2015 年 9 月 10 日 放 送 第 78 回 日 本 皮 膚 科 学 会 東 京 支 部 学 術 大 会 5 シンポジウム7-3 皮 膚 科 医 がおこなうフットケア 滋 賀 医 科 大 学 皮 膚 科 特 任 准 教 授 中 西 健 史 はじめに フットケアという 言 葉 が 巷 でも 聞 かれるようになりましたが 実 際 の 定 義 は 曖 昧 です 例 えばフットケアサロンは 健 常 人 が 更 なる 癒 しや 美 を 求 めて 訪 れます かたや われわれ 医 療 機 関 では 歩 くと 痛 い 胼 胝 や 鶏 眼 白 癬 症 でかゆい 足 の 血 流 が 悪 くなって 潰 瘍 ができて いるといった 病 気 の 足 を 治 療 します このような 足 に 生 じる 疾 患 を 対 象 とした 医 療 フッ トケア について 今 回 はお 話 ししたいと 思 います その 中 でも 特 に 我 々 皮 膚 科 医 は 何 を するのか 何 ができるのかについて 考 えてみましょう フットケアを 必 要 とする 疾 患 は 皮 膚 科 単 独 で 治 療 が 完 結 するものと 他 科 他 職 種 と 連 携 しながらチームで 診 療 に 当 たるものに 分 けられます どちらにしても この 領 域 における 皮 膚 科 医 の 医 療 レベルは 個 人 差 が 大 きく 特 にチーム 医 療 ではいったいこの 先 生 は 何 ができ るのかといったことを 他 科 他 職 種 のメンバーだけでなく 皮 膚 科 医 自 身 も 実 はよく 認 識 で きていないのではないかと 思 われます そこで 今 回 は それぞれの 先 生 方 がご 自 分 でできること できないことの 再 確 認 をしていただき 他 科 から 信 頼 されるような 関 係 を 構 築 できるようにする ことを 主 眼 に 展 開 したいと 思 います フットケアにおいて 皮 膚 科 医 の 提 供 できる 技 能 フットケアを 必 要 とする 疾 患 と 皮 膚 科 医 の 技 能 を 次 のように 分 類 してみました
1.すべての 皮 膚 科 医 ができる 治 療 a) 疣 贅 足 および 爪 白 癬 (ほぼどのドクターでも 同 レベル) b) 胼 胝 および 鶏 眼 巻 き 爪 や 陥 入 爪 ( 治 療 レベルはドクターによってまちまち) 2. 当 たったドクターによって 結 果 が 左 右 される a) 潰 瘍 の 診 断 b) 潰 瘍 の 治 療 (これは 切 断 や 植 皮 静 脈 瘤 のレーザー 治 療 までやる 先 生 もいます) コンサルトを 受 けたとき 皮 膚 科 医 のスキルに 大 きな 差 があることを 他 科 の 先 生 に 理 解 していただくことは チーム 医 療 においてスムーズに 連 携 できるかどうかが 重 要 なポイン トになると 思 います ただ 皮 膚 科 に 行 って 悪 くなったと 言 われないようにしたいものです サリチル 酸 絆 創 膏 の 胼 胝 への 貼 付 では 実 際 の 症 例 を 用 いて こんなことをしていると 他 科 に 迷 惑 をかけそうな 症 例 あるい はこれは 皮 膚 科 医 でなければできないセールスポイントなどについて 一 緒 に 考 えていきま しょう 最 初 にサリチル 酸 絆 創 膏 を 胼 胝 に 貼 付 することについてです 胼 胝 は 外 力 が 一 ヶ 所 に 集 中 した 結 果 反 応 性 に 角 質 が 増 殖 したものです サリチル 酸 絆 創 膏 を 使 用 すれば 角 質 が 浸 軟 して 柔 らかくなりますが 貼 付 することで 多 くのトラブルが 起 こります 歩 行 時 に 足 底 の 皮 膚 は 常 に 伸 展 と 収 縮 を 繰 り 返 します したがって 気 がつくと 肝 心 の 胼 胝 からずれてしまい 本 来 と 別 の 部 位 が 浸 軟 してしまうことをよく 経 験 します ま た 角 質 が 浸 軟 することで 皮 膚 のバリア 機 能 は 極 度 に 低 下 します それが 感 染 症 を 引 き 起 こすリスク 特 に 糖 尿 病 患 者 では 気 をつける 必 要 があります これは 趾 間 型 足 白 癬 から 蜂 窩 織 炎 になる 例 を 想 像 すれば 容 易 に 理 解 できます したがって 胼 胝 にサリチル 酸 絆 創 膏 を 貼 付 することは 基 本 的 にしないほうがい い むしろ 糖 尿 病 患 者 にとっては 禁 忌 とし たほうがよいと 考 えます 私 が 研 修 に 行 っ たフットケアの 先 進 国 であるスイスでも 胼 胝 は 削 るものであり サリチル 酸 絆 創 膏 のようなものは 見 たこともないと 教 えら れました もし いまだにサリチル 酸 絆 創 膏 をご 使 用 の 先 生 がいらっしゃいました ら 一 度 対 象 患 者 をご 検 討 いただいたほう がよいかと 存 じます
足 趾 に 生 じる 潰 瘍 の 診 断 それでは 次 に 診 断 について 見 ていきまし ょう 足 趾 に 生 じる 潰 瘍 を 例 に 挙 げてみま すと その 原 因 は 10 以 上 になります 糖 尿 病 足 病 変 による 血 管 障 害 もしくは 神 経 障 害 から 生 じるもの あるいは 末 梢 動 脈 疾 患 に 伴 うもの コレステリン 結 晶 塞 栓 症 強 皮 症 レイノー 症 候 群 バージャー 病 寒 冷 凝 集 素 症 クリオグロブリン 血 症 凍 傷 外 傷 熱 傷 接 触 皮 膚 炎 皮 膚 悪 性 腫 瘍 などき わめて 多 岐 にわたります おそらく 他 科 の 先 生 方 がこれらを 鑑 別 することは 困 難 だ と 思 います もちろん 皮 膚 科 医 でも 苦 手 な 先 生 方 はいらっしゃるでしょう しかし 我 々 皮 膚 科 医 には 病 理 組 織 検 査 という 診 断 ツールがあります コレステリン 結 晶 塞 栓 症 や 有 棘 細 胞 癌 などの 悪 性 腫 瘍 による 潰 瘍 では 特 に 診 断 上 必 要 不 可 欠 といえます その 一 方 で 末 梢 動 脈 疾 患 やバージャー 病 などの 鑑 別 が 苦 手 な 皮 膚 科 医 は 多 いでしょう その 理 由 は 血 流 検 査 の 方 法 が 単 に 皮 膚 科 の 教 本 に 載 っていないことだと 思 われます 一 番 勉 強 になるのは 血 管 内 カテーテルの 治 療 現 場 をライブで 実 際 に 見 ることだと 思 います まさに 百 聞 は 一 見 にしかずです それ 以 外 に 院 内 でフットケアカンファレンスがあれば 参 加 したり フットケ ア 関 連 の 書 籍 や 特 集 号 を 参 考 にしていただけるといいでしょう 診 断 をつけるということは できる 限 りすべて 自 分 でできるに 越 したことはないと 思 い ます 病 理 組 織 所 見 を 自 分 で 読 める 読 影 が 自 分 でできる こういったことは その 先 の 治 療 についても 自 分 で 組 み 立 てる 上 で 重 要 ですから きっちりマスターしたいものです 鬱 滞 性 病 変 および 浮 腫 をともなった 潰 瘍 の 局 所 治 療 つづいて 鬱 滞 性 病 変 および 浮 腫 をともな った 潰 瘍 の 局 所 治 療 についてお 話 ししま す 静 脈 性 疾 患 やリンパ 浮 腫 は 圧 迫 療 法 が 基 本 になります また 高 齢 者 やステロ イ ド の 長 期 内 服 等 で い わ ゆ る dermatoporosis の 状 態 にあり 著 明 な 浮 腫 を 認 める 下 腿 に 生 じた 潰 瘍 にも 治 療 は 圧 迫 がメインです 皮 膚 科 医 には 外 用 剤 で 治 療 することが 基 本 である という 発 想 が 自 分 でも 気 がつ かないうちに 何 となく 染 み 付 いているかも
しれません この 外 用 剤 は 効 果 がないから 別 のものに 変 えよう というのが 根 底 にあって 創 周 囲 の 状 態 をアセスメントすることが 発 想 として 出 てこない これが 多 くの 皮 膚 科 医 の 現 状 ではないでしょうか?ですが 潰 瘍 の 治 療 には 潰 瘍 及 び 周 囲 の 環 境 改 善 をコンセ プトとした 創 傷 被 覆 材 や 圧 迫 が 大 変 重 要 です このバックボーンには 人 間 には 元 来 自 然 治 癒 力 が 備 わっている それを 最 大 限 に 引 き 出 そう という 発 想 があります 還 流 障 害 のある 創 にいくら 外 用 剤 を 塗 っても 永 久 に 治 癒 しません ぱんぱんに 張 ってい る 下 腿 の 創 に 外 用 することは 息 があがっている 競 走 馬 に 鞭 を 打 っているだけと 同 じ 状 態 であることをご 理 解 いただければと 思 います 皮 膚 科 医 がおこなう 足 趾 切 断 それでは 最 後 に 皮 膚 科 医 がおこなう 足 趾 切 断 のお 話 です さて 悪 性 黒 色 腫 は 足 に 生 じる 代 表 的 な 悪 性 腫 瘍 ですが 足 趾 あるいは 中 足 骨 レベ ルでの 切 断 が 必 要 になることもあります 皮 膚 外 科 を 担 当 されている 先 生 でしたらこ の 程 度 の 手 術 は 難 なくこなされると 思 いま す では そうでない 先 生 の 場 合 はどうす ればいいでしょう? 感 染 創 はできるだけ 速 やかなデブリードマンが 必 要 ですが 整 形 外 科 や 形 成 外 科 の 先 生 方 と 良 好 な 関 係 があ れば 皮 膚 科 医 による 足 趾 レベルの 切 断 も 可 能 であると 考 えます つまり 感 染 が 拡 大 して 下 肢 切 断 になったとしても あとは 任 せてくださいとこころよく 引 き 受 けて 下 さる 先 生 が いらっしゃれば 急 を 要 する 場 合 にデブリードマンは 誰 がやってもいいのではないかとい うことです 実 際 血 管 外 科 の 先 生 で 血 管 バイパス 術 のついでに 下 肢 切 断 までこなすケース もあるくらいです 足 趾 切 断 ですが 麻 酔 も 骨 間 筋 ブロックでほとんどの 場 合 効 果 がありま すし ボーンソーやノミを 使 わなくても メスで 関 節 包 を 切 開 すれば 関 節 離 断 も 簡 単 に 行 え ます そもそも 壊 死 している 部 位 ですので 出 血 も 末 梢 なのでそれほどありませんし アル ギン 酸 塩 ドレッシング 材 と 圧 迫 でほとんどの 場 合 止 血 できます 緊 急 性 のあるときには あ る 程 度 こういったことができると 下 肢 切 断 を 何 とか 避 けることができると 考 えます まとめ フットケアカンファレンスでは 他 の 診 療 科 の 先 生 方 から 思 いもかけない suggestion を いただくことがあります 逆 にわれわれ 皮 膚 科 医 は これも 鑑 別 になると 思 いますが と いう 提 案 をするケースが 多 く 何 となくですが 外 科 系 は 治 療 に 内 科 系 は 診 断 に 精 通 してい るような 印 象 です われわれ 皮 膚 科 医 の 強 みは 診 断 も 治 療 もその 気 になれば 結 構 できると
ころにあると 思 います 今 回 は 時 間 の 関 係 でほんの 少 ししか 紹 介 できませんでしたが フットケアチームの 一 員 としてどういった 貢 献 ができるかについて 一 度 ご 自 分 で 整 理 されるお 手 伝 いになれば 幸 いです