200 1 年 1 2 月 31 日 特 集 脳 の 画 像 診 断 各 種 モダリテ ィ における 画 像 診 断 の 進 歩 一 総 説 桑 原 康 雄 九 州 大 学 医 学 部 附 属 病 院 放 射 線 部 1979, 1980's, Recently, PET, acethylcholine, 抄 録 のいくもので はなか っ た 70 年 代 終 わりに F-18 FDGが PET 検 査 は 生 体 において 生 理 生 化 学 的 パラメ ー タ を 定 量 画 像 として 表 示 できることが 特 徴 である 初 期 に は 0-15 標 識 薬 剤 を 用 いて 血 流 や 酸 素 代 謝 などが 測 定 されたが F- 1 8 FDGが 糖 代 謝 測 定 薬 として 開 発 され ると 痴 呆 などの 変 性 疾 患 などで 臨 床 利 用 が 広 ま っ た その 後 F-1 8 FDOPAや C- ll methylspiperonを 用 いて 神 経 伝 達 物 質 の 代 謝 や 神 経 受 容 体 が 画 像 化 でき るようになり 最 近 ではアセチルコリ ン 系 の 酵 素 活 性 や 神 経 受 容 体 ヒ ス タ ミ ン 系 やセロトニ ン 系 の 測 定 などの 糖 代 謝 測 定 薬 として 開 発 されると 装 置 の 改 良 と 相 侠 って 脳 機 能 画 像 として の FDG PETが 次 第 に 広 ま って きた 3) 0 80 年 代 の 前 半 から 中 頃 にかけ F- 18 や C- ll methylspiperon 5) を 用 い て ヒト の 生 体 におい て 神 経 伝 達 物 質 の 代 謝 や 神 経 受 容 体 が 画 像 化 され 現 時 点 で 比 較 的 成 熟 した 技 術 と 考 え られているものが 出 そろった 最 近 では ア セチルコリン 系 の 酵 素 活 性 6 ) や 神 経 受 容 体 7) ヒ スタ ミン 系 8) やセロトニ ン 系 9) の 測 定 など 様 々な 神 経 伝 達 機 能 が 画 像 化 さ れて おり 脳 疾 測 定 が 臨 床 例 で 行 われて いる 本 稿 では 代 表 的 なPET 患 の 病 態 や 治 療 効 果 の 評 価 に 用 い られてい る 本 稿 で 検 査 と 最 近 の 進 歩 について 概 説 する は 代 表 的 な PET 検 査 と 最 近 の 進 歩 について 概 説 する はじめに PETが 脳 核 医 学 の 領 域 で 用 いられるようになって 20 年 以 上 の 年 月 が 経 っ た 初 期 には 0-15 ガス 1 ) や 0-15 水 2) が 用 い ら れたが PET 装 置 の 空 間 分 解 能 や 感 度 が 低 いことに 加 え 数 え 落 としゃ 散 乱 線 補 正 とい っ た 物 理 的 な 課 題 が 解 決 されて おらず 画 質 定 量 性 ともに 満 足 検 査 法 1 ) 0 15 水 による 脳 血 流 測 定 0-15 水 は 半 減 期 が2 分 と 短 い た め 10-1 5 分 の 間 隔 で 繰 り 返 し 検 査 ができ ることや 測 定 時 間 も 1-2 分 と 短 く 患 者 の 協 力 が 得 られ 易 いことから 負 荷 ( 賦 課 ) 検 査 に 適 している 神 経 科 学 の 分 野 ではいわゆ る a c t ivation 別 刷 請 求 先 81 2-8582, 福 岡 県 福 岡 市 東 区 馬 出 3-1 - 1 九 州 大 学 医 学 部 附 属 病 院 放 射 線 部 桑 原 康 雄
断 層 l 映 像 研 究 会 雑 誌 第 28 巻 第 4 号 特 集 脳 の 画 像 診 断 ー 各 種 モダリティにおける 画 像 診 断 の 進 歩 一 stud y のツ ー ルとして 永 く 用 いら れてきたが 最 近 では 簡 便 かつはるかに 短 い 間 隔 で 繰 り 返 し 検 査 できる 仏 ilri にほとんど 代 わられている 臨 床 では 脳 血 流 を 精 度 よ く 定 量 できる 特 徴 を 生 かし Acetazolami deや C02 負 荷 による 脳 血 管 の 拡 張 能 評 価 1 0) や 向 精 神 薬 の 脳 血 流 に 与 える 影 響 等 が 検 討 されているが 疾 患 や 薬 剤 を 選 ぶ ことに よ り 応 用 範 囲 は 広 い 2 ) 0 15 ガスによる 脳 血 流 酸 素 消 費 量 血 液 量 測 定 0-1 5 ガス 持 続 吸 入 による 1 50- 平 衡 法 は 一 定 の 速 度 で 短 半 減 期 の 核 種 を 投 与 するとある 時 間 で 動 脈 血 と 脳 内 放 射 能 が 平 衡 となる こ とを 原 理 としている この 平 衡 時 の 両 者 の 比 から 脳 血 流 量 を 求 める 方 法 である が 平 衡 までに 数 分 から 1 0 分 と 時 間 を 要 することや 患 者 によっては 平 衡 状 態 を 維 持 することが 困 難 などの 問 題 があり よい 方 法 ではない 脳 血 流 は C02 酸 素 消 費 量 と 酸 素 摂 取 率 は 0-1 502 脳 血 液 量 は 0-1 5 CO を 用 いて 一 連 の 測 定 が 行 われる 1) これらのうち 脳 血 管 障 害 患 者 の 手 術 適 応 などの 評 価 に 重 要 な 酸 素 消 費 量 と 酸 素 摂 取 率 は SPECT では 測 定 不 可 能 であり 0-1 5 PET 検 査 の 大 きな 特 徴 である 前 述 した 0-15 水 ボー ラス 静 注 と 0-1 5 02 一 回 吸 入 法 を 組 み 合 わせた 方 法 も 開 発 されており 患 者 の 負 担 減 や 測 定 時 間 の 短 縮 な ど 利 点 が 多 い 11 ) の 機 能 に 関 するものである 脳 ドパミン 代 謝 測 定 には F- DOPAが 用 いられるが F- 1 8 DOPA は 静 注 されると 血 流 に 依 存 して 脳 に 分 布 する 線 条 体 にはアミノ 酸 脱 炭 酸 酵 素 が 多 く 含 まれ F- 18 DOPA は F-1 8 dopam in e に 代 謝 されシナプス 小 胞 に 取 り 込 まれる 4L こ れに 対 して 小 脳 などの 非 特 異 的 集 積 部 位 では F- 1 8 DOPAの 洗 い 出 しが 早 いため 時 間 とともに 線 条 体 と 非 特 異 的 集 積 部 位 との 比 が 次 第 に 高 くなり 線 条 体 が 明 瞭 に 描 出 される F-1 8 DOPA 法 には 多 くの 解 析 法 が 報 告 されているが 静 注 後 60 分 から 120 分 程 度 の 線 条 体 / 小 脳 ( ま たは 後 頭 葉 ) 比 を ド パミン 代 謝 の 指 標 と するのが 最 も 簡 便 かつ 確 実 な 方 法 で ある 12 ), 法 は 基 本 的 には 線 条 体 ドパミン 系 ニューロンのシナプ ス 前 機 能 をみるものであるが C-11 -CITの ようにド パミントランスポータに 結 合 する 薬 剤 もシナプス 前 機 能 の 評 価 に 用 いられる 13) ドパミン D2 受 容 体 は C-11 raclopride 1 4) や C-11 methylspiperon5) で 測 定 されているが C-ll の 方 が 受 容 体 結 合 の 選 択 制 や 平 衡 到 達 時 聞 が 短 いた め PET 検 査 に 適 していると 考 えられる C-ll は 静 注 されると 他 の 薬 剤 同 様 血 流 に 依 存 して 脳 に 分 布 する 線 条 体 には 特 異 的 結 合 と 非 特 異 的 結 合 が 存 在 するが 小 脳 なとeの 非 特 異 的 結 合 部 位 の 集 積 が 線 条 体 の 非 特 異 的 結 合 と 同 等 であると 見 なすことによ り 前 者 3 ) F 18 FDGによる 脳 糖 代 謝 測 定 脳 はエネルギ ー 源 として 大 部 分 を ブ ドウ 糖 に 依 存 し ており 糖 代 謝 を 測 定 することにより 脳 機 能 を 間 接 的 に 評 価 lî できる FDGはグルコ ー スの 類 似 物 質 であり 脳 組 織 に 取 り 込 まれた 後 へキソキナーゼにより 燐 酸 化 さ れるが それから 先 には 代 謝 が 進 まず 脳 組 織 内 に 留 ま るため 糖 代 謝 の 定 量 に 適 している 一 般 には 投 与 後 60 分 前 後 に 脳 内 分 布 を 測 定 するが その 時 点 では 血 管 内 の FDG 濃 度 が 低 下 していることや 陽 電 子 の 飛 程 が 短 いため 0-15 ガスなどに 比 べ 散 乱 線 の 少 ない 明 瞭 な 画 像 が 得 られるのが 特 徴 である しかも F-18の 半 減 期 は 11 0 分 とポ ジ トロン 核 種 の 中 では 長 いため 撮 像 時 間 を 延 ばすことにより 充 分 なカウントが 得 られ PET 装 置 の 分 解 能 を 充 分 に 発 揮 できる また MRI などの 形 態 画 像 と 重 ね 合 わせることにより 個 々の 症 例 においてより 詳 から 後 者 の 放 射 能 濃 度 を 差 し 引 き 線 条 体 の 特 異 的 結 合 を 求 めることができる これをグラフに プ ロ ッ トすると 20 分 から 30 分 で 一 時 的 に 見 かけ 上 の 平 衡 に 達 する こ の 時 点 の 集 積 比 ( 線 条 体 / 小 脳 )を 求 めることにより 受 容 体 結 合 能 を 推 定 することができる なお ドパミン D2 受 容 体 測 定 は 主 にシナプス 後 機 能 を 反 映 する その 他 の 神 経 伝 達 機 能 としてはセロ ト ニン 系 ベ ンゾジアゼピ ン 受 容 体 アセチルコリン 受 容 体 やアセチルコリンエス テラーゼ 活 性 の 測 定 も 行 われている ベンゾジアゼピン 受 容 体 は 脳 に 広 く 分 布 す るため 神 経 細 胞 残 存 の 指 標 として 用 いることができる 1 5) また アセチルコ リン 受 容 体 やアセチルコリンエステラーゼ 活 性 の 測 定 は 最 近 登 場 した 塩 酸 ドネベ ジル ( アリセ プ ト ) 等 の 痴 呆 治 療 薬 との 関 連 で 有 用 性 が 期 待 されるが 臨 床 例 において 酵 素 活 性 が 阻 害 されることが 報 告 されている 15) 細 ti な 観 察 が 可 能 である 4) 神 経 伝 達 機 能 測 定 PETにおい て 最 もよく 検 討 されて い るのはドパミン 系 5 ) 統 計 画 像 の 診 断 への 応 用 コンピュータの 進 歩 と 普 及 により SPM16) や3-D などの 画 像 処 理 ソフ ト が 臨 床 の 場 で 容 易 に 使 える 環 境
2001 年 12 月 3 1 日 集 脳 の 画 像 診 断 ー 各 種 モダリティにおける 画 像 診 断 の 進 歩 一 が 整 ってきた 特 に 3D-SSPは 脳 表 部 の 情 報 を Z-score で 表 示 する こと に よ り 従 来 の 画 像 診 断 と 同 じ 感 覚 で 判 定 できるのが 利 点 である 痴 呆 や 変 性 疾 患 のみならず 所 見 が 軽 微 な 精 神 疾 患 や 脳 血 管 障 害 など 応 用 範 囲 は 広 い 参 照 のための 健 常 者 データベースの 構 築 が 課 題 であるが これ らの 統 計 画 像 は 読 影 者 の 経 験 や 勘 に 頼 っていた 機 能 画 像 の 判 定 をより 客 観 的 に 行 うことを 可 能 にしており 今 後 ますます 臨 床 の 現 場 で 普 及 していく と 考 えられる 図 4: 皮 質 基 底 核 変 性 症 のSPM 画 像 カラー 印 刷 P51 参 照 図 1 : 右 内 頚 動 脈 閉 塞 例 の MRI および0 15 PET 画 像 図 5 : 健 常 者 ならびにびまん 性 レビー 小 体 病 ( DLBD) 患 者 の FDG と F 18 FDOPA 画 像 臨 床 例 図 1 は 右 内 頚 動 脈 閉 塞 例 の MRIおよび0-15 PET 画 図 2 : 側 頭 葉 てんかん 患 者 の 冠 状 断 および 海 馬 長 軸 の PET 画 像 像 である MRIでは 異 常 を 指 摘 できない 脳 血 流 は 右 半 球 でわずかに 低 下 し 酸 素 摂 取 率 と 血 液 量 が 軽 度 増 加 している Acetazolam ide (ACZ) 負 荷 時 の 脳 血 流 画 像 では 右 中 大 脳 動 脈 領 域 を 中 心 に 反 応 性 低 下 が 明 瞭 に 認 められる 図 2は 側 頭 葉 てんかん 患 者 の 冠 状 断 お よび 海 馬 長 軸 の FDG PET 画 像 である 海 馬 を 含 む 右 側 頭 葉 内 側 におい て 糖 代 謝 が 低 下 してい る 図 3に 痴 呆 を 来 す 代 表 的 な 変 性 疾 患 であるアル ツ ハイマー 病 disease, AD) 前 頭 側 頭 痴 呆 dementia, FTD ) 進 行 性 核 上 性 麻 癖 (Progressive palsy, PSP ) 皮 質 基 図 3: アルツハイマ ー 病 (AD) 前 頭 倶 ~ 頭 痴 呆 (FTD) 進 行 性 核 上 性 麻 療 (PSp) 皮 質 基 底 核 変 性 症 (CB D ) の FDG PET 画 像 底 核 変 性 症 ( Corticobasal degeneration, CBD) の PET 画 像 を 示 す アルツハイマー 病 では 両 側 の 側 頭 葉 から 頭 頂 葉 前 頭 側 頭 痴 呆 では 前 頭 葉 および 右 頭 頂 葉 進 行 性 核 上 性 麻 揮 では 左 前 頭 葉 線 条 体 お よび 左 頭 頂 葉 皮 質 基 底 核 変 性 症 では 左 前 頭 葉 および
断 層 映 像 研 究 会 雑 誌 第 28 巻 第 4 号 特 集 脳 の 画 像 診 断 ー 各 種 モダりティにおける 画 像 診 断 の 進 歩 一 ー 図 6 :アルツハイマー 病 患 者 の FDG お よびC 11 画 像 線 条 体 の 糖 代 謝 低 下 がみられ これらの 鑑 別 の 参 考 に なる 図 4 は 皮 質 基 底 核 変 性 症 の SPM 画 像 であるが 前 述 の 部 位 に 加 え 前 頭 葉 の 内 側 面 や 左 頭 頂 葉 の 低 下 も 明 らかである 図 5 は 健 常 者 ならびにびまん 性 レピー 小 体 病 ( Diffuse DLBD ) 患 者 の FDG と F-18 FDOPAの 画 像 である びまん 性 レビー 小 体 病 は 痴 呆 パーキンソン 徴 候 や 幻 視 を 特 徴 とする 疾 患 であるが 皮 質 に 広 範 な 糖 代 謝 低 下 を 認 め 線 条 体 ドパミン 代 謝 も 低 下 している 図 6 はアルツハイマー 病 患 者 の FDGおよびC-11 NMPB 画 像 である 両 側 前 頭 葉 お よび 頭 頂 葉 で 糖 代 謝 が 低 下 している これらの 領 域 では C - 11 NMPBの 集 積 も 低 下 しているが 糖 代 謝 に 比 べると 程 度 は 軽 くムスカリン 性 アセチルコリン 受 容 体 は 比 較 的 保 たれていることがわかる おわりに PET 検 査 では 0-15 や C-11 のように 生 体 の 構 成 元 素 を 標 識 に 用 いるため 理 論 的 にはほとんどの 物 質 を 標 識 することが 可 能 である また 酸 素 代 謝 や 糖 代 謝 は 現 時 点 では SPECTや MRIで 測 定 することは 困 難 であり PET 検 査 の 大 きな 利 点 の 一 つである PET 検 査 の 進 歩 は 新 しい 放 射 性 医 薬 品 の 出 現 に 依 存 しており この 方 面 の 開 発 が 脳 PET 画 像 診 断 の 進 歩 に 必 須 である 参 考 文 献 GL, T, 4 727-736, SC, RE, 3:141-153, ME, SC, EJ, ES, G, 205:137-138, Hd, RF, 22 1:1264-1266, KA, RA, di 任 erentiation 18(6):619 31, M, N, 729, LN, PF, IS, 57:850-858, Y, Y, M,
2001'of12 月 31 日 特 集 脳 の 画 像 診 断 ー 各 種 モダリティにおける 画 像 診 断 の 進 歩 一 26(10):1825-1829, ME, WRW, 25:177-187, KL, AJ, N, 49:853-860, AO, JO, 36:1263-1267, L, E, in 出 e 261, DE, RA, S, 48:391-395, Metab15:361-370, S, B, S, Alzheimeピ s 42:85-94,