デフレからの脱却と「量的・質的金融緩和」



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1. 決 算 の 概 要 法 人 全 体 として 2,459 億 円 の 当 期 総 利 益 を 計 上 し 末 をもって 繰 越 欠 損 金 を 解 消 しています ( : 当 期 総 利 益 2,092 億 円 ) 中 期 計 画 における 収 支 改 善 項 目 に 関 して ( : 繰 越

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(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

経 常 収 支 差 引 額 の 状 況 平 成 22 年 度 平 成 21 年 度 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 4,154 億 円 5,234 億 円 1,080 億 円 改 善 赤 字 組 合 の 赤 字 総 額 4,836 億 円 5,636 億 円 800 億 円 減

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

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スライド 1

( 別 途 調 査 様 式 1) 減 損 損 失 を 認 識 するに 至 った 経 緯 等 1 列 2 列 3 列 4 列 5 列 6 列 7 列 8 列 9 列 10 列 11 列 12 列 13 列 14 列 15 列 16 列 17 列 18 列 19 列 20 列 21 列 22 列 固 定

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プラス 0.9%の 年 金 額 改 定 が 行 われることで 何 円 になりますか また どのような 計 算 が 行 われているのですか A これまでの 年 金 額 は 過 去 に 物 価 が 下 落 したにもかかわらず 年 金 額 は 据 え 置 く 措 置 をと った 時 の 計 算 式 に 基

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預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

業 種 別 業 況 は 製 造 業 が 46.2 で 前 期 より 12.3 ポイント 低 下 ( 前 期 33.9) し 建 設 業 が 48.1 で 13.1 ポイントの 低 下 商 業 サービス 業 が 65.1 で 3.4 ポイントの 低 下 となりました 製 造 業 のポイントの 低 下

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4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 新 規 社 ( 社 名 ) 除 外 社 ( 社 名 ) (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

定 性 的 情 報 財 務 諸 表 等 1. 連 結 経 営 成 績 に 関 する 定 性 的 情 報 当 第 3 四 半 期 連 結 累 計 期 間 の 業 績 は 売 上 高 につきましては 前 年 同 四 半 期 累 計 期 間 比 15.1% 減 少 の 454 億 27 百 万 円 となり

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

[2] 控 除 限 度 額 繰 越 欠 損 金 を 有 する 法 人 において 欠 損 金 発 生 事 業 年 度 の 翌 事 業 年 度 以 後 の 欠 損 金 の 繰 越 控 除 にあ たっては 平 成 27 年 度 税 制 改 正 により 次 ページ 以 降 で 解 説 する の 特 例 (

事 業 税 の 外 形 標 準 課 税 事 業 税 は 都 道 府 県 が 所 得 ( 利 益 )に 対 して 課 税 します 1. 個 人 事 業 税 業 種 区 分 税 率 ( 標 準 税 率 ) 第 1 種 事 業 ( 物 品 販 売 業 製 造 業 金 銭 貸 付 業 飲 食 店 業 不 動

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

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損 益 計 算 書 ( 自 平 成 25 年 4 月 1 日 至 平 成 26 年 3 月 31 日 ) ( 単 位 : 百 万 円 ) 科 目 金 額 営 業 収 益 75,917 取 引 参 加 料 金 39,032 上 場 関 係 収 入 11,772 情 報 関 係 収 入 13,352 そ

別紙3

ほかに パート 従 業 員 らの 厚 生 年 金 加 入 の 拡 大 を 促 す 従 業 員 五 百 人 以 下 の 企 業 を 対 象 に 労 使 が 合 意 すれば 今 年 十 月 から 短 時 間 で 働 く 人 も 加 入 できる 対 象 は 約 五 十 万 人 五 百 人 超 の 企 業

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18 国立高等専門学校機構

経 常 収 支 差 引 額 等 の 状 況 平 成 26 年 度 予 算 早 期 集 計 平 成 25 年 度 予 算 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 3,689 億 円 4,597 億 円 908 億 円 減 少 赤 字 組 合 数 1,114 組 合 1,180 組 合 66

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Transcription:

2013 年 9 月 20 日 日 本 銀 行 デフレからの 脱 却 と 量 的 質 的 金 融 緩 和 きさらぎ 会 における 講 演 日 本 銀 行 総 裁 黒 田 東 彦

1.はじめに 日 本 銀 行 の 黒 田 でございます 本 日 は きさらぎ 会 でお 話 しする 機 会 を 頂 き ありがとうございます 私 は ちょうど 半 年 前 の3 月 20 日 に 総 裁 を 拝 命 しました その 際 物 価 の 安 定 を 使 命 とする 日 本 銀 行 の 総 裁 として 15 年 近 く 続 いてきたデフレか ら 日 本 経 済 を 何 としても 脱 却 させたいとの 決 意 を 持 って 臨 みました なぜな ら 長 年 のデフレにより 人 々や 企 業 の 間 には 物 価 は 下 がる 物 価 は 上 がらない との 認 識 が 定 着 しており これが 日 本 経 済 の 活 力 を 奪 ってきたか らです こうした 思 いから 4 月 に 量 的 質 的 金 融 緩 和 という 新 しい 政 策 を 導 入 しました この 政 策 は 既 に 効 果 を 発 揮 しつつあります 実 体 経 済 や 金 融 市 場 には 前 向 きな 動 きが 拡 がっており 人 々の 経 済 物 価 に 関 する 期 待 は 好 転 しています そこで 本 日 は まず 内 外 の 経 済 物 価 情 勢 について 簡 潔 にご 説 明 し ます 続 いて わが 国 において 15 年 近 く 続 いてきたデフレについて その 背 景 やそれを 克 服 するために 何 をすべきかといった 点 を 尐 し 掘 り 下 げてお 話 ししたいと 思 います 2. 最 近 の 経 済 物 価 情 勢 まず 最 近 の 経 済 物 価 情 勢 についてお 話 します あらかじめ 纏 めますと 量 的 質 的 金 融 緩 和 が 着 実 に 進 むもとで 日 本 銀 行 がこれまで 見 通 しで 示 してきたとおり 日 本 経 済 は2%の 物 価 安 定 の 目 標 の 実 現 に 向 けた 道 筋 を 順 調 に 辿 っています 経 済 物 価 情 勢 すなわち わが 国 の 景 気 は 企 業 部 門 家 計 部 門 の 双 方 において 所 得 か ら 支 出 という 前 向 きの 循 環 メカニズムが 次 第 にしっかりと 働 いてきており 緩 やかに 回 復 しています 企 業 部 門 については 企 業 収 益 や 業 況 感 は 大 きく 1

改 善 しています これが 実 際 の 支 出 すなわち 設 備 投 資 につながるかどう かが 焦 点 となってきましたが 最 近 の 統 計 をみると 設 備 投 資 が 非 製 造 業 を 中 心 に 持 ち 直 しつつあることが 確 認 できます( 図 表 1) 例 えば 4~6 月 の GDP 統 計 ベースの 実 質 設 備 投 資 は6 四 半 期 ぶりに 前 期 比 プラスとなってい るほか 先 行 指 標 である 機 械 受 注 も 4~6 月 に5 四 半 期 ぶりに 前 期 比 プラ スに 転 じた 後 増 加 基 調 が 続 いています また 家 計 部 門 をみると 住 宅 投 資 は 持 ち 直 しが 明 確 になっています 個 人 消 費 も GDP 統 計 ベースの 実 質 個 人 消 費 が3 四 半 期 連 続 でプラスとなるなど 底 堅 く 推 移 しています ( 図 表 2) 輸 入 品 や 高 額 品 を 中 心 に 百 貨 店 売 上 高 が 引 き 続 き 堅 調 に 推 移 して いるほか 旅 行 や 外 食 といったサービス 消 費 も 底 堅 く 推 移 しています こう した 個 人 消 費 の 底 堅 さの 背 景 をみると 今 年 の 前 半 は 株 価 上 昇 による 資 産 効 果 や 消 費 者 マインドの 改 善 に 支 えられてきましたが ここにきて 雇 用 や 賃 金 の 改 善 といった 所 得 面 からも 裏 付 けられ 始 めています 具 体 的 には 7 月 には 有 効 求 人 倍 率 が 0.94 倍 まで 上 昇 しているほか 失 業 率 も 3.8%まで 低 下 するなど いずれも 約 5 年 ぶりの 水 準 まで 改 善 してきています また 賃 金 をみても 1 人 あたり 名 目 賃 金 は 夏 季 賞 与 が 増 加 に 転 じたことなどか ら 4~6 月 に 前 年 比 プラスに 転 じた 後 7 月 も 前 年 並 みとなっています ( 図 表 3) こうした 企 業 部 門 や 家 計 部 門 の 動 きに 加 え 公 共 投 資 の 増 加 輸 出 の 持 ち 直 し 傾 向 などもあり 生 産 は 緩 やかに 増 加 しています 先 行 きのわ が 国 経 済 についても 生 産 所 得 支 出 の 前 向 きの 循 環 メカニズムが 働 き 緩 やかな 回 復 を 続 けていくと 考 えています このように 景 気 が 回 復 している 中 で 物 価 面 では 消 費 者 物 価 ( 除 く 生 鮮 食 品 )の 前 年 比 は 6 月 に+0.4%とプラスに 転 じた 後 7 月 は+0.7%とプ ラス 幅 を 拡 大 しています( 図 表 4) 石 油 製 品 などのエネルギー 関 連 の 押 上 げ が 効 いているのは 事 実 ですが それだけではなく 個 人 消 費 が 底 堅 く 推 移 し ているもとで 幅 広 い 品 目 に 改 善 の 動 きがみられています また 家 計 エ コノミスト 市 場 参 加 者 に 対 する 調 査 などをみると 人 々の 予 想 インフレ 率 2

は 全 体 として 上 昇 していると 判 断 できます 先 行 きも 消 費 者 物 価 の 前 年 比 はプラス 幅 を 次 第 に 拡 大 していくと 予 想 しています 今 回 の 景 気 回 復 の 特 徴 ここで 今 回 の 景 気 回 復 の 特 徴 について 触 れておきたいと 思 います 今 回 は これまでの 典 型 的 なパターンとは 異 なる 景 気 回 復 となっています 戦 後 の 日 本 の 景 気 回 復 は 多 くの 場 合 輸 出 と 生 産 の 増 加 を 起 点 に 企 業 収 益 が 改 善 し それが 設 備 投 資 の 増 加 につながるというパターンでした 前 回 2002 年 から 2008 年 の 戦 後 最 長 の 景 気 回 復 も このパターンで 世 界 経 済 がエマー ジング 諸 国 の 台 頭 と 先 進 国 の 住 宅 バブルで 空 前 の 拡 張 を 続 けたことが 背 景 で した このパターンの 場 合 業 種 の 面 では まず 輸 出 に 強 い 製 造 業 大 企 業 部 門 が 良 くなり 雇 用 所 得 の 全 般 的 な 改 善 にしたがって 次 第 に 非 製 造 業 や 中 小 企 業 に 拡 がっていくというかたちになります ところが 今 回 は 個 人 消 費 や 公 共 投 資 といった 内 需 の 堅 調 さを 背 景 に 非 製 造 業 部 門 が 回 復 を 主 導 しているという 点 が 大 きな 特 徴 です このため 設 備 投 資 は 製 造 業 が 弱 く 非 製 造 業 が 強 いという 姿 になっています また 非 製 造 業 の 動 きを 示 す 第 3 次 産 業 活 動 指 数 が リーマン ショック 前 の 水 準 近 くまで 回 復 しているのに 対 して 鉱 工 業 生 産 は リーマン ショック 前 の ピークの 約 8 割 にとどまっています( 図 表 5) それでは こうしたパターンの 違 いを 踏 まえたうえで 今 後 の 景 気 回 復 の 持 続 性 をどうみたら 良 いでしょうか この 点 重 要 なことは ひとつには 内 需 の 堅 調 が 続 くことと もうひとつは 出 遅 れている 輸 出 生 産 製 造 業 の 設 備 投 資 が 上 向 いてくるということです 前 者 については 先 ほど 述 べましたように 所 得 から 支 出 という 前 向 きの 循 環 メカニズムが 次 第 にし っかりと 働 いてきており 持 続 性 が 見 込 めると 考 えています そこで 次 に 後 者 に 触 れたいと 思 います ここでカギとなるのは 何 といっても 海 外 経 済 の 動 向 です 3

海 外 経 済 の 現 状 と 先 行 き 海 外 経 済 をみますと 現 在 一 部 に 弱 めの 動 きもみられていますが 全 体 としては 徐 々に 持 ち 直 しに 向 かっています 先 行 きについても 米 国 経 済 が 回 復 テンポを 徐 々に 増 していき 欧 州 経 済 が 底 入 れから 次 第 に 持 ち 直 しに 転 じていくことなどを 背 景 に 海 外 経 済 は 次 第 に 持 ち 直 していくとみています 地 域 別 には まず 米 国 経 済 は 堅 調 な 民 間 需 要 を 背 景 に 緩 やかな 回 復 基 調 が 続 いています リーマン ショックから5 年 が 経 過 し 米 国 の 家 計 は ようやく サブプライムローン 問 題 で 負 った 大 きな 傷 が 癒 えてきました 個 人 消 費 は 年 初 の 減 税 措 置 の 終 了 などにもかかわらず 緩 やかに 増 加 してい ます また 住 宅 市 場 は 低 水 準 ながらも 回 復 過 程 に 入 り 住 宅 投 資 は 住 宅 ローン 金 利 上 昇 の 影 響 を 受 けつつも 改 善 基 調 を 続 けています こうした 家 計 部 門 の 堅 調 さは 企 業 部 門 にも 徐 々に 波 及 しつつあり マインドも 改 善 し てきています 先 行 きも 緩 和 的 な 金 融 環 境 が 続 くと 見 込 まれるほか 財 政 面 からの 下 押 し 圧 力 も 次 第 に 和 らいでいくと 考 えられることから 回 復 テン ポを 徐 々に 増 していくとみています 欧 州 経 済 をみると 4~6 月 の 実 質 GDP 成 長 率 が7 四 半 期 ぶりにプラス となるなど 景 気 は 底 入 れしたとみられます 厳 しい 緊 縮 財 政 路 線 が 部 分 的 に 修 正 されて 財 政 面 からの 下 押 し 圧 力 は 幾 分 弱 まっています ここ 数 年 何 度 となく 緊 張 を 強 いられてきた 金 融 資 本 市 場 も 総 じて 落 ち 着 いています 企 業 や 消 費 者 は 一 息 ついたかたちで マインドが 改 善 してきています 輸 出 が 底 入 れする 中 で 生 産 も 下 げ 止 まっています もちろん 欧 州 債 務 問 題 が 根 本 的 に 解 決 した 訳 ではありませんから その 帰 趨 は 注 視 していく 必 要 があ りますが 欧 州 経 済 は 先 行 きも こうした 流 れが 続 く 中 で 次 第 に 持 ち 直 していく 可 能 性 が 高 いと 考 えられます 中 国 経 済 をみると 政 府 が 各 種 の 構 造 改 革 に 取 り 組 む 中 で ひと 頃 に 比 べ 低 めながら 安 定 した 成 長 が 続 いています 個 人 消 費 は 質 素 倹 約 令 の 影 響 4

がなおみられていますが 良 好 な 雇 用 所 得 環 境 を 背 景 に 堅 調 に 推 移 して います 固 定 資 産 投 資 も インフラや 不 動 産 投 資 の 増 加 を 中 心 に 底 堅 い 伸 びとなっています 政 府 は 成 長 の 質 を 重 視 する 姿 勢 を 維 持 しつつも 同 時 に 景 気 にも 目 配 りするスタンスを 示 しています 中 国 経 済 の 先 行 きに ついては いわゆる シャドーバンキング 問 題 への 対 応 など 構 造 改 革 がも たらす 影 響 や 景 気 下 支 えに 向 けた 施 策 の 内 容 や 効 果 といった 点 で 不 確 実 性 が 高 いと 思 います ただ 基 本 的 には 堅 調 な 内 需 に 支 えられるかたちで 現 状 程 度 の 安 定 した 成 長 が 続 くとみています 新 興 国 の 一 部 では 株 安 や 通 貨 安 など 金 融 市 場 に 不 安 定 な 動 きがみられま す その 背 景 には これまでの 強 めの 成 長 期 待 に 陰 りがみられる 中 で 経 常 収 支 の 赤 字 などの 経 済 構 造 に 焦 点 が 当 たったほか 先 進 国 の 金 融 政 策 運 営 を 巡 る 思 惑 や 投 資 家 のリスク 回 避 姿 勢 の 強 まりといった 様 々な 要 因 が 指 摘 さ れています こうした 金 融 市 場 の 動 きは 金 融 環 境 のタイト 化 や 企 業 家 計 のマインドの 悪 化 などの 経 路 を 通 じて これらの 国 の 実 体 経 済 に 悪 影 響 を 与 えるリスクがあります 対 外 債 務 面 の 耐 性 が 強 化 されている 中 で 現 時 点 で 深 刻 な 事 態 にまで 至 るとはみていませんが 引 き 続 き 注 視 していきたいと 考 えています このように 各 国 地 域 それぞれにリスク 要 因 を 抱 えていますが メイン シナリオとしては 米 欧 経 済 が 改 善 方 向 にあることから 世 界 経 済 は 次 第 に 持 ち 直 していくとみています そのことは わが 国 の 輸 出 生 産 の 増 加 や 製 造 業 の 設 備 投 資 の 持 ち 直 しを 支 えていくものと 考 えています 3.15 年 近 く 続 いたデフレとその 対 応 策 次 に 本 日 のメインのテーマである 15 年 近 く 続 いたデフレに 話 を 進 めま す ここでは 2つの 側 面 から 日 本 のデフレを 分 析 します ひとつは 海 外 と 比 較 して 日 本 の 抱 えている 問 題 がどう 違 うのか ということです もうひ とつは この 15 年 を 振 り 返 り 日 本 の 経 済 と 物 価 がどのように 推 移 してきた 5

かということです このように 海 外 との 比 較 や 歴 史 的 な 視 点 から 日 本 の デフレの 問 題 を 捉 えることで そこから 脱 却 するための 対 応 策 すなわち 現 在 日 本 銀 行 が 取 り 組 んでいる 量 的 質 的 金 融 緩 和 をより 良 く 理 解 して いただければと 思 います (1) 海 外 の 課 題 と 日 本 の 課 題 まず 日 本 のデフレの 問 題 を 海 外 との 比 較 という 視 点 から みていきた いと 思 います 世 界 経 済 は 先 ほど 申 し 上 げたように 最 近 では 全 体 として 持 ち 直 しに 向 かっていますが そのペースはごく 緩 やかです このため 欧 州 や 米 国 にお いて 引 き 続 きマイナスの 需 給 ギャップ すなわち 労 働 力 や 設 備 が 余 った 状 態 が 残 り 失 業 率 は 高 止 まっています( 図 表 6) 主 要 先 進 国 の 失 業 率 は リーマン ショック 前 の 水 準 よりかなり 高 いところにあります ユーロエリ アでは リーマン ショック 後 に 大 きく 上 昇 した 後 欧 州 債 務 問 題 の 影 響 な どもあり 一 段 と 上 昇 しています また 英 国 では 高 水 準 横 這 いで 推 移 し ています さらに 米 国 では 緩 やかな 低 下 基 調 を 辿 っていますが その 水 準 は 依 然 として 高 めです 一 方 日 本 の 失 業 率 は 3.8%と リーマン ショ ック 前 のボトムである 3.6%とほぼ 同 レベルまで 低 下 しています 一 方 物 価 面 では 潜 在 的 な 成 長 力 に 比 べて 低 めの 成 長 率 が 続 く 中 でも 各 中 央 銀 行 が 目 標 としている2%の 周 辺 で 推 移 しています 米 国 ユーロエ リア 英 国 それぞれの 消 費 者 物 価 指 数 をみると 振 れはありますが 長 い 目 でみれば 2%を 中 心 とした 動 きになっています( 図 表 7) 企 業 や 家 計 が 中 長 期 的 に 予 想 するインフレ 率 も 概 ねその 水 準 で 落 ち 着 いています こう した 状 態 のことを インフレ 期 待 がアンカーされている と 言 います 実 際 のインフレ 率 が 景 気 によって 変 動 しても 中 央 銀 行 が 目 標 とするインフレ 率 を 錨 として 大 きく 外 れないということです こうした 経 済 物 価 情 勢 を 踏 まえると 欧 州 や 米 国 では 現 在 実 体 経 済 6

への 刺 激 を 続 ける あるいは さらに 強 化 することが 最 優 先 の 課 題 だという ことができます これはオーソドックスな 課 題 にみえますが 中 央 銀 行 の 立 場 からみれば やや 難 しい 舵 取 りを 迫 られています すなわち リーマン ショック 以 降 の 経 済 の 落 ち 込 みに 対 応 するための 財 政 出 動 の 結 果 財 政 面 か ら 経 済 を 一 段 と 刺 激 する 余 地 が 限 られてきており 金 融 政 策 面 からの 対 応 が 強 く 期 待 されています 一 方 で 金 融 緩 和 の 結 果 物 価 上 昇 率 がインフレ 目 標 を 上 回 る 状 態 が 続 けば 物 価 安 定 目 標 自 体 に 対 する 人 々の 信 頼 が 失 われて しまう というリスクがあります このように 欧 米 の 中 央 銀 行 は 予 想 イ ンフレ 率 のアンカーが 外 れて 将 来 インフレを 招 いてしまうリスクを 避 けなが ら どうやって 金 融 政 策 面 から 実 体 経 済 を 刺 激 するか という 課 題 に 取 り 組 んでいるということができます 例 えば 米 国 や 英 国 では 失 業 率 がある 程 度 低 下 するまで 金 融 緩 和 を 続 けると 宣 言 しつつ 物 価 の 見 通 しが 目 標 から 大 きく 外 れないことを 条 件 にしています これは そうしたトレードオフの 中 でバランスを 取 ろうとしていることの 現 れです これに 対 して 日 本 は 別 の 種 類 のチャレンジを 抱 えています 欧 米 では 人 々のインフレ 予 想 は 中 央 銀 行 の 目 標 とする 上 昇 率 の 近 傍 にアンカーされて いるのに 対 して 日 本 では 15 年 に 及 ぶデフレの 中 で 人 々に 物 価 は 上 が らない という 見 方 が 定 着 してしまっています かなり 低 いところでアンカ ーされてしまっているということです この 錨 を 断 ち 切 って 物 価 安 定 目 標 の2%に 向 けて 引 き 上 げ 改 めてそこでアンカーしなければなりません どうやって 実 現 するか 次 にお 話 しする 1990 年 代 後 半 以 降 の 経 済 物 価 面 の 変 化 を 振 り 返 る 中 で 明 らかにしていきたいと 思 います (2)1990 年 代 後 半 以 降 の 変 化 1990 年 代 後 半 以 降 の 経 済 物 価 情 勢 とその 影 響 振 り 返 ってみると 日 本 経 済 には 1990 年 代 後 半 以 降 不 良 債 権 問 題 ア ジア 通 貨 危 機 リーマン ショック 東 日 本 大 震 災 など 強 い 下 押 し 圧 力 が 7

かかり 続 けました また 新 興 国 からの 安 値 輸 入 品 の 流 入 規 制 緩 和 に 伴 い 競 争 が 激 化 する 中 での 企 業 の 低 価 格 戦 略 非 正 規 雇 用 による 賃 金 水 準 の 引 き 下 げといった 物 価 に 対 する 直 接 的 な 下 押 し 要 因 も 数 多 く 存 在 しました これに 対 して 日 本 銀 行 は ゼロ 金 利 政 策 量 的 緩 和 政 策 さらには 包 括 緩 和 政 策 など 様 々な 金 融 緩 和 策 を 実 施 してきました こうした 実 体 経 済 を 刺 激 する 政 策 によって 景 気 が 回 復 に 向 かう 局 面 は 何 度 かみられました し かしながら 原 油 価 格 高 騰 の 影 響 が 出 た 一 時 期 を 除 けば 物 価 の 下 落 傾 向 に 歯 止 めをかけることはできませんでした 逆 に デフレが 長 期 化 した 結 果 人 々に デフレ 期 待 を 定 着 させ デフレからの 脱 却 を 一 段 と 難 しくすると いう 悪 循 環 が 発 生 してしまいました いったん 物 価 は 下 がる あるいは 上 がらない ことを 前 提 に 行 動 することが 家 計 や 企 業 に 定 着 してしまうと そ れを 変 えるのは 我 々の 日 常 生 活 に 照 らしてみてもそうですが 容 易 なこと ではありません このように デフレは それが 長 く 続 くことにより 克 服 するのが 一 層 難 しい 課 題 となっていきました フィリップス 曲 線 の 変 化 こうした 変 化 を やや 専 門 的 になりますが フィリップス 曲 線 という 概 念 を 用 いて 説 明 したいと 思 います( 図 表 8) フィリップス 曲 線 は 需 給 ギャ ップと 物 価 上 昇 率 の 関 係 を 示 したものです 簡 単 に 言 えば 景 気 が 良 く 労 働 市 場 や 財 サービス 市 場 で 需 給 が 引 き 締 まれば 物 価 は 上 がる という 関 係 を 表 したものです ここでは 縦 軸 が 物 価 上 昇 率 横 軸 が 需 給 ギャップを 示 しており 景 気 が 良 くなって 需 給 ギャップが 右 方 向 に 進 めば 物 価 上 昇 率 が 高 まって 上 方 向 に 進 むという 右 肩 上 がり の 姿 が 想 定 されています そこで この 15 年 間 にフィリップス 曲 線 がどう 変 化 したかをみてみましょ う 青 い 線 は 1990 年 代 前 半 までのデータに 基 づくフィリップス 曲 線 赤 い 線 は 1990 年 代 後 半 以 降 のデータに 基 づくフィリップス 曲 線 を 示 しています こ れをみると 全 体 に 下 方 にシフトしていることがわかります 同 じ 程 度 の 景 8

気 の 良 さであれば 以 前 より 物 価 上 昇 率 は 低 いということです 例 えば 需 給 ギャップがゼロ% すなわち 景 気 が 良 くも 悪 くもない 平 均 的 な 水 準 の 時 消 費 者 物 価 の 前 年 比 は 青 い 線 では+1.1%と 計 算 されるのに 対 し 赤 い 線 に 基 づくと+0.3%となり 大 きく 低 下 しています このような 変 化 が 起 こった 結 果 現 在 のフィリップス 曲 線 の 形 状 を 前 提 と すると 2%の 物 価 安 定 目 標 を 達 成 するためには 6% 程 度 という 大 幅 なプ ラスの 需 給 ギャップが 必 要 という 計 算 になります これは 1980 年 代 末 から 1990 年 初 にかけてのバブル 期 のピークの 水 準 です もちろん 私 たちはこう した 姿 を 目 指 しているわけではありません なぜなら 景 気 が ものすごく 良 い 時 に2%を 達 成 しても 景 気 の 波 の 中 でまた 物 価 上 昇 率 は 下 がってし まうからです したがって 安 定 的 に2%の 物 価 上 昇 率 を 実 現 するためには 景 気 が 普 通 の 状 態 の 時 に2%になるような 経 済 物 価 の 関 係 を 作 る 必 要 があ ります こう 考 えると 従 来 のように 景 気 を 良 くして 物 価 上 昇 率 を 上 げる というアプローチだけでは 物 価 安 定 目 標 である2%を 持 続 的 に 達 成 するこ とはできないということがわかります ここに フィリップス 曲 線 を 上 方 に シフトさせるような 政 策 が 必 要 になるということです または 同 じことで すが 企 業 や 家 計 の 予 想 物 価 上 昇 率 を 上 げること すなわち 人 々の 物 価 は 上 がらない という 考 え 方 を 転 換 する 政 策 が 必 要 となるのです 先 ほどの 錨 の 喩 えでいえば 現 在 の 錨 を 断 ち 切 り 2%の 新 しい 錨 まで 持 っていく 政 策 です (3) 課 題 の 克 服 に 向 けて 以 上 申 し 上 げたように わが 国 では 15 年 近 くデフレが 継 続 したことによ り フィリップス 曲 線 の 下 方 シフトが 進 行 しました 言 い 換 えれば 物 価 が 上 がりにくい 体 質 が 染 み 付 いてしまったわけです どうやってここから 抜 け 出 すかを 次 にご 説 明 します もちろん 金 融 緩 和 により 経 済 を 刺 激 し 需 給 ギャップを 縮 小 させるとい 9

う 伝 統 的 な 経 路 は 引 き 続 き 重 要 です 現 在 日 本 経 済 にはなおマイナスの 需 給 ギャップが 残 っており これをプラスに 持 っていかなければなりません また その 過 程 で 実 際 に 物 価 上 昇 率 が 高 まることを 経 験 することは 人 々 の 予 想 インフレ 率 を 高 めることに 役 立 ちます しかし わが 国 では デフレ 期 待 が 定 着 している すなわち フィリッ プス 曲 線 の 形 状 が 変 化 していることを 踏 まえれば それだけではデフレ 脱 却 には 辿 りつき 難 いのも 事 実 です したがって 日 本 銀 行 としては これまで の 政 策 からさらに 大 きく 踏 み 込 んで 人 々の 期 待 に 直 接 働 きかけて デフレ 期 待 を 払 拭 すること すなわち 人 々の 予 想 インフレ 率 を 引 き 上 げるよう な 政 策 に 踏 み 込 むことにより フィリップス 曲 線 そのものを 上 方 にシフトさ せることが 必 要 と 考 えました また デフレが 続 くこと 自 体 がそこからの 脱 却 を 一 層 難 しくすることを 勘 案 すれば できるだけ 早 くこれを 実 行 に 移 す 必 要 があると 判 断 しました 量 的 質 的 金 融 緩 和 は まさにそれを 狙 って 導 入 した 政 策 です( 図 表 9) 強 く 明 確 なコミットメントと 量 質 ともに 次 元 の 違 う 金 融 緩 和 量 的 質 的 金 融 緩 和 には 人 々の 期 待 をできるだけ 早 期 に 抜 本 的 に 転 換 するという 観 点 から 2つの 要 素 を 盛 り 込 んでいます 第 1に 企 業 や 家 計 に 定 着 した デフレ 期 待 を 払 拭 するため 必 ずデフ レから 脱 却 するという 日 本 銀 行 の 意 志 を 強 く 明 確 なコミットメントで 示 す ことです そこで 消 費 者 物 価 の 前 年 比 上 昇 率 2%の 物 価 安 定 の 目 標 を 2 年 程 度 の 期 間 を 念 頭 に 置 いて できるだけ 早 期 に 実 現 する と 明 確 に 表 明 し 目 標 達 成 までの 期 限 を 2 年 程 度 とはっきり 区 切 りました 第 2に 15 年 近 くもデフレが 継 続 していることを 考 えると どんなに 強 い コミットメントを 示 しても それを 裏 打 ちするものがなければ 人 々に 日 本 銀 行 の 強 い 意 志 を 信 じてもらうことはできません とくに できるだけ 早 期 に という 観 点 からは これまでの 延 長 線 上 ではないことを 皆 さんに 感 じ 10

ていただけるような 大 胆 な 施 策 を 講 じる 必 要 があります そこで 金 融 市 場 調 節 の 目 標 を これまでの 無 担 保 コールレート オーバーナイト 物 という 金 利 から マネタリーベースという 量 に 変 更 して これを 2 年 間 で2 倍 に 増 加 させることにしました また これを 実 現 するため 日 本 銀 行 が 保 有 する 長 期 国 債 ETFなどの 残 高 も 2 年 間 で2 倍 に 拡 大 しまし た さらに 長 期 国 債 買 入 れの 平 均 残 存 期 間 も 2 倍 以 上 に 延 長 すること としました このように これまでとは 量 の 面 でも 質 の 面 でも 次 元 が 違 う 金 融 緩 和 を 決 定 しました 金 融 緩 和 の 継 続 期 間 これらに 加 えて 先 行 きの 政 策 スタンスについても 日 本 銀 行 は 2%を 安 定 的 に 持 続 するために 必 要 な 時 点 まで 継 続 する と 明 確 に 示 しています 日 本 銀 行 のコミットメントは 2%の 物 価 上 昇 率 をできるだけ 早 期 に 実 現 す ることですが これは 一 時 的 にでも2%を 達 成 すればよいということでは ありません 2%を 安 定 的 に 持 続 する ことが 重 要 なのです そのためには 現 実 の 物 価 上 昇 率 だけでなく 中 長 期 的 な 予 想 インフレ 率 も2% 程 度 になる ことが 必 要 です 実 際 の 物 価 上 昇 率 が 平 均 的 に2% 程 度 で 変 動 し 物 価 がだ いたい2%くらい 上 がる ことを 前 提 に 企 業 や 家 計 が 行 動 するようになれば 中 長 期 的 にも 物 価 の 安 定 につながると 考 えられます それは 先 ほどの 錨 の 喩 えでいえば 2%の 錨 をしっかりと 人 々の 気 持 ちに 定 着 させ 実 際 のインフレ 率 がその 周 辺 で 動 くようにするということです また フィリッ プス 曲 線 の 概 念 で 説 明 すれば 経 済 が 平 均 的 な 状 態 にある 時 すなわち 需 給 ギャップがゼロの 状 態 にある 時 に 2%の 物 価 上 昇 率 が 実 現 されることを 意 味 します 2%を 安 定 的 に 持 続 する とは こうした 意 味 です 日 本 銀 行 は 物 価 の 基 調 的 な 動 きを 見 極 めながら これを 実 現 するのに 必 要 な 時 点 ま で 量 的 質 的 金 融 緩 和 を 続 けます 1 点 付 け 加 えますと こうした 観 点 からは 予 想 インフレ 率 の 動 向 をでき 11

るだけ 正 確 に 把 握 することが 従 来 以 上 に 求 められます しかし そもそも 予 想 インフレ 率 は 捉 えることが 難 しいものです すなわち 直 接 観 察 でき るものではありませんし 誰 がどういったものの 価 格 を 予 想 しているのか 等 によって 多 種 多 様 な 予 想 インフレ 率 があり 得 ます そこで 日 本 銀 行 は こ れまでも 企 業 家 計 エコノミスト 市 場 参 加 者 に 対 するアンケート 調 査 のほか 物 価 連 動 国 債 を 用 いたブレーク イーブン インフレ 率 (BEI) など 様 々な 予 想 インフレ 指 標 を 丹 念 に 分 析 し 人 々の 期 待 の 変 化 を 的 確 に 把 握 するよう 努 めてきました 今 後 も 2014 年 前 半 を 目 途 に 短 観 の 調 査 項 目 に 追 加 する 予 定 の 企 業 の 予 想 インフレ 率 も 含 め 幅 広 いデータをしっかり 点 検 することなどにより 情 勢 判 断 の 精 度 を 上 げていきたいと 考 えています 4.おわりに 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 導 入 から 半 年 弱 が 経 過 しました 日 本 銀 行 は この 政 策 を 当 初 の 予 定 通 り 着 実 に 進 めてきています( 図 表 10) マネタリー ベースは 3 月 末 の 146 兆 円 から 8 月 末 には 177 兆 円 まで 拡 大 しており 本 年 末 の 200 兆 円 に 向 けて 着 実 に 積 み 上 げています また 長 期 国 債 の 保 有 残 高 についても 3 月 末 の 91 兆 円 から 8 月 末 には 123 兆 円 まで 増 加 しており 本 年 末 の 140 兆 円 に 向 けて こちらも 順 調 に 積 み 上 げが 進 んでいます 買 入 れる 国 債 の 平 均 残 存 期 間 も7 年 程 度 に 伸 びています 量 的 質 的 金 融 緩 和 は 中 央 銀 行 にとって 主 たる 政 策 手 段 である 短 期 金 利 の 引 き 下 げ 余 地 がなくなる 中 で 予 想 インフレ 率 を 引 き 上 げるという 世 界 的 にも 過 去 に 例 のない 課 題 に 対 する 挑 戦 です 決 して 容 易 ではありませ んが これまでのところ 確 かな 手 応 えを 感 じています 実 体 経 済 や 金 融 市 場 人 々のマインドや 期 待 など 好 転 の 動 きが 幅 広 くみられており わが 国 経 済 は2%の 物 価 安 定 の 目 標 の 実 現 に 向 けた 道 筋 を 順 調 に 辿 っていると いえます 日 本 銀 行 としては 長 きにわたり 日 本 経 済 の 重 石 となってきた デフレからの 脱 却 をできるだけ 早 く 実 現 するために 今 後 も 適 切 に 金 融 政 12

策 を 運 営 してまいります ご 清 聴 ありがとうございました 以 上 13

デフレからの 脱 却 と 量 的 質 的 金 融 緩 和 きさらぎ 会 における 講 演 2013 年 9 月 20 日 日 本 銀 行 総 裁 黒 田 東 彦 図 表 1 設 備 投 資 80 ( 季 節 調 整 済 年 率 換 算 兆 円 ) ( 季 節 調 整 済 兆 円 ) 3.0 75 70 民 間 企 業 設 備 投 資 (GDPベース 実 質 ) 機 械 受 注 民 需 ( 除 く 船 舶 電 力 右 目 盛 ) 2.5 65 2.0 60 55 0 7 年 0 8 0 9 1 0 1 1 1 2 1 3 1.5 ( 注 )2013/3Qは7 月 の 値 ( 資 料 ) 内 閣 府 1

図 表 2 個 人 消 費 106 ( 季 節 調 整 済 2010 年 =100) 104 民 間 最 終 消 費 支 出 (GDPベース 実 質 ) 消 費 総 合 指 数 ( 実 質 ) 102 100 98 96 94 0 7 年 0 8 0 9 1 0 1 1 1 2 1 3 ( 注 )2013/3Qは7 月 の 値 ( 資 料 ) 内 閣 府 2 図 表 3 名 目 賃 金 2 ( 前 年 比 寄 与 度 %) 1 0-1 -2 所 定 内 給 与 -3 所 定 外 給 与 -4 特 別 給 与 -5 名 目 賃 金 -6 0 7 0 8 0 9 1 0 1 1 1 2 1 3 年 ( 注 ) 第 1 四 半 期 :3~5 月 第 2:6~8 月 第 3:9~11 月 第 4:12~2 月 2013/2Qは6~7 月 の 前 年 同 期 比 ( 資 料 ) 厚 生 労 働 省 3

図 表 4 消 費 者 物 価 3 ( 前 年 比 %) 2 消 費 者 物 価 指 数 ( 除 く 生 鮮 食 品 ) 1 0-1 -2-3 07 年 08 09 10 11 12 13 ( 資 料 ) 総 務 省 4 図 表 5 生 産 と 産 業 活 動 125 ( 季 節 調 整 済 2010 年 =100) ( 季 節 調 整 済 2010 年 =100) 108 120 115 110 105 100 95 90 85 80 75 鉱 工 業 生 産 指 数 第 3 次 産 業 活 動 指 数 ( 右 目 盛 ) 07 08 09 10 11 12 13 年 106 104 102 100 98 96 94 92 90 88 ( 資 料 ) 経 済 産 業 省 5

図 表 6 各 国 の 失 業 率 14 ( 季 節 調 整 済 %) 12 日 本 米 国 ユーロ 圏 英 国 13/7 月 12.1 10 8 6 13/6 月 7.7 13/8 月 73 7.3 4 2 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 年 13/7 月 3.8 ( 資 料 ) 総 務 省 BLS Eurostat ONS 6 図 表 7 各 国 の 消 費 者 物 価 指 数 ( 総 合 ) 6 ( 前 年 比 %) 5 日 本 米 国 ユーロ 圏 英 国 4 3 2 1 0 13/3Q 2.7 17 1.7 1.5 0.7-1 -2-3 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 年 ( 注 ) 日 本 の2013/3Qは7 月 の 値 それ 以 外 は7~8 月 の 平 均 値 ( 資 料 ) 総 務 省 BLS Eurostat ONS 7

図 表 8 4 需 給 ギャップと 物 価 上 昇 率 の 関 係 (フィリップス 曲 線 ) 消 費 者 物 価 指 数 ( 総 合 < 除 く 生 鮮 食 品 > 前 年 比 %) 3 1983/1Q~2013/1Q A 2 1 0-1 -2 B 2013/1Q A:1983/1Q~1995/4Q y = 0.28x + 1.1 B:1996/1Q~2013/1Q y = 0.28x + 0.3-3 -9-8 -7-6 -5-4 -3-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 需 給 ギャップ<2 四 半 期 先 行 >(%) ( 注 )1. 印 は 直 近 1 年 2. 消 費 者 物 価 指 数 の 前 年 比 は 消 費 税 調 整 済 み 3. 需 給 ギャップは 日 本 銀 行 調 査 統 計 局 の 試 算 値 ( 資 料 ) 総 務 省 内 閣 府 等 8 図 表 9 量 的 質 的 金 融 緩 和 強 く 明 確 なコミットメント 2%の 物 価 安 定 目 標 を 2 年 程 度 の 期 間 を 念 頭 に 置 いて できるだけ 早 期 に 実 現 量 質 ともに 次 元 の 違 う 金 融 緩 和 マネタリーベース: 年 間 約 60~70 兆 円 の 増 加 (2 年 間 で2 倍 ) 長 期 国 債 の 保 有 残 高 : 年 間 約 50 兆 円 の 増 加 (2 年 間 で2 倍 以 上 ) 長 期 国 債 買 入 れの 平 均 残 存 期 間 :7 年 程 度 へ(2 倍 以 上 ) ETFの 保 有 残 高 : 年 間 約 1 兆 円 の 増 加 (2 年 間 で2 倍 以 上 ) 9

図 表 10 マネタリーベースと 長 期 国 債 保 有 残 高 の 推 移 300 ( 兆 円 ) 250 200 マネタリーベース 日 本 銀 行 保 有 長 期 国 債 量 的 質 的 金 融 緩 和 導 入 13 年 8 月 末 177 兆 円 13 年 3 月 末 146 兆 円 150 12 年 末 138 兆 円 13 年 末 200 兆 円 13 年 8 月 末 100 123 兆 円 13 年 3 月 末 12 年 末 91 兆 円 50 89 兆 円 13 年 末 140 兆 円 14 年 末 270 兆 円 14 年 末 190 兆 円 0 07 年 08 09 10 11 12 13 14 ( 資 料 ) 日 本 銀 行 10