A 栄 養 の 定 義 1 栄 養 の 概 念 A 栄 養 の 定 義 生 命 の 維 持 ヒトに 限 らず,あらゆる 生 物 は" 外 界 からの 物 質 の 摂 取 代 謝 不 要 物 の 排 泄 " という 過 程 によりエネルギーを 獲 得 し, 生 命 を 維 持 している この 現 象 を 栄 養 と 呼 ぶ ヒトは, 外 界 からの 物 質 を 食 物 から 補 給 している 食 物 に 含 まれているさまざま な 成 分 を 栄 養 素 という また, 代 謝 は 生 物 の 特 徴 の 一 つであり, 生 命 の 維 持 に 重 要 である 栄 養 素 の 種 類 栄 養 素 は, 糖 質, 脂 質,たんぱく 質,ビタミン,ミネラル( 無 機 質 ) * に 分 けられる( 図 1 1 ) なお, 水 は 栄 養 素 に 含 めないことが 多 いが, 体 内 での 物 質 輸 送, 化 学 変 化 において, 極 めて 重 要 である 栄 養 成 分 各 食 品 に 含 まれている 栄 養 素 の 種 類 と 量 を, 栄 養 成 分 という 栄 養 成 分 を 知 ることは,その 食 品 の 栄 養 学 的 価 値 を 評 価 するために 大 切 である 栄 養 成 分 の 平 均 的 標 準 的 な 値 を 示 したものに, 食 品 成 分 表 がある 現 在 使 用 されているのは, 平 成 22(2010) 年 11 月 に 発 表 された 日 本 食 品 標 準 成 分 表 2010 ( 文 部 科 学 省 策 定 )であり,18 食 品 群,1,878 食 品 の 栄 養 成 分 が 示 されて いる 栄 養 価 栄 養 成 分 が 体 内 で 利 用 される 度 合 いを 示 したものを, 栄 養 価 とい う 栄 養 価 には,エネルギー 値 やたんぱく 質 の 質 的 評 価 などがある 一 般 に, 栄 養 価 は 各 栄 養 素 の 相 互 作 用 による 利 用 効 率 によって 異 なる 平 19 76 代 謝 生 体 は 常 に 化 学 反 応 ( 酵 素 反 応 )を 行 い, 生 体 内 成 分 を 合 成 分 解 している この 反 応 を 物 質 代 謝 という 糖 質 アルデヒド 基 またはケ トン 基 をもつポリアル コールとそれらの 誘 導 体 および 縮 合 体 の 総 称 で,C n (H ₂ O) m が 一 般 式 である グルコース, フルクトースの 単 糖 類,スクロース,マル トースの 二 糖 類,デン プン,グリコーゲンの 多 糖 類 などがある 脂 質 水 に 不 溶 性 で 有 機 溶 媒 に 可 溶 性 の 物 質 脂 肪 酸 とグリセロールがエ ステル 結 合 した 単 純 脂 質, 単 純 脂 質 にリン 酸 糖 質 たんぱく 質 が 結 合 した 複 合 脂 質, 脂 肪 酸, 脂 肪 族 アルコー ル,ステロイド, 色 素 類, 脂 溶 性 ビタミンな どの 誘 導 脂 質 がある 図 1 1 栄 養 素 の 機 能 による 分 類 たんぱく 質 約 ₂0 種 類 のアミノ 酸 を 構 成 成 分 とした, 組 織 や 細 胞 の 主 な 構 成 成 分 であり, 酵 素, 生 体 防 御 代 謝 制 御, 物 質 の 運 搬 や 貯 蔵 などの 生 命 現 象 に 携 わっている ビタミン 微 量 の 有 機 物 質 で 微 量 栄 養 素 である 脂 溶 性 ビタミン(A,D,E, K), 水 溶 性 ビタミン (B 1,B ₂,B 6,ナイア シン,B 1₂,パントテ ン 酸,ビオチン, 葉 酸,C)に 大 別 される * 解 説 は 次 ページ 1
1 栄 養 の 概 念 * 用 語 出 現 は 前 ページ ミネラル( 無 機 質 ) * 生 体 構 成 元 素 のうち, 炭 素, 酸 素, 水 素, 窒 素 を 除 く 元 素 をいう 体 内 には 体 重 の 約 4 % が 含 まれる 微 量 で 必 要 量 を 満 たす 栄 養 素 で あるため,ビタミンと 同 様 に 微 量 栄 養 素 と 呼 ばれる 健 康 保 持 健 康 保 持 には, 過 不 足 のない 適 切 な 栄 養 素 摂 取 が 必 要 である 各 個 人 のライフス タイル, 年 齢 や 性 別 の 違 いにより 栄 養 素 の 必 要 量 は 変 化 する 健 康 の 保 持 増 進 のた めに,エネルギーおよび 各 栄 養 素 の 摂 取 量 の 基 準 を 示 したものとして, 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 (2010 年 版 ) ( 厚 生 労 働 省 策 定 )がある エネルギーについては 推 定 エネルギー 必 要 量, 栄 養 素 については 推 定 平 均 必 要 量, 推 奨 量, 目 安 量, 目 標 量, 耐 容 上 限 量 が, 年 齢 性 別 ごとに 示 されている 食 物 摂 取 食 物 摂 取 は 生 理 的 意 義 のみならず, 個 人 の 心 理 的 満 足 感 をもたらし,さらに 家 族 や 他 者 とのコミュニケーションとしても 重 要 である 食 事 として 食 物 をとることに は, 次 のような 意 義 がある 個 人 の 健 康 の 保 持 増 進 子 孫 の 繁 栄 子 どもの 成 長 精 神 の 安 定 社 会 活 動 B 栄 養 によって 生 じる 身 体 の 状 態 を, 栄 養 状 態 という 人 体 の 栄 養 状 態 には, 大 き く 分 けて 欠 乏 正 常 過 剰 がある 各 個 人 はそれらの 状 態 を 行 き 来 しながら 生 きて いる 図 1 2, 表 1 1 に 示 すように, 栄 養 素 の 欠 乏 状 態 や 過 剰 摂 取 により, 身 体 の 機 QOL(quality of life) 生 活 の 質 を 指 す 個 人 的 にも 社 会 的 にも 有 意 義 で 充 実 した 生 活 が 求 められ, 健 康 寿 命 の 延 伸 を 実 現 するため, 個 々 人 の QOL を 改 善 向 上 することを 目 標 としたものである 能 障 害 や 疾 病 の 発 生 がみられる 栄 養 状 態 は, 人 の 成 長 発 育, 健 康, 疾 病,QOL (quality of life; 生 活 の 質 )などとの 関 連 が 非 常 に 深 い 図 1 2 人 体 の 栄 養 状 態 2
B 表 1 1 1 主 な 栄 養 素 の 慢 性 的 過 不 足 と 健 康 影 響 の 例 1 平 25 76 栄 養 素 慢 性 的 過 不 足 健 康 影 響 の 例 糖 質 過 剰 摂 取 不 足 エネルギーの 過 不 足 飽 和 脂 肪 酸 過 剰 摂 取 脂 質 異 常 症 たんぱく 質 不 足 体 重 低 下, 免 疫 力 の 低 下, 疾 病 創 傷 の 回 復 遅 延, 浮 腫, 小 児 の 成 長 遅 延 停 止 ビタミン B 1 不 足 脚 気,ウェルニッケ 脳 症 ナイアシン 不 足 ペラグラ(ニコチン 酸 欠 乏 症 候 群 ) カルシウム 過 剰 摂 取 泌 尿 器 系 結 石,ミルクアルカリ 症 候 群 不 足 骨 粗 鬆 症 ナトリウム 過 剰 摂 取 高 血 圧 ヨウ 素 過 剰 摂 取 甲 状 腺 腫 不 足 甲 状 腺 腫,クレチン 病 注 ) ビタミン ミネラルの 生 理 作 用, 欠 乏 症 過 剰 症 は,p. 79,95を 参 照 栄 養 学 の 歴 史 1 呼 吸 とエネルギー 代 謝 呼 吸 とエネルギー 代 謝 の 研 究 1777 年 :ラボアジェ(Lavoisier)が, 動 物 の 呼 吸 に 関 する 基 礎 的 な 実 験 を 発 表 1785 年 :ラボアジェが, 呼 吸 が 燃 焼 と 同 じ 現 象 であることを 解 明 2 2 平 18 77 1862 年 :ペッテンコーフェル(Pettenkofer)が, 人 間 用 の 大 型 熱 量 計 を 考 案 1891 年 :ルブナー(Rubner)が, 基 礎 代 謝 が 体 重 よりも 体 表 面 積 に 比 例 する ことを 示 した 2,3 その 後,エネルギー 等 値 の 法 則 や, 糖 質, 脂 質, 3 平 21 76 たんぱく 質 の 各 々1 g 当 た り の 生 理 的 熱 量 を4.1kcal,9.3kcal, 4.1kcal とした,ルブナー 係 数 を 示 した 2,3 また, 食 事 摂 取 に 伴 う 熱 発 生,すなわち 食 事 誘 発 性 熱 産 生 DIT; 特 異 動 的 作 用 (SDA) ともいう を 見 出 した(p. 117,10 B f 参 照 ) 2,3 1895 年 :アトウォーター(Atwater)が,アトウォーターのエネルギー 換 算 係 数 を 発 表 2 これは, 主 要 食 品 の 一 般 分 析 と 人 間 を 用 いた 消 化 率 試 験 により, 糖 質, 脂 質,たんぱく 質 の 各 々 1 g を 実 用 的 な 生 理 的 熱 量 として, 4 kcal, 9 kcal, 4 kcal と 示 したものである 2 この 値 をアトウォーター 係 数 といい, 今 日 まで 広 く 用 いられている (p. 111,10 A b 参 照 ) 2 1899 年 :ツンツ(Zuntz)が, 呼 吸 熱 量 計 を 考 案 1911 年 :ダグラス(Douglas)が,ダグラスバッグによる 呼 気 試 験 を 考 案 1916 年 :デュボア(DuBois)が, 身 長 と 体 重 から 体 表 面 積,さらに 基 礎 代 謝 量 を 求 める 式 を 提 示 体 表 面 積 (m 2 )= 体 重 (kg) 0.425 身 長 (cm) 0.725 0.007184 3
1 栄 養 の 概 念 1925 年 : 高 比 良 英 雄 が, 日 本 人 の 体 重 と 身 長 から 体 表 面 積 を 求 める 式 を 提 示 1952 年 :ベーンケ(Behnke)が, 体 脂 肪 を 除 いた 体 成 分 を lean body mass (LBM) と 呼 ぶことを 提 案 1953 年 :ベスト(Best)らが, 安 静 時 の 代 謝 は,LBM と 強 い 相 関 があるこ とを 提 示 1954~1961 年 : 藤 本 薫 喜 らが, 日 本 人 の 体 重 と 身 長 から 体 表 面 積 を 求 める 式 を 提 示 平 21 76 体 表 面 積 (cm 2 )= 体 重 (kg) 0.444 身 長 (cm) 0.663 88.83( 6 歳 以 上 ) 2 三 大 栄 養 素 の 消 化 と 利 用 1827 年,プラウト(Prout)は 牛 乳 の 栄 養 成 分 を 分 離 し, 糖 (saccharinous), 油 状 (oily), 卵 白 様 物 質 (albuminous matter)の 三 つに 分 類 した これは, 現 在 の 三 大 栄 養 素 である 糖 質, 脂 質,たんぱく 質 に 相 当 する 糖 質 の 研 究 1831 年 :ロークス(Leuchs)が,デンプンが 唾 液 によって 糖 に 変 わることを 発 見 1833 年 :ペイヤン(Payen)とペルソー(Persoz)が, 麦 芽 の 水 抽 出 液 から, デンプンをブドウ 糖 (グルコース)に 変 える 作 用 のある 物 質 を 見 出 し,ジアスターゼと 命 名 した 1836 年 :グェリン ベリー(Guerin-Varry)が,デンプンを 化 学 分 析 し, 水 素 と 酸 素 が 含 まれていること,その 割 合 が 水 と 同 じであることを 示 し た 1844 年 :シュミット(Schmidt)が,デンプン,ショ 糖 (スクロース), 乳 糖 (ラクトース)などを, 炭 水 化 物 と 呼 ぶことを 提 案 1873 年 :ベルナール(Bernard)が, 小 腸 液 中 でショ 糖 (スクロース)をブ ドウ 糖 (グルコース)と 果 糖 (フルクトース)に 分 解 する 酵 素 であ るインベルターゼを 発 見 1930 年 :マイヤーホーフ(Meyerhof)が, 糖 の 中 間 代 謝 過 程 である 解 糖 系 を 発 見 1938 年 :クレブス(Krebs)が,クエン 酸 回 路 (TCA 回 路,クレブス 回 路 ) を,ワールブルグ(Warburg)らが,ペントースリン 酸 回 路 ( 五 炭 糖 リン 酸 回 路 )を 発 見 脂 質 の 研 究 1814 年 :シュブルィユ(Chevreul)が,トリアシルグリセロール(トリグリ セライド, 中 性 脂 肪 )が 脂 肪 酸 とグリセロールからなることを 解 明 1905 年 :クヌープ(Knoop)が,β 酸 化 説 を 提 示 1929~1932 年 :バー(Burr) 夫 妻 が, 無 脂 肪 食 の 動 物 実 験 により,リノー ル 酸,リノレン 酸 の 有 効 性 を 示 し,これらを 必 須 脂 肪 酸 とした 4
B 1952 年 :リネン(Lynen)が, 脂 肪 酸 のβ 酸 化 によるアセチル CoA の 生 成 を 提 示 1961 年 :リネンらが, 生 体 内 における 脂 肪 酸 の 生 合 成 経 路 を 解 明 たんぱく 質 の 研 究 19 世 紀 後 半,リービヒ(Liebig)が, 体 内 窒 素 が 尿 素 尿 酸 として 尿 中 に 排 泄 され, 尿 中 窒 素 量 は 分 解 した 身 体 組 織 の 分 量 と 正 比 例 すること, 食 品 によっ てエネルギー 量 が 異 なることを 解 明 した フォイト(Voit)は, 窒 素 平 衡 によ るたんぱく 質 の 代 謝 方 法 を 確 立 し, 筋 肉 労 働 はたんぱく 質 代 謝 を 亢 進 させない ことを 立 証 した たんぱく 質 の 研 究 の 詳 細 は 次 の 項 目 (3)で 示 す 3 たんぱく 質 の 栄 養 価, 出 納 実 験 1883 年 :ケールダール(Kjeldahl)が, 湿 式 窒 素 定 量 法 を 考 案 これにより, たんぱく 質 の 栄 養 評 価 がなされるようになった 1906 年 :ホプキンス(Hopkins)らが, 必 須 アミノ 酸 の 生 理 的 効 果 を 確 認 1909 年 :トーマス(Thomas)が, 生 物 価 の 測 定 法 を 提 示 1900 年 代 前 半 :オズボーン(Osborne)とメンデル(Mendel)らが, 各 種 ア ミノ 酸 の 成 長 試 験 により, 制 限 アミノ 酸 の 概 念 を 誕 生 させた 1936 年 :ローズ(Rose)が,トレオニンを 発 見 これにより, 必 須 アミノ 酸 と 非 必 須 アミノ 酸 に 分 類 され,ヒスチジンを 除 く 8 種 類 の 必 須 アミ ノ 酸 が 明 らかになった 1949 年 :リッテンバーグ(Rittenberg)らが, 15 N の 利 用 によって, 体 たんぱ く 質 の 合 成, 分 解, 代 謝 回 転 率 を 示 した 1955 年 :ベンダー(Bender)が, 正 味 たんぱく 質 利 用 効 率 (p. 52 参 照 )の 測 定 法 を 提 示 4 ビタミンの 発 見 19 世 紀 末 から20 世 紀 にかけて,ホプキンスが 糖 質, 脂 質,たんぱく 質 以 外 に 栄 養 上 必 要 な 成 分 があることを 動 物 実 験 から 予 測 し,その 存 在 を 証 明 した 1880 年 代 : 高 木 兼 寛 が, 日 本 海 軍 における 脚 気 研 究 を 行 った 1897 年 :エイクマン(Eijkman)が, 東 南 アジアでの 脚 気 の 研 究 中,ニワト リの 白 米 病 を 発 見 制 限 アミノ 酸 食 品 中 の 各 必 須 アミノ 酸 量 が 生 体 の 必 要 量 を 満 たす 割 合 を 示 すもの のうち, 不 足 している アミノ 酸 をいう その 中 で 不 足 の 割 合 が 最 大 のものを, 第 一 制 限 ア ミノ 酸 という 平 18 77 必 須 アミノ 酸 非 必 須 アミノ 酸 アミノ 酸 のうち, 体 内 で 合 成 できないか, 必 要 量 を 満 たすことがで きないアミノ 酸 を 必 須 アミノ 酸 といい, 9 種 類 存 在 する 一 方,ア ミノ 酸 のうち, 体 内 で 合 成 でき, 必 要 量 を 満 たすことができるアミ ノ 酸 を, 非 必 須 アミノ 酸 という Column 栄 養 学 の 基 礎 を 支 えた 科 学 者 栄 養 学 の 源 を 探 ると, 古 代 ギリシャの 哲 学 者 であり, 医 学 の 父 ともいわれるヒポクラテスまでさかのぼる 近 代 の 栄 養 学 は, 以 下 の 人 物 の 研 究 などが 出 発 点 となり, 進 歩 していった ヒポクラテス(ca460~359B.C.):ギリシャの 哲 学 者 であり 医 学 の 父 といわれる 身 体 の 血 液, 粘 液, 黄 胆 汁, 黒 胆 汁 の 4 液 が 食 物 に 由 来 し,この 4 液 の 調 和 によってこそ 病 気 にな らず, 健 康 が 保 たれると 考 えた ハーベイ(1578~1649 年 ): 血 液 循 環 説 の 提 示 プリーストリー(1733~1804 年 ): 酸 素 の 発 見 (1774 年 ) ただし, 酸 素 と 命 名 したのはラボアジェ ラボアジェ(1743~1794 年 ): 近 代 栄 養 学 の 開 祖 といわれる 質 量 不 滅 の 原 理 (1774 年 ), 燃 焼 理 論 (1777~ 1778 年 )を 発 表 した 5
1 栄 養 の 概 念 平 18 77 1910 年 : 鈴 木 梅 太 郎 が, 米 ぬかからオリザニン(ビタミン B 1 )を 単 離 1911~1912 年 :フンク(Funk)が, 微 量 物 質 を 分 離 し,ビタミンと 命 名 1920 年 :ドラモンド(Drummond)によりビタミン A B C の 命 名 がなさ れ,1940 年 代 までにビタミン D E K,さらに 複 数 のビタミン B の 存 在 が 明 らかとなった 5 ミネラル( 無 機 質 )の 栄 養 19 世 紀 には,すでに 鉄 (Fe),ヨウ 素 (I),カルシウム(Ca)が 体 内 の 成 分 と 予 測 され,19 世 紀 後 半, 食 品 の 無 機 成 分 が 栄 養 上 重 要 であるという 認 識 がなされた 20 世 紀 に 入 ると 鉄, 食 塩,マグネシウム(Mg),カリウム(K)などの 必 須 性 が 確 認 されていった 欠 乏 症 栄 養 素 が 欠 乏 すると, 身 体 の 抵 抗 性 が 低 下 し, 感 染 症 にかかりやすくなる クワシオルコル アジア,アフリカ, 南 米 などの 開 発 途 上 国 の 小 児 に 多 くみられる, たんぱく 質 の 摂 取 不 足 による 栄 養 失 調 症 発 達 障 害 と 浮 腫 を 特 徴 と した 症 状 をもつ マラスムス 主 に 生 後 1 年 の 乳 幼 児 に 多 くみられるたんぱ く 質 エネルギー 摂 取 不 足 の 栄 養 失 調 症 (PEM;protein-energy malnutrition) やせ, 下 痢, 脱 水 症, 腹 部 膨 満, 発 育 遅 延 を 引 き 起 こす 開 発 途 上 国 :たんぱく 質 の 極 度 の 不 足 による 疾 患 (クワシオルコル)や, 全 般 的 な 栄 養 素 の 不 足 による 疾 患 (マラスムス)が 多 くみられる 現 代 の 日 本 : 水 溶 性 ビタミンやミネラルの 欠 乏 状 態 にある 者 がいる 偏 食 が 主 な 原 因 となっている 過 剰 症 日 本 を 含 めた 先 進 国 では, 栄 養 素 の 過 剰 摂 取 をはじめとする 食 生 活 の 乱 れ, 運 動 不 足 などに 起 因 する 肥 満, 動 脈 硬 化 症, 脂 質 異 常 症, 糖 尿 病,がんなどの 生 活 習 慣 病 の 増 加 が 重 要 な 課 題 になっている 生 活 習 慣 病 生 活 習 慣 病 は, 食 生 活, 運 動 習 慣, 休 養, 喫 煙, 飲 酒 等 の 生 活 習 慣 が,その 発 症 進 行 に 関 与 する 疾 患 群 と 定 義 される 生 活 習 慣 病 には, 食 生 活 や 運 動 のような 後 天 的 な 要 因 だけではなく, 先 天 的 な 遺 伝 要 因 も 関 与 することがわかっている(p. 8, 1 C b 参 照 ) 健 康 増 進 健 康 と 疾 病 健 康 の 定 義 としては,WHO 憲 章 前 文 の 肉 体 的, 精 神 的 およ び 社 会 的 に 完 全 に 良 好 な 状 態 であり, 単 に 疾 病 でないとか 虚 弱 でないというだ けではない が 広 く 用 いられている ヒトの 健 康 状 態 は 次 のように 分 けられる 健 康 : 完 全 に 健 康 な 状 態 ( 健 康 人 ) 半 健 康 : 健 康 であるが, 病 気 に 移 行 する 可 能 性 を 潜 めている 状 態 ( 半 健 康 人 ) 半 病 気 : 潜 在 的 な 病 気 をもつ 状 態 ( 半 病 人 ) 病 気 : 病 気 を 有 する 状 態 ( 病 人 ) 6
B 図 1 3 病 気 と 健 康 の 考 え 方 健 康 の 状 態 と 疾 病 の 状 態 は 断 続 的 なものではなく, 図 1 3 に 示 すように 連 続 的 に 移 行 するものである 従 来 の 疾 病 対 策 としては, 病 気 の 治 療,つまり 疾 病 度 を 低 下 させることが 最 大 の 目 標 とされてきたが, 現 在 では 半 病 人, 半 健 康 人 の 健 康 度 を 上 げること, 健 康 人 の 健 康 度 を 低 下 させないことが 大 切 となってきており, 一 次 予 防, 健 康 増 進 といったことが 重 要 視 されている 健 康 増 進 と 食 生 活 健 康 状 態 を 良 好 にするためには, 健 康 阻 害 因 子 を 取 り 除 くことが 重 要 である 健 康 阻 害 因 子 は 主 に 栄 養 素 摂 取 の 過 不 足, 身 体 活 動 の 減 少,ストレスの 増 大 などがある これらを 取 り 除 き, 健 康 を 増 進 するには, 食 事 運 動 休 養 の 三 つがバランスよく 保 たれることが 必 要 である 食 事 : 栄 養 素 のバランスのとれた 過 不 足 のない 食 事 の 実 践 運 動 : 積 極 的 な 身 体 活 動 休 養 : 身 体 的 精 神 的 ストレスを 取 り 除 く 一 次 予 防 疾 病 発 症 前 の 非 特 異 的 な 健 康 増 進 活 動 ( 生 活 習 慣 の 改 善 )や, 特 異 的 予 防 ( 予 防 接 種 )な どのこと C 遺 伝 形 質 と 栄 養 の 相 互 作 用 遺 伝 とは, 生 物 の 形 質 が 遺 伝 子 によって 親 から 子 へ 伝 達 されることである この 現 象 は, 遺 伝 子 の 本 体 である DNA(デオキシリボ 核 酸 )によるものである また, DNA は mrna(リボ 核 酸 )に 情 報 を 転 写 し,たんぱく 質 の 合 成 を 支 配 している 栄 養 素 に 対 する 応 答 の 個 人 差 ヒトが 食 物 を 摂 取 した 際 の 栄 養 素 に 対 する 反 応 の 個 人 差 は, 各 人 のもつ 体 質 と 理 解 されてきた しかし, 栄 養 要 求 量 や 栄 養 素 への 応 答 性 を 制 御 する 遺 伝 子 の 存 在 が 明 らかになり, 現 在 では 体 質 の 多 くは 個 人 の 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 の 違 い に 平 24 76 よるものではないかと 考 えられている 7