人工呼吸器関連の 感染対策 ヴィジュアル 感 染 対 策 の ポ イ ン ト 久留米大学医療センター 感染管理認定看護師 江﨑 祐子 これらは薬剤感受性であることが多い 96時間以降 はじめに に発症した晩期発症型肺炎 late onset pneumo- nia LOP では MRSA 緑膿菌 アシネトバクター 呼吸機能が悪化した患者は気管内挿管が行われ などが多く 多剤耐性菌である場合が多い 気道を確保し 人工呼吸器を装着し 機械的に呼吸 そのためLOPに比べEOPの方が予後が良好である を補助する 病院内で発生する肺炎のうち 人工呼 といわれている 吸器に関連した肺炎 VAP Ventilator associatedpneumonia の発生は そうでない場合に比べ 発症 Ⅱ VAPの感染経路 図1 率が高く 重症度も高い そのため VAPの感染経 路を理解し 予防を行っていくことは重要である 出 さ れ た 医 療 関 連 肺 炎 予 防 の た め の CDCガ イ ド 主な感染経路は以下の3つである 感染経路の遮断 が有効な予防策である ライン を参考に 当院で実施している取り組みを 2003年にCDC 米国疾病予防管理センター より 口腔や鼻咽頭や胃の内容物の流入 誤嚥 汚染された器具 器材からの汚染エアロゾルの吸入 述べていきたい Ⅰ VAPの病原体 Ⅲ VAPの予防対策 VAPの起因菌はICU滞在時間や人工呼吸器装着期間 により変化する 人工呼吸器挿管後96時間以内に発 症した場合は早期発症型肺炎 early onset pneumo- 1 医療従事者への教育 2 微生物の伝播の予防 nia EOP では 挿管時の上気道細菌の流入に伴う 3 患者の感染のリスクの改善があげられており 当 ことが多く MSSA 肺炎桿菌 肺炎球菌が多く 院の取り組みを交えて述べていく 図1 VAPの感染経路 1
1 医療従事者への教育 今年度 リンクナースを中心に今までの人工呼吸 器の取り扱いを中心としたマニュアルを改訂し VAP予防マニュアル 図2 を作成し 研修会を開き 教育を行っている また人工呼吸器の使用頻度が高 い部署に焦点をあて学習会を開催している 2 微生物の伝播予防 1 標準予防策 ①手指衛生 図3 図3 手指衛生剤と個人防護具 手指衛生は基本であるため 人工呼吸器に触れる 患者に触れる直前 直後 手袋を着ける前と直後に は 手指衛生が必要である そのため 患者のすぐ そばの人工呼吸器の側で 手指衛生が実施できる環 境をつくることが必要である ③環境整備 図4 図5 図6 人工呼吸器を使用している環境は 気道分泌物等 で汚染されている可能性が高い そのため 医療者の 手指が高頻度に触れる部位 特に吸引機のレバーや ②個人防護具 図3 取っ手 ダイアルなどを中心に清掃 環境整備を実 個人防護具も手指衛生同様に 必要時にすぐに使 施することが必要である また人工呼吸器本体も設 用できるように 患者のすぐそばに設置することが 定が変更しないように十分に注意をしながら環境整備 必要である 吸引を行ったり 口腔ケアを行う際に を行う 当院では 1日2回以上 可能であれば1勤務 は必須である に1回の環境整備を実施している 1 VAPとは 2 人工呼吸器装着患者の感染防止策 1 人工呼吸器管理導入後 48 時間以降に発症した肺炎のこと 1 概要 人工呼吸器関連肺炎 VAP ventilator-associated pneumonia とは 患者が挿管 された後 48 時間以上経って発生した気道感染症であると一般的には考えられる VAP の存在を決定する共通の定義や項目はない VAP とは通常 器械的人工呼吸を 受けている患者が発熱 白血球増加他そして膿性気管支分泌物を伴った肺浸潤が新しく もしくは進展したときに疑われる 人工呼吸器装着中に起こりうる重要な感染として人工呼吸器に由来する人工呼吸器関 連肺炎 VAP ventilator-associated pneumonia がある VAP は気管内挿管から 96 時間以内に発症した早期発症型肺炎 EOP early onset pneumonia とそれ以降に発 症する遅延型肺炎 LOP late onset pneumonia とに分類されるが 一般に VAP と いう場合は後者を指すことが多い 米 国 院 内 感 染 サ ー ベ イ ラ ン ス シ ス テ ム NNIS national nosocomial infections surveillance によると 肺炎は院内感染の中で尿路感染に次いで発生率が高く 約 15 である 発症すると致死率は高く 20 50 である さらに人工呼吸器を装着し た患者の肺炎発症率は人工呼吸器を装着していない患者より 6 21 倍高いと報告さ れていることから 人工呼吸器装着中の患者に対しエビデンスに基づいた感染管理を 行うことが非常に重要である 2 人工呼吸器の目的 低酸素血症や高炭酸ガス血症に陥った患者の肺ガス交換を適切に保つことで生命を 維持することにある 人工呼吸そのものが 呼吸不全の原因を治すわけではない 人工呼吸中は 呼吸不全の原因に対する治療を行い 肺機能を改善させる為のケアが 不可欠である 本マニュアルでは 人工呼吸中の感染対策上の看護に不可欠な基礎 知識と実際を述べる 3 医療センター内での呼吸器の種類 定位置 ME器材室 サーボ 900C 1 台 製造中止 使用中止 ベネット 740 1 台 製造中止 ボリュームコントロールのみ 圧縮空気不要 可動して電源を入れないと充電開始しない 対象は成人のみ ベネット 840 3 台 酸素と圧縮空気必要 主要可動しているのが このタイプである 液晶モニター付 成人もしくは学童期前 目安は体重 15kg 以上 が使用可能となる 子供は圧管理制御による人工呼吸の管理方法が違ってくる 成人は1回換気量を 350 500ml で設定可能であるが 小児は 3 5mmHg を1秒間に吸気させる 小児で使用するときには 緊急は対応出来ない ME相談 使用するのであれば事前に申し込み必要である 2 感染経路と発生機序 患者の 要因 抗菌薬 その他の 薬剤投与 口腔 咽頭 への定着 外科手術 侵襲的 器具 ネブライザ 溶液の汚染 エアロゾル の発生 胃への定着 流入 菌血症 汚染された 人工呼吸器 呼吸機能 検査器機 麻酔器材 吸入 肺防御の破綻 交差感染 器機の不適切 な消毒 滅菌 汚染された 水 溶液 バクテリアル トランス ロケーション 肺 炎 バクテリアル トランスロケーション バクテリアル トランスロケーションとは 何らかの原因により消化管が障害を受け た際に 腸管粘膜の透過性亢進により消化管内の微生物がリンパや血液中に移行する ことを言う その結果 肺などの遠隔部位に感染を起こす 2 /2 図2 VAP予防マニュアル 2 丸石感染対策 NEWS
図4 高頻度接触部位① 図5 高頻度接触部位② 図6 埃がたまりやすい部位 2 気管吸引 ③気管吸引を行うと咳嗽反射により気道分泌物が気 ①VAPの予防として 閉鎖式吸引システムと単回使 管内に流れ込みやすい そのため 吸引を行う順 用の開放式システムのどちらが好ましいかについ 番は 1 口腔 鼻腔 2 カフ上部 3 気管吸引 ての勧告はない 呼吸状態を考慮し 呼吸器回路 の順で行うことが望ましい カフ上部吸引付き気 を開放しないでよいこと 気道分泌物による曝露 管チューブも数多く販売されているため 自施設 を予防するために当院でも閉鎖式吸引システムの の特徴に合わせて導入を検討することも必要だと 導入を行った また 開放式吸引チューブの複数 考える 図9 図10 回使用と単回使用については 消毒薬のコストと 消毒薬等を設置することによる環境整備の困難さ を考慮し 単回使用を導入した また 開放式の 場合でも滅菌手袋と未滅菌手袋の着用について勧 告はないが 当院では手技の問題より現在滅菌手 袋付きの吸引チューブ 図7 を検討している 図9 カフ上部吸引付き気管チューブ 図7 滅菌手袋付き吸引チューブ ②吸引チューブの延長チューブについては 汚染が 図10 カフ上部吸引付き気管切開チューブ 確認されれば交換するようにしている 接続部位 が気道分泌物で汚染されている可能性が高いため 吸引終了後に水を吸引し その後 アルコールク ロスを使用して清拭を行っている 図8 3 誤嚥予防 循環動態が安定していれば 患者の上体を30 程度挙上することがのぞましい 体圧分散マット 45 などを使用し褥創の発生も予防しながら実施していく 3 汚染された器具 器材からの汚染エアロゾルの吸入 1 人工呼吸器の回路交換 人工呼吸器の回路は 継続して使われることを 基本としルーチンの交換をしない 汚染が確認され たり 作動不良をきたした時には回路を交換する 図8 延長チューブの清拭 と勧告されている 当院も以前は2週間ごとに定期 3
的に回路交換を行っていたが 現在では回路内に気 3 加湿器の取り扱い 図13 道分泌物が付着している場合やリーク等が起こった 加湿器には必ず滅菌水を用いることが必要である ときに交換を行っている 回路交換を行う際には 以前は呼吸器回路を開放し滅菌水を補充していたが 回路だけでなく人工呼吸器本体も含めて交換してい 現在は自動給水システムを用いている 滅菌水以外 る また 1カ月以上人工呼吸器を使用する際には 人 のものを使用 ルートが閉塞するなどの事故が起き 工呼吸器本体のメンテナンスを兼ね 1カ月で交換する ないように十分に管理を行う事が必要である ようにしている 痰や気道分泌物が付着しないように患 者の状態を見ながら 吸引を行うことが必要である 2 ウォータートラップの管理および結露の除去 ウォータートラップ内には気道分泌物を含んだ水 が貯留している そのため結露が患者側に逆流しな いように 必ず低い位置にくるように管理すること が必要である 図11 結露を除去する場合には交差 感染の予防 および自己の感染予防のために 手袋 サージカルマスク プラスチックエプロンを着用して 除去することが必要である 図12 また 防護具を外した後には速やかに手指衛生を 行うことが必要である 図13 自動給水システム 4 器材や器具の消毒 滅菌 図14 図15 人工呼吸器に関連した器材や器具は Spauldingの 図11 ウォータートラップの位置 分類ではセミクリティカルレベル以上である そ のため高水準消毒または滅菌が必要であるが 高 水準消毒薬の性質より 滅菌できるものは滅菌が 適している 最近ではディスポーザブルのバイト ブロックや喉頭鏡も発売されており 施設の特徴 に応じて使用を検討されたい 当 院 で は 手 術 室 で 使 用 す る 器 材 喉 頭 鏡 や バ イ ト ブ ロ ッ ク 等 は 滅 菌 を 行 っ て い る 病 棟 で は 個人専用とすることを原則に中水準消毒を行い 図12 ウォータートラップの排液時の手袋 1人の患者に2個準備し 他の患 者と共有しない 使用後は洗剤で洗 浄し 0.1 次亜塩素酸ナトリウム に30分浸漬し水洗い 乾燥させる 乾燥後はチャック付きポリ袋に入れ 保管し 使用しなくなれば廃棄する また歯型などの傷が付いた部分には 洗浄しても落としきれない細菌が付 着しているため廃棄する 図14 バイトブロック 4 丸石感染対策 NEWS 使用している 当院では非耐熱性の素材を使 用しており 個数が限られてい るため 使用時にバクテリアル フィルターを使用し マスクを 1患者ごと交換し使用している 使用毎にバック部分をアルコー ルクロスで清拭し ビニール袋 に入れて保管を行っている 図15 バックバルブマスク
5 体位 医学的禁忌がない限り 30 45 程度のギャッジ アップが望ましい ただし長時間のギャッジアップ は褥創の危険性もあるため 体圧分散マットの使用 を行い 褥創を予防することも重要である 6 口腔ケア 人工呼吸器を装着している患者は絶飲食であり 唾液の量が減少している 口腔内にチューブがあり 図17 NPPVマスクの清拭 異物があるため細菌が定着しやすい状態である そ のため 包括的な口腔ケア計画を立案し実施してい くことが必要である また安全性の面からも看護師 2名で行っていく 口腔内だけでなく 口唇や鼻腔 の保湿 清潔保持も重要である 7 ケアバンドル 図16 根拠のある対策を 束 で実践することにより効果 的な感染対策を行おうとすること 自施設の特徴に 合わせて重要と思われる項目をチェックリスト形式 図18 NPPVマスクの洗浄 にして実践することも効果があるといわれている 当院のVAP予防バンドル 1 人工呼吸器を使用している患者さんへ 触れる直前 直後の手指衛生 2 口腔ケアの徹底 1日2回以上 3 可能な限りギャッジアップ 4 気管 口腔内吸引時の手技の統一 図19 エアチューブの洗浄 図16 当院のVAP予防バンドル 4 非侵襲的陽圧人工呼吸について NPPV noninvasive positive pressure ventilation 呼吸不全 心不全患者などに非侵襲的陽圧人工呼 吸が指示されることが多くなっている 慢性期には 在宅で使用することも多く 患者および家族に対し て感染対策の視点からの指導も必要となっている 当院では マスクや器材本体は個々の患者専用に している マスクは気道分泌物などで汚染されるこ とが多く 毎日 マスクの外側と内側を水で濡らした 不織布で拭きあげている 図17 1週間に1度 マ スクを分解し 中性洗剤で洗浄し 流水ですすぎ 乾 燥させている 固定用のヘッドギアについても同様 に 中性洗剤で洗浄し 流水ですすぎ 乾燥させる 図18 エアチューブも ため水の中で中性洗剤を 用いて丁寧に洗浄し 乾燥させる 図19 器材本体は 濡らした不織布で毎日丁寧に拭きあ げて清掃を行っている おわりに VAPを予防するためには まず 抜管ができない かを医療チームで十分にアセスメントしていくこと が重要となる そのうえで VAPの感染経路を理解 し 対策を行っていくことが必要となる 人工呼吸 器を使用している患者は重症度が高く 感染リスク も高い状態であることを常に考えながらケアを行っ ていきたい 参考文献 1 満田年宏監訳 医療関連肺炎のためのCDCガイドライン2003年版 2 池上美保 カテーテル ドレーン管理 と 気管チューブ カニュー レ Infection Control メディカ出版 vol.19 1 2010 52 61 3 ICPテキスト編集委員会監修 編集 ICPテキスト 感染管理実践者 のために メディカ出版 2006 179 185 4 塚本容子編集 最新 感染看護Q&A 看護技術 メヂカルフレンド 社 vol.56 12 2010 68 75 5 近藤康博 NPPVステップアップ 基礎 実践 看護のポイント急 性期 慢性期における患者管理の注意点 呼吸器 循環器ケア 2010年8 9月号 日総研 5