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帝京科学大学紀要 Vol.9(203)pp.8-88 理学療法学教育における客観的臨床能力試験 (OSCE) 導入の課題と実践 前島 洋 川井伸夫 高田治実 帝京科学大学医療科学部東京理学療法学科 The problem and practice in the introduction of an objective structured clinical examination for physical therapy students in undergraduate educational program. Hiroshi MAEJIMA Nobuo KAWAI Harumi TAKADA Department of Tokyo Physical Therapy, faculty of Medical Sciences, Teikyo University of Science Abstract The objective structured clinical examination (OSCE)is an examination format to assess the clinical competence of health science students. The purpose of the present study was to survey the status of the implementation of an OSCE for undergraduate physical therapy students in Japanese universities and to introduce a physical therapy OSCE to the educational program of our department based on the survey. Prior to making a questionnaire to survey the status of the implementation of an OSCE, we visited two departments implementing an OSCE in the physical therapy educational program, and consolidated the information regarding the usage of OSCE. Subsequently, a questionnaire was sent to all physical therapy departments in Japanese universities. The questionnaire was answered by 53 % departments. The 64 % departments implemented physical therapy OSCE in their educational programs. The survey elucidated that the objective of the OSCE was to motivate students to improve clinical skill rather than to strictly assess the clinical competence, indicating that most departments used OSCE as a teaching OSCE. Actually, the students failed to go up to next grade due to the poor results of OSCE only in 9% departments. Only 4 % departments recruited outside standardized patients in the OSCE. In reference to the survey, we introduced the OSCE to our educational program as a teaching OSCE which facilitate student to learn clinical skill and adapt the students to a clinical circumstance. This study firstly reported the status of the implementation of an OSCE in Japanese four-year undergraduate program, which could contribute to the standardization of the OSCE format in Japanese physical therapy education based on multicenter works among the departments. キーワード : 理学療法 臨床能力 評価 Key words : physical therapy, clinical competency, evaluation. はじめに客観的臨床能力試験 (objective structured clinical examination, OSCE) はイギリスの Harden らにより開発された臨床能力を客観的に評価するために生まれた構造化された試験であり, 2) 本邦においても既に医師養成課程における医学教育において広く導入されている 3) OSCE の特徴として ) ステーションと呼ばれる連続した小部屋を複数個設置し 各ステーションに つの試験課題を設定する 2) 各ステーションには模擬的臨床場面として本物の患者と同様の演技をするように訓練を受けた標準模擬患者 (standardized patient, SP) を配し 受験者は SP を対象に臨床技能に関する試験課題を実践する 3) 各ステーションには採点者に当たる評価者を配し 評価マニュアルに沿って評価用紙に採点結果を記入する 4) このとき評価者は評価に徹し 口頭による質問等は行わない 5) 受験生はタイムキーパー の進行に従い 各ステーションの課題試験を数分間の一定の時間内で受験し 終了後に隣のステーションに移動することにより全ステーションを一巡し 一連の複数の課題を受験する 各ステーションの試験の流れとして 受験者はステーション入室時に課題の内容を提示した用紙を読み課題内容を理解した上で SP を対象に課題を遂行する 課題終了後に評価者や SP が受験者にフィードバックを行うこともある, 2, 4) 北米において OSCE は医師国家試験の一部として導入されてきた背景もあり 医師養成課程教育においては広く用いられてきた 同様に北米における理学療法士養成においても OSCE は国家試験の一部としても導入されており 理学療法士養成教育においても OSCE 導入の歴史は長い 5, 6) 本邦における筆記試験のみの医療職国家試験とは大きく異なることが特記される 本邦における医師養成課程においても現在ではほぼ全ての大学においてカリキュラ 8

前島洋 川井伸夫 高田治実 ムへの OSCE の導入がなされている 3 一方 本 のみでなく医師である教員も評価者として参加して 邦における理学療法士養成課程においてもその導入 いることも特徴的であった 5 題の課題のいずれも が望まれてきたが 厳密な客観的評価機能を有し SP の疾患等の概要は事前に学生に周知され 具体 た OSCE 導入に対する統一的な指針は定まってい 的な SP を対象とする試験課題内容については試験 ない 理学療法士養成課程の高等教育化が進む中 時に提示されるという運用であった 評価用紙は各 OSCE の導入は様々な養成施設において試行錯誤的 評価細目内容の可 不可のチェックと 5 段階の総合 状況が続いている 7-9 帝京科学大学医療科学部東京理学療法学科は平成 印象及び評価者のコメントより構成されていた 一方 新潟医療福祉大学における OSCE では 22 年 4 月に開設され 学年の定員 80 名と理学療 学科が独自に外部一般者からなる SP を長年に渡り 法士教員 9 名を擁した 4 年制大学養成機関である 養成しており OSCE を含む一連の実習に SP とし 本研究では 本学科の学生が 3 年次の課程を終了 て参加している点が特徴的であった 9 実際の疾患 し 以降の学外臨床実習に参加するに十分な臨床能 に即した年齢 性別等の設定がなされており 模 力を確保し それを見極める評価機構として授業カ 擬的臨床場面として極めて臨場感の高い環境での リキュラムへの理学療法 OSCE の導入を図ること OSCE の実施であった 具体的には 2 年次にお を最終的な目標とした そのため 国内理学療法士 ける初回 SP 面接 3 年次評価実習前における評価 養成大学における OSCE 導入の現状と課題を情報 OSCE 4 年次における評価 治療 OSCE の 3 回の 収集し 本学科における OSCE 立ち上げの指針の OSCE 形態の試験より構成されていた 実地見聞を 作成とその導入を本研究の目的とした 本稿では 行った 3 年次評価 OSCE においては 中枢神経系 先行して理学療法 OSCE を導入している 4 年 整形外科系に関する 2 課題が受験生に課せられた 制大学における OSCE 実施の実地調査を通した課 両領域それぞれについて複数の課題の詳細が OSCE 題の集約 2 全国の 4 年制大学養成課程における 実施の 2 カ月前に学生に周知され 十分な検査 測 OSCE 実施状況に関するアンケート調査 3 本学 定の練習の機会が与えられ 周知課題の中から 課 科における OSCE 導入の指針作成とその試行 以 題ずつ 8 分間の試験が課せられる内容であった こ 上 3 つの過程に従って成果を報告する のため 約 80 名の全ての学生が同一の課題を受験 するという内容ではなかった 運営には 8 名の理 2. 理学療法 OSCE の実地調査 学療法士教員が携わり 各ステーションの評価者も 理学療法 OSCE の実施状況と課題抽出を目的と また理学療法士教員のみから構成されていた 受験 する全国理学療法士養成大学へのアンケート調査に 生には 8 分間の試験の後 約 7 分間の評価者教員お 先立ち 特徴的な 2 大学における OSCE 実施の実 よび SP よりフィードバックを受ける機会を設けら 地調査を行い アンケート調査の質問項目の検討を れていた 行った 訪問対象施設として 国内で最初の 4 年制 以上の実地調査より OSCE 導入の目的 カリキュ 大学理学療法士養成課程である広島大学医学部保健 ラムにおける位置付け SP の採用 学生評価にお 学科理学療法学専攻と 本学と同等の学生規模の私 ける位置付け等に関して施設により異なる特徴的所 立大学で OSCE 導入の歴史の長い新潟医療福祉大 見を得た そこで 以上の項目に質問内容の焦点を 学理学療法学科における OSCE の実地調査の機会 絞り全国の 4 年制理学療法士養成大学を対象に理学 を得た 療法 OSCE の実施状況に関するアンケート調査を 広島大学における理学療法 OSCE は 3 年次の評 行った 価実習終了後 4 年次総合臨床実習直前に行われ 評価実習の達成度と総合臨床実習参加に対する臨 床能力の見究めの試験として位置づけられていた 約 30 名の学生を対象に 同一課題として医療面接 3. 4 年制大学教育における理学療法 OSCE の 実施状況調査 アンケート方法 骨関節系 神経系 補装具 動作分析 内部障害系 平成 24 年 月時点における全ての 4 年制大学理学 の統一した 5 問が設定され 課題は問題提示時間 療法士養成施設 83 施設 を対象にアンケートの郵 を含めて 7 分間で行われた 各ステーションには 送調査を行った 回答期間は平成 24 年 月下旬から SP と評価者である教員 名が配され SP は全て同 2 月末日であった アンケート質問内容は 理学療法 学の大学院生により担われていた 理学療法士教員 OSCE の実施の有無 OSCE 導入の目的とカリキュラ 82

理学療法学教育における客観的臨床能力試験 OSCE 導入の課題と実践 ムにおける位置付け 具体的試験内容 試験の客観 性と評価者 SP の再現性 SP のリクルートメント方法 2 アンケート結果 アンケート依頼をした 83 施設中 44 施設より回 試験結果の学生の進級等への影響 臨床技能向上 答を受け 回答率は 53%であった その内訳は国 への効果等であった 回答は 2 つから 6 つの選択肢 立大学 6 校 公立大学 6 校 私立大学 32 校であった からの選択回答とし 選択肢に当てはまらない場合 そ OSCE の導入状況に関する質問に対して 28 施 の他 には自由記載とした 補遺参照 図 設 64% において OSCE 或いはそれに準ずる試 4 年制大学における理学療法 OSCE の実施状況に関するアンケート調査結果 OSCE を実施していると回答が得られた 28 施設における実施状況を示す 各円グラフ内の分布は施設数 28 施設数に対する割合 により表わされている 83

前島洋 川井伸夫 高田治実 験の導入が確認された 非実施の施設の多くが新 における労力を考慮すると費用対効果について疑問 設間もないため 学生が OSCE 対象学年に至って を呈す自由記載の回答コメントも見受けられた いないという理由であった 在学 4 年間での OSCE 以上の結果から 以下のような実施の概要が明ら の受験回数に関する質問に対しては 回が 50%で かとなった OSCE は半数以上の大学において あり 2 回が 25%と続き 多くの施設において 回 導入されている 2 学生の臨床技能学習の動機付 のみ行われていることが明らかとなった 図 -A けを目的として導入されている施設が多い 3 出 その実施時期については 3 年次の学外評価実習前 題内容は何らかの形で事前に学生に周知されてい と回答した施設が 6%を占めていた 図 -B 一方 る 4 外部 SP を採用している施設は乏しい 5 OSCE 導入の主目的に対する回答として 38%が学 OSCE の臨床能力向上に対する効果は概ね肯定的で 生の臨床技能学習への動機付けと回答し 次に評価 ある まとめると本邦における理学療法 OSCE 導 実習前における技能の見究め 35% と続いていた 入の現状は 高い客観性と再現性を伴う臨床能力の 図 -C 学生評価とともに学習への動機付けを目 評価という OSCE の本来の趣旨よりも 学生への 的に導入されている傾向が伺える結果であった 出 動機付けや学習の促進の機会として また 臨床場 題内容の学生への事前の周知に関しても 52%の施 面への適応を目的とする練習環境として機能してい 設がその概要を事前に周知し 厳選した試験として る側面を抽出することができる 一切周知していない施設は 4%に留まっていた 図 -D SP の導入状況に関する質問では 上級生等 4. 東京理学療法学科における OSCE 導入の実践 の学部学生 37% 教員 29% 学外理学療法士 本学科では 3 年次の 月から始まる学外評価実習 % と続き 何らかの一般外部者が SP として に先立ち 演習科目である実習セミナーが 3 年次後 採用されている施設は合計で 4%に留まっていた 期に配置されている 上記の実地調査 アンケート 図 -E 学生評価への運用に関する質問に対して 調査の知見をもとに 本学科における OSCE 導入 43%の施設が学生への動機付け 指導目的からの導 の場として 当該科目内における導入を試みた そ 入のため進級不可 実習参加不可等への判断材料と の導入目的は 学外評価実習に向けた臨床能力の確 して用いられることはないと回答し 厳格な臨床 保とその学習への動機付けが中心であり これは国 技能の見究めとしての運用 32% を上回っていた 内の理学療法士養成大学の導入状況から逸しないソ 図 -F 実際に OSCE の成績不良により進級不可 実習参加不可の事例が生じた施設は 9%に留まっ フトランディング的導入であった 当該科目は 8 回の演習と 2 日間に渡る OSCE より ていた 図 -G 尚 その全てが私立大学であった 構成され 毎回の演習においては表 に記載した課 最後に OSCE 導入による学生の臨床能力向上への 題の一つについての演習が行われた 各回の演習で 寄与に関する質問に対しては 43%が寄与している は実際の OSCE で問われる一連の問題の課題内容 36%が少しは寄与していると回答し 肯定的な回答 を学生に詳細に周知し 学生同士が受験者と SP の が大半を占めていた 図 -H 一方で その導入 ペアとなり課題に沿った技能演習を行う機会を設け 表 84 実習セミナーにおける OSCE 課題

理学療法学教育における客観的臨床能力試験 OSCE 導入の課題と実践 表2 OSCE 演習における問題提示の一例 表3 OSCE 演習における評価内容の提示 一部抜粋 85

前島洋川井伸夫高田治実 た ( 表 2) 各課題における評価指標や注意点についても学生に提示し ( 表 3) 教員による実演指導等も交えた演習内容とした 8 回の演習の後 8 課題のうち 2 課題の一部を実際の OSCE の問題として採用し 演習の達成度の評価を行った 各ステーションには 名の理学療法士教員が評価者として配置され 学生 2 名が受験生と SP のペアとして 2 つのステーションで 2 問ずつ試験を受けるものとした いわば演習の再現の確認に相当する試験であった 各ステーションにおいては 2 分間の問題提示 0 分間の課題遂行 3 分間の評価者からのフィードバックが行われた 48 名の受験生に対して数名の課題遂行が著しく困難な学生が認められ これらの成績不良学生については 理学療法士教員による臨床技能 コミュニケーション法に関する個別指導が後日実施された 5. 考察本研究におけるアンケート調査の結果 本邦 4 年制大学における理学療法士養成課程においては 臨床能力を客観的に評価するための厳格な見究めの機会として OSCE を採用している施設は少なく 多くが学生の臨床能力向上を目的とする学習への動機付けとして用いられている側面が明らかとなった このような臨床技能学習の促進と学生へのフィードバックを重視した育成型テスト すなわち teaching-osce としての有効性については 北米においてもかねてより重視されており 0) 本邦においてもその導入の意義として共有されている 4, ) 今日 理学療法士養成校の急激な増加により養成校入学機会の裾野の広がりと学生数の急増に伴い 学生にとってストレスの高い環境での学外臨床実習等において 2, 3) 対人能力 コミュニケーション能力に起因した問題が顕在化する例が増加の傾向にある 理学療法 OSCE における課題をシミュレーションして対象者とのコミュニケーション能力を含む臨床能力全般に渡る向上を図ることは このような問題の解決の手段として極めて有効であろう 本学科における実習セミナーにおけるソフトランディング的導入も先ずはこのような育成型試験を意図した試みであり 学生の学習促進において一定の成果を得るに至った 一方 このような演習が臨床場面のパターン化したシミュレーションの体得に留まり 異なる臨床場面での応用に波及すること 即ち学習の転移を伴わない課題遂行に終止してしまうことが懸念される 本学科で導入した OSCE に準ずる演習も 今後は各課題遂行に伴なう転移学習効果を配慮して課題の統合性を持たせ る取り組みが改善の第一歩となる 本邦における理学療法士国家試験は筆記試験のみで技能試験が課せられていないという背景もあり モデルとなる臨床能力試験を欠き 臨床能力を客観的に評価する組織立った取り組みも十分とは言えない ) 今回のアンケート調査からも理学療法 OSCE の解釈には養成施設により隔たりが大きく また OSCE における試験の客観性 再現性の基となる評価表の形式 SP の採用も施設により様々な状況にある 7-9) 今後は多施設間の意見交換 情報共有を通して本邦における理学療法 OSCE の標準化への組織的な取り組みが重要となろう 本研究における調査結果は 本邦における理学療法教育における OSCE の現状と課題に関するはじめての全国的な情報集約であり 将来的な理学療法 OSCE の標準化という課題に対して大きく貢献しうるものと期待される 6. 謝辞本研究は帝京科学大学教育推進研究費 ( 平成 22 年度 23 年度 ) の支援のもとで行われた 本研究の遂行にあたり 実地調査に快くご協力頂いた広島大学医学部保健学科理学療法学専攻長新小田幸一教授をはじめとする同専攻の先生方 新潟医療福祉大学理学療法学科長大西秀明教授をはじめ同学科の先生方に深く感謝致します 引用文献. RM. Harden, M. Stevenson, WW. Donie, GM. Wilson: Assessment of clinical competence using objective structured examination. Br Med J 22: 447-45, 975. 2. RM. Harden, FA. Gleeson: Assessment of clinical competence using an objective structured clinical examinations. Med Educ 3 ():4-54, 979. 3. 大滝純司 : OSCE の理論と実際, 篠原出版新社, 東京, 2007 4. 才藤栄一 : 客観的臨床試験 (OSCE), PT OT のための OSCE, 金原出版, 20, 2-8 5. M. Nayer: An overview of the objective structured clinical examination. Physiother Can 45(3): 7-78, 993 6. J. Wessel, R. Williams, E. Finch, M. Gemus: Relaiability and validity of an objective structured clinical examination for physical 86

理学療法学教育における客観的臨床能力試験 (OSCE) 導入の課題と実践 therapy students. J Allied Health 32(4): 266-269, 2003 7. 山路雄彦, 渡邉純, 浅川康彦, 松田祐一, 臼田滋, 遠藤文雄, 内山靖, 坂本雅昭 :, 山口晴保 : 理学療法における客観的臨床能力試験 (OSCE). 理学療法学 3(6): 348-358, 2004. 8. 坂井康友, 篠崎真枝, 坂本由美, 永原久栄, 滝澤恵美 : 理学療法におけるクラークシップ型臨床実習に対応した Basic OSCE の開発. 理学療法いばらき 0: 22-26, 2006. 9. 佐藤成登志, 押木利英子, 粟生田博子, 大西秀明 : 本学における模擬患者面接実習の紹介と今後の展望. 理学療法新潟 4(): 28-3, 20 0. C. Brazeau, L. Boyd, J. Crosson: Changing an existing OSCE to a teaching tool: the making of a teaching OSCE. Acad Med 77(9): 932, 2002.. 丸山仁司, 金田嘉清, 別府正彦, 斉藤秀之, 内山靖 : 座談会理学療法技能の評価と学習支援 - 現状と展望. 理学療法ジャーナル 46(4): 325-335, 202. 2. 中野良哉, 山崎裕司, 酒井寿美, 平賀康嗣, 栗山裕司, 重島晃史 : 理学療法学科学生の実習終了後のストレス反応実習における対人ストレスイベントとレジリエンスに注目して. 理学療法科学 26(3): 429-433 20 3. 堀本ゆかり, 丸山仁司, 黒澤和生 : 臨床教育に影響を与える性格的特性分析臨床実習前の課題解決に向けて. 理学療法科学 26(4): 54-547, 20 87

前島洋川井伸夫高田治実 補遺 OSCE 実施状況に関するアンケート内容 選択回答の質問については 最も適する選択肢の番号を で囲んでください その他 を選択の場合には ( ) に具体的な内容をご記載ください 記述回答の質問については 具体的内容をご記載ください Q 貴学科 ( 専攻 ) の所属機関分類についてご回答ください 国立大学 2 公立大学 3 私立大学 Q2 貴学科 ( 専攻 ) では OSCE( 或いは OSCE に準ずる臨床技能試験 ) を実施していますか OSCE を実施していない 2 OSCE を実施している Q3 Q2 で OSCE を実施していない とご回答の場合 その理由についてご回答ください 開設直後のため 十分な準備や議論が行われていない 2 学生数が多く 実施は困難である 3 施設環境 人員配置の問題から実施は困難である 4 OSCE 実施の費用対効果が望めない 5その他 ( ) Q2 で OSCE を実施していない とご回答の場合 以上で終了となります ありがとうございました Q2 で 2 OSCE を実施している とご回答の場合 引き続き以下の質問にご回答ください Q4 4 年間の養成過程を通して学生が受験する OSCE の回数についてご回答ください 回 2 2 回 3 3 回 44 回 55 回以上 ( 回 ) Q5 OSCE の実施時期についてご回答ください ( 複数回答可 ) 尚 夏季休暇中は前期として 冬季 春季休暇中は後期としてご回答ください 2 年次前期 22 年次後期 33 年次前期 43 年次後期 54 年次前期 64 年次後期 6その他 ( ) Q6 OSCE の実施時期について 更に具体的にお答えください ( 複数回答可 ) 評価実習前 2 評価実習後 3 総合臨床実習前 4 総合臨床実習後 5その他 ( ) Q7 OSCE 導入の目的について具体的にご記入ください ( 複数回答可 ) 評価実習前における見極め 2 評価実習前後での比較 3 総合臨床実習前の見極め 4 総合臨床実習前後での比較 5 学生の臨床技能学習への動機付け 6その他 ( ) Q8 出題問題内容を事前に学生に周知しているか ご回答ください 一切周知していない 2 概要のみ周知している 3 出題問題内容について詳細に周知している 4 複数の作成問題を周知し その中から選択して出題している ( 作成問題数 : ) 5その他 ( ) Q9 OSCE の運用に関して OSCE の成績不良により進級不可や実習参加不可等になることはあり得ますか 厳格に見極めとして運用しているため OSCE の成績不良により進級不可や実習参加不可となることはあり得る 2 学生への動機づけ 指導的目的から導入しているため ふるい分けとしては用いられてはいない 3 再試験により 進級不可や実習参加不可となることはない 4その他 ( ) Q0 実際に OSCE の結果により 進級不可や実習参加不可等の事例が生じたことはこれまでありましたか これまでにあった 2これまでになかった Q 模擬患者 (SP) の採用方法についてご回答ください SP 協会等に依頼して外部者を SP として採用している 2 独自に外部者から成る SP を育成している 3 教員が SP を担当している 4 大学院生が SP を担当している 5 上級生等の学部学生が SP を担当している 6 学外 PT が SP を担当している 6その他 ( ) Q2 OSCE の実施は学生の臨床能力の向上に寄与しているという実感をもつことはできますか 寄与している 2 少しは寄与している 3あまり寄与していない 4 寄与していない 5わからない Q3 最後に OSCE 実施の効果 実施上の問題点 運用上の特色等についてお気付きの点がありましたら 具体的にご記入ください 88