平 成 21 年 (2009 年 )4 月 9 日 NO.2009-6 無 利 子 国 債 について 考 える ~ 賛 否 両 論 あるなか 財 源 活 用 を 明 示 し 国 民 的 議 論 を わが 国 経 済 は 戦 後 最 悪 の 景 気 後 退 局 面 にあり 機 動 的 な 財 政 出 動 によって 景 気 の 更 なる 落 ち 込 みを 食 い 止 めることが 求 められている こうしたなか 無 利 子 非 課 税 国 債 ( 以 下 無 利 子 国 債 )の 発 行 により 家 計 の 資 産 を 活 用 し 景 気 対 策 の 財 源 とする 議 論 がある 本 稿 では わが 国 の 事 情 を 踏 まえつつ 無 利 子 国 債 発 行 の 意 義 や 効 果 につ いて 考 察 する 1. 無 利 子 国 債 とは 無 利 子 国 債 とは 金 利 が 支 払 われない 代 わりに 相 続 発 生 時 にその 国 債 自 体 の 相 続 ( 注 税 が 免 除 される 国 債 である 過 去 には ピネー 国 債 ) と 呼 ばれる 国 債 が 1950 年 代 の フランスで 発 行 されたことがあるが 相 続 の 直 前 に 購 入 し 直 後 に 売 却 するといった ことが 横 行 したため 1973 年 に 非 課 税 特 典 の 無 い 国 債 に 強 制 的 に 振 り 換 えられている わが 国 では 2000 年 の 森 内 閣 当 時 景 気 対 策 の 文 脈 のなかで 議 論 に 上 るなど 過 去 数 度 議 論 されたが 実 際 の 発 行 には 至 らず 現 在 諸 外 国 を 含 めて 発 行 している 国 はない ( 注 )インドシナ 戦 争 の 戦 費 調 達 のために 発 行 された 相 続 税 と 贈 与 税 の 非 課 税 特 典 付 きの 超 長 期 国 債 元 本 は 金 価 格 に 連 動 富 田 俊 基 (2001) 日 本 国 債 の 研 究 東 洋 経 済 新 報 社 などを 参 考 とした (1) 賛 否 分 かれる 無 利 子 国 債 無 利 子 国 債 については 賛 否 両 論 ある( 次 頁 第 1 表 ) まず 肯 定 派 は わが 国 が 100 年 に 1 度 の 危 機 に 直 面 するなか 採 りうる 選 択 肢 を 総 動 員 することが 必 要 であり 無 利 子 国 債 の 発 行 を 検 討 すべきとしている 主 要 なメリットは 家 計 の 金 融 資 産 を 活 用 し 経 済 対 策 の 財 源 に 充 てることであり 財 政 への 影 響 については 利 払 いの 発 生 しない 国 債 であり 増 発 が 許 容 されるとしている これに 対 して 否 定 派 は 将 来 の 相 続 税 収 の 減 少 を 見 返 りに 目 先 の 金 利 負 担 を 減 少 させるに 過 ぎず 財 政 面 のメリットが 1
ない 点 を 挙 げている 加 えて 一 部 の 金 持 ち 優 遇 であり 税 制 上 の 公 平 性 を 欠 くという 批 判 や 不 動 産 株 式 等 の 資 産 を 売 却 して 無 利 子 国 債 を 購 入 した 際 の 市 場 への 影 響 国 債 消 化 が 困 難 であるという 誤 ったメッセージを 国 債 市 場 に 発 してしまうリスクな ど が 指 摘 されている また 現 在 国 債 金 利 は 低 水 準 で 推 移 しており 無 利 子 国 債 ではなく 通 常 国 債 を 発 行 すべきという 意 見 もある 第 1 表 : 無 利 子 国 債 に 関 する 論 調 肯 定 的 意 見 否 定 的 意 見 非 常 事 態 に 即 した 非 常 手 段 が 求 められる 将 来 の 相 続 税 減 収 により 財 政 面 のメリットない 100 年 に 1 度 の 危 機 には 100 年 に 1 度 の 対 応 が 必 要 だ プラス 相 続 税 を 免 除 するタイプの 無 利 子 国 債 は 将 来 の 相 続 税 減 免 損 マイナス 両 面 をよく 検 討 し 政 治 家 として 強 い 意 志 と 覚 悟 をもっ を 見 返 りに 金 利 負 担 を 減 少 させるもので 一 種 の 粉 飾 である ( 深 尾 光 洋 日 本 経 済 研 究 センター 理 事 長 ) て 進 めていきたい ( 菅 義 偉 衆 議 院 議 員 ) 利 子 がつかないことと 軽 減 される 税 額 を 比 較 して 軽 減 される 眠 っている 個 人 金 融 資 産 を 経 済 対 策 に 活 用 すべき 相 続 税 の 方 が 大 きいから 購 入 するのであれば 国 にとって 利 払 い 日 本 の 個 人 の 金 融 資 産 は 約 1,400 兆 円 あるが そのうち 30 兆 円 は 減 るが 相 続 税 収 がその 分 減 るので 財 政 にとってプラスになる はタンス 預 金 また 当 座 預 金 や 普 通 預 金 はだいたい 450 兆 円 あ 要 素 はない そうすると 財 政 当 局 の 立 場 からすると そのよう ってこのうち 個 人 の 預 金 が 約 120 兆 円 ( 中 略 )あわせて 150 兆 な 国 債 を 発 行 するメリットはどこにあるのかという 問 題 に 帰 着 する ( 杉 本 和 行 財 務 省 事 務 次 官 ) 円 もの 利 子 がつかない 預 金 が 日 本 に 眠 っている いわば 本 当 の 埋 蔵 金 だ そのうち 3 分 の 1 の 50 兆 円 でもこの 無 利 子 非 課 税 国 税 制 上 の 公 平 性 の 問 題 など 多 くの 課 題 がある 債 で 吸 い 上 げられたら 相 当 の 景 気 対 策 ができる 利 子 のつかない 相 続 税 を 払 っている 人 は 国 民 の 4% 程 度 で ほとんどの 国 民 は 国 債 なら 残 高 が 増 えても 有 害 ではない 現 在 一 般 会 計 歳 出 の 中 メリットを 感 じない 金 持 ち 優 遇 という 批 判 も 相 当 出 てくること の 国 債 費 は 半 分 が 利 払 いであることが 問 題 で 前 向 きに 考 えるつもりはない ( 渡 辺 恒 雄 読 売 新 聞 グループ 本 社 代 表 取 締 役 会 長 主 筆 ) ( 鳩 山 由 紀 夫 民 主 党 幹 事 長 ) 国 と 購 入 者 の 双 方 にメリットがあるような 仕 組 みとなり 得 るの 民 間 にはタンスのなかで 眠 っているお 金 がある 消 費 税 率 を 上 かどうかという 課 題 それから 公 平 性 マネーロンダリングとの げたり 貧 乏 な 人 から 税 金 を 取 るのではなく 無 利 子 非 課 税 国 債 関 係 税 体 系 全 体 の 改 革 との 整 合 性 更 には 資 産 間 の 乗 り 換 えに で 集 めた 金 を( 太 陽 光 発 電 促 進 などに)つぎこめばいい 伴 う 市 場 や 経 済 への 影 響 こういった 点 の 課 題 があり ( 中 略 ) ( 亀 井 静 香 国 民 新 党 代 表 代 行 ) 留 意 して 検 討 していく 必 要 がある ( 杉 本 和 行 財 務 省 事 務 次 官 ) 課 題 はあるが 検 討 に 値 する 無 利 子 の 国 債 を 出 す 国 側 とその 引 き 受 け 手 が 両 方 ともウィ 経 済 対 策 は 通 常 国 債 で 賄 うべき ンウィンの 関 係 になるかどうかは 検 証 する 必 要 もあるし 公 平 日 本 は 幸 い 長 期 金 利 が 上 昇 する 兆 候 はまだない 正 々 堂 々と 普 通 性 やマネーロンダリングなどの 面 も 検 討 しなければならないし の 国 債 を 発 行 すればよい 税 体 系 全 体 としてなじむものかどうかも 検 討 しなくてはならな ( 吉 川 洋 東 京 大 学 教 授 ) い ただこの 話 はやはり 検 討 に 値 することであって 肯 定 するに せよ 否 定 するにせよ 相 当 の 研 究 を 要 する ( 与 謝 野 馨 財 務 大 臣 ) ( 資 料 ) 新 聞 報 道 等 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 2
(2) 政 府 と 家 計 から 見 た 無 利 子 国 債 無 利 子 国 債 発 行 のメリットデメリットを 発 行 側 の 政 府 と 購 入 する 家 計 それぞれ に 分 けて 整 理 すると 政 府 サイドのメリットは 目 先 の 利 払 い 負 担 を 抑 えながら 資 金 調 達 が 可 能 な 点 であり より 長 期 の 無 利 子 国 債 を 発 行 すればするほど 利 払 い 負 担 が 抑 えられる 一 方 デメリットとしては 先 行 きの 相 続 税 収 が 減 少 する もちろん 償 還 時 に 新 たな 財 源 を 要 することは 通 常 国 債 と 変 わりはない 一 方 家 計 にとっては 相 続 時 に 相 続 税 の 支 払 いを 軽 減 できる 一 方 利 子 の 受 け 取 りを 放 棄 する 形 となるため 両 者 を 比 較 して 購 入 を 判 断 することになる 具 体 例 でみると 仮 に 無 利 子 10 年 国 債 が 1 兆 円 発 行 された 場 合 家 計 からみた 利 子 放 棄 額 は 10 年 間 で 1,953 億 円 ( 年 利 1.8%で 計 算 )となる 一 方 10 年 間 のうちに 全 ての 相 続 が 発 生 した 場 合 相 続 税 の 課 税 対 象 資 産 が 1 兆 円 減 少 するため 税 率 にも よるが 約 1,000 億 円 ( 平 均 税 率 17.5%)から 3,000 億 円 ( 最 高 税 率 50.0%)の 税 負 担 が 軽 減 される 相 続 税 支 払 い 軽 減 額 から 利 子 放 棄 額 を 差 し 引 くと ネット 822 億 円 ~1,279 億 円 となり 家 計 にとって 税 率 次 第 で 有 利 な 場 合 と 不 利 な 場 合 に 分 かれる また 年 限 が 長 くなるほど 家 計 のメリットは 薄 れるため 15 年 債 及 び 20 年 債 では 税 率 にかかわらず 家 計 に 不 利 となる 年 限 としては 10 年 が 一 つの 目 安 となろう( 第 2 表 ) 加 えて インフレリスクを 負 うことや 仮 に 相 続 が 発 生 しなかった 場 合 は 利 子 収 入 を 失 うことだけになるため 不 確 実 性 が 高 い 点 については 物 価 連 動 債 とすること や 贈 与 税 の 一 部 免 除 を 認 めるなど 発 行 条 件 を 吟 味 する 必 要 があろう 第 2 表 : 無 利 子 国 債 1 兆 円 発 行 時 の 相 続 税 軽 減 額 と 逸 失 利 子 所 得 の 差 ( 単 位 : 億 円 ) 発 行 年 限 5 年 債 10 年 債 15 年 債 20 年 債 17.5% ( 平 均 値 ) 516 822 2,729 5,256 相 続 税 率 30% 1,325 14 1,921 4,447 40% 1,971 633 1,274 3,800 50% ( 最 高 税 率 ) 2,618 1,279 628 3,154 ( 注 ) 相 続 税 支 払 い 減 少 額 から 利 子 放 棄 累 計 額 ( 複 利 )を 引 いて 算 出 利 率 は 5 年 債 :1.2% 10 年 債 :1.8% 15 年 債 :2.2% 20 年 債 :2.5% プラスであれば 家 計 に 有 利 マイナスであれば 政 府 に 有 利 な 発 行 条 件 相 続 税 免 除 は1 国 債 につき1 回 限 りとし 償 還 までに 全 ての 無 利 子 国 債 保 有 者 の 相 続 が 発 生 した 場 合 相 続 税 支 払 い 減 少 額 = 1 兆 円 ( 課 税 財 産 価 額 の 減 少 分 ) 64.6%( 基 礎 控 除 ) 17.5%~50.0%( 相 続 税 率 ) 平 均 税 率 (17.5%) 基 礎 控 除 割 合 (35.4%)は04~06 年 の 平 均 値 相 続 税 の 軽 減 により 家 計 消 費 が 増 加 し 消 費 税 等 の 形 で 歳 入 増 加 が 期 待 されるが 試 算 には 含 めていない ( 資 料 ) 財 務 省 国 税 庁 資 料 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 3
2. 踏 まえるべきわが 国 固 有 の 事 情 このように 無 利 子 国 債 の 発 行 は 打 ち 出 の 小 槌 ではない 目 先 の 財 政 負 担 を 回 避 できるため 安 易 な 財 政 拡 大 につながりやすいリスクも 踏 まえると 一 般 論 としては 無 利 子 国 債 の 発 行 には 慎 重 であるべきであろう ただし 以 下 にみるように わが 国 固 有 の 事 情 を 踏 まえる 必 要 がある (1) 短 期 的 にも 中 長 期 的 にも 厳 しいわが 国 のマクロ 環 境 まず わが 国 の 置 かれた 経 済 情 勢 が 極 めて 厳 しいことである 外 需 に 強 く 依 存 する わが 国 経 済 は 世 界 同 時 不 況 の 直 撃 を 受 け 2008 年 10~12 月 期 の 実 質 GDP 成 長 率 が 第 一 次 石 油 危 機 以 来 のマイナス 幅 を 記 録 するなど 先 進 国 のなかでも 落 ち 込 みが 際 立 っている また 中 長 期 的 にみても 日 本 経 済 研 究 センターの 予 測 によると 経 済 活 動 の 基 礎 となる 人 口 は 今 後 減 少 ペースが 加 速 し 2005 年 を 基 準 とすると 2040 年 に は 米 国 やアジアは+20% 以 上 増 加 するのに 対 し 日 本 は 約 20%の 減 少 が 見 込 まれて いる 経 済 規 模 (GDP)についても 日 本 は 生 産 性 の 向 上 などから 2040 年 に 2005 年 比 1.5 倍 まで 拡 大 するが 同 期 間 に 米 国 は 2.5 倍 近 く アジアは 3 倍 以 上 となり 大 きく 水 を 開 けられてしまう 公 算 が 大 きい( 第 1 図 第 2 図 ) 短 期 的 な 景 気 対 策 と 中 長 期 的 な 成 長 力 強 化 のために 今 大 胆 に 政 策 を 打 つことの 必 要 性 はかつてなく 高 まっているように 思 われる 140 (2005 年 =100) 第 1 図 : 人 口 の 長 期 見 通 し 400 (2005 年 =100) 第 2 図 :GDP の 長 期 見 通 し 130 120 110 100 米 国 アジア EU 日 本 350 300 250 200 アジア 米 国 EU 日 本 90 150 80 100 70 2005 2020 2030 2040 ( 年 ) ( 注 )アジアは 中 国 香 港 韓 国 シンカ ホ ール マレーシア イント ネシア フィリヒ ン タイ ヘ トナム イント の 合 計 EUはスロヘ ニア エストニア ラトヒ ア リトアニア キフ ロス マルタ フ ルカ リア ルーマニアを 除 く19カ 国 ( 資 料 ) 日 本 経 済 研 究 センター 世 界 経 済 長 期 予 測 ~ 人 口 が 変 える 世 界 と アジア のデータから 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 50 2005 2020 2030 2040 ( 年 ) ( 注 )アジアは 中 国 香 港 韓 国 シンカ ホ ール マレーシア イント ネシア フィリヒ ン タイ ヘ トナム イント の 合 計 EUはスロヘ ニア エストニア ラトヒ ア リトアニア キフ ロス マルタ フ ルカ リア ルーマニアを 除 く19カ 国 ( 資 料 ) 日 本 経 済 研 究 センター 世 界 経 済 長 期 予 測 ~ 人 口 が 変 える 世 界 と アジア のデータから 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 (2) 求 められる 家 計 資 産 の 活 用 また わが 国 が 超 高 齢 社 会 へ 向 かうなか 潤 沢 な 家 計 資 産 をどう 活 用 するか が 一 つの 重 要 な 鍵 を 握 っていることが 指 摘 できる わが 国 家 計 の 実 物 資 産 は 1,013 兆 円 金 融 資 産 は 1,504 兆 円 (2007 年 度 SNA ベース)に 上 り 可 処 分 所 得 の 対 比 で 見 ると 4
主 要 国 のなかでも 最 も 資 産 蓄 積 が 進 んでいる かつ その 特 徴 としては 経 済 の 成 熟 化 が 進 展 するなか 高 齢 層 の 資 産 ウェイトが 大 きい 金 融 資 産 についてみると 全 国 消 費 実 態 調 査 (2004 年 )によれば 金 融 資 産 のうち 60 歳 以 上 の 世 帯 が 約 75%を 保 有 している 計 算 となる 米 国 では 金 融 資 産 に 占 める 65 歳 以 上 世 帯 の 割 合 が 約 30% 55 歳 以 上 世 帯 でも 約 60%となる 高 齢 化 が 加 速 する なかで わが 国 においては 高 齢 層 の 資 産 活 用 や 潜 在 的 な 資 産 継 承 ニーズが 大 きいこと が 示 唆 される 無 利 子 国 債 はこうした 家 計 のニーズに 応 えられる 可 能 性 があろう 相 続 税 の 課 税 対 象 資 産 の 内 訳 をみると 土 地 (47.8%)に 次 いでウェイトの 高 い 現 金 預 貯 金 等 は 無 利 子 国 債 に 向 かいやすいと 考 えられる また 無 利 子 国 債 に 贈 与 税 一 部 減 免 の 条 件 を 付 与 した 場 合 には 現 役 世 代 の 消 費 活 性 化 も 期 待 できよう( 第 3 図 第 4 図 ) 第 3 図 : 日 米 年 齢 別 ネット 金 融 資 産 保 有 割 合 30 歳 未 満 30~39 40~49 50~59 60~69 70 歳 以 上 日 本 -1.6 0.6 3.2 23.1 40.4 34.2-10% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 35 歳 未 満 35~44 45~54 55~64 65~74 75 歳 以 上 米 国 3.6 13.8 25.2 28.6 16.2 12.6-10% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% ( 資 料 )FRB, Survey of Consumer Finances 2004 平 成 16 年 全 国 消 費 実 態 調 査 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 第 4 図 : 相 続 税 の 課 税 資 産 割 合 ( 金 融 資 産 + 実 物 資 産 ) 7.4% 2.9% 土 地 20.6% 47.8% 家 屋 構 築 物 事 業 用 財 産 有 価 証 券 現 金 預 貯 金 等 生 命 保 険 15.8% 0.5% 5.0% その 他 ( 注 )2006 年 の 値 ( 資 料 ) 国 税 庁 資 料 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 5
(3) 相 応 に 期 待 できる 無 利 子 国 債 に 対 する 需 要 では 無 利 子 国 債 に 対 する 需 要 はどの 程 度 あるだろうか 厚 生 労 働 省 発 表 の 2007 年 簡 易 生 命 表 によると わが 国 の 平 均 寿 命 は 男 性 が 79.2 歳 女 性 が 86.0 歳 であり 相 続 対 策 を 真 剣 に 考 える 中 心 世 代 は 70 歳 代 早 くて 60 歳 代 と 考 えられる 全 国 消 費 実 態 調 査 (2004 年 )によると 家 計 総 資 産 ( 金 融 資 産 + 実 物 資 産 )のうち 70 歳 以 上 世 帯 の 保 有 資 産 は 金 額 ベースで 27.0%を 占 める 相 続 税 制 では 基 礎 控 除 (5,000 万 円 + 相 続 人 数 1,000 万 円 )が 認 められるため ラフに 総 資 産 1 億 円 以 上 の 世 帯 を 潜 在 的 な 需 要 層 と 考 えると 70 歳 以 上 世 帯 のなかで 総 資 産 1 億 円 以 上 の 世 帯 割 合 は 12.5%となる 家 計 総 資 産 額 の 2,517 兆 円 に この 割 合 を 乗 じると 70 歳 以 上 かつ 資 産 総 額 1 億 円 以 上 世 帯 の 資 産 合 計 額 は 85.1 兆 円 これが 潜 在 的 な 無 利 子 国 債 の 需 要 規 模 と 推 定 される このうち 上 述 した 相 続 資 産 の 構 成 割 合 から 無 利 子 国 債 に 向 か いやすい 現 金 預 貯 金 等 は 17.5 兆 円 (20.6%)と 推 定 される 同 様 に 60 歳 以 上 かつ 資 産 総 額 1 億 円 以 上 世 帯 の 資 産 合 計 額 は 166.2 兆 円 現 金 預 貯 金 等 は 34.2 兆 円 と 試 算 される 実 際 には 相 続 税 の 基 礎 控 除 額 や 発 行 条 件 によって 左 右 される 面 が 大 きい と 思 われるが 数 兆 円 規 模 の 需 要 は 見 込 めるのではなかろうか( 第 5 図 ) ( 兆 円 ) 900 800 700 600 500 第 5 図 : 年 齢 別 家 計 資 産 総 額 に 占 める 金 額 シェア 70 歳 以 上 かつ 総 資 産 1 億 円 以 上 世 帯 の 資 産 総 額 :85.1 兆 円 580.5 778.1 680.5 400 300 200 150.1 298.6 100 0 29.8 30 歳 未 満 30~39 歳 40~49 50~59 60~69 70 歳 以 上 ( 注 ) 総 世 帯 の 数 値 70 歳 以 上 世 帯 の 割 合 ( 金 額 ベース) 総 資 産 1 億 円 以 上 の 割 合 ( 世 帯 数 ベース)をSNAベースの 総 資 産 額 に 乗 じて 算 出 ( 資 料 ) 総 務 省 平 成 16 年 全 国 消 費 実 態 調 査 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 なお 無 利 子 国 債 の 需 要 層 は 相 続 税 の 課 税 対 象 資 産 を 有 する 一 部 の 世 帯 に 限 られる 実 際 相 続 税 の 課 税 対 象 となるのは 被 相 続 人 の 4.2%(2006 年 )に 過 ぎず 税 制 面 での 公 平 性 の 問 題 は 生 じる ただし 日 本 の 相 続 税 率 は 先 進 国 比 総 じて 高 く 特 に 高 額 資 産 保 有 者 への 課 税 割 合 は 最 も 高 い 水 準 にある( 次 頁 第 6 図 ) また 税 収 に 占 め る 相 続 税 の 割 合 も 高 齢 化 が 進 んでいることもあるが 先 進 国 のなかで 高 めとなって いる( 次 頁 第 7 図 ) 無 利 子 国 債 の 発 行 にあたっては こうした 事 情 も 踏 まえつつ 税 制 面 の 公 平 性 確 保 や 高 齢 富 裕 層 の 資 産 活 用 の 必 要 度 緊 急 度 をどうみるか と いった 議 論 が 必 要 となろう 6
第 6 図 : 相 続 税 負 担 率 の 国 際 比 較 第 7 図 : 税 収 全 体 に 占 める 相 続 税 の 割 合 ( 単 位 :%) 25 (2009 年 1 月 現 在 ) 5 (%) 負 担 20 率 ( 税 額 15 / 課 税 価 10 格 ) 配 偶 者 + 子 2 人 イギリス フランス 日 本 ( 現 行 ) 4 3 2 税 収 全 体 に 占 める 相 続 税 収 の 割 合 (2006 年 ) 5 ドイツ アメリカ 1 0 0 5 10 15 20 課 税 価 格 ( 億 円 ) ( 注 ) 配 偶 者 が 遺 産 の 半 分 子 が 残 りの 遺 産 を 均 等 に 取 得 した 場 合 フランスでは 夫 婦 の 財 産 は 原 則 として 共 有 財 産 となり 配 偶 者 の 持 分 は 相 続 の 対 象 ではないが 比 較 便 宜 のため 課 税 価 格 に 含 めている ドイツでは 死 亡 配 偶 者 の 婚 姻 後 における 財 産 の 増 加 分 が 生 存 配 偶 者 のそれを 上 回 る 場 合 生 存 配 偶 者 はその 差 額 の1/2 相 当 額 が 非 課 税 になる(ここでは 配 偶 者 相 続 分 の1/2としている) ( 備 考 ) 邦 貨 換 算 レートは 1ドル=105 円 1ポンド=190 円 1ユーロ=151 円 ( 基 準 外 国 為 替 相 場 及 び 裁 定 外 国 為 替 相 場 : 平 成 20 年 (2008 年 )6 月 から11 月 までの 間 における 実 勢 相 場 の 平 均 値 ) ( 出 所 ) 財 務 省 ホームページ 0 フランス 日 本 英 国 米 国 ドイツ ( 注 ) 相 続 税 収 割 合 はOECDの 定 義 に 基 き 下 記 にて 算 出 Estate, inheritance and gift taxes Taxes on income, profits and capital gains ( 資 料 )OECD, Revenue Statistics 1965-2006より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 3. 重 要 なのは 戦 略 的 資 源 配 分 への 有 効 活 用 以 上 見 てきたように 無 利 子 国 債 の 発 行 は 財 政 上 のメリットが 実 質 的 に 小 さいこ とや 税 制 面 の 公 平 性 など 課 題 が 多 い 一 方 で わが 国 を 取 り 巻 く 厳 しい 経 済 情 勢 や 無 利 子 国 債 が 家 計 資 産 活 用 の 鍵 となる 可 能 性 があること なども 踏 まえると 政 策 手 段 としては 検 討 の 余 地 があるように 思 われる しかし 議 論 が 大 きく 分 かれる 無 利 子 国 債 の 発 行 が 真 に 検 討 すべき 政 策 となるかどうかを 左 右 するのは 最 終 的 には 無 利 子 国 債 により 調 達 した 財 源 をどう 有 効 活 用 するかであろう 無 利 子 国 債 の 買 い 手 は 家 計 であり 個 人 の 意 志 が 働 く 余 地 が 大 きい 従 って 無 利 子 国 債 で 得 た 財 源 は 目 に 見 える 形 で かつ 政 策 効 果 が 実 感 できる 分 野 に 対 して 有 効 に 活 用 されることが 欠 かせない そこで わが 国 経 済 の 中 長 期 的 な 成 長 力 を 高 め る 政 策 の 財 源 に 直 結 させるようにするのはどうだろうか 折 しも 世 界 同 時 不 況 のなか 各 国 は 矢 継 ぎ 早 に 大 胆 な 経 済 対 策 や 成 長 戦 略 を 打 ち 出 している なかでも 米 国 はグリーンニューディール 政 策 を 掲 げ 環 境 関 連 事 業 への 大 規 模 投 資 を 打 ち 出 し 将 来 の 基 幹 産 業 とするための 道 筋 をつけている 一 方 中 国 も 大 規 模 なインフラ 関 連 投 資 を 打 ち 出 し 生 産 性 上 昇 を 通 じた 潜 在 成 長 力 の 底 上 げ を 目 指 している 翻 ってわが 国 については これまで 打 ち 出 されてきた 対 策 については 規 模 の 小 さ さもあるが 中 長 期 的 な 成 長 力 を 飛 躍 的 に 高 める 戦 略 投 資 という 点 で 踏 み 込 み 不 足 の 感 が 否 めない( 次 頁 第 3 表 ) 政 府 は 今 月 半 ばに 追 加 経 済 対 策 を 打 ち 出 す 予 定 で あるが 成 長 戦 略 については 投 資 を 集 中 する 分 野 として 環 境 やインフラ 投 資 医 療 介 護 などが 挙 げられており その 具 体 策 が 注 目 される 7
環 境 教 育 等 第 3 表 : 日 米 中 の 経 済 対 策 のうち 中 長 期 的 な 成 長 戦 略 投 資 日 本 省 エネ 新 エネ 技 術 の 開 発 導 入 促 進 環 境 対 応 車 の 取 得 促 進 省 エネ 住 宅 促 進 (4,576 億 円 ) 交 通 インフラ 整 備 ( 都 市 環 境 鉄 道 港 湾 等 整 備 ) 中 小 企 業 研 究 開 発 支 援 インフラ 先 端 技 術 研 究 開 発 支 援 技 術 開 発 (1,258 億 円 ) 子 育 て 教 育 支 援 (2,550 億 円 ) GDP 比 (%) 0.09 0.05 米 国 再 生 可 能 エネルギーへの 投 資 送 電 網 整 備 省 エネ 住 宅 促 進 など (6 兆 3,700 億 円 ) GDP 比 (%) 0.5 教 育 支 援 職 業 訓 練 への 投 資 (7 兆 6,440 億 円 ) 0.5 中 国 省 エネ 支 援 都 市 部 汚 水 ごみ 処 理 施 設 建 設 重 点 流 域 の 水 質 汚 染 対 策 (4 兆 9,000 億 円 ) 医 療 衛 生 文 化 教 育 事 業 の 発 展 ( 基 礎 医 療 衛 生 サーヒ スシステムの 構 築 など) (5,600 億 円 ) 合 計 8,384 億 円 0.2 26 兆 3,620 億 円 1.9 38 兆 800 億 円 8.8 ( 注 )1ドル=98 円 1 元 =14 円 で 換 算 日 本 は 08 年 度 1 次 補 正 2 時 補 正 09 年 度 予 算 より 抽 出 ( 資 料 ) 新 聞 等 より 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 作 成 GDP 比 (%) インフラ 整 備 ( 高 速 道 路 な 重 要 インフラ 整 備 ( 鉄 道 道 ど) 路 空 港 など) 科 学 研 究 支 援 など 農 村 インフラ 整 備 ( 飲 料 水 確 0.02 (12 兆 3,480 億 円 ) 0.9 保 電 力 網 整 備 等 ) 7.6 自 主 革 新 と 構 造 調 整 ( 技 術 進 歩 支 援 など) (32 兆 6,200 億 円 ) 1.1 0.1 グローバル 金 融 危 機 下 で 輸 出 主 導 の 成 長 モデルの 脆 弱 性 が 浮 き 彫 りになるなか わが 国 経 済 の 潜 在 成 長 力 を 高 め 内 需 活 性 化 により 人 口 減 少 時 代 へ 対 応 していくため には 1 国 際 ハブ 空 港 の 整 備 などわが 国 産 業 の 活 力 を 高 めるための 大 胆 なインフラ 投 資 や 2 今 後 国 際 競 争 力 を 左 右 する 可 能 性 の 高 い 環 境 技 術 次 世 代 エネルギー 開 発 の 後 押 し 3 成 長 力 の 究 極 的 な 源 泉 である 教 育 や 人 材 育 成 の 梃 入 れ 4 抜 本 的 な 少 子 化 対 策 といった 分 野 に 重 点 的 に 資 金 を 投 じていくことが 必 要 であり そのために 高 齢 富 裕 層 の 資 産 を 有 効 活 用 するといった 発 想 が 不 可 欠 であろう 無 利 子 国 債 発 行 の 是 非 については そうした 視 座 に 立 って 国 民 的 議 論 が 行 なわれることこそが 重 要 で ある 以 上 (2009.4.9 木 田 祥 太 郎 ) 当 資 料 は 情 報 提 供 のみを 目 的 として 作 成 されたものであり 何 らかの 行 動 を 勧 誘 するものではありません ご 利 用 に 関 しては すべてお 客 様 御 自 身 でご 判 断 下 さいますよう 宜 しくお 願 い 申 し 上 げます 当 資 料 は 信 頼 できると 思 われる 情 報 に 基 づいて 作 成 されていますが 当 室 はその 正 確 性 を 保 証 するものではありません 内 容 は 予 告 なしに 変 更 することがありますので 予 めご 了 承 下 さい また 当 資 料 は 著 作 物 であり 著 作 権 法 により 保 護 されております 全 文 または 一 部 を 転 載 する 場 合 は 出 所 を 明 記 してください 発 行 : 株 式 会 社 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 経 済 調 査 室 100-8388 東 京 都 千 代 田 区 丸 の 内 2-7-1 8