明 海 日 本 語 第 18 号 増 刊 (2013.11) 239 < 論 文 > 日 中 韓 の 大 学 生 の 断 り 談 話 に 関 する 一 考 察 キーワード: 日 韓 対 照 研 究 断 り 談 話 謝 罪 の 定 型 表 現 断 りの 理 由 提 案 キム 金 ス 順 ニム 任 < 要 旨 > 本 稿 では 日 中 韓 3 国 の 断 りの 過 程 における 言 語 表 現 に 注 目 し 日 中 韓 でどのような 類 似 点 と 相 違 点 があるかをみた 分 析 の 結 果 謝 罪 の 定 型 表 現 を 日 本 と 韓 国 の 大 学 生 は 約 1 回 使 っているのに 対 し 中 国 の 大 学 生 は 26.5%が 謝 罪 の 定 型 表 現 を 1 回 も 使 ってい なかった さらに 断 りの 理 由 としては 日 本 は 用 事 約 束 が 中 国 と 韓 国 に 比 べ 高 く 中 国 は テスト 授 業 が 韓 国 は 願 書 作 成 と 英 語 能 力 が 他 言 語 に 比 べ 高 い 結 果 となった また 断 った 後 の 代 案 の 種 類 をみると 日 本 は 次 回 が 約 86%で 中 国 は 紹 介 が 約 58%で 日 中 で 大 きな 違 いを 見 せていた This paper focused on refusal communication of Japanese, Chinese and Korean. As a result of analysis, while the college student of Japan and Korea were using the formula expression of apologizing about one time, but 26.5% of Chinese college student was not using the apologizing formula expression. Furthermore, as a reason of a refusal, Japan's "private promise" was higher than China and Korea. And in Korea, "application paper" and "English capability" are higher than other two languages. And the kind of alternative plan after refusing was Japan's "next time" was about 86%, and China was "introduction" is about 58%. It showed the big difference in Japanese and Chinese. 1.はじめに 日 中 韓 3 国 は 地 理 的 にも 歴 史 的 にも 深 い 関 係 を 持 っており 近 年 にも 絶 えず 交 流 を 行 っている しかし 互 いの 文 化 や 言 語 に 関 する 理 解 の 不 足 で 様 々な 誤 解 やコミュニケ ーション 摩 擦 が 起 こっているのも 現 状 である さらに そのような 事 態 が 発 生 する 場 を 取 り 巻 く 文 化 あるいは 関 与 している 話 者 同 士 の 人 間 関 係 によって その 不 快 な 状 況 の 認 識 の 仕 方 や 処 理 の 方 法 も 国 によって 異 なるものといえよう 本 稿 では 断 りの 過 程 における 言 語 表 現 に 注 目 し 日 中 韓 でどのような 類 似 点 と 相 違 点 があるかをみてみる 一 般 的 に 断 り 談 話 を 行 う 際 は 断 りを 表 す 表 現 だけではなく
240 人 間 関 係 を 良 好 に 保 つための 機 能 を 持 つ 付 加 的 な 表 現 も 付 け 加 えることなど 様 々な 戦 略 を 用 いることで 会 話 を 円 満 に 進 行 させているものといえる 本 稿 では 日 中 韓 3 国 における 断 り 談 話 の 特 徴 を 明 らかにすることにより 異 文 化 に 対 する 理 解 を 深 め 異 文 化 間 コミュニケーションに 役 立 てたいと 思 う 2. 先 行 研 究 日 中 韓 では 80 年 代 から 異 文 化 に 対 する 理 解 や 第 二 言 語 教 育 に 役 立 つために 日 中 韓 の 対 照 研 究 が 盛 んに 行 われてきた しかし そのほとんどは 日 中 韓 のうちの 2 言 語 間 の 対 照 研 究 で 3 国 間 の 対 照 研 究 はあまりないといっても 過 言 ではない 断 り 談 話 に 関 しても 2 言 語 間 の 対 照 研 究 は 多 くなされていたが 3 言 語 間 の 対 照 研 究 はそれほ ど 多 くはない ここでは 先 行 研 究 を 通 して 日 中 韓 の 断 り 談 話 の 特 徴 を 概 観 してみたいと 思 う まず 日 中 韓 対 照 研 究 として 李 威 (1999)は DCT テストを 通 じて 断 り 行 為 を 意 味 公 式 (Semantic Formulas)の 機 能 別 に 分 類 し 平 均 使 用 頻 度 や 順 序 分 析 などを 行 った 李 (1999)が 提 案 した 意 味 公 式 は 不 可, 理 由, 詫 び, 感 謝, 代 替 案, 関 係 維 持, 共 感, 挨 拶,ためらいの 表 出 で 断 りの 類 型 を 詫 び 先 行 型, 理 由 先 行 型, 不 可 先 行 型,ためらい 表 出 先 行 型,その 他 に 分 類 した その 結 果 と しては 日 中 韓 ともに 詫 び, 理 由, 不 可 が 多 いと 述 べている しかし 断 り 行 為 自 体 が 不 可 を 常 に 伴 う 言 語 行 為 であるのに 意 味 公 式 として 不 可 を 立 てることは 矛 盾 していると 思 う ま た 李 (1999)は 具 体 的 に 理 由 の 中 身 まではみていないので 本 稿 ではそこを 発 展 させたいと 思 う さ らに 李 (1999)は 中 国 語 は 日 本 語 に 比 べ 代 替 案 をよく 用 いると 指 摘 しているが 本 稿 の 結 果 か らも 類 似 した 結 果 が 得 られた 次 に 日 韓 対 照 研 究 として 元 智 恩 (2002)は 日 本 人 95 名 韓 国 人 106 名 を 対 象 に 指 導 教 官 か ら 引 っ 越 しの 手 伝 いを 頼 まれたところを 断 る 場 面 を 設 定 し 日 韓 の 断 り 談 話 を 意 味 公 式 の 配 列 順 序 によっていくつかのタイプに 分 類 した しかし 意 味 公 式 の 分 類 が 細 かすぎるため 全 体 の 傾 向 を 把 握 することは 難 しいと 思 われる 次 に 本 稿 では 断 りの 理 由 に 関 する 分 析 も 行 うが 日 本 語 と NZ 英 語 の 言 い 訳 の 対 照 研 究 を 試 みた 西 村 (2007)から 共 通 点 を 見 出 すことができた 西 村 (2007)は 日 本 語 は 体 調 不 良 や 忙 し い という 言 い 訳 が 多 く NZ 英 語 では 宿 題 が 多 い という 言 い 訳 が 多 いが 日 本 語 における 忙 しい は 定 着 した 常 套 句 で また 日 本 人 は NZ 人 より 再 勧 誘 をしないと 指 摘 している さらに 日 本 では 言 い 訳 が 単 に 断 りへの 記 号 として 作 用 し NZ では 実 のある 情 報 提 示 発 話 として 断 り 発 話 の 中 で 機 能 していると 指 摘 している 次 に 大 倉 (2002)は 日 本 人 とメキシコ 人 の 断 り 談 話 を 分 析 し 弁 明 + 不 可 が 断 り 表 現 の 中 心 構 造 を 成 していると 指 摘 している しかし 本 稿 ではマイナス 的 な 弁 明 という 用 語 より 断 りの 理 由 という 用 語 を 用 いることにする さらに 董 青 (2005)は 日 中 の 断 り 行 動 を 通 常 の 意 味 公 式 による 表 現 レベルでの 研 究 ではな
241 く, 断 り 行 動 ( 断 る 断 らない)に 焦 点 を 絞 って 分 析 し 日 本 人 が 中 国 人 より 断 り 行 動 が 多 いことを 実 証 した 以 上 で 先 行 研 究 を 概 観 したが 日 中 韓 3 言 語 間 の 対 照 研 究 はあまり 行 われておらず また 大 量 データに 基 づいた 断 り 談 話 の 具 体 的 な 内 容 に 関 する 先 行 研 究 はないといっても 過 言 ではない 本 研 究 は 外 国 語 の 学 習 において 最 も 基 本 といえる 謝 罪 の 定 型 表 現 の 使 用 実 態 をはじめ 日 中 韓 の 断 り 談 話 の 特 徴 を 明 らかにしたいと 思 う 3. 調 査 概 要 アンケート 調 査 は 日 中 韓 の 大 学 生 を 対 象 に 行 った 調 査 時 期 とインフォーマントの 構 成 は 表 1 の 通 りである 表 1 インフォーマントの 構 成 日 本 中 国 韓 国 調 査 時 09 年 7 月 ~10 年 5 09 年 4 月 ~5 月 09 年 5 月 ~6 月 男 期 性 135(36.9%) 月 75(28.0%) 147(42.1%) 女 性 230(62.8%) 165(61.6%) 202(57.9%) 不 明 1(0.3%) 28(10.4%) 0(0%) 合 計 366(100%) 268(100%) 349(100%) 本 研 究 で 調 査 対 象 を 大 学 生 にした 理 由 としては 大 学 生 が 他 の 社 会 層 に 比 べ 異 文 化 に 接 触 す る 機 会 が 多 いことと 大 量 データの 収 集 が 容 易 であるという 二 つの 点 があげられる その 根 拠 に 関 して 簡 単 に 説 明 しておこう 近 年 の 各 国 の 大 学 には 外 国 からの 留 学 生 が 大 勢 いるため 大 学 生 は 日 常 的 に 外 国 人 と 接 触 する 機 会 が 多 い 本 研 究 の 本 来 の 目 的 は 自 国 の 言 語 使 用 に 関 する 項 目 だけを 調 査 するのではなく 接 触 場 面 での 言 語 行 動 や 他 国 のイメージに 関 する 調 査 項 目 も 含 まれているため 異 文 化 に 接 触 する 機 会 の 多 い 大 学 生 がより 調 査 対 象 として 適 していると 判 断 した 次 に 大 量 データの 収 集 という 観 点 からは 多 様 な 社 会 層 を 対 象 とし 日 中 韓 の 言 語 使 用 のメカ ニズムを 明 らかにすることが 望 ましいが 現 実 的 には 多 様 な 社 会 層 を 対 象 とすることはかなり 厳 しいといえる 故 に 本 研 究 では 大 学 生 だけに 絞 って 調 査 を 行 った なお 本 研 究 のための 調 査 に 協 力 してくれた 日 中 韓 の 大 学 生 はそれぞれ 414 名 380 名 416 名 であるが 表 1 には 本 稿 で 分 析 する 質 問 項 目 に 自 由 記 述 式 で 回 答 した 回 答 者 のみの 情 報 を 示 した 全 体 的 に 3 国 ともに 男 性 に 比 べ 女 性 の 割 合 が 高 い 一 般 的 に 上 下 関 係 や 親 疎 差 男 女 差 は 言 語 使 用 に 大 いに 影 響 を 及 ぼすと 言 われているが 本 研 究 で 設 定 した 場 面 は 上 下 関 係 と 親 疎 関 係 が 一 定 しており さらに 男 女 差 までみることが 望 ましいが 本 研 究 は 3 国 間 の 対 照 研 究 であるため とりあえず 男 女 差 は 無 視 し 言 語 間 の 違 いに 注 目 したいと 思 う
242 調 査 は 元 々 自 分 の 目 的 を 達 成 するまでの 一 連 の 言 語 行 動 過 程 の 全 体 を 調 査 したものである 具 体 的 には 挨 拶 自 己 紹 介 依 頼 誉 め 誉 めに 対 する 返 答 勧 誘 断 り 謝 罪 不 満 表 明 釈 明 感 謝 挨 拶 という 一 連 の 行 動 の 連 鎖 である 本 稿 ではその 一 連 の 言 語 行 動 の 連 鎖 のうち 断 り 場 面 だけに 注 目 したものである アンケート 調 査 票 で 用 いた 調 査 文 は 以 下 の 通 りである もし あなたが 実 際 に 先 生 に 向 かって 断 るとしたら どのように 言 って 断 ると 思 いますか 具 体 的 に 記 入 してください 指 導 教 授 : 明 日 留 学 生 歓 迎 会 があるんだけど もし 時 間 があったら 案 内 係 りをお 願 いできるか な あなた: 4. 調 査 結 果 及 び 考 察 先 生 の 要 求 に 対 し 断 り 行 為 を 行 う 際 は 通 常 先 生 の 発 話 後 少 し 間 をおいて すみません のような 謝 罪 の 定 型 表 現 を 言 った 後 断 る 理 由 を 述 べ さらに 進 んで 代 案 を 出 すという 流 れが 観 察 される 従 って 以 下 では 謝 罪 の 定 型 表 現 断 りの 理 由 代 案 の 提 案 という 3 つの 観 点 から 分 析 を 行 うことにする 4.1 断 り 談 話 に 用 いられた 謝 罪 の 定 型 表 現 の 使 用 まずは 断 る 際 に 最 初 に 定 型 的 に 使 う 謝 罪 表 現 についてみてみよう 表 2 と 図 1 に 示 した 表 2 謝 罪 の 定 型 表 現 の 使 用 回 数 回 数 日 本 語 中 国 語 韓 国 語 0 38 10.4% 71 26.5% 63 18.1% 1 275 75.1% 171 63.8% 230 65.9% 2 50 13.7% 24 9.0% 54 15.5% 3 3 0.8% 2 0.7% 2 0.6% 合 計 366 100% 268 100% 349 100% 平 均 1.0492 0.8396 0.9857
243 図 1 謝 罪 の 定 型 表 現 の 使 用 回 数 一 人 当 たりの 謝 罪 の 定 型 表 現 の 平 均 使 用 回 数 は 日 本 語 (1.05)> 韓 国 語 (0.98)> 中 国 語 (0.83)の 順 で 大 体 1 回 の 謝 罪 の 定 型 表 現 を 用 いることが 分 かった 日 本 人 は 感 謝 の 時 も 謝 罪 の 時 もよく 謝 罪 の 定 型 表 現 を 使 うと 言 われているため 日 本 語 の 方 が 中 韓 に 比 べ 平 均 使 用 回 数 がもっと 多 いと 予 想 したが 仮 説 とは 違 う 結 果 となった さらに 図 1の 国 別 の 謝 罪 回 数 をみると 平 均 使 用 回 数 でも 述 べたように1 回 が 圧 倒 的 に 多 いが 特 徴 的 なこととしては 中 国 語 が 謝 罪 の 定 型 表 現 を 使 わない 割 合 が 26.5%で 最 も 高 いことであっ た 中 国 人 はあまり 謝 らないと 知 られているが 今 回 の 調 査 でも 中 国 の 大 学 生 は 断 る 妥 当 な 理 由 があるなら 謝 罪 の 表 現 を 使 わなくても 失 礼 にならないと 思 う 人 が 日 韓 に 比 べ 多 いようであった 以 下 に 謝 罪 の 定 型 表 現 が 使 われていない 例 文 をあげておく 日 ) 明 日 はちょっと 用 事 がつまっていて 難 しいかもしれないです 中 ) 我 家 里 有 点 事 情 (wo jia li you dian shi qing 家 に 事 情 があります) 韓 )내일은 시간이 없습니다. 다른 친구를 소개해 드리죠. ( nae ir eun si gan i eopt seup ni da da reun chin gu reur so gae hae deu ri jyo 明 日 は 時 間 がありません 他 の 友 達 を 紹 介 致 します ) 次 は 具 体 的 にどのような 定 型 表 現 が 使 われているかを 表 3 に 示 した
244 表 3 日 中 韓 の 謝 罪 の 定 型 表 現 の 使 用 率 日 本 語 中 国 語 韓 国 語 ごめんなさい 16 4.2 不 好 意 思 86 38.6 中 途 終 了 型 49 14.3 すみません 170 44.6 对 不 起 77 34.5 죄송해요 40 11.7 申 し 訳 ありません 144 37.8 抱 歉 60 26.9 죄송합니다 254 74.1 申 し 訳 ございません 51 13.4 合 計 381 100 合 計 223 100 合 計 343 100 図 2 日 中 韓 の 謝 罪 の 定 型 表 現 の 使 用 率 日 本 語 の 場 合 は すみません と 申 し 訳 ありません が 半 々 使 われていて 申 し 訳 ございま せん と ごめんなさい は 使 用 率 が 低 く 前 者 の 二 つがほとんど 定 型 的 に 使 われていた 次 に 中 国 語 は 不 好 意 思 (bu hao yi si) 对 不 起 (dui bu qi) 抱 歉 (bao qian) の 使 用 率 の 差 がそ れほど 大 きくなかった 前 者 の 二 つは 日 常 会 話 で 多 く 使 われ 後 者 は 改 まった 場 面 で 使 われるこ とが 多 いとされている 特 に 不 好 意 思 (bu hao yi si) はささいなことに 対 して 簡 単 にお 詫 びの 気 持 ちを 述 べる 際 に 使 われるものであるが 今 回 の 調 査 では 相 手 が 大 学 の 先 生 であるのにも 関 わら ず 多 く 使 われている 残 念 ながら 不 好 意 思 (bu hao yi si) と 对 不 起 (dui bu qi) の 両 者 を 社 会 言 語 学 的 な 観 点 から 分 析 した 先 行 研 究 は 管 見 の 限 りなく そこで 中 国 人 の 内 省 を 聞 いてみた 結 果 一 昔 前 は 对 不 起 (dui bu qi) が 多 く 使 われていたが 近 年 になっては 段 々 不 好 意 思 (bu hao yi si) の 使 用 が 増 えているような 印 象 があるという 今 後 両 者 の 使 用 様 相 の 変 化 に 関 するさらなる 研 究 が 必 要 であろう 最 後 に 韓 国 語 の 場 合 は 結 果 が 単 調 でほとんどの 人 が 죄송합니다(joe song hap ni da) を 用 い ていた 中 途 終 了 型 は 文 末 の 丁 寧 さを 曖 昧 に 終 わらせたもので 죄송해요(joe song hae yo) は 죄송합니다(joe song hap ni da) より 丁 寧 度 が 低 い 表 現 であるが 要 するに 韓 国 語 の 場 合 はか なり 改 まった 言 い 方 を 用 いていることが 分 かる このことから 韓 国 における 師 弟 関 係 を 伺 うこと ができる なお 定 型 表 現 に 関 するより 詳 しい 結 果 は 金 (2012)を 参 照 されたい
245 4.2 断 りの 理 由 断 りの 理 由 として 述 べた 内 容 は 様 々であるが 本 稿 では 大 きく 3 つに 分 けてみた 1 個 人 的 な 事 情 : 用 事 約 束 英 語 能 力 時 間 がない アルバイトなど 2 家 庭 の 事 情 : 家 庭 の 用 事 家 族 との 約 束 など 3 願 書 や 学 校 関 連 : 願 書 の 作 成 テスト 授 業 など 図 3 断 り 談 話 の 3 分 類 上 記 の 図 3 をみると 中 国 語 と 韓 国 語 が 類 似 しており 日 本 語 が 若 干 異 なる 傾 向 をみせている ことが 分 かる すなわり 日 本 語 は 81.4%というほとんどの 人 が 個 人 的 な 理 由 を 先 生 に 言 うのに 対 し 中 韓 は 個 人 的 な 理 由 が 60% 程 度 で 学 校 を 理 由 としてあげる 割 合 が 日 本 語 に 比 べずっと 高 い 中 国 と 韓 国 では 先 生 の 頼 みを 個 人 的 な 理 由 で 断 ることは 妥 当 な 理 由 ではなく 言 い 訳 をし ているかのように 思 われるかもしれないという 危 険 性 があると 思 われる 以 下 では 断 りの 理 由 をより 具 体 的 に 分 類 し 日 中 韓 でどんな 違 いがあるかをみてみよう
246 図 4 日 中 韓 の 断 りの 理 由 日 中 韓 ともに ただ 単 に 用 事 があります とか 約 束 があります のような 若 干 漠 然 とした 用 事 約 束 が 最 も 多 く 使 われている その 中 でも 日 本 語 は 他 の 言 語 に 比 べかなり 高 い 割 合 を 占 めている また 次 の 日 本 語 の 特 徴 としては アルバイト が 他 言 語 に 比 べ 高 いことである これは 日 本 が 韓 国 や 中 国 に 比 べ 大 学 生 のアルバイト 率 が 高 いことも 原 因 になるかと 思 う 日 本 学 生 支 援 機 構 が 行 った 平 成 22 年 度 の 調 査 結 果 をみると 37,151 名 のうち 73.1%がアルバイトを しているという 中 国 の 場 合 は 中 国 社 会 科 学 院 によると 大 学 1 年 生 は 13.5% 2 3 年 生 は 段 々 高 くなって 4 年 生 は 41. 2%に 達 すると 報 告 している さらに 韓 国 の 場 合 はアルバイト 専 門 サイ ト(www.alba.co.kr)で 行 った 調 査 結 果 をみると 53%がアルバイトをしているとされている この ように 日 本 の 大 学 生 のアルバイト 率 は 中 韓 に 比 べ 高 いことが 分 かる 次 に 中 国 語 の 特 徴 としては 2 番 目 に 高 いのが テスト 授 業 で 日 本 と 韓 国 に 比 べ 高 いこ とであろう 個 人 的 な 理 由 ではなく 学 校 を 名 分 として 立 てることで より 妥 当 性 を 持 たせてい ると 思 われる 最 後 に 韓 国 語 の 特 徴 は 他 の 二 国 に 比 べ 英 語 能 力 が 高 いことだといえよう 韓 国 では 英 語 が 重 視 され 英 語 コンプレックスを 持 っている 人 が 多 く 留 学 生 歓 迎 会 では 当 然 英 語 能 力 が 要 求 され るため 英 語 能 力 の 不 十 分 で 断 るというと 先 生 も 仕 方 がないと 思 うかもしれないので これを 理 由 としてあげていると 思 われる また 用 事 や 約 束 などは 変 更 の 可 能 性 もあって 先 生 により 変 更 させられるかもしれないという 危 険 性 があるが 英 語 能 力 はすぐには 身 に 付 くものではない
247 ため 自 分 の 理 由 を 通 せる 確 率 が 高 くなるわけである 以 上 をまとめると 日 本 人 は 実 生 活 でも 人 のことについてあまり 聞 かない 傾 向 があると 思 うが 断 る 際 にも 漠 然 とした 理 由 を 言 って 断 っているのに 対 し 韓 国 人 や 中 国 人 はより 妥 当 的 でより 具 体 的 な 理 由 を 言 っていることが 分 かった このように どのような 理 由 をあげるかという 問 題 は その 国 々の 社 会 文 化 的 状 況 と 密 接 に 関 わっているといえる 4.3 代 案 の 提 示 次 は 自 分 が 要 求 を 断 る 代 わりに 他 の 代 案 を 先 生 に 提 案 するかどうかいう 観 点 からの 分 析 であ る 図 5 に 示 した 図 5 代 案 の 提 示 の 有 無 日 本 と 中 国 は 代 案 を 提 示 する 人 としない 人 が 大 体 半 々であるが 韓 国 の 場 合 は 代 案 を 提 示 する 人 が 代 案 を 提 示 しない 人 の 2 倍 にもなる 韓 国 では 師 弟 関 係 が 厳 しいと 言 われ 先 生 の 頼 みを 断 るという 行 為 に 負 担 を 感 じ できるだけ 先 生 に 被 害 を 与 えないように 気 を 使 っているものと 判 断 される 次 は どのような 代 案 を 提 示 しているかについてみてみよう 提 案 は 大 きく 2 つに 分 けること ができた 1 つ 目 は 今 回 はだめだけど 次 回 は 協 力 するというので 2 つ 目 は 自 分 はだめであっ ても 代 わりに 友 人 を 紹 介 するというのだった 便 宜 上 前 者 を 次 回 といい 後 者 を 紹 介 といおう 以 下 の 図 6 には 代 案 を 提 示 した 人 を 100%にして 計 算 しなおしたものである
248 図 6 代 案 の 種 類 図 6 から 面 白 い 結 果 が 得 られた まず 日 本 語 をみると ほとんどの 人 が 次 回 を 約 束 して 紹 介 は 14%に 過 ぎない これは 人 に 迷 惑 をかけたがらない 日 本 人 の 本 性 がそのまま 表 われた ものだと 思 われる 紹 介 という 行 為 は 自 分 だけではなく もう 一 人 の 第 三 者 を 巻 き 込 ませるこ とで 先 生 と 自 分 との 問 題 が 先 生 と 自 分 さらに 友 人 という 3 者 の 問 題 になるわけである 故 に 日 本 人 はそのような 事 態 を 作 りたがらないのであろう これに 対 し 中 国 語 は 紹 介 が 58%で 次 回 より 16% 程 度 高 く 日 本 語 と 大 きな 違 いを 見 せた また 中 国 の 大 学 生 は 友 達 を 紹 介 する 際 に 友 達 に 聞 いてみます のような 友 達 の 意 向 を 聞 くことはほとんどなく 以 下 に 挙 げた 例 のように 勝 手 に 友 達 が 手 伝 えると 決 めつけている 場 合 も 多 かった 例 ) 不 好 意 思, 我 明 天 已 经 有 安 排 了. 我 的 朋 友 来 帮 忙 可 以 吗? (bu hao yi si. Wo ming tian yi jing you an pai le. wo de peng you lai bang zhu ke yi ma? すみません 明 日 すでに 約 束 があります 私 の 友 達 が 来 て 手 伝 います いいですか ) 最 後 に 韓 国 の 場 合 は 次 回 と 紹 介 が 61.6%と 38.4%で 日 本 語 ほどではないが 次 回 が 紹 介 の 2 倍 ほど 高 い 韓 国 の 大 学 生 も 他 人 に 負 担 をかけるよりは 自 分 で 解 決 しようとして いることが 分 かる また 前 述 した 英 語 能 力 と 関 連 し 韓 国 語 の 場 合 は 英 語 ができる 友 達 を 紹 介 したいという 人 が 12 例 もあった ちなみに 日 本 語 と 中 国 語 の 場 合 はこのような 例 は 1 例 もなかっ た ここに 韓 国 語 の 例 を 1 つ 挙 げておく 例 )교수님 죄송한데요, 제가 그런 자리에 참석해본 적도 없고 영어실력이 부족해서요. 오히려 교수님께 민폐만 끼쳐드릴 것 같아서요. 제가 영어 잘하는 저희과 사람들에게 대신 부탁드리면 안될까요?( gyo su nim joe song han de yo je ga geu reon ja ri e cham seok hae bon jeok do eopt go yeong eo sil lyeog i bu jok hae seo yo o hi ryeo gyo su nim kke min pye man kki chyeo deu rir
249 geos gat a seo yo je ga yeong eo jal ha neun jeo hui gwa sa ram deur e ge dae sin bu tak deu ri myeon an doel kka yo? 先 生 申 し 訳 ありませんが 私 がそういうところに 参 加 したこともないし 英 語 実 力 も 足 りな いです かえって 先 生 に 迷 惑 になるかと 思 います 私 が 英 語 のできる 学 科 の 人 々に 代 わりに 頼 ん でみることはできないでしょうか) 以 上 をまとめると 全 体 的 に 韓 国 は 日 本 と 中 国 の 中 間 位 に 位 置 づけることができる 5. おわりに 以 上 で 日 中 韓 の 大 学 生 の 断 り 談 話 の 特 徴 について 考 察 を 行 った 分 析 の 結 果 以 下 のような ことが 明 らかになった 1 日 本 と 韓 国 の 大 学 生 は 断 りを 言 う 前 に まず 謝 罪 の 定 型 表 現 を 約 1 回 使 っている 2しかし 中 国 の 大 学 生 は 26.5%が 謝 罪 の 定 型 表 現 を 1 回 も 使 っていない 3 謝 罪 の 定 型 表 現 は 日 本 語 は すみません と 申 し 訳 ありません 中 国 語 は 不 好 意 思 (bu hao yi si) と 对 不 起 (dui bu qi) という 二 つの 表 現 が 多 用 されているが 韓 国 語 は 죄송합니다(joe song hap ni da) が 圧 倒 的 に 多 く 使 われている 4 断 りの 理 由 は 学 校 個 人 家 庭 の 三 つに 分 類 したが 日 本 語 は 個 人 が 8 割 だっ たのに 対 し 韓 国 語 と 中 国 語 は 個 人 が 6 割 で その 代 わり 学 校 の 割 合 が 3 割 程 度 で 日 本 語 より 高 かった 5 断 りの 理 由 を 細 かくみると 日 本 語 は 用 事 約 束 が 中 国 語 と 韓 国 語 に 比 べ 高 く 中 国 語 は テスト 授 業 が 他 言 語 に 比 べ 高 く 韓 国 語 は 願 書 作 成 と 英 語 能 力 が 他 言 語 に 比 べ 高 い 方 だった 6 断 りの 後 の 代 案 の 提 示 の 有 無 についてみたところ 日 中 は 半 分 程 度 が 代 案 を 提 示 し 韓 国 は 7 割 程 度 が 代 案 を 提 示 していた 7さらに 代 案 の 種 類 をみると 日 本 語 は 次 回 が 約 86%で 中 国 語 は 紹 介 が 約 58%で 日 中 で 大 きな 違 いを 見 せていた 韓 国 語 は 次 回 が 62% 紹 介 が 38%で 日 本 語 と 中 国 語 の 中 間 程 度 であった 以 上 のように 今 回 は 日 中 韓 の 断 り 談 話 の 特 徴 について 考 察 を 行 ったが 言 語 使 用 の 男 女 差 に ついては 触 れることができなかった 今 後 の 課 題 としたい
250 謝 辞 本 研 究 で 分 析 したデータは 2008 年 韓 国 学 術 振 興 財 団 の 支 援 を 得 て 行 われた 研 究 ( 研 究 題 目 : 韓 中 日 3 国 の 異 文 化 コミュニケーションの 普 遍 性 と 特 殊 性 研 究 )の 一 部 を 用 いたものである 参 考 文 献 董 青 (2005) 中 国 人 日 本 語 話 者 の 断 り 行 動 に 関 する 考 察 - 接 触 場 面 と 中 国 社 会 における 行 動 の 変 化 につ いて 日 本 語 教 育 と 異 文 化 理 解 第 4 号 愛 知 教 育 大 学 国 際 教 育 学 会 pp.55~63 金 順 任 (2012) 日 中 韓 の 謝 罪 の 定 型 表 現 に 関 する 一 考 察 - 大 学 生 のアンケート 調 査 を 中 心 に 日 本 語 文 学 53 韓 国 日 本 語 文 学 会 pp.23-40 李 威 (1999) 日 中 韓 母 語 話 者 の 断 り 行 為 の 対 照 研 究 日 本 語 教 育 学 会 秋 季 大 会 予 稿 集 日 本 語 教 育 学 会 pp.181~186 西 村 史 子 (2007) 断 りに 用 いられる 言 い 訳 の 日 英 対 照 分 析 世 界 の 日 本 語 教 育 17 国 際 交 流 基 金 日 本 語 センター pp.93-112 大 倉 美 和 子 (2002) 語 用 論 と 日 本 語 教 育 -メキシコ 人 と 日 本 人 の 誘 いを 断 る 発 話 対 照 研 究 と 日 本 語 教 育 ( 日 本 語 と 外 国 語 との 対 照 研 究 :10) 国 立 国 語 研 究 所 編 国 立 国 語 研 究 所 pp.109-127 元 智 恩 (2002) 日 本 語 と 韓 国 語 の 断 り 表 現 の 構 造 指 導 教 官 の 依 頼 を 断 る 場 面 を 中 心 に 言 語 学 論 叢 21 筑 波 大 学 一 般 応 用 言 語 学 研 究 室 pp.21-37