臨 床 病 型 診 断 は 臨 床 経 過 と 画 像 所 見 を 参 考 にして 行 いますが 脳 血 栓 症 と 脳 塞 栓 症 の 鑑 別 は 困 難 なことも 少 なくありません さらに 脳 灌 流 障 害 の 発 症 機 序 から 血 栓 性 塞 栓 性 血 行 力 学 性 の 3 型 に



Similar documents
図 表 1 1,000 万 円 以 上 高 額 レセプト ( 平 成 25 年 度 ) 順 位 月 額 医 療 費 主 傷 病 名 順 位 月 額 医 療 費 主 傷 病 名 順 位 月 額 医 療 費 主 傷 病 名 順 位 月 額 医 療 費 主 傷 病 名 順 位 月 額 医 療 費 主 傷

ひろっぱ355号2月Web用に.indd

目次

<96DA8E9F81698D8791CC A2E786C73>

ROTA:ロータブレター 件 数 期 間 中 の 実 施 件 数 (K548 算 定 件 数 ) CTO: 慢 性 完 全 閉 塞 件 数 PTA: 経 皮 的 末 梢 動 脈 形 成 術 件 数 期 間 中 の 実 施 件 数 (K616 算

Microsoft PowerPoint _GP向けGL_final

診療行為コード

5 月 25 日 2 口 腔 咽 頭 唾 液 腺 の 疾 患 2 GIO: 口 腔 咽 頭 唾 液 腺 の 疾 患 を 理 解 する SBO: 1. 急 性 慢 性 炎 症 性 疾 患 を 説 明 できる 2. 扁 桃 の 疾 患 を 説 明 できる 3. 病 巣 感 染 症 を 説 明 できる 4

Microsoft Word - 3大疾病保障特約付団体信用生命保険の概要_村上.docx

各論_1章〜7章.indd

< F2D874491E682528FCD2091E DF C A2E>

5 月 27 日 4 子 宮 頸 癌 1 GIO: 子 宮 頸 癌 の 病 態 診 断 治 療 について 理 解 する SBO: 1. 子 宮 頸 癌 の 発 癌 のメカニズムや 発 癌 過 程 について 説 明 できる 2. 子 宮 頸 癌 および 前 癌 病 変 の 分 類 ついて 説 明 でき

36program

< F2D F97CC8EFB8F BE8DD78F9192CA926D>


2-1膠原病.doc

監 修 北 辰 会 有 澤 総 合 病 院 内 科 大 八 木 秀 和 1 時 間 目 子 宮 内 膜 症 名 古 屋 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 産 婦 人 科 中 原 辰 夫 NAKAHARA Tatsuo 月 経 困 腎 難 不 を 全 訴 とはどのような えて 来 院 される

<4D F736F F F696E74202D208D4C94A C BB38EBA814089FC95CF2E B8CDD8AB B83685D>

Taro-4-1-4糖尿病(PDF用).jtd

栄養管理手順について

3 保 険 料 ( 掛 金 )を 納 めていること 原 則 として 初 診 日 月 前 々 月 まで 国 民 年 金 加 入 期 間 全 体 うち 3 分 2 以 上 きち んと 納 めている( 保 険 料 免 除 期 間 も 含 む)ことが 必 要 です 現 在 は 特 例 として 初 診 日 が

Microsoft Word - conference

5 月 19 日 5 新 生 児 の 呼 吸 障 害 GIO: 新 生 児 期 に 生 じる 呼 吸 障 害 の 病 態 の 特 徴 を 説 明 でき 胸 部 XPから 診 断 できる SBO: 1. 新 生 児 呼 吸 障 害 の 病 態 に 基 づく 症 状 の 特 徴 を 説 明 できる 2.

4. 手 術 により 期 待 される 効 果 手 術 は 直 腸 癌 に 対 する 治 療 として 最 も 確 実 な 方 法 とされていますが これに よりすべての 直 腸 癌 が 治 癒 するわけではありません 肉 眼 的 にすべての 癌 が 取 り 除 けた 場 合 でも 目 には 見 えない

(2) 職 員 の 初 任 給 の 状 況 ( 平 成 17 年 4 月 1 日 現 在 ) 初 任 給 2 年 後 の 給 料 初 任 給 2 年 後 の 給 料 一 般 行 政 職 技 能 労 務 職 大 学 卒 171,1 151,5 19,2 164,7 17,7 184,4 中 学 卒 1

(\202g22\214\366\225\\.xls)

大 腸 がん 術 後 内 服 化 学 療 法 連 携 1コース~3コース 大 腸 がん 術 後 内 服 化 学 療 法 連 携 4コース 以 降 拠 点 病 院 への 紹 介 基 準 : 食 事 が 入 らないとき 腫 瘍 マーカー 上 昇 時 発 熱 時 処 方 拠 点 病 院 への 紹 介 基

1章A_責了.indd

主 要 な が ん 治 療 に つ い て 入 院 に か か る 医 療 費 の 支 払 い か ら 計 算 し た も の で す 例 え ば 胃 が ん に つ い て は 平 均 入 院 費 は 総 額 約 万 円 で 自 己 負 担 額 は 約 3 3 万 円 程 度 必 要

脳卒中に関わるケアマネージャーを始めとする在宅医療に関わる方々への資料

2) 効 果 の 高 い 治 療 薬 が 限 定 されているので 病 診 間 で 意 思 統 一 した 薬 物 治 療 を 行 いやすい 3) 薬 物 治 療 などの 効 果 が 緩 徐 であるので 長 期 の 通 院 が 必 要 である 4) 手 術 が 必 要 になる 場 合 でも 徐 々に 増

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 22 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 ( 単 位 : ) 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 6 級 7 級 135, , , , , ,600

H1_4

(2) 特 別 障 害 給 付 金 国 民 年 金 に 任 意 加 入 していなかったことにより 障 害 基 礎 年 金 等 を 受 給 していない 障 がい 者 の 方 に 対 し 福 祉 的 措 置 として 給 付 金 の 支 給 を 行 う 制 度 です 支 給 対 象 者 平 成 3 年 3

< F2D C482C682EA B40945C8BE6>

人 間 ドックコース( 脳 検 査 がん 検 査 含 む) 298,000 円 / 税 込 その 他 肥 満 症 やせ 症 高 / 低 血 圧 近 視 乱 視 白 内 障 緑 内 障 網 膜 疾 患 外 部 の 音 を 遮 断 したブースで 音 を 聞 き 取 って 調 難 聴 腹 部 超 音 波

< F2D817995DB94AD D8691E6328D86817A96BE8DD78F91>

アフターケア.indd

平成24年度 福島県患者調査の概況(厚生労働省大臣官房統計情報部人口動態・保健社会統計課 保健統計室:H )

カラーP1.indd

● 外科初期研修プログラム 

2 職 員 の 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び の 状 況 (26 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 静 岡 県 国 類 似 団 体 2 技 能 労 務 職 区 41.8 歳 42.6 歳 43.5

先行研究のサマリー

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 【溶け込み】【修正】第2章~第4章

2 ペインクリニック ペインクリニック 科 に 関 しては 先 ずは 様 々な 痛 みの 症 例 を 正 確 に 診 断 できる 能 力 の 養 成 を 最 大 の 目 標 にします その 過 程 で 薬 物 療 法 神 経 ブロック( 超 音 波 透 視 下 を 含 む) Intervention

首 は 下 あ ご の 骨 の 下 か ら 鎖 骨 の 上 ま で 自 分 の 首 を 両 手 で は さ ん で お さ え て み ま し ょ う 師 首 っ て ど ん な 仕 事 を し て い る か な 子 頭 を の せ て い る 頭 を お さ え て い る 頭 を 動 か し


新規文書2

(Microsoft Word -

2. 入 院 1 延 入 院 患 者 数 H27 H28 ( 単 位 : 人 ) 区 分 8 月 9 月 1 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 合 計 一 般 障 害 ( 西 42 床 ) 1,218 1,154 1,266 1,161 1,17 1,2

δ

<4D F736F F D208BE38F B959489F1939A B638E96985E>

糖尿病の歯科病変

技 能 労 務 職 公 務 員 民 間 参 考 区 分 平 均 年 齢 職 員 数 平 均 給 与 月 額 平 均 給 与 月 額 平 均 給 料 月 額 (A) ( 国 ベース) 平 均 年 齢 平 均 給 与 月 額 対 応 する 民 間 の 類 似 職 種 東 庄 町 51.3 歳 18 77

4 ぼうこう又は直腸機能障害

Microsoft Word - 1表紙.doc

経 常 収 支 差 引 額 の 状 況 平 成 22 年 度 平 成 21 年 度 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 4,154 億 円 5,234 億 円 1,080 億 円 改 善 赤 字 組 合 の 赤 字 総 額 4,836 億 円 5,636 億 円 800 億 円 減

くも 膜 下 出 血 の 症 状 頭 を 殴 られたような 突 然 の 激 しい 頭 痛 意 識 が 朦 朧 (もうろう)とする 意 識 を 失 う 嘔 吐 血 圧 上 昇 物 が 二 重 に 見 えるなどの 症 状 があります 手 足 の 麻 痺 は 必 ず 起 こるとは 限 りません 発 症 前

母 子 医 療 対 策 費 462 (313,289) 国 4,479 1 不 妊 治 療 助 成 事 業 8,600 不 妊 治 療 費 用 の 一 部 を 助 成 し 経 済 的 負 担 の 軽 減 を 図 る 230, ,608 不 妊 治 療 費 の 増 加 による 増 額 分

第 2 部 各 論 1 糖 尿 病 に 関 する 柏 市 の 現 状 及 び 健 康 課 題 糖 尿 病 に 関 する 柏 市 の 現 状 から, 柏 市 の 健 康 課 題 を 抽 出 します 柏 市 の 現 状 データ 疾 病 の 指 摘 状 況 再 掲 図 4 成 人 の 疾 病 の 指 摘

【資料1】栄養強調表示等について

認 定 看 護 師 専 門 看 護 師 集 中 ケア 新 生 児 集 中 ケア A 呼 吸 ケアチーム 加 算 150 点 呼 吸 ケアチームの 設 置 救 急 看 護 小 児 救 急 看 護 慢 性 呼 吸 器 疾 患 看 護 急 性 重 症 患 者 看 護 A 247 認 知 症

目  次


044 多発血管炎性肉芽腫症

3 職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 24 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 岐 阜 県 類 似 団 体 平 均 年 齢 平 均 給

Microsoft Word 住宅ローン保障拡充.doc

Taro (完成版) 「

救急科  臨床研修プログラム

○00表紙

Microsoft Word - H25普通会計決算状況 .docx

公 営 企 業 職 員 の 状 況 1 水 道 事 業 1 職 員 給 与 費 の 状 況 ア 決 算 区 分 総 費 用 純 利 益 職 員 給 与 費 総 費 用 に 占 める ( 参 考 ) 職 員 給 与 費 比 率 22 年 度 の 総 費 用 に 占 A B B/A める 職 員 給 与

頸 がん 予 防 措 置 の 実 施 の 推 進 のために 講 ずる 具 体 的 な 施 策 等 について 定 めることにより 子 宮 頸 がんの 確 実 な 予 防 を 図 ることを 目 的 とする ( 定 義 ) 第 二 条 この 法 律 において 子 宮 頸 がん 予 防 措 置 とは 子 宮

(Microsoft Word - \213\213\227^\201E\222\350\210\365\212\307\227\235\214\366\225\\\201iH \)\201iHP\227p\201j.doc)

3 職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 (23 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 平 均 給 与 月 額

【分割ファイル4-4】

<4D F736F F D208F8A92E88EBE8AB38E7B90DD97C3977B94EF82C982C282A282C42E646F63>

Microsoft PowerPoint - )大腸癌をお受けになる方に図(南堺_更新用 [互換モード]

Microsoft Word - 2章.doc

障害福祉制度あらまし目次

診療報酬の内容および算定の方法 (新入会員用)

<4D F736F F D F817A90B696BD8BA48DCF82CC82B28C5F96F18ED2976C82D BD90AC E82538C8E89FC92F982CC82B582A882E88163>

(Microsoft Word _10\214\216\222\262\215\270\203\212\203\212\201[\203X_\215\305\217I\215e.doc)

失 によって 告 知 事 項 について 事 実 を 告 げずまたは 不 実 のことを 告 げたときは 共 済 契 約 者 に 対 する 書 面 による 通 知 をもって 共 済 契 約 を 解 除 することができます た だし 当 組 合 がその 事 実 を 知 りまたは 過 失 によってこれを 知

<947A957A8E9197BF C E786C73>

Microsoft Word 菊地

Microsoft Word - nagekomi栃木県特定医療費(指定難病)支給認定申請手続きのご案内 - コピー

17 外 国 人 看 護 師 候 補 者 就 労 研 修 支 援 18 看 護 職 員 の 就 労 環 境 改 善 運 動 推 進 特 別 20 歯 科 医 療 安 全 管 理 体 制 推 進 特 別 21 在 宅 歯 科 医 療 連 携 室 整 備 22 地 域 災 害 拠 点 病

‚æ39›ñ‚“›ï„‹™è‘W/P1~2 ‡à‡Ł‡¶†E…V…“

( 通 則 の 見 直 し) 6 鋼 線 等 による 直 達 牽 引 介 達 牽 引 又 は 消 炎 鎮 5 区 分 番 号 J117に 掲 げる 鋼 線 等 による 直 達 痛 等 処 置 を 併 せて 行 った 場 合 は 心 大 血 管 疾 患 リハビリテーション 料 脳 血 管 疾 患 等

スライド 1

< EC8E F58B8B975E8CF6955C8CB48D652E786C73>

Ⅶ 東 海 地 震 に 関 して 注 意 情 報 発 表 時 及 び 警 戒 宣 言 発 令 時 の 対 応 大 規 模 地 震 対 策 特 別 措 置 法 第 6 条 の 規 定 に 基 づき 本 県 の 東 海 地 震 に 係 る 地 震 防 災 対 策 強 化 地 域 において 東 海 地 震

第 3 回 肥 満 質 質 基 本 形 酸 質 胃 腸 酵 素 酸 分 解 小 腸 吸 収 血 中 注 入 酸 各 細 胞 質 材 料 使 不 要 質 分 解 再 利 用 糖 不 足 酸 肝 臓 窒 素 除 去 糖 生 成 源 低 血 糖 時 補 充 大 栄 養 素 脂 肪 炭 水 化 物 大 栄

科 目 名 生 理 学 Ⅱ 講 師 名 山 美 喜 子 開 講 期 前 期 後 期 通 身 体 の 正 常 な 機 能 を 国 家 試 験 の 出 題 内 容 と 関 連 付 けて 理 解 する 成 績 評 価 方 法 試 験 :00 点 受 講 態 度 :0 点 ( 減 点 方 式 ) 生 理 学

1 資 料 編 我 が 国 の 人 口 の 推 移 厚 労 働 全 般 平 成 24 年 版 厚 労 働 白 書 5

2 職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 22 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 平 均 給 与

3 職 員 の 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び の 状 況 (24 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 ( ベース) 43.7 歳 32, , ,321

表紙-2.xdw

Transcription:

脳 梗 塞 脳 梗 塞 とは 脳 血 管 の 狭 窄 や 閉 塞 または 不 整 脈 ( 心 房 細 動 )などの 心 臓 疾 患 が 原 因 となり 脳 循 環 不 全 が 発 生 し 脳 組 織 が 壊 死 し 不 可 逆 的 状 態 に 陥 った 病 態 をいいます 脳 梗 塞 の 原 因 は 脳 血 管 (とくに 脳 動 脈 )の 閉 塞 であり 閉 塞 動 脈 の 灌 流 領 域 に 特 有 の 局 所 神 経 症 状 をきたします 表 -1 局 所 神 経 症 状 閉 塞 動 脈 目 の 前 が 暗 くなる 黒 内 障 頚 部 内 頸 動 脈 片 側 の 手 足 の 脱 力 しびれ 感 対 側 片 麻 痺 と 感 覚 障 害 内 頸 動 脈 ~ 言 葉 が 出 ない 失 語 中 大 脳 動 脈 行 動 がおかしい 字 が 書 けない 失 行 失 書 視 野 が 狭 くなる 視 野 障 害 ( 半 盲 ) 後 大 脳 動 脈 めまい ふらつき 眩 暈 運 動 失 調 物 が 二 重 に 見 える 複 視 椎 骨 脳 底 動 脈 しゃべりにくい 飲 み 込 みにくい 構 語 障 害 嚥 下 障 害 表 -1 局 所 神 経 症 状 と 閉 塞 動 脈 これらの 局 所 神 経 症 状 は 脳 血 管 の 側 副 血 行 路 ( 動 脈 閉 塞 部 以 外 の 動 脈 系 の 血 行 路 )の 状 態 により 可 逆 的 な 一 過 性 脳 虚 血 発 作 (TIA)として 症 状 が 回 復 す るか 脳 梗 塞 になるかが 決 定 されます TIAとは 単 一 の 脳 血 管 灌 流 領 域 における 局 所 神 経 症 状 を 呈 する 短 時 間 の 発 作 で 症 状 が 24 時 間 ( 多 くは 15 分 ) 以 内 に 症 状 が 消 失 するものと 定 義 されます TIAの 発 症 機 序 は 内 頚 動 脈 起 始 部 の 壁 在 血 栓 による 微 小 塞 栓 血 行 力 学 性 心 原 性 塞 栓 ラクナ 病 変 高 ヘマトクリット 血 症 などがありますが 重 要 なこ とは これら TIAが 脳 梗 塞 の 前 兆 であるという 事 実 です このため TIA 発 症 例 では 危 険 因 子 検 索 を 行 うとともに MRI MRAによる 脳 および 脳 血 管 精 査 を 行 い 血 栓 性 TIAでは 抗 血 小 板 薬 (シロスタゾール クロ ビドグレル アスピリン) 塞 栓 性 TIAでは 抗 凝 固 薬 (ワーファリン)の 服 用 が 必 要 になります 脳 梗 塞 の 臨 床 病 型 は 1 心 原 性 脳 塞 栓 症 2アテロ-ム 血 栓 性 梗 塞 3ラク ナ 梗 塞 の 3 型 に 分 類 され その 他 として 解 離 性 動 脈 瘤 もやもや 病 静 脈 血 栓 症 全 身 疾 患 ( 血 液 疾 患 血 管 炎 )などが 分 類 されます 1

臨 床 病 型 診 断 は 臨 床 経 過 と 画 像 所 見 を 参 考 にして 行 いますが 脳 血 栓 症 と 脳 塞 栓 症 の 鑑 別 は 困 難 なことも 少 なくありません さらに 脳 灌 流 障 害 の 発 症 機 序 から 血 栓 性 塞 栓 性 血 行 力 学 性 の 3 型 に 分 類 されます(NINDS:1990) 図 -1 2006 年 の 急 性 脳 梗 塞 177 例 の 臨 床 病 型 別 発 症 頻 度 は 心 原 性 脳 塞 栓 症 21.9% アテロ-ム 血 栓 性 梗 塞 40.6% ラクナ 梗 塞 35.0% その 他 2.5%でした 1 2 3 図 -1 各 臨 床 病 型 の 代 表 的 画 像 所 見 : 1 心 原 性 脳 塞 栓 症 による 出 血 性 梗 塞 (CT) 2アテロ-ム 血 栓 症 (MRI 拡 散 強 調 画 像 ) 3ラクナ 梗 塞 (MRI 拡 散 強 調 画 像 : ) 1 心 原 性 脳 塞 栓 症 は 心 臓 疾 患 とくに 心 臓 弁 膜 症 や 動 脈 硬 化 にともなう 不 整 脈 ( 心 房 細 動 )に 起 因 した 心 腔 内 の 血 栓 により 突 発 性 に 脳 血 管 を 閉 塞 する もので ほとんどが 塞 栓 性 機 序 です 2アテロ-ム 血 栓 性 梗 塞 は 脳 内 や 頚 部 の 比 較 的 大 きな 血 管 の 粥 状 (アテロ ーム) 硬 化 3ラクナ 梗 塞 は 脳 の 細 い 動 脈 ( 穿 通 枝 )の 脂 肪 硝 子 変 性 や 細 動 脈 硬 化 に 起 因 する 閉 塞 であり 直 径 10~15ミリ 程 度 の 小 さな 梗 塞 (ラクナ)を きたすものをいい いずれも 高 血 圧 糖 尿 病 高 脂 血 症 などに 起 因 する 血 栓 性 機 序 が 主 体 ですが 頚 動 脈 の 壁 在 血 栓 由 来 の 塞 栓 性 機 序 主 幹 動 脈 狭 窄 と 脱 水 ( 高 ヘマトクリット 血 症 )にともなう 血 行 力 学 性 機 序 のこともあります 脳 梗 塞 の 治 療 は A. 急 性 期 治 療 全 身 管 理 B. 急 性 期 診 断 と 治 療 および C. 再 発 対 策 からなります 急 性 期 治 療 は 脳 の 不 可 逆 的 変 化 を 最 小 限 にくい 止 め 臨 床 症 状 の 悪 化 を 防 ぐ 目 的 で 行 われます 脳 梗 塞 に 陥 った 脳 の 機 能 は 失 われるため 急 性 期 治 療 は 神 経 欠 損 症 状 を 完 全 になくするためのものではなく また 発 症 後 24~48 時 間 の 急 性 期 においては 閉 塞 動 脈 の 灌 流 障 害 の 拡 大 と 付 随 する 脳 浮 腫 のため 臨 床 症 状 が 悪 化 することは 珍 しくありません( 進 行 性 脳 卒 中 ) 2

A. 急 性 期 全 身 管 理 急 性 期 全 身 管 理 の 原 則 は 血 圧 脳 血 流 管 理 全 身 合 併 症 予 防 急 性 期 リハ ビリテーションです 血 圧 脳 血 流 管 理 のため 体 動 にともなう 変 動 を 避 け 食 事 排 泄 を 含 めて ベッド 上 安 静 とし 輸 液 は 脱 水 予 防 のため 多 めにします また 脳 梗 塞 急 性 期 の 酸 素 不 足 は 脳 浮 腫 を 助 長 するため 充 分 な 酸 素 吸 入 を 行 います 血 圧 は 脳 梗 塞 発 症 後 の 高 血 圧 は 1~2 週 間 で 正 常 化 すること 過 度 の 降 圧 は 脳 血 流 量 の 低 下 をきたすことから 通 常 220/130mmHgまで 降 圧 は 行 いません 全 身 合 併 症 予 防 は 治 療 予 後 を 左 右 し 一 般 的 には 誤 嚥 による 肺 炎 や 消 化 管 出 血 の 合 併 が 病 状 の 悪 化 をきたすことがあります とくに 心 原 性 脳 塞 栓 症 では うっ 血 性 心 不 全 や 肺 梗 塞 の 合 併 により 重 篤 な 経 過 をとることがあり 心 肺 機 能 管 理 が 重 要 です 急 性 期 リハビリテーションは 発 症 48 時 間 を 目 安 に 体 位 交 換 による 心 肺 機 能 管 理 と 褥 そう 防 止 四 肢 の 廃 用 症 候 群 防 止 下 肢 の 運 動 障 害 にともなう 深 部 静 脈 血 栓 症 防 止 などの 目 的 で 開 始 します B. 急 性 期 診 断 と 治 療 当 院 の 1) 急 性 期 診 断 手 順 と 2) 治 療 方 針 を 示 します 急 性 期 治 療 は 脳 血 栓 症 と 脳 塞 栓 症 で 異 なり 初 期 診 断 が 重 要 です 1) 急 性 期 診 断 手 順 1 初 期 診 断 CT 出 血 と earlyctsign 1) の 有 無 MRI/DWI 急 性 期 梗 塞 の 有 無 と 範 囲 CT-DWImismatch 2) の 有 無 MRA 主 幹 動 脈 狭 窄 閉 塞 の 有 無 1) 早 期 梗 塞 所 見 2)CTと 拡 散 強 調 画 像 間 の 所 見 不 一 致 2 治 療 方 針 決 定 のための 診 断 MRI/PWI DWI-PWImismatch 3) の 有 無 t-pa 静 注 療 法 の 適 応 判 定 3D-CTA DSA 4) 主 幹 動 脈 狭 窄 閉 塞 の 状 態 PTAの 適 応 判 定 3) 拡 散 強 調 画 像 と 潅 流 画 像 間 の 所 見 不 一 致 4) 三 次 元 CT 脳 血 管 撮 影 3

2) 治 療 方 針 1 心 原 性 脳 塞 栓 症 の 内 科 治 療 心 原 性 脳 塞 栓 症 の 治 療 は 抗 凝 固 薬 が 適 応 になります 約 30に 合 併 する 出 血 性 梗 塞 ではヘパリンやワ-ファリンの 投 与 を 一 時 中 断 します 1 ヘパリン 5,000 単 位 静 注 1 回 その 後 生 食 100ml+ヘパリン 10,000 単 位 /24 時 間 点 滴 2 日 間 2 生 食 100ml+ラジカット 30mg 2 回 / 日 点 滴 7 日 間 3 入 院 翌 日 よりワーファリン(1mg)2T/ 日 内 服 開 始 2 脳 血 栓 症 の 内 科 治 療 ラクナ 梗 塞 とアテロ-ム 血 栓 性 梗 塞 では 抗 血 小 板 薬 が 適 応 になります 1 入 院 時 バファリン(330mg)1T 内 服 1 回 2 入 院 時 ヘパリン 5,000 単 位 静 注 1 回 その 後 生 食 100ml+ヘパリン 10,000 単 位 /24 時 間 点 滴 1 日 3 ラクナ 梗 塞 : 低 分 子 デキストラン 250ml(または 125ml)+キサンボン 40mg 2 回 / 日 点 滴 3 日 間 その 後 生 食 100ml+キサンボン 40mg 2 回 / 日 点 滴 4 日 間 アテロ-ム 血 栓 性 梗 塞 : 低 分 子 デキストラン 250ml(または 125ml) 2 回 / 日 点 滴 3 日 間 スロンノン 60mg/24 時 間 点 滴 2 日 間 その 後 生 食 100ml+スロンノン 10mg 2 回 / 日 点 滴 5 日 間 4 生 食 100ml+ラジカット 30mg 2 回 / 日 点 滴 7 日 間 5 入 院 翌 日 より プレタール(100mg)2T/ 日 アスピリン(100mg)1T/ 日 プラビックス(75mg)1T/ 日 のいずれか 内 服 開 始 3t-PA 静 注 療 法 と 血 管 内 治 療 t-pa 静 注 療 法 の 対 象 は 発 症 3 時 間 以 内 で CT 上 梗 塞 の 早 期 徴 候 がなく 基 準 以 上 の 臨 床 重 症 度 を 認 める 症 例 に 限 定 され 治 療 後 の 出 血 性 梗 塞 の 危 険 性 が 問 題 となるため 年 齢 や 基 礎 疾 患 を 考 慮 した 適 応 判 定 が 必 要 です 図 2 PTAは カテーテル 法 により 主 幹 動 脈 閉 塞 部 位 の 再 開 通 とバルーンによる 塞 栓 破 砕 と 動 脈 の 拡 張 を 図 ります 図 -3 4

図 2 左中大脳動脈閉塞に対する tpa 静注療法 発症時の拡散強調画像と還流画像のミスマッチを認める 上段 発症時認めた閉塞部位 矢印 は 24 時間後再開通した 下段 図 3 脳底動脈閉塞例 術前 左 術後 右 3DCTA PTA により 狭窄動脈 の拡張を認める C. 再発対策 脳梗塞の再発は 全脳梗塞の 15%にみられ 1 ヶ月以内の再発は 血栓症では 4% 塞栓症では 10%といわれています 5

1) 内 科 治 療 心 原 性 脳 塞 栓 症 では ワ-ファリンを 服 用 初 期 量 2~3mg/ 日 より 開 始 し INRで 2.0~3.0を 目 標 に 維 持 量 を 調 整 します 脳 血 栓 症 (アテロ-ム 血 栓 性 梗 塞 ラクナ 梗 塞 )では シロスタゾール(プ レタール 200mg/ 日 ) アスピリン(バイアスピリン)100mg/ 日 あるいはクロピ ドグレル(プラビックス)75mg~150mg/ 日 を 服 薬 します 2) 危 険 因 子 管 理 脳 梗 塞 発 症 の 最 大 の 危 険 因 子 は 加 齢 であり 高 齢 化 社 会 での 脳 梗 塞 の 増 加 は 避 けられません さらに 脳 血 栓 症 では 高 血 圧 症 糖 尿 病 高 脂 血 症 喫 煙 飲 酒 運 動 不 足 ( 肥 満 )など 生 活 習 慣 が 関 係 することが 知 られており 心 原 性 脳 塞 栓 症 では 心 臓 弁 膜 症 や 動 脈 硬 化 にともなう 不 整 脈 ( 心 房 細 動 )が 原 因 になります 危 険 因 子 管 理 は 脳 梗 塞 の 発 症 ( 一 次 ) 予 防 再 発 ( 二 次 ) 予 防 に 重 要 です( 脳 血 管 障 害 の 最 新 治 療 :2002) 高 血 圧 症 : 予 防 的 降 圧 目 標 は 140/90mmHg 以 下 カルシウム 拮 抗 薬 と ARBと ACE 阻 害 薬 は 一 次 二 次 予 防 効 果 上 ほぼ 同 等 の 有 効 性 を 示 し とくに ACE 阻 害 薬 は TIA 既 往 例 の 脳 梗 塞 の 二 次 予 防 効 果 が 大 きいとされます 高 脂 血 症 : 一 次 予 防 効 果 として スタチン 系 薬 剤 により 脳 卒 中 発 症 率 を 22~ 32% 虚 血 性 心 疾 患 例 における 脳 卒 中 発 症 率 を 30% 減 少 させます 二 次 予 防 治 療 目 標 値 は LDL100mg/dl 以 下 HDL35mg/dl 以 上 総 コレステロール 値 200mg/ dl 以 下 中 性 脂 肪 値 TG200mg/dl 以 下 糖 尿 病 : 一 次 予 防 上 HbA1C1%につき 脳 卒 中 の 発 症 率 が 12% 低 下 し 二 次 予 防 血 糖 目 標 値 は 126mg/dl 以 下 心 房 細 動 : 非 弁 膜 症 性 心 房 細 動 例 における 脳 卒 中 発 症 リスクについて ワー ファリンは 62% アスピリンは 22% 減 少 させます 3) 外 科 治 療 頸 動 脈 内 膜 剥 離 (CEA)は 頚 部 内 頸 動 脈 起 始 部 狭 窄 例 に 対 し 症 状 の 有 無 に かかわらず 内 頚 動 脈 狭 窄 の 程 度 が 70~99%の 高 度 狭 窄 例 TIAまたは 小 梗 塞 の 既 往 を 有 する 50~69%の 中 等 度 狭 窄 例 狭 窄 部 潰 瘍 より 発 生 する 動 脈 原 性 塞 栓 症 の 予 防 目 的 で 施 行 します 図 4 6

図 4 左頚部内頸動脈に対する CEA 左 術前 右 術後 3DCTA で 左頚部内頸動脈狭窄部潰瘍形成 の消失を認める STAMCA バイパスは 脳主幹動脈 内頸動脈または中大脳動脈 閉塞や狭窄に 起因する TIA や小梗塞に対して 脳血管撮影ゼノン CT や PET による血行動態の 評価に基づき適応判定を行います 手術の有効性に関する検討会 JET study の中間報告では 手術により 死 亡と障害のリスク 同側再発のリスクがいずれも 60 70%減少することが知られ ています 図 5 図 5 右内頚動脈閉塞に対する STAMCA バイパス 左 PET で右大脳血流低下を認め 右 DSA で右内頸動脈閉塞 黒 に STAMCA バイパスを施行した 回復期リハビリテーションは 発症した時点ですでに梗塞による脳損傷が存 在することから 梗塞の部位や大きさにより程度の差はあるものの 後遺症は 避けられませんが 日常生活動作 =ADL の改善により在宅復帰と社会的不利 の克服を目指します 7

脳 梗 塞 の 予 後 は 回 復 期 リハビリテーション 退 院 時 の 修 正 ランキン スケール (m-rs)で 評 価 し m-rs:0~1を 社 会 復 帰 2~3を 軽 度 4~5を 重 度 の 障 害 と 分 類 しました 脳 梗 塞 臨 床 病 型 別 予 後 を 示 します 表 -2 社 会 復 帰 軽 度 障 害 重 度 障 害 死 亡 心 原 性 脳 塞 栓 症 28.6 22.9 34.3 14.3 アテローム 血 栓 性 梗 塞 41.5 33.8 21.5 3.1 ラクナ 梗 塞 51.8 32.1 14.3 1.8 (%) 表 -2 臨 床 病 型 別 治 療 予 後 アテローム 血 栓 性 梗 塞 とラクナ 梗 塞 では 内 科 治 療 により 予 後 は 極 めて 良 好 で 40~50%が 社 会 復 帰 します 一 方 心 原 性 脳 塞 栓 症 とアテローム 血 栓 性 梗 塞 では 大 梗 塞 をきたすことが あり 後 遺 症 率 は 55% 以 上 と 高 くなり とくに 心 原 性 脳 塞 栓 症 では 出 血 性 梗 塞 やうっ 血 性 心 不 全 を 合 併 することにより 死 亡 率 は 高 くなります 2007 年 4 月 医 療 法 人 穂 翔 会 村 田 病 院 脳 神 経 外 科 8