2015 年 4 月 7 日 片 岡 剛 士 コラム インフレ 目 標 政 策 -その 正 しい 理 解 のために- 経 済 社 会 政 策 部 主 任 研 究 員 片 岡 剛 士 前 回 のコラム( 2015 年 はアベノミクス 再 機 動 成 功 の 年 となるか? )において 筆 者 は 3%の 消 費 税 率 引 き 上 げによる 消 費 者 物 価 指 数 押 し 上 げ 効 果 が 剥 落 する 今 年 の 4 月 以 降 は 物 価 上 昇 ではなく 物 価 下 落 が 再 び 意 識 されると 述 べた 3 月 27 日 に 公 表 された 2015 年 2 月 の 総 務 省 消 費 者 物 価 指 数 によれば 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 指 数 の 前 年 比 は+2.0%であり 食 料 エネルギーを 除 く 総 合 指 数 の 前 年 比 も+2.0%である 2014 年 4 月 か ら 実 施 された 消 費 税 増 税 による 物 価 押 し 上 げ 効 果 ( 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 指 数 の 場 合 2.0% 食 料 エネ ルギーを 除 く 総 合 指 数 の 場 合 1.7%)を 除 けば 消 費 者 物 価 指 数 の 前 年 比 は+0.0% +0.3%まで 落 ち 込 んでいる 2014 年 3 月 時 点 の 消 費 者 物 価 指 数 前 年 比 が 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 指 数 で 1.3% 食 料 エネル ギーを 除 く 総 合 指 数 で 0.7%であったから 消 費 税 増 税 による 物 価 への 直 接 的 影 響 を 除 いてみても 物 価 上 昇 率 は 低 下 基 調 で 推 移 していることは 否 めない 日 本 銀 行 が 消 費 者 物 価 の 前 年 比 上 昇 率 2%の 物 価 安 定 の 目 標 を 2 年 程 度 の 期 間 を 念 頭 に 置 い て できるだけ 早 期 に 実 現 する ことを 表 明 し 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 導 入 に 踏 み 切 ってから 2 年 が 経 過 した 2 年 後 の 現 在 において 物 価 安 定 の 目 標 を 達 成 できていない 現 状 をどう 考 えれば 良 いのだろ うか 以 下 順 を 追 って 検 討 することにしたい インフレ 目 標 政 策 とは 何 か 議 論 をはじめるにあたり インフレ 目 標 政 策 とは 何 かを 確 認 しておこう インフレ 目 標 政 策 とは 以 下 でみる 5 つの 特 徴 を 持 つ 政 策 である 1 つ 目 の 特 徴 は 数 値 目 標 の 設 定 である これは 明 確 な 数 値 を 設 定 して 目 標 達 成 の 有 無 を 明 確 化 する ということだ 数 値 目 標 の 設 定 には 2%といったかたちで 目 標 数 値 を 設 定 する 方 法 (ポイントで 指 定 する 方 法 )と 1%~3%といった 範 囲 で 指 定 する 方 法 の 2 つがある ポイントで 指 定 する 方 法 のメリットは ターゲットが 明 確 であるために 数 値 目 標 の 周 知 が 容 易 であ ることだ 一 方 でターゲットがポイント 指 定 であるために この 目 標 を 達 成 できない 場 合 には 中 央 銀 行 への 信 認 が 失 われるというリスクもある これを 回 避 するのが 範 囲 で 指 定 する 方 法 である 範 囲 で 指 定 すれば ポイントで 指 定 するよりも 目 標 はあいまいとなるリスクがあるが 目 標 を 達 成 する 可 能 性 が 高 まるために 信 認 を 維 持 する 可 能 性 も 高 まるだろう 1
2 つ 目 の 特 徴 は 達 成 期 間 の 明 確 化 である 中 央 銀 行 は 短 期 的 にはインフレ 率 と 失 業 率 ( 景 気 )のト レード オフがあることを 前 提 にして 金 融 政 策 を 行 っている ただ 原 油 価 格 上 昇 といった 要 因 が 企 業 のコストを 引 き 上 げ それが 価 格 転 嫁 というかたちで 物 価 上 昇 に 結 びつくケース(コストプッシュ 要 因 にもとづく 物 価 上 昇 )が インフレ 目 標 値 以 上 の 物 価 上 昇 をもたらした 際 には インフレ 目 標 値 を 上 回 るといって 中 央 銀 行 が 即 座 に 金 融 引 き 締 め 策 を 行 うと それが 失 業 率 ( 景 気 )の 悪 化 に 結 びつくリスク を 高 めてしまう インフレ 目 標 政 策 ではこういった 場 合 に 目 標 インフレ 率 を 逸 脱 する 可 能 性 を 認 めてい る ただし 原 油 価 格 上 昇 といった 要 因 が 物 価 上 昇 率 に 影 響 するのはあくまで 短 期 であるため 中 長 期 的 には 目 標 を 達 成 するというかたちで 達 成 期 間 を 明 確 化 することが 必 要 となる 3 つ 目 の 特 徴 は 数 値 目 標 の 決 定 と 達 成 手 段 の 決 定 の 区 別 である これは 数 値 目 標 の 設 定 は 政 府 が 基 本 的 に 行 い 数 値 目 標 の 達 成 手 段 (インフレ 目 標 を 達 成 するための 金 融 政 策 )は 中 央 銀 行 が 選 択 する ということである 中 央 銀 行 はこのことで インフレ 目 標 という 制 約 条 件 のなかで 自 律 的 に 金 融 政 策 を 行 うことになる 4 つ 目 の 特 徴 は 説 明 責 任 である 目 標 となるインフレ 率 を 設 定 しても それを 達 成 するためにどのよ うな 金 融 政 策 を 行 い 金 融 政 策 はどのような 効 果 を 持 つのかということが 明 らかでなければ 設 定 した 目 標 を 国 民 が 信 認 することはできないだろう 現 実 のインフレ 率 が 中 央 銀 行 の 目 標 とするインフレ 率 か ら 逸 脱 する 場 合 にも その 原 因 が 何 かを 明 確 に 説 明 することが 必 要 なのはいうまでもない 5 つ 目 の 特 徴 は 動 学 的 整 合 性 である これは 金 融 政 策 によってインフレ 率 が 安 定 的 になり かつイン フレ 目 標 値 を 達 成 する 前 に 政 策 変 更 をしないということを 意 味 する 以 上 のように 数 値 目 標 の 決 定 と 達 成 手 段 の 決 定 の 区 別 といった 政 策 の 枠 組 み としての 側 面 がひ とつ そして 数 値 目 標 の 設 定 や 達 成 期 間 の 明 確 化 説 明 責 任 動 学 的 整 合 性 といった 要 素 を 通 じて 国 民 に 広 くインフレ 目 標 と 金 融 政 策 の 理 解 を 促 すという コミュニケーション 戦 略 としての 側 面 こ と 2 つの 側 面 を 兼 ね 備 えた 政 策 が インフレ 目 標 政 策 であるといえよう インフレ 目 標 政 策 と 日 銀 の 金 融 政 策 それでは 以 上 の 5 つの 特 徴 に 照 らした 場 合 に 日 本 銀 行 が 現 在 行 っている 金 融 政 策 はどのように 評 価 することができるのだろうか まず 1 つ 目 の 特 徴 である 数 値 目 標 の 設 定 に 関 しては 2013 年 1 月 22 日 に 政 府 と 日 本 銀 行 が 連 名 で 公 表 した デフレ 脱 却 と 持 続 的 な 経 済 成 長 の 実 現 のための 政 府 日 本 銀 行 の 政 策 連 携 について( 共 同 声 明 ) が 対 応 する ここでは 2%の 物 価 安 定 目 標 を 定 めており ポイントで 指 定 することでデフレか ら 完 全 に 脱 却 するための 政 府 日 銀 の 強 いコミットメントを 示 したものだ 政 府 と 日 本 銀 行 が 共 同 声 明 を 公 表 し 量 的 質 的 金 融 緩 和 に 踏 み 切 るまでのわが 国 の 物 価 上 昇 率 は 長 きにわたり 持 続 的 に 低 下 (デフレ)を 続 けていた 2 つ 目 の 達 成 期 間 の 明 確 化 に 対 応 するが 2 年 程 度 の 期 間 を 念 頭 に 置 いて できるだけ 早 期 に 実 現 する と 2013 年 4 月 4 日 の 公 表 文 1 で 明 記 したのは 1 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 導 入 について http://www.boj.or.jp/announcements/release_2013/k130404a.pdf 2
期 間 を 明 確 化 することでデフレ 脱 却 へのコミットメントを 強 め 予 想 ( 期 待 )インフレ 率 の 引 き 上 げを 狙 ったためである 原 油 価 格 の 下 落 による 物 価 下 落 が インフレ 目 標 値 以 下 の 物 価 上 昇 率 につながる 場 合 には インフレ 目 標 値 を 下 回 るといって 中 央 銀 行 が 即 座 に 追 加 緩 和 を 行 うと それが 時 間 的 なラグを 伴 いながら 景 気 とインフレ 率 の 過 熱 につながってしまう インフレ 目 標 政 策 ではこういった 場 合 に 目 標 インフレ 率 を 逸 脱 する 可 能 性 を 認 めているが 原 油 価 格 下 落 による 影 響 が 沈 静 化 した 段 階 では 2%の 物 価 安 定 目 標 を 達 成 維 持 すべく 金 融 政 策 を 行 う 必 要 があるのは 言 うまでもない そして 消 費 者 物 価 の 前 年 比 上 昇 率 2%の 物 価 安 定 の 目 標 を 2 年 程 度 の 期 間 を 念 頭 に 置 いて できるだけ 早 期 に 実 現 する ことが 困 難 であるのならば 日 本 銀 行 はその 原 因 を 説 明 する 責 任 がある 筆 者 は 日 本 銀 行 が 物 価 安 定 目 標 を 現 状 達 成 できていないのは 昨 年 4 月 以 降 の 消 費 税 増 税 による 経 済 の 悪 化 を 予 測 できなかったこと そして 昨 年 後 半 から 続 く 原 油 価 格 の 下 落 が 影 響 したためだと 考 える 黒 田 総 裁 は 上 記 の 二 つについて 明 確 に 説 明 する 必 要 がある 例 えば 4 月 7 日 8 日 に 開 催 される 金 融 政 策 決 定 会 合 ないしは 4 月 30 日 の 展 望 レポートの 見 直 し 時 期 に 合 わせ 文 書 として 明 確 に 量 的 質 的 金 融 緩 和 から 2 年 が 経 過 した 物 価 上 昇 率 の 現 状 と 金 融 政 策 の 先 行 きについて 説 明 することも 一 案 ではないか 昨 今 の 物 価 上 昇 率 の 動 きをみて 目 標 インフレ 率 を 2%から 1%に 引 き 下 げる 達 成 期 限 を 延 期 すべ きといった 議 論 があるが 動 学 的 整 合 性 の 観 点 から 言 えば インフレ 目 標 が 未 達 の 現 状 で 目 標 の 再 設 定 を 行 うことは 自 ら 動 学 的 非 整 合 な 政 策 を 行 うことを 意 味 し コミットメントの 毀 損 につながる 現 状 の 枠 組 みを 維 持 しつつも 説 明 責 任 を 明 確 化 することがインフレ 目 標 政 策 の 観 点 からみて 必 要 なのである インフレ 目 標 政 策 が 目 指 すものとは 何 か インフレ 目 標 政 策 に 関 しては 目 標 とする 物 価 上 昇 率 のみに 重 点 を 置 いて 政 策 を 行 うものだという 指 摘 がなされることがある これはインフレ 目 標 政 策 そのものを 全 く 理 解 していない 不 当 な 批 判 だ 当 然 ながら 物 価 上 昇 率 だけ を 達 成 していれば 良 いというのではないし こうした 指 摘 は 誤 りであること に 留 意 すべきである それでは 目 標 インフレ 率 の 近 傍 に 物 価 上 昇 率 を 維 持 安 定 化 させることを 通 じて 中 央 銀 行 は 何 を 目 指 しているのだろうか 図 表 1 は 消 費 者 物 価 指 数 の 基 調 的 な 動 きをみるため 縦 軸 に 消 費 者 物 価 指 数 ( 食 料 エネルギーを 除 く 総 合 指 数 ) 前 年 比 上 昇 率 横 軸 に 完 全 失 業 率 をプロットしたものである 前 々 節 で 述 べたように 物 価 と 失 業 率 の 間 には 短 期 的 にトレード オフの 関 係 が 成 立 している 低 い 失 業 率 を 達 成 しようとすると 過 度 に 高 いインフレ 率 が 持 続 するリスクが 高 まる 一 方 でマイルドなデフ レに 突 入 した 1998 年 1 月 以 降 の 物 価 と 失 業 率 の 関 係 をみると マイルドなデフレが 持 続 すると 失 業 率 が 悪 化 するリスクを 高 めることにつながる 2015 年 2 月 時 点 の 完 全 失 業 率 は 3.5%であり 2013 年 3 月 時 点 の 4.1%と 比 較 して 改 善 しているものの 2%のインフレ 目 標 が 目 指 す 領 域 ( 赤 線 で 囲 まれた 部 分 ) には 未 だ 不 十 分 である インフレ 目 標 政 策 は 物 価 上 昇 率 を 目 標 インフレ 率 2%の 近 傍 で 安 定 化 させる ことを 通 じて 図 表 1 のデータに 即 して 言 えば 3% 未 満 の 失 業 率 を 維 持 し 短 期 的 な 景 気 動 向 を 安 定 化 させることを 目 指 す 政 策 なのである 3
図 表 1:フィリップス 曲 線 8 6 4 2 ( 消 費 者 物 価 指 数 ( 食 料 エネルギーを 除 く 総 合 ) 前 年 比 上 昇 率 :%) 1980 年 1 月 ~1997 年 12 月 ( 白 抜 点 ) インフレ 目 標 政 策 で 目 指 す 領 域 1998 年 1 月 ~2015 年 2 月 ( 灰 色 点 ) 0-2 -4 より 低 い 失 業 率 を 達 成 するには 高 いインフレ 率 を 許 容 する 必 要 がある デフレ 下 では 高 失 業 率 に 甘 ん じざるをえない 1 2 3 4 5 6 ( 完 全 失 業 率 :%) ( 注 )1997 年 4 月 から 1998 年 3 月 まで 2014 年 4 月 から 2015 年 2 月 ( 直 近 値 )までの 物 価 上 昇 率 からは 消 費 税 増 税 による 物 価 上 昇 率 の 上 昇 分 を 除 いている ( 出 所 ) 総 務 省 労 働 力 調 査 消 費 者 物 価 指 数 より 作 成 フィリップス 曲 線 について 段 階 を 追 ってもう 少 し 具 体 的 に 検 討 してみよう 図 表 2 は 縦 軸 に 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 )の 前 年 比 上 昇 率 を 横 軸 に 完 全 失 業 率 をとってプロットしたもので ある なお 図 表 中 には 2 つの 点 線 と 1 つの 直 線 が 描 きこまれている 2 つの 点 線 のうち 左 側 の 点 線 は 1990 年 から 1997 年 末 までの インフレ 期 における 物 価 と 失 業 率 の 傾 向 線 を 示 したものだ そして 右 側 の 点 線 は 1998 年 1 月 から 量 的 質 的 金 融 緩 和 が 開 始 される 直 前 期 までの デフレ 期 における 物 価 と 失 業 率 の 傾 向 線 を 示 している インフレ 期 と デフレ 期 の 傾 向 線 を 比 較 すると デフレ 期 の 傾 向 線 の 方 が 失 業 率 の 係 数 ( 傾 き)は 小 さく 切 片 も 小 さいことがわかるだろう 失 業 率 の 係 数 の 値 が 小 さい( 傾 きが 小 さい)と いうことは 1%の 失 業 率 改 善 による 物 価 上 昇 率 の 押 し 上 げ 効 果 が デフレ 期 の 方 が 小 さいことを 意 味 する そして 切 片 の 値 が 小 さいということは ニューケインジアンフィリップス 曲 線 ( 物 価 上 昇 率 は 予 想 物 価 上 昇 率 と 失 業 率 の 二 つの 要 因 で 定 まる)を 念 頭 におけば インフレ 期 から デフレ 期 へ の 移 行 に 伴 って 予 想 インフレ 率 が 低 下 したことを 示 唆 する つまり 1998 年 以 降 のデフレの 持 続 は 失 業 率 ( 景 気 )の 改 善 が 物 価 上 昇 率 の 高 まりに 結 びつきにくくなったことと 予 想 インフレ 率 自 体 の 低 下 の 二 つが 引 き 起 こしたものというわけだ 4
図 表 2:フィリップス 曲 線 からみた 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 効 果 1 4 3 2 1 ( 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 除 く 総 合 ): 前 年 比 上 昇 率 :%) 1990 年 1 月 ~1997 年 12 月 コアCPI 上 昇 率 = 6.28-1.83 完 全 失 業 率 R² = 0.82 2013 年 4 月 ~2014 年 7 月 コアCPI 上 昇 率 = 9.74-2.31 完 全 失 業 率 R² = 0.67 0-1 -2-3 1998 年 1 月 ~2013 年 3 月 コアCPI 上 昇 率 = 4.27-0.98 完 全 失 業 率 R² = 0.47 1 2 3 4 5 6 ( 完 全 失 業 率 :%) ( 注 )1997 年 4 月 から 1998 年 3 月 まで 2014 年 4 月 から 2015 年 2 月 ( 直 近 値 )までの 物 価 上 昇 率 からは 消 費 税 増 税 による 物 価 上 昇 率 の 上 昇 分 を 除 いている ( 出 所 ) 総 務 省 労 働 力 調 査 消 費 者 物 価 指 数 より 作 成 図 表 2 には 合 わせて 直 線 が 描 きこまれている これは 量 的 質 的 金 融 緩 和 が 開 始 された 2013 年 4 月 から わが 国 の 原 油 輸 入 の 8 割 を 占 める 中 東 地 域 の 原 油 価 格 を 代 表 するドバイ 原 油 価 格 が 前 年 比 で 下 落 を 始 める 前 の 時 期 である 2014 年 7 月 までの 期 間 までの 物 価 と 失 業 率 の 傾 向 線 を 示 している この 傾 向 線 を 先 程 の インフレ 期 デフレ 期 の 傾 向 線 と 比 較 すると 切 片 は デフレ 期 の 値 を 上 回 って 増 加 し インフレ 期 の 切 片 を 超 えている 傾 きも デフレ 期 の 値 を 上 回 って 増 加 して インフレ 期 の 傾 きを 超 えていることがわかる 先 程 の 議 論 に 即 して 言 えば 量 的 質 的 金 融 緩 和 以 降 の 予 想 インフレ 率 は デフレ 期 の 値 からジャンプして さらに 失 業 率 ( 景 気 )の 改 善 が 物 価 上 昇 率 の 高 ま りに 直 結 しやすくなったということだ 2 これが 図 表 2 から 得 られる 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 効 果 である 図 表 2 における 量 的 質 的 金 融 緩 和 以 降 の 物 価 と 失 業 率 の 傾 向 線 を 念 頭 に 置 くと 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 ) 前 年 比 で 2%のインフレ 率 を 確 保 するための 完 全 失 業 率 はどの 程 度 となるの だろうか 傾 向 線 のパラメーターに 基 づいて 試 算 すると 必 要 な 完 全 失 業 率 は 3.3% 程 度 となる つま 2 量 的 質 的 金 融 緩 和 前 後 の 予 想 インフレ 率 の 推 計 については 例 えば Yano, Iida, Kataoka, Okada and Okada(2014), The End of One Long Deflation: An Empirical Investigation, SSRN Working Paper Series を 参 照 され たい 5
りフィリップス 曲 線 を 念 頭 に 置 くと 2%の 物 価 安 定 目 標 とは 完 全 失 業 率 3.3% 未 満 を 維 持 する こ と 意 味 するということだ 原 油 安 と 量 的 質 的 金 融 緩 和 前 節 で 述 べたように 2013 年 4 月 に 開 始 された 量 的 質 的 金 融 緩 和 とは 2%のインフレ 目 標 を 達 成 するための 金 融 政 策 であり それを 完 全 失 業 率 に 置 き 換 えれば 完 全 失 業 率 3.3% 未 満 を 維 持 する 金 融 政 策 ということであった 次 に 原 油 安 と 量 的 質 的 金 融 緩 和 との 関 係 を 考 えてみることにしよう まず 原 油 価 格 の 動 向 と 消 費 者 物 価 指 数 に 含 まれるエネルギー 価 格 の 動 きを 確 認 しておこう 図 表 3 は ドバイ 原 油 価 格 (ドル/バレル) 前 年 比 と 消 費 者 物 価 指 数 に 含 まれるエネルギー 価 格 ( 電 気 代 都 市 ガス 代 プロパンガス 灯 油 及 びガソリン 価 格 を 消 費 者 物 価 指 数 のウエイトを 用 いて 加 重 平 均 した 値 ) 前 年 比 の 推 移 をみたものである 2005 年 1 月 以 降 のデータを 用 いて 2 つの 価 格 の 時 差 相 関 係 数 を 計 算 す ると 3 カ 月 のラグで 最 も 相 関 が 高 い( 相 関 係 数 0.79)ことがわかるため ドバイ 原 油 価 格 の 変 化 は 3 カ 月 の 遅 れを 伴 いながら 消 費 者 物 価 指 数 に 含 まれるエネルギー 価 格 に 影 響 する 時 差 相 関 係 数 の 結 果 からは ドバイ 原 油 価 格 前 年 比 は 2015 年 1 月 に 下 落 率 が 最 大 となり 2 月 はわず かに 下 落 率 がマイルドとなっているため ドバイ 原 油 価 格 前 年 比 の 動 きが 消 費 者 物 価 指 数 に 含 まれるエ ネルギー 価 格 に 最 も 深 刻 な 形 で 影 響 するのは 2015 年 4 月 時 点 であることが 予 想 される 図 表 3:ドバイ 原 油 価 格 前 年 比 とエネルギー 価 格 前 年 比 の 推 移 ( 前 年 比 %) ( 前 年 比 %) 120 20 100 80 60 40 20 0-20 -40-60 ドバイ 原 油 価 格 エネルギー 価 格 ( 右 軸 ) 15 10 5 0-5 -10-15 -20-80 -25 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 ( 年 月 ) ( 出 所 ) 総 務 省 消 費 者 物 価 指 数 IMF, Primary Commodity Prices から 作 成 こうした 原 油 価 格 の 下 落 に 伴 うエネルギー 価 格 の 低 下 が 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 )に 与 6
える 影 響 はどの 程 度 で ドバイ 原 油 価 格 の 将 来 予 想 を 前 提 にすると エネルギー 価 格 の 低 下 が 消 費 者 物 価 指 数 に 与 えるインパクトはどの 程 度 だと 考 えられるのだろうか 図 表 4 は ドバイ 原 油 価 格 が 2015 年 2 月 の 56.15 ドル/バレルから 日 本 銀 行 が 2015 年 1 月 の 展 望 レポートで 想 定 しているドバイ 原 油 価 格 の 動 き( 見 通 し 期 間 の 終 盤 である 2016 年 度 にかけて 70 ドル 程 度 に 緩 やかに 上 昇 していく)を 踏 まえて 2016 年 3 月 に 70 ドル/バレルを 達 成 するように 緩 やかに 上 昇 していくと 仮 定 して 消 費 者 物 価 指 数 前 年 比 とエネルギー 価 格 の 寄 与 度 を 試 算 した 結 果 である なお 2013 年 1 月 から 2015 年 2 月 までのデータは 消 費 者 物 価 指 数 前 年 比 を 消 費 税 増 税 による 物 価 押 し 上 げ の 寄 与 度 エネルギー 価 格 の 寄 与 度 エネルギー 以 外 の 価 格 の 寄 与 度 の 3 つに 分 解 し 2015 年 3 月 以 降 のデータについては エネルギー 価 格 の 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 除 く 総 合 ) 前 年 比 に 与 える 寄 与 度 の み 掲 載 している なお 2015 年 度 (2015 年 4 月 から 2016 年 3 月 )までのエネルギー 価 格 の 寄 与 度 の 平 均 値 は-0.7%pt となり 1 月 展 望 レポートに 記 載 されている 2015 年 度 の 消 費 者 物 価 指 数 に 与 えるエネルギー 価 格 の 寄 与 度 (-0.7~-0.8%pt)とほぼ 一 致 する 図 表 4: 消 費 者 物 価 指 数 前 年 比 と 各 価 格 の 寄 与 エネルギー 価 格 の 寄 与 の 予 測 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0-0.5-1.0-1.5 ( 前 年 比 寄 与 度 %) 予 測 2.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 2013 2014 2015 2016 エネルギー 価 格 の 寄 与 消 費 税 増 税 による 物 価 押 し 上 げ 分 エネルギー 価 格 以 外 の 価 格 の 寄 与 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 除 く 総 合 ) 前 年 比 ( 注 )エネルギー: 電 気 代 都 市 ガス 代 プロパンガス 灯 油 及 びガソリン 消 費 税 増 税 による 物 価 押 し 上 げ 分 は 14 年 4 月 1.7pt 5 月 以 降 は2.0ptとした エネルギー 価 格 の 寄 与 は 原 油 価 格 (ドバイ)が 足 元 (2015 年 2 月 :56ドル/バレル) から2016 年 3 月 にかけて70ドルまで 緩 やかに 上 昇 すると 想 定 し 原 油 価 格 とエネルギー 価 格 との 間 に3 期 ラグを 仮 定 した 回 帰 式 から 得 たエネルギー 価 格 の 推 移 から 試 算 した 結 果 ( 出 所 ) 総 務 省 消 費 者 物 価 指 数 IMF,Primary Commodity Pricesから 作 成 公 表 されている 2015 年 2 月 までの 消 費 者 物 価 指 数 前 年 比 と 寄 与 度 の 推 移 をみると 消 費 税 増 税 によ る 物 価 押 し 上 げ 分 が 2014 年 4 月 以 降 の 消 費 者 物 価 指 数 の 押 し 上 げに 寄 与 する 一 方 で 消 費 税 増 税 の 影 響 を 除 いたエネルギー 価 格 やエネルギー 以 外 の 品 目 の 寄 与 は 低 下 傾 向 にある エネルギー 以 外 の 品 目 の 寄 与 の 低 下 には 消 費 税 増 税 以 降 の 総 需 要 の 低 下 の 影 響 が 作 用 していると 考 えられる そして 2015 年 2 7
月 の 値 をみると 消 費 者 物 価 指 数 前 年 比 2.0% 増 のうち 消 費 税 増 税 による 物 価 押 し 上 げ 分 が 2.0%pt エネルギー 価 格 の 寄 与 が-0.2%pt エネルギー 価 格 以 外 の 寄 与 が 0.2%pt という 内 訳 になる 筆 者 の 試 算 が 正 しいとすれば 2015 年 2 月 以 降 ドバイ 原 油 価 格 の 動 きを 折 り 込 んだエネルギー 価 格 の 寄 与 度 は 2015 年 4 月 にかけて-1.1%pt まで 高 まった 後 8 月 まで-1.0%pt 程 度 を 維 持 して 9 月 以 降 緩 やかにマイナスのインパクトが 剥 落 していき ようやく 2016 年 3 月 に+0.2%pt の 寄 与 度 となるは ずだ つまり 原 油 価 格 の 動 きに 応 じたエネルギー 価 格 の 消 費 者 物 価 指 数 へのマイナスインパクトは 3 月 以 降 徐 々に 高 まっていき 4 月 から 8 月 にかけて 1%pt 程 度 のマイナスインパクトが 持 続 することが 予 想 されるのである 以 上 のように 原 油 安 が 消 費 者 物 価 指 数 に 与 えるマイナスインパクトは 今 後 さらに 高 まると 見 込 まれ る 図 表 2 では 量 的 質 的 金 融 緩 和 が 開 始 された 2013 年 4 月 からドバイ 原 油 価 格 が 下 落 に 転 じる 直 前 期 である 2014 年 7 月 までの 物 価 と 失 業 率 の 傾 向 線 の 特 徴 を 見 たが 2014 年 8 月 から 2015 年 2 月 までの データを 含 めた 場 合 に 物 価 と 失 業 率 の 傾 向 線 にはどのような 変 化 が 生 じるのだろうか 図 表 5 は 図 表 2 の 直 線 に 加 えて 赤 線 が 加 えられている この 赤 線 は 量 的 質 的 金 融 緩 和 が 開 始 された 2013 年 4 月 か ら 2015 年 2 月 までの 物 価 と 失 業 率 の 傾 向 線 である 図 表 5:フィリップス 曲 線 からみた 量 的 質 的 金 融 緩 和 の 効 果 2 4 3 2 1 ( 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 除 く 総 合 ): 前 年 比 上 昇 率 :%) 1990 年 1 月 ~1997 年 12 月 コアCPI 上 昇 率 = + 6.28-1.83 完 全 失 業 率 R² = 0.82 2013 年 4 月 ~2014 年 7 月 コアCPI 上 昇 率 = 9.74-2.31 完 全 失 業 率 R² = 0.67 0-1 -2-3 2013 年 4 月 ~2015 年 2 月 コアCPI 上 昇 率 = 3.82-0.80 完 全 失 業 率 R² = 0.11 1998 年 1 月 ~2013 年 3 月 コアCPI 上 昇 率 = 4.27-0.98 完 全 失 業 率 R² = 0.47 1 2 3 4 5 6 ( 完 全 失 業 率 :%) ( 注 )1997 年 4 月 から 1998 年 3 月 まで 2014 年 4 月 から 2015 年 2 月 ( 直 近 値 )までの 物 価 上 昇 率 からは 消 8
費 税 増 税 による 物 価 上 昇 率 の 上 昇 分 を 除 いている ( 出 所 ) 総 務 省 労 働 力 調 査 消 費 者 物 価 指 数 より 作 成 赤 線 と 黒 線 と 比 較 すると 2015 年 7 月 以 降 のデータを 考 慮 した 赤 線 では 切 片 の 値 が 低 下 し デフレ 期 における 切 片 の 値 をも 下 回 っている そして 傾 きの 値 も 再 び 低 下 して デフレ 期 における 値 をも 下 回 っている 赤 線 の 傾 向 線 を 用 いて 原 油 安 が 始 まる 前 に 2%インフレ 目 標 達 成 のために 必 要 な 失 業 率 3.3%を 代 入 して 物 価 上 昇 率 を 試 算 すると 1.2% 程 度 となる つまり 原 油 安 の 影 響 を 考 慮 に 入 れると 2% インフレ 目 標 を 達 成 安 定 化 する 金 融 政 策 で 達 成 可 能 な 物 価 上 昇 率 は 1.2% 程 度 ということになるの である 2015 年 3 月 に 新 たに 審 議 委 員 に 就 任 した 原 田 泰 氏 は 3 月 26 日 の 就 任 記 者 会 見 において 記 者 から 完 全 雇 用 失 業 率 の 水 準 ないしは 潜 在 成 長 率 について 問 われた 際 に 次 のように 答 えている 以 前 に 失 業 率 について 3.5%が 完 全 雇 用 ではなく 2.5%くらいが 完 全 雇 用 であるかもしれない と 申 し 上 げました それは 物 価 が 上 がっていない 状 況 での 失 業 率 を 完 全 雇 用 であるということはできな いのではないかということです もちろん 失 業 率 が 2.5%に 近 づく 過 程 で 私 は 2.5%くらいが 完 全 雇 用 の 失 業 率 ではないかと 思 っていますが 物 価 がさらに 上 がる 2%を 超 えて 上 がるということ が 起 きれば 2.5%くらいが 完 全 失 業 率 ではないか という 私 の 推 測 が 間 違 っていたということになり ます また 潜 在 成 長 率 あるいは 潜 在 GDPのレベルについては 先 程 申 し 上 げた 完 全 雇 用 失 業 率 とも 関 係 しています 完 全 雇 用 失 業 率 が 3.5%であればそれに 応 じたGDPギャップが 計 算 できます ただ 先 程 申 し 上 げたように 失 業 率 3.5%でも 物 価 が 上 がらないのですから これは 完 全 雇 用 状 態 のGDP ではありません 3.5%の 失 業 率 がさらに 低 下 する 過 程 で GDPのレベルは 増 えますので 潜 在 GDP は 実 はもっと 大 きいということになります 3 図 表 5 の 議 論 を 先 程 とは 別 の 観 点 からまとめると 2013 年 4 月 から 2015 年 2 月 までの 物 価 と 失 業 率 の 傾 向 線 を 前 提 とすると 2%のインフレ 率 を 安 定 的 に 達 成 するために 必 要 な 完 全 失 業 率 は 2.3%となる もちろん 原 田 氏 が 指 摘 する 完 全 雇 用 失 業 率 を 厳 密 な 形 で 計 測 分 析 するには 構 造 的 摩 擦 的 失 業 率 や NAIRU の 計 測 が 必 要 であり 筆 者 も 別 の 機 会 にまとまった 形 で 検 討 したいと 考 えている 以 上 の 点 は 留 保 するとしても 筆 者 は 3.5%が 完 全 雇 用 失 業 率 というのは 誤 りであり むしろ 原 田 氏 が 述 べる 2.5%が 完 全 雇 用 失 業 率 の 方 が 正 しいと 思 うのである だとすれば 図 表 2 で 示 したように 物 価 上 昇 率 の 加 速 というデメリットを 気 にすることなく 3.5% よりもさらに 低 い 完 全 失 業 率 の 達 成 が 可 能 なのだから インフレ 目 標 達 成 に 向 けてより 強 力 な 金 融 緩 和 策 を 行 うことが 必 要 とも 言 えるだろう 3 http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2015/kk1503d.pdf 9
追 加 緩 和 はどのような 局 面 が 生 じたら 必 要 なのか これまでインフレ 目 標 政 策 の 意 味 について 様 々な 観 点 から 論 じてきた 三 菱 UFJモルガン スタンレ ー 証 券 の 嶋 中 雄 二 氏 は 2 月 25 日 付 のレポート( 日 銀 は インフレ 目 標 の 早 期 達 成 に 全 力 を!~ 株 高 円 安 下 でも デフレ 再 突 入 阻 止 が 重 要 に~ 4 )において 消 費 者 物 価 指 数 のマイナス 化 の 進 行 を 水 際 で 阻 止 するという 断 固 とした 姿 勢 を 再 びアクションで 示 すべきと 主 張 し 4 月 7 日 8 日 の 金 融 政 策 決 定 会 合 か 4 月 30 日 の 展 望 レポート 公 表 時 に 10 兆 円 の 追 加 緩 和 を 行 うことを 提 案 している 図 表 4 で 具 体 的 に 試 算 したように 今 後 日 本 銀 行 のシナリオ 通 りにドバイ 原 油 価 格 が 推 移 するとして も エネルギー 価 格 の 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 ) 前 年 比 に 及 ぼす 寄 与 が 4 月 から 8 月 にか けてマイナス 1%pt 程 度 で 推 移 する 蓋 然 性 が 高 い こうした 状 況 下 で 当 面 エネルギー 価 格 のマイナスイ ンパクトを 打 ち 消 すような 総 需 要 の 拡 大 が 生 じる 可 能 性 は 低 いと 見 込 まれる 消 費 者 物 価 指 数 の 前 年 比 マイナスが 仮 に 4 月 から 8 月 までの 5 カ 月 間 持 続 することになれば こうした 動 きが 予 想 インフレ 率 の 低 下 や ひいてはインフレ 目 標 の 達 成 にとって 重 大 な 障 害 につながる 可 能 性 は 捨 てきれない もちろん 原 油 価 格 の 下 落 のみ が 消 費 者 物 価 指 数 の 停 滞 の 原 因 であるのならば さらなる 追 加 緩 和 は 逆 に 景 気 の 過 熱 やインフレ 率 の 急 上 昇 という 形 で 作 用 する 可 能 性 もありうる しかし 相 変 わらずさ えない 動 きを 続 ける 家 計 調 査 や 商 業 動 態 統 計 そして 先 行 きの 業 況 判 断 は 悪 化 となり 2014 年 度 と 比 べ ても 低 調 なスタートとなった 設 備 投 資 計 画 企 業 家 計 の 予 想 インフレ 率 はほぼ 横 ばい といった 期 待 外 れの 結 果 に 終 わった 日 銀 短 観 (2015 年 3 月 ) 有 効 求 人 倍 率 や 完 全 失 業 率 といった 指 標 は 堅 調 に 推 移 するものの 有 効 求 人 倍 率 を 構 成 する 有 効 求 人 数 の 先 行 指 標 である 2 月 新 規 求 人 数 は 昨 年 2 月 以 来 の 大 幅 減 少 さらに 2013 年 1 月 以 降 2 カ 月 連 続 で 増 加 することがなく 安 定 的 に 減 少 していた 有 効 求 職 者 数 が 2 月 に 入 り 2 カ 月 連 続 で 増 加 しているといったように 雇 用 環 境 も 懸 念 なしの 情 勢 とは 言 えない 現 状 を 考 慮 に 入 れれば 原 油 安 で 生 じると 期 待 される 景 気 の 持 ち 直 しが 期 待 外 れに 終 わる 可 能 性 もあり 得 るの ではないか このように 考 えていくと 総 需 要 の 拡 大 や 予 想 インフレ 率 の 観 点 からみて 早 期 の 追 加 緩 和 を 行 うこ とが 日 本 銀 行 にとって 必 須 だと 言 える 日 本 銀 行 は 2015 年 1 月 の 展 望 レポートで 2014~2016 年 度 の 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 除 く 総 合 ) 前 年 比 につき 政 策 委 員 の 見 通 しを 公 表 している この 見 通 しを 検 討 しつつ 消 費 者 物 価 指 数 の 動 きがどのような 推 移 を 辿 った 場 合 に 追 加 緩 和 が 必 要 になるのかを 考 えてみ ることにしよう 図 表 6 は 2015 年 1 月 の 展 望 レポートにおける 2015 年 度 の 物 価 上 昇 率 の 中 央 値 1.0%を 達 成 するため に 必 要 な 消 費 者 物 価 指 数 の 動 きを 図 表 4 のエネルギー 価 格 の 寄 与 度 を 前 提 として 検 討 した 結 果 である 検 討 にあたり 図 表 5 の 原 油 安 の 影 響 を 考 慮 した 赤 線 のフィリップス 曲 線 を 念 頭 におき 量 的 質 的 金 融 緩 和 が 達 成 可 能 な 物 価 上 昇 率 は 1.2%であると 仮 定 する さらに 1.2%を 達 成 した 後 の 月 のエネルギ ー 価 格 を 除 く 品 目 の 消 費 者 物 価 指 数 前 年 比 に 対 する 寄 与 度 が 変 わらないとして 2015 年 度 の 物 価 上 昇 率 が 1.0%となるために 必 要 な 消 費 者 物 価 数 前 年 比 の 推 移 を 試 算 してみた 4 http://www.sc.mufg.jp/report/business_cycle/snb_report/pdf/snb20150225.pdf 10
図 表 6: 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 ) 前 年 比 が 2015 年 度 に 1%を 達 成 すると 仮 定 した 場 合 の シミュレーション 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0-0.5-1.0-1.5 ( 前 年 比 寄 与 度 %) 予 測 2.0 1.9 1.2-0.4 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 2013 2014 2015 2016 2.3 エネルギー 価 格 の 寄 与 消 費 税 増 税 による 物 価 押 し 上 げ 分 エネルギー 価 格 以 外 の 価 格 の 寄 与 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 除 く 総 合 ) 前 年 比 ( 注 )エネルギー: 電 気 代 都 市 ガス 代 プロパンガス 灯 油 及 びガソリン 消 費 税 増 税 による 物 価 押 し 上 げ 分 は 14 年 4 月 1.7pt 5 月 以 降 は2.0ptとした エネルギー 価 格 の 寄 与 は 原 油 価 格 (ドバイ)が 足 元 (2015 年 2 月 :56ドル/バレル) から2016 年 3 月 にかけて70ドルまで 緩 やかに 上 昇 すると 想 定 し 原 油 価 格 とエネルギー 価 格 との 間 に3 期 ラグを 仮 定 した 回 帰 式 から 得 たエネルギー 価 格 の 推 移 から 試 算 した 結 果 エネルギー 以 外 の 価 格 の 寄 与 は15 年 9 月 に2.1%ptと なり 以 降 一 定 と 想 定 ( 出 所 ) 総 務 省 消 費 者 物 価 指 数 IMF,Primary Commodity Pricesから 作 成 図 表 6 の 結 果 からは 2015 年 1 月 公 表 の 展 望 レポートにおける 政 策 委 員 の 大 勢 見 通 しである 前 年 比 でみて 1.0%の 物 価 上 昇 率 を 達 成 するために 必 要 な 物 価 上 昇 率 の 推 移 は 2015 年 3 月 と 4 月 の 2 カ 月 間 は 消 費 税 増 税 の 影 響 を 除 いたベースで 前 年 比 マイナスを 許 容 するものの その 後 は 2015 年 9 月 に 前 年 比 1.2%を 達 成 すべくじりじりと 上 昇 を 続 け エネルギー 価 格 のマイナスインパクトが 剥 落 していく 中 で 2016 年 3 月 に 前 年 比 2.3% 程 度 にまで 物 価 上 昇 率 が 高 まるといった 姿 であるということだ 前 年 比 1.2%の 物 価 上 昇 率 を 達 成 する 時 期 が 後 ズレしたらどうなるだろうか 図 表 7 は 2016 年 3 月 に 物 価 上 昇 率 が 1.2%になると 想 定 した 上 で 図 表 6 と 同 様 の 試 算 を 行 った 結 果 である 結 果 をみると 2015 年 3 月 から 10 月 までの 間 消 費 税 増 税 の 影 響 を 除 いたベースで 物 価 上 昇 率 はマイナスが 続 く そし て 2015 年 度 物 価 上 昇 率 はマイナス 0.1%となる つまり 以 上 の 試 算 の 結 果 からは 1 月 展 望 レポートにおける 2015 年 度 物 価 上 昇 率 1.0%を 達 成 するた めには 2015 年 4 月 から 2016 年 3 月 までの 期 間 において 1 回 は 物 価 上 昇 率 がマイナスとなることを 許 容 できるものの 2 カ 月 連 続 でマイナスとなった 場 合 には 早 期 の 物 価 上 昇 率 の 高 まりが 見 込 めない 限 り 達 成 可 能 性 が 低 くなる 公 算 が 大 ということになる 2015 年 4 月 末 に 公 表 される 予 定 の 新 たな 展 望 レポートにおいて 2015 年 度 の 物 価 上 昇 率 の 中 央 値 が 1%を 割 り 込 む 予 想 結 果 になるとすれば それは 消 費 者 物 価 指 数 前 年 比 のマイナスが 一 時 的 ではなく 長 期 にわたる 可 能 性 が 高 まったことを 意 味 する そうなれば 予 想 インフレ 率 が 低 下 する 可 能 性 や 総 需 要 の 拡 大 が 不 十 分 なものに 留 まることで 結 果 物 価 上 昇 率 への 押 し 上 げ 効 果 が 小 さくなる 可 能 性 が 高 11
まるだろう 日 本 銀 行 は 消 費 者 物 価 指 数 のマイナス 化 を 追 加 緩 和 という 具 体 的 なアクションで 断 固 阻 止 するという 姿 勢 を 早 期 に 示 すべきではないだろうか 図 表 7: 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 ) 前 年 比 が 2016 年 3 月 に 1.2%を 達 成 すると 仮 定 した 場 合 のシミュレーション 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0-0.5-1.0-1.5 予 測 ( 前 年 比 寄 与 度 %) 2.0 1.6-0.2-0.8 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 2013 2014 2015 2016 エネルギーの 寄 与 エネルギー 以 外 の 品 目 の 寄 与 消 費 税 増 税 による 物 価 押 し 上 げ 分 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 除 く 総 合 ) 前 年 比 1.2 ( 注 )エネルギー: 電 気 代 都 市 ガス 代 プロパンガス 灯 油 及 びガソリン 消 費 税 増 税 による 物 価 押 し 上 げ 分 は 14 年 4 月 1.7pt 5 月 以 降 は2.0ptとした エネルギー 価 格 の 寄 与 は 原 油 価 格 (ドバイ)が 足 元 (2015 年 2 月 :56ドル/バレル) から2016 年 3 月 にかけて70ドルまで 緩 やかに 上 昇 すると 想 定 し 原 油 価 格 とエネルギー 価 格 との 間 に3 期 ラグを 仮 定 した 回 帰 式 から 得 たエネルギー 価 格 の 推 移 から 試 算 した 結 果 エネルギー 以 外 の 品 目 の 寄 与 は 足 元 から 段 階 的 に 拡 大 して 2016 年 3 月 に 物 価 上 昇 率 が 前 年 比 1.2%を 達 成 するように 推 移 すると 想 定 ( 出 所 ) 総 務 省 消 費 者 物 価 指 数 IMF,Primary Commodity Pricesから 作 成 - ご 利 用 に 際 して- 本 資 料 は 信 頼 できると 思 われる 各 種 データに 基 づいて 作 成 されていますが 当 社 はその 正 確 性 完 全 性 を 保 証 するものではありません また 本 資 料 は 執 筆 者 の 見 解 に 基 づき 作 成 されたものであり 当 社 の 統 一 的 な 見 解 を 示 すものではありません 本 資 料 に 基 づくお 客 様 の 決 定 行 為 及 びその 結 果 について 当 社 は 一 切 の 責 任 を 負 いません ご 利 用 にあたっては お 客 様 ご 自 身 でご 判 断 くださいます ようお 願 い 申 し 上 げます 本 資 料 は 著 作 物 であり 著 作 権 法 に 基 づき 保 護 されています 著 作 権 法 の 定 めに 従 い 引 用 する 際 は 必 ず 出 所 : 三 菱 UFJリサーチ&コンサルティングと 明 記 してください 本 資 料 の 全 文 または 一 部 を 転 載 複 製 する 際 は 著 作 権 者 の 許 諾 が 必 要 ですので 当 社 までご 連 絡 下 さい 12