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①H28公表資料p.1~2

【資料2】緊急提言(委員意見反映)

Transcription:

教育心理学研究,₂₀₁₈,₆₆,67-80 67 教員の管理職志向への規定要因 ロールモデルとマネジメント経験に焦点をあてて 川崎知已 * 飯田順子 ** 本研究の目的は, 一般教員が学校管理職を志向する規定要因を探索的に検討することであった まず, 予備調査 Ⅰで管理職候補者 ₅ 名を対象にインタビュー調査を行い, 過去の職務上での経験, 教員として現在持っている効力感や職業観, 認知, 将来展望としての学校管理職志向に関連する要因が収集された 次に, 予備調査 Ⅱで, 校長候補者 ₆₈ 名に自由記述調査を行い, ロールモデルとなる管理職の人物像, 公立学校教員職業観に関するより詳細な内容を収集した それを踏まえ, 本調査では, 全国公立小 中学校の一般教員 ₃₁₀ 名を対象に web 調査を実施し, 学校管理職に影響を与える要因について, 重回帰分析を用いて検討した その結果, 学校マネジメント経験から得た 職務達成感 と, 専門的識見 改革型リーダー機能 を有するロールモデルとの出会いが, 組織貢献効力感 校長職に対する肯定的認知 の ₂ 変数を介して, 学校管理職志向に間接的に影響を与えることが明らかになった キーワード : 学校管理職, 管理職志向, ロールモデル, 学校マネジメント経験, 教師教育 問題と目的 東京都教育委員会 (₂₀₁₅) は, 近年校長 副校長 教 ₁ 頭の大量退職が進む一方, 教育管理職選考受験者数の 低迷の状況が続いており, 学校管理職である校長 副校長 教頭の人材確保が難しいことを述べている 東京都に限らず, 学校管理職選考の受験倍率の低下等の現象を踏まえ, 学校管理職候補者の育成 確保が, 大都市を中心に全国的な課題であることが指摘されている ( 中央教育審議会初等中等教育分科会チームとしての学校 教職員の在り方に関する作業部会, ₂₀₁₅; 大杉他, ₂₀₁₄) このような現状を踏まえ, 東京都教育委員会 (₂₀₁₅) では, 管理職としての育成の対象を, 教員採用時にまで広げ, 早期の段階から各教員にキャリアアップを意識させることが重要であると指摘している また, 採用後間もないうちから, 管理職にならせたい人材 を見出し, 将来の管理職として育成すること, その際, 教員に対して, 学校マネジメント能力を育成するためのアプローチや, 管理職を含め指導者がよきロールモデルとなることが重要であるという人材育成方針を打ち出している 学校管理職への任用制度について, 文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課 (₂₀₁₁) は,₄₇ 都道府 * 千葉商科大学商経学部 ₂₇₂-₈₅₁₂ 千葉県市川市国府台 ₁-₃-₁ R₆₀₇ 研究室 chiki-kw@cuc.ac.jp ** 筑波大学 県教育委員会及び ₁₉ 指定都市教育委員会 ( 合計 ₆₆ 自治体教育委員会 ) のうち,₆₅ の教育委員会が, 小論文や作文による筆記試験 (₆₂ 自治体 ), 個人面接 (₆₁ 自治体 ) 等による管理職選考試験を実施していることを明らかにした そのうち, 管理職選考試験の出願に必要な条件として, 校長等の推薦を必要とする道府県, 政令指定都市は,₅₉( 複数回答あり ) あるものの,₄₇( 複数回答あり ) 都道府県, 政令指定都市では, 受験希望者が校長や教育委員会等の推薦なしに出願が可能であることを明らかにした つまり, 管理職等の推薦があったとしても, 本人の意思で管理職選考を受ける制度となっている都道府県, 政令指定都市が ₇ 割を占め, 学校管理職の育成 確保の過程には, 教員自らが管理職を希望するという側面があるため, 学校管理職候補者の育成 確保を考える上で, 教員の管理職志向性に影響を与える要因の検討が必要になる 教員の管理職志向性については, 次のような研究がある ベネッセ教育総合研究所 (₂₀₁₀) は, 全国的に見たときに, 将来的に管理職を志向する者は, 小学校, 中学校とも ₁ 割から ₁.₅ 割程度であり, 大半の一般教員は, 管理職を志向していない可能性があることを示している また, 東京都公立学校教員を対象として実施した調査では, 管理職選考を受験しない一般教員の意識として, 児童 生徒と関わる時間の減少, 自己の ₁ 教育管理職とは, 学校管理職である校長, 副校長, 教頭に加えて, 校長や教員から任用された教育委員会事務局や教育センター等における管理職を含めた総称である

68 教育心理学研究第 ₆₆ 巻第 ₁ 教育理念や力量の不足, 精神的ストレスの多さ等が挙げられている ( 高瀬, ₂₀₁₅) また, これら教員の管理職志向性の回避理由 阻害要因に関する研究に加えて, 教員の管理職志向性の促進要因についての研究も, 複数見られる まず, 高野他 (₂₀₁₃) は, 男女校長及び校長経験者からのインタビューによる分析から, 教育管理職等から何らかの仕事や役割を与えられ, その過程で力量を形成, 発揮することが管理職志向性に影響を与えることを明らかにした また, 塚田 (₁₉₉₇) は, 高校教師のライフヒストリーの聞き取り調査に基づく分析から, 学校経営の手腕と興味, 有力 校長との出会いが, 管理職志向性に影響を与えていたことを示している 塚田 (₁₉₉₇) で紹介されている 有力 校長は, 県教育委員会に働きかけ, 学校組織のあり方を学ばせる目的で, 聞き取り調査協力者である教員を県の短期海外派遣に送るなど, 実行力 影響力が高い人として描かれている 同様に, 川村 (₂₀₁₂) は, 小学校校長のライフヒストリーに基づく分析から, 学校全体を見渡す必要のある校務分掌経験 ( 学校マネジメント経験 ) と重要な他者との出会いや重要な他者からの働きかけ, 教育実践家としての成熟, 加齢等が, 一般教諭を管理職へと導くことを明らかにしている 教員の管理職志向性の促進要因について, これまでの研究の多くがライフヒストリー研究であり, 定量的に検討されているものはほとんど見られない また, これらの研究では, 調査方法として, 校長職経験者の回顧法による面接が用いられており, 一般教員の管理職志向性を明らかにするという点では, 研究対象者に偏りがあると言える 一般教員を対象として意識を調査したものは, 教員の管理職志向性の阻害要因については, 前述のベネッセ教育総合研究所 (₂₀₁₀), 高瀬 (₂₀₁₅) があるが, 管理職志向性の促進要因も含め, 管理職志向性に影響を与える要因を定量的に検討している研究はほとんど見られない 教員のキャリア発達に関する先行研究として, 古屋 (₂₀₀₉), 岩根 長島 小野 古屋 (₂₀₁₀), 徳舛 (₂₀₀₇) などがある それらの研究の結果から, 若手教員は, 先輩格の熟達した教員, 同僚の教員, 保護者, 児童生徒, 経験, 地域性等の育成資源に接する可能性や機会が増加し, それらと相互に作用しあうダイナミックな社会的相互交渉の過程を経て, 教員のキャリア発達が達成されていくことが明らかになっている しかしながら, 教員のリーダーの育成 開発と職業観の発達についての研究や, 管理職までを視野に入れた研究は, ほとんど見られない 一方, 教員以外の職業に着目したとき, 一般企業における管理職志向の促進要因について定量的に検討している研究がいくつか見られる 三輪 (₂₀₁₁) は, 管理職志向をもつ者は, 対人的な交流を通して, キャリア発達が促されることを, 質的, 量的研究の両面から明らかにしている 高橋 (₂₀₁₂) は, 自己効力感が管理職志向性に影響を与えることを示している また, 杉崎 (₂₀₀₉) は, 上司による熱心な育成経験, 新人や後輩の育成経験, マネージャーとしての役割の遂行 ( マネジメント経験 ) が, 管理職志向性に影響を与える要因であることを量的研究で明らかにしている さらに, 一般企業等におけるリーダーの育成 開発と職業観の発達においては, ロールモデル 成功モデル, キャリアモデルの存在が, 職業観の発達, 職業意識の高さ, キャリア パースペクティブ, 自己効力感, 自己実現意欲, 自立意識に影響を与えることが明らかになっている (Bandura, ₁₉₇₁ 原野 福島共訳 ₁₉₈₅; 金井 三後, ₂₀₀₄; 松本, ₂₀₀₈; McCall, ₁₉₉₈ 金井監訳 ₂₀₀₀) しかし, 入社当初から, 人材育成の観点が強く, 段階を踏んで昇進していくシステムが根づいている一般企業の調査結果は, 教員の管理職志向性に当てはまらない可能性も大きい そこで, 教員の昇任システムと類似した状況があると考えられる公務員の昇任に関する研究に, 深田 (₂₀₁₅) がある 深田 (₂₀₁₅) は, 自治体職員の昇任意識への影響要因を検討し, 責任 権限のもてる仕事ができる, 能力や創意性の発揮できる仕事につける, 自分の裁量で仕事ができる, 権限の大きな仕事ができる, マネジメントに直接的に参加できる など, 自分は仕事ができると思えることと, 仕事を積極的にやりたいという価値志向をもっていることが, 促進要因となることを明らかにした これまで挙げてきた先行研究から, 以下の点が明らかになった 教員の管理職志向性についての研究は, ライフヒストリー研究からのアプローチはあるが, 量的研究を行っているものはほとんどない 質的研究で明らかになった重要な要因である 有力校長 や 重要な他者 との出会い, 学校全体を見渡す必要のある校務分掌経験 ( 学校マネジメント経験 ) についても, ライフヒストリーの中でいくつかの例は挙げられているものの, 有力校長 や 重要な他者 のタイプや, 学校マネジメント経験の内容に関する検討はほとんど行われていない また, 教育管理職志向性への阻害要因を明らかにするアンケート調査は数件見られるが, 教育管理職志向性について促進要因も含めた影響要因を検

69 討している量的研究は, ほとんど見られない さらに, 一般企業等における研究で, 管理職志向性に影響を与えることが明らかになっている仕事を通じた自己効力感との関係や自己効力感の具体的な内容, ロールモデル 成功モデル, キャリアモデルの存在と職業観の発達, 職業意識の高さとの関係についても, 教員を対象とした研究は, 見られない 本研究は, 上記の課題を踏まえ, 一般教員が教育管理職を志向する規定要因に着目し, 次の ₂ 点を明らかにすることを目的とする 第 ₁ に, 一般教員が教育管理職を志向する規定要因を探索的に明らかにする 第 ₂ に, 第 ₁ で探索的に明らかにした要因が, 教育管理職志向に与える影響について量的に明らかにする 特に, 東京都教育委員会 (₂₀₁₅) が, 採用時の段階から管理職候補者の発掘 育成に重要であると述べている, 学校マネジメント能力の育成や管理職のロールモデルの有無やその特性について焦点を当てて検討する 予備調査 1 目的教員の管理職志向に影響を及ぼす要因を広く収集することを目的として, 面接調査を行った 方法調査対象者東京都公立小学校, 中学校の副校長, 学校管理職候補の主幹教諭, 主幹養護教諭 ₅ 名 ( 男性 ₄ 名, 女性 ₁ 名 ;₄₀ 代 ₂ 名,₅₀ 代 ₃ 名 ) であった 調査方法面接に際しては, 面接依頼書により, 事前に本研究の趣旨と所要時間, 個人情報やプライバシー保護, 及び結果の取り扱いに関する説明を提示した 面接実施前に, 再度面接依頼書の内容の説明をした上で, 研究協力と実施内容について承諾を得て実施した 了承を得て IC レコーダーと筆記による記録を行った 実施時期 ₂₀₁₅ 年 ₄ 月 ₂₀ 日から ₂₀₁₅ 年 ₆ 月 ₃₀ 日に実施した 調査内容教員経験年数, 教員採用時における学校管理職志向, 学校管理職を志向するようになった経緯, 学校管理職を志向する者と志向しない者の相違, 学校管理職のイメージを尋ねた 結果と考察面接終了後,IC レコーダーの録音と筆記記録から, 個人が同定される危険性のある情報を削除または修正した上で, 逐語記録を起こして文字データ化した そこからキーワードを抽出し, 第 ₁ 著者と学校心理学を専門とする大学教員 ₁ 名 ( 第 ₂ 著者 ), カウンセリング を専攻する大学院生 ₂ 名, 計 ₄ 名で,KJ 法 ( 川喜田, ₁₉₆₇) を援用して分類し, カテゴリを生成した 結果を Table ₁ に示す まず, ( 教務主任として ) プロジェクトリーダーやっているようなもんなんですね そこはおもしろいなって, 自分が貢献できているかな など, 学校マネジメント経験を通して職務達成感を得ることや, 自己成長感を得るといった発言内容を基に, 学校マネジメント経験成就感 カテゴリを生成した 次に, ( 教育への ) 情熱があって,( 学校経営をする際は ) 常にああしよう, こうしようということを考えていた 企画して実行したりとか, 仕事を流していないんだと思いますね ( 学校教育や学校運営の在り方などを ) どんどん変えていこうとする ₂ といった, これまでに出会った印象に残る学校管理職について語る発言内容を基に, ロールモデルとなる学校管理職との出会い カテゴリを生成した この ₂ つのカテゴリは, 過去に体験したマネジメント経験や過去に出会ったロールモデルからの影響に関する言及であった 次に, 自分の学級経営のスタイルってだいたいきまってくるじゃないですか それをしていれば, 子供をまとめられるみたいな などの発言内容が得られ, それらはいずれも教員経験を積むことによって形成される多様な場面における効力感に関する発言内容であったため, 教師効力感 カテゴリを生成した また, 管理職の先生が, よくしてくれたっていうことは何かっていうと, 私のことをとりあえず認めてくれた, 認めてくれるっていうのがいったい何かというと, その裏には M の好きなようにやってみていいよって言ってくれた人がいるんですよ といった発言内容を基に, 学校管理職からの被承認認知 カテゴリを生成した 自分が教えることが好きで, 子供とがっぷりよつ, 学級担任から離れられないという感じはあったんですけれど, その気持ちはどこかで消えた といった発言内容を基に, 脱学級最優先 全体的視野意識 カテゴリを生成した ある年齢, ある経験を積んだのだったら, 自分の主張より, 組織のためになろうって言う考えや姿勢をもつかどうかの違いだと思います といった発言内容を基に, 公立学校教員職業観 カテゴリを生成した 学校全体とか, 舵取りひとつで, 教員にいろいろな協力的な人がいなけりゃだめでしょうけれども, 監督, 学校をよくする根っこ, 中心, それは校長先生だからできるんじゃないかと思います といった ₂ ( ) は, 筆者が発言意図を, 前段の会話から推測の上補足した

70 教育心理学研究第 ₆₆ 巻第 ₁ カテゴリ 学校マネジメント経験成就感 ロールモデルとなる学校管理職との出会い 教師効力感 学校管理職からの被承認認知 脱学級最優先 全体的視野意識 公立学校教員職業観 校長職肯定的認知 Table 予備調査 ₁ で得られた学校管理職志向の関連要因 主な発言例 ( 教務主任として ) プロジェクトリーダーやっているようなもんなんですね そこはおもしろいなって, 自分が貢献できているかな 職務達成感 ₆ 生活指導主任として全体をうごかしていくことは広さがちがいますよね 広い視野っていうか, 学年越えてみなけりゃいけなかったんで, 逆に学校全体の生徒を変えられる, 変えてきたっていう感じです 職務達成感 ₈ 結局, 国や教育委員会がやろうとしていることや, 校長先生の経営方針って, それをやる必要性が必ず背景にあると思うんです だから, 自分としては, まずは推し進めていかないとならないし, その積み重ねが, やっていく自信になっていくっていうんですかね 自己成長感 ₇ 校長先生がよくいう支店っていうことですよね 今, 自分がやっていることは, 区が進めていこうとしていることをすすめているんだ, それが, 生徒のためになるんだって思っていました 仕事をする自分の視野が広がったと思います 自己成長感 ₈ ( 教育への ) 情熱があって,( 学校経営をする際は ) 常にああしよう, こうしようということを考えていた 企画して実行したりとか, 仕事を流していないんだと思いますね ( 学校教育や学校運営の在り方などを ) どんどん変えていこうとする ₁ 子供たちに本物を見せたい, 本物にふれさせたいって言う思いがあって, いろいろなところに金策に走ってくださったり, 自分でだめじゃないかと思っていると この校庭を馬が走る姿を想像して見ろ とか応援してくださって ₁ 今の文部科学省や中央教育審議会などの答申ですか, そういう国の動向については, 文章の行間の部分まで教えてもらいました だから, 国がやろうとする趣旨や方向性が見れて, すごくためになりましたね ₁ 厳しいことは厳しいんですよね 人によってはあたりが強くてっていう人もいたと思うんですよね ₁ 自分の学級経営のスタイルってだいたいきまってくるじゃないですか それをしていれば, 子供をまとめられるみたいな 学級管理 運営効力感 ₇ 教えることが好きなんで, どうやったら子供がのってくるか, それを頭に描いていくのがやりがいで 教授 指導効力感 ₆ だいたいどういう子供にはこういうふうにやってみよう, こういう子にはこれがいいかなっていうことが見えているじゃないですか 子ども理解 関係形成効力感 ₈ 保護者とも, こちらがどういうふうに臨めば, どういう関係ができるかもつかめてきますよね もちろん例外もけっこうありますけれど 保護者との関係形成効力感 ₇ 管理職の先生が, よくしてくれたっていうことは何かっていうと, 私のことをとりあえず認めてくれた, 認めてくれるっていうのはいったい何かというと, その裏には M の好きなようにやってみていいよって言ってくれた人がいるんですよ ₆ 好きなようにやってごらんっていうには, 自分が信じられている, 自分が認められているっていうのがあるから, それは意に感じて頑張る ₈ 自己申告のときに, 何か心配なクラスない? とか, 全体に関わること, 僕に聞いてくれるんですよ ₅ 自分が教えることが好きで, 子供とがっぷりよつ, 学級担任から離れられないという感じはあったんですけれど, その気持ちはどこかで消えた 消えたっていうよりか, そういう思いは, ゆくゆく子供にとってあまりいいことじゃないなって, 学級王国っていうことが, もう今の時代そぐわないんだって ₈ 学年を動かすようになって, 逆にうちの学年だけいいって言うと他の学年の子がかわいそうとか, あの ₆ 年はすごくいいけれど, 自分たちのときはどうなっちゃうのっていうのがあるので, ちょっとずつだと思います 気持ちが変わっていったのは ₆ クラス楽しいし, 学年楽しいんですけれど, 管理職の人たちがいてくれて, 校長先生, 副校長先生がいてくださるから学校が回るっていうことが, 主幹になってだいぶわかってきて ₉ 国から総合が出てきて, みんなはエーって言っていたけど, 僕は凄くうれしくて, これでやりたいことができるじゃないかって ₁ ( 校長から ) 言われたものはやらせていただいて, そういうふうに僕はやってきたんです ₁ ある年齢, ある経験を積んだのだったら, 自分の主張より, 組織のためになろうって言う考えは姿勢をもつかどうかの違いだと思います ₁ 校長先生って親分じゃないですか トップじゃないですか うまくいえないんですけれども, 若手に声をかけるとかそういう意味では同じなんですけれども やはり, 方針を立てるとか, これでやっていくんだと決めるのは校長先生じゃないですか 決めた強さってあると思います ₈ 校長先生は, 立場として, 教員を育成できる, 励ます, 勇気付ける, 育てる, とかできる ₇ 学校全体とか, 舵取りひとつで, 教員にいろいろな協力的な人がいなけりゃだめでしょうけれども, 監督, 学校をよくする根っこ, 中心, それは校長先生だからできるんじゃないかと思います ₅ 僕とか主幹が言っても聞かない教員が, 校長が言うことは聞きますよね そういうもんかと思いました 権威もそうだし ₇

71 学校管理職志向 生徒と相対してだけじゃない, また違う方法で, 教員の方々を動かしたりすることができるんで あと, もうひとつ, 教員養成もやりたいなっていうのもあるのかもしれませんね ₅ ちょっと学校を運営する立場になってみたい, 経営する立場になってみたいっていう ₆ もっともっと( という気持ちで教員のモチベーションとして ) 本当にできるのか ( 疑問がでてきて ) だったら 学校全体とか, 先生方とか違う次元に行ってっていうのを考えたのかな ₅ 正直知っている方でなっている方いるんなら, なれそうかな, って思ったんです あ, あの方がなっているんだったら, 自分も っていう思いはありました ₃ 注 )( ) は筆者が発言意図を前段の会話から推測のうえ補足した は同じカテゴリ内で複数の内容が語られているとき, 項目作成のキーワードとなるような表題をつけた は類似した発言数を表す 一人の調査協力者からの複数発言がある 発言内容を基に, 校長職肯定的認知 カテゴリを生成した これらのカテゴリは, 回答者が現在もっている教師としての効力感や職業観, 学校管理職からの被承認感や校長職に対する認知と考えられた 最後に, 生徒と相対してだけじゃない, また違う方法で, 教員の方々を動かしたりすることができるんで あと, もうひとつ, 教員養成もやりたいなっていうのもあるのかもしれません といった発言内容を基に, 学校管理職志向 カテゴリを生成した これは, 将来的に管理職をやってみたいという, 将来への展望と考えられた ここで得られたカテゴリと先行研究を比較すると, 学校マネジメント経験成就感は, 高野他 (₂₀₁₃), 川村 (₂₀₁₂) が述べている教育管理職等から何らかの仕事や役割を与えられ, その過程で力量を形成, 発揮することが管理職志向性に影響を与えるという結果と一致していた ロールモデルとなる学校管理職との出会いは, 塚田 (₁₉₉₇), 川村 (₂₀₁₂) が述べている 有力 校長や重要な他者と類似した回答が得られた 教師効力感については, 高橋 (₂₀₁₂) が一般企業を対象とした調査で自己効力感が管理職志向性に影響を与えると述べていることや, 川村 (₂₀₁₂) が 教育実践家としての成熟 が一般教諭を管理職へと導くと述べていることと関連していた 学校管理職からの被承認は, 川村 (₂₀₁₂) が述べている重要な他者からの働きかけと関連していた 脱学級最優先 全体的視野意識は, 川村 (₂₀₁₂) が述べている教育実践家としての成熟と関連するものと考えられるが, 本研究で新たに得られたカテゴリとも言える 公立学校教員職業観は, 本研究で新たに得られた内容と言える 校長職肯定的認知は, 塚田 (₁₉₉₇) の学校経営の手腕と興味と一致する内容であった また, 学校管理職志向を構成する内容は, 深田 (₂₀₁₅) が, 自治体職員の昇任意識への影響要因に着目して作成した, 係長ポストへの昇任意識 尺度の下位尺度である 昇任意欲 の ₁₁ の質問項目と内容と類似した回答が得ら れた 一方で, 今回ロールモデルとなる学校管理職として挙がった人物像は, 強いリーダーシップを発揮するタイプの管理職であった 学校管理職の中には, 教職員や各組織間の調整や気配りなどをよく行う管理職など, 異なるタイプの管理職もいることが考えられる ロールモデルとなりえる多様な管理職の記述は, 今回の ₅ 名を対象とする予備調査 ₁ では得られなかった また, 公立学校教員職業観は, 先行研究にはない内容であり, 予備調査 ₁ で得られた回答以外にも, どのようなものがあるか検討する必要があると考えられた そのため, 予備調査 ₂ を行い, ロールモデルとなる管理職の人物像, 公立学校教員職業観についてさらに検討することとした 予備調査 2 目的ロールモデルとなる学校管理職の人物像と, 公立学校教員職業観に関する内容をさらに収集するため, 自由記述調査を実施することとした 方法調査対象者東京都公立小学校, 中学校の副校長で校長候補者選考受験者 ( 副校長経験 ₃ 年目以上が全員対象 ) 及び前年度までに校長選考に合格している者 ₆₈ 名 ( 男性 ₄₆ 名, 女性 ₂₂ 名 ), 教育管理職候補者選考受験予定者及び前年度までに教育管理職選考に合格している者 ₂₇ 名 ( 男性 ₁₉ 名, 女性 ₈ 名 ), 合計 ₉₅ 名 ( 男性 ₆₅ 名, 女性 ₃₀ 名 ) であった 実施時期 ₂₀₁₅ 年 ₅ 月 ₂₀ 日から ₂₀₁₅ 年 ₆ 月 ₃ 日であった 実施方法アンケートは, 第 ₁ 著者が校長候補者選考及び教育管理職候補者選考受験者のための受験対策に関する研修講座の講師に招聘された際に, 研修講座会場で実施した なお, アンケート協力者には, 本アンケートへの協力は任意であることを事前に伝え, 本

72 教育心理学研究第 ₆₆ 巻第 ₁ 第一水準第二水準第三水準 回答者属性 勤務状況 現在の効力感 職業観 将来の展望 管理職志 ( ) ( 意識 ) ( 向性 ) これまでの経験等 Figure 学校管理職志向に及ぼす影響についての仮説モデル 研究の趣旨と所要時間, 個人情報やプライバシー保護, 及び結果の取り扱いに関する説明を提示した上で, アンケート協力に同意した者のみ提出を依頼した 調査内容アンケート調査は, 学校管理職を志向することに影響を与えた学校管理職の有無, その人物の特徴, 公立学校に勤務する教員としてもつべき職業観を自由記述形式で尋ねた 結果と考察 管理職志向に影響を与えた人物の特徴 公立学校教員のもつべき職業観 について, 自由記述で得られた回答からキーワードを抽出し, 前述の ₄ 名で,KJ 法 ( 川喜田, ₁₉₆₇) を援用して分類し, カテゴリを生成した その結果, 管理職志向に影響を与えた人物が有する特徴的な資質 能力, 機能は, 判断力 決断力 行動力 教育への信念と学校経営力 知識 見識 専門性 人脈と信頼 外部折衝能力 リーダーシップの強さ 改革志向 で生成される 職務遂行機能 と, 指導力の高さ, 人材育成力 親切 面倒見のよさ 児童 生徒を大切にする で生成される 集団維持機能 に大別された これは, 三隅 (₁₉₆₆) の提唱したリーダーシップ行動論の PM 理論と一致する結果であった このことから, 本調査におけるロールモデルとなる学校管理職を尋ねる項目には, 職務遂行機能 (Performance) の側面と 集団維持機能(Maintenance) の側面を測定する項目を含める必要があると判断された また, 公立学校教員のもつべき職業観については, 組織の一員としての職務意識 公務員としての信頼を得る職務姿勢 プロ教員としての使命感 保護者 地域住民等を意識した職業姿勢 の ₄ つの観点が得られた 本調査では, これらの ₄ つの観点を質問項目として含めることとした 本調査目的先行研究及び予備調査により探索的に導きだされた一般教員の学校管理職志向に関連があると抽出された要因から, 学校管理職志向を規定する要因を明らかに する 具体的には,Figure ₁ の仮説モデルを, 重回帰分析により検討する 仮説モデルでは, 属性である 性別 公立学校教員経験年数, 背景要因となる 勤務先校種 職層, さらに予備調査 ₁ で過去の職務上での経験に位置付けられた 学校マネジメント経験成就感 ロールモデルとなる学校管理職との出会い を第一水準におく 第二水準には, 回答者が現在もっている教員としての効力感や職業観, 学校管理職からの被承認感や校長職に対する認知として, 教師効力感 学校管理職からの被承認認知 脱学級最優先 全体的視野意識 公立学校教員職業観 校長職肯定的認知 をおく 第三水準には, 将来的に管理職をやってみたいという, 将来への展望として 学校管理職志向 をおく 方法調査対象者 web 調査会社に, 公立小中学校の正規の教員であることを調査対象者の条件として, 調査を依頼した その際,web 調査会社が, パネルとして登録している調査対象者に, 事前に調査趣旨の説明を提示し, 調査協力の意思の有無を尋ねるアンケートを実施した上で, 条件に該当し回答に同意したものを調査対象者とした ₃ その結果,₃₁₀ 名から回答を得た ₃ 本調査では,web 調査を実施したが, これにあたっては回答者がインターネットを利用している一般教員に限られること, 得られた回答が, 自発的にモニター登録をし, ポイントの交付を望む一般教員からの回答に限られること, また, 回答者にあたっては職業を一般教員として自己申告をしているというバイアスの存在にも留意すべきである しかしながら, 本調査協力を一般教員にするにあたり, 紙媒体により, 学校単位で調査協力依頼する場合は, 校長等学校管理職を通しての配布, 回収となる場合が多くなることから, 調査協力者の匿名性の保障について不安や, 学校管理職からの評価を受ける懸念が生じる可能性があるため, そのような懸念の生じない方法として web 調査を実施した このことにより回答者の匿名性の確保と, 管理職や同僚教員からの評価の懸念の払拭をした状態での調査を行うことができたというメリットは指摘できよう したがって, 今後の研究では, 様々なバイアスとメリットを総合的に考慮し, 複数の調査方法を組み合わせ実施し, 結果について相互に比較し, 学校管理職志向の規定要因について理解を深めることが重要となると考える

73 調査時期 ₂₀₁₅ 年 ₁₀ 月 ₁₆ 日 ₁₇ 日に実施した 調査内容以下の ₁ ) ₉ ) を実施した 1) フェイスシート性別, 年齢層 (₂₀ 代,₃₀ 代,₄₀ 代, ₅₀ 代 ), 教員経験年数 ( ₅ 年未満,₅ 年以上 ₁₀ 年未満,₁₀ 年以上 ₁₅ 年未満,₁₅ 年以上 ₂₀ 年未満,₂₀ 年以上 ₂₅ 年未満,₂₅ 年以上 ), 校種 ( 小学校, 中学校 ), 職層 ₄ ( 主幹教諭, 指導教諭, 主任教諭, 教諭, 主幹養護教諭, 主任養護教諭, 養護教諭 ), 勤務先都道府県の ₆ 項目について回答を求めた 2) 学校マネジメント経験の有無と学校マネジメント経験成就感学校マネジメント経験を 教務主任, 生徒指導主事等, 年間を通して学校全体を動かす立場での仕事経験 と定義し, この校務経験の有無について, 経験した( 現在している ), 経験したことはない の単一回答法で回答を求めた 学校マネジメント経験成就感については, 国( 文部科学省 ) や教育委員会の方針や方向性を踏まえて具体的にすすめることができた ( すすめている ), 校長の学校経営の方針や計画にそって具体的にすすめることができた ( すすめている ), 自分自身の教員としての仕事に対する視野が広がった ( 広がっている ), 児童 生徒全体に影響を与える仕事の面白みを知ることができた ( できている ) など, 予備調査 ₁ の結果を踏まえて, 前述の ₄ 名で ₁₀ 項目を作成した それぞれ あてはまる まああてはまる どちらともいえない あまりあてはまらない あてはまらない の ₅ 件法で回答を求めた ₃) ロールモデルとなる学校管理職との出会いの有無とリーダーシップ機能ロールモデルとなる学校管理職との出会いの有無については単一回答法で回答を求めた リーダーシップ機能を測定する項目については, 予備調査 ₁ ₂ の結果を踏まえ, 前述の ₄ 名で検討した 予備調査 ₂ の結果から, 職務遂行機能を測定する項目として, 学習指導要領に精通しており, 教科指導等への専門性が極めて高い 強力なリーダーシップをとって学校を大きく改革 変革する など ₁₀ 項目を作成した 同様に, 集団維持機能を測定する項目として, ₄ 職層について, 主幹教諭 ( 主幹養護教諭 ) は, 校長 副校長の補佐機能, 調整機能, 人材育成機能及び監督機能を果たすとともに, 経営層である校長 副校長と実践層である主任教諭等との間で調整的役割を担い, 自らの経験を生かして主任教諭等をリードする指導 監督層の教員を指す 指導教諭は, 高い専門性と優れた教科指導力を持つ教員で, 模範授業などを通じて, 教科等の指導技術を自校 他校の教員に普及させる職務を担う教員を指す また, 主任教諭 ( 主任養護教諭 ) とは, 校務分掌などにおける学校運営上の重要な役割, 指導 監督層である主幹教諭の補佐, 同僚や若手教員への助言 支援などの指導的役割を職務内容とする教員を指す 部下や後輩教員への気遣いや思いやりがある 寛容で包容力がある など ₁₁ 項目を作成した これら ₂₁ 項目に対し, 前述と同様の ₅ 件法で回答を求めた ₄) 教師効力感教師効力感を測定する項目として, 春原 (₂₀₀₇) が作成した 教師効力感尺度 を, 今日的な教育課題や背景を踏まえ, 文章表現を一部修正して用いた この尺度は, 教育学部生を対象に, 教育実習中に経験する職務内容に対する自信を測定するために作成されており, 学級管理 運営効力感(₁₁ 項目 ), 教授 指導効力感 ( ₉ 項目 ), 子ども理解 関係形成効力感 ( ₆ 項目 ) という ₃ つの下位尺度から構成されている 前述の ₄ 名で項目内容を検討した際, 予備調査 ₁ において, 前述の ₃ つの下位尺度に該当しない保護者との関係形成効力感が導き出されたことから, 正規教員として必要とされる職務を検討した結果, 学校運営に関する効力感, 自治体の教育施策推進や校長の学校経営方針を踏まえて組織の一員として職務を遂行することで得られる組織貢献効力感が挙げられ, これらの業務は管理職になると増えることが見込まれるため, これらの職務に対する自信を測定する内容も含める必要があると判断した 各尺度に含める具体的な項目については第 ₁ 著者と第 ₂ 著者を中心に以下の通り作成した 保護者 地域住民等との関係形成効力感 として, 保護者に自分から積極的に関係をつくっていく働きかけができる 保護者の要求や苦情等に落ち着いて丁寧に対応することができる 地域住民に学校教育活動への協力依頼をスムーズに行うことができる など ₁₂ 項目を作成した また, 学校運営に関する効力感 として, 各教職員の仕事の進捗状況を把握することができる 職務を各教職員の得意, 不得意に応じて適切に割り振ることができる など ₅ 項目を作成した さらに, 組織貢献効力感 として, 校長の学校経営の方針や計画にそって, 自己の教育活動等を推進することができる 国 ( 文部科学省 ) や教育委員会の方針や方向性を踏まえて, 自己の教育活動等を推進することができる 校長の方針に基づいて, 具体的な企画 立案をすることができる など ₅ 項目を作成した これら全 ₄₈ 項目について, 前述と同様の ₅ 件法で回答を求めた ₅) 学校管理職からの被承認認知 自分は, 学校の中で中心的な存在の教員だと思われている 自分は, 学校経営に関わる仕事も任せておける教員だと思われている 自分は, 授業や研究, 対応など認めてもらっていると思う など, 予備調査 ₁ の結果を踏まえ,₁₀ 項目作成した 前述と同様の ₅ 件法

74 教育心理学研究第 ₆₆ 巻第 ₁ ₆) 脱学級最優先 全体的視野意識 学校や学年全体の状況によっては, 自分の学級経営だけでなく, 全体の仕事も引き受ける 組織の一員であることを自覚して, 自分の希望しない職務も引き受ける 年齢や経験年数を考え, 負担の多い仕事も厭わず引き受けていく など予備調査 ₁ の結果を踏まえ,₈ 項目作成した 前述と同様の ₅ 件法 ₇) 公立学校教員としての職業意識 文部科学省や教育委員会の方針, 教育施策等を具体的に進めること 校長の学校経営方針( 計画 ) を具体的に進めること 保護者, 地域住民, 都道府県民, 市民からの信頼を得るとともに, 地域に貢献すること 全体の奉仕者である自覚をもち, 公平, 誠実であること など, 予備調査 ₂ の結果導き出された ₄ つの観点が含まれるよう, 全体で ₁₀ 項目作成した 前述と同様の ₅ 件法 ₈) 校長職に対する肯定的認知 校長は, 自分の目指す教育を実現できる 校長は, 教職員を, 自己の目指す教員に指導 育成できる 校長は, 保護者, 地域に大きな影響力がある など予備調査 ₁ の結果を踏まえ, ₁₀ 項目作成した 前述と同様の ₅ 件法 ₉) 学校管理職志向学校管理職志向を尋ねるために, 前述の深田 (₂₀₁₅) が作成した, 係長ポストへの昇任意識 尺度の下位尺度 昇任意欲 の ₁₁ の質問項目と予備調査 ₁ の結果を参考に, 前述の ₄ 名で, 公立学校教員の学校管理職志向を尋ねる質問項目を作成した 具体的には, 学校管理職として, 学校マネジメントに取り組んでみたい 学校管理職として教職員の人材育成に取り組んでみたい 校長から何度も強く勧められれば, 学校管理職になることを考える など,₁₁ 項目作成した 前述と同様の ₅ 件法で回答を求めた 倫理的配慮 web 調査の調査協力者には, スタート画面に調査目的や倫理的配慮 ( 無記名のため個人が特定されることはないこと, 調査への協力は任意であること, 途中で回答を拒否できること, データは全体の傾向としてまとめられ個人が特定されることはないこと ) について説明した上で, 回答者が 同意ボタン をクリックした場合に, 研究参加に同意したものとした なお, 本調査は, 筑波大学大学院人間系倫理委員会東京地区委員会の承認を得て行われた 結果調査協力者の基本属性全国の公立中学校, 公立小学校の正規採用教員 ₃₁₀ 名 ( 小 中学校教員各 ₁₅₅ 名, 男性 ₂₀₅ 名, 女性 ₁₀₅ 名, 平均年齢 ₄₅.₂ 歳で, 有効回答者率 ₁₀₀% であった 回答者の年齢は,₂₀ 代 ₁₇ 名 (₅.₅%),₃₀ 代 ₇₂ 名 (₂₃.₂%),₄₀ 代 ₉₀ 名 (₂₉.₀%),₅₀ 代 ₁₃₁ 名 (₄₂.₃%) であった 回答者の公立学校教員経験年数は,₅ 年未満 ₂₀ 名 (₆.₅%),₅ 年以上 ₁₀ 年未満 ₃₆ 名 (₁₁.₆%),₁₅ 年以上 ₂₀ 年未満 ₃₆ 名 (₁₁.₆%),₂₀ 年以上 ₂₅ 年未満 ₅₀ 名 (₄₂.₃%) であった 回答者の職層は, 主幹教諭 ₁₂ 名 (₃.₉%), 指導教諭 ₃ 名 (₁.₀%), 主任教諭 ₅₆ 名 (₁₈.₁%), 教諭 ₂₃₇ 名 (₇₆.₅%), 養護教諭 ₂ 名 (₀.₆%) であった 尺度構成の検討学校マネジメント経験成就感学校マネジメント経験成就感を測定する ₁₀ 項目を用いて因子分析 ( 最尤法 プロマックス回転 ) を行った結果, 固有値 ₁ 以上の因子が ₂ 因子抽出された ₁ 因子と ₂ 因子を指定して再度同様の因子分析を行ったところ, 固有値の落差や解釈可能性から ₂ 因子が妥当と判断された 第 ₁ 因子は, 児童 生徒全体に影響を与える仕事の面白みを知ることができた 自分自身の教員としての仕事に対する考え方が深まった 等の項目で構成されたため, 自己成長感 (α=.₉₃₀) と命名した 第 ₂ 因子は, 国( 文部科学省 ) や教育委員会の方針や方向性を踏まえて具体的にすすめることができた 校長の学校経営に貢献しているという手ごたえを感じた 等の項目で構成されたため, 職務達成感 (α=.₈₅₁) と命名した ₂ 因子間の相関は,.₇₁ であった ロールモデルとなる学校管理職のリーダーシップ機能ロールモデルとなる学校管理職のリーダーシップ機能を測定する ₂₁ 項目を用いて因子分析 ( 最尤法 プロマックス回転 ) を行った結果, 固有値 ₁ 以上の因子が ₂ 因子抽出された ₁ 因子と ₂ 因子を指定して再度同様の因子分析を行ったところ, 固有値の落差や解釈可能性から ₂ 因子が妥当と判断された 第 ₁ 因子は, 部下や後輩教員への気遣いや思いやりがある 寛容で包容力がある 等の項目で構成されたため, 人間関係重視型リーダーシップ機能 (α=.₉₄₅) と命名した 第 ₂ 因子は, 強力なリーダーシップをとって学校を大きく改革 変革する 学習指導要領に精通しており, 教科指導等への専門性が極めて高い 等の項目で構成されたため, 専門的識見 改革型リーダーシップ機能 (α=.₉₃₆) と命名した ₂ 因子間の相関は,.₆₉ であった 教師効力感教師効力感を測定する ₄₈ 項目を用いて因子分析 ( 最尤法 プロマックス回転 ) を行った結果, 固有値 ₁ 以上の因子が ₆ 因子抽出された ₄ 因子 ₆ 因子を指定して再度同様の因子分析を行ったところ, 固有値の落差や解釈可能性から ₆ 因子が妥当と判断された なお, 負荷量が.₄₀ 未満である項目と ₂ つ以上の因子

75 に高い負荷量 (.₃₅ 以上 ) を示した ₁₀ 項目を除いた 第 ₁ 因子は, 保護者に自分から積極的に関係をつくっていく働きかけができる 等の項目で構成されたため, 保護者 地域関係形成効力感 (α=.₉₄₇) と命名した 第 ₂ 因子は, わかりやすい教え方ができる 等の項目で構成されたため, 教授 指導効力感 (α=.₉₁₉) と命名した 第 ₃ 因子は, 各教職員の仕事の進捗状況を把握することができる 等の項目で構成されたため, 学校運営効力感 (α=.₉₁₄) と命名した 第 ₄ 因子は, 課題のある児童 生徒に, クラス全体が巻き込まれないように指導できる 等の項目で構成されたため, 学級管理 経営効力感 (α=.₉₁₇) と命名した 第 ₅ 因子は, 校長の学校経営の方針や計画にそって, 自己の教育活動等を推進することができる 等の項目で構成されたため, 組織貢献効力感 (α=.₈₉₈) と命名した 第 ₆ 因子は, 児童 生徒と短期間で関係をつくることできるか心配だ ( 逆転項目 ) 等の項目で構成されたため, 児童生徒関係形成効力感 (α=.₈₄₄) と命名した ₆ 因子の因子間相関は,.₂₃.₇₈ であった 学校管理職からの被承認認知学校管理職からの被承認認知を測定する ₁₀ 項目を用いて因子分析 ( 最尤法 ) を行った その結果, 固有値 ₁ 以上の因子は ₁ 因子であったため,₁ 因子を採用した 固有値は ₇.₅₂₆, 寄与率は ₇₅.₃%, すべての項目の負荷量は.₇₃₄ 以上, α=.₉₆₃ であった 脱学級最優先 全体的視野意識脱学級最優先 全 体的視野意識を測定する ₈ 項目を用いて因子分析 ( 最尤法 ) を行った その結果, 固有値 ₁ 以上の因子は ₁ 因子であったため,₁ 因子を採用した 固有値は ₄.₉₆₄, 寄与率は ₆₂.₁%, すべての項目の負荷量は.₆₉₇ 以上, α=.₉₁₂ であった 公立学校教員としての職業意識公立学校教員としての職業意識を測定する ₁₀ 項目を用いて因子分析 ( 最尤法 ) を行った結果, 固有値 ₁ 以上の因子は ₁ 因子であったため,₁ 因子を採用した 固有値は ₄.₉₆₄, 寄与率は ₆₂.₁%, すべての項目の負荷量は.₅₄₅ 以上, α=.₉₁₇ であった 校長職に対する肯定的認知校長職に対する肯定的認知を測定する ₁₀ 項目を用いて因子分析 ( 最尤法 ) を行った結果, 固有値 ₁ 以上の因子は ₁ 因子であったため,₁ 因子を採用した 固有値は ₅.₅₃₆, 寄与率は ₆₂.₁%, すべての項目の負荷量は.₅₀₄ 以上,α=.₉₁₀ であった 学校管理職志向学校管理職志向を測定する ₁₁ 項目を用いて因子分析 ( 最尤法 ) を行った結果, 固有値 ₁ 以上の因子は ₁ 因子であったため,₁ 因子を採用した 固有値は ₈.₅₇₃, 寄与率は ₇₇.₉%, すべての項目の負荷量は.₇₂₇ 以上,α=.₉₇₁ であった 因子分析の結果を踏まえ, 各尺度及び下位尺度の項目の得点を合計し, 合成得点を算出した 各尺度間の関係重回帰分析を行うに先立ち, 性別以外の属性 ( 公立学 Table 属性と各尺度間の相関行列 ₁ ₂ ₃ ₄ ₅ ₆ ₇ ₈ ₉ ₁₀ ₁₁ ₁₂ ₁₃ ₁₄ ₁. 経験年数.₁₃*.₁₇**.₁₂*.₂₆***.₂₉***.₂₆***.₁₇**.₀₉.₂₆***.₁₀.₀₁ -.₀₆.₀₇ ₂. 校種 -.₀₅.₀₈.₁₂.₀₈.₀₃.₀₃.₀₆.₀₈.₀₂ -.₁₀ -.₀₅ -.₀₈ ₃. 職層.₀₂.₁₁.₁₀.₀₅.₀₉.₀₉.₁₈**.₀₄.₀₆ -.₀₇.₀₀ ₄. 保護者 地域住民関係形成効力感.₇₂***.₅₉***.₇₃***.₆₄***.₄₅***.₆₁***.₆₄***.₄₈***.₃₀***.₁₉** ₅. 教授 指導効力感.₆₆***.₇₈***.₆₃***.₄₄***.₆₄***.₅₅***.₄₃***.₂₄***.₂₅*** ₆. 学校運営効力感.₅₉***.₅₇***.₄₉***.₆₉***.₆₁***.₃₅***.₁₁.₂₁** ₇. 学級管理 経営効力感.₆₂***.₂₂**.₆₄***.₄₃***.₂₆***.₂₂***.₃₄*** ₈. 組織貢献効力感.₂₃**.₅₇***.₅₃***.₆₂***.₃₈***.₃₆*** ₉. 児童生徒関係形成効力感.₃₃***.₂₈***.₁₉*.₀₁ -.₁₁ ₁₀. 学校管理職からの被承認認知.₅₇***.₃₈***.₂₆***.₃₁*** ₁₁. 脱学級最優先 全体的視野意識.₆₀***.₃₅***.₁₉** ₁₂. 公立学校教員としての職業意識.₅₀***.₂₈*** ₁₃. 校長職に関する肯定的認知.₃₉*** ₁₄. 学校管理職志向 n=₃₁₀, ***p<.₀₀₁ **p<.₀₁ *p<.₀₅

237 76 教育心理学研究第 ₆₆ 巻第 ₁ 校教員経験年数, 勤務先公立学校校種, 職層 ) と, 教師効力感, 学校管理職からの被承認認知, 脱学級最優先 全体的視野意識, 公立学校教員としての職業意識, 校長職に対する肯定的認知, 学校管理職志向の相関分析を実施した (Table ₂) その結果, 学校管理職志向との関連では, 自己効力感尺度では児童生徒関係形成効力感 を除く全ての変数 (rs=.₁₉.₃₆, ps<.₀₁), 学校管理職からの被承認 (r=.₃₁, p<.₀₀₁), 脱学級最優先 全体的視野意識 (r=.₁₉, p<.₀₁), 公立学校教員としての職業意識 (r=.₂₈, p<.₀₀₁), 校長職に関する肯定的認知 (r=.₃₉, p<.₀₀₁) の間に有意な正の相関がみられた ( 第一水準 ) 属性 勤務状況 これまでの経験等 ( 第二水準 ) 現在の効力感 職業 意識 ( 第三水準 ) 将来の展望 管理職志向性 性別 0= 男性 1= 女性 保護者 地域関係形成効力感 R 2 = 343 公立学校教員経験年数 276 476 教授 指導効力感 R 2 = 279 ( 学校マネジメント経験成就感 ) 自己成長感 241 390 学校運営効力感 R 2 = 237 368 ( 学校マネジメント経験成就感 ) 職務達成感 435 学校管理 経営効力感 R 2 = 179 児童生徒関係形成効力感 ( ロールモデルとなる学校管理職 ) 人間関係重視型リーダーシップ機能 439 382 316 組織貢献効力感 R 2 = 444 336 ( ロールモデルとなる学校管理職 ) 専門的識見 改革型リーダーシップ機能 289 256 500 532 学校管理職等からの被承認認知 R 2 = 229 147 脱学級最優先 全体的視野意識 R 2 = 437 336 R 2 = 373 237 勤務先校種 0= 小学校 1= 中学校 職層 0= 主任教諭, 教諭 1= 主幹教諭, 指導 教諭 173 250 公立学校教員としての職業意識 R 2 = 412 427 校長職に対する肯定的認知 R 2 = 305 239 Figure 学校管理職への志向を規定する要因 (n=₁₂₄) ***p<.₀₀₁ **p<.₀₁ *p<.₀₅ 注 ) 実線は正の偏回帰係数, 点線は負の偏回帰係数を示す

77 学校管理職志向への規定要因の検討仮説モデルに従って, 重回帰分析を行った 重回帰分析は ₂ 段階に分けて行った 第 ₂ 水準を基準変数にして, 第 ₁ 水準の変数を説明変数とする分析, 第 ₃ 水準を基準変数にして, 第 ₁, 第 ₂ 水準の変数を説明変数とする分析を行った なお, 重回帰分析はいずれも変数増減法を用いた 単相関と偏回帰係数の正負を照合した結果, 正負はいずれも一致した なお, 本分析では, 学校マネジメント経験とロールモデルとなる学校管理職との出会いを両者とも有する教員 ₁₂₄ 人を対象とした 分析結果を,Figure ₂ に示す 重回帰分析の結果から, 学校マネジメント経験を通した 自己成長感 から, 保護者 地域関係形成効力感 教授 指導効力感 学校運営効力感 学校管理職からの被承認認知 脱学級最優先 全体的視野意識 への有意な正の偏回帰係数が見られたが ( 順に, β=.₂₃₇,.₂₇₆,.₂₄₁,.₃₁₆,.₂₅₆, ps<.₀₁), これらの第二水準の変数はいずれも学校管理職志向にはつながっていなかった 一方, 学校マネジメント経験を通した 職務達成感 は, 組織貢献効力感 公立学校教員としての職業意識 校長職に対する肯定的認知 へ有意な正の偏回帰係数を示しており ( 順に,β=.₃₈₂.₂₃₇,.₄₂₇, ps<.₀₁), このうち 組織貢献効力感 校長職に対する肯定的認知 は学校管理職志向に有意な正の偏回帰係数を示していた ( 共に β=.₃₃₆, ps<.₀₁) このことから, 学校マネジメント経験を通した 職務達成感 は, 学校管理職志向 に間接的に影響を与えることが示された ロールモデルとなる学校管理職との出会いでは, 人間関係重視型リーダーシップ機能 からは, 教授 指導効力感 学級管理 経営効力感 への有意な正の偏回帰係数が見られたが ( 順に,β=.₃₉₀,.₄₃₅, ps<.₀₀₁), これらの第二水準の変数はいずれも学校管理職志向につながっていなかった 一方, 専門的識見 改革型リーダーシップ機能 からは, 保護者 地域関係形成効力感 学校運営効力感 組織貢献効力感 学校管理職からの被承認 脱学級最優先 全体的視野意識 公立学校教員としての職業意識 校長職に対する肯定的認知 への有意な正の偏回帰係数が見られた ( 順に, β=.₄₇₆,.₃₆₈,.₄₃₉,.₂₈₉,.₅₀₀,.₅₃₂,.₂₅₀, ps<.₀₁) このうち, 組織貢献効力感 と 校長職に対する肯定的認知 は, 学校管理職志向につながる変数であるため, 専門的識見 改革型リーダーシップ機能 は, 学校管理職志向に間接的に影響を及ぼすことが示された また, 性別から脱学級最優先 全体的視野意識に負 の偏回帰係数が見られ (β=-.₁₄₇, p<.₀₁), 女性が男性より, この得点が低い傾向が示された 最後に, 勤務先校種から公立学校教員としての職業意識, 及び学校管理職志向へ有意な負の偏回帰係数が見られ ( 順に,β= -.₁₇₃, -₂₃₉, ps<.₀₁), 小学校教員が中学校教員より, これらの得点が低い傾向が示された 考察学校マネジメント経験を通した成就感が及ぼす影響 学校マネジメント経験成就感 の因子分析の結果から, 学校マネジメント経験を通して得る成就感には, 職務を通して知る仕事の面白み, 自分自身の教員としての仕事に対する考え方の深まり, 仕事の進め方などの要素から構成される 自己成長感 と, 国 ( 文部科学省 ) や教育委員会の方針や方向性の具体的な推進, 校長の学校経営の方針や計画を具体的に推進することで得られる達成感である 職務達成感 があった このことから, 職務を通して得られる成就感は, 自己の成長に向いているものと, 集団や組織の貢献に向いているものの ₂ 種類に分けられることが示唆された 次に, 学校マネジメント経験成就感の 自己成長感 職務達成感 を第一水準において重回帰分析を実施した結果から, 自己成長感 は, 第二水準の ₅ つの変数に影響を与えていたが, 学校管理職志向にはつながっていなかった 一方で, 学校マネジメント経験から得た 職務達成感 は, 組織貢献効力感 校長職に対する肯定的認知 の ₂ 変数を介して, 学校管理職志向に間接的に影響を与えていた このことから学校マネジメント経験成就感では, 職務達成感 が学校管理職志向を促進する上で重要である可能性が示唆された ロールモデルとなる学校管理職のリーダーシップ機能が及ぼす影響 ロールモデルとなる学校管理職のリーダーシップ機能 の因子分析の結果から, ロールモデルとなる学校管理職のリーダーシップ機能は, 人間関係重視型リーダーシップ機能 と, 専門的識見 改革型リーダーシップ機能 があった このことは, リーダーシップの機能として, 集団構成員同士のまとまり, すなわち集団凝集性の維持機能と, その集団のもつ目的を遂行 達成する機能の ₂ 種類に分かれることが示された 次に, ロールモデルとなる学校管理職の人物像の 人間関係重視型リーダーシップ機能 専門的識見 改革型リーダーシップ機能 を第一水準において重回帰分析を実施した結果から, 人間関係重視型リーダーシップ機能 は, 第二水準の ₂ つの変数と関連が見られた

78 教育心理学研究第 ₆₆ 巻第 ₁ が, その ₂ 変数はいずれも学校管理職志向と関連が見られなかった 一方で, 専門的識見 改革型リーダーシップ機能 を有するロールモデルとなる学校管理職との出会いの影響は, 組織貢献効力感 校長職に対する肯定的認知 と関連が見られ, 学校管理職志向とも間接的に関連が見られた このことは, 学校管理職への志向性は, 最新の国の教育事情や動向に基づいて, 学校を改革 変革しているロールモデルとの出会いに触発され, 自身も組織に貢献し, 必要な権限を得て学校運営を行いたいというように意識が変化していくプロセスがあると考えられる 学校管理職の育成への提言本研究の第 ₁ の提言は, 学校マネジメント経験成就感のうち 職務達成感 が, 学校管理職志向につながっていたことである この結果は, 管理職になるまでに, 学校内外の多様な役割を経験させることや, 学校全体を見渡す役割を経験することが, 管理職になる上で重要であると指摘している研究と一致する ( 例えば, 川村, ₂₀₁₂; 杉崎, ₂₀₀₉; 高野他, ₂₀₁₃) 一方で, 今回得られた新たな知見は, マネジメント経験がすべて学校管理職志向につながるのではなく, 国 ( 文部科学省 ) や教育委員会の方針や方向性の具体的な推進, 校長の学校経営の方針や計画について具体的に推進できたという職務達成感が, 学校管理職志向に影響を及ぼしていたことである 国や勤務する自治体の教育委員会の教育施策を推進する職務や教育活動を担わせたり, 校長の学校経営方針の中でも, 重点的な職務や教育活動を担わせたりすること, またその成果や教育的効果を, エビデンスに基づいて示し, 達成感や成就感を教員自身にもたせていくことが重要である 本研究の第 ₂ の提言は, 学校管理職志向の促進要因として, ロールモデルとなる学校管理職との出会いが影響していたことである これまでも, 力のある校長 や重要な他者との出会いが, 一般教諭が管理職としての道を選択する契機となっていることは, ライフヒストリー等の研究の中で示されている ( 例えば, 川村, ₂₀₁₂; 塚田, ₁₉₉₇) また, 東京都教育委員会 (₂₀₁₅) も, 将来の管理職を視野に入れた人材育成方針として, 教員採用時段階から, よきロールモデルとなる管理職 指導者と出会うことを挙げている 本研究はロールモデルの重要性を改めて示したものとなる 一方で, 今回新たに得られた知見として, 教員の管理職志向につながるロールモデルとなる管理職は, 専門的識見 改革型リーダーシップ機能 の強い管理職ということである 具体的には, 最新の国の教育事情や動向に明る く, 教科等について高い専門性と指導力をもち, 学校を大きく改革 変革していくリーダーシップである 管理職に少しでも興味 関心がある教員が, こうした管理職の下で経験を積めるような体制を, 国や都道府県レベルで整備していくことが有効なのではないかと考える 本研究の第 ₃ の提言は, 今回の第二水準の変数として, 組織貢献効力感 と 校長職に対する肯定的認知 が, 学校管理職志向に影響を与えていた点である 学校マネジメント経験成就感も, ロールモデルとなる学校管理職との出会いも, 学校管理職志向に直接的な影響は見られなかった つまり, マネジメント経験のなかで良い体験をもつことができても, ロールモデルとなる学校管理職と出会うことができても, 自分がその役割を実行できそうであるという効力感 (Bandura, ₁₉₇₁ 原野 福島共訳 ₁₉₈₅) や, 校長職に対する魅力を感じなければ, 管理職志向性にはつながらないことが示されている マネジメント経験のなかで出会う課題を効果的に対処することができ, 個人の組織貢献効力感を高められる管理職育成プログラムの構築や, 学校管理職の魅力を高めていく必要性も示された 本研究の限界と今後の課題第 ₁ に, 管理職候補者の発掘, 養成, 育成は国全体の重要な課題ではあるが, 学校管理職の需要には自治体により地域差がある 学校管理職の需要が多い地方公共団体とそれ以外の自治体との間の教員の認知や意識差等の検証が必要である 第 ₂ に, 本研究での回答者について, 年齢層, 教員経験年数別に見ると, 均等な数にはなっていない また, 本研究では, 服務監督権と任命権の両者が都道府県教育委員会に属する大半の高等学校と, 任命権のみ都道府県教育委員会に属し, 服務監督権が市町村教育委員会に属する小 中学校の教員とは, 教員への管理職選考受験等への働きかけが異なることから, 小 中学校教員を対象とし, 高等学校教員は対象としなかった 各年代別, 教員経験年数別, 校種別に, 学校管理職志向に影響を与える要素に相違があるか検証していくことが必要である 第 ₃ に, 本調査は, 一般教員の立場での自己評価, 自己認知からのアプローチである 客観的な観点からの各教員の意欲, 資質 能力, 実績等については, 本研究では探ることはできない 第 ₄ に, 本研究の結果, いくつかの要因が学校管理職志向性と関係がある可能性が示唆されたが, 本当にそれらが管理職になることの要因になっているかどうかは, 縦断的調査や介入を行うなどして検討する必要がある 今回の結果は, その介入の

79 際の手がかりになりえると考える 引用文献 Bandura, A. (₁₉₇₁). Psychological modeling: Conflicting theories. Chicago, IL: Aldine-Atherton.( バンデュラ,A. 原野広太郎 福島脩美 ( 共訳 )(₁₉₈₅). モデリングの心理学 観察学習の理論と方法金子書房 ) ベネッセ教育総合研究所 (₂₀₁₀). 第 ₅ 回学習指導基本調査報告書 ( 小学校 中学校版 ),pp. ₁₆₄-₁₆₅ 中央教育審議会初等中等教育分科会チームとしての学校 教職員の在り方に関する作業部会 (₂₀₁₅). チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について ( 中間まとめ ) 平成 ₂₇ 年 ₇ 月 ₁₆ 日, pp. ₂₅-₂₇. 深田仁美 (₂₀₁₅). 自治体職員の昇任に関する意識の探索的検討産業 組織心理学会第 ₃₁ 回大会発表論文集, ₁₅₉. 古屋喜美代 (₂₀₀₉). 教師がふり返る, 自らのキャリア形成における壁とは何であったか神奈川大学心理 教育研究論集, 29, ₈₉-₉₇. 春原叔雄 (₂₀₀₇). 教育学部生の教師効力感に関する研究 尺度の作成と教育実習に伴う変化日本教師教育学会年報, 16, ₉₈-₁₀₈. 岩根宏 長島和広 小野啓之 古屋喜美代 (₂₀₁₀). 教師としての悩みと成長 若き教師の成長をどのように支えるか神奈川大学心理 教育研究論集, 30, ₁₇₉-₁₈₇. 金井篤子 三後美紀 (₂₀₀₄). 高校生の進路選択過程の心理学的メカニズム 自己決定経験とキャリアモデルの役割寺田盛紀 ( 編著 ) キャリア形成 就職のメカニズムの国際比較 日独米中の学校から職業への移行過程 (pp. ₂₅-₃₇) 晃洋書房川喜田二郎 (₁₉₆₇). 発想法 創造性開発のために中央公論社川村光 (₂₀₁₂). 管理職への移行期における教職アイデンティティの再構築 小学校校長のライフヒストリーに注目して関西国際大学教育学部教育総合研究叢書, 5, ₁-₁₅. 松本浩司 (₂₀₀₈). 高校生の職業観の構造と形成要因 職業モデルの関連を中心に日本キャリア教育学会キャリア教育研究, 26(₂), ₅₇-₆₇. McCall, M. W. (₁₉₉₈). High flyers. Boston, MA: Harvard Business School Press.( マッコール,M. W. 金井壽宏 ( 監訳 )(₂₀₀₀). ハイフライヤー 次世代リーダーの育成法プレジデント社 ) 三隅二不二 (₁₉₆₆). 新しいリーダーシップ 集団指導の行動科学ダイヤモンド社三輪卓己 (₂₀₁₁). 知識労働者のキャリア発達 キャリア志向 自律的学習 組織間異動中央経済社文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課 (₂₀₁₁). 公立学校における校長等の登用状況等について文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課 ₂₀₁₁ 年 ₁₁ 月 Retrieved from http://www.mext.go.jp/b_ menu/houdou/₂₃/₁₁/attach/₁₃₁₂₈₅₂.htm(₂₀₁₅ 年 ₄ 月 ₇ 日 ) 大杉昭英 藤原文雄 渡邊恵子 今村聡子 植田みどり 藤岡謙一 鈴木瞬 (₂₀₁₄). 学校管理職育成の現状と今後の大学院活用の可能性に関する調査報告書国立教育政策研究所,pp. ₄₃-₄₅ 杉崎高広 (₂₀₀₉). 管理職忌避傾向に関する研究筑波大学大学院教育研究科修士論文 ( 未公刊 ) 高橋俊介 (₂₀₁₂). ₂₁ 世紀のキャリア論 想定外変化と専門性細分化深化の時代キャリア (p. ₂₆) 東洋経済新報社高野良子 河野銀子 木村育恵 杉山二季 池上徹 田口久美子 村上郷子 (₂₀₁₃). 公立高校学校管理職のキャリア形成に関する予備的考察 一任システム に着目して植草学園大学研究紀要, 5, ₂₅-₃₄. 高瀬智子 (₂₀₁₅). 学校管理職 指導主事志向に関する要因分析 東京都公立学校管理職 教員, 指導主事の調査を通して政策研究大学院大学教育政策プログラムポリシーペーパー ( 未公刊 ) 徳舛克幸 (₂₀₀₇). 若手小学校教師の実践共同体への参加の軌跡教育心理学研究, 55, ₃₄-₄₇. 東京都教育委員会 (₂₀₁₅). 東京都教員人材育成基本指針 一部改正版 平成 ₂₇ 年 ₂ 月, pp. ₁-₄, pp. ₁₅-₁₈, pp. ₁₉-₂₅ 塚田守 (₁₉₉₇). 高校教師のライフヒストリー研究 (₁) 中年期後の男性教師の聞き取りから椙山女学園大学研究論集社会科学篇, 28, ₂₄₁-₂₅₉. 付記 ₁ ) 本論文は第 ₁ 著者が筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達専攻に提出した修士論文を基礎に, 新たに分析及び議論を追加して執筆したものである ₂ ) 本論文の作成にあたり, 丁寧なご指導ご助言を賜りました筑波大学の藤桂先生, 埼玉学園大学の藤原健志先生に深く御礼を申し上げます (₂₀₁₆.₉.₁₃ 受稿,₂₀₁₇.₁₀.₂₄ 受理 )

80 教育心理学研究第 ₆₆ 巻第 ₁ Factors Affecting the Aspirations of Teachers to Become School Administrators: Presence of a Role Model and Experience in School Management TOMOKI KAWASAKI (FACULTY OF COMMERCE AND ECONOMICS, CHIBA UNIVERSITY OF COMMERCE) AND JUNKO IIDA (INSTITUTE OF PSYCHOLOGY, UNIVERSITY OF TSUKUBA) JAPANESE JOURNAL OF EDUCATIONAL PSYCHOLOGY, 2018, 66, 67 80 The purpose of the present study was to explore factors that may affect teachers' level of aspiration to become school administrators. In the first of 2 preliminary studies, 5 candidate teachers for positions as school administrators participated in a semi-structured interview that provided information about factors such as their past work experience, their sense of self-efficacy in teaching, how they perceived or valued their work as public education personnel, and their level of acknowledgement and perspective about becoming a school administrator in the future. In the second preliminary study, 68 teachers who also were candidates for positions as school principals completed questionnaires in which they described characteristics of their role model for school principal and gave a more indepth description of how they perceived the work of public education personnel. From the data of these 2 preliminary studies, a scale for measuring the level of aspiration to become a school administrator and a scale to measure related factors were developed. In the main study, 310 elementary and junior high school teachers participated in a survey conducted on-line. The results of a hierarchical regression analysis of the data suggested that the presence of an innovative and professional leader as role model and a sense of accomplishment achieved through experience in school management increased the teachers' willingness to contribute to school management and built a positive attitude toward school principals, thereby indirectly increasing their aspiration to become school administrators. Key Words: school administrators, aspiration to become school administrator, role model, school management experience, teacher education