平 成 28 年 (2016 年 ) 熊 本 地 震 調 査 報 告 熊 本 城 及 びその 周 辺 の 被 害 状 況 調 査 日 2016 年 5 月 7 日 福 岡 教 育 大 学 黒 木 貴 一 同 大 学 院 生 出 口 将 夫
調 査 範 囲 背 景 の 衛 星 画 像 は 簡 易 幾 何 補 正 の 為, 若 干 の 位 置 ずれがある 活 断 層 位 置 は 中 田 今 泉 編 の 活 断 層 詳 細 デジタルマップを 利 用 した ALOS 2008 年 11 月 13 日 取 得 DEMは 基 盤 地 図 情 報 を 利 用 した 熊 本 城 は, 東 は 坪 井 川 に, 西 を 井 芹 川 に 南 北 に 侵 食 された 細 長 い 京 町 台 地 の 先 端 で 茶 臼 山 と 呼 ばれる 地 に 設 置 された そこは20 万 分 の 1 地 質 図 によれば 阿 蘇 4 火 砕 流 堆 積 物 による 台 地 に 相 当 する 1607 年 の 築 城 以 来, 明 治 維 新, 西 南 戦 争, 第 二 次 世 界 大 戦 を 経 て 今 日 まで 引 き 継 がれてきたこの 歴 史 文 化 遺 産 は, 熊 本 地 震 で 史 上 最 大 の 被 害 を 受 けている 熊 本 城 公 式 ホームページ http://www.manyou-kumamoto.jp/contents.cfm?id=446 国 土 地 理 院 土 地 条 件 調 査 解 説 書 熊 本 地 区 http://www1.gsi.go.jp/geowww/landcondition/report/d001-temp-011u.pdf
熊 本 城 に 関 する4 月 中 被 害 報 道 タイトル( 朝 日 新 聞 の 場 合 ) 4/15 熊 本 城 重 文 の 長 塀 倒 壊 熊 本 地 震 4/15 熊 本 城 天 守 閣 石 垣 損 壊 熊 本 地 震 4/16 熊 本 城 の 櫓 石 垣 ごと 重 文 倒 壊 熊 本 地 震 4/16 熊 本 城 石 垣 瓦 に 被 害 熊 本 地 震 4/20 いまの 熊 本 城 の 姿 しのびない 鶴 ケ 城 で 募 金 活 動 始 まる 熊 本 地 震 / 福 島 県 4/20 熊 本 城 を 支 援 姫 路 城 も 一 役 募 金 箱 を 設 置 / 兵 庫 県 4/20 大 神 宮 の2 人 一 命 熊 本 城 の 重 文 やぐら 直 撃 社 務 所 被 害 熊 本 地 震 / 熊 本 県 4/20 熊 本 城 の 被 害 築 城 以 来 最 大 か 熊 本 地 震 / 熊 本 県 4/20 熊 本 城 へ30 億 円 支 援 日 本 財 団 総 額 93 億 円 規 模 4/22 文 化 財 復 旧 経 験 生 かせるか 熊 本 地 震 熊 本 城 や 阿 蘇 神 社 など 被 害 4/23 修 理 最 大 規 模 に 文 化 庁 熊 本 城 を 視 察 4/28 熊 本 城 一 本 石 垣 耐 えて 励 ます 熊 本 地 震
熊 本 城 の 確 認 地 点 治 水 地 形 分 類 図 に 確 認 地 点 を 重 ねた 崖 段 丘 面 切 土 地 熊 本 城 は 段 丘 面, 切 土 地, 崖 で 構 成 される
地 点 1 二 の 丸 駐 車 場 土 産 品 販 売 所 管 理 事 務 所 二 の 丸 駐 車 場 西 大 手 御 門 の 石 垣 倒 壊 は 遠 く 確 認 できるが 立 ち 入 り 規 制 されている 土 産 品 販 売 所 と 管 理 事 務 所 の 棟 瓦 が 破 損 しており, 立 ち 入 り 禁 止 とされている 桟 瓦 (サンカ ワ ラ)の 変 状 はあまりない 二 の 丸 広 場 は 観 光 客 が 少 なく, 復 旧 工 事 関 係 者 と 監 視 員 が 見 られる
地 点 2 戌 亥 櫓 戌 亥 櫓 西 出 丸 長 塀 北 西 事 務 所 余 震 の 落 石 で 岩 片 が 飛 散 する 事 が 懸 念 されるため 事 務 所 雨 戸 は 閉 めている 戌 亥 櫓 北 面 の 石 垣 が 崩 壊 し, 櫓 は 不 安 定 な 状 態 となった 西 出 丸 長 塀 も 北 端 で 崩 壊 した この 長 壁 はGoogleEarth4/15に 変 状 は 無 く4/17には 崩 壊 している
地 点 3 二 の 丸 御 門 南 北 背 後 にまだクラックが 認 められる ピンボケです 二 の 丸 御 門 では, 石 垣 の 角 の 破 壊 が 著 しい また 東 西 方 向 の 石 垣 が 北 へ 向 かって 崩 壊 した
地 点 4 長 壁 西 南 西 西 北 西 少 し 突 出 している 東 南 東 東 北 東 熊 本 城 の 東 側 にある 長 塀 が 転 倒 した 石 垣 には 変 状 が 見 られない しかし 長 塀 に 西 北 西 - 東 南 東 で 斜 交 する 石 垣 の 特 に 上 部 で, 石 が 若 干 突 出 することが 分 かる
地 点 5 東 十 八 軒 櫓 南 北 南 から 見 た 景 観 南 北 延 長 の 石 垣 ( 比 高 約 10m) 及 び 櫓 が 東 側 に 全 体 が 表 層 崩 壊 のように 崩 れ 落 ちている この 影 響 で 熊 本 大 神 宮 は 社 が 倒 壊 する 被 害 となった
地 点 6 不 開 の 門 東 西 さらに 上 の 城 壁 からの 崩 壊 物 が 崖 錐 状 に 堆 積 した 東 西 延 長 の 石 垣 ( 比 高 約 10m)の 上 部 が 北 側 に 抜 けるように 崩 壊 した 石 垣 上 部 はえぐられ たような 凹 部 となった 地 上 には 巨 石 が 広 範 囲 に 散 らばる
地 点 7 城 の 北 縁 南 オーバーハング 北 熊 本 城 の 北 部 には 南 北 方 向 の 崖 があり, 擁 壁 が 設 置 され 一 部 火 砕 流 堆 積 物 も 露 出 する ただ 両 者 には 変 状 がほとんど 見 られない
地 点 8 監 物 櫓 東 西 石 が 飛 び 出 すように 見 える 防 護 ネット 櫓 の 土 壁 が 崩 落 している この 石 垣 に 変 状 を 確 認 できないが, 近 傍 の 石 垣 では 上 端 部 が 飛 び 出 すように 見 え 落 石 防 護 と 思 しきネットが 設 置 された
地 点 9 テニスコート 北 東 西 下 からの 観 察 では 石 垣 の 変 状 はあまり 見 られないが, 上 部 で 板 壁 が 倒 壊 し 付 随 する 石 垣 は 変 状 を 受 けている 付 近 は, 急 傾 斜 地 崩 壊 危 険 区 域 の 指 定 がなされている
地 点 10 テニスコート 東 西 面 北 面 南 西 南 面 東 面 北 東 南 東 瓦 の 落 下 瓦 の 落 下 休 憩 所 の 棟 瓦 ( 南 東 と 北 西 )が 落 下 した 桟 瓦 は 東 面 の 被 害 が 著 しく, 北 西 の 棟 瓦 は 落 下 したものの 北 と 西 面 の 桟 瓦 の 変 状 はほとんどない ( 飛 んだ?)
地 点 11 旧 細 川 刑 部 邸 南 西 東 北 石 垣 の 変 状 はほとんど 認 められないが, 南 北, 東 西 方 向 の 板 壁 がともに 緩 やかにしなる ように 傾 いた
地 点 12 護 国 神 社 狛 犬 もずれた 神 社 本 殿 の 外 観 上 の 被 害 は 認 められないが, 石 碑 倒 壊 と 鳥 居 の 一 部 破 損 が 生 じた 鳥 居 は 土 台 と 柱 との 境 界 で 北 北 西 部 (N20 W)の 破 壊 が 著 しい
地 点 13 護 国 神 社 東 北 南 南 北 延 長 の 石 垣 ( 比 高 約 5m)の 上 部 が 西 側 に 全 体 が 表 層 崩 壊 のように 崩 れ 落 ちている この 影 響 で 道 路 通 行 止 めが 続 いている
地 点 14 新 一 丁 目 御 門 北 南 西 東 南 北 に 延 びる 崖 と 石 垣 には 変 状 が 見 えない しかし 東 西 に 延 びる 火 砕 流 台 地 の 崖 では 落 石 や 表 層 崩 壊 が 生 じている
熊 本 城 周 辺 の 確 認 地 点 治 水 地 形 分 類 図 に 確 認 地 点 を 重 ねた 氾 濫 平 野 崖 山 麓 堆 積 地 形 段 丘 面 盛 土 地 埋 立 地 旧 堤 防 扇 状 地 熊 本 城 周 辺 は 段 丘 面, 山 麓 堆 積 地 形, 崖, 扇 状 地, 盛 土 地 埋 立 地, 氾 濫 平 野, 旧 堤 防, 浅 い 谷 で 構 成 される
地 点 21 古 城 町 ( 盛 土 地 埋 立 地 ) 古 地 図 では 堀 の 記 載 市 政 だよりくまもと2006 年 5 月 ( 平 成 19 年 熊 本 城 は 築 城 400 年 を 迎 えます 熊 本 城 みてある 記 (1)) https://www.city.kumamoto.jp/html/shiseidayori/06/05/last/index.html 要 注 意 の 張 り 紙 盛 土 地 埋 立 地 にある 建 物 の 壁 に 大 きなクラックが 生 じ 要 注 意 の 張 り 紙 が 貼 付 された 周 辺 では 他 の 建 物 の 被 害 も 比 較 的 大 きく,ビニールシートで 屋 根 を 覆 った 家 屋 が 散 見 される
地 点 22 桜 町 ( 旧 堤 防, 扇 状 地 ) 扇 状 地 旧 堤 防 旧 堤 防 と 扇 状 地 を 跨 ぐように 坪 井 川 沿 いにあるマンションでは, 壁 のクラックや 道 路 面 と の 段 差 が 生 じた 結 果, 赤 の 危 険 の 紙 が 貼 付 された
地 点 23 神 社 ( 扇 状 地 ) 北 西 鳥 居 が 無 い 南 東 山 崎 菅 原 神 社 の 鳥 居 は 倒 壊 していたが, 社 に 変 状 は 全 く 認 められない 社 の 柱 が 土 台 からほぼ 南 北 方 向 に 数 cm 移 動 した
地 点 24 市 民 会 館 ( 扇 状 地 ) 城 内 の 熊 本 城 総 合 事 務 所 は 地 震 被 害 の 為, 市 民 会 館 に 避 難 移 設 されている 担 当 者 によると, 国 土 交 通 省, 文 化 庁, 役 所 の 専 門 職 以 外, 熊 本 城 立 ち 入 り 禁 止 区 域 への 侵 入 は 許 可 されない 北 全 景 南 市 民 会 館 建 物 と 路 面 間 に 破 損 したタイル 群 が 線 状 に 見 られた 著 しい 破 損 域 は 南 北 走 向 のため, 南 北 方 向 の 地 震 動 で 基 礎 のある 建 物 と 路 面 間 で 応 答 差 が 生 じたと 考 えられる
地 点 25 市 役 所 前 ( 扇 状 地 および 堤 外 ) クラックが 生 じた 扇 状 地 堤 外 旧 堤 防 上 の 建 物 と 同 路 面 との 間 に 約 10cmの 段 差 が 生 じた 扇 状 地 と 河 道 の 境 界 に 当 る ため 若 干 盛 土 していると 考 えられる 建 物 は 危 険 な 状 態 のため 立 ち 入 りできない
地 点 26 千 葉 城 町 ( 崖 ( 段 丘 崖 ) 隣 接 のコンクリート 建 物 旧 河 道 に 隣 接 する 火 砕 流 台 地 の 崖 ( 平 坦 化 済 み)にある 木 造 家 屋 は 被 害 が 大 きく 立 ち 入 りが 制 限 されている 隣 接 するコンクリート 建 物 は 段 差 が 若 干 生 じたのみである
地 点 27 京 町 1( 段 丘 面 ( 火 砕 流 台 地 )) 建 物 側 建 物 自 体 に 変 状 はほとんどない! 山 麓 堆 積 地 形 駐 車 場 側 駐 車 場 と 下 位 の 集 落 とは5m 程 度 の 垂 直 壁 で 境 される マンション 建 物 と 駐 車 場 の 境 界 にクラックが 生 じ, 後 者 が 沈 下 したため 下 水 等 インフラや 花 壇 等 施 設 が 破 損 した 前 者 は 火 砕 流 台 地 に 後 者 はその 斜 面 を 盛 土 平 坦 化 し 設 置 された
地 点 28 寺 院 ( 火 砕 流 台 地 上 ) 全 景 南 東 反 射 で 読 めなくなりました 西 北 寺 院 建 物 の 瓦 被 害 は 生 じたが 倒 壊 はない 建 物 柱 が 土 台 に 対 し 少 し 西 に 偏 りつつ 北 に 移 動 した 倒 壊 した 灯 篭 から 移 動 方 向 の 判 断 は 難 しい 付 近 の 建 物 の 被 害 は 軽 微 である
地 点 29 京 町 2( 山 麓 堆 積 地 形 ) 災 害 ゴミ 山 麓 堆 積 地 形 にある 木 造 建 物 では 倒 壊 等 の 甚 大 な 被 害 は 見 られず,ビニールシートで 屋 根 を 覆 う 家 屋 も 少 ない また 同 路 面 のクラックも 観 察 できない 災 害 ゴミが 集 積 されている
地 点 30 上 熊 本 ( 氾 濫 平 野 ) 変 状 の 無 い 建 物 熊 本 城 クラック クラック 家 屋 被 害 は 目 立 たないものの, 擁 壁 の 転 倒 を 確 認 した また 火 砕 流 台 地 と 氾 濫 平 野 境 界 の( 緩 ) 傾 斜 地 では 道 路 のクラック 被 害 が 目 立 つ
地 点 31 新 町 ( 盛 土 地 埋 立 地 ) 古 地 図 では 堀 の 記 載 破 損 盛 土 地 埋 立 地 に 立 地 する 木 造 建 物 では 危 険 を 示 す 赤 の 紙 が 貼 付 され, 向 かいの 強 固 なコンクリート 建 物 では 窓 ガラスが 破 損 したままとなっている
まとめ 熊 本 城 及 びその 周 辺 の 地 震 被 害 を 調 査 し, 被 害 の 地 理 条 件 を 検 討 した 火 砕 流 台 地 を 中 心 に 土 地 利 用 する 当 地 では, 地 形 種, 地 形 方 向 性, 地 形 改 変 過 程 などの 条 件 に 関 連 付 けられる 地 震 被 害 の 大 小 を 観 察 できたため, 復 旧 対 応 の 基 礎 情 報 を 地 理 条 件 から 提 示 できることが 考 えられる 1. 熊 本 城 1) 石 垣 や 城 壁 の 角 部 での 破 損 が 大 きい 2) 東 西 方 向 の 石 垣 は 自 然 斜 面 も 含 め 飛 び 出 るように 崩 壊 した 形 状 を 示 す 3) 南 北 方 向 の 石 垣 は 被 害 が 少 なく 崩 れ 落 ちる 形 状 を 示 すことが 多 い 4) 瓦, 櫓, 土 壁, 板 壁 の 被 害 は 石 垣 変 状 に 調 和 した 被 害 程 度 と 異 方 性 を 示 す 2. 熊 本 城 周 辺 1) 灯 篭 や 鳥 居 等 の 構 造 物 に 若 干 西 偏 する 南 北 性 の 地 震 動 痕 跡 が 認 められた 2) 家 屋 等 施 設 では 氾 濫 平 野, 扇 状 地, 盛 土 地 埋 立 地 の 方 が, 火 砕 流 台 地, 山 麓 堆 積 地 形 より 被 害 が 生 じやすかったことを 確 認 した 3) 盛 土 と 自 然 地 盤 との 境 界 に 生 じた 段 差 や 地 震 応 答 による 被 害 が 多 く 見 られた *5/7 現 在, 熊 本 城 の 立 ち 入 り 禁 止 区 域 内 の 調 査 は 一 般 には 許 可 されず 周 辺 調 査 だったこと, 施 設 等 倒 壊 の 危 険 があるため 接 近 できず 遠 方 からの 調 査 となったため,より 正 確 な 評 価 は 今 後 の 課 題 である * 被 害 の 異 方 性 に 関 しては, 調 査 域 を 広 げるとともに, 水 平 動 粒 子 軌 跡 との 対 照 を 実 施 する 必 要 がある