第 25 回 漢 方 教 室 ( 漢 方 ) 夏 に 負 けない 漢 方 -バテない 冷 えない カゼ 引 かない- Ⅰ. 今 年 の 夏 は 暑 くなる! 気 象 庁 3ヶ 月 予 報 観 測 史 上 最 も 暑 かった 昨 年 には 及 ばないが 南 からの 湿 った 空 気 の 流 入 が 弱 まるなど 東 西 日 本 では 晴 れの 日 が 多 く 高 温 傾 向 となる 東 日 本 大 震 災 の 被 災 地 を 含 む 北 日 本 は 寒 気 の 影 響 などで 降 水 量 が 多 くなる 見 込 み 7 月 梅 雨 前 線 が 弱 まり 東 日 本 の 太 平 洋 側 から 西 日 本 では 晴 れの 日 が 多 い 北 日 本 では 平 年 より 曇 りや 雨 の 日 が 多 い 8 月 全 国 的 に 晴 れの 日 が 多 く 雷 雨 の 発 生 しやすい 時 期 がある 9 月 北 東 西 日 本 では 高 温 傾 向 で 残 暑 が 厳 しい (2011 年 6 月 23 日 気 象 庁 発 表 ) Ⅱ. 夏 ばての 今 と 昔 1 夏 ばてとは 夏 暑 さのために 体 がぐったりと 疲 れること 夏 まけ ( 広 辞 苑 ) 夏 の 暑 さで 疲 れ 動 作 や 思 考 力 が 鈍 くなること 夏 負 け ( 大 辞 泉 ) 夏 に 起 こる 身 体 の 不 調 の 総 称 2 今 と 昔 で 異 なる 生 活 環 境 ( 一 昔 前 の 夏 ばて) 高 温 多 湿 の 夏 食 欲 低 下 や 食 事 の 偏 り 冷 たい 飲 食 や 水 分 の 過 剰 摂 取 などが 弱 った 胃 腸 機 能 をさらに 低 下 させる 大 量 の 発 汗 睡 眠 不 足 など ( 現 在 の 夏 ばて) 冷 房 による 室 内 外 の 大 きな 温 度 差 自 律 神 経 失 調 症 状 (めまい 頭 痛 など)もさらに 加 わる 1
Ⅲ. 夏 をのりきる 養 生 法 貝 原 益 軒 (1630~1714) 養 生 訓 1) 季 節 と 朝 起 き 寒 期 はおそく 起 きて 暑 期 は 早 く 起 きるのがよい いかに 暑 期 でも 風 に 当 たって 寝 て はいけない 眠 っているうちに 風 に 当 たってはいけない また 扇 であおがせてもいけ ないのである 2) 夏 の 冷 水 夏 は 気 が 盛 んに 発 生 し 汗 が 出 て 皮 膚 が 大 いに 開 くため 外 邪 が 侵 入 しやすい 涼 風 に 長 く 当 たってはいけない 入 浴 したあとで 風 に 当 たってはいけない さらに 夏 は 伏 陰 (ふくいん)といって 陰 気 が 体 内 にかくれているから 食 物 の 消 化 がお そい だからなるべく 少 なめに 飲 食 をするがよい 温 かいものを 食 べて 脾 胃 をあたた めるがよい 冷 水 を 飲 んではいけない 冷 たい 生 ものはすべてよくない 冷 えた 麺 も 多 く 食 べてはいけない 3) 夏 期 の 養 生 四 季 の 中 で 夏 はもっとも 保 養 に 心 がけなければならない 霍 乱 (かくらん)( 暑 気 あたり の 諸 病 ) 中 暑 (ちゅうしょ)( 暑 気 あたり) 食 傷 (しょくしょう)( 食 べすぎ) 泄 瀉 (せっしゃ)( 下 痢 と 嘔 吐 ) 瘧 痢 (ぎゃくり)( 熱 をともなう 下 痢 )などにかかりやすい 冷 えた 生 ものの 飲 食 を 禁 じて 注 意 して 保 養 するがよい 夏 にこれらの 病 気 になると 元 気 を 失 い 衰 弱 してしまう ( 講 談 社 学 術 文 庫 より 引 用 ) Ⅳ. 漢 方 からみた 夏 ばて 暑 邪 ( 夏 の 暑 さ) 腠 理 (そうり) つまり 皮 膚 が 開 いて 外 邪 が 進 入 する 体 内 に 熱 がたまる 体 がほてる 寝 苦 しい 微 熱 が 出 る など 冷 たい 飲 食 で 脾 胃 ( 胃 腸 )の 機 能 が 低 下 する 食 欲 が 低 下 する 胃 がもたれる 腹 痛 や 下 痢 を 生 じる など もともと 胃 腸 が 弱 いと 夏 ばてしやすい! 気 ( 元 気 生 命 エネルギー)を 十 分 に 作 れない だるい 疲 れやすい など 2
Ⅴ. 胃 腸 虚 弱 チェックリスト ( 東 海 大 学 オリジナル) 食 後 に 眠 気 やだるさが 生 じる 過 食 すると 胃 がもたれやすい 少 し 食 べるとすぐにおなかがいっぱいになる 食 べるのが 遅 い 空 腹 で 脱 力 感 を 覚 える 胃 のあたりでチャポチャポと 水 の 音 がする 温 かい 飲 食 物 を 好 む 寒 さや 冷 たい 飲 食 で 腹 痛 や 下 痢 を 起 こす 軟 便 から 下 痢 傾 向 あるいはコロコロ 便 である 胃 下 垂 といわれたことがある あてはまるものは 1 点 多 少 あてはまるものは 0.5 点 として 計 算 する 合 計 3 点 以 上 であれば 胃 腸 虚 弱 がかなり 疑 われる ( 合 計 10 点 満 点 ) Ⅵ. 節 電 しながら 上 手 に 夏 ばてを 予 防 1) 冷 房 温 度 をうまく 調 節 する 28 度 がオススメ 5 度 以 上 の 温 度 差 は 身 体 の 温 度 調 節 機 構 がうまく 働 かない! 2)こまめに 上 着 を 脱 ぎ 着 する 超 クールビズを 利 用 しよう 3) 扇 風 機 や 除 湿 機 能 をうまく 使 う 扇 風 機 やうちわは 体 感 温 度 を 約 2 度 下 げる 冷 房 と 併 用 するときは 風 向 きを 天 井 に 向 けることがポイント! ただし 熱 中 症 にならないように 注 意 が 必 要! 4) 就 寝 時 は 扇 風 機 や 自 然 の 風 が 心 地 よい 網 戸 やすだれ 風 鈴 などを 利 用 する ( 昔 を 思 い 出 して 蚊 帳 なども 風 情 があるかもしれない) 扇 風 機 は 自 然 風 モードで 首 振 りにするか 方 向 を 天 井 に 向 ける 全 身 を 冷 やさなくても 頭 と 後 頚 部 を 冷 やすとよい 冷 房 を 使 うなら 設 定 温 度 に 気 をつけて 必 ずタイマーにする 5) 冷 たい 飲 み 物 をがぶ 飲 みしない 胃 腸 を 冷 やすと 消 化 機 能 の 低 下 を 招 く オススメはぬるめのミントティー! ミントには 食 欲 増 進 や 胃 腸 機 能 を 高 める 作 用 がある! 3
6) 良 質 のたんぱく 質 ビタミン ミネラルを 摂 る バランスよく 摂 取 することが 夏 ばて 予 防 に 効 果 的! 豚 肉 や 豆 類 に 含 まれるビタミン B 群 (1 6 12)は 糖 質 の 代 謝 を 助 ける 7) 刺 激 の 強 い 食 べ 物 は 食 欲 を 増 進 する 辛 いもの スパイス 酸 味 (レモン 酢 など)などは 胃 酸 分 泌 を 亢 進 する 8) 夏 太 りに 注 意 する 夏 ばて 防 止 と 考 えて 食 べ 過 ぎないこと! バランスのよい 食 事 を 心 がける 9) 適 度 な 運 動 をする 朝 夕 の 涼 しい 時 間 帯 に 適 度 の 汗 をかくことは 体 温 調 節 のために 重 要 である 10)ぬるめのお 風 呂 につかる 半 身 浴 などはリラックス 効 果 がある Ⅶ. 夏 ばてと 漢 方 薬 1 だるい 気 力 が 出 ない 1 清 暑 益 気 湯 [136](せいしょえっきとう) 夏 ばて 一 般 / 動 悸 を 感 じる( 脱 水 傾 向 になった 夏 ばてによい) 2 補 中 益 気 湯 [41](ほちゅうえっきとう) 体 力 や 気 力 が 低 下 / 食 欲 がない/ 寝 汗 をかく/ 微 熱 がある ( 胃 腸 の 不 調 をきたした 夏 ばてによい) 3 帰 脾 湯 [65](きひとう) 補 中 益 気 湯 が 効 かない(だるさがとれない/ 食 欲 が 出 ない) 4 十 全 大 補 湯 [48](じゅうぜんたいほとう) 体 力 や 気 力 が 低 下 / 貧 血 気 味 / 顔 色 が 悪 い 5 半 夏 白 朮 天 麻 湯 [37](はんげびゃくじゅつてんまとう) 胃 がもたれる/めまいやふらつきがある/ 水 分 の 取 りすぎ 2 下 痢 食 欲 低 下 1 六 君 子 湯 [43](りっくんしとう) 食 欲 がない/ 胃 がもたれる( 最 もよく 用 いる) 2 胃 苓 湯 [115](いれいとう) のどが 渇 く/ 尿 量 が 少 ない/ 消 化 不 良 3 人 参 湯 [32](にんじんとう) 下 痢 傾 向 / 尿 量 が 多 い/ 唾 液 がたまる/ 手 足 が 冷 える 4 真 武 湯 [30](しんぶとう) 明 け 方 の 下 痢 / 寝 冷 え/ 横 になりたい/ 腹 がごろごろ 鳴 る/ふわふわする 5 半 夏 瀉 心 湯 [14](はんげしゃしんとう) みぞおちの 張 りとつかえ 感 / 下 痢 傾 向 / 腹 がごろごろ 鳴 る 4
3 めまい 頭 痛 1 苓 桂 朮 甘 湯 [39](りょうけいじゅつかんとう) めまい 一 般 /のぼせ/ 頭 痛 ( 最 もよく 用 いる) 2 半 夏 白 朮 天 麻 湯 [37](はんげびゃくじゅつてんまとう) 胃 がもたれる/だるい/ 気 力 がない 3 五 苓 散 [17](ごれいさん) のどが 渇 く/ 水 を 飲 んだ 割 に 尿 量 が 少 ない/ 顔 や 手 足 がむくむ/ 頭 が 重 い/ 吐 き 気 を 伴 う 頭 痛 / 熱 中 症 4 冷 え( 冷 房 病 ) 1 当 帰 四 逆 加 呉 茱 萸 生 姜 湯 [38](とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) 手 足 が 冷 える/ 冬 にしもやけができる( 最 もよく 用 いる) 2 当 帰 芍 薬 散 [23](とうきしゃくやくさん) 手 足 が 冷 える/むくむ/ 血 色 不 良 / 月 経 困 難 3 加 味 逍 遙 散 [24](かみしょうようさん) 発 作 性 ののぼせ/ 自 律 神 経 失 調 症 状 / 更 年 期 症 状 / 不 眠 /イライラ 5 夏 かぜ 夏 かぜの 特 徴 体 がほてり 喉 や 目 が 赤 くなり 口 渇 吐 き 気 や 下 痢 などの 胃 腸 症 状 を 引 き 起 こす 寒 気 などはほとんどない 一 般 に 体 を 温 める 葛 根 湯 ( 若 者 向 け)や 麻 黄 附 子 細 辛 湯 ( 高 齢 者 向 け)はあまり 向 かない! 1 参 蘇 飲 [66](じんそいん) 夏 かぜの 第 一 選 択 薬 ( 胃 腸 症 状 と 倦 怠 感 ) 食 欲 がない/ 胃 がもたれる/ 元 気 が 出 ない/だるい/ 体 が 重 い 2 藿 香 正 気 散 [エキス 剤 にはない](かっこうしょうきさん) 夏 かぜの 漢 方 薬 として 有 名 だがエキス 剤 にはない 3 葛 根 湯 [1](かっこんとう) 4 麻 黄 附 子 細 辛 湯 [127](まおうぶしさいしんとう) 冷 房 で 冷 え 過 ぎてかかったかぜ/ 悪 寒 / 体 表 面 が 冷 たい Ⅷ. 熱 中 症 1 熱 中 症 とは 身 体 の 中 と 外 の 暑 さによって 引 き 起 こされる さまざまな 身 体 の 不 調 のこと 2 熱 中 症 の 病 理 人 間 の 体 温 は 視 床 下 部 の 体 温 中 枢 で 一 定 に 保 たれるようにコントロールされている 高 温 多 湿 の 環 境 の 中 で 水 分 の 補 給 を 行 わずに 長 時 間 活 動 を 続 けていると 体 温 の 上 昇 と 脱 水 循 環 不 全 を 生 じる 5
3 症 状 と 治 療 1) 軽 症 立 ちくらみ/ 軽 いめまい/ふくらはぎの 筋 肉 痙 攣 /こむら 返 り/ 顔 色 不 良 / 脈 拍 数 や 呼 吸 数 の 増 加 など 日 陰 で 休 む 水 分 を 補 給 する 2) 中 等 症 頭 痛 / 吐 き 気 / 嘔 吐 / 激 しいめまい/ 強 い 倦 怠 感 / 下 痢 / 体 温 の 軽 度 上 昇 など 病 院 にかかり 補 液 を 受 ける 必 要 がある 3) 重 症 意 識 障 害 / 過 呼 吸 /38 度 以 上 の 体 温 上 昇 / 血 圧 低 下 /ショック 症 状 など 全 身 の 臓 器 の 障 害 が 生 じ 死 に 至 ることもある! 救 急 車 で 救 命 医 療 を 行 う 医 療 施 設 に 搬 送 し 入 院 治 療 の 必 要 がある 6