金 融 危 機 シンポジウム 第 2 編 危 機 後 の 金 融 界 第 2 回 日 本 の 金 融 市 場 の 活 性 化 に 向 けて 山 澤 光 太 郎 氏 株 式 会 社 大 阪 証 券 取 引 所 取 締 役 常 務 執 行 役 員 日 時 :2010 年 7 月 28 日 ( 水 ) 場 所 : 早 稲 田 大 学 日 本 橋 キャンパス ホール 報 告 日 本 の 金 融 市 場 は 欧 米 アジアと 比 べて 落 ち 込 みが 著 しい その 要 因 は 何 か 活 性 化 に 向 けた 方 策 に 触 れたい また 政 府 の 新 成 長 戦 略 として 進 められている 総 合 取 引 所 構 想 に ついての 個 人 的 な 見 解 を 述 べる 日 本 の 金 融 市 場 の 現 状 認 識 シェアはますます 縮 小 日 本 市 場 と 欧 米 市 場 アジア 市 場 ( 中 国 香 港 上 海 韓 国 ) の 時 価 総 額 を 1999 年 末 リーマン ショック 前 の 2007 年 末 2010 年 5 月 末 のデータで また 売 買 代 金 の 推 移 を 99 年 07 年 09 年 のデータでそれぞれ 比 べてみると 時 価 総 額 売 買 代 金 ともにアジアの 伸 びが 著 しく 日 本 の 相 対 的 なシェアの 落 ち 込 みが 目 立 っている 特 に 中 国 の 3 市 場 ( 上 海 香 港 深 セ ン)の 成 長 は 著 しく この 10 年 で 日 本 市 場 を 越 えている IPO 件 数 についても 日 米 両 国 がリーマン ショック 以 前 の 水 準 に 回 復 していない 中 で アジアの 主 要 市 場 での IPO 件 数 は 07 年 と 09 年 で 大 幅 な 減 少 は 見 られない 日 本 では 新 興 市 場 の 極 端 な 低 迷 に 加 えて 海 外 市 場 での 上 場 を 目 指 す 動 きが 顕 現 化 していることもあって IPO 件 数 が 激 1
減 している 例 えば 韓 国 の 新 興 市 場 KOSDAQ(コスダック) は グローバル 競 争 力 を 保 つために 外 国 の 企 業 を 積 極 的 に 誘 致 しており すでに 日 本 の 9 社 が 主 幹 事 契 約 をしていると 報 じ られている 日 本 市 場 は 制 度 や 規 制 が 厳 しく 上 場 までに 時 間 がかかると 言 われており スピード 感 のあるアジア 市 場 での 日 本 の 上 場 企 業 は 今 後 も 増 えていくと 見 られる 次 に 主 要 取 引 所 の 時 価 総 額 収 益 力 を 比 較 すると 国 内 で 唯 一 上 場 している 大 阪 証 券 取 引 所 ( 大 証 )の 上 場 時 価 総 額 は 1320 億 円 に 過 ぎず また 世 界 の 主 要 取 引 所 のデリバティブ 取 引 高 ランキングを 見 ても 16 位 に 止 まっており 日 本 の 実 体 経 済 に 比 してプレゼンスが 低 い ある 調 査 レポートによると 10 年 後 のアジア 地 域 における 取 引 高 について 中 国 市 場 が 60% 韓 国 が 13%とシェアを 伸 ばす 一 方 で 日 本 市 場 は 4% シンガ ポール 市 場 は 2%にまで 低 下 することが 予 想 されている 日 本 の 金 融 市 場 低 迷 の 要 因 日 本 経 済 のプレゼンス 低 下 日 本 の 金 融 業 金 融 市 場 の 地 盤 沈 下 の 理 由 として 5 点 を 指 摘 したい 1 日 本 経 済 のプレゼンスの 低 下 2 他 国 に 比 べて 過 剰 な 金 融 規 制 3 他 国 に 比 べて 不 利 な 金 融 税 制 4 貧 弱 な 金 融 インフラ 5 弱 い 英 語 力 である 最 近 社 内 の 公 用 語 を 英 語 に する 企 業 も 出 てきたが 金 融 業 界 の 難 解 な 英 語 を 理 解 するのは たやすいことではない 最 近 では 日 本 向 けファンドが 大 きく 減 少 する 一 方 で アジ ア 全 体 をカバーするファンドやインド 中 国 韓 国 に 特 化 した ファンドは 増 加 傾 向 にある そうしたファンドは 比 較 的 規 制 が 緩 く 税 金 が 安 いシンガポールや 香 港 豪 州 に 多 い 同 時 に 主 要 なプレーヤーである 外 資 系 金 融 機 関 の 日 本 における 規 模 縮 小 撤 退 の 動 きも 顕 在 化 している 英 HSBC やフィデリティ バークレイズ キャピタル メ 2
リルリンチなどでは アジア 地 区 の 本 部 を 香 港 シンガポール などへシフトしており 日 本 の 収 益 規 模 はピーク 時 の 半 分 以 下 となっている 日 本 の 人 員 を 減 らし その 分 をアジアの 新 興 国 に 振 り 向 ける 動 きが 続 いている 日 系 の 大 手 証 券 会 社 について も アジアにおけるビジネス 体 制 シフトをはじめている 世 界 の 国 際 金 融 市 場 ランキングをみても 東 京 は 低 順 位 に 止 まっており 日 本 を アジア 金 融 センター にする 計 画 はもは や 瀬 戸 際 まで 追 い 詰 められている さらに 大 証 市 場 の 取 引 内 容 を 仔 細 にみると 日 経 225 先 物 取 引 における 自 己 取 引 の 比 率 は 過 去 8 年 間 で 30% 以 上 も 低 下 し ている アルゴリズム 取 引 の 増 加 や 市 場 のボラティリティの 低 下 コンプラ 上 の 制 約 等 から 国 内 でのディーリング ビジネ スは 困 難 になっていることが 見 て 取 れる 日 本 で 自 立 的 に 相 場 を 動 かしにくくなっていることは 市 場 にとって 大 きなマイナ スポイントだ 金 融 市 場 活 性 化 に 向 けた 方 策 スピード 感 を 持 って 対 応 を 金 融 庁 は 日 本 市 場 の 規 制 環 境 や 市 場 制 度 市 場 参 加 者 が 取 り 組 むべき 課 題 について スタディグループなどで 検 討 してい る 日 本 市 場 を 魅 力 的 にするためには 様 々な 課 題 があるが 取 引 所 関 連 に 課 題 として まず 外 国 企 業 に 対 する PE(Permanent Establish) 課 税 問 題 がある 次 に 現 在 のリモートメンバーシ ップ 制 度 についても 使 い 勝 手 が 悪 いところがあり 実 際 に 利 用 を 拡 大 するには 課 題 が 多 い また 日 本 の 株 式 市 場 には 立 会 場 があった 時 代 の 取 引 手 法 を そのままシステム 化 したような 固 有 のルールが 残 っており 海 外 からの 参 加 者 を 増 やす 際 の 大 きな 障 壁 になっている さらに 国 内 でヘッジファンドを 設 立 する 際 にも 金 融 商 品 3
取 引 法 によって 高 いハードルが 設 定 されている 日 本 に 助 言 機 能 だけおき ハードルが 高 い 投 資 運 用 業 はシンガポールで 行 う ファンドもある 総 合 取 引 所 への 取 り 組 み システム 統 合 のメリット 大 政 府 は 7つの 戦 略 分 野 と 21 の 重 点 施 策 を 策 定 しており 金 融 関 連 では 総 合 的 な 取 引 所 ( 証 券 金 融 商 品 )の 創 設 が 重 点 施 策 として 取 り 上 げられている 総 合 取 引 所 には 機 能 としての 概 念 と 組 織 としての 概 念 がある 海 外 の 主 要 取 引 所 は 既 に 機 能 としての 総 合 取 引 所 を 実 現 しており 一 つの 取 引 所 で さまざまな 原 資 産 の 派 生 商 品 を 幅 広 く 取 引 できるようになっている 日 本 でも 10 年 7 月 に 金 融 商 品 取 引 所 と 商 品 取 引 所 の 相 互 乗 り 入 れが 可 能 になったが 現 在 でも 監 督 官 庁 の 規 制 面 の 整 理 はなされてお らず 今 後 の 課 題 として 残 されている 一 方 で 組 織 としての 総 合 取 引 所 については 単 一 の 持 ち 株 会 社 の 下 に 証 券 取 引 所 や 金 融 取 引 所 商 品 取 引 所 がぶら 下 げる 格 好 が 想 定 されるが どのような 組 織 体 制 が 良 いのか 意 見 が 分 かれている 総 合 取 引 所 構 想 をビジネスの 面 から 考 えると 現 物 取 引 につ いては デリバティブ 取 引 に 比 べて 属 地 性 が 強 いために 国 内 独 占 の 弊 害 が 表 面 化 しやすいと 考 えられる 例 えば 日 本 では 98 年 に 有 価 証 券 取 引 に 関 する 取 引 所 集 中 義 務 が 撤 廃 され 本 邦 市 場 における 私 設 取 引 システム(PTS)の 運 営 が 可 能 にな ったが 日 本 の PTS 市 場 取 引 は 取 引 所 取 引 に 比 べて 1% 以 下 の シェアにとどまっており 新 しく 市 場 を 開 設 しても 売 買 高 を 増 やすことは 容 易 ではないということが 明 らかになっている コストの 面 から 考 えると 既 に 取 引 所 ビジネスは 装 置 産 業 化 している 特 に 最 近 では 取 引 参 加 者 から 取 引 所 システムの 4
処 理 スピードに 対 する 要 求 水 準 が 高 まっており 取 引 所 のシス テム 関 係 費 用 は 拡 大 する 一 方 だ こうした 状 況 下 国 内 外 の 主 要 取 引 所 においても システムを 自 前 で 開 発 している 取 引 所 は 少 なくなっている 東 証 はアローヘッドを 独 自 に 開 発 したが 大 証 では NASDAQ-OMX 製 の CLICK XT というシステムを 次 期 デリバティブシステムとして 利 用 することとしている 海 外 のパッケージ 製 品 を 使 っていけば 5 年 後 10 年 後 にも 自 動 的 にアップグレードが 可 能 で コストが 削 減 できると 考 えたか らである デリバティブ 取 引 はこれから 国 境 を 越 えた 厳 しい 競 争 が 予 想 され システムの 統 合 メリットも 大 きい 新 興 市 場 の 活 性 化 信 頼 される 取 引 所 目 指 す ライブドア 事 件 以 降 新 興 市 場 に 対 する 投 資 家 の 不 信 感 が 高 まり 売 買 高 の 低 迷 が 資 金 調 達 を 困 難 にし ベンチャー 企 業 の IPO 意 欲 を 減 退 させるという 負 のスパイラルに 陥 っている 大 証 の 新 しい 新 興 市 場 は 3 つのコンセプトを 掲 げ 10 年 10 月 に 新 JASDAQ として 生 まれ 変 わる 1つ 目 は 信 頼 性 2つ 目 は 革 新 性 3 つ 目 は 地 域 性 国 際 性 だ 上 場 会 社 による 相 次 ぐ 不 祥 事 への 対 応 と 流 動 性 を 向 上 するための 取 り 組 み 新 興 市 場 を 活 性 化 するための 取 り 組 みを 続 けながら 投 資 家 に 信 頼 さ れる 取 引 所 を 目 指 したい 日 本 人 は 悲 観 的 になりがちな 国 民 性 だ 少 子 高 齢 化 による 労 働 力 の 低 下 や 最 近 の 市 場 環 境 の 変 化 を 踏 まえると 今 後 は モノづくり だけに 依 存 できない 戦 後 日 本 人 が 蓄 積 して きた 1500 兆 円 もの 個 人 金 融 資 産 を 取 引 所 としてどう 活 かし ていくのか 我 々に 課 された 問 題 である 5
質 疑 応 答 Q: 日 本 企 業 が 香 港 や 台 湾 で 上 場 するのはなぜか A: 日 本 の 取 引 所 への 上 場 に 関 しては 上 場 審 査 に 係 るスピ ードや 機 関 投 資 家 をはじめとした Valuation 価 値 算 定 のあ り 方 等 に 課 題 があると 言 われている アジアの IPO 市 場 は 日 本 よりも 規 制 が 緩 やかであり 上 場 し 易 いということが 言 われ ている Q:コモディティの 取 引 所 は 必 要 か A: 日 本 の 個 人 投 資 家 の 間 で 運 用 商 品 としてコモディティ はすでに 定 着 している 品 揃 えや 取 引 仕 法 は 多 様 化 するはず だからこそ 取 引 所 は 必 要 である 6