63 89-96 2021 X 線結晶学者のためのクライオ電子顕微鏡解析の手引き (2) クライオ電子顕微鏡単粒子解析の実際 ~ 試料調製から画像解析まで ~ Tsubasa HASHIMOTO, Takeshi YOKOYAMA and Yoshikazu TANAKA: Actual Situation of Cryo-Electron Microscopy Single Particle Analysis; From Sample Preparation to Image Analysis Recent marked development called Resolution revolution has made cryo-electron microscopy Cryo-EM the third method of structure determination at atomic resolution next to X-ray crystallography and NMR. In this review, actual situation surrounding Cryo-EM including an outline about the workflow from sample preparation to image analysis and differences between Cryo-EM analysis and X-ray crystallography is introduced. We hope that this review is useful for researchers particularly who will start Cryo-EM analysis. 1. はじめに X NMR 2010 3 2017 3 図 1 1 1 2 1990 63 2 2021 X 3 2013 3,4 X 5 図 1 PDB Change of the number of PDB depositions. PDB 89
1.22 Å 1.7 Å GABA-A 2 Å 6 52 kda 1.93 Å 7 8 X 2. クライオ電子顕微鏡単粒子解析の流れ 図 2 X nm μm 9 1 μm quantifoil 図 3 Thermo Fisher Scientific Vitrobot Leica EM GP2 グリッド グリッドスクエア カーボン膜 Top View ホール 粒子氷 Side View 3 mm 図 3 Schematic diagram of typical Cryo-EM grid. 1 1 試料調製 2 凍結グリッド作製 3 データ測定 4 画像解析 目的分子の発現 抽出 目的分子の精製クロマトグラフィー限外ろ過密度勾配遠心法 etc.. 純度 濃度のチェック例 : リボソームの負染色観察像 精製試料 Vitrobot グリッドグリッドを凍結氷粒子 CRYO ARM 300 凍結グリッド グリッド挿入箇所 顕微鏡画像粒子をピック二次元平均化三次元再構成 図 2 Workflow of Cryo-EM single particle analysis. 90 63 2 2021
C Vitrobot 図 4 S/N 10 1 1 11 1 12,13 1 1 グリッド 厚 氷の厚み 薄 ホールの様子 ホール内の粒子 100 µm 1 µm 100 nm!"" #$ 図 4 Images of a frozen grid in different magnification. 63 2 2021 91
橋本 翼 横山武司 田中良和 コントラストが悪い 氷が厚い を行い 類似した二次元画像同士を平均化した二次元 コントラストが良い 氷が薄い 平均像を得る ここで複数の粒子を平均化することによ り S/N 比の高い像を取得することができ 目的のもの 50 nm ではない粒子を取り除くことができる 二次元分類によ 50 nm り おおまかな粒子の選別を行った後は 三次元構造の 再構成を行う 単粒子解析により得られた粒子は 実際 の分子に電子線を照射することで得られたさまざまな向 きからの投影像であるため 個々の粒子を逆投影して三 次元構造を再構成することができる 得られた初期三次 元構造は その後 更なる粒子の振り分けや精密化を繰 り返すことで 高分解能なものへと精度を高めていく そして 最終的に得られた三次元再構成マップに原子モ デルを当てはめることで目的分子の原子構造を決定する ことができる ここまでに紹介してきた画像解析のためのさまざまな プログラムが開発されているが 現在最も広く使用され 14,15 relion ているものは relion というプログラムである ①添加剤無し 全体的にホールが黒く 氷が厚い ②ジギトニン添加 ③Tween20添加 ホールの中央が白く 凹状の氷が張られている 図 5 氷の厚さによるホール 粒子の見え方の違い Effect of thickness of ice on the visual performance of the hole and particles. 試料中に①界面活性剤未添加 ②ジギトニン添加 ③ Tween20 添加 合計 3 種類の 条件で凍結グリッドを作製し クライオ電子顕微 鏡で実際に観察した様子 Tween20 を添加した条 件が最も氷が薄く 粒子がはっきりと観察できる ことがわかる は単粒子解析に必要な一連の解析ができるプログラム パッケージであり ユーザーフレンドリーな GUI を備え 露出して変性してしまうなどの問題が生じる また 包 ているため初心者でも比較的容易に画像解析を行うこ 埋されている分子が多すぎる場合は粒子の拾い出し 解 とができる また relion は GPU 処理により計算を高速 析が困難になり 少なすぎる場合はデータ取得効率が悪 化しているため 大量の CPU を搭載したスーパーコン くなる このように 凍結グリッドの作製は 単粒子解 ピュータを必要とせず 研究室レベルでも設置が可能な 析を成功させるための最も重要な要素であると言える GPU 搭載コンピュータで画像解析ができるという特徴も 試料に応じた最適なグリッドを作製するためには いく このプログラムが広く利用される理由の 1 つと言える つかのパラメーターを制御し 氷の厚みや粒子密度を調 3 凍結グリッド作製のノウハウ ビームラインの高度化や構造解析技術の開発 プログ 節する必要がある しかし 残念ながら現状では 狙っ た氷の厚みや粒子密度のグリ ッ ドを再現良く作ること は難しく いくつもの条件を検討しなければならない ラムの進歩により X 線結晶構造解析では 良質な結晶が ここでは グリッド作製に影響を及ぼすいくつかのパラ 得られれば容易に立体構造を決定することができる し メーターについて説明し 最適なグリッドを作製するた たがって 良質な結晶を得ることが 現在の X 線結晶学 めに 実際にわれわれがどのように条件を詰めていくか において最も重要な課題である 最適な結晶化条件は複 を紹介する また 良質なグリッドを再現良く作製する 数のパラメーターを調整しながら探索するが タンパク ために 現在どのような取り組みがなされているのかに 質とその結晶化条件の関係性はいまだブラックボックス ついて いくつかの例を紹介したいと思う であり 狙って目的分子の結晶を得ることは難しい ク 先に述べたように 凍結グリッドの作製には Vitrobot ライオ電子顕微鏡単粒子解析では結晶化することなく目 という装置が広く用いられている Vitrobot でグリッドを 的分子の構造を決定できるため X 線結晶構造解析にお 作製する際には 余分な溶液を吸い取るためのろ紙を押 ける結晶化のような難しいステ ッ プが存在しないと思 し当てる時間 ブロットタイム や強さ ブロットフォー われがちだが 決してそうではない クライオ電子顕微 ス ろ紙を押し当ててから液体エタンに沈めるまでの 鏡単粒子解析において 結晶化条件の探索に相当するス 時間 装置チャンバー内部の湿度などのパラメーターを テップが凍結グリッドの作製である 先に述べたように それぞれ調節することができる 一般的に ブロットタ 単粒子解析を成功させるためには 試料に応じた最適な イムが長く ブロットフォースが強いほどグリッドの氷 厚みの氷の中に 目的の分子が適切な密度で包埋されて は薄くなる しかし それぞれのパラメーターが相互に いるグリッドを作製する必要がある 図 5 厚すぎる氷 影響し グリッドの氷の形態は変化するため 一度に多 のグリッドから取得した画像の場合 ノイズレベルが上 くのパラメーターを変化させてしまうと グリッドの 昇することにより分子像の S/N 比が低くなり その後の 状態を予測しにくくなってしまう そのため 例えばブ 解析が困難になる 一方で 薄すぎる氷の場合 包埋さ ロットタイムのみを変化させたグリッドを複数作製し れる分子の配向が固定されたり 一部の領域が空気中に これらを電子顕微鏡に挿入してスクリーニングを行い 92 日本結晶学会誌 第 63 巻 第 2 号 2021
1 図 5 16 3 3 9 Vitrobot 図 6 17 17 18 17,19 S/N 気液界面 粒子 1 2 3 カーボン薄膜 1 2 3 完全な粒子を保持 気液界面に面した部分が変性 非晶質氷 図 6 Schematic representation of particles adhering to the air-liquid interface. 63 2 2021 93
S/N S/N 20 21-23 24 S/N 22 Spotiton 25-27 Vitrobot 30 28 Spotiton 26 27 Spotiton SPT Labtech chameleon 4.X 線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡単粒子解析のタイムスケールのギャップ X 2 X 2 X X 1 29 X 1 1 X 1 1 1 X 1 94 63 2 2021
X 1 X X X 10 Thermo Fisher Scientific Titan Krios 2007 5,000 30 Titan Krios 10 25 X 20 1 X 5. おわりに BINDS X 文献 1 M. Adrian and J. Dubochet, et al.: Nature 308, 32 1984. 2 J. Frank, et al.: Science 214, 1353 1981. 3 E. Cao, et al.: Nature 504, 113 2013. 4 M. Liao, et al.: Nature 504, 107 2013. 5 W. Kuhlbrandt: Science 343, 1443 2014. 6 T. Nakane, et al.: Nature 587, 152 2020. 7 M. Hiraizumi: PSSJ Archives 14, e099 2021. 8 L. Yan, et al.: Cell 184, 184 2021. 9 S. Brenner and R. W. Horne: Biochim. Biophys. Acta 34, 103 1959. 10 M. Stabrin, et al.: Nat. Commun. 11, 5716 2020. 11 S. Q. Zheng, et al.: Nat. Methods 14, 331 2017. 12 T. Bepler, et al.: Nat. Methods 16, 1153 2019. 13 T. Wagner, et al.: Commun. Biol. 2, 218 2019. 14 S. H. W. Scheres: J. Mol. Biol. 415, 406 2012. 15 J. Zivanov, T. Nakane and S. H. W. Scheres: IUCrJ 7, 253 2020. 16 D. Kampjut, J. Steiner and L. A. Sazanov: iscience 24, 3 2021. 17 E. D Imprima, et al.: elife 8, 1 2019. 18 B. Xiao-Chen, et al.: elife 2, 2 2013. 19 D. M. Larson, K. H. Downing and R. M. Glaeser: J. Struct. Biol. 174, 420 2011. 20 N. R. Wilson, et al.: ACS Nano 3, 2547 2009. 21 M. Bokori-Brown, et al.: Nat. Commun. 7, 11293 2016. 22 E. Palovcak, et al.: J. Struct. Biol. 204, 80 2018. 23 A. Patel, et al.: biorxiv. 2021.03.08.434344 2021. 24 A. K. Geim and K. S. Novoselov: Nat. Materials 6, 183 2007. 25 T. Jain, et al.: J. Struct. Biol. 179, 68 2012. 26 V. P. Dandey, et al.: J. Struct. Biol. 202, 161 2018. 27 A. J. Noble, et al.: Nat. Methods 15, 793 2018. 28 J. Dubochet, et al.: Q. Rev. Biophys. 21, 129 1988. 29 K. Hirata, et al.: Acta Crystallogr. Sect. D Struct. Biol. 75, 138 2019. 30 A. Myasnikov, et al.: Microsc. Microanal 24, 890 2018. 63 2 2021 95
プロフィール Tsubasa HASHIMOTO Tohoku University Graduate School of Life Science 980-8577 2-1-1 2-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980-8577, Japan e-mail: tsubasa.hashimoto.r8@dc.tohoku.ac.jp Yoshikazu TANAKA Tohoku University Graduate School of Life Science 980-8577 2-1-1 2-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980-8577, Japan e-mail: yoshikazu.tanaka@tohoku.ac.jp PTA Takeshi YOKOYAMA Tohoku University Graduate School of Life Science 980-8577 2-1-1 2-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980-8577, Japan e-mail: takeshi.yokoyama.d1@tohoku.ac.jp RNA 96 63 2 2021