年 金 と 高 齢 者 就 業 - 在 職 老 齢 年 金 と 高 齢 者 雇 用 継 続 給 付 - 指 導 教 員 1 はじめに 在 職 老 齢 年 金 のしくみ.1 60 代 前 半 本 節 では,60 歳 以 上 65 歳 未 満 の 在 職 老 齢 年 金 の 計 算 方 法 を 説 明 する. 働 かないときの 年 金 支 給 額 を a 万 円, 労 働 所 得 を y 万 円 とする.(a, y) の 組 合 せごとに, 年 金 支 給 をどのくらい 減 額 するのかは 次 の 計 算 式 で 定 められ ている 1. 0 a + y 8 a+y 8 a 8, 8 a y 46 y if a 8,y 46 46+a 8 + y 46 a 8,y 46 46 + y 46 a 8,y 46 ただし, 減 額 の 大 きさが 支 給 額 a を 上 回 るときは, 支 給 額 はゼロになる.マ イナスの 支 給 ( 課 税 ) はおこなわれない. [Figure 1 is here] 図 1 は, 上 の 5 通 りの 場 合 分 けを 図 示 したものである. 領 域 1 は 減 額 のな い 部 分,すなわち 労 働 に 対 するペナルティのない 部 分 を 表 している. 領 域, 3 は 労 働 所 得 が 46 万 円 を 超 えない 部 分 であり, 上 の 計 算 式 から 分 かるように, 労 働 の 限 界 損 失 は 0.5 である. 領 域 4,5 は 労 働 所 得 が 46 万 円 を 超 える 部 分 を 表 す.この 領 域 における 労 働 の 限 界 損 失 は 1 である. 以 下 では,(a, y) の 組 合 せごとに, 実 質 所 得 を 導 出 する. 労 働 のペナルティ が 支 給 額 を 上 回 るとき, 年 金 支 給 額 はゼロという 端 点 解 となるため, 領 域 ご とに 精 査 する 必 要 がある. 1 日 本 年 金 機 構 http://www.nenkin.go.jp/ 1
領 域 1 労 働 のペナルティがないため, 実 質 所 得 は, I 1 = y + a (1) である. 領 域 年 金 支 給 額 は, である. a a + y 8 = a y +8 (i) y a +8のとき, 年 金 支 給 額 はゼロである. 実 質 所 得 は, () I H = y +0=y (3) となる. 上 付 きの H は, 労 働 所 得 が 多 いことを 表 している. (ii) y a +8のとき, 実 質 所 得 は, I L = y + a y +8 = y + a +8 である. 上 付 きの L は, 労 働 所 得 が 少 ないことを 表 している. (4) 領 域 3 年 金 支 給 額 は, a y (5) である. 領 域 3 では,a 8 >y/ が 成 立 しており, 支 給 額 がゼロになるこ とはない. 実 質 所 得 は, ³ I 3 = y + a y = y + a (6) である. 領 域 4 年 金 支 給 額 は, ³ a 37 a + y = a y +37 (7) である. (i) y a/+37のとき, 支 給 額 はゼロになる. 実 質 所 得 は, I4 H = y (8) である. (ii) y a/+37のとき, 実 質 所 得 は, ³ a +37 I4 H = y + y = a +37 (9)
である. 領 域 5 年 金 支 給 額 は, a (y 3) = a +3 y (10) である. (i) y a +3のとき, 支 給 額 はゼロになる. 実 質 所 得 は, I5 H = y (11) である. (ii) y a +3のとき, 実 質 所 得 は, I5 L = y +(a +3 y) =a + 3 (1) である. [Figure is here] 図 は,(a, y) 平 面 上 に 実 質 所 得 を 図 示 したものである. 全 体 では 6 つの 領 域 に 分 割 される. 左 下 の 三 角 形 の 領 域 ではペナルティが 課 されないため, 実 質 所 得 は y + a で 与 えられる. 左 上 の 折 れ 線 を 境 界 とする 領 域 では 年 金 支 給 額 がゼロとなるため, 実 質 所 得 は 労 働 所 得 y である. 他 の 4 つの 領 域 では, 労 働 所 得 が 46 万 円 を 超 えるか 超 えないかにより 性 質 が 異 なっている.46 万 円 を 超 えない 領 域 では, 労 働 の 限 界 損 失 が 0.5 であるため, 労 働 所 得 が 1 万 円 増 えると 実 質 所 得 が 5 千 円 増 える. 他 方,46 万 円 を 超 える 領 域 では 労 働 の 限 界 損 失 が 1 であるため, 労 働 所 得 が 1 万 円 増 えると 年 金 支 給 額 が 1 万 円 減 ら されるため, 実 質 所 得 は 労 働 所 得 に 依 存 しない. 図 を 下 から 上 へと 見 ることにより, 決 められた 年 金 支 給 額 のもとで, 労 働 所 得 と 実 質 所 得 の 関 係 を 調 べることができる.たとえば, 年 金 支 給 額 が 18 ~8 万 円 の 範 囲 の 比 較 的 受 給 者 数 が 多 いと 思 われる 範 囲 に 注 目 しよう.この 範 囲 では, 労 働 所 得 が 増 えるにつれて,4 つの 領 域 をまたぐことが 分 かる. 一 番 下 の 領 域 では, 労 働 のペナルティが 課 されないため, 稼 いだ 分 だけ 実 質 所 得 が 増 加 する. 実 質 所 得 が 8 万 円 を 超 えると, 年 金 支 給 の 減 額 が 開 始 され る. 下 から 番 目 の 領 域 では, 労 働 所 得 が 1 万 円 増 えると, 実 質 所 得 が 5 千 円 増 加 する. 次 に, 労 働 所 得 が 46 万 円 を 超 えると, 労 働 の 限 界 損 失 が 1 で ある 領 域 に 入 るため, 実 質 所 得 は a/+37で 一 定 である. 最 後 に, 一 番 上 の 領 域 では 年 金 支 給 額 はゼロとなり, 労 働 所 得 と 実 質 所 得 が 一 致 する. 図 3 は, 労 働 所 得 の 実 質 所 得 の 関 係 を 図 示 したものである(18 a 8). [Figure 3 is here ] 3
. 65 歳 以 上 本 節 では,65 歳 以 上 の 在 職 老 齢 年 金 の 計 算 方 法 を 説 明 する. 年 金 支 給 の 減 額 ルールは,60 代 前 半 と 比 べシンプルである. 働 かないときの 年 金 支 給 額 を b 万 円, 労 働 所 得 を y 万 円 とすると, 減 額 ルールは 次 の 計 算 式 で 定 められて いる. ( b + y 46 if b + y 46 0 b+y 46 60 代 前 半 との 主 な 違 いは 次 の 3 つである. 第 1に, 対 象 となる 年 金 給 付 が 報 酬 比 例 部 分 に 限 られていること, 第 に, 労 働 のペナルティが 生 じる 総 所 得 の 上 限 が 46 万 円 と 拡 大 していること, 第 3 に, 労 働 の 限 界 損 失 が 1 となる 領 域 が 存 在 しないことである. 前 節 同 様,(b, y) の 組 合 せごとに 実 質 所 得 を 導 出 しよう. (i) b + y 46 のとき,ペナルティは 生 じない. 実 質 所 得 は,b + y である. (ii) b + y 46 のとき, 支 給 額 は, b b + y 46 = b +46 y (13) である.ただし,マイナス 支 給 はおこなわれないため, 場 合 分 けをおこなう. (ii-1) y 46 + b のとき,(13) 式 の 年 金 が 支 給 される. 実 質 所 得 は, である. y + b +46 y = b +46+y (ii-) y 46 + b のとき, 年 金 は 支 給 されない. 実 質 所 得 は y である. 以 上 をまとめると, 実 質 所 得 は 次 式 で 与 えられる. b + y b + y 46 b+46+y I = if 46 b y 46 + b y 46 + b y (14) [Figure 4 is here] 図 4 は,(b, y) 平 面 上 に 実 質 所 得 を 図 示 したものである. 左 下 の 三 角 形 の 領 域 では 総 所 得 が 46 万 円 を 下 回 っているため, 労 働 に 対 するペナルティはおこ なわれない. 左 上 の 領 域 は 年 金 支 給 が 停 止 される 領 域 である. 中 央 部 分 は 減 額 された 年 金 が 支 給 される 領 域 を 表 す.この 領 域 における 労 働 の 限 界 便 益 は 0.5 である. 図 4 を 下 から 上 へと 見 ることにより, 年 金 給 付 額 b が 与 えられたもとでの, 労 働 所 得 b と 実 質 所 得 I の 関 係 を 調 べることができる. 図 5 の 折 れ 線 が 労 働 4
所 得 と 実 質 所 得 の 関 係 を 表 している. 破 線 は 45 度 線 であり, 折 れ 線 と 破 線 の 間 が 年 金 支 給 額 を 表 している. 図 3 と 比 較 すると, 水 平 部 分 を 含 まないシン プルな 折 れ 線 であることが 分 かる. [Figure 5 is here] 3 高 年 齢 雇 用 継 続 給 付 のしくみ 本 節 では, 高 年 齢 雇 用 継 続 給 付 について 説 明 する.この 制 度 は,60 代 前 半 の 雇 用 を 促 進 するのが 主 な 目 的 である.60 歳 時 点 の 給 与 月 額 を 基 準 とし, 支 払 給 与 月 額 が 基 準 額 の 75 %を 下 回 る 場 合 に, 決 められた 支 給 率 のもとで 給 付 を 受 けることができる 3. 60 歳 時 点 の 給 与 月 額 を y 0 円, 支 払 給 与 月 額 を y 円 としよう.このとき, 所 得 置 換 率 ( 所 得 代 替 率 )は, x = y 100 (15) y 0 で 与 えられる. 高 年 齢 雇 用 継 続 給 付 の 支 給 率 t(パーセント) は 次 の 計 算 式 で 与 えられる 4. 15 0 x 60 60(75 x) t = if x 60 x 75 (16) 0 75 x [Figure 6 is here] 図 6 は, 所 得 置 換 率 x と 支 給 率 t の 関 係 を 図 示 したものである. 置 換 率 が 60% を 下 回 るときは, 支 払 給 与 額 の 15% の 給 付 を 受 けることができる. 置 換 率 が 60% を 超 えると, 支 給 率 は 双 曲 線 に 沿 って 低 下 し, 置 換 率 が 75% に なったところで 支 給 率 はゼロとなる. 次 に,(y 0,y) の 組 合 せごとに, 給 付 後 の 実 質 所 得 I がどのようになるかを 調 べよう. (i) x 75 のとき, 給 付 がないので I = y である. (ii) x 60 のとき,15% の 給 付 を 受 けるので I =1.15y である. 高 年 齢 雇 用 継 続 基 本 給 付 金 と 高 年 齢 再 就 職 給 付 金 の 種 類 がある( 雇 用 保 険 法 第 61 条 ). 本 稿 では, 前 者 のみを 扱 う. 3 支 払 給 与 月 額 には 上 限 が 設 けられている. 上 限 は 毎 年 8 月 1 日 に 改 訂 される.たとえば, 平 成 5 年 7 月 までの 上 限 は 343,396 円 であったが,8 月 以 降 は 341,54 円 に 引 き 下 げられた.ま た,60 歳 時 点 の 給 与 月 額 には 上 限 に 加 え, 下 限 も 設 けられている.たとえば, 平 成 5 年 8 月 以 降 の 上 限 は 448,00 円, 下 限 は 69,300 円 である.さらに, 算 出 された 給 付 月 額 が 一 定 額 を 下 回 るとき, 給 付 は 受 けられない.たとえば, 平 成 5 年 8 月 以 降 の 給 付 限 度 額 は 1,848 円 に 設 定 されている. 4 一 部 簡 略 化 しているが, 本 質 的 には 変 わらない. 5
(iii) 60 x 75 のとき,(15), (16) 式 から, µ I = 1+ t y 100 0.6(75 x) = 1+ y x " = 1+ 0.6(75 y # y 0 100) y y y 0 100 =0.45y 0 +0.4y となる. 以 上 をまとめると, 実 質 所 得 は 次 式 で 与 えられる. 1.15y y 0.6y 0 I = 0.45y 0 +0.4y if 0.6y 0 y 0.075y 0 (15) y y 0.75y 0 [Figure 7 and 8 are here] 図 7 は, 平 面 (y 0,y) 上 に 実 質 所 得 を 図 示 したものである. 図 7 を 下 から 上 に 見 ることにより, 与 えられた y 0 のもとでの 労 働 所 得 y と 実 質 所 得 I の 関 係 を 図 示 することができる. 図 8 の 折 れ 線 は, 労 働 所 得 y と 実 質 所 得 I との 関 係 を 図 示 したものである. 破 線 は 45 度 線 であり, 破 線 と 実 線 の 間 が 給 付 額 を 表 している. 置 換 率 が 60% を 下 回 るとき, 労 働 所 得 が 増 えるにつれて 比 例 的 に 給 付 が 増 加 する. 置 換 率 が 60% を 超 えると 給 付 額 は 逓 減 し,70% になった 時 点 で 給 付 額 はゼロにな る. 労 働 の 限 界 便 益 をみると, 左 から 順 に,1.15, 0.4, 1 である. 経 済 学 的 な 視 点 では,この 制 度 は 置 換 率 を 60% に 誘 導 するメカニズムであるように 思 わ れる. 4 理 論 4.1 労 働 余 暇 選 択 本 節 では,.1 節 で 説 明 した 65 歳 以 上 の 在 職 老 齢 年 金 をベースに 理 論 分 析 をおこなう. 労 働 所 得 が y のときの 年 金 給 付 を, T (y) = P 1 (ȳ + P y) 0 if y ȳ P ȳ P y ȳ + P ȳ + P y (16) で 定 義 する.ここで,P は 働 かない 場 合 に 受 け 取 る 年 金 給 付,ȳ は 労 働 のペ ナルティが 課 されない 総 所 得 の 上 限 を 表 す. 現 行 制 度 では,ȳ =46 万 円 であ 6
る.また, 図 4 と 同 様 に,y (ȳ P, ȳ + P ) の 範 囲 では 追 加 的 な 1 万 円 の 労 働 所 得 に 対 して 給 付 が 5 千 円 減 額 されると 仮 定 する. 労 働 者 の 効 用 関 数 を, u = u(x, y) =x y (17) と 特 定 化 する.ここで,x は 消 費 を 表 す. 第 項 は 労 働 の 負 効 用 を 表 す.(17) 式 は, >0 の 値 が 大 きい 個 人 ほど 労 働 の 負 効 用 が 小 さいことを 意 味 してい る.たとえば, 健 康 な 高 齢 者 ほど 余 暇 の 限 界 効 用 が 大 きいとすれば, の 値 が 大 きい 個 人 ほど 健 康 であることを 意 味 する. 労 働 者 の 予 算 制 約 式 は, y + T (y) =x (18) である.(16) 式 を (18) 式 に 代 入 すると, 予 算 制 約 式 は, y + P y ȳ P x = 1(y +ȳ + P ) if ȳ P y ȳ + P y ȳ + P y で 与 えられる. (19) [Figure 9 is here] 図 9 は, 労 働 余 暇 選 択 モデルにおける 主 体 的 均 衡 を 表 している.このケー スの 最 適 所 得 は y =ȳ P である. 通 常 のモデルとは 異 なり, 予 算 線 に 凹 凸 があるため, 均 衡 の 導 出 は 複 雑 になる.たとえば,y =ȳ P が 均 衡 である ための 条 件 は 無 差 別 曲 線 が 折 れ 線 の 角 に 接 することに 加 え,y ȳ + P の 部 分 で 線 分 の 上 方 に 位 置 する( 線 分 と 交 わらない)ことが 必 要 である. 以 下 で は 順 に 場 合 分 けをして 均 衡 を 求 める. (i) 区 間 (0, ȳ P ) に 均 衡 が 存 在 するための 条 件 は, 限 界 代 替 率 が y/ である ことから, 0 <y < ȳ P y =1 x = y + P である.これより, が 得 られる. y = if <ȳ P (0) (i) 区 間 (ȳ P, ȳ + P ) に 均 衡 が 存 在 するための 条 件 は, ȳ P<y < ȳ + P y = 1 x = 1 (y +ȳ + P ) x (y ) y y for y ȳ + P 7
である. 最 後 の 条 件 は, 無 差 別 曲 線 が 接 点 を 除 いて 予 算 線 の 上 方 にあること を 意 味 している.y = / が 均 衡 となるための 前 提 条 件 は, ( ȳ P< < ȳ + P y y + 8 + 1 (ȳ + P ) 0 for y ȳ + P である. 第 の 条 件 の 左 辺 を, f(y) = y y + 8 + 1 (ȳ + P ) とおく.f(y) は,y = を 軸 とする 下 に 凸 の 放 物 線 で 表 される.したがって, 第 の 条 件 は, ( f() 0 ȳ + P if f(ȳ + P ) 0 ȳ + P と 同 値 である.これを 解 くと,ȳ + P 3 4 を 得 る. 以 上 をまとめると, が 得 られる. y = if ( ȳ P< ȳ + P 3 4 (1) (iii) 区 間 (ȳ + P, ) に 均 衡 が 存 在 するための 条 件 は, ȳ + P<y y =1 x = y x (y ) 1 y (y +ȳ + P ) for ȳ P y ȳ + P である.y = が 均 衡 となるための 前 提 条 件 は, ( ȳ + P< である.ここで, y 1 (y +ȳ + P )+ 0 for ȳ P y ȳ + P f(y) = y 1 (y +ȳ + P )+ とおく.f(y) は,y = を 軸 とする 下 に 凸 の 放 物 線 で 表 される.したがって, 第 の 条 件 は, f( ) 0 ȳ P ȳ + P f(ȳ P ) 0 if ȳ P f(ȳ + P ) 0 ȳ + P と 同 値 である. 第 1 の 条 件 より, ȳ P ȳ + P 3 4 8
を 得 る. 第 の 条 件 より, ( ȳ P ȳ + P 1 (ȳ P ) + 3 4 を 得 る.f(ȳ + P ) 0 は 常 に 成 立 するため, 第 3 の 条 件 は,ȳ + P であ る. 以 上 をまとめると, ( y ȳ P< and ȳ + P 3 4 = if ȳ P< and ȳ + P 1 (ȳ P ) + 3 4 () が 得 られる. (iv) y =ȳ P が 均 衡 であるための 条 件 は, である. 整 理 すると, ( となる.ここで, x (y ) 1 y 1 x =ȳ y y ȳ P y y +ȳ 1 (ȳ P ) 0 for y ȳ + P for y ȳ + P f(y) = y y +ȳ 1 (ȳ P ) とおく.f(y) は,y = を 軸 とする 下 に 凸 の 放 物 線 で 表 される.したがって, 第 の 条 件 は, ( f() 0 ȳ + P if f(ȳ + P ) 0 ȳ + P と 同 値 である.これを 解 くことにより, ( y =ȳ P if ȳ P ȳ + P 1 (ȳ P ) + 3 4 (3) が 得 られる. [Figure 10 is here] (0)-(3) 式 をまとめて, 平 面 (ȳ P, ȳ + P ) 上 に 最 適 所 得 y を 図 示 した のが 図 10 である. 意 味 のある 領 域 は 45 度 線 の 上 部 の 領 域 である.45 度 線 に 近 い 部 分 では, 年 金 給 付 P が 少 ないため, 減 額 ルールはあまり 意 味 を 持 たな い.したがって, 給 付 が 一 定 であるときの 最 適 所 得 である y = が 選 択 され る.45 度 線 から 離 れた 領 域 では 通 りの 可 能 性 がある. 左 上 の 領 域 では, 給 9
付 の 一 部 が 減 額 される 状 況 が 均 衡 となる. 中 央 上 方 の 領 域 では, 端 点 解 が 均 衡 となり, 減 額 が 開 始 される 直 前 の 所 得 水 準 y =ȳ P が 選 択 される. 最 後 に, 変 数 変 換 をして, 平 面 (ȳ, P) 上 に 均 衡 を 図 示 しよう. 便 宜 上, ( a =ȳ P b =ȳ + P とおく.ȳ, P について 解 くと, Ã! Ã!Ã! Ã!Ã! ȳ = 1 1 1 a = 1 os( 45 ) sin( 45 ) a P 1 1 b sin( 45 ) os( 45 ) b (4) が 得 られる.(4) 式 から, 平 面 (a, b) 上 の 点 は,(i) 原 点 のまわりに 45 回 転 し, 次 に,(ii) 原 点 を 中 心 に 1/ 倍 相 似 拡 大 することにより, 平 面 (ȳ, P) 上 の 点 に 変 換 されることが 分 かる. [Figure 11 is here] 図 11 は, 図 10 を 変 数 変 換 したものである.ȳ P 0 を 仮 定 している ため,45 度 線 の 下 の 領 域 が 意 味 のある 領 域 である. 先 に 述 べたように, 横 軸 に 近 い 部 分 では 年 金 給 付 が 少 ないため, 給 付 が 一 定 であるときの 最 適 所 得 y = が 選 択 される. 相 対 的 に 年 金 給 付 が 多 いときは, 給 付 の 一 部 が 減 額 さ れる 状 況 での 最 適 所 得 y = / が 選 択 される. 中 程 の 帯 状 の 領 域 では, 端 点 解 y =ȳ P が 選 択 される. 図 を 左 から 右 に 見 ることにより, 所 与 の 年 金 給 付 P のもとで, 減 額 ルールの 政 策 変 数 ȳ を 引 き 上 げたときの 労 働 者 の 反 応 を 調 べることができる. [Figure 1 is here] 図 1 は, 年 金 給 付 が /8 <P <3/8 の 範 囲 にあると 仮 定 し,ȳ を P か らスタートして 順 に 引 き 上 げたときの 労 働 者 の 選 択 する 所 得 水 準 を 描 いたも のである. 図 から 明 らかなように, 個 人 の 選 択 する 所 得 水 準 は 単 調 ではない. 図 1 から, 現 行 制 度 の 問 題 点 を つ 指 摘 することができる. 第 1 に, 給 付 の 減 額 ルールが 働 くインセンティブを 引 き 出 せるのは,ȳ [P + /,P + ] の 範 囲 に 限 られているという 点 である.この 区 間 は, の 値 が 大 きいほど 長 く なる.これは, 健 康 な 労 働 者 ほど,ȳ の 引 き 上 げに 反 応 して 労 働 所 得 を 増 や そうとする 可 能 性 があることを 意 味 している.しかし, 裏 を 返 せば, 健 康 に 不 安 を 抱 える 労 働 者 にとっては, 減 額 ルールはあまり 労 働 インセンティブに 影 響 を 与 えないといえるだろう. 10
第 の 問 題 は,ȳ が 3/4 P を 超 えた 直 後 に 労 働 所 得 が 急 落 する 点 である. その 理 由 は, 図 9 を 用 いて 説 明 できる.ȳ が 小 さいということは, 少 し 働 い ただけで 年 金 給 付 がストップすることを 意 味 する.そのため, 労 働 者 は 年 金 給 付 をあきらめ, 働 けるだけ 働 く 点 (y >ȳ + P の 部 分 ) を 選 択 する.こうし た 状 況 で,ȳ が 増 加 して 減 額 ルールがより 高 所 得 の 労 働 者 にも 拡 大 されたと しよう.このとき,ȳ がある 閾 値 を 超 えると, 労 働 者 は 年 金 給 付 が 一 部 減 額 される 点 (ȳ P<y<ȳ + P ) に 選 択 を 変 更 する.この 結 果, 労 働 所 得 は から / へと 半 減 する. 急 落 のタイミングは に 依 存 しないから, 健 康 な 労 働 者 も 健 康 でない 労 働 者 も 一 律 に 働 かなくなる.ȳ の 変 更 を 在 職 老 齢 年 金 の 見 直 しと 解 釈 すれば,このような 労 働 に 対 する 負 のインセンティブ 効 果 につ いて 十 分 配 慮 しながら 制 度 改 革 をおこなう 必 要 があるだろう. 5 おわりに 11
図 1 在 職 老 齢 年 金 (60 代 前 半 ) 労 働 所 得 y 領 域 4 領 域 5 46 領 域 領 域 3 8 領 域 1 O 8 年 金 支 給 額 a
図 実 質 所 得 (60 代 前 半 ) 労 働 所 得 y y a3 51 46 8 37 14 a ya O 18 8 年 金 支 給 額 a
図 3 労 働 所 得 と 実 質 所 得 (60 代 前 半 ) (18a8) 実 質 所 得 a 37 8 a O 8 a 46 37 y
図 4 実 質 所 得 (65 歳 以 上 ) 労 働 所 得 y y 46 yb O 46 年 金 支 給 額 b
図 5 労 働 所 得 と 実 質 所 得 (65 歳 以 上 )(b 46) 実 質 所 得 I 46 b 46 b O 46 b 46 b y
図 6 高 年 齢 者 雇 用 継 続 給 付 支 給 率 t 15 O 60 75 所 得 置 換 率 x
図 7 実 質 所 得 労 働 所 得 y y 0.75y y y 0.6y 0.45y 0.4y 1.15y O 60 歳 時 点 の 所 得 y
図 8 労 働 所 得 と 実 質 所 得 実 質 所 得 I 0.75y 0.69y O 0.6y 0.75y y
図 9 労 働 余 暇 選 択 モデル 消 費 x y P y P O y P y P 労 働 y
図 10 均 衡 1 y P y P 3 4 O y P
図 11 均 衡 P y P O y
図 1 比 較 静 学 ( ) y O P P P P y