ESD ユネスコスクールの 普 及 推 進 に 資 する 教 育 学 研 究 科 における 取 り 組 み 及 び 評 価 に 関 する 研 究 研 究 代 表 者 柴 一 実 ( 初 等 カリキュラム 開 発 講 座 ) 研 究 分 担 者 朝 倉 淳 ( 初 等 カリキュラム 開 発 講 座 ) 富 川 光 ( 自 然 システム 教 育 学 講 座 ) 深 澤 清 治 ( 英 語 文 化 教 育 学 講 座 ) 由 井 義 通 ( 社 会 認 識 教 育 学 講 座 ) 中 井 悠 加 ( 国 語 文 化 教 育 学 講 座 ) Ⅰ 研 究 の 背 景 と 目 的 1. 研 究 の 背 景 2002 年 9 月 に, 南 アフリカのヨハネスブルクにおいて 持 続 可 能 な 開 発 に 関 するサミッ ト が 開 催 され, 当 時 の 小 泉 純 一 郎 内 閣 総 理 大 臣 ( 日 本 )が 2005 年 から 始 まる 10 年 を 国 連 持 続 可 能 な 開 発 のための 教 育 の 10 年 とすることを 提 案 した 2014 年 がその 最 終 年 に 当 たり,これまでの 集 大 成 として 2014 年 11 月 4 日 から8 日 にかけて,ESD ユネスコ 世 界 会 議 ステークホルダー 会 議 が 岡 山 市 において 開 催 された 引 き 続 き 11 月 10 日 から 12 日 にかけては,ESD ユネスコ 世 界 会 議 が 名 古 屋 市 において 開 催 された この 10 年 間 に 持 続 可 能 な 開 発 のための 教 育, 通 称 ESD は, 小 中 高 等 学 校 におけるすべての 教 科 にとっ て 重 要 な 課 題 となり, 各 学 校 段 階,また 各 教 科 や 教 科 外 活 動 において 様 々な 取 り 組 みがな されるようになった それに 応 じて, 大 学 の 果 たすべき 役 割 も 大 きくなってきたのである 2. 研 究 の 目 的 本 研 究 の 目 的 は,ユネスコスクール 大 学 間 支 援 ネットワーク(ASPUnivNet)の 一 員 とし て 広 島 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 が 平 成 26 年 度 に 行 った 諸 活 動 を 検 証 することである 具 体 的 には, 広 島 県 及 び 山 口 県 内 の 学 校 のユネスコスクール 加 盟 申 請 書 の 支 援 や 研 究 会 の 実 施 など, ESD ユネスコスクールの 普 及 推 進 に 関 する 教 育 学 研 究 科 の 取 り 組 みを 明 らかに し, 本 年 度 の 活 動 を 検 証 することを 目 的 とする ( 柴 一 実 *) Ⅱ 平 成 年 度 における 教 育 学 研 究 科 ユネスコスクール 委 員 会 の 取 り 組 み 1.ユネスコスクール 加 盟 申 請 支 援 本 年 度 は, 広 島 市 立 神 崎 小 学 校, 英 数 学 館 高 等 学 校, 広 陵 学 園 広 陵 高 等 学 校, 広 島 大 学 附 属 東 雲 小 学 校, 野 田 学 園 中 学 高 等 学 校, 周 南 市 立 和 田 中 学 校 の6 校 のユネスコスクール 加 盟 のための 申 請 書 作 成 を 支 援 した 2. 日 本 /ユネスコパートナーシップ 事 業 への 参 加 ASPUnivNet の 第 1 回 連 絡 会 議 ( 平 成 26 年 7 月 5 日 ), 第 2 回 連 絡 会 議 (11 月 7 日 ), 第 3 回 連 絡 会 議 ( 平 成 27 年 1 月 25 日 )にユネスコスクール 委 員 会 委 員 ( 柴, 富 川, 朝 倉 ) 77
が 出 席 し,ユネスコスクール 加 盟 大 学 との 交 流 及 び 情 報 収 集 を 図 った 3.ESD ユネスコスクール 研 究 会 の 実 施 平 成 26 年 9 月 28 日, 広 島 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 第 一 会 議 室 を 会 場 として,ESD ユ ネスコスクールに 関 する 研 究 会 を 開 催 した 研 究 会 のテーマは 世 界 をつなぐ 持 続 可 能 な 開 発 のための 教 育 で,3 名 の 講 演 者 を 招 待 した 講 演 者 と 演 題 は 次 の 通 りである (1)NPO シャンティ 山 口 事 務 局 長 佐 伯 昭 夫 氏, 演 題 :ラオス タイ 国 境 地 域 で 暮 らす 民 族 の 自 立 支 援 活 動 (2) 広 島 大 学 附 属 中 高 等 学 校 教 諭 日 浦 美 智 代 氏, 演 題 :ESD の 視 点 からの 家 庭 生 活 に 関 する 学 習 の 転 換 (3) 広 島 大 学 大 学 院 国 際 協 力 研 究 科 准 教 授 小 塚 英 治 氏, 演 題 : 開 発 途 上 国 における 教 育 開 発 の 課 題 と 国 際 社 会 の 取 り 組 み 当 日 の 参 加 者 は 46 名 で, 内 訳 は 小 中 高 等 学 校 教 員 (15 名 ), 大 学 生 大 学 院 生 (11 名 ), 大 学 教 員 (13 名 ), 教 育 委 員 会 関 係 者 (4 名 ), 広 島 ユネスコ 協 会 関 係 者 (2 名 ) などであった 事 後 のアンケート 調 査 から, 参 加 者 が 有 意 義 な 研 究 会 であったと 評 価 した ことが 示 された 4. 第 6 回 ユネスコスクール 全 国 大 会 への 参 加 平 成 26 年 11 月 8 日, 岡 山 大 学 を 会 場 として 開 催 されたユネスコスクール 全 国 大 会 にお いて, テーマ 別 交 流 研 修 会 が 実 施 された 第 22 分 科 会 では, 教 師 が つながる 教 育 活 動 を つなげる -ユネスコスクールとして 取 り 組 んだ ESD の 10 年 - という 演 題 で 広 島 大 学 附 属 中 高 等 学 校 教 諭 藤 原 隆 範 氏 による 実 践 報 告 が 行 われた 本 研 究 科 ユ ネスコスクール 委 員 会 委 員 ( 朝 倉 )がファシリテーターとして 参 画 し, 同 分 科 会 の 司 会 進 行 を 務 め, 好 評 を 得 た 5.ユネスコ 世 界 会 議 への 参 加 世 界 各 国 のユネスコ 大 使 が 参 加 した 名 古 屋 世 界 会 議 での ESD の 10 年 に 関 する 総 括 で は, 今 後 も ESD を 推 進 することやそのためには 教 育 の 重 要 性 が 再 確 認 された また, 各 地 のユネスコスクールや 大 学 などの 教 育 機 関,あるいは 国 際 理 解 協 会 や 様 々な NGO 企 業 な どの 研 究 成 果 活 動 成 果 が 発 表 されて, 今 後 の 活 動 の 示 唆 を 得 た 6. 平 成 年 度 東 広 島 研 究 大 会 への 参 加 平 成 26 年 11 月 14 日, 東 広 島 市 中 央 生 涯 学 習 センターを 会 場 として 開 催 された 平 成 26 年 度 東 広 島 ESD 研 究 大 会 において, 本 研 究 科 ユネスコスクール 委 員 会 委 員 ( 中 井 )がパネ リストとして 参 画 し,ESD ユネスコスクールの 普 及 推 進 に 関 する 広 島 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 での 取 り 組 みについて 発 表 した この 発 表 により,ESD 推 進 に 向 けて 大 学 が 果 た すべき 役 割 について, 教 育 現 場 から 様 々な 期 待 と 要 望 が 出 された ( 柴 一 実 *) 78
Ⅲ 世 界 大 会 から 見 たESD ユネスコスクールの 現 状 と 課 題 1.ユネスコスクール 世 界 大 会 - 第 6 回 ユネスコスクール 全 国 大 会 -の 概 要 平 成 26 年 11 月 8 日, 岡 山 大 学 を 会 場 として, 文 部 科 学 省 / 日 本 ユネスコ 国 内 委 員 会 が 主 催 する 標 記 の 大 会 が 開 催 された 大 会 テーマは ESDのさらなる 発 展 を 目 指 して-2014 年 を 越 えて- であった 大 会 の 主 な 内 容, 概 要 は 次 のとおりである 開 会 式 岡 山 市 小 学 生 開 会 宣 言 挨 拶 文 部 科 学 副 大 臣 日 本 ユネスコ 国 内 委 員 会 会 長 岡 山 市 長 ESD 推 進 のためのユネスコスクール 宣 言 ESDメッセージソング 僕 らは 大 きな 世 界 の 一 粒 の 命 全 体 会 Ⅰ: 第 5 回 ESD 大 賞 授 賞 式 受 賞 校 事 例 発 表 文 部 科 学 大 臣 賞 岡 山 県 岡 山 市 立 京 山 中 学 校 ユネスコスクール 最 優 秀 賞 広 島 県 広 島 大 学 附 属 中 学 校 高 等 学 校 国 内 交 流 の 実 践, 及 び 海 外 交 流 の 実 践,ESD Riceプロジェクト 分 科 会 Ⅰ:テーマ 別 交 流 研 修 会 分 科 会 Ⅱ:ESD 博 覧 会 全 体 会 Ⅱ: 閉 会 式 宣 言 最 終 案 発 表 閉 会 宣 言 2.ESD ユネスコスクールの 現 状 と 課 題 ユネスコスクールは,ユネスコの 理 念 を 実 現 するため 平 和 や 国 際 的 な 連 携 を 実 践 する 学 校 と 位 置 付 けられており, 加 盟 校 は 世 界 で9,633 校 ( 平 成 25 年 6 月 現 在 ), 日 本 国 内 615 校 ( 平 成 25 年 7 月 現 在 )に 上 るとされている(ユネスコスクール/ 日 本 ユネスコ 国 内 委 員 会 Webペ ージ) 文 部 科 学 省 及 び 日 本 ユネスコ 国 内 委 員 会 は,ユネスコスクールをESDの 推 進 拠 点 として 位 置 付 けており, 我 が 国 のESDの 普 及, 発 展 はユネスコスクールを 中 心 に 実 現 してきたと 言 えるであろう 2014 年 ユネスコスクールESD 優 良 実 践 事 例 集 ( 文 部 科 学 省 / 日 本 ユネ スコ 国 内 委 員 会,2014a)には, 各 学 校 種 のユネスコスクールにおける 優 れた 実 践 事 例 が 紹 介 されている また,この 大 会 において 参 加 者 により 採 択 された ESD 推 進 のためのユネ スコスクール 宣 言 (ユネスコスクール 岡 山 宣 言 ) ( 宣 言 案 Version2)にも, 日 本 のユネス コスクールによる 国 連 ESDの10 年 の 成 果 として,プロジェクト カリキュラムの 開 発 や 実 践, 認 識 の 共 有, 連 携 の 深 まりなどが 示 されている 一 方 で 世 界 大 会 において 確 認 された 課 題 もある たとえば,ユネスコスクールのESDを 学 校 全 体 の 取 り 組 みとして 継 続, 発 展 させていくことである また,ESDをユネスコスク ール 以 外 の 学 校 や 地 域 へと 広 げていくことである そのための, 教 育 課 程 づくり, 評 価 方 法 の 検 討, 基 盤 整 備 や 研 修 制 度 の 拡 充, 連 携 強 化 などが 求 められている ( 朝 倉 淳 *) 79
ESD ユネスコスクール 研 究 会 の 実 施 と 評 価 1. 実 施 日 時 会 場 等 日 時 : 平 成 26 年 9 月 28 日 ( 日 )13 時 00 分 ~16 時 30 分 会 場 : 広 島 大 学 教 育 学 研 究 科 第 一 会 議 室 ( 広 島 県 東 広 島 市 ) 主 催 : 広 島 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 ユネスコ スクール 委 員 会 共 催 : 広 島 ESDユネスコスクール 研 究 会 後 援 : 広 島 県 教 育 委 員 会, 広 島 市 教 育 委 員 会, 東 広 島 市 教 育 委 員 会,ASPUnivNet, 公 益 財 団 法 人 ユネスコ アジア 文 化 センター(ACCU) 2.プログラム 講 演 1(13:10~13:50):ラオス タイの 国 境 地 域 で 暮 らす 民 族 の 自 立 支 援 活 動 NPO 法 人 シャンティ 山 口 事 務 局 長 佐 伯 昭 夫 氏 講 演 2(13:50~14:30):ESDの 視 点 からの 家 庭 生 活 に 関 する 学 習 の 転 換 広 島 大 学 附 属 中 高 等 学 校 教 諭 日 浦 美 智 代 氏 講 演 3(14:30~15:10): 開 発 途 上 国 における 教 育 開 発 の 課 題 と 国 際 社 会 の 取 り 組 み 広 島 大 学 大 学 院 国 際 協 力 研 究 科 特 任 准 教 授 小 塚 英 治 氏 全 体 討 論 (15:30~16:30) 3. 講 演 内 容 講 演 1 ラオス タイの 国 境 地 域 で 暮 らす 民 族 の 自 立 支 援 活 動 佐 伯 昭 夫 氏 (NPO 法 人 シャンティ 山 口 事 務 局 長 ) モン 族 は 古 くから 東 南 アジアに 居 住 し ている 民 族 の 一 つであるが,1960 年 代 の ラオス 内 戦 の 戦 火 から 逃 れるためにラオ ス 人 民 民 主 共 和 国 とタイ 王 国 の 国 境 地 域 に 移 り 住 んだ モン 族 は 急 峻 で 過 酷 な 山 林 を 開 墾 し, 焼 き 畑 農 業 を 行 っていた が, 自 給 自 足 の 陸 稲 と 野 菜 のみの 食 糧 事 情 により, 特 に 老 人 や 子 どもの 栄 養 失 調 や 伝 染 病 の 蔓 延 が 常 に 生 活 を 脅 かしてい た 本 講 演 では,NPO 法 人 シャンティ 山 口 による 教 育 を 中 心 とした 生 活 全 般 に 対 する 民 族 の 自 立 を 目 的 とした 支 援 活 動 の 図 1 佐 伯 昭 夫 氏 による 講 演 の 様 子 経 過 と 現 状 について 報 告 された <センサイ 村 における 民 族 自 立 支 援 の 展 開 > 1992 年 からセンサイ 村 (110 戸 800 人 )において, 保 育 園 の 開 設 と, 園 児 80 名 へのタイ 語,タイのしきたりやマナー( 国 旗 の 掲 揚 や 挨 拶 の 習 慣 化 など)の 教 授 を 行 ってきた ま た, 栄 養 失 調 を 改 善 するための 給 食 の 提 供 や 歯 磨 き, 洗 顔, 手 洗 い, 水 浴 など 保 健 衛 生 の 徹 底,および 保 健 衛 生 士 の 雇 用 と 研 修 を 実 施 し, 生 活 の 向 上 を 目 指 した 経 済 的 独 立 を 目 指 し, 女 性 グループによるコミュニティ 形 成, 伝 統 刺 繍 の 保 存 と 換 金 製 品 の 製 作 指 導,ろ 80
うけつ 染 ( 藍 染 )の 保 存 と 技 術 の 継 承 を 促 進 させた 大 人 向 けの 識 字 育 児 保 健 衛 生 教 育 を 実 施 した さらに, 農 業 指 導 を 行 い,タマリンドー,マンゴー,ショウガなど 複 合 農 業 を 導 入 した < 学 生 寮 の 開 設 > 山 岳 地 に 居 住 し, 貧 困 のために 就 学 が 困 難 な 民 族 (モン 族,ミエン 族,アカ 族,タイヤ イ 族,リス 族 )の 中 学 生 や 高 校 生 を 対 象 にした 学 生 寮 を 開 設 した この 学 生 寮 は 学 校 から 徒 歩 10 分 圏 内 に 位 置 し, 生 徒 たちは 畜 産, 養 殖 漁 業, 農 業 などの 作 業 を 行 い, 自 給 自 足 を 目 指 した 寮 生 活 を 送 りながら 学 校 へ 通 うことを 原 則 とした 寮 生 活 は, 寮 生 が 作 成 した 生 活 規 約 に 基 づいて, 寮 生 によって 運 営 されている <トイレの 設 営 事 業 > 衛 生 的 な 生 活 を 送 るために 安 全 で 安 価 なエコトイレを 設 置 した このトイレは, 設 置 の 指 導 を 行 うことで, 原 則 として 使 用 予 定 者 が 設 営 作 業 を 行 った また, 保 育 園 においても 保 護 者 により 設 置 された このようなトイレの 設 置 により 伝 染 病 や 感 染 症 などを 防 止 する とともに, 健 康 管 理 意 識 の 向 上 も 目 指 した < 農 村 開 発 と 森 林 保 全 > 農 業 研 修 や 保 健 衛 生 セミナー, 生 活 環 境 の 学 習 会 などの 研 修 事 業 を 行 った また, 農 業 センターを 設 置 運 営 し, 果 樹 の 育 成 試 験 や 栽 培 技 術 に 関 する 研 修, 指 導 員 の 養 成 などを 行 った さらに, 持 続 可 能 な 農 業 の 推 進 や, 安 全 な 飲 料 水 源 の 確 保, 洪 水 の 軽 減 などを 目 指 して, 環 境 の 修 復 と 森 林 の 再 生 事 業 を 行 った 講 演 2 ESDの 視 点 からの 家 庭 生 活 に 関 する 学 習 の 転 換 日 浦 美 智 代 氏 ( 広 島 大 学 附 属 中 高 等 学 校 教 諭 ) 本 講 演 では, 我 々が 抱 える 課 題 や 生 活 の 裏 側 にある 問 題 について 多 様 な 角 度 か らとらえることで, 持 続 可 能 な 家 庭 生 活 や 日 本 の 生 活 文 化,そして 将 来 に 向 けて どのように 発 展 させていくかについて 考 えさせる 授 業 実 践 について 報 告 された < 高 等 学 校 家 庭 科 におけるESDの 導 入 実 践 > 日 本 の 食 料 自 給 率 は39%と 低 く, 食 料 の 約 6 割 を 海 外 から 輸 入 しているにもか かわらず, 日 本 では 年 間 約 2000 万 トンの 食 糧 廃 棄 物 が 出 ている このうち 約 58% 図 2 日 浦 美 智 代 氏 による 講 演 の 様 子 が 家 庭 から 出 ているものであり, 家 庭 に おける 食 品 ロス 率 は4.1%にもなる このような 現 状 を 問 題 と 考 え, 食 品 ロス,フードマイ レージ, 食 料 自 給 率, 環 境 問 題 を 意 識 した 調 理 実 習 授 業 が 行 われた 材 料 として, 広 島 産 ブランド 豚 肉 の 幻 霜 豚 が 使 用 された 幻 霜 豚 は, 広 島 県 内 のコンビニエンスス トアの 消 費 期 限 賞 味 期 限 切 れ 食 品 を 回 収 し,それを 黒 麹 菌 で 発 酵 させた 栄 養 価 の 高 い 餌 を 食 べて 飼 育 された 豚 である 本 授 業 を 通 して, 食 糧 問 題 を 生 徒 一 人 一 人 が 自 分 のことと 81
して 考 えていくことができると 考 えられ た また, 身 近 な 食 べ 物 であるチョコレ ートを 材 料 として 自 分 たちの 消 費 行 動 を 見 直 し, 地 球 規 模 の 食 糧 問 題 に 取 り 組 む 意 欲 や 能 力 を 育 成 するための 教 育 題 材 の 開 発 について 報 告 された 現 在, 日 本 では 伝 統 的 な 衣 料 制 作 はほ とんど 行 われなくなり, 化 学 繊 維 による ものが 主 流 になっている そして, 衣 料 は 大 量 生 産 大 量 消 費 が 主 流 となり, 廃 棄 衣 料 が 膨 大 な 量 にのぼっている しか 図 3 モン 族 の 刺 繍 の 展 示 し, 我 々の 生 活 に 身 近 で 必 要 不 可 欠 な 衣 料 について, 生 産 過 程 などはほとんど 知 られていないのが 現 状 である 一 方,モン 族 は 刺 繍 の 高 い 技 術 をもち, 現 在 でも 伝 統 的 な 手 法 で 衣 類 などの 布 製 品 を 制 作 している そこ で,モン 族 の 伝 統 的 な 布 製 品 の 作 成 方 法 や 衣 類 文 化 を 高 等 学 校 家 庭 科 の 授 業 で 取 り 扱 うこ とにより, 日 本 の 伝 統 的 な 衣 類 生 活 について 見 直 し,さらに 異 文 化 理 解 にまで 発 展 させる ことができることが 報 告 された < 実 践 の 評 価 と 考 察 > 上 記 授 業 により, 生 徒 たちは 世 界 で 生 じている 問 題 について 現 状 をしっかりと 認 識 し, 身 近 な 所 から 地 産 地 消 に 取 り 組 むことや,フードマイレージ,フェアトレードなど 問 題 の 解 決 に 向 けて 自 ら 考 えることができるようになった 世 界 の 恵 まれない 環 境 に 生 活 するこ どもたちについても, 自 分 のこととして 考 えようとする 気 持 ちが 育 まれた 講 演 3 開 発 途 上 国 における 教 育 開 発 の 課 題 と 国 際 社 会 の 取 り 組 み 小 塚 英 治 氏 ( 広 島 大 学 大 学 院 国 際 協 力 研 究 科 特 任 准 教 授 ) 本 講 演 では, 開 発 途 上 国 における 教 育 開 発 の 課 題 と 国 際 社 会 の 取 り 組 みについて 報 告 された 教 育 目 標 について これまで, 発 展 途 上 国 の 教 育 開 発 では, ミレニアム 開 発 目 標 (Millennium Develop ment Goals: MDGs)や 万 人 のための 教 育 (Education for All: EFA)を 行 ってき た しかし, 現 在, 国 際 社 会 の 動 向 として は,MDGsはPost-MDGsへと 移 りつつあ る 世 界 的 に 見 ると,2008 年 から2010 年 の 図 4 小 塚 英 治 氏 による 講 演 の 様 子 間 に,サブ サハラアフリカにおける 非 就 学 児 の 数 は160 万 人 増 加 した また, 世 界 で2 億 5000 万 人 の 子 どもが4 年 生 までに 小 学 校 を 退 学 したり,あるいは4 年 生 になっても 読 み 書 きができないのが 現 状 である これを 受 けて, 国 際 社 会 の 関 心 は 学 ぶこと(Learning) に 移 ってきた 82
学 校 運 営 プログラムについて 発 展 途 上 国 の 学 校 運 営 プログラムも 変 化 しつつある School Based Management (SBM) とは 教 員 の 人 事 や 学 校 予 算,カリキュラムなどの 権 限 を 政 府 から 学 校 ベースに 移 譲 するこ とである 多 くの 場 合, 学 校 運 営 委 員 会 が 設 立 され, 保 護 者 などのコミュニティ メンバ ーが 学 校 の 運 営 に 関 与 する 近 年 では 地 方 分 権 化 の 流 れを 受 けて, 世 界 銀 行 など 援 助 機 関 は 多 くの 国 でSBMプロジェクトを 導 入 している JICAもアジアやアフリカでSBMプロジ ェクトを 展 開 し, 特 に 西 アフリカで 展 開 している みんなの 学 校 プロジェクト は 大 きな 成 功 をおさめている 4. 研 究 会 の 評 価 広 島 県 内 では, 広 島 県 教 育 委 員 会 等 が 積 極 的 に 実 践 事 例 紹 介 等 によるESD 推 進 に 取 り 組 んで 来 ている そうした 取 り 組 みに 対 して, 本 研 究 会 では ESDは 何 か ということや, ESDの 視 点 から 教 育 を 考 えたり 授 業 を 構 成 したりするための 基 本 的 な 視 座 を 得 る 内 容 の 提 供 を 目 的 としていた そして 生 活 全 般 に 対 する 民 族 の 自 立 を 目 的 とした 支 援 活 動 ( 講 演 1 ), 教 科 教 育 におけるESDと 支 援 活 動 の 教 材 化 ( 講 演 2), 国 際 社 会 が 取 り 組 むべき 課 題 とJICA 等 の 事 例 ( 講 演 3)という 三 方 向 からの 情 報 を 提 供 した その 上 で 展 開 された 全 体 議 論 では,ESDの 要 でもあるつながり 作 り 絆 作 りの 重 要 性 を 一 同 で 再 確 認 することがで きたといえよう 研 究 会 後 のアンケートでは, 表 1のような 結 果 が 得 られた ( 回 答 者 :28 人 /46 人 ) 表 1 研 究 会 後 のアンケート 結 果 質 問 1 ご 勤 務 の 学 校 についてお 尋 ねします 小 学 校 :6 名 / 中 学 校 :2 名 / 高 等 学 校 :4 名 / 大 学 :5 名 / 大 学 生 大 学 院 生 :6 名 高 等 専 門 学 校 :1 名 / 行 政 関 係 :2 名 /その 他 :1 名 / 無 記 入 :1 名 質 問 2 性 別 についてお 尋 ねします 男 性 :13 名 / 女 性 :15 名 質 問 3 年 齢 についてお 尋 ねします 20 代 :7 名 /30 代 :5 名 /40 代 :7 名 /50 代 :5 名 /60 代 :0 名 /70 代 :1 名 / 無 記 入 ::3 名 質 問 4 研 究 会 の 開 催 をどのようにしてお 知 りになりましたか 広 島 大 学 公 式 ウェブサイト:3 名 /ポスター:6 名 /チラシ:8 名 口 コミ:7 名 /その 他 ( 職 場 での 紹 介,web, 案 内 状 等 ):5 名 / 無 記 入 :1 名 質 問 5 本 研 究 会 の 内 容 に 興 味 をもっていただけましたか 十 分 :18 名 /やや 十 分 :8 名 /どちらとも 言 えない:2 名 / 少 し 不 足 :0 名 / 不 足 :0 名 質 問 6 本 研 究 会 の 内 容 によってESDについての 理 解 は 深 まりましたか 十 分 :15 名 /やや 十 分 :10 名 /どちらとも 言 えない:2 名 / 少 し 不 足 :1 名 / 不 足 :0 名 質 問 7 本 研 究 会 の 内 容 は 今 後,ESDを 実 践 しようとした 時 に 役 に 立 つと 思 われますか 十 分 :17 名 /やや 十 分 :9 名 /どちらとも 言 えない:1 名 / 少 し 不 足 :1 名 / 不 足 :0 名 質 問 8 本 研 究 会 に 参 加 されたことにより, 今 後 学 校 教 育 においてESDを 導 入 したり, 発 展 させることに 寄 与 する 視 点 を 得 ることができましたか 十 分 :11 名 /やや 十 分 :12 名 /どちらとも 言 えない:0 名 / 少 し 不 足 :0 名 / 不 足 :0 名 83
無 記 入 :5 名 質 問 9 今 後,ESDに 関 してどのようなテーマの 研 修 会 に 参 加 したいですか 実 践 紹 介 や 交 流 :6 項 目 / 教 材 化 :1 項 目 /カリキュラム:1 項 目 教 科 教 育 :3 項 目 / 幸 福 生 活 将 来 等 のテーマ:3 項 目 質 問 10 本 研 究 会 に 参 加 されて 良 かった 点 など,ご 感 想 を 自 由 にお 書 きください 良 かった 点 に 関 する 記 述 :22 名 ( 学 校 関 係 者 以 外 の 実 践 を 聞 けた/ 教 科 におけるESDの 取 組 を 聞 けた/ 自 分 の 視 点 のバージョンアップになった 等 ) 課 題 改 善 点 に 関 する 記 述 :3 名 ( 参 加 者 の 少 なさに 対 する 懸 念 / 研 究 会 全 体 の 意 図 が 不 明 確 / 学 校 教 育 との 直 接 的 なつながりの 薄 さ) 要 望 等 :3 名 ( 連 携 したい/ 多 様 な 機 関 とつながりたい/ 今 後 も 続 けて 欲 しい) 研 究 会 は 概 ね 好 評 を 得 ており, 参 加 者 から 有 意 義 なものであったと 評 価 されている そ の 中 で, 学 校 大 学 JICAやNPO 法 人 等 の 団 体 等, 機 関 の 別 を 超 えてつながりたいという 要 望 や,そのコーディネーターとして 広 島 大 学 に 機 能 して 欲 しいという 意 見 が 見 られたこ とは 特 徴 的 である それは, 学 校 の 中 のみに 閉 じこもるのではなく, 外 に 目 を 向 け, 様 々 な 場 所 で 多 角 的 にアンテナを 張 ることで 新 しい 教 材 を 開 発 し 続 けることの 重 要 性 が 共 有 さ れていたということを 意 味 するだろう また, 総 合 的 な 学 習 の 時 間 を 使 用 して 行 われるこ とが 多 いESDを, 家 庭 科 のように 特 定 の 教 科 においてどう 実 践 するのかということは 参 加 者 の 関 心 を 強 く 引 きつけていた 教 材 開 発 の 具 体 が 見 えやすかったということと 同 時 に, 教 科 におけるESDの 姿 は 新 鮮 なものに 映 ったとも 考 えられる 本 研 究 会 において,そのようにあらゆる 現 場 で 実 践 を 展 開 する 者 同 士 が 集 い, 互 いにつ ながりあうことの 意 義 と 可 能 性 を 見 出 す 機 会 を 提 供 できたことはひとつの 成 果 だといえよ う そうした 可 能 性 を 見 出 し 見 つめる 眼 の 獲 得 は, 形 として 捉 えることができるわけ ではなく,また 実 際 の 実 践 活 動 を 構 想 する 上 ではほんの 微 々たる 一 歩 のように 見 えるかも しれない 確 かに 実 践 として 形 になったものを 提 供 することは 内 容 としても 分 かりやす く, 明 日 使 えるもの を 求 める 多 忙 な 学 校 現 場 から 具 体 的 な 実 践 事 例 を 知 りたいという 声 があがるのは 当 然 のことである 実 際 に 参 加 者 から, もの 足 りなさ 分 かりにく さ を 感 じたという 意 見 が 寄 せられたのは, 本 研 究 会 で 実 践 事 例 の 紹 介 を 主 な 目 的 としな かったことに 因 ると 推 測 される しかし, 具 体 的 な 教 育 実 践 活 動 を 組 み 立 てようとした 時,そこには 必 ず 何 らかの 理 論 哲 学 が 求 められるはずであり, 研 究 機 関 である 大 学 とし て, 教 育 を 見 直 し 再 構 築 するための 哲 学 としてESDを 普 及 させていくという 姿 勢 もひ とつの 使 命 である これは 今 後 大 学 としてESDに 係 る 研 究 会 を 企 画 立 案 する 上 で 土 台 とす るべき 信 条 のひとつを 獲 得 したと 評 価 できる 本 研 究 会 への 参 加 者 は46 人 であり, 初 めて 開 催 された 昨 年 度 よりは 数 を 伸 ばしているも のの, 当 初 予 定 されていた 人 数 に 比 べてこれは 決 して 多 いといえる 数 字 ではない そもそ も 学 校 教 育 現 場 世 間 一 般 におけるESD ユネスコスクールについての 理 解 が 依 然 として 浸 透 していないということもその 背 景 だと 考 えられる しかし 喫 緊 に 検 討 すべき 課 題 は, 県 内 に 多 く 存 在 する 多 様 なユネスコスクール 支 援 機 関 との 連 携 棲 み 分 けの 徹 底 である 本 研 究 会 を 含 め, 県 内 には 類 似 する 研 究 会 研 修 会 は 数 多 いが,そのどれもが ESDの 推 進 という 漠 とした 大 きな 目 標 を 掲 げており,その 実 現 のためにそれぞれの 団 体 が 担 う 役 84
割 や 特 徴 などが 分 担 明 示 共 有 されているとは 言 いがたい 今 後 は,そうした 支 援 体 制 同 士 の 情 報 共 有 と 役 割 分 担 のために 議 論 を 重 ねることが 求 められるだろう ( 富 川 光 * 中 井 悠 加 *) Ⅴ 研 究 の 成 果 と 今 後 の 課 題 本 年 度 の 成 果 と 課 題 をまとめると 次 のようになる (1) 学 校 現 場 とつなぐ ESD に 関 する 研 究 会 及 び 研 修 会 のあり 方 本 年 度, 教 育 学 研 究 科 ユネスコスクール 委 員 会 主 催 で, 主 に 小 中 高 等 学 校 教 師 向 け の 研 究 会 を 開 催 した 日 頃, 見 聞 きする 機 会 の 少 ないラオス タイ 国 境 地 域 で 暮 らすモン 族 の 生 活 や 広 島 大 学 附 属 中 学 校 の 生 徒 が 製 作 した 絵 本 を 通 じてのモン 族 の 子 どもとの 交 流 など, 研 究 会 の 講 演 内 容 は 参 加 者 にとって 新 鮮 であり, 大 変 好 評 であった このような 研 究 会 を 次 年 度 以 降 も 持 つことが 期 待 された 大 学 以 外 の 研 究 会 としては, 東 広 島 ESD 研 究 会 が 開 催 され,ユネスコスクール 委 員 会 委 員 がシンポジストとして 参 加 した ESD ユネスコスクールの 普 及 推 進 のために 大 学 及 びそれ 以 外 の ESD ユネスコ 関 係 団 体 が 独 自 に 支 援 できる 内 容 と 連 携 して 支 援 できる 内 容 とを 精 査 し, 支 援 の 質 的 向 上 と 量 的 拡 大 をめざした 緊 密 なネットワークを 作 ることが 課 題 であると 考 える (2)ESD ユネスコスクール 加 盟 申 請 書 の 作 成 支 援 について ESD ユネスコスクールの 普 及 推 進 のために 加 盟 申 請 の 支 援 を 行 うことは 教 育 学 研 究 科 ユネスコスクール 委 員 会 に 課 せられた 使 命 である しかし, 申 請 校 の 中 には ESD ユネ スコスクールの 理 念 や 意 義 を 十 分 :に 理 解 しないままに 申 請 を 急 ぐ 場 合 が 散 見 される ACCU を 窓 口 とした 申 請 制 度 の 評 価 と 見 直 しも 含 めて, 申 請 の 効 率 的 なあり 方 を 検 討 する 必 要 がある また, 申 請 後,どのような 授 業 実 践 が 行 われ,いかなる 成 果 を 得 たのかが 十 分 :に 把 握 できていないという 問 題 がある ESD ユネスコスクール 申 請 後, 当 該 学 校 にお ける 実 践 の 指 導 や 評 価 などについても, 大 学 が 積 極 的 に 支 援 していく 必 要 がある ( 柴 一 実 *) 参 考 文 献 文 部 科 学 省 / 日 本 ユネスコ 国 内 委 員 会 (2014a) 2014 年 ユネスコスクールESD 優 良 実 践 事 例 集 ユネスコ アジア 文 化 センター(ACCU) 文 部 科 学 省 / 日 本 ユネスコ 国 内 委 員 会 (2014b) ユネスコスクール 世 界 大 会 - 第 6 回 ユネス コスクール 全 国 大 会 - 抄 録 集 ユネスコ 世 界 会 議 関 連 事 業 ユネスコスクール/ 日 本 ユネスコ 国 内 委 員 会 Webページ: http://www.mext.go.jp/unesco/004/1339976.htm(2015 年 1 月 10 日 確 認 ) ユネスコスクール 世 界 大 会 全 国 大 会 宣 言 起 草 事 例 選 考 委 員 会 ESD 推 進 のためのユネス コスクール 宣 言 (ユネスコスクール 岡 山 宣 言 ) ( 宣 言 案 Version2)(2014) 85