役 員 のプライベートリスクをマネジメントする 222 東 京 海 上 日 動 リスクコンサルティング( 株 ) 経 営 リスクグループ 主 任 研 究 員 中 村 有 博 1.はじめに 2008 年 11 月 厚 生 労 働 省 の 元 幹 部 とその 家 族 が 連 続 して 襲 われるという 事 件 が 発 生 した 本 稿 執 筆 現 在 事 件 は 捜 査 中 であり 早 急 な 解 明 が 待 たれるが 報 道 によれば 犯 人 は 職 員 録 で 住 所 を 確 認 し 下 見 をしたうえで ダンボールなどを 手 配 し 宅 配 業 者 を 装 うという 周 到 な 準 備 のもと 襲 撃 した 可 能 性 が 高 いとみられている しかし このように 在 宅 中 などプライベートな 部 分 で 事 件 に 巻 き 込 まれることは 決 して 他 人 事 で はない 現 役 の 政 府 幹 部 や 著 名 企 業 の 役 員 等 であれば なおその 可 能 性 は 高 い そして 万 一 その ような 事 態 が 発 生 した 場 合 組 織 としては 重 要 な 意 思 決 定 者 を 欠 くこととなり 業 務 の 停 滞 など の 影 響 が 生 じることになる こうした 観 点 から プライベートにおけるリスクとはいえ 組 織 として 何 らかの 対 策 を 講 じるべき ではないか という 問 題 意 識 が 生 じる 実 際 に 弊 社 では そうした 問 題 意 識 を 持 つ 企 業 からの 依 頼 に 応 じてコンサルティングを 実 施 しており 問 い 合 わせも 増 えている そこで 本 稿 では 特 に 企 業 の 役 員 の 生 命 身 体 に 焦 点 をあて 上 記 の 犯 罪 事 件 等 の 他 事 故 災 害 疾 病 などを 含 めプライベートで 発 生 し 得 るリスクに 対 して 会 社 としてどのような 対 策 を 行 なうこ とができるのか( 或 いはできないのか) 以 下 に 考 察 していきたい 2.プライベートにおけるリスク リスクマネジメントにおいて どのようなリスクがあるかを 確 認 することは 第 一 のステップとなる そこで プライベートにおけるリスクにはどのようなものがあるかを 検 討 する この 点 一 例 として 下 記 の 図 表 のように 分 類 して 考 えることができる 図 表 :プライベートにおけるリスク( 例 ) 区 分 リスク( 例 ) 事 故 交 通 事 故 ( 自 動 車 自 動 二 輪 車 原 動 機 付 自 転 車 ) 危 険 性 の 高 い 運 動 (ハンググライダー 等 )の 事 故 など 事 件 窃 盗 強 盗 放 火 誘 拐 脅 迫 殺 人 テロ など 自 然 災 害 健 康 状 態 大 地 震 台 風 水 害 など 悪 性 新 生 物 ( 癌 等 ) 脳 血 管 疾 患 ( 脳 梗 塞 等 ) 心 疾 患 ( 心 筋 梗 塞 等 ) 等 の 生 命 に 係 わる 疾 患 過 労 うつ 病 など 海 外 ( 旅 行 出 張 駐 在 ) スリ 窃 盗 強 盗 脅 迫 誘 拐 殺 人 テロ など 1
3.リスクの 特 徴 と 会 社 としての 対 策 リスク 対 策 を 講 じる 場 合 リスクの 特 徴 に 応 じてその 内 容 を 検 討 する 必 要 がある そこで 上 記 に 挙 げたリスクについて その 特 徴 とそれに 応 じた 対 策 について 検 討 する (1) 事 故 日 常 生 活 における 事 故 の 典 型 的 なケースとしては 自 動 車 自 動 二 輪 車 原 動 機 付 自 転 車 による 交 通 事 故 が 挙 げられる 2007 年 中 の 交 通 事 故 による 死 傷 者 数 は 警 察 庁 発 表 によれば 1,040,189 人 (うち 死 者 数 5,744 人 )である 1 車 体 の 安 全 性 能 向 上 などにより 死 者 数 は 減 少 傾 向 にあるもの の 毎 年 100 万 人 前 後 の 死 傷 者 がいる 点 では 依 然 として 身 近 なリスクであり 事 故 内 容 によって は 生 命 の 危 機 を 招 くものである また 危 険 性 の 高 い 運 動 による 事 故 も 想 定 される 例 えば ハンググライダー ピッケル アイ ゼン ザイルなどを 使 用 する 山 岳 登 はん 航 空 機 操 縦 自 動 車 レースへの 参 加 などが 挙 げられる こうした 事 故 は 個 人 の 技 術 の 熟 練 度 が 影 響 するものと 思 われるが 常 に 一 定 のリスクを 負 い 万 一 発 生 した 場 合 は 生 命 身 体 に 大 きな 影 響 を 及 ぼす 可 能 性 が 高 い 上 記 に 挙 げるような 事 故 は 本 人 が 能 動 的 に 行 うものである 以 上 自 己 責 任 のもと 危 険 を 確 認 し 行 動 することが 原 則 である そこで 会 社 として 何 か 対 策 に 関 与 することができるかが 課 題 とな る 自 動 車 は 利 用 頻 度 の 高 い 日 常 生 活 に 必 要 不 可 欠 である そうした 観 点 から 相 手 方 の 不 注 意 等 に よる 交 通 事 故 に 巻 き 込 まれる 可 能 性 はあるものの 交 通 規 則 に 従 って 安 全 に 運 行 している 以 上 日 常 的 な 運 転 について 会 社 として 特 段 の 制 限 を 設 けることは 難 しいものと 思 われる 但 し 自 動 二 輪 車 は 自 動 車 に 比 べ 事 故 による 致 死 率 が 高 い 2 といった 点 を 考 慮 すれば 本 人 の 了 承 する 範 囲 で 乗 車 を 避 けてもらうというのも 方 法 である また 海 外 は 日 本 とは 交 通 ルールが 異 なるため 想 定 外 の 交 通 事 故 が 起 こる 可 能 性 も 高 く 本 人 の 了 承 する 範 囲 で 運 転 を 自 粛 してもらうということ も 考 えられる また 危 険 性 の 高 い 運 動 は プライベートの 充 実 や 自 己 実 現 という 側 面 を 鑑 みれば 一 概 に 自 粛 を 要 望 することは 適 切 ではないと 思 われる 但 し 具 体 的 な 内 容 に 応 じて 特 に 危 険 性 の 高 い 場 合 における 自 粛 や 実 施 回 数 の 減 少 などを 要 望 することは 検 討 の 余 地 があると 思 われる また そうした 情 報 を 会 社 として 把 握 するために 具 体 的 に 実 施 する 場 合 は その 実 施 内 容 や 実 施 場 所 等 を 事 前 に 会 社 に 届 出 てもらうことも 一 つの 方 法 である (2) 事 件 交 通 事 故 等 と 比 較 して 発 生 する 可 能 性 は 低 いが 窃 盗 強 盗 放 火 誘 拐 脅 迫 殺 人 テロな どの 事 件 に 巻 き 込 まれる 可 能 性 も 完 全 に 排 除 することはできない こうした 事 件 の 特 徴 として 不 特 定 の 人 物 を 狙 う 場 合 と 特 定 の 人 物 を 狙 う 場 合 に 区 分 することが できる 不 特 定 の 人 物 を 狙 う 場 合 の 例 としては 不 特 定 の 家 屋 を 狙 った 窃 盗 ( 空 き 巣 ) 通 り 魔 無 差 別 テロなどが 挙 げられる 例 えば 2008 年 3 月 に 発 生 した 秋 葉 原 での 無 差 別 連 続 殺 傷 事 件 が これに 当 たるが こうした 犯 行 は 予 測 可 能 性 が 低 く あらかじめ 想 定 し 対 策 を 立 てることは 容 易 ではない 一 方 で 冒 頭 に 述 べた 厚 生 労 働 省 元 幹 部 襲 撃 事 件 のように 個 人 の 社 会 的 地 位 実 績 知 名 度 収 入 等 に 応 じて 特 定 の 人 物 を 狙 うケースがある 特 にその 人 物 の 社 会 的 地 位 や 資 産 を 目 的 とし て 営 利 目 的 による 誘 拐 脅 迫 や 著 名 人 を 狙 った 襲 撃 等 は 日 本 ではそれほど 多 くないものの 著 名 企 業 の 役 員 等 は 十 分 に 留 意 しておくことが 望 まれる 2007 年 4 月 には 長 崎 市 長 が 選 挙 運 動 中 に 暴 力 団 組 員 に 射 殺 されるという 事 件 が 発 生 している 1 警 察 庁 交 通 局 2008 年 2 月 平 成 19 年 中 の 交 通 事 故 の 発 生 状 況 に 基 づく 数 値 2 自 動 二 輪 車 乗 車 中 の 致 死 率 0.94% 原 動 機 付 自 転 車 乗 車 中 の 致 死 率 0.53% 自 動 車 乗 車 中 の 致 死 率 0.31% ( 警 察 庁 交 通 局 2008 年 2 月 平 成 19 年 中 の 交 通 事 故 の 発 生 状 況 に 基 づく 数 値 ) 2
上 記 のような 事 件 に 対 しては 万 一 の 不 測 の 事 態 に 備 えてどのような 防 犯 対 策 を 整 えておくべき か またそれに 会 社 がどの 程 度 関 与 できるかが 課 題 となる 不 特 定 の 人 物 を 狙 う 犯 行 は 予 測 可 能 性 が 低 く 発 生 を 想 定 した 対 策 を 立 てることは 難 しい そ のため 対 策 としては 例 えば 自 宅 の 施 錠 強 化 や 防 犯 アラームの 設 置 など 個 人 による 対 策 が 中 心 になると 思 われる もっとも 会 社 が 個 人 宅 に 防 犯 カメラや 巡 回 等 のセキュリティサービスを 導 入 し 万 一 の 際 は 会 社 にも 情 報 が 届 くようにしておくなどにより 発 生 抑 止 や 事 件 後 の 支 援 も 可 能 である 一 方 で 特 定 の 人 物 を 狙 うケースに 対 しては 本 人 の 社 会 的 地 位 や 知 名 度 等 に 応 じて 個 別 具 体 的 に 対 応 を 検 討 することが 望 まれる 今 回 の 厚 生 労 働 省 元 幹 部 襲 撃 事 件 では 事 件 発 生 を 受 けてす ぐに 他 の 幹 部 や 元 幹 部 などに 警 察 官 の 警 護 等 の 厳 戒 態 勢 が 敷 かれた 民 間 企 業 においても 例 えば 脅 迫 状 や 怪 文 書 が 届 いている 場 合 反 社 会 的 勢 力 の 介 入 がある 場 合 重 大 なトラブルを 抱 えている 場 合 など 危 険 を 示 す 予 兆 がある 場 合 は 通 勤 帰 宅 時 の 送 迎 面 会 時 の 本 人 確 認 の 徹 底 警 護 員 の 手 配 など 状 況 に 応 じた 個 別 具 体 的 な 対 策 を 検 討 することが 望 まれる (3) 自 然 災 害 自 然 災 害 の 典 型 例 として 大 地 震 台 風 水 害 などが 想 定 される こうした 災 害 は 時 に 多 くの 人 の 生 命 身 体 を 脅 かし また 自 宅 の 損 傷 などにより 多 額 の 損 害 を 被 ることもある 特 に 大 地 震 に よる 被 害 は 広 域 かつ 甚 大 であり 内 閣 府 の 資 料 では 東 京 湾 北 部 にマグニチュード 7.3 規 模 の 地 震 が 発 生 した 場 合 死 者 数 約 11,000 人 重 傷 者 数 約 37,000 人 にのぼる 3 と 想 定 されている もっとも こうした 災 害 は 一 定 の 頻 度 で 発 生 する 故 に 経 験 則 に 基 づく 被 害 想 定 が 可 能 であり 発 生 を 想 定 した 対 策 を 立 てることができる 大 地 震 を 中 心 にこうした 災 害 が 発 生 した 場 合 第 一 に 生 命 身 体 の 安 全 を 確 保 することが 重 要 である そのうえで 役 員 は 責 任 者 として 会 社 における 業 務 復 旧 を 指 揮 する 必 要 があり 会 社 の 担 当 者 は 迅 速 に 連 絡 をとり 指 示 を 受 ける 必 要 がある そのため 会 社 としては まず 安 否 を 確 認 する 手 段 を 確 保 することが 必 要 である 状 況 によって は 役 員 本 人 が 重 症 を 負 い 病 院 に 搬 送 されていたり 行 方 不 明 となる 可 能 性 もある また 災 害 時 は 通 信 回 線 の 途 絶 や 利 用 集 中 などにより 電 話 をはじめとする 通 信 機 器 が 利 用 できず 会 社 との スムーズな 連 絡 ができない 可 能 性 がある そのため 会 社 としてはこうした 可 能 性 を 考 慮 し あらかじめ 安 否 確 認 のルール( 方 法 連 絡 ル ート 等 )や 安 否 確 認 システムの 使 用 方 法 等 を 徹 底 しておく 必 要 がある また 万 一 連 絡 の 取 れな い 場 合 に 所 在 地 を 把 握 できるように 会 社 配 布 の 携 帯 電 話 を GPS 対 応 としあらかじめ 本 人 の 許 可 を 得 ておくことで 危 機 発 生 時 に 直 ちに 位 置 情 報 を 検 索 できるようにしておくことも 方 法 であ る 更 に 通 信 手 段 を 確 保 するために 災 害 用 として 衛 星 電 話 を 自 宅 にも 用 意 することも 考 えら れる 但 し GPS による 位 置 情 報 検 索 システムを 導 入 する 際 は 位 置 情 報 が 個 人 の 機 微 な 情 報 であるこ とに 配 慮 することが 望 まれる (4) 健 康 状 態 健 康 状 態 の 悪 化 は 個 人 の 生 命 身 体 に 対 する 重 大 なリスクである 厚 生 労 働 省 の 人 口 動 態 統 計 によれば 悪 性 新 生 物 (いわゆる 癌 )といったものの 他 脳 血 管 疾 患 や 心 疾 患 など 重 大 かつ 緊 急 の 疾 病 が 死 因 の 上 位 を 占 めており 疾 病 は 事 故 や 事 件 などに 比 べて 発 生 可 能 性 の 高 い 最 も 身 近 な 3 冬 夕 方 18 時 風 速 15m/s での 設 定 ( 内 閣 府 2005 年 2 月 一 部 改 訂 首 都 直 下 地 震 対 策 に 係 る 被 害 想 定 結 果 について に 基 づく 数 値 ) 3
リスクといえる 4 また 健 康 であることは 業 務 を 行 ううえで 最 も 基 本 となる 一 方 多 忙 を 極 める 役 員 にとって 過 労 や 業 務 上 のストレスは 健 康 に 大 きく 影 響 し 場 合 によっては 業 務 が 健 康 状 態 の 悪 化 や 過 労 死 などを 招 くこともあるため 業 務 と 健 康 状 態 を 切 り 離 して 考 えることは 難 しい こうした 観 点 から 会 社 としても 健 康 面 については 配 慮 することが 望 まれる 但 し 健 康 状 態 は 個 人 の 極 めて 機 微 な 情 報 であり その 取 扱 いには 十 分 な 配 慮 が 必 要 である 大 多 数 の 会 社 では 1 年 に 1 回 程 度 の 健 康 診 断 が 行 なわれており 本 人 はその 診 断 結 果 で 自 身 の 健 康 状 態 を 把 握 しているものと 思 われる 合 わせて 産 業 医 や 保 健 師 の 設 置 を 通 じてフォローア ップする 会 社 も 多 い こうした 制 度 のうえで どのように 会 社 として 役 員 の 健 康 をマネジメント してゆくかが 課 題 となる この 点 事 前 の 健 康 促 進 施 策 として 定 期 的 な 運 動 やバランスのよい 食 事 等 の 健 康 管 理 を 推 奨 す るということは 従 来 から 広 く 用 いられている 但 し 最 終 的 に 実 施 するか 否 かは 本 人 の 問 題 であ り 会 社 として 個 人 の 健 康 促 進 に 深 く 関 与 することはなかなか 難 しい 一 方 で 万 一 の 事 態 に 備 えた 事 後 対 策 としていくつかの 方 法 が 考 えられる 例 えば 秘 書 等 が 本 人 の 健 康 状 態 既 往 歴 疾 病 投 薬 状 況 勤 務 状 況 等 を 本 人 了 承 のもと 整 理 しておき 当 然 倒 れたような 場 合 でも 迅 速 に 対 応 できる 体 制 を 想 定 しておくことも 1 つの 方 法 である また 役 員 のみ 特 別 な 人 間 ドック 等 を 行 なうという 方 法 もある 但 し 役 員 を 特 別 扱 いすることについて 税 務 上 の 課 題 が 生 じるといった 点 に 留 意 が 必 要 である また これまで 述 べた 事 故 事 件 災 害 等 の 場 合 を 含 め 執 務 不 能 となった 場 合 の 意 思 決 定 の 代 行 を 権 限 規 程 等 で 明 確 にしておくことも 危 機 管 理 対 応 として 重 要 である (5) 海 外 ( 旅 行 出 張 駐 在 ) 日 本 は 世 界 でも 治 安 の 良 い 国 として 知 られているが 海 外 では 国 地 域 によって 治 安 が 悪 い 場 合 があり 路 上 でのスリから 自 宅 への 窃 盗 強 盗 脅 迫 誘 拐 殺 人 テロに 至 るまで 様 々な 不 測 の 事 態 に 巻 き 込 まれる 危 険 性 が 日 本 に 比 べて 高 い そのため 海 外 に 旅 行 出 張 駐 在 する 場 合 は その 国 地 域 の 文 化 情 勢 を 踏 まえ 十 分 に 注 意 して 行 動 する 必 要 がある 最 近 では インドで 世 界 中 の 富 裕 層 やビジネスマンが 宿 泊 する 伝 統 的 なホテルが 武 装 集 団 によ る 襲 撃 を 受 け 200 名 近 くが 犠 牲 となり 日 本 人 ビジネスマン 1 名 が 死 亡 するという 事 件 が 発 生 し その 際 に 日 本 企 業 の 社 長 も 銃 弾 の 飛 び 交 うホテルに 閉 じ 込 められている またタイでも 反 政 府 団 体 により 空 港 が 占 拠 されるという 事 件 が 発 生 長 期 間 に 渡 り 多 数 のビジネスマンや 旅 行 者 が 足 止 めされるという 事 態 が 生 じている また 海 外 では 万 一 の 事 態 が 生 じた 場 合 でも 慣 れない 言 語 から 情 報 収 集 がスムーズにいかない 日 本 では 当 然 あるものが 手 に 入 らない 物 理 的 距 離 から 日 本 からの 支 援 をすぐに 期 待 できない といったこともしばしば 生 じ 危 機 発 生 時 の 対 応 がスムーズに 行 かない 場 合 も 多 い こうした 点 を 考 慮 し 日 本 とは 異 なる 現 地 の 地 域 性 に 応 じた 対 応 を 想 定 しておく 必 要 がある 旅 行 出 張 駐 在 などいかなる 理 由 で 渡 航 する 場 合 でも 海 外 で 安 全 を 確 保 するために 第 一 に は 本 人 が 注 意 することが 肝 心 である その 国 の 情 勢 や 事 故 事 件 事 例 を 事 前 に 確 認 し 危 険 な 場 所 に 近 寄 らず 安 全 性 の 高 い 施 設 に 宿 泊 し 目 立 たずに 用 心 して 行 動 することが 大 切 である ま た 事 故 事 件 が 発 生 した 場 合 は 直 ちに 現 地 の 日 本 大 使 館 と 会 社 に 連 絡 することが 重 要 であり そのために 例 えば 万 一 の 際 の 連 絡 先 の 整 理 や 海 外 でも 利 用 できる 携 帯 電 話 などの 通 信 手 段 を 事 前 に 確 保 しておくことは 重 要 である そのうえで 会 社 としてどこまで 関 与 できるかが 課 題 と なる この 点 まず 渡 航 理 由 により 区 分 して 考 えることができる 海 外 旅 行 は 本 人 のプライベートにお ける 判 断 の 問 題 であり 紛 争 地 域 などの 危 険 な 国 地 域 へ 渡 航 する 場 合 を 除 き 自 粛 を 促 すこと 4 2007 年 死 亡 総 数 に 占 める 構 成 割 合 : 悪 性 新 生 物 30.4%(1 位 ) 心 疾 患 15.8%(2 位 ) 脳 血 管 疾 患 11.5%(3 位 )( 厚 生 労 働 省 2008 年 9 月 平 成 19 年 人 口 動 態 統 計 ( 確 定 数 )の 概 況 に 基 づく 数 値 ) 4
はなかなか 難 しいものと 思 われる 但 し 海 外 旅 行 に 行 く 際 に 事 前 に 会 社 にも 届 け 出 てもらう など 万 一 に 備 えて 事 前 の 情 報 提 供 を 依 頼 することは 可 能 であると 思 われる 一 方 で 海 外 出 張 や 海 外 駐 在 により 赴 任 する 場 合 には 会 社 業 務 によって 海 外 に 赴 任 する 以 上 業 務 時 間 外 に 関 しても 会 社 として 安 全 確 保 に 配 慮 する 必 要 がある そのため 会 社 としては 国 地 域 の 治 安 政 治 情 勢 宿 泊 施 設 (ホテル マンション 戸 建 住 宅 ) 医 療 水 準 等 について 確 認 し 状 況 に 応 じた 安 全 対 策 を 支 援 したうえで 派 遣 することが 求 められる また 役 員 に 焦 点 をあてた 場 合 特 定 の 企 業 や 人 物 を 狙 う 脅 迫 誘 拐 などの 組 織 的 犯 罪 に 特 に 注 意 が 必 要 である 近 年 でも 特 に 中 南 米 中 東 東 南 アジアなどの 一 部 の 国 で 組 織 的 に 営 利 目 的 ( 稼 業 としている 場 合 や 組 織 活 動 資 金 の 調 達 など)や 政 治 思 想 目 的 ( 反 政 府 活 動 の 実 現 や 反 日 思 想 など)をもって 著 名 企 業 やその 役 職 員 に 対 して 爆 破 殺 人 等 の 脅 迫 や 誘 拐 を 示 唆 してく るケースもある 過 去 にも 中 南 米 中 東 東 南 アジアなどの 一 部 の 国 において 現 地 法 人 社 長 や 支 店 長 など 幹 部 が 誘 拐 殺 害 されるというケースが 発 生 しており 会 社 として 十 分 な 注 意 が 求 められる 万 一 爆 破 殺 人 誘 拐 などを 予 告 する 手 紙 電 話 Web サイトへの 書 き 込 みなどがあった 場 合 あるいは 自 宅 や 通 勤 中 などにおいて 不 審 者 による 見 張 り 尾 行 など 危 険 を 示 唆 する 兆 候 がある 場 合 は 自 宅 や 通 勤 時 の 警 備 の 強 化 身 辺 警 護 の 雇 用 別 のホテルへの 一 時 退 避 等 について 会 社 としても 協 力 することが 望 まれる 4. 課 題 プライベートか 否 かを 問 わず 会 社 がリスク 管 理 に 関 与 すればするほど 本 人 やその 家 族 は 個 人 と しての 安 全 性 を 高 め 会 社 も 意 思 決 定 者 の 不 在 や 執 務 執 行 の 停 滞 といったリスクを 低 減 することが できる この 点 で 会 社 として 関 与 することに 効 果 が 期 待 できる しかし これまで 述 べてきたとおり 会 社 が 関 与 することには 検 討 すべき 課 題 も 多 い 最 も 重 要 な 課 題 は 本 人 のプライベートな 部 分 に 対 する 配 慮 である 役 員 という 企 業 において 重 要 なポジションを 担 う 立 場 とはいえ みだりに 私 生 活 に 会 社 や 他 人 が 関 与 することを 望 まないのは 言 うまでもない 場 合 によっては 本 人 への 多 大 なストレスや 会 社 に 対 する 不 信 感 を 招 くことにもな りかねない 会 社 としても 個 人 の 自 由 を 尊 重 し 過 度 の 関 与 を 控 えることは 原 則 である そのため プライベートというセンシティブな 課 題 を 有 することを 認 識 し どこまで 会 社 は 関 与 することがで きるかという 課 題 を 常 に 検 討 する 必 要 がある また プライベートに 関 するリスクは その 内 容 によって 程 度 の 差 があるが 原 則 として 第 一 次 的 には 個 人 が 自 己 管 理 するべきものであり 会 社 が 積 極 的 な 関 与 が 期 待 されているものではない そのため 役 員 のみを 対 象 とする 場 合 には 役 員 のみを 特 別 扱 いすることに 問 題 が 生 じる 場 合 があ る 例 えば 役 員 のみを 対 象 とする 健 康 診 断 にかかる 費 用 は 役 員 に 対 する 給 与 ( 賞 与 )として 税 務 上 取 り 扱 われる 可 能 性 もある 特 定 の 人 物 や 役 職 者 等 を 対 象 に 施 策 を 考 える 場 合 は 会 社 として 行 うことの 合 理 性 を 検 討 する 必 要 がある 5.おわりに 以 上 の 考 察 を 通 して プライベートにおけるリスクとはいえ 会 社 として 関 与 できる 余 地 が 少 なか らずあることがわかる また 役 員 という 組 織 において 最 重 要 な 任 務 を 担 う 人 物 については むし ろ 会 社 による 関 与 が 求 められる 場 面 も 多 々あるものと 思 われる そのような 観 点 から プライベー トにおけるリスクだからといって 会 社 として 一 切 検 討 を 行 なわないことは 妥 当 ではない 但 し 3. 課 題 にあるとおり 考 慮 すべき 課 題 も 多 く 単 に 積 極 的 に 推 進 すればよいというも のでもない むしろ 積 極 的 過 ぎるが 故 に 弊 害 を 引 き 起 こす 可 能 性 にも 留 意 しなければならない 会 社 がプライベートのリスクをマネジメントするに 際 しては 本 人 の 社 会 地 位 役 職 担 当 業 務 リスクの 程 度 などを 総 合 的 に 考 慮 して 個 別 具 体 的 に 慎 重 かつ 柔 軟 に 行 なうことが 求 められるも のと 考 える 以 上 ( 第 222 号 2008 年 12 月 発 行 ) 5
参 考 文 献 : 1. 警 察 庁 交 通 局 2008 年 2 月 平 成 19 年 中 の 交 通 事 故 の 発 生 状 況 2. 内 閣 府 2005 年 2 月 一 部 改 定 首 都 直 下 地 震 対 策 に 係 る 被 害 想 定 結 果 について 3. 厚 生 労 働 省 大 臣 勘 合 統 計 情 報 部 2008 年 9 月 平 成 19 年 人 口 動 態 統 計 ( 確 定 数 )の 概 況 4. 外 務 省 領 事 局 2004 年 8 月 海 外 赴 任 者 のための 安 全 対 策 小 読 本 5. 外 務 省 領 事 局 2004 年 8 月 海 外 における 脅 迫 事 件 対 策 6. 外 務 省 領 事 局 2004 年 8 月 海 外 における 誘 拐 対 策 Q&A 6