分 子 標 的 薬 導 入 患 者 における 薬 剤 管 理 指 導 一 腎 細 胞 がん 患 者 へのスニチニブ 導 入 例 一 東 京 医 科 歯 科 大 学 医 学 部 附 属 病 院 薬 剤 部 ( 日 本 POS 医 療 学 会 POS 医 療 認 定 士 ) 永 田 将 司 はじめに 近 年 従 来 の 抗 がん 剤 とは 作 用 機 序 の 異 なる 分 子 標 的 薬 が 登 場 し これまでほとんど 抗 がん 剤 の 効 果 が 期 待 できなかった 腎 細 胞 がんに 対 しても 分 子 標 的 薬 が 有 効 であることが 明 らかとなって きた 分 子 標 的 薬 は 従 来 の 抗 がん 剤 とは 異 なり 正 常 細 胞 には 影 響 を 与 えずがん 細 胞 のみを 攻 撃 す るように 設 計 されているため 副 作 用 が 極 めて 少 ない 薬 剤 として 期 待 されていた しかしながら 実 際 には 投 与 された 患 者 の 多 くに 副 作 用 が 見 られ このことが 分 子 標 的 薬 の 治 療 継 続 を 困 難 にする 最 大 の 要 因 となっている 従 って 腎 細 胞 がん 治 療 に 対 し 分 子 標 的 薬 を 使 用 する 際 には 副 作 用 を いかにコントロールしながら 治 療 を 継 続 できるかが 重 要 である ここでは 分 子 標 的 薬 を 導 入 した 症 例 を 見 ながら POS(Problem Oriented System)に 基 づく 薬 剤 管 理 指 導 記 録 1) の 具 体 例 を 紹 介 し さらに 薬 剤 師 が 関 わるポイントを 概 説 する 本 稿 で 紹 介 する 症 例 は 著 者 が 他 院 でこれまでに 経 験 した 複 数 の 症 例 をもとに 作 成 したものである 4
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最 新 のガイドラインから 薬 物 治 療 の 選 択 基 準 を 把 握 する 腎 細 胞 がんの 進 行 症 例 に 対 しては これまでインターフェ ロンを 中 心 としたサイトカイン 療 法 が 行 われてきたが 2008 年 にスニチニブおよびソラフェニブといった 分 子 標 的 薬 が 国 内 で 承 認 されて 以 降 進 行 性 腎 がんの 治 療 は 様 変 わりした 最 新 の 腎 癌 診 療 ガイドライン 2) で は サ イトカ イン 療 法 に 加 え 分 子 標 的 薬 による 治 療 も 進 行 腎 癌 に 対 する 治 療 としては グレード B(エビデンスがあり 推 奨 内 容 を 日 常 診 療 で 実 践 するように 推 奨 する)に 位 置 付 けられている 2011 年 11 月 現 在 スニチニブ ソラフェニブ エベロリムスおよびテムスロリ ムスの 4 種 類 の 分 子 標 的 薬 が 国 内 で 承 認 されており MSKCC (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)リスク 分 類 や 前 治 療 の 成 績 により 使 用 薬 物 の 選 択 基 準 が 示 されている( 表 2) 6
副 作 用 を 一 方 的 に 説 明 するのではなく 患 者 の 理 解 度 に 応 じた 説 明 を 心 がける 抗 がん 剤 やステロイド ワーファリンなどの 薬 は 薬 剤 師 として 患 者 に 説 明 する 事 項 ( 副 作 用 服 用 方 法 相 互 作 用 生 活 上 の 注 意 など)が 多 いためか 特 に 新 人 薬 剤 師 や 実 務 実 習 生 の 服 薬 指 導 の 場 面 を 見 ていると このような 注 意 点 を 患 者 に 一 方 的 に 説 明 してしまう 人 が 非 常 に 多 いことに 気 づく しかし すでに 患 者 がある 程 度 副 作 用 等 を 理 解 している 場 合 は 薬 剤 師 が 一 方 的 に 説 明 してしまうと この 前 医 師 から 聞 いた 話 と 同 じだから 聞 かなくてもいい と 感 じ 重 要 な 点 を 理 解 してもらうことができなくなってしまうことがある 患 者 の 理 解 度 を 確 認 するためには まず 患 者 本 人 に 主 治 い そうすることで 理 解 の 不 足 しているところや 誤 ってい るところを 重 点 的 に 指 導 することができる 服 薬 指 導 する 際 には 薬 剤 師 が 持 っている 知 識 を 教 える というのでは なく 患 者 の 理 解 度 不 足 を 補 う というスタンスでいると より 患 者 の 理 解 度 が 高 まることにつながる 本 症 例 の 場 合 副 作 用 への 不 安 からノンコンプライアンス につながる 可 能 性 も 否 定 できなかったため #2と し て 副 作 用 への 不 安 に 関 連 したノンコンプライアンスの 可 能 性 のプロブ レムも 立 て 担 当 看 護 師 と 連 携 し 不 安 の 除 去 やコンプライア ンスの 確 認 にも 努 めることとした( 紙 面 の 都 合 上 詳 細 は 割 愛 ) 医 から 説 明 を 受 けた 副 作 用 や 注 意 点 を 説 明 してもらうとよ 7
適 正 使 用 のためには 副 作 用 マネジメントが 最 重 要 課 題 である 分 子 標 的 薬 などの 抗 がん 剤 は 治 療 効 果 を 確 認 するまで にある 程 度 の 時 間 がかかるため 治 療 効 果 を 見 ながら 用 法 用 量 を 調 節 することは 難 しい このような 薬 物 を 適 正 に 使 用 するためには 副 作 用 を 管 理 し 必 要 に 応 じて 用 法 用 量 の 調 整 を 行 うことが 最 も 重 要 である スニチニブは 国 内 臨 床 試 験 では 全 例 でなんらかの 副 作 用 が 認 められているが 副 作 用 が 出 たからといって 過 剰 に 反 応 しあまり 早 期 に 薬 を 中 断 してしまうと 本 来 得 られる 可 能 性 がある 薬 効 が 期 待 できないばかりか 数 少 ない 薬 の 選 択 肢 を 狭 める 結 果 になりかねない 大 事 なことは 起 きうる 可 能 性 のある 副 作 用 やその 症 状 出 現 時 期 等 を 十 分 理 解 し 副 作 用 は 多 岐 にわたるため 主 治 医 1 人 が 全 ての 副 作 用 のマ ネジメントをすることは 困 難 である 副 作 用 の 症 状 や 発 現 時 期 を 考 慮 し 必 要 に 応 じて 検 査 依 頼 を 主 治 医 に 行 うことも 必 要 である 今 回 の 症 例 では 甲 状 腺 機 能 低 下 症 の 可 能 性 を 考 慮 し 主 治 医 に 甲 状 腺 機 能 関 連 の 検 査 依 頼 をしている 後 日 検 査 を 行 っ た と こ ろ( D a y17 ) TSH の 軽 度 上 昇 が 見 られ すぐ に 治 療 を 要 するレベルではないが 甲 状 腺 機 能 低 下 の 潜 在 的 状 況 で あ る こと が 確 認 さ れ た( 一 方 で グ レ ード 4 の 血 小 板 減 少 も 見 られたため 同 日 よりスニチニブ 投 与 は 中 止 となった) ひとたび 副 作 用 が 出 た 際 に 経 過 観 察 でよいのか 休 薬 や 用 量 変 更 をすべきなのかを 主 治 医 と 相 談 し 判 断 することである 副 作 用 が 発 現 するたびにこの 作 業 を 繰 り 返 し 行 うことで 患 者 個 別 の 適 正 用 量 を 把 握 することができ 長 期 間 薬 を 継 続 できる 可 能 性 が 高 くなる 休 薬 の 目 安 となるグレード 3 以 上 の 副 作 用 の 中 で 特 に 発 現 頻 度 の 高 いものを 表 3に 示 す 副 作 用 の 中 には 自 覚 症 状 を 伴 うものばかりでなく 適 切 な 検 査 を 行 って 初 めて 発 見 できるものもある 分 子 標 的 薬 の 8