実 践 研 究 論 文 4 軸 X 線 回 折 測 定 による 超 伝 導 薄 膜 配 向 性 の 3D 表 示 プログラムの 作 成 1 大 竹 佑 樹 1, 内 山 哲 治 宮 城 教 育 大 学 大 学 院 教 科 教 育 専 攻 理 科 教 育 専 修 2 宮 城 教 育 大 学 教 育 学 部 理 科 教 育 講 座 2 本 研 究 室 では 超 伝 導 薄 膜 の 作 製 を 行 っている 作 製 された 超 伝 導 薄 膜 の 結 晶 構 造 は 4 軸 X 線 回 折 装 置 により 評 価 された X 線 回 折 測 定 の 結 果 は 付 属 のソフトウェアにより 表 示 可 能 であるが 3 次 元 (3D) 的 に 表 示 させることが 出 来 ないため 視 覚 的 に 分 かりにくいという 問 題 があった そこで 我 々は LabVIEW を 用 いて X 線 回 折 測 定 結 果 を 3D 表 示 させるプログラムを 作 成 した LabVIEW は 世 界 中 の 理 工 系 分 野 で 用 いられている 計 測 制 御 用 ソフトウェアであり 視 覚 的 にプログラムを 構 築 することが 出 来 るため 短 期 間 で 実 用 的 なソフトウェアの 開 発 が 可 能 である 本 論 文 では X 線 回 折 測 定 結 果 を 視 覚 的 に 分 かりやすく 3D 表 示 させるプログラム 以 外 に 2D 表 示 で 結 晶 構 造 を 解 析 するプログラムも 作 成 した ので 合 わせて 報 告 する キーワード : 超 伝 導 薄 膜 X 線 回 折 極 図 形 面 内 配 向 角 LabVIEW 1. 背 景 と 研 究 目 的 我 々は 高 温 超 伝 導 薄 膜 のエレクトロニクス 応 用 を 目 指 し Bi 2 Sr 2 CaCu 2 O 8+ (BSCCO) x 薄 膜 の 作 製 を 行 っている BSCCO 薄 膜 は 構 成 元 素 を MgO 基 板 上 にエピタキシャル 成 長 させること で 作 製 される エピタキシャル 成 長 とは 薄 膜 結 晶 成 長 技 術 の1つであり 下 地 の 基 板 の 結 晶 面 に 揃 えて 目 的 の 結 晶 を 配 列 させる 結 晶 成 長 法 である MgO 基 板 は 誘 電 率 (ε~ 10)が 低 く 高 周 波 応 用 に 適 しているが BSCCO 薄 膜 に 対 しては ab 面 での 格 子 不 整 合 性 が 非 常 に 大 きい (28.6%) し た が っ て MgO(100) 基 板 上 に 成 膜 した BSCCO 薄 膜 は 複 数 の 面 内 配 向 角 η (MgO 基 板 の a 軸 と BSCCO 薄 膜 の a 軸 が 成 す 角 ) を 混 在 して 持 つことが 知 られており η =0 の 配 向 η =45 の 配 向 η~± 12 の 配 向 が 多 く 報 告 されている したがって 作 製 した BSCCO 薄 膜 は X 線 回 折 装 置 により 極 点 測 定 などを 行 い ηを 調 べる 必 要 がある [1] 本 研 究 室 で 使 用 している X 線 回 折 装 置 には 極 点 測 定 による 回 折 データを 極 図 形 表 示 するソフ トウェアが 付 属 している しかしこのソフトウェ アには 極 図 形 を 3 次 元 (3D)で 表 示 する 機 能 がないため 視 覚 的 に 分 かりにくいという 問 題 が あった また BSCCO 薄 膜 の 極 図 形 と MgO 基 板 の 極 図 形 を 重 ねて 表 示 することが 出 来 ないた め ηを 調 べることも 容 易 ではなかった そこで LabVIEW により 極 図 形 を 3D 表 示 さ せ さらにηを 調 べることが 出 来 るプログラム の 作 成 を 試 みた 2. 極 点 測 定 一 般 に 材 料 は 微 細 な 単 結 晶 粒 の 集 まりであ る それらの 結 晶 粒 がある 方 位 に 偏 って 配 向 して - 13 -
4 軸 X 線 回 折 測 定 による 超 伝 導 薄 膜 配 向 性 の 3D 表 示 プログラムの 作 成 いる 場 合 集 合 組 織 を 持 つという 集 合 組 織 によ り 材 料 の 特 性 に 異 方 性 が 現 れることがあり この ような 材 料 の 異 方 性 は 物 性 研 究 に 非 常 に 有 益 であ る そのために 結 晶 方 位 の 配 向 を 決 定 することは 重 要 である 極 点 測 定 は X 線 を 利 用 した 集 合 組 織 の 測 定 法 であり 結 晶 方 位 をステレオ 投 影 図 上 に 表 現 した 極 点 図 を 得 る 測 定 手 法 である [2] 本 研 究 では 極 点 測 定 手 法 の1つである Schulz の 反 射 法 により 測 定 を 行 い MgO 基 板 に 対 して BSCCO 薄 膜 がどのように 配 向 しているのかを 調 べた 図 1 に Schultz の 反 射 法 の 測 定 原 理 を 示 す Schulz の 反 射 法 では Schultz スリットとよ ばれる 1mm 程 度 の 水 平 スリットにより 上 下 方 向 の 幅 を 制 限 した 発 散 X 線 束 を 試 料 に 入 射 させ 表 面 から 出 てくる 回 折 X 線 の 全 強 度 を 測 定 する X 線 源 は 点 焦 点 X 線 源 であり 集 中 法 光 学 系 を 用 いている まず 調 べたい 試 料 の hkl 回 折 線 に ついて 回 折 条 件 を 満 足 するように 入 射 X 線 と 回 折 X 線 の 方 向 を 固 定 する 試 料 は ゴニオメー タ 軸 に 垂 直 な A 軸 のまわりに 回 転 (α 回 転 )さ せた 後 B 軸 のまわりに 360 回 転 (β 回 転 ) 図 1 Schulz の 反 射 法 の 原 理 図 図 2 X 線 回 折 強 度 のプロット( 極 図 形 ) させ X 線 回 折 強 度 を 測 定 する この 時 の 各 α, βに 対 応 する X 線 回 折 強 度 をポーラーネット 上 にプロットすることで 極 図 形 は 描 かれる( 図 2) [3-4] 3. プログラム 作 成 における 課 題 と 解 決 プログラムの 構 築 は LabVIEW を 用 いて 行 っ た LabVIEW は 世 界 中 の 理 工 系 分 野 で 用 い られている 計 測 制 御 用 ソフトウェアである LabVIEW の 最 大 の 特 徴 は グラフィカルプログ ラミング 言 語 (G 言 語 )によってプログラムを 構 築 していくところである G 言 語 はテキストベー スとは 異 なり 画 面 上 にアイコンを 配 置 し アイ コン 同 士 を 配 線 で 繋 ぐことで 視 覚 的 にプログラム を 組 み 立 てることが 出 来 る そのためプログラミ ングの 初 心 者 でも 短 期 間 で 実 用 的 なソフトウェ アの 開 発 が 可 能 である [5] LabVIEW を 用 いて 極 図 形 の 3D 表 示 プログラ ムを 作 成 するにあたっては 測 定 データの 読 み 込 みに 関 して 次 のような 問 題 があった 極 点 測 定 の データは X 線 回 折 装 置 に 付 属 のソフトウェアに よりテキスト 形 式 に 変 換 することで LabVIEW に 読 み 込 ませることが 可 能 である しかし 極 点 測 定 の 生 データは α 角 毎 のデータが 縦 一 列 に 書 き 込 まれた 形 式 になっているため LabVIEW で は α 角 毎 にデータを 区 別 せずに 読 み 込 んでし まう LabVIEW に 正 しくデータを 読 み 込 ませる ためには Excel などの 表 計 算 ソフトを 使 い あ らかじめα 角 毎 にデータを 改 列 する 必 要 がある しかしこの 手 法 では 測 定 を 詳 細 に 行 い データ 数 が 膨 大 な 数 に 及 んだ 場 合 データの 改 列 に 大 変 な 労 力 を 要 してしまう そこで 測 定 データの 整 理 を 表 計 算 ソフトではなく LabVIEW のプロ グラム 上 で 実 現 することでこの 問 題 を 解 決 した このようにして 読 み 込 まれた 極 点 測 定 のデータ は LabVIEW に 備 えられている 3D グラフ 表 示 器 で 3D 表 示 させた この 3D グラフ 表 示 器 では プロットスタイルやプロットカラーの 変 更 はもち ろん 視 点 を 3D で 自 由 に 変 化 させることが 可 能 - 14 -
宮 城 教 育 大 学 情 報 処 理 センター 研 究 紀 要 第 18 号 (2011) である さらに 複 数 のグラフを 重 ねて 表 示 させ ることが 出 来 たため BSCCO 薄 膜 の 測 定 データ と MgO 基 板 の 測 定 データを 重 ねて 表 示 させるこ とが 可 能 であった しかしこれには 座 標 軸 を 直 交 座 標 から 極 座 標 表 示 に 変 更 する 機 能 が 備 わって いなかった そこで 半 径 の 異 なるいくつかの 同 心 円 を 重 ねた 図 形 を 作 成 し これを 極 座 標 の 座 標 軸 として 採 用 した 4. 3D 表 示 プログラム 図 3に 極 図 形 3D 表 示 プログラムの 操 作 画 面 を 示 す 1でグラフ 表 示 器 に 表 示 させる 薄 膜 のデー タと 基 板 のデータのファイルを 選 択 する ここで 選 択 されたファイルの 測 定 データが 2の 3D グ ラフ 上 に 表 示 される 3では 3D グラフ 表 示 の 表 示 モードの 設 定 極 座 標 の 座 標 軸 の 設 定 が 出 来 る さらに 画 像 取 得 ボタンを 押 すことで 3D 図 5 3D グラフの 画 像 データ(ユーザー 設 定 ) グラフに 表 示 されている 画 像 のデータを 取 得 し JPEG ファイルとして 保 存 することが 可 能 である ( 図 4 5) 4ではプロットスタイルを 設 定 する ことができ 線 点 線 と 点 表 面 等 高 線 など の9 種 類 から 選 ぶことが 出 来 る また グラフの 透 過 率 を 変 化 させることも 可 能 で 5では 赤 の 線 と 青 の 線 の 表 示 形 式 ( 線 点 線 と 点 表 面 等 高 線 などの9 種 類 )の 選 択 と 赤 と 青 の 線 の 回 転 角 度 を 変 えることが 出 来 る この2 本 の 線 は ηを 調 べるためのものであり 2 本 の 線 の 一 方 を MgO 基 板 のピークに 合 わせ もう 一 方 を BSCCO 薄 膜 のピークに 合 わせることで 2 本 の 線 の 成 す 角 度 が 表 示 され ηの 大 きさを 調 べる ことが 出 来 る 図 3 極 図 形 3D 表 示 プログラムの 操 作 画 面 5. 2D 表 示 プログラム 図 4 3D グラフの 画 像 データ(XY 面 ) 本 研 究 では 極 図 形 3D 表 示 プログラムの 他 に 2D 表 示 により 解 析 するプログラムも 作 成 した ここでは XRD_peak_search φscan につ いて 報 告 する XRD_peak_search は θ/2θ 測 定 による X 線 回 折 角 (2 θ)の 解 析 プログラムである( 図 6) 1で X 線 の 波 長 を 入 力 し 2で 目 的 の 結 晶 の 格 子 定 数 ( 結 晶 軸 の 長 さ 軸 間 角 度 )を 入 力 す る BSCCO は3 種 類 の 安 定 した 相 があるため 本 プログラムでは 3 種 類 の 結 晶 の 格 子 定 数 が 入 力 出 来 るように 作 成 した 格 子 定 数 及 び 軸 間 角 度 - 15 -
4 軸 X 線 回 折 測 定 による 超 伝 導 薄 膜 配 向 性 の 3D 表 示 プログラムの 作 成 をユーザー 設 定 としたため BSCCO のような 斜 方 晶 以 外 に 三 斜 晶 などの 結 晶 構 造 にも 対 応 可 能 となっている 3で 調 べたい 面 のミラー 指 数 (hkl) を 入 力 する 4で X 線 回 折 のデータファイルを 選 択 すると XY グラフ( 縦 軸 : 回 折 強 度 (cps) 横 軸 : 回 折 角 2 θ (cps)) 上 に 表 示 される XY グラフ 上 には 測 定 データのプロット( 黄 色 )の 他 に 水 色 の2 本 の 縦 線 が 表 示 される この2 本 の 縦 線 は 5で 横 軸 方 向 への 移 動 と 間 隔 を 変 えるこ とが 出 来 る 2 本 の 縦 線 の 間 にピークが 入 るよう に 2 本 の 縦 線 の 位 置 を 移 動 させると 6にそ のピークの 回 折 角 2 θ と 強 度 が 表 示 される その ピークの 回 折 角 の 値 と 3で 作 成 したリストの 中 の 回 折 角 の 値 を 比 較 し 値 が 近 い 順 に 上 位 3つの 候 補 が7に 表 示 される また3のリストの 値 と 測 定 値 が 何 パーセント 一 致 しているのかが8に 表 示 され リストの 値 と 測 定 値 が 99% 以 上 一 致 し ている 場 合 横 の 丸 型 表 示 機 が LED のように 点 灯 するようになっている 線 は3で 橙 色 の 2 本 の 縦 線 は4で 横 軸 方 向 へ の 移 動 と 間 隔 を 変 えることが 出 来 る 縦 線 の 間 に ピークが 入 るように 縦 線 の 位 置 を 移 動 させるこ とで そのピークの 位 置 φ と 強 度 が 表 示 される 水 色 の 縦 線 と 橙 色 の 縦 線 をそれぞれ BSCCO 薄 膜 と MgO 基 板 のピーク 位 置 に 合 わせることで ピー ク 位 置 の 差 が 計 算 され ηを 調 べることが 出 来 る 図 7 φ scan の 操 作 部 6. まとめ 図 6 XRD_peak_search の 操 作 部 φ scan は 面 内 配 向 測 定 であるφ スキャ ン 測 定 によるデータから 詳 細 にηを 調 べるため のプログラムである( 図 7) 1で BSCCO 薄 膜 の 測 定 データを 2で MgO 基 板 の 測 定 データを 選 択 する ここでは 図 1に 示 した 回 転 角 αを 指 定 することで 固 定 αでのβ 回 転 に 対 する 測 定 データが XY グラフ( 縦 軸 : 回 折 強 度 (cps) 横 軸 : 試 料 回 転 角 φ (deg.)) 上 に 表 示 される 赤 のプロットが BSCCO 薄 膜 のデータであり 緑 のプロットが MgO 基 板 のデータである XY グ ラフ 上 には 測 定 データのプロットの 他 に 水 色 と 橙 色 の2 本 の 縦 線 が 表 示 される 水 色 の2 本 の 縦 X 線 回 折 装 置 に 付 属 のソフトウェアでは 行 うことが 出 来 なかった 極 図 形 の3D 表 示 を LabVIEW を 用 いることで 実 現 させた 作 成 した プログラムは 測 定 データをあらかじめ 表 計 算 ソ フトなどで 整 理 することなくそのまま 読 み 込 むこ とが 出 来 るため 3D の 極 図 形 を 非 常 に 簡 単 に 表 示 させることが 出 来 る さらに 座 標 軸 の 極 座 標 表 示 グラフ 画 像 の 取 得 ηの 計 算 などの 機 能 も 備 えることが 出 来 たため 非 常 に 高 機 能 な 表 示 解 析 プログラムとなった 極 図 形 の 3D 表 示 プログラムの 他 にも θ /2θ 測 定 による X 線 回 折 角 の 解 析 プログラムや φ スキャン 測 定 のデータからηを 詳 しく 調 べるた めの 2D プログラムを 作 成 した これらのプログ ラムにより X 線 回 折 測 定 データを 短 時 間 で 詳 細 に 解 析 することが 可 能 になった - 16 -
宮 城 教 育 大 学 情 報 処 理 センター 研 究 紀 要 第 18 号 (2011) 参 考 文 献 [1] Uchiyama, T. and Uchida, T.: Control of in-plane-orientation of Bi-2212 thin films prepared by MOD method, Tech. Rep. IEICE SCE, 106, pp.19-24 (2006). [2] 加 藤 誠 軌 : X 線 回 折 分 析,pp.290-293, 内 田 老 鶴 圃 (1990). [3] 菊 田 惺 志 : X 線 回 折 散 乱 技 術 上,pp.9-16, 東 京 大 学 出 版 会 (1992). [4] X 線 回 折 装 置 Ultima Ⅳ 取 扱 説 明 書, 株 式 会 社 リガク. [5] Robert H. Bishop: LabVIEWTM8 プログラ ミングガイド,アスキーメディアワークス (2008). - 17 -