万 円 以 下 の 世 帯 子 ども 1 人 あたり 5 万 円 の 税 額 控 除 表 8は 日 本 において 給 付 付 き 税 額 控 除 を 導 入 する 際 の 制 度 設 計 をまとめたものである 田 近 八 塩 (2007)は 格 差 是 正 を 目 的 として 給 付 付 き 税 額 控 除 の 活 用 を 提 言 している 具 体 的 な 制 度 設 計 として 田 近 八 塩 (2007)は 税 収 中 立 を 図 るため 基 礎 配 偶 者 扶 養 控 除 は 全 廃 し 国 民 1 人 当 たり 一 律 の 税 額 控 除 を 導 入 するとしている 森 信 (2008b)は 給 付 付 きの 児 童 税 額 控 除 の 導 入 を 提 言 している 主 な 目 的 は 子 育 て 世 帯 の 経 済 支 援 であり 所 得 格 差 是 正 にも 役 立 つとしている その 特 徴 は 税 収 中 立 型 の 税 制 改 革 として 扶 養 控 除 配 偶 者 控 除 を 縮 小 し 課 税 所 得 200 万 円 以 下 の 世 帯 に 子 ど も 1 人 あたり 5 万 円 の 税 額 控 除 を 導 入 する 点 である 森 信 (2008b)は 給 付 財 源 として 扶 養 控 除 配 偶 者 控 除 をそれぞれ 10 万 円 縮 減 によって 扶 養 控 除 の 縮 減 で 4,500 億 円 配 偶 者 控 除 の 縮 減 で 2,000 億 円 となるので それによって 給 付 付 きの 税 額 控 除 をおこなう 43 妻 子 2 人 で 給 与 所 得 600 万 円 強 を 想 定 している 18

としている 44 表 9 諸 外 国 の 事 例 国 アメリカ 韓 国 カナダ オランダ イギリス ニュージー ランド 名 称 と 目 的 仕 組 み EITC(Earned Tax Credit) 勤 労 所 得 が 低 い 層 が 対 象 子 ども 勤 労 税 額 控 除 の 数 と 所 得 に 応 じて 給 付 あるいは 1975 年 に 導 入 貧 困 問 題 の 存 在 最 低 賃 金 フルタイム 労 働 税 額 控 除 が 決 定 で 課 税 最 低 限 所 得 が 貧 困 ラインを 超 えるという 目 標 勤 労 奨 励 金 勤 労 税 額 控 除 アメリカと 類 似 しているが 子 ど もの 数 に 依 存 しない 2009 年 から 支 給 開 始 ワーキング プア 増 加 所 得 格 差 拡 大 GST 控 除 (Goods and Services Tax Credit) 申 告 所 得 と 世 帯 人 員 に 応 じて 税 が 消 費 税 額 控 除 還 付 される 所 得 制 限 が 設 定 され 1991 年 に 導 入 基 礎 的 消 費 部 分 の 消 費 税 負 担 額 を 還 付 ている 消 費 税 負 担 の 逆 進 性 緩 和 Labour Income Tax Credit(LITC) 勤 労 所 得 税 額 控 除 2001 年 の 基 礎 扶 養 控 除 を 税 額 控 除 化 した 上 で 31.7%の 社 会 保 障 税 + 所 得 税 の 一 括 徴 収 化 への 負 担 増 加 緩 和 社 会 保 険 料 の 軽 減 Working Tax Credit(WTC) 勤 労 税 額 控 除 子 育 て 支 援 と 子 どもをもつ 親 の 勤 労 促 進 として 開 始 子 どもなしの 低 所 得 世 帯 障 害 者 への 給 付 を 拡 大 WFFTC(Working for Families Tax Credits) 4つの 制 度 で 構 成 される 1Family tax credit 2In-work tax tax credit 3Minimum tax credit 4Parental tax credit 課 税 ベースが 広 い 付 加 価 値 税 の 逆 進 性 を 所 得 税 額 控 除 で 緩 和 勤 労 所 得 があれば 控 除 可 能 と なっている 個 人 単 位 で 控 除 され ている 一 定 の 就 労 時 間 ( 週 16 時 間 )を 条 件 に 給 付 される また 一 定 の 就 労 時 間 ( 週 3 時 間 )を 超 えると 給 付 額 が 加 算 される 家 族 を 有 していたり 障 害 者 家 族 に 対 する 追 加 額 あり 4つの 構 成 要 素 の 中 の1つに 適 用 されるか1つ 以 上 に 適 用 されるか は 個 人 の 状 況 ( 子 どもの 数 と 年 齢 ) に 依 存 する 表 9は 諸 外 国 における 給 付 付 き 税 額 控 除 の 事 例 をまとめたものである 森 信 (2008a) の 分 類 の 第 1 類 型 である 勤 労 税 額 控 除 を 実 施 している 国 は アメリカ イギリス 韓 国 ニュージーランドであり 第 2 類 型 の 児 童 税 額 控 除 を 実 施 している 国 がイギリス 第 3 類 型 の 社 会 保 険 料 負 担 軽 減 税 額 控 除 を 実 施 しているのがオランダ 45 第 4 類 型 の 消 費 税 逆 進 性 対 策 税 額 控 除 を 実 施 しているのがカナダである 44 森 信 (2008b)48 ページから 引 用 45 オランダの 制 度 は 厳 密 には 給 付 ではない 19

表 10 アメリカ イギリスにおける 実 証 研 究 (1) 対 象 国 研 究 労 働 供 給 への 効 果 アメリカ Eissa and Liebman(1996) 86 年 の EITC 拡 張 によって 子 どもがいるシン グルマザーの 労 働 供 給 が 2.8% 増 加 した 46 アメリカ Eissa and Hoynes(2006) 労 働 時 間 より 労 働 インセンティブに 効 果 あ り アメリカ Hotz, Mullin and Scholz(2005) 2 人 以 上 の 子 どもがいる 世 帯 の 労 働 供 給 をよ り 促 進 させた 91 年 から 00 年 にかけて 子 ども がいる 世 帯 の 労 働 供 給 を 11.8%ポイント 促 進 させた アメリカ Chetty and Saez(2009) 制 度 の 複 雑 さを 指 摘 2 分 から 3 分 の 制 度 説 明 情 報 の 追 加 で 低 所 得 者 層 の 労 働 供 給 がより 促 進 される イギリス Brewer(2007) 99 年 から 02 年 にかけて 22,000 人 の 雇 用 が 増 加 イギリス Mulherin and Pisani(2008) 制 度 適 用 者 の 雇 用 を 2.4%ポイント 引 上 げた 給 付 付 き 税 額 控 除 は Friedman(1962)における 負 の 所 得 税 (Negative Income Tax) と 最 低 所 得 保 障 (Guaranteed Income) を 起 源 としている 負 の 所 得 税 とは 勤 労 意 欲 を 阻 害 することなく 所 得 再 分 配 を 行 うようにする 制 度 設 計 を 目 指 すものだ 47 表 10 はアメリ カとイギリスについて 給 付 付 き 税 額 控 除 が 労 働 供 給 にどのような 影 響 をもたらしているの かをまとめたものである これまでの 実 証 研 究 によれば アメリカとイギリスでは 給 付 付 き 税 額 控 除 は 労 働 供 給 に 対 して 正 の 影 響 を 与 えていることがうかがえる アメリカにお ける 不 正 受 給 の 多 さを 指 摘 する 意 見 が 散 見 されるが Chetty and Saez(2009)は 制 度 の 困 難 さ が 結 果 として 不 正 受 給 につながっていると 指 摘 している 日 本 に 導 入 する 際 には 制 度 の 簡 素 化 と 政 府 当 局 が 国 民 の 所 得 状 況 を 把 握 する 社 会 的 基 盤 が 必 要 とされよう 46 EITC は Earned Income Tax Credit の 略 であり 日 本 語 では 勤 労 所 得 税 額 控 除 と 訳 される 47 負 の 所 得 税 の 理 論 的 な 説 明 については 八 田 (2009)484 ページを 参 照 されたい 20

表 11 アメリカ イギリスにおける 実 証 研 究 (2) 対 象 国 研 究 所 得 再 分 配 への 効 果 アメリカ Liebman(1998) EITC によって 子 どもの 貧 困 が 減 少 EITC の 拡 大 によって 所 得 分 配 状 況 が 改 善 イギリス Dilnot and McCrae(1999) WFTC によって 所 得 階 級 十 分 位 の 第 Ⅱ 分 位 階 層 か ら 第 Ⅷ 分 位 階 層 まで 可 処 分 所 得 が 増 加 している 再 分 配 効 果 が 大 きい アメリカ Eissa and Hoynes(2008) 84 年 から 04 年 にかけてアメリカ EITC の 恩 恵 は 所 得 階 層 上 位 にまで 移 動 表 11 は 給 付 付 き 税 額 控 除 がアメリカとイギリスの 所 得 再 分 配 に 対 する 影 響 を 実 証 分 析 した 研 究 結 果 をまとめたものである Liebman(1998)による 研 究 は 最 近 になって 日 本 におい ても 子 どもの 貧 困 率 の 高 まりが 注 目 されている 中 で 示 唆 に 富 んでいる Liebman(1998)によ れば 96 年 のアメリカにおける EITC は 96 年 における 子 どもの 貧 困 を 22.3%から 19.1%へ 減 少 させており 76 年 から 98 年 にかけて EITC は 拡 大 したが これによって 男 性 フルタイ ム 労 働 者 や 子 どもがいる 世 帯 の 所 得 分 配 状 況 が 改 善 しているとしている Dilnot and McCrae(1999)によれば 所 得 階 級 十 分 位 の 第 Ⅱ 分 位 階 層 がイギリス WFTC によってもっと も 可 処 分 所 得 が 増 加 し これは 第 Ⅷ 分 位 まで 続 いていることから WFTC による 所 得 再 分 配 効 果 は 大 きいとしている 48 Eissa and Hoynes(2008) は 84 年 から 04 年 にかけてアメリカ EITC の 恩 恵 は 所 得 階 級 十 分 位 の 最 低 分 位 から 第 Ⅳ 分 位 に 移 動 しているとしている 3.5 給 付 付 き 税 額 控 除 導 入 のシミュレーション 本 節 では 日 本 において 給 付 付 き 税 額 控 除 が 導 入 された 場 合 にどの 程 度 の 給 付 額 が 必 要 なのか あるいは 所 得 階 級 別 にどのような 負 担 額 にどのような 影 響 をもたらすのかについ て 各 種 所 得 と 消 費 のデータを 用 いたシミュレーション 分 析 を 行 う 本 稿 でシミュレーションに 用 いる 給 付 付 き 税 額 控 除 の 制 度 設 計 は 主 に 2 種 類 である ひ とつはアメリカ 型 の 給 付 付 き 勤 労 税 額 控 除 (EITC)である いまひとつはカナダ 型 の 給 付 付 き 消 費 税 額 控 除 (GST 控 除 )である それぞれの 概 念 図 を 図 5と 図 6に 示 している 48 WFTC は Working Family Tax Credit の 略 であり 日 本 語 では 勤 労 家 族 税 額 控 除 と 訳 される 21

49 図 5 アメリカ 型 給 付 付 き 勤 労 税 額 控 除 制 度 の 概 念 図 図 6 カナダ 型 給 付 付 き 消 費 税 額 控 除 制 度 の 概 念 図 3.5.1 勤 労 税 額 控 除 シミュレーション 本 稿 では 日 本 の 制 度 設 計 として アメリカで 行 われている 制 度 を 参 考 とする 制 度 の 目 的 はワーキング プア 対 策 と 所 得 格 差 是 正 である 現 政 権 では 子 ども 手 当 が 支 給 される ことが 決 定 しているので 子 どもの 数 によって 控 除 額 の 変 動 を 考 慮 しないことにした す なわちアメリカでおこなわれている EITC の 単 身 者 子 どもなしのケースを 世 帯 人 員 に 関 係 なく 適 用 させることにした 49 2009 年 からは 3 人 以 上 が 追 加 されている 22

50 表 12 シミュレーションの 制 度 設 計 勤 労 所 得 控 除 額 段 階 控 除 額 ( 控 除 率 ) 56 万 円 まで 上 昇 7.67% 56 万 円 から 70 万 円 まで 一 定 4.3 万 円 70 万 円 から 125.9 万 円 まで 減 少 4.3 万 円 -7.69% ( 勤 労 所 得 -70 万 円 ) この 給 付 付 き 勤 労 税 額 控 除 の 要 対 応 額 は 国 民 生 活 基 礎 調 査 ( 平 成 16 年 ) 世 帯 人 員 別 所 得 分 布 のデータを 基 礎 として 計 算 すると 約 1,000 億 円 と 試 算 される 51 1,000 億 円 の 財 源 を 捻 出 するために 所 得 税 を 改 正 するとしよう 本 稿 の 3.2 節 で 用 いた 橋 本 呉 (2008) の 税 収 予 測 モデルによると 約 1,000 億 円 の 増 収 を 達 成 できる 改 革 案 は 表 13 のようにな ることがわかった すなわち 最 高 税 率 を 現 行 の 40%から 45%に 上 げることで 所 得 税 収 は 約 1,000 億 円 の 増 収 となるわけだ 約 1,000 億 円 程 度 の 所 得 税 改 革 案 は 規 模 としては 極 めて 小 さい 家 計 負 担 や 再 分 配 効 果 は 極 めて 小 さいと 予 測 されることから 本 稿 では 給 付 付 き 税 額 控 除 への 対 応 額 の 算 出 と 所 得 税 改 革 案 を 提 供 するだけにとどめておく 表 13 1,000 億 円 増 収 への 所 得 税 改 革 現 行 制 度 改 革 案 課 税 所 得 限 界 税 率 課 税 所 得 限 界 税 率 195 万 円 以 下 5% 195 万 円 以 下 5% 330 万 円 以 下 10% 330 万 円 以 下 10% 695 万 円 以 下 20% 695 万 円 以 下 20% 900 万 円 以 下 23% 900 万 円 以 下 23% 1,800 万 円 以 下 33% 1,800 万 円 以 下 33% 1,800 万 円 超 40% 1,800 万 円 超 45% 50 白 石 高 山 川 島 (2009)と 同 じ 想 定 である 白 石 高 山 川 島 (2009)はアメリカの EITC 制 度 を 日 本 に 適 用 させたケースを 国 民 生 活 基 礎 調 査 の 個 票 データを 用 いてマイクロシミュレーションを 行 って いる その 際 彼 らは 1 ドルを 100 円 の 想 定 で 分 析 している 51 国 民 生 活 基 礎 調 査 における 単 身 者 世 帯 の 所 得 分 布 に 制 度 を 適 用 させ 2005 年 ( 平 成 17 年 ) 国 勢 調 査 における 総 世 帯 数 に 合 わせることによって 対 応 額 を 算 出 した 23

3.5.2 消 費 税 額 控 除 シミュレーション 本 稿 では 消 費 税 額 控 除 の 制 度 設 計 としてカナダで 実 施 されている GST 控 除 を 参 考 とす る 制 度 設 計 の 目 的 は 消 費 税 の 逆 進 性 緩 和 である GST 控 除 額 の 算 定 方 法 としては 世 帯 所 得 270 万 円 を 所 得 制 限 とし 52 270 万 円 超 の 部 分 は 減 額 率 ( 超 過 減 額 率 )を 5%ないし 10% を 想 定 する 橋 本 (2009)における 世 帯 人 員 に 対 応 させた 基 礎 的 消 費 支 出 に 消 費 税 の 実 効 税 率 を 乗 じた 額 を 税 額 還 付 額 とした 本 稿 で 想 定 した 制 度 設 計 は 表 14 にまとめている 表 14 消 費 税 額 控 除 の 計 算 設 定 世 帯 類 型 基 礎 的 54 税 額 還 付 額 53 消 費 支 出 消 費 税 率 5%ケース 消 費 税 率 10%ケース 単 身 100 万 円 4.76 万 円 9.09 万 円 世 帯 人 員 1 人 につき 50 万 円 2.38 万 円 4.55 万 円 本 稿 の 制 度 設 計 に 従 って 世 帯 人 員 3 人 で 世 帯 所 得 450 万 円 消 費 税 率 5% 超 過 減 額 率 5%ケースの 税 額 還 付 額 は 以 下 のように 計 算 される 4.76 + = 4.76 = 0.52万 円 ( 世 帯 人 員 1) 2.38 ( 世 帯 所 得 270 万 円 ) + ( 3 1) 2.38 ( 450 万 円 270 万 円 ) 5% 超 過 減 額 率 上 記 の 計 算 式 で 算 出 される 値 がゼロになる 世 帯 所 得 にまで 税 額 が 還 付 されることにな る たとえば 夫 婦 子 1 人 のケース( 超 過 減 額 率 5%)では 世 帯 所 得 が 460.4 万 円 になると 減 額 がストップする 所 得 制 限 が 固 定 化 されている 場 合 超 過 減 額 率 が 大 きければ 還 付 される 世 帯 の 還 付 額 は 大 きくなるが 還 付 される 対 象 上 限 の 世 帯 所 得 が 小 さくなる 52 2009 年 における 地 方 税 制 度 における 個 人 住 民 税 の 夫 婦 子 2 人 の 課 税 最 低 限 (270 万 円 )を 参 考 とした 53 基 礎 的 消 費 支 出 については 橋 本 (2009)の 想 定 にしたがっている 54 100 万 円 50 万 円 に 消 費 税 の 実 効 税 率 ( 税 率 /(1+ 税 率 ))を 乗 じて 算 出 している 24

表 15 制 度 設 計 と 目 的 制 度 設 計 消 費 税 率 10%+ 超 過 減 額 率 5% 消 費 税 率 10%+ 超 過 減 額 率 10% 目 的 財 源 確 保 と 逆 進 性 緩 和 ( 増 税 型 ) 財 源 確 保 と 逆 進 性 緩 和 ( 増 税 型 ) 本 稿 がシミュレーションするケースの 制 度 設 計 と 制 度 がもつ 目 的 を 表 15 にまとめてい る 本 稿 は 今 後 の 消 費 税 率 の 上 昇 を 見 据 えた 場 合 に 逆 進 性 の 緩 和 を 目 的 とした 制 度 設 計 を 念 頭 においている シミュレーションを 行 うにあたっての 基 礎 データは 全 国 消 費 実 態 調 査 ( 平 成 16 年 ) である 55 全 国 消 費 実 態 調 査 には 年 間 収 入 階 級 別 の 平 均 世 帯 人 員 平 均 年 間 収 入 とその 世 帯 分 布 およびその 平 均 消 費 支 出 額 が 掲 載 されている これらのデータを 用 いて 基 礎 デー タ 上 での 改 革 しないケースでのモデル 消 費 税 収 が 計 算 される 56 モデル 消 費 税 収 と 実 際 の 消 費 税 収 (2004 年 度 ( 平 成 16 年 度 ) 決 算 額 12.6 兆 円 )と 合 わせるために 調 整 値 を 計 算 す る 57 シミュレーション 結 果 はモデル 上 で 表 15 にある 制 度 設 計 をシミュレーションし モデル 税 収 に 調 整 値 を 乗 じることによって 算 出 している シミュレーションの 結 果 まず 消 費 税 率 を 10%にした 場 合 の 増 収 額 は 11.5 兆 円 という 試 算 結 果 が 得 られた 表 3-15 にしたがって 消 費 税 額 控 除 への 対 応 額 と 純 増 収 額 を 試 算 した 結 果 を 表 16 に 示 した 表 16 消 費 税 額 控 除 導 入 による 要 対 応 額 と 純 増 収 額 制 度 設 計 要 対 応 額 純 増 収 額 税 率 10%+ 超 過 減 額 率 5% 税 率 10%+ 超 過 減 額 率 10% 3.0 兆 円 1.6 兆 円 8.4 兆 円 9.9 兆 円 55 具 体 的 には 第 40 表 年 間 収 入 階 級 年 間 収 入 十 分 位 階 級 別 の 勤 労 者 世 帯 年 間 収 入 階 級 別 データ である 56 改 革 しないケースにおける 消 費 税 収 は 所 得 階 級 別 の 平 均 消 費 支 出 に 実 効 税 率 である 5%/(1+5%)を 乗 じることによって 算 出 している 57 2004 年 度 ( 平 成 16 年 度 )の 決 算 額 は 消 費 税 収 9 兆 9,743 億 円 地 方 消 費 税 収 2 兆 6,139 億 円 であり 合 計 すると 12 兆 5,882 億 円 となる なお モデル 税 収 と 決 算 額 との 乖 離 を 示 す 調 整 値 は 1.48 となってい る 25

消 費 税 率 が 10% 所 得 制 限 を 270 万 円 超 過 減 額 率 を 5%の 消 費 税 額 控 除 を 実 施 した 場 合 対 応 額 は 3.0 兆 円 となる 他 の 条 件 を 同 じにして 超 過 減 額 率 を 10%に 設 定 した 場 合 は 対 応 額 は 1.6 兆 円 となる これは 先 に 述 べたように 超 過 減 額 率 を 上 昇 させると 税 額 控 除 が 適 用 される 所 得 区 分 範 囲 が 小 さくなるからだ 消 費 税 額 控 除 の 利 点 は 逆 進 性 の 緩 和 である 消 費 税 の 負 担 の 逆 進 性 は 低 所 得 層 が 高 所 得 層 と 比 較 して 税 負 担 率 が 高 くなり 負 担 の 垂 直 的 公 平 性 に 反 するというものである 58 本 稿 では 逆 進 性 を 示 す 数 値 として 各 所 得 階 層 が 負 担 する 純 消 費 税 額 を 年 間 収 入 で 割 る ことによって 求 めることにした 純 消 費 税 額 は 消 費 税 額 は 税 額 控 除 を 受 ける 前 の 負 担 額 から 税 額 控 除 額 を 差 し 引 いた 値 となっている 図 7はシミュレーション 結 果 からえられた 所 得 階 級 別 の 負 担 率 を 表 している 負 担 率 12% 10% 8% 現 行 6% 消 費 税 率 10% 消 費 税 率 10%+ 減 額 率 5% 4% 消 費 税 率 10%+ 減 額 率 10% 2% 0% 所 得 階 級 ( 万 円 ) 出 所 : 全 国 消 費 実 態 調 査 ( 平 成 16 年 ) より 作 成 図 7 消 費 税 額 控 除 導 入 による 税 負 担 率 への 効 果 まず 現 行 の 負 担 率 を 表 すグラフは 所 得 階 層 が 上 昇 するにつれて 下 がっており 現 行 制 度 下 での 負 担 の 逆 進 性 が 確 認 できる 消 費 税 率 が 10%に 上 昇 した 場 合 は 現 行 の 負 担 率 を 表 すグラフが 上 方 に 平 行 的 に 移 動 することになる 消 費 税 率 が 10% 時 に 消 費 税 額 控 除 を 導 入 58 消 費 税 の 逆 進 性 の 議 論 については 本 報 告 書 の 第 2 章 を 参 照 26

すれば 所 得 階 級 別 の 負 担 率 にどのような 変 化 がおきるかを 見 てみよう 最 も 低 い 所 得 階 級 である 200 万 円 までの 階 級 は 現 行 での 負 担 率 は 5.4%であり 消 費 税 率 が 10%になると 負 担 率 は 10.4%に 上 昇 する しかし 消 費 税 額 控 除 が 導 入 されると 負 担 率 は 2.4%になり 消 費 税 率 が 上 昇 しているにも 関 わらず 負 担 率 は 現 行 よりも 低 くなる こ のようなことは 超 過 減 額 率 が 5%の 場 合 は 所 得 階 級 300 万 円 ~350 万 円 までの 階 層 で 起 き 超 過 減 額 率 が 10%の 場 合 は 所 得 階 級 250 万 円 ~300 万 円 まで 続 く 給 付 付 き 税 額 控 除 がも つ 負 担 の 逆 進 性 緩 和 の 利 点 である 消 費 税 率 10%と 消 費 税 額 控 除 が 超 過 減 額 率 5% 時 で 負 担 率 を 比 較 すると 最 低 所 得 階 級 から 所 得 階 級 600 万 円 ~650 万 円 まで 負 担 率 が 軽 減 される 超 過 減 額 率 10% 時 では 軽 減 される 範 囲 が 狭 まり 所 得 階 級 400 万 円 ~450 万 円 までが 軽 減 される 表 17 は 課 税 による 再 分 配 効 果 への 影 響 についてまとめたものである 59 再 分 配 効 果 を 計 測 する 方 法 として 等 価 所 得 を 考 慮 したジニ 係 数 と 課 税 前 のジニ 係 数 から 課 税 後 のジニ 係 数 への 変 化 率 をとった 値 である 再 分 配 係 数 を 採 用 した 60 表 17 消 費 税 額 控 除 導 入 による 再 分 配 効 果 ジニ 係 数 課 税 前 0.2334 再 分 配 係 数 現 行 消 費 税 ( 税 率 5%) 0.2365-1.31% 税 率 10% 税 率 10%+ 超 過 減 額 率 5% 税 率 10%+ 超 過 減 額 率 10% 0.2394 0.2325 0.2347-2.57% +0.40% -0.52% 表 17 によれば 現 行 消 費 税 と 消 費 税 率 10%では 逆 進 性 の 効 果 が 大 きく ジニ 係 数 が 課 税 前 の 0.2334 から 課 税 後 は 0.2365( 税 率 5%)と 0.2394 と 値 が 上 昇 し 再 分 配 係 数 がマイナス 59 家 計 調 査 年 報 ( 総 務 省 ) によれば 通 常 の 可 処 分 所 得 は 世 帯 員 全 員 の 現 金 収 入 から 税 と 社 会 保 険 料 を 引 いた 金 額 であるとされる 本 稿 では 消 費 税 の 再 分 配 効 果 をみるために 消 費 税 のみを 年 間 収 入 から 引 いて 分 析 をしている 60 ジニ 係 数 とは 0 から 1 の 値 をとり 所 得 が 完 全 平 等 に 分 配 されていれば 0 値 をとり 完 全 不 平 等 に 分 配 されていれば 1 の 値 をとる 等 価 所 得 とは 世 帯 人 員 を 考 慮 して 世 帯 所 得 を 考 えたものである 世 帯 基 準 で 不 平 等 度 を 考 える 場 合 耐 久 消 費 財 など( 例 えば 乗 用 車 や 冷 蔵 庫 )は 共 同 消 費 が 可 能 な 財 へのコストは 世 帯 人 員 1 人 あたりでみれば 世 帯 人 員 が 多 くなると 低 下 すると 考 えられる このようなことを 考 慮 する ために 世 帯 所 得 を 世 帯 人 員 の 二 乗 根 で 除 した 値 を 等 価 所 得 として 所 得 分 配 状 況 を 分 析 する 方 法 がある 27

1.31%となり このことから 不 平 等 度 が 上 がっていることがわかる 消 費 税 率 が 10%になった 場 合 所 得 制 限 270 万 円 と 超 過 減 額 率 5%の 消 費 税 額 控 除 をお こなうと 再 分 配 係 数 がプラス 0.40%となり 消 費 税 増 税 によって 税 収 が 確 保 され 所 得 再 分 配 効 果 が 得 られる 結 果 がえられた 61 所 得 制 限 が 同 様 で 超 過 減 額 率 が 10%になれば 税 額 控 除 適 用 範 囲 が 狭 まってしまうので 再 分 配 係 数 はマイナス 0.52%であり 税 による 再 分 配 効 果 は 得 られない 3.6 給 付 付 き 税 額 控 除 導 入 の 課 題 本 節 では 給 付 付 き 税 額 控 除 が 我 が 国 に 導 入 されるにあたっての 課 題 を 述 べることにし よう 現 在 の 所 得 格 差 が 人 口 の 高 齢 化 と 単 身 世 帯 の 増 加 による 要 因 や 非 正 規 労 働 者 の 増 大 による 要 因 が 大 きいのであれば 給 付 付 き 税 額 控 除 は 社 会 保 障 の 一 環 として 位 置 付 け 導 入 の 際 には 現 行 の 生 活 保 護 制 度 との 整 合 性 をとるべきである 勤 労 促 進 効 果 はシングルマザーに 対 しては 小 さいと 考 えられる 我 が 国 のシングルマザ ーの 就 業 率 は 阿 部 大 石 (2005)が 指 摘 しているように 先 進 国 中 でかなり 高 いからだ 62 消 費 税 の 増 税 が 議 論 されることを 考 慮 すると 今 後 は 消 費 税 額 控 除 が 現 実 的 である 本 稿 ではカナダの 制 度 を 参 考 にして 我 が 国 において 現 実 的 な 制 度 設 計 をシミュレーションした シミュレーションの 結 果 から 現 実 的 な 制 度 設 計 によっては 消 費 税 率 を 上 げて 増 収 を 図 り かつ 再 分 配 効 果 が 発 揮 できる 可 能 性 があることがわかった 消 費 税 額 控 除 を 実 施 するにあ たっては 上 昇 させる 税 率 と 所 得 制 限 と 超 過 減 額 率 の 設 定 が 重 要 なカギとなるだろう 4. むすび 本 稿 では まずこれまでの 所 得 格 差 と 税 制 の 再 分 配 効 果 についての 過 去 の 研 究 をサーベ イしたのちに 現 政 権 において 検 討 されている 累 進 税 率 表 の 強 化 給 付 付 き 税 額 控 除 の 導 入 などの 格 差 是 正 策 の 必 要 性 について 検 証 をおこなった 本 稿 で 得 られた 結 果 は 以 下 の 通 61 内 閣 府 (2010)325 ページによれば ジニ 係 数 は 中 間 所 得 層 の 分 配 状 況 の 変 化 を 大 きく 受 けるとされて いる 62 阿 部 大 石 (2005)は 日 本 の 母 子 世 帯 の 母 親 (20~59 歳 )の 就 労 率 は 1990 年 代 を 通 じて 85% 前 後 を 維 持 しており イギリス(1990 年 41%) ドイツ(1992 年 40%) スウェーデン(1994 年 70%) など 先 進 諸 国 を 大 幅 に 上 回 っている と 述 べている (144 ページ 引 用 ) 28

りである 第 一 に 過 去 20 年 間 の 所 得 格 差 の 推 移 を 計 測 してみると 全 体 の 不 平 等 度 は 上 昇 傾 向 に あるが これは 相 対 的 に 不 平 等 度 が 高 い 高 齢 者 世 帯 の 割 合 が 増 加 していること 要 因 である ことがわかった 近 年 の 所 得 格 差 の 要 因 として 人 口 の 高 齢 化 を 挙 げている 既 存 研 究 は 多 い 既 存 研 究 の 結 果 は 所 得 格 差 拡 大 のその 他 の 要 因 として 核 家 族 化 年 齢 階 層 内 格 差 営 業 所 得 者 内 格 差 非 正 規 労 働 者 の 増 加 を 挙 げている 第 二 に 80 年 代 以 降 我 が 国 の 所 得 税 の 税 率 表 はフラット 化 傾 向 にあったが 所 得 税 の 再 分 配 効 果 について 既 存 研 究 は 構 造 的 累 進 度 の 見 地 からは 税 率 部 分 による 再 分 配 効 果 は 小 さく 累 進 度 が 低 下 している 要 因 は 所 得 控 除 部 分 が 大 きいとしている 分 配 累 進 度 の 見 地 からは 所 得 階 層 別 の 再 分 配 効 果 の 低 下 税 制 そのものの 再 分 配 効 果 が 小 さく 所 得 者 別 にみれば 景 気 拡 大 にともなう 分 離 課 税 対 象 所 得 比 率 の 高 まりによって 再 分 配 効 果 が 低 下 していると 既 存 研 究 は 指 摘 している 第 三 に 所 得 税 の 最 高 税 率 を 現 行 から 50%に 上 昇 させるという 税 制 改 革 (ケースⅠ)と 80 代 の 抜 本 的 税 制 改 革 以 前 の 累 進 税 率 表 に 戻 すという 税 制 改 革 (ケースⅡ)をシミュレー ションした シミュレーションの 結 果 から ケースⅠは 現 行 制 度 と 比 較 して 最 高 税 率 が 適 用 される 所 得 階 級 にしか 影 響 がないので 再 分 配 係 数 については 0.002 ポイントの 増 加 に 留 まることがわかった ケースⅡでは 所 得 階 層 中 間 層 の 税 収 シェアが 増 すことから 再 分 配 係 数 が 現 行 と 比 較 して 0.01 ポイント 増 加 することがわかった なお 増 収 規 模 はケースⅠが 0.83 兆 円 であり ケースⅡが 7.21 兆 円 となる 第 四 に 諸 外 国 で 導 入 が 広 がっており 最 近 の 政 府 も 導 入 を 検 討 している 給 付 付 き 税 額 控 除 について 分 析 をおこなった 給 付 付 き 税 額 控 除 は 勤 労 意 欲 を 阻 害 することなく 所 得 再 分 配 を 行 うようにする 制 度 設 計 を 目 指 している すでに 給 付 付 き 税 額 控 除 を 導 入 してい るアメリカとイギリスの 実 証 研 究 をサーベイすることによって この 制 度 は 労 働 供 給 に 対 して 正 の 影 響 を 与 え 所 得 再 分 配 効 果 を 発 揮 していることがわかった アメリカでは 制 度 の 複 雑 性 から 不 正 受 給 が 多 いことを 考 慮 すると 我 が 国 で 給 付 付 き 税 額 控 除 を 導 入 する 際 には 制 度 と 所 得 捕 捉 の 透 明 性 が 必 要 となるだろう 第 五 に 本 稿 では アメリカとカナダで 実 施 されている 給 付 付 き 税 額 控 除 を 参 考 にして 日 本 で 導 入 した 場 合 をシミュレーション 分 析 した 我 が 国 では 現 政 権 が 子 ども 手 当 を 支 給 することを 鑑 み アメリカ 型 の 制 度 設 計 は 単 身 者 を 対 象 とした 制 度 とした 我 が 国 でアメ リカ 型 の 給 付 付 き 税 額 控 除 を 導 入 すると 給 付 に 必 要 な 額 は 約 1,000 億 円 という 試 算 結 果 29

を 得 ることができた 所 得 税 の 増 税 で 対 応 するとなると 最 高 税 率 を 現 行 の 40%から 45% に 上 昇 させることだけで 済 むことがわかった 約 1,000 億 円 程 度 の 所 得 税 改 革 案 は 規 模 と しては 極 めて 小 さい 家 計 負 担 や 再 分 配 効 果 は 極 めて 小 さいと 予 測 される 次 にカナダ 型 の 給 付 付 き 税 額 控 除 をシミュレーションした カナダ 型 の 給 付 付 き 税 額 控 除 の 制 度 設 計 の 目 的 は 消 費 税 率 を 10%に 上 昇 させることによって 財 源 確 保 をし その 中 で 世 帯 収 入 が 270 万 円 を 超 えたところで 減 額 率 を 5%あるいは 10%を 設 定 して 逆 進 性 緩 和 を 図 るというものである シミュレーション 結 果 によると 超 過 減 額 率 5%の 消 費 税 額 控 除 をおこなうと 再 分 配 係 数 がプラス 0.40%となり 消 費 税 増 税 によって 税 収 が 確 保 され 所 得 再 分 配 効 果 が 得 られることがわかった 一 方 超 過 減 額 率 が 10%になれば 税 額 控 除 適 用 範 囲 が 狭 まってしまうので 再 分 配 係 数 はマイナス 0.52%であり 税 による 再 分 配 効 果 は 得 られないことがわかった したがって 超 過 減 額 率 を 5%に 設 定 した 給 付 付 き 消 費 税 額 を 導 入 し 消 費 税 率 を 10% にまで 引 き 上 げることにより 格 差 是 正 と 同 時 に 約 8.4 兆 円 の 増 収 が 得 られるわけだ ただし 給 付 付 き 税 額 控 除 制 度 を 実 施 するには いくつかのハードルが 残 されている まず 給 付 付 き 税 額 控 除 制 度 の 導 入 にあたっては 給 付 対 象 に 所 得 制 限 を 設 定 するかど うかを 決 めなければならない 給 付 対 象 に 所 得 制 限 を 設 定 すれば 給 付 に 必 要 な 財 源 を 圧 縮 できるのに 加 えて 高 所 得 層 に 税 額 還 付 をおこなわないことにより 一 層 の 再 分 配 効 果 が 期 待 できることになる しかし 納 税 者 番 号 制 度 が 導 入 されていないわが 国 では 所 得 制 限 を 設 定 することはあらたな 不 公 平 を 生 むことになる 現 行 税 制 のもとでは 株 式 等 の 譲 渡 所 得 利 子 配 当 所 得 など 金 融 所 得 に 関 しては 分 離 課 税 が 採 用 されており これらの 金 融 所 得 を 含 めた 所 得 に 関 しては 全 く 捕 捉 されていないのが 現 状 だ つまり 所 得 制 限 を 設 定 した 場 合 には 膨 大 な 資 産 を 持 ち これらの 金 融 所 得 のみを 保 有 している 富 裕 層 に 対 し ては 消 費 税 額 が 還 付 され サラリーマンについては 所 得 制 限 により 消 費 税 額 の 還 付 がお こなわれないという 状 況 となるわけだ これは 同 じ 経 済 状 態 の 人 に 対 しては 同 じ 税 負 担 を 求 めるべきだという 水 平 的 公 平 の 原 則 にあきらかに 反 する したがって 給 付 付 き 消 費 税 額 控 除 導 入 には すくなくとも 納 税 者 番 号 制 度 の 導 入 を 含 めた 所 得 捕 捉 体 制 の 強 化 が 必 要 となる また このような 直 接 的 な 給 付 策 は 多 額 の 事 務 経 費 を 発 生 させる 電 子 申 告 の 促 進 な ど 一 層 の 納 税 環 境 の 整 備 もあわせて 考 えていく 必 要 があるだろう 30

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