廣瀬報告原稿



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18 国立高等専門学校機構

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4 教 科 に 関 する 調 査 結 果 の 概 況 校 種 学 年 小 学 校 2 年 生 3 年 生 4 年 生 5 年 生 6 年 生 教 科 平 均 到 達 度 目 標 値 差 達 成 率 国 語 77.8% 68.9% 8.9% 79.3% 算 数 92.0% 76.7% 15.3% 94

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4 松 山 市 暴 力 団 排 除 条 の 一 部 風 俗 営 業 等 の 規 制 及 び 業 務 の 適 正 化 等 に 関 する 法 律 等 の 改 正 に 伴 い, 公 共 工 事 から 排 除 する 対 象 者 の 拡 大 等 を 図 るものです 第 30 号 H H28.1

新 行 財 政 改 革 推 進 大 綱 実 施 計 画 個 票 取 組 施 策 国 や 研 究 機 関 への 派 遣 研 修 による 資 質 向 上 の 推 進 鳥 インフルエンザ 等 新 たな 感 染 症 等 に 対 する 検 査 技 術 の 習 得 など 職 員 の 専 門

Transcription:

現 代 経 済 学 と 自 由 主 義 ~サミュエルソンの 功 罪 を 軸 に~ 福 井 県 立 大 学 廣 瀬 弘 毅 1.はじめに 20 世 紀 以 降 とりわけ 第 2 次 世 界 大 戦 後 の 自 由 主 義 を 巡 る 経 済 学 派 間 の 論 争 は 以 前 の 論 争 と 比 べてどのような 特 徴 があるのだろうか 一 つには 東 西 冷 戦 に 象 徴 されるよう に 時 に 自 由 主 義 体 制 とも 称 される 資 本 主 義 体 制 と 計 画 経 済 体 制 と 称 された 社 会 主 義 共 産 主 義 経 済 体 制 との 間 の 競 争 として 国 家 体 制 のあり 方 を 反 映 した 理 論 上 の 論 争 を 取 り 上 げることもできるだろう しかし 1989 年 にベルリンの 壁 が 崩 壊 した 後 の 現 在 自 由 主 義 を 巡 る 問 題 が 消 滅 したの かと 言 えば もちろんそうではない むしろ 自 由 企 業 体 制 vs 中 央 集 権 という 単 純 な 構 図 が 終 焉 したことで 21 世 紀 社 会 で 自 由 が 意 味 する 内 実 についてより 本 質 的 な 議 論 が 可 能 になる 段 階 に 突 入 したと 言 っても 良 いはずだ 例 えば 池 田 報 告 にあるように19 世 紀 以 来 の 問 題 意 識 を20 世 紀 的 に 展 開 したハイエクのような 卓 越 した 自 由 主 義 論 者 が 提 示 した 問 題 に 単 なる 思 想 の 問 題 としてではなく 社 会 の 在 り 方 を 巡 って 今 こそ 取 り 組 むべ きなのであろう しかし 現 実 を 振 り 返 ってみれば 必 ずしもそうはなっていない むし ろ 問 題 の 本 質 は 根 深 いのに 経 済 学 上 では 些 細 な レベルでの 論 争 に 終 始 している 本 報 告 では 現 代 経 済 学 における 自 由 主 義 を 巡 る 論 争 そのものを 取 り 上 げるのでは なく なぜそのような 取 り 上 げ 方 しかできないのか1つの 可 能 性 を 提 示 する そのために 20 世 紀 の 経 済 学 の 巨 人 であるサミュエルソンと 彼 が 大 いに 関 わった 経 済 学 の 制 度 化 に 議 論 を 絞 ることにする 2. 自 由 主 義 を 巡 る テクニカル な 対 立 現 代 の 経 済 学 派 間 の 自 由 主 義 を 巡 る 対 立 は 多 少 乱 暴 に 言 えば 経 済 モデルの 前 提 を 巡 る テクニカルな 対 立 に 解 消 されるものが 多 い*1 例 えば 1970 年 代 からのマクロ 経 済 政 策 を 巡 る 論 争 の 中 で ルーカスら 合 理 的 期 待 形 成 学 派 プレスコットらの 実 物 的 景 気 循 環 論 者 達 は それまでの 主 流 派 であったケインジアンらがミクロ 的 な 基 礎 付 けを 欠 くアドホックな ものであると 理 論 的 な 欠 陥 を 攻 撃 した そして 彼 ら 自 身 は 合 理 的 に 行 動 する 経 済 主 体 から 理 論 を 構 築 することで 政 府 の 介 入 が 無 効 であることを 示 したのである 一 方 198 0 年 代 以 降 勢 力 を 伸 ばしたマンキューらニューケインジアンは メニューコストや 情 報 の 非 対 称 性 などを 導 入 することで たとえ 合 理 的 な 経 済 主 体 から 出 発 したとしても 市 場 に 任 せていても 資 源 配 分 が 効 率 的 にならない 場 合 があることを 示 し 政 策 的 介 入 を 正 当 化 し た 彼 らの 政 策 的 帰 結 は 何 ら 新 奇 なものではなく かつての 新 古 典 派 総 合 のリバイバル

と 言 っても 良 い ところで 前 の3 報 告 でも 明 らかなように 反 循 環 政 策 や 再 分 配 政 策 で あれ 労 働 市 場 への 介 入 であれ 政 府 の 経 済 活 動 への 介 入 の 是 非 については まさに 自 由 主 義 を 巡 る 価 値 判 断 も 含 む 大 きな 対 立 であったはずである それが いつの 間 にか 対 立 の 焦 点 がその 道 具 立 て に 矮 小 化 されてしまった 感 がある しかし 表 面 的 には 理 論 上 のテクニカルな 対 立 に 見 えても それが 現 実 の 政 策 に 与 える 影 響 は 決 して 小 さくはない*2 というのも 1980 年 代 以 降 に 進 められた 数 々の 規 制 緩 和 など は 理 論 からの 要 請 に 従 って 行 われた 側 面 も 否 定 できない*3 ところが ここに 大 きな 問 題 が 潜 んでいると 考 えられる というのも 本 来 ならば 自 由 主 義 に 対 する 価 値 判 断 を 含 む 大 きな 視 点 から 問 題 を 捉 えるべきであるのに 論 争 の 焦 点 がモデルの 前 提 条 件 などに 偏 ってしまうため 政 策 的 帰 結 の 価 値 判 断 にまで 行 き 着 かない 言 うまでもないが これ は 政 策 論 争 上 望 ましいことでは 決 してない ではなぜこのような 対 立 関 係 になってしまっ たのであろうか その 原 因 の 一 つは 経 済 学 の 制 度 化 にあるというのが ここでの 主 張 の 1つである 3. 経 済 学 の 制 度 化 と 新 古 典 派 総 合 啓 蒙 書 ではあるが かつて 一 世 を 風 靡 した 佐 和 隆 光 経 済 学 とは 何 だろうか 岩 波 書 店 は 経 済 学 の 制 度 化 の 弊 害 をいち 早 く 指 摘 していた ここで 佐 和 が 言 う 制 度 化 とは 1 経 済 学 を 共 通 言 語 たる 数 式 で 語 ること*4 2 標 準 的 な 教 科 書 を 整 備 し 専 門 家 集 団 を 作 ること とまとめられる ( 佐 和 [1982]p.81,p.87) ところで 制 度 化 の2つの 要 因 を 整 備 するに 当 たって 力 を 発 揮 したのがアメリカの 経 済 学 者 P.A.サミュエルソンである 彼 は 1については 経 済 分 析 の 基 礎 (Samuels on [1947])で 経 済 学 全 般 に 数 式 モデル 化 の 道 筋 をつけ 2についてはベストセラーである 経 済 学 を 出 版 することで 二 つの 作 業 を 一 人 でこなした 前 者 については サミュエ ルソン 自 身 が 意 識 しており 以 下 のように 述 べている これにも 増 して 重 要 なことがある 1932 年 に 経 済 学 を 始 めたというのは 私 にとって 幸 運 であった 分 析 的 経 済 学 は 離 陸 する 準 備 が 整 っていたのだった なされるべきことが 数 多 く 残 っていた (Samuelson [1987]p.xxv 訳 書 p.46) 上 の 引 用 に 掲 げたとおりサミュエルソンは ミクロ 経 済 学 マクロ 経 済 学 問 わずまた 厚 生 経 済 学 から 国 際 経 済 学 まできわめて 幅 広 い 分 野 で 数 学 化 するという 作 業 を 一 気 に 推 し 進 めることになった つまり サミュエルソン 流 の 分 析 的 経 済 学 という 数 学 モデル 化 が 経 済 学 のあらゆる 分 野 に 浸 透 し それゆえいわゆるアカデミック ジャーナルでの 標 準 的 な 掲 載 要 件 も 1つの 方 向 に 収 斂 することになっていった*5 また 制 度 化 が 進 むこと

で 経 済 理 論 はより 普 遍 的 な 性 格 を 帯 びることになり ひとりアメリカのとどまること なく 世 界 的 にこの 傾 向 が 伝 わっていくことになった 一 方 の 教 科 書 経 済 学 は 大 ベストセラーそしてロングセラーとなった*6 特 に 同 書 に よってケインズ 経 済 学 が 世 界 的 に 普 及 したのは 間 違 いない 将 来 の 研 究 者 はもちろんのこ と 官 民 で 活 躍 する 幅 広 い 人 材 を 排 出 する 大 学 という 教 育 現 場 で 標 準 化 された 教 科 書 が 広 く 導 入 されたことで 制 度 化 が 進 んだのである ところで アメリカのおけるケインズ 革 命 の 一 翼 を 担 い 一 方 でミクロ 経 済 学 での 精 緻 なモデル 化 を 推 し 進 めたサミュエルソンにとって ミクロ 経 済 学 とマクロ 経 済 学 をどのよ うに 接 合 するかは 大 きな 問 題 であったはずである そして それは 単 に 理 論 上 の 問 題 では なく 当 時 の 社 会 情 勢 *7から 言 って 政 府 の 経 済 介 入 を 正 当 化 する 必 要 性 もあった これを 実 現 すべく 生 み 出 されたのが 経 済 学 の 第 3 版 で 初 めて 登 場 する 新 古 典 派 総 合 の 概 念 であった 新 古 典 派 総 合 : 適 切 に 強 化 された 金 融 財 政 政 策 によって 我 々の 混 合 企 業 体 制 は 過 度 のブームや 不 況 を 避 けることが 出 来 健 全 な 進 歩 を 望 むことができる 手 短 に 言 えば 所 得 決 定 の 近 代 的 な 分 析 を 使 いこなすことで 基 本 的 な 古 典 派 価 格 原 理 を 有 効 にできる (Samuelson[1955]p.360) 要 は マクロ 的 な 分 析 はケインズ 経 済 学 の 所 得 決 定 理 論 を 用 い それぞれの 部 門 での 価 格 設 定 については これまで 通 りの 古 典 派 価 格 理 論 を 用 いれば 良 いというのである 新 古 典 派 総 合 は 特 に1960 年 代 のケネディ=ジョンソン 両 大 統 領 の 治 世 に 最 盛 期 を 迎 えること になった この 立 場 に 立 つ 学 者 は サミュエルソンをはじめとして 成 長 論 のソローやト ービン へラーなど 学 界 だけでなく 政 治 にも 関 与 する 立 場 にたった 学 者 も 名 を 連 ねてい る もっとも このような 立 場 はきわめて 折 衷 主 義 的 であり 不 十 分 な 点 も 多 く 後 年 左 右 両 派 から 攻 撃 を 受 けることになった しかし 折 衷 主 義 であるからこそ 国 民 所 得 決 定 の 問 題 と 個 々の 市 場 の 需 給 の 問 題 の 解 明 を1つの 立 場 の 中 に 同 居 させることが 可 能 となり 現 実 対 応 力 のある 経 済 学 として 世 界 中 に 流 布 することができたのも 事 実 である しかし 周 知 の 通 り1960 年 代 後 半 からのインフレーションの 昂 進 さらに1973 年 のニク ソン ショック 第 1 次 石 油 ショックによって 経 済 状 態 が 次 第 に 悪 化 し スタグフレーシ ョンが 発 生 するに 及 んで 新 古 典 派 総 合 に 対 して 厳 しい 批 判 が 相 次 ぐことになった そし て 1976 年 に 出 版 された 経 済 学 第 10 版 では 結 局 新 古 典 派 総 合 が 放 棄 されてしまう ことになった*8 4. 新 古 典 派 総 合 の 敗 北?

新 古 典 派 総 合 の 退 潮 は 批 判 の 急 先 鋒 であったM.フリードマンらの 攻 撃 に 与 るところが 大 きいのは 言 うまでもない しかし 今 から 振 り 返 ってみると 政 府 の 介 入 を 疑 問 視 する 自 由 主 義 であるフリードマンらの 経 済 学 に 新 古 典 派 総 合 が 折 衷 主 義 のゆえに 大 きな 政 府 を 容 認 していたから 敗 北 したとは 考 えにくい 少 なくとも アカデミックな 世 界 では フリードマンの 勝 利 は 高 インフレーションやスタグフレーションと 言 った 現 実 的 な 課 題 に 新 古 典 派 総 合 が 適 切 に 答 えられない 事 情 が 大 いに 味 方 したのであって 自 由 主 義 の 思 想 的 なものによる 勝 利 とは 言 えない 事 実 マネタリズムを 巡 る 論 争 の 中 では むしろフリ ードマンが 当 時 の 主 流 派 理 論 の 様 式 に 則 って 行 われており 自 由 主 義 の 優 位 性 を 持 ち 出 し てはいない*9 ところで アカデミズムの 場 では 新 古 典 派 総 合 の 命 脈 が 尽 きたように 思 えても 実 際 の 政 策 の 現 場 では まだまだ 元 気 であると 言 っても 良 い 例 えば ニューケインジアンの 旗 手 であり ブッシュ( 子 ) 政 権 のCEA 委 員 長 の 要 職 も 務 めたG.マンキュー(Mankiw [2006]) は 政 策 の 現 場 では 実 物 的 景 気 循 環 論 など 最 先 端 のマクロ 理 論 がほとんど 影 響 を 持 たず それ 以 前 のモデルの 方 が 有 効 に 使 われている 現 状 について 述 べている それもあって 彼 らニューケインジアンは 自 らを 新 しい 新 古 典 派 総 合 (the new neoclassical synthesis) と 呼 ぶことさえあるのである*10 事 実 2008 年 秋 のリーマンショック 以 降 の 各 国 政 府 のとった 政 策 は 旧 来 のケインジアンの 政 策 と 何 ら 異 ならなかったのである そう 考 えると 新 古 典 派 総 合 は 意 外 に 根 強 い 生 命 力 を 持 っているのである フリードマンやハイエクがたしかに1970 年 代 80 年 代 以 降 に 人 気 を 博 したのは 間 違 いない そして 彼 ら 自 身 は 間 違 いなく 自 由 主 義 について 本 質 的 な 議 論 を 展 開 しようとして いた しかし 制 度 化 された 現 代 経 済 学 のアカデミックな 場 面 においては 決 して 自 由 主 義 思 想 を 体 現 した 理 論 を 武 器 に 新 古 典 派 総 合 を 打 倒 したわけではなかったのである それゆえ ニューケインジアンの 登 場 とともに 再 びいとも 簡 単 に 政 府 の 介 入 が 容 認 され る 雰 囲 気 が 醸 成 されることになったのである 極 端 をおそれずに 言 えば 自 由 主 義 的 な 経 済 学 によるケインジアンの 打 倒 も ニューケインジアンによる 反 攻 も 制 度 化 された 土 俵 の 上 では プラグマティックな 戦 いにしかなりえなかったのである 5 まとめ 現 代 経 済 学 はいかにして 自 由 主 義 を 扱 ってきたのか それに 対 する 答 えを 端 的 に 述 べれば 制 度 化 された 経 済 学 という 狭 い 土 俵 上 で 薄 くしか 扱 ってこなかったという ことになるだろう それゆえ 重 要 な 意 味 を 持 つはずの 自 由 主 義 を 巡 る 論 争 が テ クニカル な 領 域 にとどまったのである その 理 由 を 探 ってみると 第 2 次 世 界 大 戦 後 の 経 済 学 が1 数 学 化 と2 教 科 書 による 標 準 化 という 制 度 化 を 推 し 進 めたため 経 済 学 の 様 式 が 一 様 化 したことが 背 景 にあった だからこそ サミュエルソンと 立 場 を 違 えるフリ

ードマンやその 後 のルーカスと 言 った 人 たちとの 論 争 は 制 度 化 で 縁 取 られた 同 じ 土 俵 の 中 での 争 いになってしまわざるを 得 なかったのだ そして 反 ケインジアンのルーカスや プレスコットらに 対 抗 するニューケインジアンもまた 同 じ 土 俵 でしか 戦 うことができな くなっているのである その 制 度 化 された 経 済 学 という 土 俵 を 整 備 した 張 本 人 の 一 人 がサミュエルソンであったと 言 っても 言 いすぎではないだろう また 新 古 典 派 総 合 の 政 策 処 方 箋 にしても 1970 年 代 以 降 にアカデミックな 経 済 学 の 主 流 派 の 地 位 から 転 落 したときも ニューケインジアンによる 新 古 典 派 総 合 のリバイバルに 際 しても 本 質 的 な 自 由 主 義 に 対 する 検 討 はなく プラグマティックな 基 準 で 勝 敗 が 判 断 された 可 能 性 があるのである だが 2.で 述 べたように 理 論 的 には 浅 いところでの 論 争 に 終 始 していても その 政 策 的 帰 結 は スミス 以 来 の 自 由 主 義 に 関 わる 議 論 につながる 大 きな 問 題 を 孕 んでいる 従 って 現 状 は 決 して 望 ましいとは 言 えない