最 高 裁 昭 和 四 五 年 ( 行 ツ) 第 六 〇 号 第 六 一 号 五 二 二 二 三 判 決 判 決 上 告 人 東 京 都 地 方 労 働 委 員 会 補 助 参 加 人 東 京 自 動 車 交 通 労 働 組 合 補 助 参 加 人 X1 補 助 参 加 人 X2 補 助 参 加 人 X3 補 助 参 加 人 X4 補 助 参 加 人 X5 補 助 参 加 人 X6 被 上 告 人 第 二 鳩 タクシー 株 式 会 社 訴 訟 承 継 人 安 全 興 業 株 式 会 社 右 当 事 者 間 の 東 京 高 等 裁 判 所 昭 和 四 三 年 ( 行 コ) 第 四 号 同 第 六 号 救 済 命 令 取 消 請 求 事 件 について 同 裁 判 所 が 昭 和 四 五 年 二 月 一 〇 日 言 い 渡 した 判 決 に 対 し 上 告 人 及 び 上 告 補 助 参 加 人 東 京 自 動 車 交 通 労 働 組 合 から 全 部 破 棄 を 求 める 旨 の 上 告 の 申 立 があり 被 上 告 人 は 上 告 棄 却 の 判 決 を 求 めた よって 当 裁 判 所 は 次 のとおり 判 決 する 主 文 本 件 上 告 を 棄 却 する 上 告 費 用 は 上 告 人 の 負 担 とする 理 由 上 告 人 の 上 告 理 由 第 一 点 第 二 点 及 び 上 告 補 助 参 加 人 東 京 自 動 車 交 通 労 働 組 合 代 理 人 X7 同 X8 同 X9 同 X10 の 上 告 理 由 について 所 論 は 要 するに 不 当 労 働 行 為 により 解 雇 された 労 働 者 がその 解 雇 期 間 中 に 他 の 職 に 就 いて 収 入 を 得 た 場 合 右 収 入 の 額 を 控 除 しないで 賃 金 相 当 額 の 遡 及 支 払 い (パックペイ) を 命 ずることは 違 法 であるとして 上 告 委 員 会 の 救 済 命 令 を 取 り 消 した 原 判 決 には 労 働 委 員 会 の 裁 量 権 の 範 囲 とその 司 法 審 査 の 限 界 に 関 する 労 働 組 合 法 ( 以 下 法 という ) 及 び 行 政 事 件 訴 訟 法 の 解 釈 を 誤 り ひいては 労 働 基 本 権 を 保 障 した 憲 法 の 規 定 の 解 釈 適 用 を 誤 った 違 法 があり また 法 の 基 本 原 理 である 公 平 の 理 念 に 反 した 違 法 がある というの である 一 思 うに 法 二 七 条 に 定 める 労 働 委 員 会 の 救 済 命 令 制 度 は 労 働 者 の 団 結 権 及 び 団 体 行 動 権 の 保 護 を 目 的 とし これらの 権 利 を 侵 害 する 使 用 者 の 一 定 の 行 為 を 不 当 労 働 行 為 と して 禁 止 した 法 七 条 の 規 定 の 実 効 性 を 担 保 するために 設 けられたものであるところ 法 が 右 禁 止 規 定 の 実 効 性 を 担 保 するために 使 用 者 の 右 規 定 違 反 行 為 に 対 して 労 働 委 員 会 という 行 政 機 関 による 救 済 命 令 の 方 法 を 採 用 したのは 使 用 者 による 組 合 活 動 侵 害 行 為 によって 生 じた 状 態 を 右 命 令 によって 直 接 是 正 することにより 正 常 な 集 団 的 労 使 関 係 秩 序 の 迅 速 な 回 復 確 保 を 図 るとともに 使 用 者 の 多 様 な 不 当 労 働 行 為 に 対 してあら かじめその 是 正 措 置 の 内 容 を 具 体 的 に 特 定 しておくことが 困 難 かつ 不 適 当 であるため 労 使 関 係 について 専 門 的 知 識 経 験 を 有 する 労 働 委 員 会 に 対 し その 裁 量 により 個 々の 事 案 に 応 じた 適 切 な 是 正 措 置 を 決 定 し これを 命 ずる 権 限 をゆだねる 趣 旨 に 出 たものと 解 される このような 労 働 委 員 会 の 裁 量 権 はおのずから 広 きにわたることとなるが も とより 無 制 限 であるわけではなく 右 の 趣 旨 目 的 に 由 来 する 一 定 の 限 界 が 存 するので -1-
あって この 救 済 命 令 は 不 当 労 働 行 為 による 被 害 の 救 済 としての 性 質 をもつものでな ければならず このことから 導 かれる 一 定 の 限 界 を 超 えることはできないものといわな ければならない しかし 法 が 右 のように 労 働 委 員 会 に 広 い 裁 量 権 を 与 えた 趣 旨 に 徴 すると 訴 訟 において 労 働 委 員 会 の 救 済 命 令 の 内 容 の 適 応 性 が 争 われる 場 合 において も 裁 判 所 は 労 働 委 員 会 の 右 裁 量 権 を 尊 重 し その 行 使 が 右 の 趣 旨 目 的 に 照 らして 是 認 される 範 囲 を 超 え 又 は 著 しく 不 合 理 であって 濫 用 にわたると 認 められるものでな い 限 り 当 該 命 令 を 違 法 とすべきではないのである 二 右 の 見 地 に 立 って 法 七 条 一 号 に 違 反 する 労 働 者 の 解 雇 に 対 する 救 済 命 令 の 内 容 につい て 考 えてみると 法 が 正 当 な 組 合 活 動 をした 故 をもってする 解 雇 を 特 に 不 当 労 働 行 為 と して 禁 止 しているのは 右 解 雇 が 一 面 において 当 該 労 働 者 個 人 の 雇 用 関 係 上 の 権 利 ないしは 利 益 を 侵 害 するものであり 他 面 において 使 用 者 が 右 の 労 働 者 を 事 業 所 から 排 除 することにより 労 働 者 らによる 組 合 活 動 一 般 を 抑 圧 ないしは 制 約 する 故 なのであ るから その 救 済 命 令 の 内 容 は 被 解 雇 者 に 対 する 侵 害 に 基 づく 個 人 的 被 害 を 救 済 する という 観 点 からだけではなく あわせて 組 合 活 動 一 般 に 対 する 侵 害 の 面 をも 考 慮 し このような 侵 害 状 態 を 除 去 是 正 して 法 の 所 期 する 正 常 な 集 団 的 労 使 関 係 秩 序 を 回 復 確 保 するという 観 点 からも 具 体 的 に 決 定 されなければならないのである 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 に 対 する 救 済 命 令 においては 通 例 被 解 雇 者 の 原 職 復 帰 とバックペ イが 命 ぜられるのであるが このような 命 令 は 上 述 の 観 点 からする 必 要 な 措 置 として 労 働 委 員 会 が 適 法 に 発 しうるところといわなければならない 三 ところで 本 件 における 問 題 は 不 当 労 働 行 為 により 解 雇 された 労 働 者 がその 後 原 職 に 復 帰 するまでの 間 において 他 で 就 労 して 収 入 を 得 た 場 合 に 労 働 委 員 会 は 原 職 復 帰 とともにバックペイを 命 ずるにあたって 解 雇 期 間 中 の 得 べかりし 賃 金 相 当 額 から 右 の 中 間 収 入 の 額 を 控 除 しなければならないかどうか ということである そこで 考 えるの に ( 一 ) まず 右 解 雇 によって 被 解 雇 者 個 人 が 受 ける 経 済 的 被 害 の 面 をみると 被 解 雇 者 は 解 雇 によって 従 前 の 使 用 者 の 下 で 就 労 して 賃 金 の 支 払 いを 受 けるという 雇 用 関 係 上 の 利 益 を 喪 失 する 点 において 個 人 的 な 被 害 を 受 けるのであるが 他 面 右 使 用 者 の 下 に おける 就 労 から 解 放 され 自 己 の 労 働 力 を 自 由 に 利 用 しうる 状 況 に 置 かれるわけであ るから 他 に 就 職 して 収 入 を 得 た 場 合 には それが 従 前 の 就 労 からの 解 放 によって 可 能 となった 労 働 力 の 使 用 の 対 価 であると 認 められる 限 り 解 雇 による 経 済 上 の 不 利 益 はその 限 度 において 償 われたものと 考 えられ したがって バックペイとしてその 既 に 償 われた 部 分 までの 支 払 いを 命 ずることは 個 人 的 な 経 済 的 被 害 の 救 済 の 観 点 から する 限 りは 実 害 の 回 復 以 上 のものを 使 用 者 に 要 求 するものとして 救 済 の 範 囲 を 逸 脱 するものと 解 される もっとも この 観 点 からみる 場 合 においても 第 一 審 判 決 の 指 摘 するように 解 雇 と 中 間 収 入 の 獲 得 との 間 に 前 述 のような 因 果 関 係 があるというこ とだけから 直 ちに 右 の 中 間 収 入 の 全 額 について 経 済 的 不 利 益 の 回 復 があったもの とみるべきではなく 労 務 の 性 質 及 び 内 容 もまた 労 働 者 にとって 重 要 な 意 味 をもつも のであることは 明 らかであるから 例 えば 被 解 雇 者 に 中 間 収 入 をもたらした 労 務 が 従 前 の 労 務 と 比 較 して より 重 い 精 神 的 肉 体 的 負 担 を 伴 うようなものであるとき これを 無 視 して 機 械 的 に 中 間 収 入 の 額 をそのまま 控 除 することは 被 害 の 救 済 として -2-
は 合 理 性 を 欠 くことになるといわなければならない ( 二 ) 次 に 右 解 雇 が 当 該 使 用 者 の 事 業 所 における 組 合 活 動 一 般 に 対 して 与 える 侵 害 の 面 をみると 前 述 のように この 侵 害 は 当 該 労 働 者 の 解 雇 により 労 働 者 らの 組 合 括 動 意 思 が 萎 縮 し そのため 組 合 活 動 一 般 に 対 して 制 約 的 効 果 が 及 ぶことにより 生 ずる ものであるから このような 効 果 を 除 去 するためには 解 雇 による 被 解 雇 者 に 対 する 加 害 が 結 局 において 加 害 としての 効 果 をもちえなかったとみられるような 事 実 上 の 結 果 を 形 成 する 必 要 があるものというべきである 中 間 収 入 の 控 除 の 要 否 とその 金 額 の 決 定 も 右 のような 見 地 においてすべきであるが 組 合 活 動 一 般 に 対 する 制 約 的 効 果 は 当 該 労 働 者 が 解 雇 によって 現 実 に 受 ける 打 撃 の 軽 重 と 密 接 な 関 係 をもち 再 就 職 の 難 易 就 職 先 における 労 務 の 性 質 内 容 及 び 賃 金 額 の 多 少 等 によってもおのずから 異 ならざるをえないものであるから 組 合 括 動 一 般 に 対 する 侵 害 の 除 去 という 観 点 か ら 中 間 収 入 控 除 の 要 否 及 びその 金 額 を 決 定 するにあたっては これらの 諸 点 を 勘 案 し 組 合 活 動 一 般 について 生 じた 侵 害 の 程 度 に 応 じ 合 理 的 に 必 要 かつ 適 切 と 認 められる 救 済 措 置 を 定 めなければならないのである 上 述 したところからすれば 不 当 労 働 行 為 による 解 雇 に 対 する 救 済 命 令 においては バックペイの 支 払 命 令 が 不 可 欠 なものであり このことは 解 雇 期 間 中 被 解 雇 者 に 中 間 収 入 があったかどうかによって 影 響 を 受 けるものではないとする 見 解 は 是 認 するこ とができず そのような 見 解 を 前 提 とし 中 間 収 入 の 有 無 を 全 く 考 慮 せず 常 に 解 雇 期 間 中 における 得 べかりし 賃 金 相 当 額 全 額 の 支 払 いを 命 ずることは 被 害 の 救 済 と しては 合 理 性 を 欠 くものといわなければならない ( 三 )これを 要 するに 中 間 収 入 控 除 の 要 否 及 びその 金 額 を 決 定 するにあたっては 労 働 委 員 会 は 右 の( 一 ) 及 び( 二 )の 両 面 からする 総 合 的 な 考 慮 を 必 要 とするのであっ て そのいずれか 一 方 の 考 慮 を 怠 り 又 は 救 済 の 必 要 性 の 判 断 において 合 理 性 を 欠 く ときは 裁 量 権 の 限 界 を 超 え 違 法 とされることを 免 れない 当 裁 判 所 昭 和 三 六 年 (オ) 第 五 一 九 号 同 三 七 年 九 月 一 八 日 第 三 小 法 廷 判 決 民 集 一 六 巻 九 号 一 九 八 五 頁 は 上 記 説 示 と 抵 触 する 限 度 において 変 更 すべきものである 四 なお 付 言 するのに 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 を 使 用 者 の 事 業 所 における 組 合 活 動 一 般 に 対 する 侵 害 の 面 に 着 目 して 一 元 的 にとらえ 救 済 命 令 についても 専 ら 右 の 観 点 の みからその 必 要 性 と 適 切 性 を 判 断 してその 内 容 を 決 定 すべきものとする 考 え 方 がある が この 考 え 方 は 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 が 被 解 雇 者 個 人 に 与 える 侵 害 の 面 を 不 当 に 軽 視 するものというべきである もともと 法 七 条 一 号 に 違 反 する 不 当 労 働 行 為 にお いては 使 用 者 は 個 々の 労 働 者 に 対 する 不 利 益 取 扱 いをするとともに これによって 労 働 者 らの 団 結 権 及 び 団 体 行 動 権 を 侵 害 するのであって その 侵 害 の 結 果 が 不 利 益 取 扱 いを 受 けた 個 々の 労 働 者 に 対 しても 等 しく 現 実 に 生 ずるものであることは 否 定 し 去 る ことができない また 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 に 対 する 救 済 として 解 雇 された 労 働 者 の 原 職 復 帰 を 命 ずるとともに 解 雇 期 間 中 の 得 べかりし 賃 金 相 当 額 のバックペイを 命 ずるというのも 当 該 労 働 者 に 生 じた 解 雇 という 被 害 に 着 目 し 就 労 の 機 会 が 奪 われた ことに 対 して 原 職 復 帰 を 賃 金 取 得 の 可 能 性 が 奪 われたことに 対 してバックペイを そ れぞれ 命 ずるものであって その 救 済 はあくまでも 被 解 雇 者 当 人 の 個 人 的 要 素 を 無 視 し ては 実 現 することができないものなのである このような 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 の -3-
本 質 及 びその 救 済 方 法 の 内 容 に 照 らせば 労 働 委 員 会 がバックペイの 要 否 及 びその 金 額 を 決 定 するにあたっては 解 雇 が 使 用 者 の 事 業 所 における 組 合 活 動 一 般 に 与 えた 侵 害 を 除 去 是 正 して 正 常 な 集 団 的 労 使 関 係 秩 序 を 回 復 確 保 するという 観 点 からだけではな く 被 解 雇 者 に 対 する 侵 害 に 基 づく 個 人 的 被 害 を 救 済 するという 観 点 にも 立 って これ を 決 定 すべきことは むしろ 当 然 であるといわなければならない また 労 働 委 員 会 としては バックペイ 命 令 に 際 し 中 間 収 入 の 控 除 を 考 慮 するの 煩 に 堪 えないとする 論 もあるが 労 働 委 員 会 は 中 間 収 入 の 控 除 の 要 否 及 び 控 除 の 程 度 の 決 定 に 関 係 がある 前 記 三 の( 一 ) ( 二 )の 諸 点 について 両 当 事 者 の 主 張 立 証 すると ころと 職 権 調 査 の 結 果 とを 総 合 して 勘 案 すれば その 決 定 にさほどの 困 難 をきたすこと があるものとは 考 えられない 五 以 上 の 見 地 に 立 って 本 件 をみるのに 原 審 が 適 法 に 確 定 したところによれば 上 告 補 助 参 加 人 X1 外 五 名 は ハイヤー タクシー 業 等 を 営 む 被 上 告 会 社 に 自 動 車 運 転 手 とし て 雇 用 された 者 であるところ 雇 用 されてからそれぞれ 半 年 ないし 三 年 半 ほど 経 ってか ら 解 雇 され その 後 一 人 が 約 半 年 後 であるほかは 早 い 者 は 解 雇 の 日 の 翌 日 遅 い 者 でも 約 一 か 月 後 には 他 のタクシー 会 社 に 運 転 手 として 雇 用 され 従 前 の 賃 金 額 には 及 ば ないまでもこれに 近 い 金 額 の 収 入 を 得 ていたというのである これによってみるときは 右 上 告 補 助 参 加 人 らの 得 た 中 間 収 入 は いずれも 従 前 の 労 務 と 同 じくタクシー 会 社 の 運 転 手 として 稼 働 したことによって 得 たものであるから 解 雇 による 個 人 的 な 経 済 的 被 害 の 救 済 という 観 点 からは 当 然 にその 控 除 を 考 慮 すべきものである また 組 合 活 動 一 般 に 対 する 侵 害 的 効 果 の 除 去 の 観 点 からみても 上 記 認 定 の 諸 事 実 と 当 時 のタクシー 業 界 における 運 転 手 の 雇 用 状 況 特 に 同 業 他 社 への 転 職 が 比 較 的 頻 繁 かつ 容 易 であったこ と 等 に 照 らせば たとえ 上 告 補 助 参 加 人 らの 他 会 社 への 転 職 が 同 人 らの 主 張 するよう に 臨 時 採 用 にかかるものであり また その 収 入 も 専 ら 歩 合 給 としてであって 従 前 の ような 固 定 給 の 保 障 を 欠 くものであったとしても 解 雇 による 被 解 雇 者 の 打 撃 は 比 較 的 軽 少 であり したがってまた 被 上 告 会 社 における 労 働 者 らの 組 合 活 動 意 思 に 対 する 制 約 的 効 果 にも 通 常 の 場 合 とかなり 異 なるものがあるとみるのが 当 然 であるから 特 段 の 理 由 のない 限 り バックペイの 金 額 を 決 定 するにあたって 上 記 のような 中 間 収 入 の 控 除 を 全 く 不 問 に 付 することは 合 理 性 を 欠 くものといわなければならない しかるに 上 告 人 は 本 件 バックペイ 命 令 において 右 中 間 収 入 の 控 除 を 全 く 不 要 とすることにつき 特 段 の 理 由 を 具 体 的 に 示 すところがなく また 本 件 にあらわれた 資 料 によっても こ のような 理 由 を 見 出 すことができないのである そうである 以 上 本 件 バックペイ 命 令 は 結 局 において 上 告 人 に 認 められた 裁 量 権 の 合 理 的 な 行 使 の 限 度 を 超 えたものとい わざるをえない 六 右 の 次 第 であるから 原 判 決 には 上 記 説 示 と 異 なる 解 釈 をとった 点 において 法 令 の 解 釈 適 用 の 誤 りがあるが 本 件 バックペイ 命 令 に 裁 量 権 行 使 の 違 法 があるとしたこと 自 体 は 正 当 であり 論 旨 は 結 局 理 由 がない 上 告 人 の 上 告 理 由 第 三 点 について 解 雇 が 無 効 である 場 合 の 被 解 雇 者 の 賃 金 請 求 権 及 びその 金 額 と 労 働 基 準 法 二 六 条 との 関 係 は 労 働 委 員 会 による 数 済 命 令 としてのバックペイ 命 令 の 金 額 の 問 題 とは 直 接 の 関 係 が ないから 所 論 のような 抵 触 の 問 題 は 生 じない 論 旨 は 採 用 することができない -4-
同 第 四 点 について 論 旨 は 原 判 決 を 正 解 せず 又 は 独 自 の 見 解 に 立 ってこれを 非 難 するものであって 採 用 することができない よって 行 政 事 件 訴 訟 法 七 条 民 訴 法 三 九 六 条 三 八 四 条 二 項 九 五 条 八 九 条 に 従 い 上 告 人 の 上 告 理 由 第 一 点 第 二 点 及 び 上 告 補 助 参 加 人 東 京 自 動 車 交 通 労 働 組 合 代 理 人 X7 外 三 名 の 上 告 理 由 について 裁 判 官 Z1 同 Z2 同 Z3 同 Z4 同 Z5 の 各 反 対 意 見 がある ほか 裁 判 官 全 員 一 致 の 意 見 で 主 文 のとおり 判 決 する 裁 判 官 Z1 の 反 対 意 見 は 次 のとおりである 私 は 不 当 労 働 行 為 にあたる 解 雇 に 対 する 救 済 命 令 において 労 働 委 員 会 が 原 職 復 帰 とともに 解 雇 期 間 中 の 得 べかりし 賃 金 相 当 額 の 遡 及 払 いを 命 ずるにあたっては 解 雇 され た 労 働 者 が 解 雇 期 間 中 に 他 で 働 いて 得 た 中 間 収 入 のごときは これを 控 除 すべきではない と 考 える その 理 由 は 次 のとおりである 一 労 組 法 七 条 の 規 定 を 受 けた 同 法 二 七 条 の 不 当 労 働 行 為 救 済 命 令 の 制 度 は 使 用 者 によ る 組 合 活 動 侵 害 行 為 である 不 当 労 働 行 為 によって 生 じた 違 法 状 態 を 行 政 機 関 である 労 働 委 員 会 の 救 済 命 令 によって 直 接 是 正 することによって 正 常 な 集 団 的 労 使 関 係 秩 序 を 回 復 確 保 しようとする 趣 旨 に 出 たものであり また 同 法 七 条 一 号 が 正 当 な 組 合 活 動 を した 故 をもってする 解 雇 を 不 当 労 働 行 為 として 禁 止 しているのは 使 用 者 が 自 已 の 事 業 所 における 労 働 者 の 正 当 な 組 合 活 動 一 般 を 抑 圧 ないしは 制 約 しようとすることを 封 ずる ためであるから 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 に 対 する 救 済 命 令 の 具 体 的 内 容 を 決 定 する にあたっては 解 雇 された 労 働 者 個 人 の 被 害 の 救 済 の 観 点 からではなく 専 ら 右 の 組 合 活 動 一 般 に 対 する 侵 害 の 面 に 着 目 し この 侵 害 を 直 接 排 除 して 正 常 な 集 団 的 労 使 関 係 秩 序 を 回 復 確 保 するためには 何 が 必 要 な 処 置 であるかという 観 点 から その 内 容 を 決 定 すべきものであり このことは 裁 判 官 Z2 外 三 裁 判 官 の 反 対 意 見 の 説 くとおりであ ると 考 える このように 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 が 当 該 事 業 所 の 労 働 者 の 組 合 活 動 一 般 に 与 え る 侵 害 の 面 のみに 着 目 し この 侵 害 を 直 接 是 正 するにはどのような 措 置 が 必 要 かという 観 点 に 立 って 考 える 限 り 解 雇 という 加 害 行 為 は 必 然 的 に 従 業 員 としての 地 位 を 奪 い その 者 の 就 労 の 機 会 とその 対 価 としての 賃 金 の 取 得 の 可 能 性 を 喪 失 させるものであるか ら 遡 及 的 にその 加 害 の 行 為 を 無 に 帰 せしめ 組 合 活 動 に 対 する 侵 害 を 除 去 するために は 使 用 者 に 対 して 被 解 雇 者 を 原 職 に 復 帰 させるとともに 原 則 として 解 雇 されてい た 期 間 中 の 得 べかりし 賃 金 相 当 額 全 額 の 支 払 いを 命 ずべきであって 中 間 収 入 はこれを 控 除 すべきでないと 考 える けだし 不 当 労 働 行 為 制 度 は 労 働 者 の 団 結 権 団 体 行 動 権 を 侵 害 する 使 用 者 の 不 当 労 働 行 為 によって 生 じた 状 態 を 是 正 して 労 使 間 に 正 常 な 労 使 関 係 秩 序 を 回 復 確 保 するため その 不 当 労 働 行 為 がなかったと 同 様 の 状 態 を 復 元 する ことを 使 用 者 に 義 務 づけたものと 解 されるのであるから 解 雇 された 労 働 者 が 解 雇 期 間 中 他 で 稼 働 して 得 た 中 間 収 入 などは 当 該 労 働 者 個 人 の 経 済 的 被 害 の 救 済 の 観 点 からは 問 題 とされうる 事 柄 であるにしても 右 のような 使 用 者 の 復 元 義 務 とは 本 質 的 な 関 連 性 をもたない 付 随 的 な 被 解 雇 者 の 利 益 として 失 業 保 険 金 などと 同 様 にバックペイの 額 か ら 控 除 すべきではないと 考 えられるからである 不 当 労 働 行 為 制 度 は 労 働 者 の 団 結 権 -5-
団 体 行 動 権 の 擁 護 を 定 めた 憲 法 二 八 条 の 規 定 を 受 けて 専 ら 正 常 な 集 団 的 労 使 関 係 秩 序 の 回 復 確 保 という 観 点 に 立 って 不 当 労 働 行 為 からの 救 済 を 図 る 特 別 の 制 度 と 解 され るのであり 被 解 雇 者 が 従 前 の 使 用 者 のもとで 就 労 できないため やむをえず 他 で 働 い て 収 入 を 得 たということは 本 来 使 用 者 にとっては 無 縁 の 偶 然 的 な 事 情 であって 専 ら 右 のような 労 使 関 係 秩 序 の 回 復 確 保 という 観 点 に 立 つ 労 働 委 員 会 の 視 野 に 入 らない 事 柄 というべきである そして このような 労 働 委 員 会 の 救 済 命 令 において 中 間 収 入 を 控 除 しない 得 べかりし 賃 金 相 当 額 全 額 のバックペイが 命 ぜられた 結 果 被 解 雇 者 が 中 間 収 入 の 額 だけ 余 計 の 経 済 的 利 得 をしたとしても それは 専 ら 使 用 者 と 右 被 解 雇 者 との 個 人 的 な 法 律 関 係 上 の 問 題 として 別 途 に 司 法 的 処 理 によって 解 決 されるべきものであっ て 労 働 委 員 会 の 関 知 するところでないというべきである バックペイ 命 令 は 右 のよう な 趣 旨 において 発 せられるものであり 労 働 委 員 会 が 使 用 者 と 被 解 雇 者 個 人 との 私 法 上 の 法 律 関 係 にまで 立 入 り 審 査 しなければならないものでないことは 行 政 処 分 である 救 済 命 令 の 本 質 からして 当 然 である なお 私 は 右 のように 中 間 収 入 を 控 除 しない 点 に 救 済 命 令 制 度 の 一 つのメリット があると 考 えるが さればといって 労 働 委 員 会 にはバックペイの 額 の 決 定 についてな んらの 裁 量 権 がないというのではない ひとしく 不 当 労 働 行 為 といっても 解 雇 の 具 体 的 事 情 等 により 労 使 関 係 に 与 えるひずみには 大 小 の 幅 があり 当 該 事 業 所 における 労 働 者 らの 組 合 活 動 一 般 が 受 ける 侵 害 の 程 度 もまた 一 様 ではないのであるから 労 働 委 員 会 がバックペイの 要 否 及 びその 金 額 を 決 定 するにあたっては 中 間 収 入 失 業 保 険 金 の 有 無 等 使 用 者 の 前 記 復 元 義 務 と 無 関 係 な 付 随 的 事 項 は 別 にして 解 雇 の 具 体 的 事 情 等 不 当 労 働 行 為 が 労 働 者 らの 組 合 活 動 一 般 に 与 える 侵 害 の 大 小 に 影 響 を 及 ぼす 事 情 を 参 酌 し それぞれの 事 案 における 労 使 紛 争 の 実 情 に 即 した 適 切 妥 当 な 裁 量 を 加 えることができる のは 当 然 のことというべきである 二 もともと 労 組 法 二 七 条 の 不 当 労 働 行 為 救 済 命 令 の 制 度 は 米 国 のワグナー 法 ないしタ タフト ハートレー 法 に 由 来 するものであるところ 米 国 においては 不 当 労 働 行 為 と しての 解 雇 に 対 する 救 済 命 令 として 原 職 復 帰 とともにバックペイが 命 ぜられる 場 合 に は 解 雇 期 間 中 の 得 べかりし 賃 金 相 当 額 から 同 期 間 中 他 で 働 いて 得 た 中 間 収 入 を 控 除 し た 残 額 について 支 払 命 令 が 発 せられる 取 扱 いが 一 般 のようであるが しかし 我 が 国 と 米 国 とでは 労 働 事 情 ならびに 法 律 制 度 が 全 く 異 なり 米 国 における 右 の 取 扱 いを 直 ちに 我 が 国 のバックペイ 命 令 の 解 釈 にとり 入 れることはできない というのは 米 国 の 労 働 組 合 は 我 が 国 のそれが 事 業 所 毎 に 結 成 されているのと 異 なり いわゆる 横 断 的 組 織 と いわれ 職 業 別 産 業 別 に 連 帯 的 に 一 つの 組 合 を 組 織 しており 労 働 者 は 自 已 に 有 利 な 職 場 を 求 めて 比 較 的 頻 繁 かつ 容 易 に 転 職 し 会 社 に 所 属 するというよりもむしろ 労 働 組 合 に 所 属 しているとすらいわれているのであるから 不 当 労 働 行 為 により 解 雇 された 労 働 者 が 解 雇 期 間 中 他 で 就 労 して 中 間 収 入 を 得 た 場 合 その 中 間 収 入 は 解 雇 前 の 職 場 にお ける 就 労 の 継 続 によって 得 る 賃 金 と 同 等 視 することができるものと 考 えられ そのよう な 労 働 事 情 を 背 景 として コモンローの 損 害 賠 債 に 関 するアクチュアル ロスの 法 理 が バックペイについても 作 用 していると 思 われるのに 対 し 終 身 雇 用 が 一 般 である 我 が 国 の 場 合 は 解 雇 された 労 働 者 が 他 で 働 いて 報 酬 を 得 たとしても それは 生 計 維 持 のため のものであることが 通 常 であって これによって 得 られた 中 間 収 入 を 従 前 の 職 場 におけ -6-
る 賃 金 と 当 然 に 同 等 視 することはできないと 考 えられるからである のみならず 不 当 労 働 行 為 救 済 命 令 手 続 自 体 についても 米 国 においては 救 済 命 令 が 発 せられた 後 中 間 収 入 の 控 除 等 を 含 むバックペイの 金 額 の 確 定 手 続 があって 中 間 収 入 の 控 除 のための 手 続 的 な 担 保 があるのに 対 し 我 が 国 においては このような 確 定 手 続 はないのである また 我 が 国 の 場 合 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 についてはこれを 私 法 上 無 効 として 司 法 裁 判 所 において 争 い 解 雇 の 無 効 を 前 提 として 得 べかりし 賃 金 の 請 求 等 をすることが できると 解 されているが 米 国 においては 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 が 私 法 上 無 効 で あるという 考 え 方 自 体 がなく 不 当 労 働 行 為 に 対 する 救 済 はすべて 行 政 機 関 である 全 国 労 働 関 係 局 の 救 済 命 令 にゆだねられ 司 法 裁 判 所 は 同 局 が 出 した 救 済 命 令 を 司 法 審 査 する 場 合 を 除 いては これに 関 与 しないものとされている このような 労 働 事 情 及 び 法 律 制 度 の 差 異 に 照 らせば 中 間 収 入 を 控 除 してバックペイを 命 ずるという 米 国 における 取 扱 いは 我 が 国 のバックペイの 解 釈 にそのままとり 入 れるべきものではなく むしろ 既 に 述 べたように 労 働 委 員 会 の 救 済 命 令 では 中 間 収 入 はこれを 控 除 すべきでないと することが 我 が 国 の 労 働 事 情 及 び 法 律 制 度 に 最 もよく 合 致 する 解 釈 であると 考 える 以 上 の 次 第 であって 得 べかりし 賃 金 相 当 額 全 額 の 支 払 いを 命 じた 上 告 委 員 会 の 本 件 バックペイ 命 令 には 中 間 収 入 を 控 除 しない 点 においてなんらの 違 法 はなく また 上 告 委 員 会 が 中 間 収 入 の 控 除 以 外 の 点 でその 裁 量 権 の 行 使 を 誤 ったことについては なんら の 主 張 立 証 がないのであるから 結 局 本 件 バックペイ 命 令 を 違 法 とする 被 上 告 人 の 主 張 は 理 由 がないといわなければならない よって 本 件 は 右 と 異 なる 判 断 に 立 つ 原 判 決 を 破 棄 し 第 一 審 判 決 を 取 り 消 し 被 上 告 人 の 本 件 救 済 命 令 の 取 消 しを 求 める 請 求 を 棄 却 する 判 決 をすべきものと 考 える 裁 判 官 Z2 同 Z3 同 Z4 同 Z5 の 反 対 意 見 は 次 のとおりである 一 労 働 組 合 法 ( 以 下 法 という ) 二 七 条 に 定 める 労 働 委 員 会 の 救 済 命 令 制 度 の 趣 旨 目 的 及 び 救 済 命 令 の 内 容 の 決 定 について 労 働 委 員 会 に 与 えられた 裁 量 権 に 関 して 多 数 意 見 の 説 くところは おおむねこれを 支 持 すべきものと 考 える しかし 多 数 意 見 が 法 七 条 一 号 に 違 反 する 労 働 者 の 解 雇 に 対 する 救 済 命 令 としての 原 職 復 帰 及 びいわゆるバックペイ 命 令 の 趣 旨 目 的 に 関 して 説 くところについては わ れわれはこれに 賛 同 することができない すなわち 多 数 意 見 は 不 当 労 働 行 為 として の 解 雇 を 被 解 雇 者 個 人 の 雇 用 関 係 上 の 権 利 ないしは 利 益 に 対 する 侵 害 と 当 該 使 用 者 の 事 業 所 における 労 働 者 らの 組 合 活 動 一 般 に 対 する 侵 害 との 両 面 においてとらえ 救 済 命 令 の 内 容 もまた この 両 面 における 侵 害 の 結 果 の 除 去 という 観 点 から 考 慮 決 定 され るべきものとしているが この 点 については われわれは むしろ 端 的 に 使 用 者 の 事 業 所 における 組 合 活 動 一 般 に 対 する 侵 害 の 面 に 着 目 して 一 元 的 統 一 的 にこれをとら え 救 済 命 令 についても 専 ら 右 の 観 点 からその 必 要 性 と 適 切 性 を 判 断 してその 内 容 を 決 定 すべきものと 考 えるのであり このことは ひいては 本 件 の 処 理 に 関 する 結 論 の 差 異 にも 導 くのである そもそも 法 七 条 一 号 が 労 働 者 の 正 当 な 組 合 活 動 の 故 をもってする 解 雇 その 他 の 不 利 益 取 扱 いを 不 当 労 働 行 為 として 禁 止 しているのは 個 々の 労 働 者 の 雇 用 関 係 上 の 権 利 な いしは 利 益 の 保 護 のためというよりは むしろ 使 用 者 が このような 権 利 ないしは 利 益 の 侵 害 という 手 段 により 自 已 の 事 業 所 における 当 該 労 働 者 を 含 む 労 働 者 らの 団 結 権 -7-
及 び 団 体 交 渉 権 その 他 の 団 体 行 動 権 の 行 使 に 干 渉 し これを 抑 圧 しようとすることを 封 ずるためである 使 用 者 が 正 当 な 組 合 活 動 をした 労 働 者 に 対 し その 故 をもって 解 雇 その 他 の 不 利 益 取 扱 いをする 行 為 は あるいは 当 該 労 働 者 をその 事 業 所 から 排 除 するこ とにより あるいは 不 利 益 を 課 することの 威 嚇 力 により 当 該 事 業 所 における 労 働 者 ら の 正 当 な 組 合 活 動 に 対 して 抑 圧 的 ないしは 制 約 的 効 果 を 及 ぼすものであって 法 が 不 当 労 働 行 為 としてこのような 行 為 を 禁 止 しているゆえんも そこにあるのである 正 当 な 組 合 活 動 の 故 をもってする 解 雇 その 他 の 不 利 益 取 扱 いの 不 当 労 働 行 為 性 が 右 の 点 にあるとすれば これに 対 する 労 働 委 員 会 の 救 済 命 令 もまた これらの 行 為 の 組 合 活 動 一 般 に 対 する 抑 圧 的 制 約 的 効 果 の 除 去 に 向 けられるべきであり 具 体 的 には 不 当 労 働 行 為 の 内 実 をなす 不 利 益 そのものを 除 去 し このような 不 当 労 働 行 為 がなかった 場 合 の 状 態 にかえすのに 役 立 つような 内 容 の 命 令 を 発 するということにならざるをえな い 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 に 対 する 救 済 命 令 として 被 解 雇 者 の 原 職 復 帰 とバックペ イが 命 ぜられるのは 専 ら 右 の 趣 旨 によるものとして 理 解 すべきである 二 本 件 における 問 題 は 不 当 労 働 行 為 により 解 雇 された 労 働 者 が 原 職 復 帰 までの 間 に 他 で 就 労 して 収 入 を 得 た 場 合 バックペイ 命 令 としては 原 則 として 得 べかりし 賃 金 相 当 額 から 右 の 中 間 収 入 の 額 を 控 除 しなければならないかどうかである 一 つの 見 方 から すれば 右 の 場 合 被 解 雇 者 は 解 雇 によって 事 実 上 自 由 となった 労 働 力 を 利 用 した 対 価 として 一 定 の 収 入 を 取 得 した 限 度 において 解 雇 によって 受 けた 雇 用 関 係 上 の 不 利 益 を 回 復 したものと 考 えられなくもない さきの 当 裁 判 所 昭 和 三 六 年 (オ) 第 五 一 九 号 同 三 七 年 九 月 一 八 日 第 三 小 法 廷 判 決 民 集 一 六 巻 九 号 一 九 八 五 頁 及 び 本 件 の 第 一 審 判 決 原 判 決 は いずれもこのような 見 解 をとるものと 認 められる しかしながら 前 述 のように 不 当 労 働 行 為 としての 解 雇 を 組 合 活 動 に 対 する 侵 害 と してとらえ これに 対 する 救 済 命 令 の 内 容 を 専 ら 組 合 活 動 一 般 に 対 する 抑 圧 的 制 約 的 効 果 を 除 去 して 法 の 所 期 する 労 使 関 係 秩 序 の 回 復 確 保 をはかるという 観 点 から 決 定 す べきものと 考 えるときは 被 解 雇 者 の 中 間 収 入 の 有 無 は 救 済 命 令 において 必 要 に 応 じて 顧 慮 されるべき 一 要 素 にすぎないものとみるべきであるのみならず これを 考 慮 する 場 合 においても 被 解 雇 者 の 他 での 就 労 による 賃 金 の 取 得 と 解 雇 がなかった 場 合 におけ る 従 前 どおりの 就 労 によるそれとを 当 然 に 同 等 視 することはできない 被 解 雇 者 の 他 で の 就 労 は 通 常 解 雇 期 間 中 における 生 計 維 持 のためにやむなくとられる 措 置 であり しかも 労 働 の 種 類 性 質 内 容 労 務 環 境 その 他 の 就 労 をめぐる 諸 条 件 等 の 相 違 に より その 者 が 受 ける 負 担 にはおのずから 大 小 の 差 があるし また 就 職 の 難 易 によっ ては 就 労 に 至 るまでの 精 神 的 肉 体 的 物 質 的 負 担 にも 看 過 することのできないもの がある これらの 事 情 は 被 解 雇 者 及 びこれと 同 じ 立 場 に 立 つ 可 能 性 をもつ 他 の 労 働 者 らの 眼 からみて 右 の 中 間 収 入 を 従 前 の 職 場 における 就 労 の 継 続 によって 得 る 賃 金 と 当 然 に 同 等 視 することを 困 難 ならしめるものであって このことは 前 述 した 解 雇 の 抑 圧 的 制 約 的 効 果 の 除 去 という 観 点 からみるときは 決 して 無 視 することのできない 要 素 である このようにみてくると 中 間 収 入 があったからといって 当 然 にそれだけ 被 害 の 回 復 が あったとすることはできないのであって 前 記 のような 諸 般 の 事 情 に 照 らし 組 合 活 動 一 般 に 対 する 侵 害 の 除 去 の 観 点 から 右 の 中 間 収 入 の 取 得 をもって 被 害 の 回 復 があった -8-
とみるべきかどうか また どの 程 度 に 回 復 があったとみるべきかを 検 討 し 救 済 の 必 要 性 との 関 係 においてその 控 除 の 要 否 及 び 程 度 を 決 定 すべきものといわなければならな い そればかりでなく 除 去 されるべき 組 合 活 動 一 般 に 対 する 侵 害 の 程 度 は 解 雇 の 具 体 的 事 情 に 依 存 するところ 少 なくないのであり 救 済 命 令 の 内 容 を 定 めるにあたっては かような 解 雇 の 事 情 をもあわせ 考 えなければならないのは 当 然 であろう これらすべて は 複 雑 な 要 素 の 総 合 的 考 慮 に 基 づく 微 妙 な 判 断 を 要 する 問 題 であり 法 は まさに その 故 に これについての 適 切 な 決 定 を 労 働 問 題 につき 専 門 的 知 識 経 験 を 有 する 労 働 委 員 会 の 裁 量 にゆだねたものと 解 されるのである それ 故 右 の 点 に 関 する 労 働 委 員 会 の 決 定 を 審 査 する 司 法 裁 判 所 としては その 決 定 が 上 記 の 諸 事 情 に 照 らしてみて 労 働 委 員 会 がこれらの 事 情 を 公 正 かつ 誠 実 に 考 慮 し 法 の 趣 旨 に 沿 って 判 断 を 行 った 結 果 と は 考 えられないほどの 明 白 な 不 合 理 性 を 有 する 場 合 にのみ これを 裁 量 権 の 限 界 を 逸 脱 するものとして 違 法 とすべきものと 考 える 前 記 の 当 裁 判 所 昭 和 三 六 年 (オ) 第 五 一 九 号 同 三 七 年 九 月 一 八 日 第 三 小 法 廷 判 決 は 上 記 説 示 と 抵 触 する 限 度 において 変 更 されるべきものと 認 める 三 これを 本 件 についてみると 原 審 の 適 法 に 確 定 したところによれば 上 告 補 助 参 加 人 X1 外 五 名 は 本 件 不 当 労 働 行 為 である 解 雇 を 受 けたのち 他 のタクシー 会 社 に 自 動 車 運 転 手 として 雇 用 され 賃 金 を 得 ていたものであるところ 多 数 意 見 は 右 の 中 間 収 入 がタクシー 会 社 における 自 動 車 運 転 手 としての 就 労 によるものである 点 において 従 前 の 就 労 による 賃 金 の 取 得 と 性 質 内 容 を 同 じくすることを 理 由 として 解 雇 による 個 人 的 な 経 済 的 被 害 の 救 済 という 観 点 からは 当 然 にその 控 除 を 考 慮 すべきものとし また 当 時 のタクシー 業 界 における 運 転 手 の 他 会 社 への 転 職 が 比 較 的 頻 繁 かつ 容 易 であり 本 件 においても 前 記 上 告 補 助 参 加 人 らが 解 雇 後 比 較 的 短 期 間 内 に 他 に 就 職 していること 等 の 事 実 を 挙 げて 組 合 活 動 一 般 に 対 する 侵 害 除 去 の 観 点 からも 解 雇 による 被 解 雇 者 の 打 撃 及 び 労 働 者 らの 組 合 活 動 意 思 に 対 する 制 約 的 効 果 がいずれも 比 較 的 軽 少 であったもの と 認 め これらの 点 から 他 に 特 段 の 理 由 が 示 されない 限 り バックペイの 金 額 の 決 定 にあたって 右 中 間 収 入 の 控 除 を 全 く 不 問 に 付 することは 労 働 委 員 会 の 裁 量 権 行 使 の 合 理 的 限 界 を 超 えているものと 断 じている しかしながら われわれは 多 数 意 見 のように 被 解 雇 者 の 個 人 的 な 経 済 的 被 害 の 救 済 と いう 観 点 を 持 ち 出 すことに 反 対 であるのみならず 右 の 中 間 収 入 の 取 得 を 従 前 の 就 労 の 継 続 による 賃 金 の 取 得 と 同 等 視 すべきかどうか これによりどの 程 度 被 害 の 除 去 があっ たとみるべきかについても われわれは 前 述 のように 右 のような 両 労 務 の 性 質 内 容 の 同 一 性 や 転 職 の 容 易 性 頻 繁 性 のほかに なおさまざまな 事 情 を 考 慮 して 判 断 され るべきものと 解 するのであり われわれの 見 解 においては 多 数 意 見 の 指 摘 する 諸 点 か ら 直 ちに バックペイの 額 の 決 定 にあたって 右 の 中 間 収 入 の 額 を 控 除 しないこととした 上 告 委 員 会 の 決 定 が 上 記 諸 事 情 を 公 正 誠 実 に 考 慮 した 結 果 の 判 断 とは 考 えられない ほど 明 白 な 不 合 理 性 を 有 するものと 断 ずることはできない そして 本 件 においては 他 に 右 のような 明 白 な 不 合 理 性 の 存 在 を 肯 認 させるような 主 張 立 証 がないのであるか ら 結 局 本 件 バックペイ 命 令 を 違 法 とする 被 上 告 人 の 主 張 は 理 由 がないとするほか はない 四 以 上 の 次 第 であるから 右 と 異 なる 判 断 に 立 つ 原 判 決 を 破 棄 し 第 一 審 判 決 を 取 り 消 -9-
し 被 上 告 人 の 本 件 救 済 命 令 の 取 消 しを 求 める 請 求 を 棄 却 する 判 決 をすべきものと 考 え る 最 高 裁 判 所 大 法 廷 -10-