平 成 28 年 熊 本 地 震 における 地 盤 土 砂 災 害 の 知 見 と 今 後 の 防 災 展 望 公 益 社 団 法 人 地 盤 工 学 会 会 長 東 畑 郁 生 ( 関 東 学 院 大 学 客 員 教 授 ) 地 盤 工 学 会 調 査 団 副 団 長 安 福 規 之 ( 九 州 大 学 教 授 ) 山 口 弘 志 ( 中 央 開 発 株 式 会 社 ) 清 田 隆 ( 東 京 大 学 准 教 授 ) 迷 信 自 然 災 害 : 安 心 安 全 は 天 賦 の 権 利 か? 自 然 は 人 類 の 都 合 とは 関 係 なく 動 いている 安 全 は 人 類 が 体 を 動 かし 費 用 を 負 担 して 獲 得 するべきもの である 動 かざること 山 の 如 し? 動 くこと 山 の 如 し 山 崩 れ 地 盤 沈 下 液 状 化 など 敵 を 知 り 己 を 知 らば 百 戰 すとも 殆 ふからず 敵 すなわち 自 然 ( 地 盤 工 学 なので 地 盤 の 状 態 )を 知 る 努 力 が 不 足 している 地 下 は 直 接 目 に 見 えないので 潜 んでいる 危 険 の 認 識 がむずかし い わからないことに 二 種 類 ある: 1. 全 く 不 可 思 議 知 りようが 無 い 2. 知 る 手 だてはあるが 財 政 的 に 実 行 できない 1
液 状 化 について 液 状 化 しやすい 地 盤 とは 若 齢 砂 で 構 成 ( 泥 ではない 粘 着 力 が 無 い) ゆる 詰 め(すき 間 が 多 い 密 度 が 低 い) 水 で 飽 和 例 : 埋 め 立 て 地 ( 昔 の 海 池 ) 旧 河 道 ( 流 路 が 変 わり 自 然 に/ 人 工 的 に 土 砂 で 埋 まった 埋 設 ライフラインの 埋 め 戻 し 土 対 策 : 液 状 化 が 起 こらないよう 地 盤 を 強 化 する 液 状 化 が 起 きても 被 害 を 軽 微 な 範 囲 に 制 御 する 液 状 化 の 危 険 の 高 い 地 域 を 避 ける 熊 本 地 震 における 液 状 化 幸 い 1995 年 の 神 戸 や2011 年 の 東 日 本 大 震 災 ほど 甚 大 な 影 響 は 及 ぼしていない 液 状 化 発 生 地 点 の 例 : 河 川 流 域 の 低 地 熊 本 市 中 央 開 発 被 害 調 査 速 報 従 来 から 指 摘 があるように 微 高 地 で ある 自 然 堤 防 地 域 にも 液 状 化 が 見 られ る 自 然 堤 防 とは 洪 水 時 に 河 川 運 搬 土 砂 の 堆 積 し た 微 高 地 2
自 然 堤 防 の 液 状 化 熊 本 市 南 区 上 近 見 地 区 から 南 高 江 地 区 白 川 県 道 51 号 蓮 台 寺 橋 国 道 3 号 国 道 57 県 道 51 号 ここは 市 街 地 である 建 物 家 屋 の 沈 下 と 傾 斜 2011 年 にはこ れらが 大 規 模 に 起 こ り 公 的 資 金 による 復 興 支 援 制 度 が 実 施 された 九 州 新 幹 線 鹿 児 島 本 線 市 街 地 では 土 地 建 物 所 有 者 が 自 らの 土 地 の 液 状 化 危 険 度 を 正 しく 認 識 するこ とが 重 要 建 築 前 の 対 策 は 事 後 対 策 よりはるかに 安 価 河 川 堤 防 の 液 状 化 ( 九 州 大 学 石 藏 氏 撮 影 ) 大 半 の 河 川 堤 防 は 耐 震 設 計 が 施 されていない 地 震 と 洪 水 が 同 時 に 緊 急 修 復 完 了 出 水 時 期 は 監 視 発 生 する 確 率 はきわめて 低 いので 地 震 被 害 を 迅 速 に 修 復 する 体 制 が 重 視 されて 来 た 1993 年 釧 路 沖 地 震 1995 年 阪 神 大 震 災 では 迅 速 復 旧 できない 事 態 が 発 生 し 以 後 耐 震 設 計 を 行 うべき 堤 防 が 選 び 出 されている 2011 年 には 耐 震 設 計 を 実 施 した 堤 防 は 被 災 しなかった しかし 全 国 的 に 耐 震 設 計 が 必 要 ながらも 未 実 施 の 堤 防 は 多 く 残 っている 予 算 と 人 員 の 制 約 緑 川 8k900 右 岸 強 化 で 対 処 その 後 本 格 修 復 川 裏 側 法 面 の はらみ 出 し もともと 液 状 化 しやすい 地 盤 上 にある 堤 防 について 被 害 が 懸 念 されて 来 た だが このタイプの 被 害 は 堤 体 内 部 の 液 状 化 天 端 に20-30cmの 段 差 亀 裂 ( 縦 断 方 向 ) ( 宮 城 県 下 で 多 数 )と 似 ている 3
斜 面 崩 壊 土 砂 災 害 今 後 の 豪 雨 時 に 崩 壊 規 模 が 拡 大 する ことが 懸 念 される 註 : 近 年 毎 年 豪 雨 災 害 が 発 生 して いる: 紀 伊 半 島 九 州 伊 豆 大 島 広 島 鬼 怒 川 阿 蘇 崩 壊 土 砂 による 河 道 閉 塞 (by 清 田 ) 河 道 閉 塞 は 越 流 と 自 然 ダム 崩 壊 土 石 流 に 進 む 危 険 がある 九 州 自 動 車 道 : 重 要 交 通 路 の 被 災 (by 清 田 ) 推 定 : 軟 弱 地 盤 上 の 盛 土 脆 弱 な 基 礎 地 盤 地 震 動 増 幅 ないしは 地 震 時 変 形 が 道 路 盛 土 に 影 盛 土 材 料 が 想 定 より 脆 弱 化? 地 下 水 が 滞 留 材 料 劣 化 重 量 増 加? 土 材 料 の 地 震 時 せん 断 強 度 は どのように 推 定 されていたか? 地 盤 調 査 の 課 題 線 状 構 造 物 は 問 題 地 盤 を 横 切 る 確 率 が 高 い 避 けられない 重 要 交 通 路 は 緊 急 支 援 時 に 重 要 ; 建 設 時 から 特 別 の 配 慮 を 4
土 砂 災 害 阿 蘇 大 橋 サイト( 地 盤 工 学 会 調 査 団 北 園 団 長 による) 火 山 体 は 頑 丈 な 岩 体 ではない: 火 山 灰 軽 石 溶 岩 などの 集 合 体 で 脆 弱 地 震 豪 雨 によっ てたびたび 崩 壊 している これら 物 質 を 使 った 盛 土 も 多 いが 脆 弱 耐 震 設 計 された 阿 蘇 大 橋 が 震 動 により 破 壊 されたとは 考 えにくい 崩 落 土 砂 の 衝 撃 か アーチ 基 礎 地 盤 が 崩 落 か? 地 震 は 直 前 予 知 避 難 できないので 地 震 地 すべりも 予 知 避 難 は 不 可 能 危 険 度 の 事 前 評 価 は 極 めて 概 略 的 な 評 価 のみ 可 能 さらに 詳 細 化? 地 形 情 報 はあり 地 震 動 や 地 盤 調 査 技 術 はあるが 対 象 斜 面 は 全 国 に 多 すぎ 個 別 斜 面 の 調 査 は 財 政 的 に 不 可 能 今 後 のリスク 阿 蘇 大 橋 サイトの 北 側 斜 面 北 園 団 長 : 崩 壊 斜 面 の 上 部 から 左 側 に 見 られるクラック 仮 に 崩 落 すると 土 砂 が 河 川 閉 塞 自 然 ダム 形 成 越 流 によりダム 崩 壊 土 石 流 発 生 となる 雨 季 にさらなる 崩 落? 地 震 で 傷 んだ(ゆるんだ) 斜 面 は 今 後 数 年 不 安 定 崩 落 の 可 能 性 例 : 中 国 四 川 省 銀 場 溝 :2008 年 の 汶 川 地 震 後 に 斜 面 が 不 安 定 化 豪 雨 時 に 土 石 流 頻 発 断 層 沿 い 斜 面 の 問 題 か? 豪 雨 時 の 斜 面 崩 壊 は 直 前 予 知 検 知 可 能 斜 面 の 変 形 観 測 システム 土 石 流 センサー 5
益 城 町 の 住 宅 被 害 日 本 学 術 会 議 主 催 公 開 シンポジウム 熊 本 地 震 緊 急 報 告 会 ( 平 成 28 年 5 月 2 日 ) 住 宅 ばかりでなく 路 面 も 損 傷 が 激 しい ところが 河 川 の 近 くでは 被 害 が 軽 微! 益 城 町 の 住 宅 被 害 水 があり 極 めて 軟 弱 と 思 われる 河 川 近 傍 地 盤 では 被 害 が 激 しい 住 宅 ばかりでなく 路 面 も 損 傷 が 激 しい ところが 擁 壁 崩 壊 宅 地 として 存 続 できない 住 宅 の 耐 震 化 促 進 はきわめて 重 要 であり 社 会 の 理 解 も 進 むと 思 われる しかし 基 礎 宅 地 地 盤 が 変 状 すれば 住 宅 そのものも 危 殆 にひんする 一 般 の 理 解 はそこまでは 進 んでいない 河 川 の 近 くでは 被 害 が 軽 微! 水 があり 極 めて 軟 弱 と 思 われる 河 川 近 傍 地 盤 では 被 害 が 激 しい 6
益 城 町 の 被 害 甚 大 地 域 とやや 軽 微 な 地 域 河 川 沿 い 低 地 の 軟 弱 地 盤 ではなく 緩 斜 面 の 方 が 被 害 が 激 しい あ 7
断 層 の 問 題 : 地 表 に 出 現 した 変 状 は 断 層 そのものではない 地 下 の 断 層 変 位 が 地 表 に 影 響 した 結 果 である ずれ 変 位 は 益 城 町 から 大 切 畑 ダム 方 面 阿 蘇 外 輪 山 内 部 まで 延 びている By 清 田 従 来 人 間 活 動 の 舞 台 は 沖 積 平 野 が 中 心 で こ こでは 地 下 の 断 層 変 位 は 地 表 の 軟 弱 土 層 に 吸 収 されて 顕 在 化 しなかった 都 市 が 丘 陵 地 に 広 がり 断 層 ズレ 変 位 が 被 害 に 変 わりつつある 交 通 やライフラインイ ンフラにとっても 脅 威 断 層 上 に あったお 宅 の 被 害 8
大 切 畑 ダムにて 日 本 学 術 会 議 主 催 公 開 シンポジウム 熊 本 地 震 緊 急 報 告 会 ( 平 成 28 年 5 月 2 日 ) 断 層 か? 9
2016/5/4 日 本 学 術 会 議 主 催 公 開 シンポジウム 熊 本 地 震 緊 急 報 告 会 ( 平 成 28 年 5 月 2 日 ) 断 層 か? 詳 細 中 央 開 発 調 査 10
中 央 開 発 調 査 断 層 ズレ 変 位 の 位 置 他 にも 報 告 多 数 阿 蘇 大 橋 大 切 畑 益 城 町 中 心 部 11
既 存 の 断 層 対 策 日 本 学 術 会 議 主 催 公 開 シンポジウム 熊 本 地 震 緊 急 報 告 会 ( 平 成 28 年 5 月 2 日 ) 1. 回 避 : 土 地 利 用 規 制 2. 柔 軟 な 構 造 物 : 大 阪 地 下 鉄 トンネル 山 陽 新 幹 線 新 神 戸 駅 3. ずれ 変 位 しても 破 堤 しないダム:Clyde Dam in New Zealand 4. 既 設 構 造 物 には 対 策 が 無 い? Clyde Dam 漏 水 防 止 クサビを 設 置 したスリットで ずれを 吸 収 新 神 戸 駅 : 断 層 をまたいで 設 置 された 駅 舎 は 3つに 分 割 され 構 造 的 には 独 立 に 運 動 できる 変 形 しても 崩 壊 しない 阿 蘇 の 断 層 延 長 上 で 不 可 解 な 陥 没 現 象 ( 清 田 ) 12
阿 蘇 の 断 層 延 長 上 で 不 可 解 な 陥 没 現 象 ( 清 田 ) 筆 者 の 想 像 によれば 平 行 する 二 本 の 横 ずれ 断 層 の 間 に 発 生 するプルアパート 陥 没 か? あるいは 正 断 層 局 所 的 軟 弱 地 盤 の 沈 下? 火 山 体 は 不 安 定 敵 を 知 るべし; 地 盤 情 報 液 状 化 危 険 度 軟 弱 地 盤 の 地 震 動 増 幅 斜 面 崩 壊 と 土 砂 災 害 活 断 層 による 地 盤 変 状 位 置 地 下 に 災 害 の 原 因 が 多 く 隠 れている 動 かざること 山 のごとし という 迷 信 は 根 強 い 地 盤 調 査 の 軽 視 予 算 カット 災 いが 起 きてから 問 題 視 地 盤 は 工 場 生 産 品 ではない: 品 質 管 理 無 し 一 様 均 質 でもない 宅 地 の 危 険 度 判 断 の 専 門 家 : 地 盤 品 質 判 定 士 制 度 を 創 設 した 重 要 交 通 路 沿 いの 斜 面 にも 地 盤 調 査 の 対 象 を 広 げよ 個 別 宅 地 ごとに 地 盤 調 査 せよ 地 盤 情 報 データベースができれば 個 別 調 査 の 負 担 が 減 る 現 状 : 公 共 事 業 で 得 られたデータのみ 機 関 ごとにデータ 公 開 ; 統 一 データベース 設 立 は 道 遠 し 民 間 個 人 データは 著 作 権 プライバシーとして 保 護 = 非 公 開 地 震 でゆるんだ 斜 面 では 挙 動 観 測 で 最 崩 壊 を 直 前 検 知 避 難 マンションの 杭 基 礎 長 さ 不 足 問 題 の 原 因 の 一 つが 地 盤 データの 軽 視 国 土 すべてを 耐 震 補 強 はできない 許 容 忍 従 すべき 限 界 は? 謝 謝 13