我 が 国 企 業 年 金 運 用 の 課 題 と 動 態 的 資 産 運 用 管 理 の 可 能 性 について (1) 平 井 友 行 第 1 章 (1) 問 題 意 識 2007 年 のサブプライム 問 題,2008 年 のリーマンショックは 流 動 性 ショックを 契 機 とした 金 融 危 機 を 経 て 世 界 経 済 危 機 へと 膨 らみ, 未 だその 解 決 を 見 ていない この 間, 過 去 数 十 年 に 及 ぶ 経 済 成 長 の 中 で 蓄 積 された 金 融 資 産 も 一 気 にその 価 値 を 減 じ, 企 業 年 金 公 的 年 金 等, 中 長 期 的 な 資 産 運 用 の 在 り 方 に 対 しても 大 きな 影 響 を 及 ぼし 始 めている 我 が 国 においては,サブプライム リーマンショック 以 降 世 界 経 済 で 生 じている 問 題 を 過 去 二 十 年 間 の 間 に 実 感 しているところがある 過 去 50 年 の 間 に 急 速 に 発 展 してきたとも 言 われる 現 代 投 資 理 論 も 金 融 危 機 の 中 にあっ て,その 基 本 的 な 枠 組 みと 前 提 条 件 に 対 して 大 きな 疑 義 が 寄 せられるようになって 来 てい る 本 稿 では,これまで 信 じられてきた 現 代 投 資 理 論 とそれをベースとする 資 産 運 用 の 在 り 方 の 何 が 課 題 であり,それらを 本 来 どのような 方 向 で 認 識 すべきなのか,という 問 題 意 識 に 立 ち, 昨 今, 議 論 される 動 態 的 資 産 運 用 管 理 という 考 え 方 が 課 題 解 決 にどのような 役 割 を 果 たすのかということを 明 確 にしようとするものである 第 2 章 企 業 年 金 運 用 のフレームワークの 上 の 課 題 ⑴ 基 本 政 策 アセット ミックスとそのリスク 管 理 確 定 給 付 型 年 金 運 用 にとって 運 用 の 基 本 方 針 を 決 定 することは, 当 然 にして,きわ めて 重 要 なことである そして,その 基 本 方 針 を 具 現 化 するともいわれた 基 本 政 策 ア セット ミックス という 考 え 方 は, 長 い 間, 斯 業 界 にあって, 重 用 されてきた 負 債 サイドに 長 いデュレーションを 持 つ 年 金 資 産 運 用 にあって, 時 間 の 長 さを 本 来 的 に 見 方 につけ, 短 期 的 な 相 場 の 上 下 変 動 に 振 らされ, 相 場 の 後 を 常 に 追 い 続 けるような 事 態 を 避 けるべく,この 基 本 政 策 アセット ミックス を 策 定 しそれを 管 理 していくことが 最 も 堅 確 な 運 用 を 実 施 していく 上 での 資 産 運 用 プロセスであると 考 えられてきた 基 本 政 策 アセット ミックスを 策 定 するにあたっては, 投 資 対 象 資 産 に 関 するリターン, リスク, 相 関 係 数 を 事 前 に 設 定 しておかなければならない 現 代 投 資 理 論 では,リターン (1) 本 稿 は,2011 年 9 月 の 日 本 FP 学 会 で 発 表 したものであるが, 元 々は, 実 務 家 の 方 々との 議 論 がベースとなっ ている また, 作 成 段 階 では, 多 くの 識 者 の 方 々からコメントをいただいた 特 に, 討 論 者 の 山 崎 俊 輔 企 業 年 金 基 金 連 合 会 調 査 役 には 貴 重 なコメントをいただいた また,みずほ 第 一 FT 社 の 伊 藤 敬 介, 植 松 俊 一 郎 両 氏 には, 何 時 ものことながら, 大 変 お 世 話 になった この 場 を 借 りて 厚 く 御 礼 申 し 上 げたい 35
は,インカムゲインとキャピタルゲインを 合 計 した 収 益 率 をあらわし,リスクはそのリ ターンの 振 れ 幅, 具 体 的 には 標 準 偏 差 という 統 計 数 値 で 表 現 することとなっているが,こ のリスクの 概 念 を 振 れ 幅 にしていることが, 年 金 財 政 上 の 年 金 運 用 を 考 える 上 でも, 退 職 給 付 会 計 上 における 年 金 運 用 を 考 える 上 でも 最 大 の 課 題 の 一 つである また, 意 識 されている 投 資 対 象 期 間 の 問 題 がある 基 本 政 策 アセット ミックスを 策 定 し, 資 産 運 用 リターンの 成 果 を 得 る 時 間 は 通 常 では 数 年 (3 年 ~5 年 )という 期 間 を 考 え ているが,2000 年 度 の 退 職 給 付 会 計 導 入 後,あるいは 少 し 導 入 までの 道 のりが 長 くなった とはいえ, 今 後 の IFRS 導 入 後 の 企 業 経 営 者 の 単 年 度 重 視 型 の 思 考 には 不 具 合 を 生 じざる を 得 ない 特 に, 数 理 計 算 上 の 差 異 を 単 年 度 償 却 することとなり,その 他 包 括 損 益 に 内 外 株 のボラ ティリティが 直 接 的 に 反 映 されることとなった 場 合,その 企 業 経 営 者 にとって, 年 度 初 に 置 かれた 基 本 政 策 アセット ミックスの 持 つ 期 待 リターンが 実 現 しないことに 期 待 外 れ な 印 象 を 有 することも 多 いであろう 特 に,リターンがダウンサイドに 振 れた 時 の 期 待 外 れ 感 は 非 常 に 大 きなものとなっていることは 想 像 に 難 くない 仮 に,リターン 分 布 が 正 規 分 布 であることを 前 提 としていたとしても, 期 待 リターン 4.6%,リスク( 標 準 偏 差 )12.2% という 基 本 政 策 アセット ミックスの 意 味 するところ は 一 会 計 年 度 では 7.6%から16.8%というリターンになりうる 可 能 性 が 約 68% 程 度 とな る ということであるが, 企 業 経 営 者 はそのことを 理 解 しているであろうか? 金 額 のイ メージでいえば, 資 産 規 模 が1,000 億 円 以 上 の 企 業 年 金 であれば,68% 程 度 の 可 能 性 で 240 億 円 強 のブレ 幅 が 生 じているともいえる ( 図 2-1) 図 2-1:リターン 分 布 の 意 味 するところ 36
⑵ 基 本 政 策 アセット ミックスのリスクの 所 在 繰 り 返 しにはなるが, 基 本 政 策 アセット ミックスにおけるリスクとは 統 計 上 の 標 準 偏 差 であり, 管 理 しているリスクはまさに 期 待 リターンを 中 心 とした ブレ 幅 になる こういった 基 本 政 策 アセット ミックスを 算 出 するにあたっての 前 提 条 件 となる,リス ク( 標 準 偏 差 )と 相 関 係 数 は, 過 去 のデータセットの 平 均 値 の 年 率 換 算 であり 平 均 化 されているがゆえに, 短 期 間 あるいは 一 会 計 年 度 ( 単 年 度 )においては,それ 以 上 のブレ 幅 が 当 然 に 現 出 するということもある それでは,その 基 本 政 策 アセット ミックスのリスクとは 何 を 意 味 するのであろうか? 仮 に, 図 2 2のような 基 本 アセット ミックスでは 期 待 リターン3.1%,リスク( 標 準 偏 差 )10.5% となるが,このポートフォリオに 発 生 するリスク ブレ 幅 (ボラティリ ティ)はどのような 性 格 のものであろうか? 仮 に, 国 内 株 式 と 外 国 株 式 のアクティブ パッシブ 比 率 を50%として, 国 内 債 券 外 国 債 券 は 全 額 パッシブ 運 用 とした 場 合,リスクの 過 半 (98.8%)はベータリスクであり,そ の 内 訳 としては, 過 半 が 内 外 株 式 である(91.8%)ことがわかる ( 図 2 3) 図 2 2: 基 本 政 策 アセット ミックス 資 産 構 成 期 待 リターン リスク 国 内 株 式 25% 5.0% 17.9% 外 国 株 式 10% 7.0% 19.7% 国 内 債 券 55% 1.5% 2.0% 外 国 債 券 10% 3.0% 10.3% 全 体 100% 3.1% 10.5% 注 1) 期 待 リターンは 企 業 年 金 基 金 連 合 会 が 設 定 しているものを 活 用 注 2)リスク 相 関 係 数 は2000 年 末 から2011 年 末 迄 のヒストリカルデータを 活 用 図 2 3:リスク 構 成 リスク 構 成 βリスク 構 成 αリスク 1.2% 国 内 株 式 65.3% βリスク 98.8% 外 国 株 式 26.6% 外 国 債 券 8.6% 国 内 債 券 1.8% 注 1) 国 内 株 式, 外 国 株 式 のアクティブ 比 率 50%と 仮 定 注 2) 筆 者 とみずほ 第 一 FT 社 と 共 同 作 成 37
企 業 年 金 にとっては,この 内 外 株 式 のリスク ボラティリティを 管 理 することが 重 要 で あり, 債 券 ウェイトの 引 き 下 げを 実 施 することも 多 いが, 図 2 2の 基 本 政 策 アセット ミックスもすでに 内 外 債 券 の 割 合 が65%まで 引 き 上 がっている 我 が 国 企 業 年 金 にとっ て,ポートフォリオ 全 体 のリスクを 削 減 するにあたっては, 更 に 投 資 対 象 を 分 散 する 等 の 対 応 策 が 必 要 になっているところである 一 方,オルタナティブ 資 産 エマージング 市 場 資 産 等 についても 相 当 のウェイトを 組 み 入 れない 限 り,このベータリスクを 引 き 下 げるこ とは 難 しい ⑶ 株 式 ボラティリティと 正 規 性 図 2 4:TOPIX( 配 当 込 )リターン 一 標 準 偏 差 の 外 側 に 位 置 する 回 数 年 度 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 リターン 2.4% 17.8% 42.4% 16.7% 28.0% 48.9% 15.4% 15.7% 9.3% 10.9% 年 度 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 リターン 27.4% 1.9% 10.0% 15.6% 26.1% 15.4% 8.0% 2.2% 35.5% 24.6% 年 度 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 リターン 16.2% 24.8% 51.1% 1.4% 47.8% 0.3% 28.1% 34.8% 28.5% 9.2% 3 回 6 回 7 回 注 )TOPIX リターンが 一 標 準 偏 差 の 外 側 に 位 置 する 場 合 に 黒 抜 き 白 字 で 表 示 ( 国 内 株 式 の リターン/リスク( 標 準 偏 差 )を5.0%/17.9%を 前 提 ) 基 本 政 策 アセット ミックスにおいても, 過 去 における 国 内 株 式 等 のリターンが 正 規 分 布 を 描 いていることがすべての 前 提 となっているが, 現 実 的 には, 図 2-4に 表 現 されて いる 状 況 になる すなわち, 国 内 株 式 の 期 待 リターン / リスクを5.0% /17.9% を 前 提 とした 場 合, 本 来 であれば, 12.9%から22.9%という 一 標 準 偏 差 内 に 約 68%(10 年 間 に 七 回 程 度 ) の 確 率 で, 一 年 間 の TOPIX リターンが 実 現 することとなる 1980 年 代 には10 年 間 で 七 回 が 一 標 準 偏 差 内 にあり,ほぼ 統 計 的 な 前 提 のままであるが, 1990 年 代 には 四 回 に 引 きさがり,2000 年 代 には 何 と 三 回 まで 引 きさがってしまう 結 果 的 には, 一 標 準 偏 差 を 超 えてプラス マイナスに 株 式 リターンが 大 きくブレ 幅 を 取 ることとなり, 企 業 年 金 にとっては 特 にマイナスのリターンが 発 生 した 場 合 には, 年 金 財 政 上 も 財 務 会 計 上 も 厳 しい 結 果 となり,こういったテール リスクを 管 理 することがその 運 用 目 標 とならざるをえない ⑷ 管 理 すべきリスク 企 業 年 金 にとっては,そもそも, 正 規 分 布 のプラス 部 分 が 表 現 するリターンの 大 きさを 無 制 限 にのぞむというよりは,むしろ, 例 えば,ゼロを 下 回 るようなダウンサイドリスク 38
を 管 理 しようとする 誘 因 が 高 い 企 業 年 金 は, 終 身 雇 用, 年 功 序 列 賃 金 制 度 を 支 える 日 本 的 経 営 によっては 不 可 欠 な 存 在 であった 従 業 員 の 退 職 後 給 付 制 度 を 維 持 することが 重 要 であり, 予 定 利 率 ( 期 待 収 益 率 ) を 大 幅 に 上 回 る20%といったリターンが 実 現 することを 望 んでいるわけではない むし ろ,20%を 望 んだりすることによって, 20%が 実 現 することを 避 けたいと 考 えていると いえる 企 業 年 金 が 選 好 するリターンのペイオフイメージとしては 図 2-5のようにな る 青 色 で 表 現 されたペイオフ 曲 線 が 従 来 通 り, 年 金 のトータル 資 産 が 内 外 株 式 等 のリスク 性 資 産 に 大 きく 影 響 するケースで, 緑 色 で 表 現 されたペイオフ 曲 線 が, 債 券 等 のウェイト を 引 き 上 げた 場 合 であり, 赤 色 で 表 現 されたペイオフ 曲 線 が,ダウンサイドリスクを 制 御 しつつ,アップサイドポテンシャルを 残 すダイナミックヘッジを 活 用 した 場 合 に 表 現 でき るペイオフ 曲 線 である 図 2-5: 企 業 年 金 の 選 好 するペイオフ これまではポートフォリオ 全 体 のリスク( 標 準 偏 差 )を 引 き 下 げようと 考 えた 場 合 には 債 券 ウェイトを 引 き 下 げることとなる しかしながら, 内 外 株 式 のボラティリティ( 標 準 偏 差 )が 年 々 増 加 する 中 では, 債 券 ウェイトを 引 き 下 げ, 期 待 リターンを 引 き 下 げたとし ても, 結 果 的 に, 避 けるべきテール リスクを 管 理 することは 難 しい また, 期 待 収 益 率 を 引 き 下 げることは 年 金 財 政 上 の 予 定 利 率 の 引 き 下 げと 掛 金 の 増 加 を 39
意 味 しており, 企 業 財 務 経 営 にとっても 結 果 的 には 大 きな 負 担 となる むしろ, 企 業 年 金 にとっては, 管 理 すべき 標 準 偏 差 のブレ 幅 ではなく,VaR で 表 現 さ れるダウンサイドリスクを 如 何 に 削 減 するかということであるといえる むしろ, 図 2-5で 表 現 されているダイナミックヘッジ 等 を 活 用 した 場 合 のペイオフ 曲 線 が 企 業 年 金 の 選 好 するペイオフであるといえる ⑸ リバランスルール 基 本 政 策 アセット ミックスを 維 持 する 上 では, 時 価 変 動 による 資 産 価 格 の 変 化 に 対 し て 逆 張 り のリバランスを 実 施 することとなっている 内 外 株 式 の 時 価 が 引 き 下 がった 場 合 には, 保 有 している 内 外 債 券 を 売 却 することとなる 逆 に 内 外 株 式 の 時 価 が 引 き 上 がった 場 合 には, 保 有 している 内 外 債 券 を 購 入 することとなる 逆 張 り の 戦 略 は 個 人 富 裕 層 等 のナンピン 買 いに 良 くみられるが, 企 業 年 金 の 存 在 は 富 裕 層 のようであろうか? 資 産 が 無 尽 蔵 にあるのだろうか? 基 本 的 には 企 業 からの 掛 金 が 無 ければ 維 持 可 能 とは 言 えず, 個 人 の 資 産 運 用 がその 様 に あるように, 企 業 年 金 基 金 自 身 の 財 政 状 況 に 応 じて, 本 来 であれば,リバランスあるいは 基 本 ポートフォリオの 策 定 を 実 施 すべきである 企 業 自 身 も 掛 金 の 負 担 能 力 は 一 般 的 な 意 味 でも 減 退 している 企 業 の 保 有 するリスク 許 容 能 力 にも 明 示 的 であるかどうかは 問 わ ず, 企 業 年 金 の 資 産 運 用 は 制 約 されることになる (2) 第 3 章 動 態 的 資 産 運 用 管 理 について ⑴ 順 張 りの 基 本 的 な 考 え 方 ダウンサイドリスクを 制 御 するということの 重 要 性 については 第 2 章 で 触 れた 企 業 年 金 の 運 用 目 標 は ダウンサイドリスクを 制 御 しつつ, 予 定 利 率 を 凌 駕 する 期 待 収 益 率 を 安 定 的 に 確 保 すること にある ベータリスクの 過 半 を 占 める 内 外 株 式 のダウンサイドリスクを 制 御 することは 非 常 に 重 要 になる また, 企 業 年 金 の 維 持 可 能 性 を 考 えた 場 合, 単 年 度 での 最 適 化 ではなく, 複 数 年 度 にわたって, 資 産 運 用 を 継 続 し, 変 化 する 財 政 状 況 におうじて, 基 本 政 策 アセット ミックスを 変 化 させていく 必 要 があるといえる ダイナミックヘッジという 株 式 の 運 用 手 法 そのものはそのペイオフ 曲 線 が 表 現 している ように 株 式 の 順 張 り 運 用 であるといえる 株 式 が 目 標 とするフロアーに 近 づけば, 先 物 を 売 り 立 て 事 実 上 の キャッシュウェイト を 引 き 上 げることとなる ⑵ 積 立 水 準 等 によるアセットアローケンションの 変 化 図 3-1は, 積 立 水 準 により 基 本 政 策 アセット ミックスを 変 化 させる 動 態 的 資 産 運 用 管 理 である (2) また, 企 業 年 金 自 身 もその 財 政 状 況 に 応 じて, 積 立 比 率 の 下 落 により, 更 に 掛 金 負 担 を 上 昇 させることを 避 けるべく, 同 様 にダウンサイドリスクを 避 けることを 企 図 しており,ダイナミックヘッジのようなペイ オフは, 年 金 財 政 上 も 財 務 会 計 上 ももっと 指 向 されて 良 いものと 考 えられる 40
図 3 1 積 立 水 準 による 動 態 的 資 産 運 用 管 理 例 退 避 モード リカバリー モード 巡 航 モード 安 定 モード 資 産 額 ( 億 円 ) 1,000 1,000 1,000 1,000 負 債 額 ( 億 円 ) 1,400 1,200 1,000 800 積 立 水 準 71% 83% 100% 125% 国 内 株 式 25% 45% 40% 35% 外 国 株 式 10% 25% 20% 15% 国 内 債 券 55% 20% 30% 40% 外 国 債 券 10% 10% 10% 10% 合 計 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 期 待 リターン 3.08% 4.60% 4.15% 3.70% リスク( 標 準 偏 差 ) 6.19% 12.20% 10.46% 8.73% 99% VaR 11.05% 23.22% 19.55% 16.11% 期 待 サープラスリターン 0.42% 1.60% 1.65% 1.70% サープラスリスク 8.29% 13.88% 11.79% 9.70% 99% SaR 19.13% 29.38% 24.70% 19.65% 注 1) 国 内 株 式 等 投 資 対 象 資 産 の 期 待 リターン,リスクは 図 2 2と 同 様 注 2) 筆 者 とみずほ 第 一 FT 社 と 共 同 にて 作 成 積 立 水 準 におうじて, 四 つのモードを 設 定 した 避 難 モードとは, 積 立 水 準 が70%を 割 り 込 むような 状 況 であり, 債 券 ウェイトを 引 き 上 げ, 期 待 リターンは3.08%であるが,リスクも6.19%と 低 い 但 し,99% VaR についても 11.05%と 低 くなっており,ダウンサイドリスクを 制 御 することで,これ 以 上 の 資 産 価 値 の 減 少 を 避 けようとしている リカバリーモードとは, 避 難 モードに 比 較 すれば, 積 立 水 準 は83%となっており, 状 況 は 好 転 している 積 立 水 準 を100%の 水 準 にすべく, 内 外 株 ウェイトを 引 き 上 げ, 期 待 リ ターンの 水 準 を4.6%まで 引 き 上 げているが, 当 然 にして,リスク( 標 準 偏 差 ) 99% VaR も 倍 以 上 に 拡 大 している 巡 航 モードは 積 立 水 準 が100% 前 後 となっており,リカバリーモデルに 比 較 すれば,リ スク 99% VaR を 引 き 下 げ, 安 定 モードでは, 更 なる 引 き 下 げを 実 施 している 一 連 のモード 変 化 は 通 常 の 基 本 政 策 アセット ミックスを 静 態 的 に 実 施 している 事 例 と 比 較 した 場 合,リバランスルールがまるで 逆 さになっていると 言 える すなわち, 積 立 水 準 に 応 じて 計 画 的 にリバランスルールを 決 定 しているが, 考 え 方 の 基 41
本 は 内 外 株 式 等 の 資 産 価 値 が 下 落 して, 積 立 比 率 が 悪 化 した 場 合 には, 内 外 株 式 のウェイ トを 引 き 下 げるという 順 バリ であり 内 外 株 式 等 のリスク 性 資 産 の 価 値 が 下 落 した 場 合 にはリバランスして 購 入 するという 逆 バリ 戦 略 とは 逆 さまになっている 積 立 水 準 という 客 観 的 な 指 標 を 設 けることは,これまでのリバランスでは 逆 バリ 戦 略 を 取 る 中 で,リーマンショック,サブプライム 問 題 のような 事 態 が 生 じた 場 合,リスク 性 資 産 の 下 落 によるリバランスのタイミングが 企 業 年 金 内 の 定 性 的 な 判 断 により, 遅 らせ たり, 見 過 ごされたりしたことがあった そのタイミングでのリバランスの 判 断 の 是 非 ではなく, 企 業 年 金 が 明 日 とかこれから 一 週 間 の 株 価 の 予 測 をあたかもおこない,リバランス( 結 局 は, 内 外 株 等 の 売 り 買 い)を 実 施 するのは, 企 業 年 金 ガバンナスの 観 点 から, 今 後 の 継 続 性 を 考 えても 非 常 に 重 要 な 問 題 であると 考 えられ, 動 態 的 資 産 運 用 管 理 はそういった 課 題 が 積 立 水 準 という 客 観 性 の 高 い 指 標 に 基 づいている 点 において 改 善 がみられる 図 3-2には,それぞれのモードの 分 布 図 が 表 現 されているが, 避 難 モード 等 はダウン サイドリスクが 制 御 されていることが 確 認 できる 図 3-2: 各 モードの 分 布 状 況 ⑶ ダイナミックヘッジ 動 態 的 資 産 運 用 管 理 においては,モード 管 理 の 上, 積 立 水 準 におうじて,リスク VaR を 上 下 させていくことがポイントになっていた ここでは, 最 もリスク( 標 準 偏 差 ) ボラティリティの 高 い 内 外 株 式 そのものにダウン 42
サイドリスクを 制 御 させる 仕 組 みとして 直 接 にダイナミックヘッジ(DH)を 導 入 した 上 で,どの 様 な 効 果 があるかを⑵の 退 避 モードを 例 にした 上 で 示 す 図 3 3:ダイナミックヘッジ 導 入 効 果 退 避 モード 退 避 モード(DH あり) 資 産 額 ( 億 円 ) 1,000 1,000 負 債 額 ( 億 円 ) 1,400 1,400 積 立 水 準 71% 71% 国 内 株 式 25% 5% DH 付 き 国 内 株 式 0% 40% 外 国 株 式 10% 3% DH 付 き 外 国 株 式 0% 20% 国 内 債 券 55% 23% 外 国 債 券 10% 10% 合 計 100.0% 100.0% 期 待 リターン 3.08% 3.13% リスク( 標 準 偏 差 ) 6.19% 8.42% 99% VaR 11.05% 7.54% 期 待 サープラスリターン 0.42% 0.37% サープラスリスク 8.29% 10.60% 99% SaR 19.13% 18.31% 注 1) 国 内 株 式 等 投 資 対 象 資 産 の 期 待 リターン,リスクは 図 2 2と 同 様 注 2) 筆 者 とみずほ 第 一 FT 社 と 共 同 にて 作 成 最 大 の 特 徴 は, 期 待 リターンがほぼ 同 じでありながら,99% VaR がダイナミックヘッ ジ(DH)を 導 入 した 場 合 の 方 がはるかに 小 さくなっている 点 である リスク( 標 準 偏 差 ) は 大 きくなっているように 見 えるが,それは,ダイナミックヘッジが 下 値 は 抑 えるがが, 上 値 は 抑 えないというところを 表 現 している モード 管 理 をするかしないかは 別 においたとしても, 期 待 リターンを 同 水 準 にした 上 で ダウンサイドリスクを 制 御 する 上 では, 運 用 効 率 上 もダイナミックヘッジの 優 れた 特 性 を 理 解 することが 出 来 る 図 3-4は 分 布 図 であり, 図 3-5は 過 去 十 年 間 を 退 避 モードと 退 避 モードにダイナ ミックヘッジをかぶせた 場 合 のシュミレーションを 実 施 している 43
図 3-4:ダイナミックヘッジ 導 入 効 果 2 図 3 5:ヒストリカルシュミレーション1 退 避 モード 退 避 モード(DH あり) 2000 2.3% 2.4% 2001 2.2% 3.1% 2002 6.6% 4.2% 2003 12.8% 22.9% 2004 4.2% 1.4% 2005 13.4% 23.2% 2006 4.1% 1.2% 2007 7.5% 5.4% 2008 15.7% 8.4% 2009 14.8% 20.2% 2010 1.5% 4.5% リターン( 累 積 ) 8.8% 39.5% 44
リターン( 年 率 ) 0.8% 3.1% リスク( 年 率 ) 6.2% 6.9% リターン リスク 比 0.12 0.45 最 小 年 度 リターン 15.7% 8.4% 注 1)モンテカルロシミュレーションでは 各 資 産 クラスのリターンについて5,000 通 りのパスを 発 生 させて 分 析 を 実 施 注 2) 筆 者 とみずほ 第 一 FT 社 と 共 同 にて 作 成 図 3 5:ヒストリカルシュミレーション2 ヒストリカルシュミレーションでは, 過 去 10 年 間 運 用 していたとしても,ダイナミック ヘッジを 活 用 して 作 ったポートフォリオが10 年 間 で30% 以 上 のパフォーマンスが 出 てい る 企 業 年 金 運 用 にとって 負 けない 運 用 の 重 要 性 が 確 認 できたところである 4.まとめ 従 前 の 企 業 年 金 運 用 の 基 本 的 な 考 え 方 は, 基 本 政 策 アセット ミックスを 策 定 した 後 に は,その 基 本 政 策 アセット ミックスを 時 価 ベースで 維 持 すべくある 一 定 のタイミングで リバランスを 逆 張 り で 実 施 していた また, 基 本 政 策 アセット ミックスのリスクは 仮 に 内 外 株 式 保 有 が30% 程 度 の 非 常 に 低 い 水 準 にあっても,リスクベースでみれば, 過 半 が 内 外 株 式 の 保 有 リスクであり,そのボ ラティリティは 最 近 期 に 至 るまで 上 昇 し 続 けていた 45
一 方 で, 基 本 政 策 アセット ミックスの 一 つの 前 提 とも 言 える, 内 外 株 式 リターンの 正 規 性 についても 相 当 に 疑 念 がある 企 業 年 金 運 用 の 基 本 的 な 運 用 目 標 は, 予 定 利 率 を 凌 駕 する 期 待 運 用 収 益 率 をダウンサイドリスクを 制 御 しつつ 安 定 的 に 確 保 することにあるとい える 株 式 市 場 のボラティリティの 激 しさを 要 因 とする 企 業 年 金 運 用 のトータルリター ンの 変 動 は, 会 計 上 のインパクトを 含 め, 大 きな 課 題 である 我 が 国 企 業 年 金 運 用 の 大 きな 課 題 は,リスク 認 識 が 平 均 分 散 アプローチ における ブレ 幅 と 認 識 していたことであり, 運 用 上 の 目 標 である 予 定 利 率 を 凌 駕 する 期 待 運 用 収 益 率 をダウンサイドリスクを 制 御 しつつ 安 定 的 に 確 保 する というニーズに 対 して は, 本 来 的 にはブレ 幅 ではなくダウンサイドリスクをコントロールすべきであったといえ る 特 に, 逆 張 り のリバランスルールは, 本 来 であれば, 最 大 の 損 失 限 度 額 (これ 以 上 損 失 が 拡 大 した 場 合 制 度 維 持 がステークホルダーとの 関 係 で 難 しいという 水 準 )を 超 えて でもリスク 性 資 産 の 組 入 れによってリスクテークを 繰 り 返 していたといえる 管 理 すべきリスクをダウンサイドリスクとし,リバランスルールを 順 張 り におき 積 立 水 準 に 応 じて, 動 態 的 な 資 産 運 用 管 理 をアセットアロケーション 面 で 実 施 することの 重 要 性 について, 特 に, 運 用 の 基 本 目 的 に 鑑 みて 重 要 であることを, 本 稿 では 触 れた その 過 程 で, 簡 単 な 基 本 ポートフォリオを 策 定 の 上, 企 業 年 金 の 積 立 水 準 を 基 準 として, 順 張 りのアロケーション 意 味 するところを 示 した また,リスク 性 資 産 と 言 える 内 外 株 式 のダウンサイドリスクについては,ダイナミックヘッジを 活 用 して 制 御 するポートフォリ オと 従 来 通 り, 逆 張 りのアロケーションを 実 施 したポートフォリオとの 運 用 効 率 上 の 相 違 も 提 示 した 特 に, 同 じ 期 待 リターンであったとしても,ダウンサイドリスクがよりされ ているポートフォリオが 可 能 であるかにつき, 過 去 のシュミレーション 等 を 実 施 し 確 認 を 実 施 した 以 上 [ 参 考 文 献 ] 企 業 年 金 連 絡 協 議 会 資 産 運 用 研 究 会 編 (2011) チャレンジする 年 金 運 用 日 本 経 済 新 聞 社 高 橋 誠, 浅 岡 泰 史 (2010) ヘッジファンド 投 資 ガイドブック 東 洋 経 済 新 報 社 平 井 友 行 (2007) オルタナティブ 投 資 の 在 り 方 について 千 葉 商 大 論 叢 第 45 巻 第 3 号 平 井 友 行, 吉 田 靖 (2010) 会 計 基 準 が 我 が 国 企 業 行 動 に 与 える 影 響 について 国 府 台 経 済 研 究 ( 千 葉 商 科 大 学 経 済 研 究 所 ) 平 井 友 行 (2011) エマージング 株,オルタナティブ 投 資 等 への 投 資 対 象 拡 大 とオペレショ ナル デューデリジェンスを 含 むリスク 管 理 について 証 券 アナリストジャーナル( 日 本 証 券 アナリスト 協 会 ) 第 49 巻 第 2 号,39-47ページ 平 井 友 行 (2011) 高 橋 誠, 浅 岡 泰 史 著 ヘッジファンド 投 資 ガイドブック 書 評 フィ ナンシャル プラニング 研 究 ( 日 本 FP 学 会 ) No.10,120-123ページ 46
抄 録 2007 年 のサブプライム 問 題,2008 年 のリーマンショックは 流 動 性 ショックを 契 機 とした 金 融 危 機 を 経 て 世 界 経 済 危 機 へと 膨 らみ, 未 だその 解 決 を 見 ていない 過 去 50 年 の 間 に 急 速 に 発 展 してきたとも 言 われる 現 代 投 資 理 論 も 金 融 危 機 の 中 にあっ て,その 基 本 的 な 枠 組 みと 前 提 条 件 に 対 して 大 きな 疑 義 が 寄 せられるようになって 来 てい る 本 稿 では,これまで 信 じられてきた 現 代 投 資 理 論 とそれをベースとする 資 産 運 用 の 在 り 方 の 何 が 課 題 であり,それらを 本 来 どのような 方 向 で 認 識 すべきなのか,という 問 題 意 識 に 立 ち, 昨 今, 議 論 される 動 態 的 資 産 運 用 管 理 という 考 え 方 が 課 題 解 決 にどのような 役 割 を 果 たすのかということを 明 確 にしようとしている 従 前 の 企 業 年 金 運 用 の 基 本 的 な 考 え 方 は, 基 本 政 策 アセット ミックスを 策 定 し,その 後 に, 基 本 政 策 アセット ミックスを 維 持 すべくある 一 定 のタイミングでリバランスを 逆 張 り で 実 施 した 一 方, 基 本 政 策 アセット ミックスのリスクが, 仮 に 内 外 株 式 保 有 が30% 程 度 の 非 常 に 低 い 水 準 にあっても,リスクベースでみれば, 過 半 が 内 外 株 式 の 保 有 リスクであり,そのボラティリティは 最 近 期 に 至 るまで 上 昇 し 続 けていた 内 外 株 式 リ ターンの 正 規 性 についても 相 当 に 疑 念 がある 我 が 国 企 業 年 金 運 用 の 大 きな 課 題 は,リスク 認 識 が 平 均 分 散 アプローチ における ブレ 幅 と 認 識 していたことであり, 予 定 利 率 を 凌 駕 する 期 待 運 用 収 益 率 を,ダウンサ イドリスクを 制 御 しつつ, 安 定 的 に 確 保 する という 運 用 上 の 目 標 に 対 しては, 本 来 的 に はブレ 幅 ではなくダウンサイドリスクをコントロールすべきであった 特 に, 逆 張 り のリバランスルールは, 本 来 であれば, 最 大 の 損 失 限 度 額 を 超 えてで もリスク 性 資 産 の 組 入 れによってリスクテークを 繰 り 返 していたといえる 管 理 すべきリスクをダウンサイドリスクとし,リバランスルールを 順 張 り におき 積 立 水 準 に 応 じて, 動 態 的 な 資 産 運 用 管 理 をアセットアロケーション 面 で 実 施 することの 重 要 性 について, 特 に, 運 用 の 基 本 目 的 に 鑑 みて 重 要 であることを, 本 稿 では 触 れた その 過 程 で, 簡 単 な 基 本 ポートフォリオを 策 定 の 上, 企 業 年 金 の 積 立 水 準 を 基 準 として, 順 張 りのアロケーション 意 味 するところを 示 し, 内 外 株 式 のダウンサイドリスクについて は,ダイナミックヘッジを 活 用 して 制 御 するポートフォリオと, 従 来 通 り, 逆 張 りのアロ ケーションを 実 施 したポートフォリオとの 運 用 効 率 上 の 相 違 も 提 示 した 特 に, 同 じ 期 待 リターンであったとしても,ダウンサイドリスクがよりされているポートフォリオが 可 能 であるかにつき, 過 去 のシュミレーション 等 で 確 認 した 47