茨 城 水 試 研 報 41,7~17(2010) 茨 城 県 近 海 の 黒 潮 位 置 と 変 動 並 びに 水 温 環 境 との 関 係 について 7 茨 城 県 近 海 の 黒 潮 の 位 置 と 変 動 並 びに 水 温 環 境 との 関 係 について 小 日 向 寿 夫 Position and change of the Kuroshio,and their relationship sea water temperature in the sea off Ibaraki with Hisao KOBINATA はじめに 黒 潮 は, 西 岸 境 界 流 として 本 州 沿 岸 に 沿 って 東 進 し, 茨 城 県 海 域 付 近 から 陸 域 を 離 れる この 時 に 流 路 を 変 化 させるため, 本 県 海 域 は 大 きな 影 響 を 受 ける そして,このことは 本 県 海 域 の 海 況 予 測 を 困 難 なものにする 大 きな 要 因 となっており, 黒 潮 の 流 路 の 把 握 は 極 めて 重 要 であると 考 えられる しかしながら しかしながら,これまで 本 県 近 海 (143 E 程 度 まで)における 黒 潮 の 流 路 位 置 や 変 動,ま たは, 茨 城 県 海 域 の 水 温 環 境 との 関 係 について 検 証 した 例 はほと んどない そこで, 本 研 究 では, 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離, 黒 潮 北 限 緯 度, 犬 吠 埼 沖 の 黒 潮 の 角 度 の3つを 黒 潮 流 路 の 指 標 値 と して,1 指 標 値 の 変 化 の 推 移 と 出 現 頻 度 の 把 握,2 指 標 値 と 本 県 海 域 の 水 温 環 境 との 関 係 解 析,3 指 標 値 の 前 月 差 と 茨 城 県 海 域 の 水 温 環 境 の 前 月 差 との 関 係 解 析 を 行 ったのでここに 報 告 する 方 法 (1) 黒 潮 の 位 置 1973 年 から 2007 年 までに 月 の 上 旬 と 下 旬 に 海 上 保 安 庁 から 発 行 された 海 洋 速 報 を 用 いて, 犬 吠 埼 の 正 東 方 向 の 黒 潮 離 岸 距 離 及 び 141 E,142 E,143 E 上 における 黒 潮 北 限 緯 度 を 計 測 した 計 測 位 置 は 黒 潮 流 路 の 北 縁 部 とした さらに, 犬 吠 埼 から 正 東 方 向 へ 線 を 伸 ばしたときに 黒 潮 縁 辺 に 交 わる 地 点 と 142 E における 黒 潮 の 北 限 緯 度 とを 結 んだ 線 と, 犬 吠 埼 正 東 線 とがおり なす 角 度 を 計 測 した( 図 1) また,これらの 前 月 差 も 求 め, 各 々 の 位 置 や 変 動 特 性 の 把 握,または 茨 城 県 沖 の 観 測 水 温 との 比 較 を 行 った なお, 本 県 の 海 洋 観 測 は 基 本 的 に 上 旬 に 実 施 しているこ とから, 観 測 水 温 との 比 較 には 上 旬 のみの 計 測 値 を 使 用 した (2) 茨 城 県 海 域 の 水 温 環 境 基 本 的 に 毎 月 上 旬 に 漁 業 調 査 指 導 船 を 用 いて 実 施 している 沿 岸 海 洋 観 測 (142 E まで)のうち,1973 年 から2007 年 の 間 の 水 深 0m,50m,100m,200mの 水 温 偏 差 を 用 いた さらに,クラスタ ー 解 析 手 法 により 水 深 毎 に 3 つの 類 似 した 海 域 に 分 類 し( 図 2), 海 域 ごとに 平 均 した 平 年 水 温 偏 差 とそれらの 前 月 差 を 解 析 に 用 い た なお, 文 章 中 の 海 域 の 表 現 方 法 は, 分 類 した 海 域 に 番 号 を 振 り,1 番 目 の 海 域 はクラスター1,2 番 目 の 海 域 はクラスター2,3 番 目 の 海 域 はクラスター3 と 記 載 した 図 1 黒 潮 流 路 の 計 測 位 置 灰 色 の 太 線 は 黒 潮 流 路 を 示 す (a): 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 (b)~(d):141 E,,142 E,143 E 上 の 黒 潮 北 限 緯 度 ( 黒 点 線 ) (e): 黒 潮 角 度 図 2 クラスター 解 析 により 分 類 した 海 域 黒 線 で 仕 切 られた 範 囲 内 が 水 深 帯 毎 にクラスター 分 類 し た 結 果 数 字 はクラスター 番 号 を 示 す
8 小 日 向 寿 夫 結 果 と 考 察 (1) 黒 潮 位 置 の 頻 度 分 布 1 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 出 現 頻 度 を 図 3 に 示 す 出 現 範 囲 は0 マイル 以 上 から190 マイ ル 以 下 で, 最 も 出 現 数 が 多 かったのは20 マイルより 大 きく30 マ イル 以 下 の 範 囲 ( 概 ね141.5 E)であった また, 出 現 数 の 凡 そ 9 割 が 80 マイル 以 下 ( 概 ね 142.5 E 以 西 )に 位 置 した この 出 現 頻 度 は 計 測 期 間 全 体 のなかで, 犬 吠 埼 正 東 に 黒 潮 流 路 が 存 在 し た 場 合 の 約 7 割 を 占 め, 多 くが 陸 域 の 比 較 的 近 くを 流 れているこ とが 示 唆 された 2 黒 潮 北 限 緯 度 出 現 頻 度 を 図 4 に 示 す 141 E での 出 現 範 囲 は 32 N より 大 きく 35.75 N 以 下 の 範 囲 で, 最 も 出 現 数 が 多 かったのは 35 N より 大 きく 35.25 N 以 下 の 範 囲 であった 142 E での 出 現 範 囲 は 32.25 N より 大 きく 38.5 N 以 下 の 範 囲 で, 最 も 出 現 数 が 多 かったのは 35.5 N より 大 きく 35.75 N 以 下 の 範 囲 であった 143 Eでの 出 現 範 囲 は32.25 Nより 大 きく38.75 N 以 下 の 範 囲 で, 最 も 出 現 数 が 多 かったのは 35.75 N より 大 きく 36 N 以 下 の 範 囲 であった 141 E は 外 房 南 部 沖 を 中 心 にして, 北 は 犬 吠 埼 沖 を 限 度 に 変 動 している また,142 E や 143 E は 正 規 型 の 分 布 を 示 し, 九 十 九 里 沖 から 鹿 島 灘 沖 を 中 心 に 南 北 変 動 していると 言 える 3 黒 潮 角 度 出 現 頻 度 を 図 5 に 示 す 出 現 範 囲 は0 度 以 上 から85 度 以 下 で, 最 も 出 現 数 が 多 かったのは40 度 より 大 きく45 度 以 下 の 範 囲 であ った このことから, 黒 潮 流 路 が 142 E 以 西 かつ 犬 吠 埼 以 北 に 位 置 する 場 合 は, 北 東 方 向 への 流 れが 最 も 多 いと 言 える 4 季 節 別 の 出 現 頻 度 図 6 に 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離, 黒 潮 北 限 緯 度 及 び 黒 潮 角 度 の 季 節 別 平 均 値 を 示 す 季 節 別 の 出 現 頻 度 には 偏 りはみられず, 概 ね 同 じであった このことから, 本 県 近 海 の 黒 潮 流 路 位 置 には 目 立 った 季 節 差 は 存 在 しないと 考 えられる 図 4 図 5 1973 年 から2007 年 の 黒 潮 北 限 緯 度 の 出 現 頻 度 (a):141 E (b):142 142 E (c):143 E 数 字 は 出 現 頻 度 を 示 す 1973 年 から2007 年 における 黒 潮 角 度 の 出 現 頻 度 数 字 は 出 現 数 を 示 す 図 6 各 計 測 値 の 季 節 別 平 均 値 (a): 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 (b)~(d)は 黒 潮 北 限 緯 度 それぞれ(b):141 E (c):142 E (d):143 E (e): 黒 潮 角 度 季 節 の 区 分 は 春 :4~6 月, 夏 :7~9 月, 秋 : 10~12 月, 冬 :1~3 月 とした 図 3 1973 年 から2007 年 における 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 の 出 現 頻 度 数 字 は 出 現 回 数 を 示 す (2) 黒 潮 位 置 の 変 動 1 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 推 移 を 図 7 に 示 す 黒 潮 の 離 接 岸 変 動 は50 マイルを 超 えない 小 さい 変 動 をする 期 間 と,100 マイルを 超 えるような 大 きい 変 動 を する 期 間 があり, 近 年 では2001 年 から2005 年 の 間 に 大 きな 変 動 が 頻 発 した また, 長 期 的 には 犬 吠 埼 から 離 岸 傾 向 であった
茨 城 水 試 研 報 41,7~17(2010) 茨 城 県 近 海 の 黒 潮 位 置 と 変 動 並 びに 水 温 環 境 との 関 係 について 9 2 黒 潮 北 限 緯 度 推 移 を 図 8 に 示 す 黒 潮 の 南 北 変 動 は,1 度 を 超 えない 小 さな 変 動 をする 期 間 と,2 度 を 超 えるような 大 きい 変 動 をする 期 間 が あった さらに 長 期 的 な 視 点 でみると,142 E や 143 E で, 正 のピークが1970 年 代 の 終 わり,1990 年 代 の 初 め,2000 年 代 の 初 めにあり, 負 のピークが 1980 年 代 半 ば,1990 年 代 の 終 わりにあ り, 概 ね10 年 から13 年 程 度 の 周 期 変 動 があるようだ あるようだ Qiu(2002) は 黒 潮 続 流 の 流 れが 強 い 時 期 には 続 流 の 位 置 が 北 上 し, 弱 い 時 期 には 南 下 するとし,1992 年 から1996 年 までは 弱 まり 南 下 し,1999 年 から 2001 年 には 再 び 強 まり 北 上 したと 指 摘 した この 間 の 142 E や 143 E 上 の 黒 潮 北 限 緯 度 は 同 様 の 変 動 を 示 している また, 気 象 庁 (2006)は Qiu(2002)が 示 した 1992 年 から 2001 年 までの 黒 潮 続 流 の 流 れの 強 度 の 変 動 は,137 E 上 の 黒 潮 流 量 の 変 動 と 似 た 傾 向 があることを 指 摘 しているが, 本 県 近 海 の 黒 潮 北 限 緯 度 も1980 年 代 の 初 期 以 前 を 除 くと 概 ね 似 た 傾 向 を 示 した( 図 9) このことは 黒 潮 の 流 量 や 強 度 が 本 県 近 海 の 黒 潮 の 南 北 変 動 に 作 用 していることを 示 しているのだろうか ここで ここで, 長 期 傾 向 に 注 目 すると,いずれの 東 経 でも 黒 潮 は 南 偏 傾 向 を 示 している 本 解 析 と 同 じ 期 間 の 本 県 南 部 沖 合 域 (142 E 周 辺 )の 水 温 は, 降 温 傾 向 にあり( 小 日 向, 未 発 表 ), 黒 潮 が 南 偏 傾 向 であることもこのこと を 裏 付 けている これに 対 し, 流 量 は 増 加 傾 向 を 示 しており, 両 者 の 関 係 は 矛 盾 している このことから, 黒 潮 の 強 度 や 流 量 が 本 県 近 海 の 黒 潮 南 北 変 動 へ 与 える 影 響 についてはまだ 議 論 の 余 地 が ある 3 黒 潮 角 度 角 度 は 欠 測 が 多 く, 明 確 な 変 動 は 不 明 であった (3) 黒 潮 位 置 と 水 温 の 関 係 1 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 表 1 に 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 と 海 域 別 水 深 別 水 温 偏 差 との 相 関 関 係 を 示 す 水 深 200mのクラスター1 と2 及 び 全 ての 水 深 帯 のクラスター3 で 有 意 な 負 の 相 関 (P<0.01) )があった( 図 10) これは, 犬 吠 埼 から 黒 潮 が 離 岸 ( 接 岸 )しているほど 南 部 沖 合 域 の 水 温 は 低 い( 高 い)ことを 意 味 する 一 方 で,その 他 のクラス ターでは 関 係 がみられなかったことから, 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 の 位 置 は 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 へ 影 響 を 与 える 重 要 な 要 素 ではないのか 図 8 1973 年 から2007 年 における 黒 潮 北 限 緯 度 の 推 移 (a):141 E (b):142 E (c):143 E 細 線 は 月 の 上 旬 と 下 旬 の 北 限 位 置, 太 線 はその49 旬 移 動 平 均, 直 線 は 回 帰 直 線 図 9 1973 年 から2007 年 における137 E 上 の 正 味 の 東 に 流 れ た 黒 潮 流 量 ( 東 向 きの 流 量 - 西 向 きの 流 量 )の 推 移 細 線 は 冬 季 と 夏 季 の 流 量, 太 線 はその3 季 移 動 平 均, 直 線 は 回 帰 直 線 ( 出 典 : 気 象 庁 (http://www.data.kishou. go.jp/kaiyou/shindan/b_2/kuroshio_flow/kt137.txt の データを 使 用 して 作 図 ) 図 7 1973 年 から2007 年 における 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 の 推 移 細 線 は 月 の 上 旬 と 下 旬 の 黒 潮 離 岸 距 離, 太 線 はその49 旬 移 動 平 均, 直 線 は 回 帰 直 線
10 小 日 向 寿 夫 表 1 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 と 水 温 偏 差 の 相 関 関 係 季 節 別 全 体 春 夏 秋 冬 1 - - - 2 - - - 3 2 - - - 3 2 - - - 3 2 - - - - 3 2 - - - - 3 - - - 有 意 水 準 1%で 有 意 差 あり : 負 の 相 関 -: 有 意 水 準 1%で 有 意 差 なし 海 域 はクラスター 番 号 を 示 し, 季 節 は 春 :4~6 月, 夏 :7~9 月, 秋 :10~12 月, 冬 :1~3 月 とした 表 2 季 節 別 黒 潮 北 限 緯 度 と 水 温 偏 差 の 相 関 関 係 全 体 春 夏 秋 冬 (a)141 E (b)142 E (c)143 E 1 2 - 全 体 2 - - 全 体 2 3 - - - - 3 3 1 - - - 2 - - - 春 2 - - 春 2-3 - - - - 3 3 2 - - - - 夏 2 - - - 夏 2 - - - 季 季 3 - - - - 3 3 節 節 1 別 別 1 - - - 2 - 秋 2 - - - 秋 2 - - 3 - - - - 3 3 2 - - - - 冬 2 - - - - 冬 2 - - - - 3 - - - - 3 - - - 3 - 有 意 水 準 1%で 有 意 差 あり : 正 の 相 関 : 負 の 相 関 -: 有 意 水 準 1%で 有 意 差 なし 海 域 はクラスター 番 号 を 示 し, 季 節 は 春 :4~6 月, 夏 :7~9 月, 秋 :10~12 月, 冬 :1~3 月 とした 表 3 黒 潮 角 度 と 水 温 偏 差 の 相 関 関 係 季 節 別 全 体 春 夏 秋 冬 1 2 3 1 2 3-1 - - - 2-3 - 1 - - 2 3-2 - 3 - - - 有 意 水 準 1%で 有 意 差 あり : 正 の 相 関 -: 有 意 水 準 1%で 有 意 差 なし 海 域 はクラスター 番 号 を 示 し, 季 節 は 春 :4~6 月, 夏 :7~9 月, 秋 :10~12 月, 冬 :1~3 月 とした
茨 城 水 試 研 報 41,7~17(2010) 茨 城 県 近 海 の 黒 潮 位 置 と 変 動 並 びに 水 温 環 境 との 関 係 について 11 もしれない また, 季 節 別 にみると, 春 季, 夏 季, 秋 季 は 全 体 の 相 関 の 傾 向 とほぼ 同 じであった しかしながら しかしながら, 冬 季 はほとんど 相 関 関 係 がみられなかった 2 黒 潮 北 限 緯 度 表 2(a)から(c)に 経 度 別 に 水 温 偏 差 との 相 関 関 係 を 示 し, 以 下 に 各 々について 詳 細 をみる 141 E では, 全 ての 水 深 帯 のクラスター1 と, 水 深 0mから100 mまでのクラスター2 で 負 の 相 関 (P<0.01) )があった( 図 11) これは, 黒 潮 が 北 ( 南 )に 位 置 するほど 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 の 水 温 は 低 い( 高 い)ことを 意 味 する ただし,,その 相 関 は 弱 く,あ まり 明 瞭 ではなかった 一 方 で, 南 部 沖 合 域 には 関 係 がみられな かった さらに, 季 節 別 にみると 夏 季 や 冬 季 は 相 関 がみられず, 春 季 も 相 関 がみられる 場 所 が 少 なかった 一 方 で 秋 季 の 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 に 集 中 して 相 関 がみられた 142 E では, 全 ての 水 深 帯 のクラスター3 と, 水 深 0mや 200 mのクラスター2 で 正 の 相 関 (P<0.01)がみられた がみられた( 図 12) こ れは, 黒 潮 が 北 ( 南 )に 位 置 するほど 南 部 沖 合 域 の 水 温 は 高 い( 低 い)ことを 意 味 する 一 方 で,それ 以 外 の 海 域 には 関 係 がみられ なかった ただし,35.5 N 以 北 の 黒 潮 北 限 緯 度 についてみてみ ると, 沿 岸 域 で 相 関 が 弱 めだが, 全 水 深 帯 の 全 クラスターで 正 の 相 関 (P<0.01)がみられたことから,ある 一 定 以 上 北 に 位 置 する と, 本 県 海 域 の 水 温 は 高 くなることが 多 いと 考 えられる 久 保 (1993)は 1973 年 から 1992 年 の 海 洋 速 報 の 142 N 上 の 黒 潮 北 限 緯 度 の 年 間 平 均 値 を 調 べ,その 平 均 値 (35.54 35.54 N)に 比 べて, 北 側 に 位 置 する 場 合 はKパターン( 黒 潮 分 派 型 )が 主 体 となり, 南 側 に 位 置 する 場 合 はOパターン( 冷 水 舌 型 )が 主 体 となると 指 摘 している 今 回 の 解 析 結 果 では,35.5 N より 北 側 に 位 置 する 場 合 は, 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 の 水 温 は 高 いことが 多 くなり,この 結 果 と 矛 盾 しないが,35.5 N 以 南 にあった 場 合 に 低 くなること が 多 いとはいえず, 指 摘 とは 異 なる 結 果 となった このことから, 黒 潮 が 南 偏 していることが 直 ちに 冷 たい 海 況 に 繋 がるわけではな いようである また, 季 節 別 にみると, 冬 季 は 他 の 季 節 に 比 べて 相 関 がみられる 場 所 は 少 なかった 143 E では, 全 ての 水 深 帯 のクラスター2 と 3 で 正 の 相 関 (P <0.01)がみられた( 図 13) これは, 黒 潮 が 北 ( 南 )に 位 置 す るほど 沖 合 域 を 中 心 に 水 温 が 高 い( 低 い)ことが 多 いことを 意 味 する 一 方 で, 沿 岸 域 は 関 係 がみられなかった これは, 黒 潮 が 陸 域 から 離 れた 位 置 を 北 上 しても 沿 岸 域 にはあまり 影 響 を 与 えて いないことを 意 味 していると 考 えられる また また, 季 節 別 にみると, 春 季 が 他 の 季 節 に 比 べて 相 関 がみられる 場 所 が 多 く, 一 方 で, 冬 季 は 他 の 季 節 に 比 べて 相 関 がみられる 場 所 は 少 なかった 3 黒 潮 角 度 表 3 に 黒 潮 角 度 と 水 温 偏 差 の 相 関 関 係 を 示 す 全 の 海 域 で 正 の 相 関 (P<0.01)がみられた( 図 14) これは これは,142 E 以 西 の 範 囲 内 で, 犬 吠 埼 沖 の 黒 潮 が 北 向 きに 流 れるほど 本 県 海 域 の 水 温 は 高 いことが 多 いことを 意 味 する また, 季 節 別 にみると, 春 季 が 他 の 季 節 に 比 べて 相 関 がみられることが 多 く, 一 方 で, 冬 季 は 他 の 季 節 に 比 べて 相 関 がみられることは 少 なかった 以 上 の1から3をまとめる 黒 潮 の 流 路 が 犬 吠 埼 沖 で 北 に 角 度 を 付 け,142 E 上 で35.5 N 以 北 をより 北 に 流 路 を 取 っている 時 には 南 部 沖 合 域 はもとより 沿 岸 域 においても 水 温 は 高 いことが 多 いと 考 えられる この 理 由 としては, 黒 潮 が 陸 域 に 近 い 場 所 を 北 上 した 状 態 にあるときは 黒 潮 から 暖 水 が 沿 岸 域 に 波 及 しやすいこ とが 考 えられる また, 季 節 別 にみると,141 E を 除 くと 細 かい 差 異 はあるものの, 春 季, 夏 季, 秋 季 は 概 ね 似 た 場 所 において 相 関 がみられた いずれの 指 標 値 においても 冬 季 には 他 の 季 節 に 比 べて 相 関 がみられることが 少 なかった この 原 因 としては, 過 去 の 海 洋 速 報 の 冬 季 における 精 度 に 問 題 があるのかもしれない 冬 季 には 荒 天 が 多 く, 海 洋 速 報 の 作 図 に 欠 かせない 各 種 現 場 観 測 デ ータが 少 ない 傾 向 にあると 考 えられる 近 年 は 気 象 衛 星 データを 併 せて 用 いることでデータの 少 なさを 補 うことが 可 能 であるが, 過 去 においてはデータの 少 なさは 精 度 悪 化 に 直 結 していると 考 え られる 図 10 図 11 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 と 水 深 100m 水 温 偏 差 (クラス ター3)の 関 係 直 線 は 回 帰 直 線 141 E 上 の 黒 潮 北 限 緯 度 と 水 深 100m 水 温 偏 差 の 関 係 (a):クラスター1 (b): :クラスター2 直 線 は 回 帰 直 線
12 小 日 向 寿 夫 図 12 142 E 上 の 黒 潮 北 限 緯 度 と 水 深 100m 水 温 偏 差 の 関 係 (a):クラスター1 で35.5 N 以 北 の 回 帰 直 線 を 示 す (b): クラスター2 で 35.5 N 以 北 の 回 帰 直 線 を 示 す (c):クラ スター3 で 全 体 と35.5 N 以 北 の 回 帰 直 線 を 示 す 図 13 143 E 上 の 黒 潮 北 限 緯 度 と 水 深 100m 水 温 偏 差 の 関 係 (a):クラスター2 (b):クラスター3 3 直 線 は 回 帰 直 線 図 14 黒 潮 角 度 と 水 温 偏 差 の 関 係 (a):クラスター1 (b): :クラスター2 (c):クラスター 3 直 線 は 回 帰 直 線 (4) 前 月 差 における 関 係 黒 潮 の 変 動 と 水 温 の 変 動 との 関 係 を 明 らかにするために 黒 潮 位 置 及 び 水 温 偏 差 の 前 月 差 を 求 めて 関 係 を 調 べた 1 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 の 前 月 差 と 水 温 偏 差 の 前 月 差 の 相 関 関 係 を 表 4 に 示 す 水 深 0mと50 50mのクラスター1 及 び 水 深 50m と100mのクラスター2 で 正 の 相 関 (P<0.01)があった( 図 15) これは, 前 月 に 比 べて 犬 吠 埼 から 黒 潮 が 離 岸 ( 接 岸 )すると, 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 で 昇 温 ( 降 温 )する 傾 向 があることを 意 味 する 一 方 で, 水 深 0m,100m,200m mのクラスター3 で 負 の 相 関 (P< 0.01)がみられた これは, 黒 潮 が 離 岸 ( 接 岸 )すると 南 部 沖 合 域 は 降 温 ( 昇 温 )する 傾 向 があることを 意 味 する( 図 15) ただ し,その 相 関 は 全 体 的 に 弱 く,あまり 明 瞭 ではない この 不 明 瞭 な 原 因 の 一 つとして,そもそも 相 関 関 係 が 弱 いことも 考 えられる が,その 他 にも, 黒 潮 離 岸 距 離 の 前 月 差 が 変 化 の 大 きさのみを 示 す 数 値 であり, 黒 潮 が 犬 吠 埼 から 離 れた 状 態 での 変 化 と, 近 い 状 態 での 変 化 を 比 べた 時, 沿 岸 域 に 与 える 影 響 には 差 があると 考 え られるが,それらを 同 じ 条 件 としていることも 関 係 している 可 能 性 がある そこで, 変 化 する 位 置 を 考 慮 し, 変 動 の 大 きさではな く 方 向 を 指 標 にするために, 犬 吠 埼 の30 海 里 ( 最 も 出 現 頻 度 が
茨 城 水 試 研 報 41,7~17(2010) 茨 城 県 近 海 の 黒 潮 位 置 と 変 動 並 びに 水 温 環 境 との 関 係 について 13 表 4 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 前 月 差 と 水 温 偏 差 前 月 差 の 相 関 関 係 1 - - 2 - - 3 - 有 意 水 準 1%で 有 意 差 あり : 正 の 相 関 : 負 の 相 関 -: 有 意 水 準 1%で 有 意 差 なし 表 5 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 接 岸 変 動 と 水 温 変 動 の 関 係 海 域 (a) 0m 50m 100m 200m 1 昇 温 78 73 68 76 降 温 22 27 32 24 2 昇 温 44 77 80 50 降 温 56 23 20 50 3 昇 温 33 37 35 19 降 温 67 63 65 81 海 域 (b) 0m 50m 100m 200m 1 昇 温 46 45 48 53 降 温 54 55 52 47 2 昇 温 61 38 36 64 降 温 39 62 64 36 3 昇 温 68 74 70 79 降 温 32 26 30 21 (a): 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 が30 海 里 以 内 から 以 外 へ 離 岸 した 場 合 の 水 温 変 動 の 比 率 (%) (b): 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 が30 海 里 以 外 か ら 以 内 へ 接 岸 した 場 合 の 水 温 変 動 の 比 率 (%) ( 灰 色 は2 倍 以 上 の 差 のあるものを 示 し,そのうち 斜 体 は 降 温 が 多 いことを 示 す) 表 6 黒 潮 北 限 緯 度 前 月 差 と 水 温 偏 差 前 月 差 の 相 関 関 係 (a)141 E 1 2 - - 3 - - - - (b)142 E 1 - - 2 - - - - 3 - - (c)143 E 2 - - - - 3 - - 有 意 水 準 1%で 有 意 差 あり : 正 の 相 関 : 負 の 相 関 -: 有 意 水 準 1%で 有 意 差 なし 表 7 142 E における 犬 吠 埼 を 境 にした 黒 潮 の 南 北 変 動 と 水 温 変 動 の 関 係 海 域 (a) 0m 50m 100m 200m 1 昇 温 37 33 30 36 降 温 63 67 70 64 2 昇 温 79 29 28 68 降 温 21 71 72 32 3 昇 温 88 81 80 88 降 温 13 19 20 12 海 域 (b) 0m 50m 100m 200m 1 昇 温 76 85 79 65 降 温 24 15 21 35 2 昇 温 64 67 65 25 降 温 36 33 35 75 3 昇 温 17 16 10 5 降 温 83 84 90 95 (a): 黒 潮 北 限 緯 度 が35.75 N 以 南 から 以 北 へ 北 上 した 場 合 の 水 温 変 動 の 比 率 (%) (b): 黒 潮 北 限 緯 度 が35.75 N 以 北 から 以 南 へ 南 下 した 場 合 の 水 温 変 動 の 比 率 (%) ( 灰 色 は2 倍 以 上 の 差 の あるものを 示 し,そのうち 斜 体 は 降 温 が 多 いことを 示 す) 表 8 犬 吠 埼 沖 の 黒 潮 の 流 れる 角 度 の 前 月 差 と 水 温 偏 差 の 前 月 差 の 相 関 関 係 2 - - 3 - - - 有 意 水 準 1%で 有 意 差 あり : 正 の 相 関 -: 有 意 水 準 1%で 有 意 差 なし
14 小 日 向 寿 夫 高 い 距 離 ) 以 内 から 以 外 へ 離 岸 した 場 合, 犬 吠 埼 に30 海 里 以 外 か ら 以 内 に 接 岸 した 場 合 に 分 けて, 水 温 前 月 差 が±0.9 を 超 える 降 温 及 び 昇 温 のそれぞれの 出 現 数 を 調 べた 結 果 を 表 5 に 示 す 離 岸 する 場 合 は 全 ての 水 深 帯 のクラスター1 及 び 水 深 50m,100 mのクラスター2,すなわち 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 で 昇 温 することが 多 く, 水 深 0mと200mのクラスター3,すなわち 南 部 沖 合 域 では 降 温 することが 多 かった 一 方 で, 接 岸 する 場 合 は 全 ての 水 深 帯 のクラスター3,すなわち 南 部 沖 合 域 では 昇 温 することが 多 かった が, 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 では 明 瞭 な 傾 向 はみられなかった この ことは 黒 潮 流 路 の 変 動 の 大 きさと 共 に 変 化 の 方 向 も 重 要 な 要 素 で あることを 示 唆 している 2 黒 潮 北 限 緯 度 緯 度 別 に 黒 潮 北 限 緯 度 の 前 月 差 と 水 温 偏 差 の 前 月 差 の 相 関 関 係 を 表 6(a)から(c)に 示 し, 以 下 に 各 々について 詳 細 をみる 141 E では, 全 ての 水 深 帯 のクラスター1 及 び 水 深 50mや100 mのクラスター2 で 負 の 相 関 (P<0.01)があった があった これは, 前 月 に 比 べて 黒 潮 が 北 上 ( 南 下 )すると, 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 で 降 温 ( 昇 温 )することが 多 いことを 意 味 する 142 E では, 水 深 50mや 100mのクラスター クラスター1 で 負 の 相 関 (P <0.01)があった 一 方 で, 水 深 0mや200m mのクラスター3 で 正 の 相 関 があった( 図 16) これは, 前 月 に 比 べて 黒 潮 が 北 上 ( 南 下 )すると 沿 岸 域 の 特 定 の 水 深 帯 で 降 温 ( 昇 温 )し, 南 部 沖 合 域 の 特 定 の 水 深 帯 では 昇 温 ( 降 温 )することが 多 いことを 意 味 する 143 E では, 水 深 100mと200mのクラスター クラスター3 に 正 の 相 関 (P <0.01)があった これは, 前 月 に 比 べて 黒 潮 が 北 上 ( 南 下 )す ると 南 部 沖 合 域 で 昇 温 ( 降 温 )する 傾 向 があることを 意 味 する いずれの 経 度 においても 相 関 は 弱 く,あまり 明 瞭 ではなかった この 不 明 瞭 な 原 因 の 一 つとして,そもそも 相 関 関 係 が 弱 いことも 考 えられるが,その 他 にも 黒 潮 北 限 緯 度 の 前 月 差 は 変 化 の 大 きさ のみを 示 す 数 値 であり, 黒 潮 が 犬 吠 埼 より 北 に 位 置 し, 本 県 海 域 に 近 い 場 合 と, 南 に 位 置 し, 離 れている 場 合 を 比 べた 時,それら を 同 じ 条 件 としていることが 関 係 している 可 能 性 がある そこで, 変 化 する 位 置 を 考 慮 し, 変 動 の 大 きさではなく 方 向 を 指 標 にする ために,35.75 N( 概 ね 犬 吠 埼 の 緯 度 帯 で 平 均 的 な 位 置 ) 以 南 か ら 以 北 へ 北 上 した 場 合, 以 北 から 以 南 へ 南 下 した 場 合 に 分 けて, 142 E について 水 温 前 月 差 が±0.9 を 超 える 降 温 及 び 昇 温 のそ れぞれの 出 現 数 を 調 べた 結 果 を 表 7 に 示 す 北 上 した 場 合 は, 水 深 50mと100mの 特 定 の 水 深 帯 のクラスター クラスター1 及 び2,すなわち 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 で 降 温 することが 多 く, 水 深 0mと200mのク ラスター2 及 び 全 ての 水 深 帯 のクラスター3,,すなわち 南 部 沖 合 域 を 中 心 とした 海 域 で 昇 温 することが 多 かった 一 方 で, 南 下 する 場 合 は, 水 深 0mから100mのクラスター1 及 び 水 深 50mの 特 定 の 水 深 帯 のクラスター2,すなわち 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 で 昇 温 するこ とが 多 く, 水 深 200mのクラスター2 や 全 ての 水 深 帯 のクラスター 3,すなわち 南 部 沖 合 域 で 降 温 することが 多 かった 3 黒 潮 角 度 黒 潮 角 度 の 前 月 差 と 水 温 偏 差 の 前 月 差 の 相 関 関 係 を 表 8 に 示 す 水 深 100mと200mのクラスター2, 水 深 100m mのクラスター3 で 正 図 15 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 離 岸 距 離 前 月 差 と 水 温 偏 差 前 月 差 の 関 係 (a): 水 深 50mのクラスター クラスター1 (b): 水 深 50mのクラス ター2 (c): 水 深 100mの のクラスター3 直 線 は 回 帰 直 線 図 16 142 E 上 の 黒 潮 北 限 緯 度 前 月 差 と 水 温 偏 差 前 月 差 の 関 係 (a): 水 深 100mのクラスター クラスター1(b): 水 深 100mのクラス ター3 直 線 は 回 帰 直 線
茨 城 水 試 研 報 41,7~17(2010) 茨 城 県 近 海 の 黒 潮 位 置 と 変 動 並 びに 水 温 環 境 との 関 係 について 15 の 相 関 (P<0.01)があった( 図 17) これは 前 月 に 比 べて 犬 吠 埼 正 東 の 黒 潮 が 北 向 きになると 昇 温 することが 多 いことを 意 味 する 1から3をまとめた 概 略 を 図 18 に 示 す 黒 潮 が 本 県 近 海 域 で 北 上 する 流 路 変 動 をした 時 には, 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 は 降 温, 南 部 沖 合 域 は 昇 温 する 傾 向 があり, 逆 に 犬 吠 埼 の 近 くから 離 岸 や 南 下 する 流 路 変 動 をした 時 には 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 は 昇 温, 南 部 沖 合 域 は 降 温 する 傾 向 があることが 明 らかになった 八 木 ら(2002)a は, 黒 潮 が 北 上 傾 向 を 強 めると 沿 岸 域 に 北 方 の 冷 水 が 流 入 するこ とを 指 摘 した さらに, 接 岸 すると 南 下 流 が 励 起 されて 北 方 から 冷 水 を 強 く 引 き 込 むとした このことが 結 果 として 本 県 海 域 の 降 温 を 起 こすと 指 摘 している また, 八 木 ら( (2002)b は 黒 潮 の 接 岸 度 合 いが 沿 岸 域 の 流 れの 応 答 に 影 響 するとし, 沿 岸 域 への 接 近 度 が 小 さい 場 合 は 沿 岸 域 に 南 下 流 が 励 起 され 北 方 の 冷 水 が 沿 岸 域 に 侵 入 し, 接 近 度 が 大 きい 場 合 は, 沿 岸 域 に 北 上 流 が 励 起 され, 湧 昇 によって 沖 合 中 層 以 深 の 高 栄 養 塩 水 が 沿 岸 に 波 及 すると 述 べ ている 本 研 究 では, 黒 潮 が30 海 里 以 外 から 以 内 へ 接 岸 した 場 合 について 解 析 したが,この 条 件 においては 沿 岸 域 の 水 温 が 昇 温 又 は 降 温 するかには 明 らかな 差 はみられなかった みられなかった 逆 に, 黒 潮 が 犬 吠 埼 から 離 岸 や 南 偏 する 変 動 時 に, 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 で 昇 温 す る 傾 向 があることについては, 先 に 黒 潮 の 北 上 が 沿 岸 域 の 流 れに 作 用 し, 最 終 的 に 降 温 すると 述 べたが,このことを 逆 に 考 えれば, 黒 潮 の 南 偏 や 離 岸 は, 冷 水 をもたらす 沿 岸 域 の 流 れを 弱 めること で 昇 温 すると 考 えられる また, 黒 潮 の 離 岸 や 南 偏 する 流 路 変 動 により 暖 水 が 波 及 して 昇 温 することもあるかもしれない かもしれない 今 回 の 解 析 期 間 から 外 れるが,2007 年 12 月 末 から2008 年 1 月 上 旬 にお ける 流 路 変 動 と 海 況 の 経 過 をみてみる 前 川 ら(2001)はコロラ ド 大 学 が 公 表 している 海 面 高 度 分 布 データを 用 いて 黒 潮 流 路 との 関 係 を 検 討 した 結 果, 小 規 模 の 蛇 行 や 短 周 期 変 動 については 把 握 が 可 能 であると 述 べている このことから, 本 県 近 海 の 黒 潮 の 変 動 について 海 面 高 度 分 布 データ 用 いて 検 討 してみた 図 19 は 海 面 高 度 偏 差 場 において, 黒 潮 が 海 面 高 度 偏 差 の 高 い 場 所 を 右 にみな がら 流 れると 仮 定 したときに 推 測 される 黒 潮 流 路 である 2007 年 12 月 21 日 には141 E 上 で 犬 吠 埼 に 接 岸 し, 東 方 へ 流 去 している 2008 年 1 月 5 日 から7 日 にかけて 房 総 半 島 の 南 沖 合 域 にある 蛇 行 部 が 東 進 するとともにやや 離 岸 傾 向 になりつつある そして 12 日 には 犬 吠 埼 から 大 きく 離 岸 し,141 E 及 び 142 E 上 で 南 偏 し た では,この 時, 沿 岸 域 の 水 温 はどのように 変 化 したのだろう か 図 20 は 海 面 水 温 画 像 である 2007 年 12 月 21 日 の 沿 岸 域 の 水 温 は14 台 で,1 月 の 平 年 値 が13~15 台 であることを 考 える と 概 ね 平 年 並 みの 水 温 であった 2008 年 1 月 5 日 から7 日 にかけ て, 本 県 海 域 には 南 方 から 黒 潮 流 路 がはりだすことで 南 部 沖 合 域 は 暖 水 の 影 響 を 受 けているが, 沿 岸 域 や 北 部 沖 合 域 はまだ 暖 水 の 影 響 を 受 けていない そして,2008 年 1 月 12 日 になると, 沿 岸 方 向 へ 大 きく 暖 水 が 波 及 して 海 域 全 体 を 広 く 覆 い,17~19 台 と 平 年 に 比 べて 高 めの 水 温 となった このように このように, 黒 潮 蛇 行 部 が 東 進 し, 陸 域 から 東 方 の 海 域 に 抜 ける 際 に, 離 岸 や 南 偏 を 伴 う 変 動 が 発 生 し, 暖 水 を 北 方 へ 放 出 することが 沿 岸 域 の 昇 温 の 原 因 の 一 つになっていると 考 えられる 図 17 図 18 犬 吠 埼 沖 の 黒 潮 角 度 の 前 月 差 と 水 温 偏 差 の 前 月 差 の 関 係 (a): 水 深 100mのクラスター クラスター2 (b): 水 深 100mのクラス ター2 直 線 は 回 帰 直 線 沿 岸 域 の 水 温 の 変 動 別 の 黒 潮 の 流 路 変 動 の 概 念 図 灰 線 は 黒 潮 流 路, 矢 印 は 変 動 の 方 向 を 示 す (a): 降 温 する 傾 向 のある 場 合 (b) (b): 昇 温 する 傾 向 のある 場 合
16 小 日 向 寿 夫 要 因 が 複 雑 に 絡 み 合 って 変 動 していることが 考 えられる また, 今 回 の 指 標 の 取 り 方 が 黒 潮 の 複 雑 な 変 動 を 捉 えきれていない 可 能 性 や, 過 去 の 海 洋 速 報 には 欠 測 が 多 い 等 のデータの 精 度 が 低 いも のが 混 在 していること, 比 較 するデータの 間 隔 が 月 一 回 と 開 いて おり, 現 象 同 士 の 発 生 時 期 にミスマッチが 起 きていることなどが 影 響 している 可 能 性 も 否 定 できない 近 年 は 新 しいタイプの 計 測 機 を 積 んだ 人 工 衛 星 が 運 用 されており, 黒 潮 流 路 の 判 別 精 度 が 向 上 しているし,ほぼ 毎 日 のデータを 用 いることができるようにな ってきた 今 後 はこのようなデータを 用 いることでより 詳 細 な 解 析 を 実 施 する 必 要 があるだろう 図 19 2007 年 12 月 21 日 から2008 年 1 月 12 日 の 海 面 高 度 偏 差 図 点 線 は 推 定 した 黒 潮 流 路 ( 出 典 :コロラド 大 学 ホームペ ージ) 要 約 (1) 海 洋 速 報 を 用 いて, 犬 吠 埼 正 東 方 向 の 黒 潮 離 岸 距 離,141 E,142 E,143 E 上 の 黒 潮 北 限 緯 度, 犬 吠 埼 沖 の 黒 潮 角 度 を 求 め,その 位 置 と 変 動 の 特 性 を 明 らかにした また,クラスター 分 類 した 茨 城 県 海 域 の 水 温 環 境 との 比 較 を 行 った (2) 黒 潮 位 置 と 水 温 との 関 係 は, 黒 潮 が 犬 吠 埼 沖 で 角 度 を 付 けて 北 上 し,142 E 上 で35.5 N 以 北 を 北 に 位 置 するほど 全 域 で 水 温 が 高 くなることが 多 かった また また, 季 節 別 では 春 季, 夏 季, 秋 季 に 似 た 相 関 がみられたが, 冬 季 は 相 関 が 弱 かった (3) 黒 潮 位 置 の 前 月 差 と 水 温 の 前 月 差 の 関 係 は, 黒 潮 が 北 上 する 流 路 変 動 をすると 沿 岸 域 や 北 部 海 域 は 降 温 し, 南 部 沖 合 域 は 昇 温 する 傾 向 があり, 逆 に 黒 潮 が 離 岸 や 南 下 する 流 路 変 動 をすると 沿 岸 域 や 北 部 海 域 は 昇 温 し, 南 部 沖 合 域 は 降 温 することが 多 かった これは, 黒 潮 の 蛇 行 部 が 陸 域 から 離 岸 する 際 の 流 路 変 動 と 関 係 が あると 考 えられた 謝 辞 本 県 近 海 の 黒 潮 位 置 の 指 標 化 には, 海 上 保 安 庁 の 作 成 した 海 洋 速 報 を 使 用 させて 頂 いた 速 報 を 発 行 されてきた 方 々に 厚 くお 礼 申 し 上 げる 茨 城 県 水 産 試 験 場 海 洋 漁 業 部 の 海 老 沢 良 忠 部 長 には, 本 報 告 をまとめる 上 で 多 くのご 助 言 と 数 々のご 教 示 を 頂 いた 深 く 感 謝 申 し 上 げる 図 20 2007 年 12 月 21 日 から2008 年 1 月 12 日 のNOAA 人 工 衛 星 海 面 水 温 画 像 点 線 は 海 面 高 度 偏 差 から 推 定 される 黒 潮 流 路 を 元 に, 水 温 勾 配 の 大 きい 場 所 を 選 んで 引 いた 黒 潮 流 路 (5) 最 後 に 今 回 の 解 析 では, 有 意 な 相 関 であっても 値 のばらつきが 大 きく, 明 瞭 な 結 果 が 出 たとは 言 い 難 い この 原 因 としては, 本 県 海 域 の 水 温 環 境 は 黒 潮 の 変 動 だけでなく, 気 象 や 親 潮 の 影 響 など 様 々な 文 献 (1) Bo Qiu ( 2002 ),The Kuroshio Extension System:Its Large-Scale Variability and Role in the Midlatitude Ocean-Atmosphere Interaction. Journal of Oceanography,58.57-75, (2) 久 保 治 良 (1993)カタクチイワシの 回 遊 域 における 海 洋 環 境 の 変 動. 水 産 海 洋 研 究,57(4 4),364-368 (3) 気 象 庁 (2006), コラム 海 洋 の 循 環. 海 洋 の 健 康 診 断 表. 総 合 診 断 表.85-87 (4) 八 木 宏 身 崎 成 紀 灘 岡 和 夫 中 山 哲 厳 足 立 久 美 子 二 平 章 (2002)a, 黒 潮 流 路 変 動 と 前 線 渦 が 鹿 島 灘 の 広 域 沿 岸 水 挙 動 に 与 える 影 響 について. 土 木 学 会 論 文 集,No.719/Ⅱ -61,81-91 (4) 八 木 宏 足 立 久 美 子 二 平 章 高 橋 正 和 (2002)b, 黒 潮 流 路 変 動 に 伴 う 沿 岸 域 への 栄 養 塩 流 入 現 象. 海 岸 工 学 論 文 集, 49,1216-1220
茨 城 水 試 研 報 41,7~17(2010) 茨 城 県 近 海 の 黒 潮 位 置 と 変 動 並 びに 水 温 環 境 との 関 係 について 17 (5) 前 川 陽 一 内 田 誠 永 田 豊 (2001),コロラド 大 学 による 海 面 高 度 分 布 速 報 データの 利 用 について. 三 重 大 生 物 資 源 紀 要, 27,1~15