2004 年 11 月 26 日 発 行 地 方 税 の 国 際 比 較 ~ 三 位 一 体 の 改 革 の 税 源 移 譲 に 向 けての 留 意 点 ~
本 誌 に 関 するお 問 い 合 わせは みずほ 総 合 研 究 所 株 式 会 社 調 査 本 部 電 話 (03)3201-0577 まで 2
はじめに 地 方 税 財 政 における 三 位 一 体 の 改 革 の 具 体 像 を 固 める 検 討 作 業 が 本 格 化 している 三 位 一 体 の 改 革 は 1 国 から 地 方 への 補 助 金 ( 国 庫 補 助 負 担 金 )の 削 減 2 国 から 地 方 への 税 源 移 譲 3 地 方 交 付 税 の 見 直 しの 三 本 柱 からなり 2004 年 度 から3 年 間 で 約 4 兆 円 の 補 助 金 の 削 減 と 概 ね3 兆 円 規 模 の 税 源 移 譲 が 行 われる 予 定 である 今 年 6 月 に 閣 議 決 定 された 経 済 財 政 運 営 と 構 造 改 革 に 関 する 基 本 方 針 2004 (いわゆ る 骨 太 の 方 針 2004 )において 三 位 一 体 の 改 革 における 所 得 税 から 個 人 住 民 税 への 税 源 移 譲 が 明 記 された これまでは 国 庫 補 助 負 担 金 の 削 減 が 注 目 を 浴 びてきたが 今 後 は 税 源 移 譲 の 内 容 が 焦 点 となる 見 込 みである 現 在 のところ 2006 年 度 までに 国 税 である 所 得 税 のうち3 兆 円 程 度 を 地 方 税 である 個 人 住 民 税 に 移 譲 し その 際 個 人 住 民 税 を 税 率 10%で 定 率 化 する 案 が 有 力 である 一 方 で 全 国 知 事 会 などの 地 方 6 団 体 や 関 西 社 会 経 済 研 究 所 などの 調 査 機 関 は 消 費 税 から 地 方 消 費 税 への 移 譲 も 提 案 している 総 務 省 や 内 閣 府 も 発 表 資 料 で 同 様 の 言 及 をしており 消 費 税 も 移 譲 税 源 の 有 力 な 選 択 肢 の 一 つとなる だろう このような 税 源 移 譲 をめぐる 議 論 は これから 最 大 の 山 場 を 迎 える そこで 以 下 では 三 位 一 体 の 改 革 で 目 指 すべき 地 方 税 のあり 方 とそれにふさわしい 税 源 移 譲 の 方 策 を 検 討 し たい 具 体 的 には 地 方 分 権 が 進 展 している 欧 米 諸 国 での 地 方 税 体 系 はどうなっているの か 地 方 税 において 個 人 所 得 課 税 や 消 費 課 税 の 割 合 が 増 えることは 理 にかなっているのか 地 方 税 である 個 人 所 得 課 税 の 比 例 税 率 化 を 行 っている 国 はあるのか 等 をサーベイする そ の 上 で これら 欧 米 諸 国 の 事 例 を 踏 まえて わが 国 が 目 指 すべき 税 源 移 譲 の 方 向 性 につい て 留 意 点 を 提 示 する 1. 地 方 税 の 理 論 的 考 察 そもそも 日 本 をはじめ 各 国 の 地 方 税 体 系 は どのような 考 えに 基 づき 形 成 されてきたの だろうか まず それをみていくことにしよう (1) 地 方 税 原 則 日 本 においては 旧 自 治 省 時 代 から 地 方 税 原 則 が 明 文 化 されている 自 治 省 地 方 税 制 の 現 状 とその 運 営 の 実 態 (1997 年 )によれば 地 方 税 にふさわしい 税 目 の 特 性 は 1 収 入 が 十 分 なものであり かつ 普 遍 的 なもの 2 収 入 に 安 定 性 があるもの 3 収 入 に 伸 張 性 があるもの 4 負 担 分 任 性 があるもの 5 地 方 団 体 の 行 政 又 は 施 設 と 関 連 があるもの( 応 益 性 ) 6 地 方 の 自 主 性 があるもの の6つとされている 一 方 ヨーロッパ 地 方 自 治 憲 章 では 地 方 税 に 関 するガイドラインとして 1 支 払 能 力 に 応 じた 公 平 な 負 担 とすること 2 相 当 の 税 収 を 得 るとともに 徴 税 コスト 及 び 納 税 コストが 少 ないこと 3 納 税 者 にとって 税 負 担 が 明 確 であること 4 地 方 政 府 が 一 定 の 範 囲 で 税 率 操 作 権 を 有 すること 5サービス 水 準 が 異 なるのでない 限 り 税 率 が 大 きく 異 な 3
り 過 ぎないようにすること 6 経 済 社 会 に 対 する 歪 み をもたらさないようにするこ と 7 費 用 の 増 大 に 応 じた 税 収 の 伸 張 性 をある 程 度 持 つこと があげられている ヨーロ ッパの 地 方 税 に 関 するガイドラインは 地 方 政 府 の 税 率 操 作 権 に 触 れるなど 地 方 政 府 に よる 独 自 性 を 重 視 しており 日 本 における 地 方 税 原 則 に 比 べ 地 方 分 権 を 踏 まえた 内 容 に なっているといえよう (2) 課 税 ベースの 特 質 続 いて 主 要 な 課 税 ベースについて その 特 徴 と 各 国 での 採 用 状 況 を 見 ることとする a. 資 産 課 税 固 定 資 産 税 をはじめとする 資 産 課 税 は 税 源 の 地 理 的 な 特 定 が 容 易 であり 受 益 と 負 担 の 関 係 が 明 確 である さらに 景 気 変 動 の 影 響 を 受 けにくいため 税 収 も 安 定 的 である こ のため 欧 米 の 地 方 税 は 歴 史 的 に 資 産 課 税 が 中 心 であり 現 在 も 地 方 税 として 多 くの 国 で 採 用 されている しかし 経 済 成 長 に 応 じた 税 収 の 伸 張 性 に 乏 しい 面 がある b. 個 人 所 得 課 税 個 人 所 得 課 税 は 伸 張 性 に 欠 ける 資 産 課 税 の 補 完 的 役 割 として 地 方 における 行 政 サー ビスの 費 用 を 住 民 が 広 く 負 担 するための 税 とされてきた 具 体 的 に 見 ると ドイツ アメリカ カナダなど 連 邦 国 家 1 の 州 で 個 人 所 得 課 税 の 割 合 が 高 い 単 一 国 家 では スウェーデンと 日 本 において 割 合 が 多 い いずれの 国 も 地 方 だ けでなく 国 でも 個 人 所 得 課 税 を 行 っている 他 方 イギリス フランスにおいては 地 方 で は 個 人 所 得 課 税 を 行 っていない c. 法 人 所 得 課 税 法 人 所 得 課 税 は 経 済 成 長 に 伴 う 税 収 増 が 他 の 税 以 上 に 期 待 できるが 景 気 変 動 による 税 収 増 減 が 非 常 に 大 きいため 景 気 低 迷 期 には 大 幅 な 税 収 減 が 生 じる 地 方 税 としてみた 場 合 法 人 所 得 は 地 理 的 に 偏 在 しており 自 治 体 間 の 税 収 格 差 が 大 きい また 選 挙 権 を 持 たない 法 人 への 課 税 は 地 域 行 政 サービスの 受 益 負 担 の 関 係 をあいまいにし 地 方 自 治 体 の 財 政 運 営 に 関 する 住 民 への 説 明 責 任 を 不 明 確 にするという 問 題 も 抱 えている このため 日 本 ドイツを 除 き 地 方 税 収 に 占 める 法 人 所 得 課 税 の 比 重 は 小 さい また ドイツでも 自 治 体 の 法 人 所 得 課 税 について 問 題 意 識 があり 営 業 税 2 は 縮 小 の 方 向 にある d. 消 費 課 税 ( 一 般 消 費 課 税 ) 消 費 課 税 は 応 益 性 が 高 く 地 域 的 な 偏 在 が 少 ない 等 の 特 徴 をもつことから 日 本 ア メリカ ドイツ カナダなどで 採 用 されている アメリカでは 州 ごとに 税 率 が 異 なるが 日 本 ドイツにおいては 州 地 方 独 自 の 税 率 設 定 は 行 われていない なお EUは 消 費 1 連 邦 国 家 とは 複 数 の 州 または 国 家 が 結 合 し 全 体 を 包 括 する 一 つの 枠 組 みとして 形 成 された 国 家 の こと 一 方 連 邦 国 家 ではなく 単 体 の 国 家 が 単 一 国 家 と 呼 ばれる 本 稿 においては 単 一 国 家 とし て 日 本 イギリス フランス スウェーデンが 連 邦 国 家 としてドイツ アメリカ カナダがそれぞ れ 該 当 する 2 営 業 収 益 をベースに 法 人 に 課 される 税 4
課 税 の 地 域 別 複 数 税 率 の 設 定 を 制 限 している このことから 地 方 自 治 体 が 税 率 を 決 める べきであるとの 考 え 方 に 立 つイギリスとフランスでは 地 域 ごとに 異 なる 消 費 税 率 が 設 定 されることを 回 避 するため 自 治 体 が 消 費 課 税 を 徴 収 することは 認 めていない 3 2. 各 国 の 地 方 税 概 観 ~データ 比 較 ~ 次 に 具 体 的 なデータに 基 づいて 欧 米 諸 国 の 地 方 税 の 現 状 を 確 認 し 比 較 考 察 する (1) 国 の 総 税 収 に 占 める 地 方 税 の 割 合 まず 中 央 政 府 と 地 方 政 府 を 合 わせた 全 税 収 に 占 める 地 方 税 の 割 合 を 比 較 する( 図 表 1) 単 一 国 家 では 日 本 が 42.1%で 最 も 高 くなっている スウェーデン フランスがそれに 続 き 最 も 低 いイギリスは 5.5%となっている 連 邦 国 家 で 見 ると 州 税 と 市 町 村 税 4 をあわ せた 地 方 税 は カナダが 50%を 超 えているのを 筆 頭 に ドイツ アメリカとも 40%を 超 え ている 州 税 と 市 町 村 税 の 割 合 は アメリカが3 対 2で 市 町 村 税 の 割 合 が 最 も 多 く カナ ダが4 対 1と 市 町 村 税 の 割 合 が 最 も 低 くなっている 全 体 的 に 単 一 国 家 に 比 べ 連 邦 国 家 のほうが 地 方 税 の 割 合 が 高 い 図 表 1 全 税 収 に 占 める 州 地 方 税 収 の 割 合 (2002 年 ) (2) 地 方 の 歳 入 における 税 収 の 割 合 続 いて 地 方 歳 入 に 占 める 地 方 税 の 割 合 を 見 ると( 図 表 2) 単 一 国 家 では 68.2%のス ウェーデンが 最 も 高 い 日 本 はイギリス(16.0%)に 次 いで 低 い 34.3%である 連 邦 国 家 では ドイツ カナダの 州 は 6~7 割 と 高 めである ただし ドイツの 市 町 村 は3 割 を 切 っている アメリカは 州 も 市 町 村 も4 割 強 である 全 体 では 連 邦 国 家 とスウェーデン 3 なお フランスにおいて 石 油 製 品 内 国 消 費 税 が 地 方 に 移 譲 されることになったが このことは EU の 規 定 との 関 係 で 議 論 を 呼 んでいる 4 連 邦 国 家 の 州 の 下 に 位 置 する 自 治 体 について ドイツは 市 町 村 アメリカ 及 びカナダは 地 方 政 府 と 訳 すことが 多 いが ここでは 国 中 央 に 対 する 地 方 と 区 別 するため 市 町 村 で 統 一 する 5
において 地 方 税 の 割 合 が 高 く その 他 の 単 一 国 家 では 地 方 税 の 割 合 は 低 めである 図 表 2 地 方 歳 入 の 内 訳 (3) 地 方 税 の 課 税 ベース 地 方 税 の 税 目 の 数 に 注 目 すると イギリス 及 びスウェーデンでは 単 一 税 目 であり その 他 の 国 においては 複 数 税 目 となっている( 図 表 3) 地 方 税 の 主 な 内 訳 を 個 人 所 得 課 税 法 人 所 得 課 税 資 産 課 税 消 費 課 税 といった 課 税 ベースごとでみると イギリス フラン スの 地 方 税 は 資 産 課 税 中 心 となっている スウェーデンでは 個 人 所 得 課 税 が 100%である 連 邦 国 家 であるドイツ アメリカ カナダの 地 方 税 については 個 人 所 得 課 税 と 消 費 課 税 が 多 くなっている 州 と 市 町 村 に 分 けてみると 州 では 個 人 所 得 課 税 と 消 費 課 税 が 多 く 市 町 村 では 資 産 課 税 の 割 合 が 高 くなっている ドイツの 市 町 村 では 個 人 所 得 課 税 も 多 く なっている なお フランスにおいてはその 他 の 税 が 48%を 占 めているが その 大 部 分 は 職 業 税 5 である 日 本 の 地 方 税 では 資 産 課 税 が 最 も 割 合 が 高 くなっているが 個 人 所 得 課 税 法 人 所 得 課 税 資 産 課 税 消 費 課 税 がそれぞれ 15~30% 程 度 でバランスがとれており 欧 米 諸 国 とは 異 なる 特 徴 を 持 っている 特 に 法 人 所 得 課 税 の 割 合 が 7か 国 中 で 一 番 高 く なっている 6 5 個 人 事 業 者 及 び 法 人 に 対 し 事 業 用 固 定 資 産 と 支 払 給 与 に 課 税 される 税 OECD の 税 務 統 計 上 は その 他 に 分 類 される なお 支 払 給 与 に 基 づく 部 分 は 2003 年 をもって 廃 止 された 6 なお ドイツの 市 町 村 において 法 人 所 得 課 税 の 割 合 が 20.6%と 高 くなっているが 地 方 ( 州 と 市 町 村 6
図 表 3 課 税 ベース 別 地 方 税 の 内 訳 (2002 年 ) 3. 各 国 の 地 方 税 収 構 造 ~ 国 別 内 容 比 較 ~ 続 いて 欧 米 諸 国 の 地 方 税 構 造 の 特 徴 とその 背 景 を 国 別 にみてみよう (1) 各 国 ごとの 特 徴 とその 背 景 a. イギリス イギリスの 地 方 税 の 特 徴 は 固 定 資 産 税 のみの 単 一 税 目 であることである また 税 目 はレイト( 住 宅 事 業 税 )から 人 頭 税 さらにカウンシル( 財 産 ) 税 へと 変 遷 しているが いずれも 応 益 性 が 高 い 地 方 財 政 の 一 般 会 計 収 支 は 税 率 で 調 整 するため 毎 期 税 率 が 変 更 される また かつて 法 人 の 地 方 税 であった 事 業 税 レイトが 国 税 化 されるなど 投 票 権 を 持 たない 法 人 への 課 税 が 過 度 にならないよう 配 慮 されている b. フランス フランスの 地 方 税 は 税 目 が 多 い 中 でも 資 産 税 職 業 税 が 中 心 で 税 収 が 安 定 的 で 地 理 的 な 確 定 が 容 易 であることが 特 徴 である フランスでは 地 方 税 には 地 方 の 自 主 性 が 発 の 合 計 )として 見 ると 7.7%であり 日 本 に 比 べて 小 さい 割 合 である 7
揮 されるべきという 考 えがあり 長 く 付 加 価 値 税 所 得 税 法 人 税 は 地 方 税 にふさわしく ないとされてきた c. スウェーデン スウェーデンの 地 方 税 は イギリス 同 様 単 一 税 目 である 税 目 は 個 人 所 得 課 税 のみで あり 応 益 性 を 考 慮 して 一 定 税 率 で 課 税 されている(なお 国 の 所 得 課 税 は 累 進 課 税 ) 地 方 政 府 は 個 人 所 得 以 外 に 課 税 できず 国 全 体 の 個 人 所 得 課 税 の 96.7%が 地 方 税 となって いる また 地 方 の 一 般 会 計 収 支 は 税 率 で 調 整 する スウェーデンの 地 方 税 体 系 は 19 世 紀 までは 固 定 資 産 課 税 中 心 だった その 後 自 治 体 の 業 務 拡 大 とともに 経 済 成 長 に 応 じた 税 収 が 確 保 できる 個 人 所 得 課 税 の 比 重 が 増 していった d. ドイツ ドイツは 連 邦 州 市 町 村 で 税 を 共 有 する 共 同 税 方 式 を 採 用 している 州 では 個 人 所 得 課 税 と 消 費 課 税 が また 市 町 村 では 個 人 所 得 課 税 中 心 の 税 目 となっている 1955~56 年 所 得 法 人 税 が 連 邦 州 の 共 同 税 に また 営 業 税 不 動 産 税 が 市 町 村 税 となったが 1969 年 には 市 町 村 における 税 収 の 安 定 性 確 保 のため 共 同 税 に 付 加 価 値 税 ( 消 費 課 税 )は 追 加 された さらに 1998 年 所 得 税 付 加 価 値 税 の 一 部 を 市 町 村 へ 配 分 することになった 現 在 地 方 の 法 人 所 得 課 税 ( 営 業 税 )は 縮 小 方 向 にある e. アメリカ カナダ アメリカ カナダにおいては 州 や 市 町 村 ごとに 税 目 は 異 なるが 州 では 個 人 所 得 税 と 一 般 消 費 税 が また 市 町 村 では 固 定 資 産 税 が 主 な 税 目 となっている アメリカ カナダの いずれにおいても 一 般 会 計 収 支 を 地 方 税 の 税 率 で 調 整 している 州 や 市 町 村 が 多 い アメリカでは 連 邦 税 の 原 則 であった 税 収 の 人 口 比 例 分 配 が 困 難 であった 資 産 課 税 は 地 方 税 にされていた 州 は 合 衆 国 憲 法 制 定 以 前 から 独 自 に 課 税 権 を 行 使 しており 憲 法 によってその 課 税 権 が 制 限 されなかった このため 州 ごとに 独 自 の 税 体 系 が 構 築 されて いる カナダにおいては 州 は 憲 法 で 直 接 税 に 関 する 権 限 しか 持 たなかったが 解 釈 や 条 文 の 変 更 によりその 権 限 を 拡 大 してきた 現 在 は 州 ごとに 独 自 の 税 体 系 が 構 築 されてい る (2) 国 際 的 な 地 方 税 の 傾 向 まとめ これまで 見 てきた 欧 米 諸 国 の 地 方 税 の 傾 向 をまとめると( 図 表 4) 単 一 国 家 型 スウ ェーデン 型 連 邦 国 家 型 に 分 けることができる a. 単 一 国 家 型 イギリス フランスといった 単 一 国 家 では 租 税 全 体 に 占 める 地 方 税 の 割 合 が 低 くなっ ており 地 方 歳 入 における 地 方 税 の 割 合 も 低 い 両 国 とも 資 産 課 税 を 中 心 に 据 えていることから 応 益 原 則 と 税 収 の 安 定 性 を 重 視 してい る また 選 挙 権 を 持 たない 法 人 に 対 する 地 方 課 税 は 制 限 される 方 向 にあり 法 人 所 得 課 税 の 割 合 は 低 くなっている 8
地 方 の 一 般 会 計 収 支 を 税 率 の 上 げ 下 げによって 調 整 するなど 地 方 による 税 率 決 定 権 を 重 視 する 傾 向 がある また 地 方 税 の 全 国 均 一 課 税 という 考 え 方 もなく 地 域 ごとの 税 源 の 偏 在 度 が 高 いか 低 いかという 観 点 があまり 見 られない これは 税 収 の 大 小 は 地 域 ごと に 税 率 を 決 定 して 対 処 すべきだという 考 えが 浸 透 しているためと 考 えられる 7 b. スウェーデン 型 スウェーデンは 単 一 国 家 であるが イギリスやフランスとは 異 なり 租 税 全 体 に 占 める 地 方 税 の 割 合 が 比 較 的 高 く 地 方 歳 入 における 地 方 税 の 割 合 も 大 きい 地 方 税 体 系 は 個 人 所 得 課 税 中 心 となっている c. 連 邦 国 家 型 連 邦 国 家 であるドイツやアメリカ カナダでは 租 税 全 体 に 占 める 地 方 税 の 割 合 が 高 く 地 方 歳 入 における 税 収 の 割 合 も 比 較 的 高 くなっている 地 方 税 体 系 においては 州 では 個 人 所 得 課 税 と 消 費 課 税 が また 市 町 村 では 資 産 課 税 が 多 いという 特 徴 もある(ただしドイ ツの 市 町 村 では 資 産 課 税 はそれほど 大 きくない) 連 邦 国 家 が 持 つ 単 一 国 家 と 異 なる 特 徴 は 次 の2 点 である 一 点 目 は 連 邦 国 家 の 地 方 政 府 においては 資 産 課 税 のみでなく 個 人 所 得 課 税 による 税 収 も 多 いことである 二 点 目 は 消 費 課 税 が 地 方 税 として 導 入 されていることである 消 費 課 税 は 安 定 した 財 源 であり 景 気 変 動 で 大 きく 増 減 する 個 人 所 得 課 税 を 補 うことができるためである これら3 類 型 のうち もっとも 地 方 分 権 的 なのは 地 方 税 の 割 合 を 高 くする 仕 組 みとな っている 連 邦 国 家 型 であるといえよう 図 表 4 地 方 税 体 系 の 分 類 7 なお 他 の 北 欧 諸 国 においても 個 人 所 得 課 税 は 地 方 税 収 の 大 部 分 を 占 めており(デンマーク 91.2% ノルウェー88.0% フィンランド 85.3% いずれも 2002 年 ) 北 欧 型 と 称 することもできよう 9
4. 日 本 の 地 方 税 体 系 これまでみてきたように 欧 米 諸 国 における 地 方 税 の 考 え 方 のうち 最 も 地 方 分 権 が 進 んでいるのは 連 邦 国 家 型 であり 地 方 分 権 をめざす 日 本 が 学 ぶべき 点 も 多 くあると 思 われ る そこで 具 体 的 な 教 訓 を 導 き 出 す 前 に ここで 改 めて 日 本 の 地 方 税 はどのようになっ ているかをみてみよう 第 一 に わが 国 の 地 方 政 府 の 税 収 構 成 比 をみると 個 人 所 得 法 人 所 得 消 費 資 産 へ の 課 税 のバランスが 取 れているという 特 徴 が 指 摘 できる( 前 出 図 表 3) このような 税 収 構 造 により それぞれの 課 税 ベースの 長 所 と 短 所 が 互 いに 補 完 される 形 となっている 第 二 に 欧 米 諸 国 における 地 方 税 体 系 との 大 きな 違 いは わが 国 は 法 人 所 得 課 税 8 の 割 合 が 高 く 地 方 税 の 主 要 な 税 目 の 一 つとなっていることである 法 人 所 得 課 税 は 地 方 全 体 でみると 18.2% 都 道 府 県 のみだと 30.3%を 占 めており 都 道 府 県 税 の 中 では 一 番 高 い 割 合 となっている 法 人 所 得 課 税 は 自 治 体 間 の 税 収 格 差 の 大 きな 原 因 となっており( 図 表 5) 法 人 所 得 は 景 気 の 影 響 を 受 けやすいことから 税 収 の 不 安 定 要 因 でもある なお 2004 年 度 から 法 人 事 業 税 に 外 形 標 準 課 税 が 導 入 されたが 外 形 標 準 課 税 の 割 合 は 法 人 事 業 税 の 4 分 の1にとどまっており 外 形 標 準 課 税 の 導 入 は 税 収 の 安 定 化 にあまり 大 きな 効 果 を 持 たない 三 つ 目 に わが 国 の 地 方 税 には 標 準 税 率 が 設 定 されているものが 多 く 全 国 的 にほぼ 均 一 な 税 負 担 水 準 にあるという 特 徴 も 挙 げられる 地 方 税 法 上 9 財 政 上 の 特 別 な 理 由 がある 場 合 は 地 方 自 治 体 が 標 準 税 率 を 使 わなくてもよいことになっているが 税 率 の 上 限 である 制 限 税 率 が 課 されており 地 方 の 裁 量 範 囲 が 小 さい 四 番 目 の 特 徴 として 標 準 税 率 を 上 回 る 超 過 課 税 が 選 挙 権 がない 法 人 に 課 されるケー スが 多 いことが 指 摘 できる 市 町 村 民 税 でみると 法 人 住 民 税 ( 法 人 税 割 )の 超 過 課 税 は 1,426 団 体 (2003 年 4 月 1 日 現 在 )で 行 われており 個 人 住 民 税 の 所 得 割 に 超 過 課 税 が 見 られないのと 比 べると 対 照 的 である 図 表 5 都 道 府 県 税 収 の 地 域 格 差 (2002 年 度 ) 8 わが 国 の 地 方 税 における 法 人 所 得 課 税 には 法 人 事 業 税 ( 都 道 府 県 税 )と 法 人 住 民 税 ( 都 道 府 県 税 及 び 市 町 村 税 )がある 法 人 二 税 と 呼 ばれることも 多 い 9 地 方 税 法 第 1 条 第 5 項 10
5. 税 源 移 譲 案 の 検 討 このような 内 外 の 地 方 税 の 特 徴 を 踏 まえた 上 で わが 国 において 国 から 地 方 への 税 源 移 譲 をどのように 行 うべきかを 検 討 する 骨 太 の 方 針 2003 において 税 源 移 譲 は 基 幹 税 の 充 実 を 基 本 とすると 示 されており ここでは 基 幹 税 の 移 譲 を 想 定 したいくつかの 案 を 検 討 する 検 討 の 観 点 は 次 の2つである 1つ 目 は 国 から 地 方 へ 確 実 に 税 収 源 を 移 すことができ るかである 2つ 目 は 地 方 税 についての 権 限 移 譲 を 伴 い 地 方 分 権 を 実 質 的 に 促 進 する ことが 可 能 かどうかである 具 体 的 には 最 も 地 方 分 権 的 な 連 邦 国 家 型 の 地 方 税 体 系 に 見 られるように 応 益 原 則 や 税 収 の 安 定 性 地 方 による 税 率 決 定 権 が 確 保 されているかなど である 案 1 所 得 税 から 個 人 住 民 税 への 移 譲 国 税 である 所 得 税 から 地 方 税 である 個 人 住 民 税 へ 移 譲 する 案 である これは 政 府 の 骨 太 の 方 針 2004 に 明 記 された 内 容 であり 現 在 最 も 実 施 の 可 能 性 が 高 い 税 源 移 譲 方 法 であ る 具 体 的 数 値 が 上 げられており 個 人 住 民 税 の 税 率 を 10%で 定 率 化 し 累 進 課 税 は 国 税 である 所 得 税 に 一 元 化 する 案 が 有 力 である 地 方 6 団 体 や 内 閣 府 総 務 省 をはじめ さ まざまな 機 関 や 研 究 者 によって 提 唱 されている この 案 は 徴 収 する 地 方 側 にも 徴 税 ノウハウがあり 移 譲 に 関 して 事 務 の 混 乱 が 少 ない と 見 られる スウェーデンや 連 邦 国 家 においても 個 人 所 得 課 税 は 地 方 税 の 基 幹 税 となっ ており わが 国 でも 個 人 住 民 税 の 基 幹 税 としての 機 能 を 強 化 していくことは 望 ましい 方 向 である また マクロ 的 に 見 ればこの 税 源 移 譲 で 国 民 の 負 担 が 変 わることなく 国 税 から 地 方 へ 税 源 移 譲 することが 可 能 である また 定 率 税 にすることで 応 益 性 が 確 保 できる 地 方 税 が 定 率 国 税 が 累 進 課 税 である 点 は スウェーデンと 同 じである さらに 住 民 に わかりやすい 税 率 設 定 であるという 利 点 もある ただし 税 源 移 譲 に 伴 ってミクロ 的 な 税 負 担 は 変 わり 低 所 得 者 については 税 負 担 増 と なることもあり 得 る 案 2 消 費 税 から 地 方 消 費 税 への 移 譲 現 在 国 税 4 対 地 方 税 1の 割 合 で 配 分 される 消 費 税 について 地 方 の 割 合 を 増 やすとい う 案 である この 案 も 地 方 6 団 体 や 内 閣 府 総 務 省 をはじめ さまざまな 機 関 や 研 究 者 によって 提 唱 されている 消 費 税 については 地 域 格 差 が 少 なく 税 収 が 安 定 している さらに 低 所 得 者 層 への 一 定 の 課 税 が 可 能 であり 応 益 性 もある これらの 点 において 消 費 税 は 地 方 税 として 理 想 の 税 目 である また 消 費 税 と 個 人 所 得 税 とのタックス ミックスは 個 人 所 得 税 のみの 移 譲 と 比 べて 税 収 格 差 を 緩 和 することができる このタックスミックスが 採 用 されれば わが 国 の 地 方 税 は 連 邦 国 家 のアメリカ カナダに 近 づく 形 となる 11
なお 消 費 課 税 のような 間 接 税 は 徴 収 方 法 に 配 慮 が 必 要 である 考 えられる 方 法 は 1 国 が 一 括 徴 収 し 地 方 に 配 分 する 2 地 方 がそれぞれ 徴 収 し 国 税 分 を 国 に 納 める 3 国 地 方 がそれぞれ 独 自 に 徴 収 する の3 種 類 である 現 在 日 本 では1の 方 式 ( 国 が 一 括 徴 収 して 最 終 消 費 額 に 基 づいて 各 地 方 に 配 分 する 形 式 )を 取 っているが 地 域 ごとに 異 な る 税 率 が 設 定 されることを 想 定 した 徴 収 方 法 も 検 討 していくべきであろう 案 3 所 得 税 と 法 人 二 税 ( 法 人 事 業 税 法 人 住 民 税 )の 税 源 交 換 所 得 税 と 法 人 所 得 課 税 である 法 人 二 税 ( 法 人 事 業 税 法 人 住 民 税 )とを 税 源 交 換 する というものである これまであまり 検 討 されていない 案 だが 地 方 税 において 法 人 所 得 課 税 の 割 合 を 下 げ 地 方 税 の 安 定 化 を 図 るためには 欠 かせない 視 点 であろう これらの 税 源 を 同 額 交 換 しただけでは マクロ 的 な 税 源 移 譲 の 効 果 はない しかし 税 源 交 換 により 地 方 税 における 法 人 二 税 が 減 少 し 法 人 二 税 に 比 べて 地 域 偏 在 度 が 低 い 所 得 税 ( 個 人 住 民 税 )に 替 わることで( 図 表 5) 地 方 税 収 全 体 の 地 域 偏 在 度 が 緩 和 される また 所 得 税 ( 個 人 住 民 税 )は 法 人 関 連 税 より 景 気 変 動 の 影 響 を 受 けにくいことから 地 方 税 収 の 安 定 化 にも 寄 与 する 案 4 消 費 税 と 法 人 二 税 ( 法 人 事 業 税 法 人 住 民 税 )の 税 源 交 換 消 費 税 と 法 人 所 得 課 税 である 法 人 二 税 ( 法 人 事 業 税 法 人 住 民 税 )を 税 源 交 換 すると いうものである この 案 もあまり 検 討 されていないが 10 案 3と 同 様 地 方 税 の 安 定 化 を 図 るためには 欠 かせない 視 点 であろう この 案 では 地 方 税 収 における 法 人 関 連 税 収 が 減 少 し 法 人 二 税 に 比 べて 地 域 偏 在 度 が 低 い 消 費 税 に 替 わることで 地 方 税 収 全 体 の 地 域 偏 在 度 が 緩 和 される また 消 費 税 は 所 得 税 よりさらに 景 気 変 動 の 影 響 を 受 けにくいことから 地 方 税 の 安 定 化 にも 寄 与 する 税 源 移 譲 ではなく 税 源 交 換 であるため 地 方 税 収 総 額 の 増 加 にはつながらないが 中 央 政 府 の 減 収 にもならないため 国 が 受 け 入 れやすい 案 であることは 間 違 いない 6. おわりに ~ 税 源 移 譲 と 課 税 自 主 権 の 付 与 ~ 4つの 移 譲 案 は 図 表 6のようにまとめることができる 6 章 の 最 初 に 述 べた2つの 検 討 軸 から 判 断 すると 最 も 税 源 移 譲 にふさわしい 案 は 消 費 税 から 地 方 消 費 税 への 移 譲 である その 他 の 案 も 地 方 分 権 に 寄 与 するものであり これらを 部 分 的 に 組 み 合 わせて 導 入 するなどのプランも 視 野 に 入 れて 実 施 に 向 けた 具 体 的 検 討 を 行 うべきだろう しかし4つのいずれの 案 を 採 用 するにしても 地 方 自 治 体 自 身 に 税 率 決 定 権 が 必 要 であ 10 法 人 住 民 税 と 消 費 税 ( 地 方 交 付 税 の 原 資 となる 部 分 )の 交 換 については 東 京 大 学 の 神 野 直 彦 教 授 が シミュレーションを 行 っている( 神 野 直 彦 三 位 一 体 改 革 の 理 念 と 現 実 都 市 問 題 東 京 市 政 調 査 会 2004 年 11 月 号 ) 12
る 最 終 的 に 税 源 移 譲 の 形 を 決 定 する 際 は 地 方 分 権 の 実 現 に 向 け 地 方 の 独 自 性 を 発 揮 できる 税 率 決 定 権 についても 考 慮 すべきであろう さらに 日 本 の 地 方 税 において 最 も 地 域 格 差 が 大 きく 最 も 税 収 が 不 安 定 な 法 人 事 業 税 については 再 考 の 余 地 がある 外 形 標 準 課 税 の 割 合 を 増 やして 税 収 の 安 定 化 を 図 るなどの 改 善 策 や 税 源 交 換 を 進 めることにより 地 方 税 における 法 人 所 得 課 税 の 割 合 をさらに 低 下 させる 策 を 考 えていく 必 要 があるのでは ないだろうか 図 表 6 税 源 移 譲 案 の 検 討 結 果 13
[ 参 考 文 献 ] 浅 羽 隆 史 地 方 財 政 悪 化 の 原 因 と 今 後 の 展 望 富 士 総 合 研 究 所 1998 年 池 上 岳 彦 分 権 化 と 地 方 財 政 岩 波 書 店 2004 年 板 倉 敏 和 地 方 分 権 と 地 方 税 ( 自 治 研 究 2004 年 4 月 号 )2004 年 伊 東 弘 文 現 代 ドイツ 地 方 財 政 論 文 眞 堂 1995 年 株 丹 達 也 法 人 事 業 税 の 今 後 の 課 題 について ( 地 方 税 2003 年 12 月 号 )2003 年 地 方 税 の 現 状 と 二 三 の 課 題 について ( 自 治 研 究 2004 年 7 8 月 号 )2004 年 財 務 省 財 務 総 合 政 策 研 究 所 主 要 国 の 地 方 税 財 政 制 度 2001 年 6 月 地 方 財 政 システムの 国 際 比 較 2002 年 6 月 自 治 体 国 際 化 協 会 各 国 の 地 方 自 治 シリーズ 2001~2004 年 神 野 直 彦 金 子 勝 編 地 方 に 税 源 を 東 洋 経 済 新 報 社 1998 年 地 方 六 団 体 国 庫 補 助 負 担 金 等 に 関 する 改 革 案 2004 年 8 月 東 京 都 財 務 局 今 後 の 地 方 財 政 を 考 える 2004 年 7 月 東 京 都 税 制 調 査 会 答 申 課 税 自 主 権 の 確 立 に 向 けて 2003 年 11 月 西 尾 勝 神 野 直 彦 編 集 代 表 池 上 岳 彦 編 自 治 体 改 革 7 地 方 税 制 改 革 ぎょうせい 2004 年 10 月 林 健 久 編 地 方 財 政 読 本 ( 第 5 版 ) 東 洋 経 済 新 報 社 2003 年 藤 岡 純 一 分 権 型 福 祉 社 会 スウェーデンの 財 政 有 斐 閣 2001 年 持 田 信 樹 地 方 分 権 の 財 政 学 - 原 点 からの 再 構 築 東 京 大 学 出 版 会 2004 年 和 田 八 束 星 野 泉 青 木 宗 明 編 現 代 の 地 方 財 政 第 3 版 有 斐 閣 2004 年 地 方 財 政 地 方 財 務 協 会 各 号 地 方 財 務 ぎょうせい 各 号 都 市 問 題 東 京 市 政 調 査 会 各 号 フィナンシャルレビュー 財 務 省 財 務 総 合 政 策 研 究 所 各 号 14