経 済 トレンド 子 ども 手 当 ての 意 義 を 考 える ~ 拙 速 な 廃 止 は 将 来 の 労 働 力 を 質 量 の 両 面 から 減 少 させることに~ 経 済 調 査 部 柵 山 順 子 ( 要 旨 ) 東 日 本 大 震 災 の 復 興 財 源 案 の 一 つとして 子 ども 手 当 ての 廃 止 が 議 論 されている 子 ども 手 当 て 廃 止 が 様 々な 世 帯 にどのような 影 響 を 及 ぼすのかを 確 認 し 子 ども 手 当 ての 意 義 を 確 認 したい 子 ども 手 当 て 導 入 の 目 的 は 1 の 対 象 拡 大 給 付 額 増 額 2 高 所 得 者 に 有 利 とされる 扶 養 控 除 から 直 接 給 付 への 切 り 替 え であった 1は 少 子 化 対 策 であり 2は 再 分 配 政 策 である そのため 子 ども 手 当 て 導 入 により は 吸 収 され 年 少 扶 養 控 除 は 廃 止 された 仮 に 今 後 復 興 財 源 として 子 ども 手 当 てが 廃 止 され が 復 活 した 場 合 子 育 て 世 帯 の 可 処 分 所 得 がどのように 変 化 するのか 見 てみると 年 収 3 万 円 以 上 世 帯 で 扶 養 控 除 廃 止 分 従 来 よりも 給 付 が 減 少 する 高 所 得 者 層 や の 対 象 ではなかった 中 学 の 子 を 持 つ 世 帯 では 負 担 が 増 加 する 子 ども 手 当 てにおいて 給 付 対 象 を 中 学 に 拡 大 したことは 意 味 が 大 きい 給 与 水 準 が 切 り 下 がる 中 学 習 費 負 担 は 中 学 から 大 幅 に 上 昇 する そうした 中 授 業 内 容 の 高 度 化 もあり 追 加 的 な 学 習 費 を 負 担 できる 家 庭 とそうでない 家 庭 の 間 での 教 育 格 差 が 目 立 ち 始 める 時 期 だからである 子 ども 手 当 てについては 所 得 制 限 のあり 方 や 労 働 市 場 改 革 の 進 展 度 合 いなどを 考 慮 しながら 制 度 改 革 をする 必 要 はある 具 体 的 には 扶 養 控 除 廃 止 分 の 一 定 額 + 所 得 逓 減 型 の 給 付 にし 給 付 付 き 税 額 控 除 に 収 束 させることが 一 案 となろう 若 年 層 の 雇 用 が 不 安 定 化 する 中 で 育 児 負 担 を 分 かちあうこと や 高 所 得 層 に 有 利 な 制 度 の 見 直 しなど 趣 旨 は 正 しいと 思 われ 拙 速 な 廃 止 は 日 本 の 中 長 期 的 な 成 長 観 点 からみると 問 題 だ 1. 復 興 財 源 として 見 直 しが 検 討 される 子 ども 手 当 て 29 年 民 主 党 政 権 になり 目 玉 政 策 とされ た 子 ども 手 当 て であるが 11 年 度 につい ては 実 施 が 危 ぶまれる 状 況 が 続 いた とりあ えず 11 年 9 月 までは 実 施 の 目 処 がたったも のの 東 日 本 大 震 災 の 復 興 財 源 として 1 月 以 降 の 廃 止 縮 小 が 再 び 議 論 されている 本 レポートでは 仮 に 1 月 に 子 ども 手 当 て が 廃 止 され が 復 活 した 場 合 に そ うした 政 策 変 化 が 子 育 て 世 帯 の 所 得 にどのよ うな 変 化 を 与 えるのかをみた 上 で 子 ども 手 当 ての 意 義 や 問 題 点 を 確 認 する そして 復 興 財 源 として 廃 止 などを 検 討 するのであれば どのような 問 題 点 を 認 識 しておくべきかを 再 確 認 する また 復 興 後 を 見 据 えた 中 長 期 的 な 視 点 からみて 子 ども 手 当 てのあり 方 を 考 え ることとしたい 2. 子 ども 手 当 て 導 入 の 経 緯 はじめに 子 ども 手 当 て 導 入 の 目 的 を 確 認 し たい 9 年 に 発 表 された 民 主 党 のマニフェスト によると 子 育 ての 心 配 をなくし みんなに 教 育 のチャンスを 与 えます 社 会 全 体 で 子 育 てする 国 にします という 目 標 のもと 子 ど も 手 当 ての 導 入 高 校 授 業 料 の 無 償 化 大 学 な どの 奨 学 金 制 度 拡 大 の 実 施 が 挙 げられた 子 ど も 手 当 てに 関 する 各 論 をみると 政 策 目 的 は 次 第 一 命 経 済 研 レポート 211.6
代 の 社 会 を 担 う 子 ども1 人 ひとりの 育 ちを 社 会 全 体 で 応 援 する 子 育 ての 経 済 的 負 担 を 軽 減 し 安 心 して 出 産 し 子 どもが 育 てられる 社 会 をつくる とされている つまり 子 ども 手 当 て 導 入 には 日 本 の 将 来 のためには 子 どもが 必 要 であり 子 育 て 費 用 は 広 く 社 会 で 負 担 しよ うという 意 図 があった そのため か ら 額 を 増 額 し 対 象 を 中 学 にまで 拡 大 した 一 方 で 具 体 策 として 相 対 的 に 高 所 得 者 に 有 利 な 所 得 控 除 から 中 低 所 得 者 に 有 利 な 手 当 てなどに 切 り 替 える とされた つまり 子 ども 手 当 てで 所 得 制 限 が 撤 廃 されたのは 扶 養 控 除 の 廃 止 とセットであったためだ 結 果 とし て ( 所 得 制 限 あり)+ 扶 養 控 除 ( 高 所 得 層 に 有 利 )が 子 ども 手 当 て( 所 得 制 限 なし) に 一 本 化 されたということだ このように 子 ど も 手 当 ての 導 入 には 1 からの 対 象 支 給 額 の 拡 大 という 少 子 化 対 策 2 控 除 から 給 付 への 切 り 替 えといった 所 得 再 分 配 的 な 狙 いの 2つがあった こうして 漕 ぎ 出 した 子 ども 手 当 てであるが 当 初 から 導 入 に 難 航 した 初 年 度 1 年 度 はとり あえず 成 立 したものの 当 初 想 定 していた 配 偶 者 控 除 廃 止 が 難 航 し 財 源 の 目 処 が 経 たない 中 1 年 6 月 には 早 くも 11 年 度 からの 26, 円 へ の 増 額 を 断 念 せざるを 得 なくなった 年 少 扶 養 控 除 の 廃 止 に 伴 い 月 額 13, 円 のままでは 従 来 が 1, 円 と 多 額 であった3 歳 未 満 児 童 について 給 付 が 減 るという 事 態 を 防 ぐため 3 歳 児 未 満 のみ 月 額 2, 円 に 増 額 する 案 も 出 たが 地 震 復 興 支 援 の 必 要 性 が 重 視 される 中 増 額 案 での 成 立 は 困 難 となり 月 額 13, 円 の ままで 延 長 期 間 半 年 のつなぎ 法 案 をどうにか 年 度 末 に 通 すという 綱 渡 りが 続 いた さらには 復 興 財 源 として 1 月 以 降 の 子 ども 手 当 て 廃 止 を 訴 える 声 が 出 てきており 子 ども 手 当 ての 先 行 きは 非 常 に 不 安 定 な 状 況 である そのような 中 ではあるが もう 一 方 の 所 得 控 除 の 廃 止 は 粛 々と 進 められており すでに 11 年 1 月 からは 所 得 税 における 年 少 扶 養 控 除 が 廃 止 され 12 年 6 月 には 住 民 税 における 年 少 扶 養 控 除 も 廃 止 される 見 込 みである 3. 子 ども 手 当 て 廃 止 が 可 処 分 所 得 に 与 え る 影 響 今 後 上 述 のような 制 度 変 更 が 実 施 された 場 合 各 世 帯 にどのような 影 響 がでるのか 試 算 し た 想 定 したのは 世 帯 主 と 専 業 主 婦 の 妻 子 1 人 の3 人 世 帯 である ここでは 制 度 の 変 遷 に 応 じて5つの 期 間 に 分 けた 19 年 度 までの 児 童 手 当 時 代 (3 歳 未 満 1, 円 3 歳 以 上 小 学 まで 5, 円 所 得 制 限 あり) 21 年 4 月 ~12 月 までの 子 ども 手 当 て 時 代 ( 中 学 まで 13, 円 所 得 制 限 なし) 3 子 ども 手 当 ての 支 給 と 所 得 税 扶 養 控 除 廃 止 が 行 われている 現 在 の3 期 と 今 後 については 子 ども 手 当 てが 廃 止 され が 復 活 すると 想 定 し 411 年 1 月 ~12 年 5 月 には の 支 給 と 所 得 税 扶 養 控 除 廃 止 の 継 続 512 年 6 月 以 降 についてはさら に 住 民 税 の 扶 養 控 除 も 廃 止 されると 仮 定 した そして この5 期 において 世 帯 の 可 処 分 所 得 が 支 援 策 によってどの 程 度 支 えられているのかを 子 どもの 年 齢 に 応 じた3つのケースで 試 算 した 世 帯 については 所 得 税 と 住 民 税 の 合 計 税 率 別 に 分 けている (1)3 歳 未 満 の 子 1 人 の 場 合 ( 資 料 1) 3 歳 未 満 の 子 の 場 合 の 給 付 が 1, 円 と 比 較 的 多 額 である それでも 扶 養 控 除 が 廃 止 される 影 響 で 差 し 引 きの 支 援 額 は 5, 円 程 度 へ 減 少 する さらに の 対 象 とならない 世 帯 においては 支 援 が 打 ち 切 ら れる 一 方 で 扶 養 控 除 が 廃 止 されるため 9 年 度 よりも 負 担 が 増 え 年 収 78 万 円 ~1,23 万 円 世 帯 では 月 に 1, 円 近 い 負 担 増 となる (2)3 歳 から 小 学 の 子 1 人 の 場 合 ( 資 料 2) 3 歳 から 小 学 の 子 の 場 合 の 給 付 が 5, 円 となる 非 課 税 世 帯 では 支 援 額 が 子 ども 手 当 て 13, 円 から 5, 円 に 減 少 する 課 税 世 帯 では 扶 養 控 除 廃 止 による 税 負 担 増 加 分 との 差 し 引 きでみると 支 援 がほ ぼゼロとなってしまうほか の 対 象 でない 世 帯 においては(1)の 場 合 同 様 9 年 度 より 月 に 1, 円 程 度 負 担 が 増 える 第 一 命 経 済 研 レポート 211.6
資 料 1 月 あたり 可 処 分 所 得 への 影 響 ( 主 婦 +3 歳 未 満 の 子 ) ( 円 ) 15 1 5 給 付 減 時 代 (29 年 度 まで) 子 ども 手 当 時 代 (21.4-12) -5-1 -15 非 課 税 世 帯 (3 万 円 以 下 ) 15% 世 帯 2% 世 帯 (3~6 万 円 ) (6~78 万 円 ) 所 得 税 と 住 民 税 の 合 計 税 率 負 担 増 3% 世 帯 (78~123 万 円 ) 子 ども 手 当 (211.1-9) (211.1-212.5) 住 民 税 控 除 廃 止 (212.6-) 資 料 2 月 あたり 可 処 分 所 得 への 影 響 ( 主 婦 +3 歳 ~ 小 学 の 子 ) ( 円 ) 15 時 代 (29 年 度 まで) 1 5 子 ども 手 当 時 代 (21.4-12) -5 子 ども 手 当 (211.1-9) -1 (211.1-212.5) -15 非 課 税 世 帯 (3 万 円 以 下 ) 15% 世 帯 (3~6 万 円 ) 所 得 税 と 住 民 税 の 合 計 税 率 2% 世 帯 (6~78 万 円 ) 3% 世 帯 (78~123 万 円 ) 住 民 税 控 除 廃 止 (212.6-) 資 料 3 月 あたり 可 処 分 所 得 への 影 響 ( 主 婦 + 中 学 の 子 ) ( 円 ) 15 1 5 時 代 (29 年 度 まで) 子 ども 手 当 時 代 (21.4-12) -5-1 子 ども 手 当 (211.1-9) (211.1-212.5) -15 非 課 税 世 帯 (3 万 円 以 下 ) 15% 世 帯 2% 世 帯 (3~6 万 円 ) (6~78 万 円 ) 所 得 税 と 住 民 税 の 合 計 税 率 3% 世 帯 (78~123 万 円 ) 住 民 税 控 除 廃 止 (212.6-) ( 出 所 ) 各 種 資 料 より 筆 者 計 算 ( 注 ) 収 入 は 給 与 とし 給 与 所 得 控 除 基 礎 控 除 配 偶 者 控 除 配 偶 者 特 別 控 除 社 会 保 険 料 控 除 を 考 慮 した 社 会 保 険 料 は 収 入 の 13% とした 可 処 分 所 得 は 収 入 から 所 得 税 住 民 税 社 会 保 険 料 を 引 いたもの (3) 中 学 の 子 1 人 の 場 合 ( 資 料 3) 中 学 の 場 合 はそもそも の 対 象 で はないため 非 課 税 世 帯 で 支 援 ゼロ 課 税 世 帯 においては 扶 養 控 除 廃 止 分 だけ 9 年 度 より も 負 担 が 高 まる 年 収 3 万 円 ~6 万 円 程 度 という 子 育 て 世 帯 の 中 心 所 得 であり 高 所 得 とは 言 えない 世 帯 においても 月 に 5, 円 近 い 負 担 増 となる 第 一 命 経 済 研 レポート 211.6
これまで 見 てきた 推 移 は 税 率 ごとの 区 分 で あったが 実 際 には 所 得 控 除 の 廃 止 による 課 税 対 象 所 得 の 増 加 により これまで 非 課 税 世 帯 だった 世 帯 への 課 税 や 税 率 テーブルの 繰 り 上 がりの 影 響 で 大 幅 な 増 税 となる 世 帯 も 多 い 具 体 的 には 子 持 ち 世 帯 の 課 税 最 低 限 所 得 が 低 下 することにより 年 収 24~29 万 円 世 帯 で 最 大 年 間 6 万 円 の 増 税 となる また 税 率 テ ーブルの 繰 り 上 がりにより 年 収 55~6 万 円 世 帯 で 16 7 万 円 の 増 税 74~78 万 円 世 帯 では 4 万 円 を 超 える 大 幅 な 増 税 となる 以 上 の 試 算 をもとにすれば 年 少 扶 養 控 除 の 復 活 なしに 子 ども 手 当 ての 廃 止 ( の 復 活 )を 実 施 するなら 高 所 得 層 はもとよ り 3 万 円 ~6 万 円 という 多 くの 子 育 て 世 帯 でも 子 どもが3 歳 を 超 えると 給 付 がほぼゼ ロとなるなど 実 態 的 には3 歳 未 満 の 子 を 持 つ 世 帯 と 非 課 税 世 帯 のみへの 支 援 となる ま た の 対 象 とならない 中 学 以 上 で は 24 万 円 以 上 の 世 帯 では 子 ども 手 当 て 導 入 前 と 比 べると 負 担 増 となる さらに 課 税 対 象 所 得 の 増 加 により より 大 きな 負 担 増 を 強 いられる 世 帯 もでてくる 扶 養 控 除 の 廃 止 に あたっては これまで 所 得 制 限 のあった 児 童 手 当 の 所 得 制 限 のない 子 ども 手 当 てへの 変 更 がセットとなっていた 子 ども 手 当 てを 廃 止 し を 給 付 しても 所 得 控 除 の 廃 止 を 撤 回 することがなければ 子 育 て 世 帯 の 多 く で 支 援 減 負 担 増 となるのである 仮 に 年 少 扶 養 控 除 の 復 活 と とい う 対 応 にした 場 合 には 9 年 度 に 戻 るという ことで 給 付 額 は 低 下 するものの 新 たな 負 担 増 というような 問 題 の 多 くは 解 決 されるが そ れにより 捻 出 できる 財 源 は 8,~9, 億 円 程 度 にとどまる 4. 子 ども 手 当 ての 意 義 これまで 見 てきたとおり 子 ども 手 当 てを に 戻 すにあたっては 年 少 扶 養 控 除 の 廃 止 も 取 りやめなければ 問 題 が 多 く 一 方 で そうした 対 応 を 取 った 場 合 には 復 興 に 回 せる 財 源 が 限 定 的 になる にもかかわらず 増 税 の 前 にまずはこれら 政 策 の 廃 止 を 行 うべきと の 声 は 根 強 い ここではまずしばしば 目 にす る 子 ども 手 当 てへの 批 判 を 検 証 し 次 に 子 ど も 手 当 ての 意 義 を 確 認 したい (1) 子 ども 手 当 てに 向 けられる 批 判 1 所 得 制 限 を 付 与 すべきだ そもそも 子 ども 手 当 てにおいて 所 得 制 限 が 廃 止 されたのは 控 除 から 給 付 に 切 り 替 えることで 高 所 得 層 に 有 利 な 制 度 を 廃 止 しようという 狙 い があったからである 高 所 得 層 はその 分 高 額 の 税 負 担 軽 減 効 果 を 失 っており 差 し 引 きで 得 た 支 援 額 は 年 収 8 万 円 世 帯 で 月 に 3,5 円 年 収 1,2 万 円 世 帯 で 2,5 円 と 限 定 的 なもので ある 現 在 の 日 本 の 社 会 保 障 制 度 においては 将 来 世 代 が 現 役 世 代 の 年 金 など 社 会 保 障 を 賄 うこ とになり 高 所 得 層 の 子 であれ 将 来 の 私 たち の 社 会 保 障 を 支 えてくれる 人 材 であることに 変 わりはない また 子 どもは 将 来 の 日 本 経 済 活 性 化 の 源 泉 であることを 考 慮 するならば 高 所 得 層 だからという 理 由 で 子 育 て 支 援 の 給 付 を 批 判 することが どれほど 合 理 的 なことであるか は 疑 問 である 一 方 高 所 得 世 帯 に 給 付 制 限 をつけることで 子 ども 手 当 てをより 有 効 な 制 度 に 改 善 できる 可 能 性 は 十 分 にある 高 所 得 世 帯 においては 税 負 担 増 加 分 を 埋 め 合 わせる 程 度 の 給 付 に 押 さえ その 分 を 低 所 得 課 税 世 帯 に 手 厚 く 支 給 できれば より 良 い 制 度 となろう 2 子 どものために 使 われているのか 不 透 明 昨 年 12 月 に 公 表 された 厚 労 働 省 の 資 料 によ れば 子 ども 手 当 ての 使 途 ( 複 数 回 答 )として 1 位 に 挙 げられたのは 子 どもの 将 来 のための 貯 蓄 保 険 料 (41.6%)であり 4 位 には 家 庭 の 日 常 活 費 (13.8%)が 入 ったものの それを 除 けば7 位 までは 子 ども 向 けの 支 出 が 占 めた また では 対 象 にならなかった 中 学 の 子 がいる 世 帯 についてみれば 他 の 世 帯 で 貯 蓄 が1 位 となる 中 学 校 外 教 育 費 が1 位 となっている 後 述 の 通 り 中 学 校 時 代 は 世 帯 所 得 の 差 による 教 育 の 差 が 目 立 ち 始 める 時 期 で 第 一 命 経 済 研 レポート 211.6
あることを 考 えると こうした 傾 向 は 非 常 に 好 ましい 確 かに 教 育 など 一 定 の 目 的 にのみ 使 えるク ーポン 制 にすることは 検 討 に 値 するが 現 状 を 見 る 限 り そうした 対 応 をとらなくても 家 計 は 十 分 に 政 策 目 的 に 沿 った 行 動 をとっている 加 えて 使 途 を 子 どものために 限 定 利 用 できない 理 由 としては 家 計 に 余 裕 がないため (64.2%)が 圧 倒 的 に 多 い 子 育 て 世 帯 をとり まく 所 得 環 境 が 悪 化 していることを 考 慮 すれば 教 育 は 重 要 ではあるが 教 育 の 土 台 に 活 がある ことは 明 白 である 教 育 に 限 定 しないことで 支 援 できる 世 帯 もあり 現 金 支 給 であることに 問 題 はないと 思 われる 3 保 育 所 設 立 などの 方 が 効 果 的 だ OECDを 筆 頭 に 子 ども 手 当 てのような 現 金 給 付 よりも 保 育 所 整 備 などの 方 が 少 子 化 対 策 としての 効 果 も 高 いとする 研 究 は 多 い 筆 者 も 保 育 所 設 置 は 女 性 の 就 労 継 続 を 促 進 し 出 産 へのハードルを 下 げるという 意 味 で 非 常 に 重 要 であると 考 える しかし 日 本 の 現 実 をみると 保 育 所 設 置 だけで は 解 決 しない 問 題 も 多 い 育 児 休 業 制 度 などが 十 分 に 整 備 され 活 用 できる 大 企 業 正 規 雇 用 者 に 対 しては 保 育 所 設 営 による 支 援 は 意 味 が 大 きく 出 産 抑 制 を 軽 減 する 効 果 があるとみられる 一 方 で 育 児 休 業 制 度 の 活 用 がままならない 中 小 企 業 や 非 正 規 雇 用 の 労 働 者 においてはそもそも 妊 娠 や 出 産 と 同 時 に 退 職 することが 多 い けれ ども 出 産 を 機 に 退 職 した 女 性 の 再 就 職 は 非 常 に 困 難 であり その 障 害 は 保 育 所 への 入 園 が 難 しいからということに 限 らない 育 児 休 業 を 取 りやすい また 一 旦 退 職 しても 再 就 職 が 容 易 で あるような 労 働 市 場 への 改 革 が 進 まなければ 保 育 所 設 置 だけで 対 応 できる 世 帯 は 限 られる 母 親 の 就 業 環 境 が 十 分 に 整 備 された 後 には 徐 々に 資 金 を 直 接 給 付 から 保 育 所 設 置 や 学 童 保 育 の 充 実 へと 振 り 向 けることに 意 味 があるが そうした 労 働 環 境 の 整 備 が 十 分 でない 内 に 手 当 てを 保 育 所 設 置 に 切 り 替 えると 支 援 の 外 に 取 り 残 される 子 育 て 世 帯 が 多 数 出 ることになろう 現 段 階 で 給 付 を 打 ち 切 り 保 育 所 設 置 費 用 に 回 すというのは 時 期 尚 早 ではないだろうか さらに 諸 外 国 対 比 でみると 日 本 の 子 育 て 支 援 は 保 育 所 などへの 支 出 だけでなく 直 接 の 家 計 支 援 も 非 常 に 少 ない 直 接 給 付 か 保 育 所 設 営 かというのは 女 性 の 就 労 政 策 にも 絡 む 複 雑 な 問 題 であり 現 段 階 では 両 者 がそろわなけれ ば 子 育 て 世 帯 をカバーできない これらは 二 者 択 一 ではないのだ (2) 子 ども 手 当 ての 長 所 次 に 子 ども 手 当 ての 優 れている 点 について 見 てみたい 子 ども 手 当 てと を 比 較 す ると まず 給 付 額 の 拡 大 が 挙 げられる それ 自 体 も 重 要 ではあるが ここでは 中 長 期 的 な 日 本 経 済 の 成 長 に 資 する 点 として 給 付 対 象 を 中 学 までに 拡 大 したことを 評 価 したい 非 正 規 雇 用 の 増 加 や 賃 金 カーブのフラット 化 などを 背 景 に 子 育 て 世 帯 の 所 得 環 境 は 悪 化 傾 向 にある 例 えば 夫 婦 と 中 学 の 子 が1 人 とい 資 料 4 夫 婦 と 子 一 人 世 帯 : 世 帯 主 勤 め 先 収 入 資 料 5 夫 婦 と 子 一 人 世 帯 : 平 均 貯 蓄 率 (%) ( 月 万 円 ) 6 55 5 45 4 35 3 2 歳 以 下 3~6 歳 小 学 中 学 高 校 1999 24 29 大 学 ( 出 所 ) 総 務 省 全 国 消 費 実 態 調 査 ( 出 所 ) 総 務 省 全 国 消 費 実 態 調 査 2 15 1 5-5 -1-15 2 歳 以 下 3~6 歳 小 学 中 学 高 校 1999 24 29 大 学 第 一 命 経 済 研 レポート 211.6
う 世 帯 の 世 帯 主 の 収 入 についてみると この 1 年 で 月 に5 万 円 1 割 も 低 下 している( 資 料 4) こうした 中 塾 などの 学 校 以 外 の 学 習 費 の 負 担 が 高 まる 中 学 以 降 家 計 の 貯 蓄 率 は 低 下 し 始 め 高 校 大 学 入 学 時 には 赤 字 におちいる( 資 料 5) このような 苦 しい 家 計 状 況 の 結 果 学 習 費 を 十 分 にかけられる 世 帯 と 余 裕 のない 世 帯 との 間 に 教 育 格 差 が まれている そうした 差 は 小 学 の 間 は 目 立 たないが 塾 などの 活 用 が 増 える 中 学 になると 目 立 ち 始 める 平 成 22 年 度 全 国 学 力 学 習 状 況 調 査 の 結 果 によると 低 所 得 の ために 就 学 援 助 を 受 ける 徒 が 少 ないクラスほ どテストの 正 答 率 が 高 い 傾 向 にある こうした 傾 向 は 小 学 6 年 時 点 では 相 関 係 数 で.8 前 後 の 弱 いものであるが 中 学 3 年 になると.19 とかなり 強 い 相 関 を 示 す 科 目 が 出 てくる ( 資 料 6) 資 料 6 就 学 援 助 を 受 ける 徒 数 と 正 答 率 の 相 関 関 係.2.18.16.14.12.1.8.6.4.2. 小 学 中 学 国 語 A 国 語 B 算 数 A 算 数 B ( 出 所 ) 文 部 科 学 省 平 成 22 年 度 全 国 学 力 学 習 状 況 調 査 少 子 化 対 策 の 目 的 が 将 来 の 労 働 力 確 保 である とするならば 子 どもの 教 育 水 準 の 低 下 は 労 働 力 の 質 にかかわる 大 きな 問 題 である 前 述 の 通 り 中 学 の 子 を 持 つ 世 帯 において 子 ども 手 当 てが 教 育 費 に 使 われていることを 考 えると 教 育 費 負 担 がかさむ 中 学 世 帯 への 給 付 は 重 要 で あり 安 易 に へ 戻 るべきではない 5. 拙 速 な 廃 止 は 中 長 期 的 に 問 題 復 興 は 急 を 要 するものではあるが そのため に 日 本 の 中 長 期 的 課 題 に 逆 行 することは 望 まし くない また 本 来 復 興 財 源 は 専 ら 子 育 て 世 帯 に 負 担 させるのではなく 広 く 国 民 が 負 担 を するべきものである こうした 状 況 を 考 えると 仮 に 子 ども 手 当 てを 復 興 財 源 とするのであれば それが 非 常 事 態 の 対 応 であることを 認 識 しつつ その 状 態 を 長 期 化 させず 期 限 付 きとするべき であろう 加 えて 扶 養 控 除 が 廃 止 されている ことを 考 慮 し 特 に 新 たに 課 税 対 象 となる 低 所 得 層 や 中 学 の 子 を 持 つ 世 帯 への 十 分 な 配 慮 が 必 要 である また 復 興 体 制 が 整 った 後 には 日 本 の 中 長 期 的 課 題 への 対 応 として 再 び 少 子 化 対 策 に 力 を 入 れるべきである 子 ども 手 当 てについては 給 付 額 は 世 界 的 にみても 決 して 多 くはなく 若 年 層 の 雇 用 が 不 安 定 化 する 中 で 育 児 負 担 を 分 かちあうことで 産 み 育 てやすい 環 境 をつくろ うという 趣 旨 は 正 しいと 思 われる 所 得 制 限 の 撤 廃 についても その 本 来 の 趣 旨 は 高 所 得 層 に 有 利 な 制 度 の 見 直 しであり 合 理 的 である 母 親 の 就 労 環 境 整 備 が 十 分 でない 中 教 育 格 差 の 広 がる 中 学 の 子 どもを 持 つ 世 帯 の 所 得 環 境 が 厳 しくなる 中 で 子 ども 手 当 てが 果 たしている 役 割 は 大 きい 将 来 的 には 所 得 制 限 のあり 方 や 労 働 市 場 改 革 の 進 展 度 合 いなどを 考 慮 しながら 子 ども 手 当 ては 発 展 的 に 制 度 を 改 革 していくこ とが 求 められよう 具 体 的 には 扶 養 控 除 廃 止 分 相 当 の 一 定 額 + 所 得 逓 減 型 の 給 付 にすることな どが 一 考 となろう 加 えて 母 親 の 就 労 環 境 が 整 えば こうした 給 付 は 保 育 所 整 備 などにも 振 り 分 けたり 手 当 てを 給 付 付 き 税 額 控 除 とした りすることで 母 親 の 就 労 を 促 進 することも 出 来 るだろう 以 上 見 てきたとおり 現 在 は 非 常 事 態 では あるものの 子 ども 手 当 の 安 易 な 廃 止 は 子 育 て 世 帯 への 負 担 増 加 を 招 き さらなる 少 子 化 の 進 展 や 教 育 が 不 十 分 な 子 どもの 増 加 を み 出 す 恐 れがあり 日 本 の 中 長 期 的 な 成 長 観 点 からみると 問 題 だ 財 源 の 手 当 てにあたっ ては 十 分 な 配 慮 を 行 い 中 長 期 的 には 労 働 市 場 改 革 や 税 社 会 保 障 改 革 とあわせながら 少 子 化 対 策 に 取 り 組 む 必 要 がある さくやま じゅんこ( 副 主 任 エコノミスト) 第 一 命 経 済 研 レポート 211.6