法 政 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 紀 要 Vol.5.6(2015 年 3 月 ) 法 政 大 学 低 温 環 境 下 における CFRP 板 材 の 層 間 剥 離 に 及 ぼす 鋼 球 斜 め 衝 突 について EFFECT OF OBLIQUE IMPACT OF STEEL BALL ON LAYER DELAMINATION OF CFRP LAMINATES UNDER LOW TEMPERATURES 前 田 健 太 Kenta MAEDA 指 導 教 員 崎 野 清 憲 法 政 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 機 械 工 学 専 攻 修 士 課 程 Carbon Fiber Reinforced Plastics (CFRP) is one of composite materials. It is used for industrial components because of light weight, excellent in strength, stiffness and a corrosion-resistant. However, CFRP have the problem causing a delamination between layers by the impact. Invisible delaminates may cause a great accident. In this study, a relationship between collision speed and delamination area of CFRP laminates was investigated. The impact tests that detect the effect of impact angles and low temperatures on the layer delamination area of CFRP laminate are made using an air-gun system and incubator. Scanning Acoustic Microscopy (SAM) is utilized for detecting the delamination area of CFRP laminates. The residual strength of the specimen being damaged is also examined by using three point bending device. In the low-temperatures, thermal stress generated at each layer and the interface of each layer. Therefore, delamination area was increased as compared to the room temperature. Key Words : CFRP laminates, Delamination area, Collision angle, Low temperature, SAM 1. 緒 論 炭 素 繊 維 強 化 プラスチック( 以 後,CFRP)は,マトリ ックスと 強 化 材 の 組 み 合 わせである 高 分 子 系 複 合 材 料 の 中 でも, 高 比 強 度, 高 比 弾 性 率, 高 耐 食 性 等 の 長 所 を 有 し, 様 々な 分 野 において 工 業 用 材 料 として 過 酷 な 条 件 下 での 使 用 される.CFRP は 積 層 された 繊 維 方 向 と 垂 直 方 向 から 衝 撃 を 受 けると 層 間 剥 離 を 生 じ 易 いという 問 題 がある. 乗 り 物 など 高 速 で 移 動 する 構 造 物 は, 垂 直 方 向 以 外 のあらゆる 角 度 から 衝 撃 を 受 ける ことが 想 定 される.また, 宇 宙 空 間 など, 厳 しい 温 度 環 境 が 材 料 に 与 える 影 響 を 考 慮 する 必 要 がある.そこで, 本 研 究 では CFRP の 鋼 球 衝 突 損 傷 におよぼす 衝 突 角 度, 温 度 の 影 響 を 明 らかにするために, 鋼 球 の 衝 突 角 度 を 調 整 し, 低 温 環 境 下 で 衝 突 実 験 を 行 い, 比 較, 検 討 を 行 った. 衝 突 によって,CFRP に 生 じる 層 間 剥 離 面 積 を, 超 音 波 探 査 装 置 ( 日 立,HYE-FOCUS,レンズ 周 波 数 50MHz)を 用 いて 測 定 し, 各 条 件 下 における 剥 離 面 積 と 衝 突 速 度 の 関 係 を 検 討 した. 2. 実 験 (1) 試 験 片 試 験 片 はトーレ 製 プリプレグ(P-3052S-12)を 8 層 に 積 層 した CFRP 板 を 使 用 する.トーレ 製 プリプレグ は 糸 に 高 性 能 炭 素 繊 維 トレカ 糸 を,マトリックスに 硬 化 剤 を 含 む 熱 硬 化 性 樹 脂 (エポキシ:#2500-130 硬 化 型 )を 用 いて 構 成 される.プリプレグの 積 層 による 繊 維 配 向 は[0 /45 /90 /-45 ]s である. 試 験 片 は 全 て 寸 法 が 縦 100mm, 横 40mm で, 積 層 板 の 厚 みは 1.0mm, 炭 素 繊 維 含 有 率 は 67vol%である. (2) 実 験 条 件 本 実 験 で 用 いた 飛 翔 体 は 直 径 6mm のスチール 球 であ る.スチール 球 をホールドするサボットは 直 径 20mm で 長 さが 60mm の 円 柱 形 発 泡 ポリスチレンを 用 いた. CFRP 板 への 飛 翔 体 の 衝 突 速 度 範 囲 は 100m/s~200m/s とする. 衝 突 角 度 は 90º,60º,45º,30ºとする. 試 験 温 度 は, 常 温 (294K),203K,75K とした.203K はエタノール とドライアイス,75K は 液 体 窒 素 をそれぞれ 用 いて 試 験 片 を 冷 却 した. 試 験 温 度 は, 熱 電 対 を 使 い 試 験 片 の 表 面 温 度 を 計 測 した. (3) 実 験 方 法 Fig.1 に 衝 撃 試 験 装 置 の 概 要 を 示 す. 斜 め 衝 突 時 には, 専 用 の 治 具 に CFRP 試 験 片 を 固 定 する. 円 柱 形 状 のサボット 内 の 空 洞 にスチール 球 を 設 置 した ものを 筒 状 の 銃 身 に 挿 入 する.
Fig.1 Experimental device for impacting damage of CFRP エアコンプレッサーによりエアタンク 内 に 圧 縮 空 気 を 蓄 える. 発 射 口 にはセロハンの 隔 壁 があり,それ を 破 壊 することでエアタンク 内 に 蓄 積 された 圧 縮 空 気 が 瞬 時 に 銃 身 へ 解 放 され, 飛 翔 体 が 加 速 しながら 銃 身 内 を 進 む. 銃 口 から 発 射 後,スチール 球 とサボット は 分 離 し,スチール 球 が 試 験 片 に 衝 突 する. 飛 翔 体 の 試 験 片 への 衝 突 速 度 は,エアタンクの 圧 縮 空 気 圧 を 変 える 事 で 変 化 させた. 各 衝 突 速 度 は 試 験 片 の 直 前 に 設 置 された 二 組 の 光 電 素 子 の 間 を 通 過 した 時 間 をスピ ードインジケーターによって 測 定 し,そこから 割 り 出 した. Fig.2 Relation between collision speed and delamination area in each collision angle Fig.3 は,90 衝 突 と 45 衝 突 の 際 の 内 部 剥 離 画 像 である.2/3 層 間 はピンク 色,3/4 層 間 は 赤 色,5/6 層 間 は 緑 色,6/7 層 間 は 水 色,7/8 層 間 は 青 色 で 示 さ れている.90 衝 突 では,7/8 層 間 の 剥 離 が 衝 突 点 か ら 上 下 に 拡 大 しているのに 対 し,45 衝 突 では 衝 突 点 から 上 部 にのみ 拡 大 している.また,その 他 の 層 間 剥 離 も 上 部 に 集 中 している. (4) 残 留 曲 げ 強 度 試 験 衝 撃 を 受 けた CFRP 板 材 の 残 留 強 度 を 評 価 するため に 三 点 曲 げ 試 験 を 行 った. 曲 げ 試 験 片 は 衝 撃 を 与 えた 板 より 衝 撃 点 を 中 心 に 含 むよう 幅 15mm, 長 さ 100mm に 切 り 出 し, 標 点 間 距 離 を 80mm, 圧 子 の 移 動 速 度 を 2.67mm/min として 荷 重 を かけた.そして 式 (1)を 用 いて 残 留 曲 げ 強 度 を 求 めた. σ = PL bh 2 [1 + 4 (δ L )2 ] (1) ここで,σ は 残 留 曲 げ 強 度 (MPa),P は 最 大 曲 げ 荷 重 (N),δはたわみ(mm),bは 試 験 片 の 幅 (mm),hは 試 験 片 の 厚 さ(mm),Lは 支 点 間 距 離 (mm)である. 3. 実 験 結 果 および 考 察 (1) 衝 突 角 度 別 の 衝 突 速 度 と 剥 離 面 積 の 関 係 Fig.2 は, 常 温 で 得 られた 衝 突 角 度 毎 の 剥 離 面 積 と 衝 突 速 度 の 関 係 を 示 したグラフである. 衝 突 角 度 の 減 少 に 伴 い, 剥 離 面 積 が 減 少 していることがわかる. 90 衝 突 時 の 剥 離 面 積 と 比 べ,60 では 約 22%,45 では 約 67%,30 では, 約 90% 剥 離 面 積 が 減 少 して いる. Fig.3 Delamination image by 90 collision and 45 collision, respectively 衝 突 角 度 が 減 少 することで 剥 離 面 積 が 減 少 したの は, 板 面 との 衝 突 角 度 によって 鋼 球 の 持 つエネルギー が, 板 面 に 対 し 垂 直 成 分 と 水 平 成 分 に 分 散 されること が 大 きな 要 因 である. 垂 直 成 分 のエネルギーは 30, 45,60 でそれぞれ 約 50%,30%,15% 減 少 する.Fig.4 は 衝 突 角 度 別 の 分 散 された 垂 直 成 分 の 衝 突 エネルギ ーと 剥 離 面 積 の 関 係 である. 衝 突 速 度 を 統 一 したため エネルギーにはバラつきが 見 られるが, 同 程 度 のエネ ルギーの 際 にも, 衝 突 角 度 の 減 少 に 伴 い, 剥 離 面 積 が 減 少 している.
Fig.4 Relation between collision energy of normal component and delamination area in each collision angle 衝 突 角 度 の 減 少 に 伴 い, 衝 突 時 の 水 平 成 分 のエネ ルギーが 増 加 するため,CFRP 板 材 に 伝 わる 垂 直 成 分 のエネルギーは 減 少 する.また, 衝 突 の 際 に 生 じる 水 平 成 分 のエネルギーによって, 荷 重 点 の 移 動 が 起 こり, 一 点 に 荷 重 がかかるのではなく, 荷 重 点 の 移 動 範 囲 に 垂 直 成 分 のエネルギーが 更 に 分 散 され, 衝 突 による CFRP 板 材 のたわみが 減 少 するため, 同 量 のエネルギ ーにおいても 斜 め 衝 突 では 剥 離 面 積 が 減 少 したと 考 えられる. 荷 重 点 の 移 動 は, 水 平 成 分 のエネルギーが 増 加 するほど 範 囲 が 広 がるため, 衝 突 角 度 が 減 少 する ことで 剥 離 面 積 は 減 少 する.また, 荷 重 点 の 移 動 によ り 層 間 に 発 生 するせん 断 応 力,たわみによる 引 張 力 が 鋼 球 の 進 行 方 向 に 集 中 したため, 上 部 に 剥 離 が 集 中 し たと 考 えられる. (2) CFRP 板 材 の 積 層 繊 維 方 向 の 違 いによる 斜 め 衝 突 時 の 衝 突 速 度 と 剥 離 面 積 の 関 係 斜 め 衝 突 において, 今 回 使 用 した 試 験 片 の 形 状 では, 長 辺 方 向 を 縦 に 固 定 した 時 ( 以 後, 縦 固 定 )と, 横 に 固 定 した 時 ( 以 後, 横 固 定 )では, 剥 離 面 積 の 形 状 に 違 いが 現 れた.Fig.5 は,それぞれの 試 験 片 の 固 定 方 法 である. 縦 固 定 の 場 合 の 表 面 からの 積 層 繊 維 方 向 は [90 /-45 /0 /45 ]s である. 横 固 定 の 場 合 は[0 /45 /90 /-45 ]s である. 固 定 方 法 の 違 いによる 衝 突 速 度 と 剥 離 面 積 の 関 係, 各 層 間 の 剥 離 面 積 について 比 較 検 討 する. Fig.6 Relation between collision speed and delamination area caused by difference in installation and by collision angles Fig.7 は 45 衝 突 における 縦 固 定 時, 横 固 定 時 の 内 部 剥 離 画 像 である. 縦 固 定 時 は, 前 述 の 通 り 鋼 球 の 進 行 方 向 に 剥 離 が 集 中 し,7/8 層 間 の 剥 離 が 上 部 に 集 中 している. 横 固 定 時 は,3/4,5/6,6/7 層 間 の 剥 離 が 上 部 に 集 中 しており,7/8 層 間 の 剥 離 は 左 右 に 発 生 して いることがわかる. Fig.7 Delamination image caused by difference in installation and by 45 collision, respectively Fig.8 は 固 定 方 法 別 の 45 衝 突 における 速 度 毎 の 各 層 間 の 剥 離 面 積 のグラフである.6/7 層 間 の 剥 離 は 横 固 定 時 の 方 が 増 加 しており,7/8 層 間 では, 縦 固 定 時 の 方 が 増 加 していることがわかる. Fig.5 Deference in installation mode Fig.6 は, 固 定 方 法 別 の 衝 突 角 度 毎 の 衝 突 速 度 と 剥 離 面 積 の 関 係 を 示 したグラフである. 固 定 方 法 が 異 な っていても 剥 離 面 積 の 量 はほとんど 同 じであること がわかる.
Fig.10 は, 低 温 における 90 衝 突 の 内 部 剥 離 画 像 である.203K,75K においては,いずれも 貫 通 してい る.Fig.3 の 常 温 と 比 べ,203K では,2/3 層 間 以 外 の 各 層 間 の 剥 離 が 減 少 しており, 特 に 7/8 層 間 の 剥 離 が ほとんど 発 生 していないことがわかる.75K では, 常 温 と 比 べ 2/3,7/8 層 間 以 外 の 剥 離 は 減 少 しているが, 7/8 層 間 の 剥 離 は 拡 大 している.また,203K と 75K の 低 温 時 においても 傾 向 に 違 いが 見 られた. Fig.8 Relation between each layer and delamination area caused by difference in installation and by 45 collision 固 定 方 法 によって 内 部 剥 離 形 状 に 違 いが 現 れたの は, 衝 突 後 の 鋼 球 の 進 行 方 向 と CFRP 板 材 のたわみ 方 向 がそれぞれ 異 なるためであると 考 えられる. 縦 固 定 では,CFRP 板 材 のたわみ 方 向 と 鋼 球 の 進 行 が 影 響 を 与 えるたわみ 方 向 が 同 じ 方 向 であり, 横 固 定 では,た わみ 方 向 と 鋼 球 の 進 行 が 影 響 を 与 えるたわみ 方 向 が 90 異 なる.そのため, 横 固 定 では, 鋼 球 の 進 行 方 向 の 影 響 を 受 け,45 方 向 に 剥 離 が 発 生 する 6/7 層 間 の 剥 離 が 拡 大 し,0 方 向 に 剥 離 が 発 生 する 7/8 層 間 の 剥 離 が 減 少 したと 考 えられる. CFRP 板 材 が 受 ける 衝 突 エネルギー 量 は 同 じであ るため, 全 体 の 剥 離 面 積 量 はほとんど 変 わらなか ったと 考 えられる. (3) 低 温 環 境 における 衝 突 速 度 と 剥 離 面 積 の 関 係 Fig.9 は 低 温 環 境 下 における 90 衝 突 の 剥 離 面 積 と 衝 突 速 度 の 関 係 を 示 したグラフである.プロット 点 の 印 は 貫 通 を 表 している. 常 温 では, 衝 突 速 度 の 上 昇 に 伴 い, 剥 離 面 積 が 増 加 しているが,203K では, 衝 突 速 度 が 上 昇 しても, 剥 離 面 積 が 増 加 していないこと がわかる.また,185m/s では CFRP 板 材 が 貫 通 したた め, 剥 離 面 積 が 減 少 している.75K では, 衝 突 速 度 の 上 昇 に 伴 い, 剥 離 面 積 が 増 加 しており, 常 温 時 に 比 べ 剥 離 面 積 が 増 加 していることがわかる.209m/s では 203K と 同 様 に 貫 通 しており, 剥 離 面 積 が 減 少 してい る. Fig.10 Delamination image by 90 collision at temperatures of 203K and 75K, respectively Fig.11,12 は Fig.10 と 同 条 件 の 衝 突 表 面, 衝 突 裏 面 の 様 子 である. 常 温 では, 表 面 に 衝 突 痕 の 中 心 部 分 の 炭 素 繊 維 の 破 断, 裏 面 に CFRP 板 材 のマトリックス 材 であるエポキシ 樹 脂 の 繊 維 方 向 の 割 れが 見 られる. 203K では, 表 面 の 衝 突 部 分 のマトリックス, 繊 維 が ほとんど 破 断 しており, 裏 面 は 主 に 繊 維 が 破 断 してい る.75K では, 表 面 は 203K と 同 様 であるが, 裏 面 は 衝 突 点 の 中 心 とその 左 右 にマトリックスの 繊 維 方 向 の 割 れが 見 られ,8 層 目 の 繊 維 破 断 は 確 認 されなかっ た. Fig.9 Relation between collision speed and delamination area at low temperatures by 90 collision Fig.11 Front surface of both specimens impacted by 90 at temperatures of 203K and 75K, respectively
Fig.12 Back surface of both specimens impacted by 90 at temperatures of 203K and 75K, respectively 本 実 験 において 低 温 環 境 下 による 影 響 は 主 に2つ あると 考 える.1 つ 目 は, 温 度 低 下 により CFRP 板 材 内 部 に 熱 応 力 が 発 生 することである. 使 用 した CFRP は,エポキシ 樹 脂 をしみ 込 ませた 炭 素 繊 維 シートを 積 層 しており, 各 層 において 繊 維 方 向 の 力 には 強 いが, 繊 維 と 垂 直 方 向 の 力 には 弱 い 特 性 を 持 つ. 炭 素 繊 維 の 熱 膨 張 率 は-2~-4[ 10 6 /K]であり,マトリックス 材 のエポキシ 樹 脂 は 45~65[ 10 6 /K]であるため, 温 度 を 低 下 させた 際 に, 各 層 におけるエポキシ 樹 脂 が 繊 維 方 向 には 縮 まず, 繊 維 と 垂 直 方 向 に 縮 む.そのため, 各 層 と 各 層 の 界 面 に 熱 応 力 が 発 生 する.この 熱 応 力 の 影 響 で, 層 間 剥 離 の 発 生 応 力 が 低 下 する.また, 温 度 低 下 に 伴 い, 熱 応 力 が 大 きくなるため 層 間 剥 離 の 発 生 応 力 も 低 下 する[1].2 つ 目 は, 温 度 低 下 によりマト リックス 材 であるエポキシ 樹 脂 が 低 温 脆 化 し,CFRP 板 材 の 見 かけ 上 の 曲 げ 剛 性 が 高 くなることである. 曲 げ 剛 性 が 高 くなることにより,CFRP 板 材 が 曲 げ 変 形 しにくくなり, 層 間 剥 離 が 発 生 しにくくなる. 特 に, 衝 突 エネルギーが 増 加 し,CFRP 板 材 のたわみ 量 が 大 きい 時, 曲 げ 剛 性 の 影 響 を 強 く 受 けると 考 える. 低 温 環 境 下 において 2/3 層 間 の 剥 離 面 積 が 増 加 し たのは, 衝 突 表 面 側 に 位 置 し,たわみ 量 が 小 さいため, エポキシ 樹 脂 の 脆 化 による 曲 げ 剛 性 の 影 響 よりも, 熱 応 力 による 層 間 剥 離 の 発 生 応 力 の 低 下 の 影 響 を 受 け, 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 したと 考 えられる. 203K において, 貫 通 しない 場 合 も, 速 度 上 昇 に 伴 い,8 層 目 の 繊 維 破 断 が 発 生 した. 繊 維 破 断 に 衝 突 エ ネルギーが 消 費 されるため, 剥 離 面 積 が 増 加 しなかっ たと 考 える.これは, 温 度 低 下 により CFRP 板 材 の 曲 げ 剛 性 が 高 くなるため,たわみによる 層 間 剥 離 が 発 生 しにくくなり, 衝 突 エネルギーが 裏 面 の 衝 突 点 の 部 分 に 集 中 し 繊 維 が 破 断 したと 考 えられる. 75K では,7/8 層 間 で 剥 離 が 拡 大 し,8 層 目 の 繊 維 破 断 が 発 生 しなかった.これは, 衝 突 の 際 に 8 層 目 の マトリックス 材 が 繊 維 方 向 の 割 れを 起 こしたためで ある. 低 温 時 は 単 一 の 層 においても, 繊 維 と 垂 直 方 向 の 応 力 が 発 生 しているので,エポキシ 樹 脂 が 繊 維 方 向 に 割 れやすくなっている.そのため,203K より 熱 応 力 が 大 きい 75K では,マトリックス 材 が 割 れ,その 割 れの 影 響 で 7/8 層 間 の 層 間 剥 離 が 発 生 したと 考 えら れる.また,203K と 同 様 に 曲 げ 剛 性 が 高 くなったこ とにより,2/3,7/8 層 間 以 外 の 剥 離 は, 常 温 時 に 比 べ 減 少 したと 考 える.しかし,7/8 層 間 の 層 間 剥 離 が 大 幅 に 拡 大 されるため,75K では 剥 離 面 積 の 総 量 が 増 加 している. Fig.9 の 203K,75K の 衝 突 速 度 100m/s において, 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 しているのは,CFRP 板 材 内 部 の 熱 応 力 によって, 層 間 剥 離 の 発 生 応 力 が 低 下 したため であると 考 える. 衝 突 エネルギーが 低 く, 衝 突 表 面, 裏 面 の 繊 維 破 断 が 起 こらないため, 熱 応 力 による 層 間 剥 離 の 発 生 応 力 の 低 下 の 影 響 を 受 け, 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 したと 考 える. 低 温 環 境 下 で 衝 突 表 面 の 繊 維 破 断 や 貫 通 が 起 きる のは,エポキシ 樹 脂 が 脆 化 し, 破 壊 された 際 に, 板 材 内 部 の 繊 維 に 衝 突 エネルギーが 伝 わりやすくなるた めであると 考 える.CFRP 板 材 において 繊 維 と 垂 直 方 向 からの 衝 撃 への 抵 抗 力 は,エポキシ 樹 脂 の 強 度 であ るため,エポキシ 樹 脂 が 脆 くなり, 曲 げ 剛 性 が 高 くな る 影 響 で, 衝 突 点 付 近 にエネルギーが 集 中 し, 貫 通 が 起 こりやすくなると 考 えられる. (4) 低 温 環 境 における 衝 突 角 度 別 の 衝 突 速 度 と 剥 離 面 積 の 関 係 Fig.13,Fig.14,Fig.15 は 低 温 環 境 下 における 衝 突 角 度 毎 の 剥 離 面 積 と 衝 突 速 度 の 関 係 を 示 したグラ フである. 30,45 では, 温 度 が 低 下 するに 伴 い 剥 離 面 積 が 増 加 していることがわかる.60 では,90 衝 突 と 同 様 に,203K では, 衝 突 速 度 が 上 昇 しても 剥 離 面 積 が 増 加 せず,75K では, 衝 突 速 度 の 上 昇 に 伴 い, 剥 離 面 積 が 増 加 しており, 常 温 時 に 比 べ 剥 離 面 積 が 増 加 して いる.また,203K,75K の 190m/s では, 貫 通 している.
Fig.13 Relation between collision speed and delamination area at low temperatures by 30 collision Fig.16 Delamination image by 45 collision at temperatures of 203K and 75K, respectively Fig.14 Relation between collision speed and delamination area at low temperatures by 45 collision Fig.15 Relation between collision speed and delamination area at low temperatures by 60 collision Fig.16 は,45 衝 突 における 温 度 条 件 別 の 内 部 剥 離 画 像 である.Fig.3 の 常 温 時 は, 上 部 にのみ 発 生 して いた 7/8 層 間 の 剥 離 が, 低 温 時 には 上 下 に 発 生 してい る.また,30,60 の 内 部 剥 離 の 形 状 において 同 様 の 傾 向 が 確 認 できた. ただし,203K において 60 の 剥 離 形 状 は,90 の 203K と 同 様 の 傾 向 が 確 認 された. 低 温 環 境 下 で 30,45 の 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 した のは, 熱 応 力 の 影 響 で 層 間 剥 離 の 発 生 応 力 が 低 下 して いるためであると 考 える.また, 層 間 剥 離 の 発 生 応 力 が 低 下 しているため, 衝 突 角 度 による 荷 重 点 の 移 動 の 影 響 を 受 ける 前 に, 衝 突 点 の 上 部 の 層 間 剥 離 が 発 生 し たと 考 えられる. また, 温 度 が 低 下 するに 伴 い, 層 間 剥 離 の 発 生 応 力 も 低 下 するため 203K より 75K で 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 したと 考 える.Fig.9 の 90 衝 突 で は,203K で 速 度 が 上 昇 しても, 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 しなかったが,30,45 衝 突 では, 速 度 上 昇 に 伴 い, 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 している.これは, 衝 突 裏 面 の 繊 維 破 断 が 起 こっていないためである.30,45 では, 衝 突 角 度, 荷 重 点 の 移 動 の 影 響 により 衝 突 エネルギー が 減 少 するため, 衝 突 裏 面 の 繊 維 が 破 断 に 至 らず, 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 した. 60 の 203K において, 速 度 が 上 昇 しても, 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 しなかったのは, 90 と 同 様 に 曲 げ 剛 性 が 高 くなったことにより 衝 突 裏 面 の 繊 維 が 破 断 したためであると 考 える,75K にお いて, 速 度 上 昇 に 伴 い 層 間 剥 離 面 積 が 増 加 したのも 90 と 同 様 に CFRP 板 材 内 の 熱 応 力 によって, 衝 突 の 際 に 8 層 目 のマトリックス 材 が 繊 維 方 向 の 割 れを 起 こしたためであると 考 える.30,45 に 比 べ 衝 突 エ ネルギーの 減 少 割 合 が 低 いため,90 衝 突 時 と 同 じ 傾 向 が 現 れたと 考 えられる. (5) 低 温 環 境 における 衝 突 角 度 別 の 剥 離 面 積 と 残 留 曲 げ 応 力 の 関 係 Fig.17 は, 低 温 環 境 における 衝 突 角 度 別 の 剥 離 面 積 と 残 留 曲 げ 応 力 の 関 係 のグラフである. 常 温 は,RT (Room Temperature)と 表 記 してある. 常 温 では, 剥 離 面 積 が 増 加 すると, 残 留 曲 げ 応 力 が 低 下 しているのに 対 し,203K では 剥 離 面 積 が 増 加 していなくても, 残 留 曲 げ 応 力 が 低 下 していることが わかる.これは, 衝 突 表 面, 裏 面 の 繊 維 が 破 断 してい るためである.75K では,203K と 比 べて, 剥 離 面 積 が 大 きいが, 残 留 曲 げ 応 力 はほとんど 同 じであることが
わかる.これは,75K では, 衝 突 表 面 側 の 繊 維 は 破 断 するが,8 層 目 の 繊 維 が 破 断 していないためと 考 える. 層 間 剥 離 面 積 の 増 加 よりも, 繊 維 の 破 断 により, 著 し く 曲 げ 応 力 の 低 下 が 起 こると 考 えられる. Fig.17 Relation between residual strength and delamination area obtained at low temperatures and various angles of impact 4. 結 論 衝 突 角 度 の 減 少 によって, 衝 突 角 度 によって 鋼 球 の 持 つエネルギーが, 板 面 に 対 し 垂 直 成 分 と 水 平 成 分 に 分 散 され, 衝 突 の 際 に 分 散 された 水 平 成 分 のエネルギ ーによって, 荷 重 点 の 移 動 が 起 こり, 一 点 に 荷 重 がか かるのではなく, 荷 重 点 の 移 動 範 囲 に 垂 直 成 分 のエネ ルギーが 更 に 分 散 されるため, 斜 め 衝 突 では 剥 離 面 積 が 減 少 する. 衝 突 後 の 鋼 球 の 進 行 方 向 と CFRP 板 材 のたわみ 方 向 がそれぞれ 異 なるため, 斜 め 衝 突 において 固 定 方 法 を 変 えると, 内 部 剥 離 形 状 に 違 いが 現 れる. 固 定 方 法 を 変 えても,CFRP 板 材 に 伝 わる 衝 突 エネルギーの 大 き さが 同 じであれば, 総 剥 離 面 積 量 はほとんど 変 わらな い. 低 温 環 境 下 では, 衝 突 角 度 が 低 い 時, 板 材 内 部 の 熱 応 力 により, 層 間 剥 離 発 生 応 力 が 低 下 するため 剥 離 面 積 が 増 加 する. 203K において, 衝 突 角 度 が 高 い 時,エポキシ 樹 脂 の 低 温 脆 化 により,みかけの 曲 げ 剛 性 が 高 くなるため, 衝 突 裏 面 の 繊 維 が 破 断 し 剥 離 面 積 が 減 少 する. 75K において, 衝 突 角 度 が 高 い 時, 曲 げ 剛 性 が 高 く なった 影 響 により 2/3 層,7/8 層 以 外 の 層 間 剥 離 面 積 は 減 少 するが,203K より 熱 応 力 が 増 加 しているため, 衝 突 裏 面 のエポキシ 樹 脂 が 割 れる.そのため,7/8 層 間 の 剥 離 面 積 が 大 幅 に 増 加 し, 常 温 時 に 比 べ 剥 離 面 積 の 総 量 が 増 加 した. CFRP 板 材 において 繊 維 と 垂 直 方 向 からの 衝 撃 への 抵 抗 力 は,エポキシ 樹 脂 の 強 度 であり, 低 温 環 境 下 で は,エポキシ 樹 脂 が 硬 く 脆 くなるため, 曲 げ 剛 性, 熱 応 力 の 影 響 で 繊 維 破 断 が 起 こり 貫 通 し 易 くなる. 層 間 剥 離 面 積 の 増 加 よりも, 繊 維 の 破 断 により, 著 しく 曲 げ 応 力 の 低 下 が 起 こる. 5. 謝 辞 本 研 究 に 際 して 様 々なご 指 導 を 頂 きました 崎 野 清 憲 教 授 に 深 く 感 謝 致 します.また 多 くのご 指 摘 と 共 に 実 験 を 行 なってくださった, 崎 野 研 究 室 の 後 輩, 機 械 工 学 専 攻 の 同 期 の 皆 様 に 深 く 感 謝 致 します. 参 考 文 献 [1] 熊 澤 寿 (2000) 極 低 温 推 進 剤 タンク 用 CFRP 積 層 板 の 力 学 的 特 性 および 推 進 剤 漏 洩 [2] 田 中, 黒 川, 他 2 名, 日 本 航 空 宇 宙 学 会 誌 vol.37,no.425(1989),