平 成 22 年 (2010 年 )4 月 6 日 NO.2010-7 ようやく 前 に 進 み 始 めた 米 国 の 医 療 保 険 改 革 ~ 財 政 赤 字 削 減 では 今 後 に 課 題 を 残 す~ 要 旨 米 国 の 医 療 保 険 改 革 法 が 成 立 した 国 民 に 不 人 気 で 一 時 は 成 立 が 絶 望 視 されたが オバマ 大 統 領 が 執 念 を 見 せ 成 立 に 漕 ぎ 着 けた 米 国 では 医 療 費 高 騰 や 無 保 険 者 増 加 に 歯 止 めがかからず 家 計 や 企 業 政 府 の 負 担 が 上 昇 経 済 成 長 にも 影 響 が 出 かねない 状 況 にあ り 医 療 改 革 は 社 会 問 題 のみならず 深 刻 な 経 済 問 題 となっていた 今 回 の 改 革 では オバマ 大 統 領 が 当 初 目 指 した 公 的 医 療 保 険 制 度 の 創 設 や 国 民 皆 保 険 の 実 現 はかなわなかったが それでも 1965 年 以 来 の 大 改 革 となった 改 革 により 1 保 険 加 入 率 は 今 後 10 年 間 で 現 在 の 83%から 94%に 上 昇 し 新 た に 32 百 万 人 が 保 険 に 加 入 する 見 通 し 2 一 方 医 療 費 の 抑 制 効 果 については 未 知 数 で 今 後 の 政 府 関 連 業 界 の 対 応 次 第 では 保 険 料 が 上 昇 し 医 療 費 がかえって 増 加 す るリスクがある 3 議 会 予 算 局 では 当 初 10 年 で 財 政 赤 字 が 1430 億 ドル 減 少 すると 試 算 しているが 実 現 性 や 赤 字 削 減 の 大 きさの 点 で 将 来 に 課 題 を 残 す 形 となった 医 療 保 険 改 革 はようやく 前 に 進 み 出 したが 今 回 の 改 革 は 最 終 形 で はない 特 に 財 政 再 建 のカギを 握 る 医 療 費 の 抑 制 については 一 段 の 対 策 がなければ ほとんど 実 効 性 のないままに 終 わる 可 能 性 も 否 定 できない 米 国 経 済 の 成 長 力 にもかかわる 問 題 だけに 今 後 も 医 療 改 革 の 動 きから 目 が 離 せない 1
1. 医 療 保 険 改 革 法 が 成 立 米 国 の 医 療 保 険 改 革 法 が 難 産 の 末 成 立 した 今 回 の 医 療 保 険 改 革 法 成 立 は 1965 年 のメディケア( 連 邦 政 府 による 高 齢 者 身 障 者 を 対 象 とした 公 的 医 療 保 険 制 度 ) メディケイド( 連 邦 政 府 と 州 政 府 による 貧 困 層 を 対 象 とした 公 的 医 療 保 険 制 度 ) 創 設 以 来 の 大 改 革 である これまでの 経 緯 を 簡 単 に 振 り 返 ると 民 主 党 にとって 全 国 民 が 医 療 保 険 に 加 入 できる 国 民 皆 保 険 は 悲 願 であった 過 去 何 度 も 改 革 が 試 みられ 1990 年 代 にはクリントン 政 権 の 下 で ヒラリー クリントン 大 統 領 夫 人 ( 現 国 務 長 官 ) を 推 進 役 に 改 革 に 挑 んだ( 第 1 表 ) しかし 改 革 の 進 め 方 で 議 会 の 反 発 を 招 いた 上 保 険 業 界 の 強 い 反 対 もあって 失 敗 に 終 わった その 後 も 医 療 保 険 改 革 に 対 する 取 り 組 みは 続 けられたが 党 派 の 対 立 もあって 抜 本 的 な 改 革 はでき なかった 第 1 表 : 過 去 の 医 療 保 険 改 革 をめぐる 動 き 時 期 大 統 領 改 革 の 内 容 1945-48 トルーマン( 民 ) 公 的 医 療 保 険 制 度 の 創 設 を 目 指 したが 社 会 主 義 的 として 支 持 されず 1965 ジョンソン( 民 ) メディケア メディケイドを 創 設 その 後 米 国 の 医 療 費 は 大 幅 に 拡 大 1971-74 ニクソン( 共 ) 全 ての 従 業 員 に 対 して 医 療 保 険 を 提 供 することを 雇 用 主 に 義 務 付 けようたしたが ウォーターゲート 事 件 の 発 覚 で 頓 挫 1988-89 レーガン( 共 ) 病 院 医 師 薬 に 対 する 支 出 に 上 限 を 設 けるよう メディケア を 修 正 1988 年 7 月 に 法 律 が 成 立 したが 費 用 を 賄 うための 増 税 に 対 して 抗 議 が 拡 がり 廃 止 に 追 い 込 まれる 1993-94 クリントン( 民 ) ヒラリー クリントン( 現 国 務 長 官 )を 中 心 に 国 民 皆 保 険 制 度 を 目 指 したが 進 め 方 に 対 して 議 会 の 反 発 を 招 き 失 敗 ( 資 料 )Financial Times より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 一 昨 年 の 大 統 領 議 会 選 挙 でオバマ 大 統 領 が 勝 利 民 主 党 が 上 下 両 院 を 制 し 特 に 上 院 で 60 議 席 の 絶 対 多 数 を 獲 得 したことにより 医 療 保 険 改 革 法 成 立 の 機 運 が 俄 かに 高 まった オバマ 大 統 領 は 就 任 後 医 療 保 険 改 革 を 内 政 の 最 重 要 課 題 と 位 置 付 け 8 原 則 に 基 づく 改 革 案 を 公 表 した しかし 医 療 保 険 改 革 に 対 するイデオロギーの 対 立 は 根 深 く 世 論 調 査 で 賛 成 と 反 対 がほぼ 拮 抗 するなど 国 論 を 二 分 する 状 況 に 陥 った( 第 1 図 ) 2
第 1 図 : 医 療 保 険 改 革 法 案 に 対 する 反 対 賛 成 の 理 由 反 対 の 理 由 (%) 40 30 20 10 0 一 度 に 多 くのことを 変 えよう とし 過 ぎている 財 政 赤 字 が 拡 大 する 増 税 になる メディケアに 対 する 財 政 支 援 が 削 減 される 医 療 保 険 の 分 野 で 政 府 の 役 割 が 肥 大 化 する 既 往 症 があっても 保 険 に 加 入 できるようになる ほぼ 全 ての 国 民 が 保 険 に 加 入 できるようになる 保 険 会 社 の 不 公 正 な 保 険 料 値 上 げを 阻 止 できる 医 療 コストを 抑 制 できる 今 回 を 逃 すと 法 案 成 立 のチャ ンスは 当 分 来 ない 賛 成 の 理 由 (%) 0 10 20 30 40 ( 資 料 )NBC News/Wall Street Journal より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 こうした 中 ようやく 下 院 が 昨 年 11 月 上 院 が 12 月 にそれぞれの 医 療 保 険 改 革 法 案 を 可 決 した しかし 公 的 保 険 制 度 の 創 設 や 妊 娠 中 絶 の 扱 いなどで 両 院 案 には 隔 たりがあり 今 年 に 入 り 一 本 化 作 業 が 本 格 化 していた 1 月 19 日 に マサチューセッツ 州 で 行 われた 上 院 補 欠 選 挙 で 民 主 党 候 補 が 歴 史 的 な 敗 北 を 喫 し 上 院 の 議 席 数 が 共 和 党 の 議 事 妨 害 を 阻 止 するために 必 要 な 60 を 下 回 ったこ とから 法 案 の 成 立 は 一 時 絶 望 視 された その 後 オバマ 大 統 領 民 主 党 は 雇 用 対 策 に 政 策 運 営 の 重 点 を 移 したが オバマ 大 統 領 は 法 案 成 立 に 執 念 を 見 せ 巻 き 返 しが 始 まった 2 月 22 日 には 難 航 する 医 療 保 険 改 革 の 打 開 を 目 指 して 新 提 案 を 発 表 25 日 には 民 主 共 和 両 党 の 議 会 指 導 者 らを 招 き 医 療 保 険 改 革 サ ミットを 主 催 した そこで 共 和 党 の 協 力 が 得 られないことが 明 らかになると 民 主 党 単 独 で 法 案 を 成 立 させることを 決 断 単 純 過 半 数 で 上 院 での 可 決 が 可 能 となる 議 会 運 営 上 の 特 例 措 置 ( 注 )を 使 う 方 針 を 固 め 予 定 していた 外 遊 を 延 期 して 議 員 の 説 得 作 業 を 精 力 的 に 行 った 下 院 で 妊 娠 中 絶 反 対 派 の 議 員 を 説 得 できるかが 法 案 成 立 のカギを 握 っていたが 連 邦 政 府 の 資 金 が 中 絶 に 使 われ ないことを 確 認 する 大 統 領 令 を 出 すことで 賛 成 を 得 ることに 成 功 し 3 月 21 日 に 下 院 が 上 院 案 ( 昨 年 12 月 に 可 決 したもの)を 可 決 した( 賛 成 219 票 反 対 212 票 ~ 共 和 党 の 賛 成 ゼロ) 23 日 にはオバマ 大 統 領 が 署 名 して 医 療 保 険 改 革 法 が 成 立 した その 後 3 月 25 日 に 上 下 両 院 が 付 随 法 案 を 可 決 30 日 に 大 統 領 が 署 名 して 医 療 保 険 改 革 が 完 了 した ( 注 ) 具 体 的 には 下 院 がまず 昨 年 12 月 に 上 院 が 可 決 した 法 案 をそのまま 可 決 その 後 一 部 を 修 正 する 付 随 法 案 を 上 下 両 院 でそれぞれ 可 決 するというもの ただし 修 正 できる 条 項 は 予 算 に 関 連 したものに 限 られる 3
2.なぜ 医 療 保 険 改 革 が 必 要 か 国 論 を 二 分 した 医 療 保 険 改 革 だが 今 のままの 医 療 制 度 が 長 続 きしないこと については 国 民 的 なコンセンサスがほぼ 得 られている それは 下 記 のように 米 国 の 医 療 保 険 改 革 は 社 会 問 題 だけでなく 深 刻 な 経 済 問 題 となっているため である (1) 医 療 費 の 高 騰 米 国 では 医 療 費 の 高 騰 により 家 計 の 医 療 支 出 が 急 増 している 過 去 10 年 で 医 療 保 険 料 は 2 倍 以 上 に 上 昇 賃 金 の 3 倍 のスピードで 伸 びている 中 所 得 層 では 平 均 で 年 間 4400 ドル 所 得 の 9%が 医 療 費 ( 保 険 料 + 自 己 負 担 )の 支 払 い に 消 えている 医 療 費 は 加 入 している 医 療 保 険 の 種 類 によって 異 なり 企 業 が 提 供 する 保 険 に 加 入 している 人 は 8%に 止 まるのに 対 し 個 人 加 入 では 22%に 達 している 医 療 費 の 支 払 いで 家 計 が 破 綻 する 例 が 増 え 2007 年 には 個 人 破 産 の 6 割 が 医 療 費 の 支 払 いに 関 連 したものとなっている 企 業 の 負 担 も 高 まっている 米 国 では 税 制 上 の 優 遇 措 置 もあり 民 間 保 険 の 大 半 は 企 業 により 提 供 されている( 第 2 図 ) 保 険 料 は 企 業 が 7~8 割 を 負 担 し ており 保 険 料 の 高 騰 は 企 業 の 人 件 費 負 担 の 増 加 にも 繋 がっている 特 に 中 小 企 業 では 大 企 業 に 比 べて( 従 業 員 数 が 少 なく 管 理 コストが 高 くつくため) 保 険 料 が 割 高 なこともあって 負 担 に 耐 えられず 従 業 員 に 対 する 保 険 の 提 供 を 止 めるか 人 員 を 削 減 するかの 選 択 を 迫 られるケースが 増 えている 第 2 図 : 医 療 保 険 の 種 類 別 加 入 状 況 ( 非 高 齢 者 2007 年 ) 3% 16% 3% 13% 企 業 提 供 個 人 加 入 無 保 険 メディケア メディケイド 米 軍 提 供 59% 6% ( 資 料 ) 米 商 務 省 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 4
医 療 費 増 大 の 影 響 は 家 計 企 業 に 止 まらない 連 邦 州 地 方 政 府 でもメディ ケア メディケイド 向 けの 支 出 が 急 速 に 膨 らんでおり 財 政 悪 化 の 大 きな 要 因 となっている 議 会 予 算 局 (CBO)によれば メディケア メディケイド 向 け の 支 出 は 現 在 GDP の 6% 強 だが 2040 年 には 15% 近 くに 達 する 見 込 みである この 結 果 国 民 医 療 費 は 現 在 2.5 兆 ドル(GDP 比 約 17%)だが 現 在 の ペースで 増 加 が 続 けば 2040 年 までに 約 2 倍 に 拡 大 する 見 通 しである( 第 3 図 ) こうした 医 療 費 の 増 加 には 高 齢 化 の 影 響 もあるが 主 因 は 医 療 費 の 高 騰 であり 約 4 分 の 3 を 占 めている 医 療 費 の 高 騰 を 止 めなければ 米 国 の 医 療 制 度 はい ずれ 破 綻 が 免 れない 状 況 となっている 第 3 図 : 国 民 医 療 費 の 対 GDP 比 35 (%) 30 25 (CBO 見 通 し) 20 15 10 5 0 1960 70 80 90 2000 10 20 30 40( 年 ) ( 資 料 ) 議 会 予 算 局 (CBO)より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 医 療 費 高 騰 の 要 因 としては 1 高 度 医 療 の 進 展 2 掛 けた 費 用 で 決 まる 診 療 報 酬 制 度 3 予 防 医 療 の 欠 如 4 保 険 市 場 の 寡 占 5 非 効 率 な 制 度 などがあげ られている 診 療 報 酬 制 度 では 治 療 の 成 果 より 掛 けたコスト( 検 査 投 薬 の 量 など)で 診 療 報 酬 が 決 まることが 医 療 費 を 不 必 要 に 押 し 上 げている また 予 防 医 療 の 欠 如 により 米 国 では 国 民 の 6 割 が 肥 満 と 言 われ 成 人 病 患 者 が 増 加 して 医 療 費 を 増 加 させている 保 険 市 場 の 寡 占 では 多 くの 州 で 1-2 社 の 保 険 会 社 が 市 場 を 支 配 しているため 競 争 による 保 険 料 の 抑 制 が 期 待 できない さら に 米 国 では 州 によりバラバラな 医 療 制 度 が 非 効 率 を 招 いており 医 療 の 質 を 犠 牲 にせず 3 割 のコスト 削 減 が 可 能 と 言 われている 5
米 国 では 医 療 支 出 (GDP 比 )が 先 進 国 の 中 でも 突 出 しているが( 第 4 図 ) 高 いコストをかけている 割 にはあまり 成 果 があがっていない OECD によれば 2006 年 時 点 の 米 国 の 平 均 寿 命 は 男 性 が 加 盟 国 中 24 位 女 性 が 23 位 乳 児 死 亡 率 では 同 28 位 と 米 国 より 医 療 支 出 が 大 幅 に 少 ない 国 よりも 劣 っている 第 4 図 : 医 療 支 出 の 国 際 比 較 ( 対 GDP 比 2006 年 %) United States France Switzerland Germany Austria Belgium Canada Portugal Netherlands Denmark Greece New Zealand Iceland Sweden Italy Australia Norway United Kingdom Spain Finland Hungary Japan Slovak Republic Luxembourg Ireland Czech Republic Poland Korea Mexico 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 ( 資 料 )OECD より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 (2) 無 保 険 者 の 増 加 医 療 費 の 高 騰 は 一 方 で 医 療 保 険 に 加 入 できない 人 ( 無 保 険 者 )が 急 増 する という 問 題 を 起 こしている 米 国 では 現 在 保 険 に 加 入 していない 人 が 4600 万 人 と 人 口 の 16%を 占 めているが 増 加 に 歯 止 めがかからず 2040 年 には 7200 万 人 に 達 するとみられている 前 述 のように 米 国 では 企 業 が 保 険 を 提 供 するケースが 多 く 非 高 齢 者 の 約 6 割 が 企 業 提 供 の 医 療 保 険 に 加 入 している( 前 掲 第 2 図 ) そして 医 療 費 負 担 に 耐 えられない 中 小 企 業 を 中 心 に 従 業 員 に 対 する 医 療 保 険 の 提 供 を 停 止 する 企 業 が 増 えており これが 無 保 険 者 の 急 増 につながっている ちなみに 無 保 険 者 の 6 割 (28 百 万 人 )は 中 小 企 業 のオーナー 従 業 員 その 家 族 であ る 従 業 員 に 保 険 を 提 供 している 中 小 企 業 の 割 合 は 2001 年 をピークに 漸 減 傾 向 にある 従 業 員 10 人 未 満 の 企 業 では 2001 年 には 58%が 保 険 を 提 供 してい たが 2009 年 には 46%に 低 下 している これに 対 して 大 企 業 ではほとんどの 企 業 が 保 険 の 提 供 を 維 持 しており( 従 業 員 200 人 以 上 では 98%) 企 業 規 模 による 格 差 が 大 きく 開 いている( 第 5 図 ) 6
第 5 図 : 企 業 規 模 別 にみた 従 業 員 に 医 療 保 険 を 提 供 している 企 業 の 割 合 (2009 年 ) 100 (%) 80 60 40 20 0 3-9 10-24 25-49 50-199 200- ( 人 ) 従 業 員 規 模 ( 資 料 )Kaiser Family Foundation より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 無 保 険 者 の 増 加 は 逆 に 医 療 費 を 押 し 上 げる 要 因 にもなっている 無 保 険 者 は 病 状 がとことん 悪 化 してから 病 院 に 駆 け 込 む 場 合 が 多 く 結 果 的 に 総 治 療 費 を 高 めている 無 保 険 者 はこうした 費 用 を 払 えない 場 合 が 多 く 政 府 が 負 担 し ている 他 病 院 医 師 が 民 間 保 険 加 入 者 の 治 療 費 に 上 乗 せして 保 険 会 社 に 請 求 することで 賄 われているが 最 終 的 には 保 険 料 に 転 嫁 されて 家 計 や 企 業 が 負 担 している これは 隠 れた 医 療 税 (Hidden Health Tax) と 呼 ばれており 世 帯 当 たり 年 間 1000 ドル 強 の 負 担 となっている (3) 経 済 成 長 を 制 約 医 療 費 の 高 騰 無 保 険 者 の 増 加 は マクロ 経 済 にも 悪 影 響 を 及 ぼすことにな る 医 療 費 負 担 の 高 まりで 家 計 貯 蓄 が 減 少 企 業 収 益 が 圧 迫 される 結 果 設 備 投 資 が 抑 制 され 潜 在 成 長 率 が 低 下 する また 十 分 な 医 療 を 受 けられない 人 が 増 えて 国 民 の 健 康 状 態 が 悪 化 し 労 働 供 給 が 制 約 されることでも 潜 在 成 長 率 が 低 下 する さらに 企 業 提 供 の 医 療 保 険 に 加 入 する 場 合 が 多 い 米 国 では 職 を 失 うことは 医 療 保 険 も 失 う 場 合 が 少 なくない このため 医 療 保 険 を 失 わ ないために 転 職 を 控 えることも 実 際 に 起 きている(job lock) こうして 労 働 移 動 が 滞 り 適 正 な 労 働 力 の 配 分 が 妨 げられることにより 生 産 性 が 低 下 し 潜 在 的 な 成 長 力 が 抑 制 されることなる 7
3. 成 立 した 医 療 保 険 改 革 法 の 主 な 内 容 今 回 の 医 療 保 険 改 革 法 では オバマ 大 統 領 が 当 初 目 指 した 公 的 保 険 制 度 の 創 設 などは 実 現 できなかったが 幾 つかの 点 で 大 きな 前 進 が 見 られた 改 革 の 主 な 内 容 は 下 記 の 通 りである (1) 保 険 加 入 率 の 引 き 上 げ 医 療 保 険 の 加 入 率 を 引 上 げるため 国 民 に 対 して 原 則 医 療 保 険 への 加 入 を 義 務 付 け 保 険 に 加 入 しない 国 民 に 罰 金 を 課 すこととした( 一 部 例 外 あり) また 従 業 員 50 人 以 上 の 企 業 に 従 業 員 への 医 療 保 険 提 供 を 義 務 付 け 従 わない 企 業 にも 罰 金 が 課 されることになった こうしたムチ( 保 険 加 入 義 務 付 け)に 対 してアメも 用 意 されている 貧 困 層 向 け 公 的 保 険 であるメディケイドに 加 入 できる 所 得 要 件 を 貧 困 ラインの 133%(4 人 家 族 で 年 収 29,300 ドル)に 引 上 げた また 企 業 から 保 険 提 供 を 受 けられない 人 のために 医 療 保 険 取 引 所 を 創 設 保 険 料 が 手 頃 で 一 通 りの 内 容 をカバーするプランを 複 数 用 意 し その 中 から 選 択 して 加 入 できるように した さらに 取 引 所 で 保 険 に 加 入 する 人 のうち 所 得 が 貧 困 ラインの 400% (4 人 家 族 で 年 収 88,200 ドル)までの 人 に 対 して 補 助 金 を 支 給 従 業 員 に 保 険 を 提 供 する 中 小 企 業 に 対 しても 税 控 除 ( 保 険 料 の 一 部 )を 提 供 することとした CBO では 改 革 法 により 今 後 10 年 間 で 無 保 険 者 32 百 万 のうち 16 百 万 人 が メディケイドに 加 入 残 りの 無 保 険 者 と 企 業 提 供 個 人 加 入 保 険 からのシフ トを 合 わせ 24 百 万 人 が 取 引 所 で 保 険 に 加 入 すると 予 想 している( 第 6 図 ) 第 6 図 : 予 想 される 保 険 加 入 状 況 の 変 化 (2010 年 2019 年 ) ( 百 万 人 ) 16 24 3 5 32 メディケイド 雇 用 主 提 供 個 人 加 入 取 引 所 無 保 険 ( 資 料 )CBO より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 8
(2) 保 険 加 入 者 保 護 改 革 法 では 保 険 加 入 者 が 安 心 して 保 険 に 加 入 し 続 けられるように 消 費 者 保 護 が 強 化 された まず 保 険 会 社 に 対 して 既 往 症 や 健 康 状 態 により 加 入 を 拒 否 したり 高 い 保 険 料 を 徴 収 したりすることを 禁 止 加 入 者 が 病 気 になった 時 に 保 証 を 取 り 消 すことも 禁 止 した また 希 望 に 応 じて 子 供 が 26 歳 になるまで 親 の 保 険 に 加 入 できるようにした 年 齢 による 保 険 料 格 差 にも 上 限 を 設 けた 保 険 金 支 払 いでは 年 間 や 生 涯 期 間 の 支 払 額 に 上 限 を 設 けることを 禁 止 した さらに 加 入 者 に 対 する 情 報 提 供 を 強 化 保 険 料 の 使 途 を 透 明 化 して 非 医 療 向 け 支 出 ( 管 理 費 保 険 会 社 の 利 益 など)が 一 定 比 率 を 超 えた 場 合 加 入 者 が 払 い 戻 しを 受 けられるようにした (3) 医 療 コストの 削 減 医 療 コスト 削 減 のための 措 置 としては 上 記 取 引 所 の 設 立 により 競 争 原 理 を 導 入 した ( 掛 けた 費 用 ではなく) 治 療 の 成 果 に 基 づいた 診 療 報 酬 制 度 を 導 入 することでメディケアの 支 払 額 を 抑 制 することも 盛 り 込 まれた また 不 正 支 払 いや 医 療 の 濫 用 などを 防 ぐために 医 療 提 供 者 に 対 する 監 視 を 強 め メディ ケア メディケイドに 参 加 する 条 件 としてコンプライアンス プログラムを 採 用 することを 義 務 付 けた さらに 長 期 にわたって 医 療 費 を 抑 制 するために 独 立 支 払 い 諮 問 機 関 (Independent Payment Advisory Board) を 新 たに 設 立 し 議 会 に 対 し 医 療 費 の 伸 び 抑 制 や 医 療 の 質 向 上 について 提 言 させることとした この 他 予 防 医 療 の 拡 充 により 国 民 の 健 康 状 態 を 改 善 し 医 療 費 を 抑 制 する ことも 盛 り 込 まれた 全 ての 国 民 が 最 先 端 の 予 防 医 療 を 受 けられるように 予 防 に 関 る 医 療 費 を 無 償 化 ( 自 己 負 担 ゼロ)した (4) 改 革 費 用 の 調 達 策 CBO では 今 回 の 医 療 改 革 ( 保 険 加 入 率 の 引 き 上 げ)に 10 年 間 で 9380 億 ド ルの 費 用 がかかると 試 算 している ここから 保 険 に 加 入 しない 者 や 従 業 員 に 保 険 を 提 供 しない 企 業 への 罰 金 高 額 医 療 保 険 への 課 税 などを 差 し 引 いても ネットで 7880 億 ドルの 費 用 がかかると 見 込 んでいる 改 革 法 には こうした 改 革 費 用 の 調 達 策 も 盛 り 込 まれている 全 体 の 半 分 強 を 占 めるのが 診 療 報 酬 制 度 の 改 革 によるメディケア 向 け 支 出 の 抑 制 などの 歳 出 削 減 策 歳 入 増 加 策 では 世 帯 年 収 25 万 ドル 以 上 の 高 所 得 層 に 対 する 増 税 医 療 業 界 に 対 する 課 金 ( 製 薬 メーカー 保 険 会 社 から 手 数 料 徴 収 医 療 機 器 に 対 して 売 上 税 を 導 入 )などが 含 まれている( 第 2 表 ) 9
第 2 表 : 医 療 保 険 改 革 の 収 支 ( 億 ドル) 費 用 9380 収 入 10800 メディケイド 対 象 拡 大 4340 無 保 険 者 への 罰 金 170 取 引 所 の 保 険 加 入 者 への 補 助 金 4640 保 険 を 提 供 しない 企 業 への 罰 金 520 中 小 企 業 への 税 額 控 除 400 高 額 保 険 への 課 税 320 ネットの 費 用 7880 その 他 480 歳 出 削 減 5110 ~メディケア 支 払 いの 抑 制 など 財 政 赤 字 削 減 1430 歳 入 増 加 4200 ~ 高 所 得 層 医 療 業 界 への 増 税 など ( 資 料 )CBO より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 以 上 の 改 革 のうち 保 険 会 社 に 対 する 規 制 強 化 など 早 いものは 今 年 からスタ ートするが 改 革 全 体 の 効 果 が 確 認 されるにはかなりの 時 間 を 要 する 見 込 みで ある 医 療 保 険 取 引 所 の 創 設 保 険 加 入 の 義 務 化 メディケイドの 対 象 拡 大 な ど 医 療 保 険 改 革 の 中 核 部 分 が 実 行 されるのは 2014 年 になってからの 予 定 であ る( 第 3 表 ) 第 3 表 : 医 療 保 険 改 革 の 主 なスケジュール 2010 年 2014 年 従 業 員 に 医 療 保 険 を 提 供 する 中 小 企 業 への 税 控 除 開 始 医 療 保 険 取 引 所 創 設 保 険 会 社 が 給 付 金 に 上 限 を 設 けることを 禁 止 医 療 保 険 加 入 義 務 開 始 未 加 入 者 から 罰 金 徴 収 健 康 状 態 を 理 由 に 子 供 の 保 険 加 入 を 阻 むことを 禁 止 保 険 に 加 入 する 中 低 所 得 層 へ 補 助 金 支 給 メディケイドの 対 象 拡 大 2011 年 中 小 企 業 への 税 控 除 拡 充 保 険 料 のうち 一 定 割 合 以 上 を 給 付 に 回 すことを 義 務 付 け 従 業 員 に 保 険 を 提 供 しない 企 業 への 罰 金 製 薬 メーカーから 手 数 料 徴 収 開 始 保 険 会 社 から 手 数 料 徴 収 開 始 2013 年 2018 年 高 所 得 層 に 対 するメディケア 増 税 高 額 (キャデラック) 保 険 への 課 税 開 始 医 療 器 具 に 対 する 売 上 税 開 始 ( 資 料 ) 米 議 会 資 料 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 10
4. 医 療 保 険 改 革 の 影 響 前 述 のように 今 回 の 医 療 保 険 改 革 は メディケア メディケイド 創 設 以 来 の 大 改 革 であり ほぼ 全 ての 国 民 企 業 が 何 らかの 影 響 を 受 けることになる 改 革 の 結 果 以 下 のような 影 響 が 予 想 される (1) 保 険 加 入 率 上 昇 で 経 済 へのプラス 効 果 に 期 待 改 革 により 保 険 加 入 率 は 大 きく 上 昇 する 見 込 みである CBO では 新 たに 32 百 万 人 が 医 療 保 険 に 加 入 し 加 入 率 は 現 在 の 83%から 10 年 後 には 94%まで 上 昇 すると 試 算 している 無 保 険 者 が 大 幅 に 減 少 することで 国 民 の 健 康 状 態 が 改 善 すれば 労 働 供 給 の 拡 大 生 産 性 改 善 により 米 国 の 潜 在 成 長 率 が 上 昇 することが 期 待 される ま た 保 険 に 安 定 的 に 加 入 できるようになれば 労 働 移 動 を 制 約 する 要 因 がなく なり 効 率 的 な 資 源 配 分 が 可 能 になることで これも 潜 在 成 長 率 の 上 昇 につな がる これらの 効 果 は 顕 在 化 するまでに 時 間 がかかる 上 実 感 しにくいとみ られるが 大 統 領 経 済 諮 問 委 員 会 (CEA)では 保 険 加 入 率 の 上 昇 により ネ ットで 年 間 1000 億 ドル(GDP 比 2/3%)のプラスの 経 済 効 果 が 見 込 まれると 試 算 している (2) 医 療 費 の 抑 制 効 果 は 未 知 数 医 療 費 の 抑 制 は 保 険 加 入 率 の 上 昇 と 並 んで 医 療 改 革 の 成 否 を 分 ける 重 要 な ポイントだが 保 険 加 入 率 の 上 昇 に 比 べると 不 確 実 な 部 分 が 大 きい 短 期 的 には 保 険 加 入 率 の 上 昇 で 医 療 サービスを 受 ける 人 の 数 が 増 えるため 国 民 医 療 費 の 増 加 は 避 けられないとみられる 中 長 期 的 には 改 革 推 進 派 が 主 張 するように 保 険 加 入 率 上 昇 による 早 期 治 療 や 予 防 医 療 の 拡 充 による 国 民 の 健 康 状 態 改 善 競 争 原 理 の 導 入 や 診 療 報 酬 制 度 の 改 革 などにより 医 療 費 の 伸 び 抑 制 が 期 待 できる 面 もある しかし 今 回 の 改 革 では 公 的 保 険 制 度 の 創 設 が かなわず 競 争 原 理 の 導 入 は 中 途 半 端 に 終 わった また オバマ 大 統 領 が 提 唱 し た 連 邦 政 府 に 保 険 料 引 き 上 げを 監 視 する 権 限 を 付 与 する 条 項 も 外 されたため 強 力 な 抑 制 効 果 は 見 込 めない 一 方 改 革 反 対 派 は 保 険 業 界 に 対 する 規 制 強 化 や 業 界 への 課 税 により 保 険 料 の 上 昇 は 避 けられず 医 療 費 はむしろ 増 加 する としている 改 革 により 医 療 費 の 伸 びを 抑 えられるかどうかは 今 後 の 政 府 議 会 関 連 業 界 の 対 応 や 医 療 技 術 の 進 歩 などに 負 う 部 分 もあり 現 時 点 では 医 療 費 の 伸 びに 歯 止 めがかからないリスクも 大 きいと 見 ざるをえない 11
(3) 改 革 の 勝 者 と 敗 者 今 回 の 医 療 保 険 改 革 の 最 大 の 勝 者 が 保 険 に 加 入 できるようになる 無 保 険 者 であることは 言 うまでもない また 補 助 金 や 税 控 除 を 受 ける 中 低 所 得 層 中 小 企 業 も 勝 者 に 含 まれよう 一 方 改 革 のコストを 負 担 する 高 所 得 層 や 従 業 員 に 対 する 保 険 提 供 を 義 務 付 けられるだけで 税 制 の 恩 恵 を 受 けない 大 企 業 は 敗 者 と 言 えよう 医 療 保 険 改 革 が 成 功 して 医 療 費 が 軽 減 すれば その 恩 恵 を 受 ける ことになるが 上 記 のように 実 現 性 は 高 いとは 言 えない 医 療 関 連 業 界 については 改 革 費 用 を 負 担 するマイナス 面 と 保 険 加 入 率 上 昇 で 医 療 に 対 する 需 要 が 増 えるプラス 面 の 両 面 がある 最 大 の 勝 者 は 製 薬 メー カーといわれている 改 革 費 用 の 負 担 で 手 数 料 を 課 されるものの 薬 に 対 する 需 要 増 でそれを 上 回 る 利 益 があると 見 られている 医 療 機 器 メーカーや 病 院 医 師 も どちらかと 言 えば 勝 者 と 見 られている ただし 医 療 機 器 に 売 上 税 が 課 される 医 療 機 器 メーカーでは 病 院 などから 価 格 引 下 げ 要 求 が 強 まり 利 益 が 圧 迫 されることを 警 戒 している 病 院 は 無 保 険 者 の 減 少 で 不 払 い 治 療 費 の 減 少 が 期 待 されるが 政 府 からの 援 助 も 削 減 され 収 支 はトントンとなりそうだ 一 方 敗 者 は 保 険 会 社 とされている 今 回 の 保 険 改 革 では 公 的 保 険 制 度 の 創 設 を 阻 止 することに 成 功 し 保 険 加 入 者 の 大 幅 な 増 加 が 見 込 まれるが 製 薬 メー カー 同 様 改 革 費 用 の 負 担 を 求 められる 上 規 制 が 厳 しくなって 保 険 料 の 使 途 も 制 限 されるなど マイナス 面 が 上 回 るとされている (4) 当 面 の 政 治 情 勢 への 影 響 医 療 保 険 改 革 法 は 成 立 したが 政 治 的 には 当 面 余 波 が 残 りそうである 保 険 加 入 を 義 務 付 ける 医 療 保 険 改 革 法 は 違 憲 である として 10 州 を 超 える 州 が 訴 訟 に 踏 み 切 った 米 国 では 保 険 会 社 は 州 の 監 督 下 にあり 知 事 が 共 和 党 であ る 州 を 中 心 に 医 療 保 険 改 革 に 抵 抗 する 動 きも 予 想 される 米 商 工 会 議 所 など 企 業 サイドも 今 後 改 革 法 をベースに 細 かな 規 制 が 決 められていく 段 階 で できるだけマイナス 面 を 小 さくしようとロビー 活 動 の 準 備 をしている また 敗 北 した 共 和 党 では 医 療 保 険 改 革 を 材 料 に 中 間 選 挙 を 有 利 に 導 こうとしてい る 元 々 中 間 選 挙 は 政 権 党 に 厳 しく 特 に 今 年 は 雇 用 の 回 復 が 遅 れているこ ともあって 民 主 党 は 苦 戦 が 予 想 されている オバマ 大 統 領 は 中 間 選 挙 へのダ メージを 最 小 限 に 抑 えるために 保 険 改 革 の 売 り 込 みに 全 国 を 遊 説 する 見 通 し である 12
5.おわりに~ 財 政 赤 字 の 削 減 で 課 題 を 残 す 医 療 保 険 改 革 はようやく 前 に 進 み 出 したが 今 回 の 改 革 は 最 終 形 ではなく 将 来 追 加 の 動 きが 出 てくると 予 想 される 特 に 財 政 再 建 のカギを 握 る 医 療 費 抑 制 の 面 で 疑 問 符 がつくため 財 政 赤 字 削 減 の 点 からも 一 段 の 対 策 が 求 めら れよう CBO では 改 革 により 今 後 10 年 間 (2010~2019 年 )で 1430 億 ドル の 財 政 赤 字 削 減 効 果 が 見 込 まれると 試 算 している( 前 掲 第 2 表 ) もっとも これは 歳 出 削 減 や 歳 入 増 加 に 関 する 改 革 法 の 条 項 が 将 来 の 議 会 により 完 全 に 履 行 されることが 前 提 になっている しかし 赤 字 削 減 に 重 要 な 条 項 ほど 政 治 的 には 反 故 にされるリスクが 高 い 例 えば 医 療 費 抑 制 に 重 要 とみられる 高 額 保 険 への 課 税 では 政 治 的 に 不 人 気 なことから 当 初 案 の 2013 年 スタートが 最 終 案 では 2018 年 に 変 更 された 将 来 の 議 会 がさらに 先 送 りするリスクも 残 る また 改 革 法 が 完 全 に 履 行 され CBO の 試 算 通 りの 赤 字 削 減 効 果 があったと しても CBO では 2019 年 度 時 点 で 1 兆 ドルを 超 す 財 政 赤 字 が 残 ると 見 ており 赤 字 削 減 効 果 はきわめて 限 定 的 と 言 えよう 米 国 の 医 療 支 出 や 財 政 赤 字 は 依 然 持 続 不 可 能 (unsustainable)な 状 態 にあり 追 加 の 策 が 不 可 欠 である 今 後 の 対 策 の 例 としては 医 療 過 誤 の 問 題 がある 医 療 過 誤 に 対 する 賠 償 金 の 上 昇 に 歯 止 めがかからず 医 療 過 誤 保 険 の 保 険 料 高 騰 ( 治 療 費 に 上 乗 せ)や 訴 訟 を 恐 れて 医 師 が 予 防 的 な 検 査 投 薬 をすることにより 医 療 費 が 不 必 要 に 膨 らむと いう 問 題 が 生 じている 今 回 の 改 革 でも 医 療 過 誤 の 賠 償 金 に 上 限 を 設 定 する 条 項 を 入 れようとする 動 きがあったが 弁 護 士 の 強 力 なロビー 活 動 で 阻 止 され ている 前 述 のように 米 国 では 医 療 改 革 は 深 刻 な 経 済 問 題 でもある 医 療 改 革 に 失 敗 し 財 政 赤 字 拡 大 に 歯 止 めがかからないと 為 替 や 金 利 など 市 場 が 動 揺 する だけでなく 米 国 経 済 の 成 長 力 にもかかわってくるだけに 今 後 も 医 療 改 革 の 動 きからは 目 が 離 せない (H22.4.6 山 中 崇 takashi_2_yamanaka@mufg.jp) 当 資 料 は 情 報 提 供 のみを 目 的 として 作 成 されたものであり 金 融 商 品 の 売 買 や 投 資 など 何 らかの 行 動 を 勧 誘 するものではありません ご 利 用 に 関 しては すべてお 客 様 御 自 身 でご 判 断 下 さいますよう 宜 しくお 願 い 申 し 上 げます 当 資 料 は 信 頼 できると 思 われる 情 報 に 基 づいて 作 成 されてい ますが 当 室 はその 正 確 性 を 保 証 するものではありません 内 容 は 予 告 なしに 変 更 することがありますので 予 めご 了 承 下 さい また 当 資 料 は 著 作 物 であり 著 作 権 法 により 保 護 されております 全 文 または 一 部 を 転 載 する 場 合 は 出 所 を 明 記 してください 発 行 : 株 式 会 社 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 100-8388 東 京 都 千 代 田 区 丸 の 内 2-7-1 13