255 個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 に 関 する 実 証 研 究 久 多 里 桐 子 目 次 1 はじめに 2 先 行 研 究 3 リサーチ デザインの 設 定 とサンプル 4 実 証 結 果 5 おわりに 1 はじめに 本 論 文 は 個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 同 時 的 な 関 係 について 検 証 することを 目 的 とす る 具 体 的 には 個 別 企 業 における 前 期 末 から 当 期 末 にかけての 個 人 持 株 比 率 の 変 化 が 同 期 間 12ヶ 月 間 の 株 式 リターンとどのような 関 係 を 有 するのかを ポートフォリオ 分 析 と 回 帰 分 析 から 明 らかにする 現 在 個 人 株 主 の 増 加 を 狙 った 企 業 行 動 が 数 多 く 見 受 けられる 例 えば 株 主 優 待 や 株 式 分 割 売 買 単 位 の 引 き 下 げ 個 人 向 け IRや 工 場 見 学 などが 挙 げられる そのような 企 業 行 動 の 中 でも 相 対 的 に 投 資 額 が 少 ない 個 人 株 主 にとって 特 に 魅 力 的 なものは 株 主 優 待 であろう 大 和 インベスター リレーションズ 株 式 会 社 が 全 上 場 企 業 3,600 社 を 対 象 として 2014 年 9 月 末 に 実 施 した 調 査 によると 2014 年 の 株 主 優 待 実 施 企 業 数 は 1,150 社 実 施 企 業 割 合 は 31.9% にのぼる 調 査 を 開 始 した 1993 年 には 株 主 優 待 実 施 企 業 数 が 283 社 ( 実 施 企 業 割 合 は 10.93%) であったことを 考 慮 すると およそ 20 年 で 株 主 優 待 採 用 企 業 は 約 4 倍 に 拡 大 している 2014 年 の 調 査 時 点 で 実 施 企 業 数 と 実 施 企 業 割 合 ともに 過 去 最 高 であり 全 上 場 企 業 の 約 3 分 の 1の 企 業 が 株 主 優 待 を 実 施 している 個 人 株 主 の 獲 得 に 積 極 的 な 企 業 の 多 さがうかがえる 個 人 株 主 の 獲 得 に 積 極 的 な 企 業 の 主 な 狙 いは 長 期 的 に 株 式 を 保 有 してくれる 安 定 株 主 の 獲 得 であると 言 われている 個 人 株 主 の 獲 得 を 目 指 した 新 たな 取 り 組 みとして 注 目 を 浴 びた 事 例 に トヨタ 自 動 車 株 式 会 社 ( 以 下 トヨタ)の 新 型 株 式 発 行 が 挙 げられる 2015 年 6 月 に 開 催 されたトヨタの 定 時 株 主 総 会 において 5 年 間 の 譲 渡 制 限 付 き 新 型 株 式 ( 正 式 名 称 は AA 型 キーワード: 個 人 株 主 株 式 リターン 規 律 付 け コーポレート ガバナンス
256 経 営 研 究 第 66 巻 第 4 号 種 類 株 式 )を 発 行 する 旨 の 会 社 提 案 が 可 決 された 1) 新 型 株 式 の 発 行 には 長 期 保 有 の 個 人 株 主 を 増 加 させて 企 業 の 長 期 的 な 開 発 事 業 を 支 援 してもらう 狙 いがあると 企 業 側 が 説 明 する 一 方 で 安 易 な 安 定 株 主 の 増 加 につながり 経 営 の 規 律 が 緩 む という 反 対 の 声 も 一 部 の 海 外 投 資 家 から 出 ていた(2015 年 6 月 16 日 付 け 日 本 経 済 新 聞 夕 刊 ) 個 人 株 主 に 関 する 学 術 研 究 には 個 人 株 主 の 増 加 が 企 業 経 営 に 対 する 規 律 付 けの 低 下 を 招 き ( 久 多 里,2015) 将 来 の 企 業 業 績 を 悪 化 させる( 石 川 久 多 里,2014)ことを 示 す 研 究 がある このような 先 行 研 究 の 示 唆 を 踏 まえ 個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 を 明 らかにするこ とが 本 論 文 の 目 的 である 一 般 に 個 人 株 主 は 逆 張 りの 投 資 家 であると 言 われており その 投 資 行 動 についてマクロな 視 点 から 分 析 した 先 行 研 究 も 存 在 する( 浅 子 江 口,1992; 大 村 他,1998; 米 澤 末 本,2006) しかしながら 本 論 文 は 個 人 株 主 の 投 資 行 動 に 着 目 するものではなく 個 人 株 主 の 増 加 が 企 業 の 経 営 規 律 を 低 下 させ その 結 果 として 将 来 の 企 業 業 績 を 悪 化 させるという 先 行 研 究 と 同 様 の ロジックを 前 提 とした 上 で 個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 について 分 析 する 分 析 に 際 して 個 人 株 主 の 特 徴 を 明 瞭 にするために 対 照 的 な 性 格 を 有 すると 考 えられる 外 国 人 株 主 についても 同 様 の 分 析 を 行 なう 本 論 文 の 構 成 は 以 下 のとおりである 第 2 節 では 企 業 業 績 あるいは 企 業 価 値 との 関 係 につ いて 外 国 人 持 株 比 率 ないし 個 人 持 株 比 率 の 観 点 から 分 析 した 先 行 研 究 をレビューする 第 3 節 では リサーチ デザインとサンプルを 提 示 し 基 本 統 計 量 を 要 約 する 第 4 節 では ポー トフォリオ 分 析 と 回 帰 分 析 を 行 ない 分 析 結 果 を 解 釈 する 本 論 文 の 分 析 から 当 期 に 個 人 持 株 比 率 が 上 昇 した 企 業 の 同 期 間 における 株 式 リターンは 統 計 的 に 有 意 に 低 下 していることが 明 らかとなる 本 論 文 で 得 られた 証 拠 は 個 人 株 主 の 増 加 によって 経 営 の 規 律 付 けが 低 下 し そ の 結 果 として 将 来 の 企 業 業 績 が 悪 化 するという 先 行 研 究 の 証 拠 を 踏 まえるならば そのような 企 業 業 績 の 悪 化 を 市 場 が 合 理 的 に 予 想 していることを 示 唆 している 個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リ ターンの 関 係 について 経 営 規 律 の 観 点 から 検 討 した 点 に 本 論 文 の 学 術 的 貢 献 がある 2 先 行 研 究 株 式 所 有 構 造 と 企 業 価 値 の 関 係 に 関 する 研 究 は BerleandMeans(1932)が 主 張 した 所 有 と 経 営 の 分 離 を 出 発 点 とし JensenandMeckling(1976)のエージェンシー 理 論 に 基 礎 を 置 く 経 営 者 と 株 主 の 間 に 存 在 する 利 害 対 立 関 係 が 効 率 的 な 企 業 経 営 を 阻 害 しないように 株 式 所 有 構 造 がコーポレート ガバナンスのメカニズムとして 機 能 することが 期 待 されてきた 米 国 の 先 行 研 究 では 企 業 内 部 者 による 株 式 保 有 に 注 目 し 経 営 者 や 取 締 役 会 の 持 株 比 率 と 企 業 価 値 の 関 係 を 検 証 しているものが 多 い(たとえば Morcketal.,1988;McConnelandServaes, 1990) 一 方 で わが 国 では 日 本 的 経 営 の 強 みを 解 明 するために 株 式 の 相 互 持 ち 合 いやメインバ
個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 に 関 する 実 証 研 究 ( 久 多 里 ) 257 ンクに 注 目 した 研 究 が 行 なわれてきた( 宮 島,2011) しかしながら バブルの 崩 壊 を 受 けて 金 融 機 関 が 企 業 の 株 式 を 手 放 したことから わが 国 のコーポレート ガバナンスを 見 直 す 必 要 が 生 じた それと 同 時 に 金 融 機 関 と 入 れ 替 わるようにわが 国 市 場 で 台 頭 してきた 株 式 保 有 主 体 がいる 外 国 人 株 主 である 外 国 人 株 主 と 企 業 業 績 ないし 企 業 価 値 との 間 にプラスの 関 係 があるという 証 拠 を 提 示 してい る 先 行 研 究 は 多 い(LichtenbergandPushner,1994; 佐 々 木 米 澤,2000; 西 崎 倉 澤,2003; 岩 壺 外 木,2007; 光 定 蜂 谷,2009) これらの 研 究 は 全 要 素 生 産 性 や 総 資 産 利 益 率 を 代 理 変 数 とした 企 業 業 績 トービンの Qを 代 理 変 数 とした 企 業 価 値 あるいは 株 式 超 過 リターン に 対 して 外 国 人 持 株 比 率 がプラスの 関 係 を 持 っているという 証 拠 を 提 示 している このよう な 証 拠 に 対 して 先 行 研 究 の 多 くは 外 国 人 株 主 による 経 営 規 律 の 向 上 で 解 釈 している その 外 国 人 株 主 と 対 照 的 な 性 格 を 持 つと 考 えられる 株 式 保 有 主 体 が 個 人 株 主 である しば しば 個 人 株 主 は 分 析 能 力 の 低 い 小 口 な 株 主 として 位 置 付 けられる 個 人 株 主 を 分 析 対 象 とし た 数 少 ない 先 行 研 究 である LichtenbergandPushner(1994)と 石 川 久 多 里 (2014)は い ずれも 個 人 持 株 比 率 と 企 業 業 績 あるいは 企 業 価 値 の 間 にマイナスの 関 係 があるという 結 果 を 提 示 している たとえば LichtenbergandPushner(1994)は 統 計 的 に 有 意 ではないが 個 人 持 株 比 率 と 企 業 業 績 および 企 業 価 値 との 関 係 がマイナスであることを 確 認 している そし て 企 業 において 個 人 株 主 の 果 たす 役 割 は 非 常 に 消 極 的 なものであると 指 摘 している また 石 川 久 多 里 (2014)は 操 作 変 数 法 を 採 用 した 上 で 個 人 持 株 比 率 の 変 化 と 将 来 の 企 業 業 績 の 関 係 を 明 らかにしている 分 析 の 結 果 以 下 の 2 点 が 明 らかである 第 1に 株 主 優 待 株 式 分 割 売 買 単 位 の 引 き 下 げなどの 個 人 株 主 開 拓 策 は 他 の 要 件 を 所 与 としてもなお 個 人 株 主 の 人 数 や 持 株 比 率 を 上 昇 させる 第 2に 他 の 要 件 を 所 与 として 個 人 株 主 が 増 加 し た 企 業 では 次 期 の 収 益 性 成 長 性 配 当 率 がいずれも 統 計 的 有 意 に 低 下 する 一 方 で 外 国 人 株 主 に 関 しては 正 反 対 の 結 果 を 得 ている これらの 分 析 結 果 に 対 して 石 川 久 多 里 (2014) は 個 人 株 主 が 増 加 したことで 企 業 の 経 営 に 対 する 規 律 付 けが 低 下 し 結 果 的 に 企 業 業 績 が 悪 化 したと 解 釈 している 個 人 株 主 の 経 営 者 に 対 する 規 律 付 けについては 久 多 里 (2015)が 定 時 株 主 総 会 の 取 締 役 選 任 議 案 に 対 する 議 決 権 行 使 結 果 をもとに 分 析 を 行 なっている 分 析 の 結 果 前 期 から 当 期 にか けて 個 人 持 株 比 率 が 上 昇 した 企 業 では 同 期 間 における 議 決 権 を 行 使 しなかった 割 合 ( 議 決 権 不 行 使 率 )は 上 昇 していることが 明 らかにされている 上 記 の 先 行 研 究 では 個 人 株 主 の 増 加 が 企 業 経 営 に 対 する 規 律 付 けを 低 下 させ その 結 果 と して 将 来 の 企 業 業 績 が 低 下 するというストーリーが 想 定 されている そのような 将 来 業 績 の 悪 化 を 株 式 市 場 が 認 識 しているならば 個 人 持 株 比 率 の 変 化 と 株 式 リターンの 間 にはマイナスの 関 係 が 確 認 されると 考 えられる 本 論 文 では 個 人 持 株 比 率 と 株 式 リターンの 間 にも 上 述 の 先 行 研 究 と 整 合 的 な 結 果 が 得 られるかどうかを 検 証 する
258 経 営 研 究 第 66 巻 第 4 号 3 リサーチ デザインの 設 定 とサンプル 3.1 リサーチ デザインの 設 定 本 論 文 では EastonandHarris(1991)のモデルをベースとした(1) 式 を 推 定 することに よって 個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 同 時 点 の 関 係 を 分 析 する 2) BHAR t 0 1 X t 2 X t 3 IND t 4 FORE t 5 IND t 1 6 FORE t 1 Year Dummy t Industry Dummy t t 1 従 属 変 数 の BHAR t は 個 別 企 業 の 前 期 末 から 当 期 末 までの 12ヶ 月 間 の 株 式 超 過 リターン を 表 す 3) X t は 当 期 純 利 益 を 表 し X t は 当 期 純 利 益 の 変 化 額 を 表 す 4) IND t は 当 期 の 個 人 持 株 比 率 の 変 化 であり 前 期 末 の 個 人 持 株 比 率 の 水 準 に 影 響 を 受 けるため IND t 1 でコン トロールする 5) また 外 国 人 持 株 比 率 の 変 化 FORE t と 前 期 末 における 水 準 FORE t 1 を 独 立 変 数 に 加 えることで 外 国 人 持 株 比 率 の 変 化 と 株 式 超 過 リターンの 関 係 も 考 慮 する Year Dummy t と Industry Dummy t は それぞれ 年 度 ダミーと 産 業 ダミーである 係 数 の 期 待 符 号 は 以 下 のとおりである まず EastonandHarris(1991)のモデルから 1 と 2 はいずれもプラスに 推 定 されることが 予 想 される 6) 注 目 すべきは 3 である 相 対 的 に 小 口 な 個 人 株 主 は 機 関 投 資 家 や 外 国 人 株 主 などの 他 の 株 式 保 有 主 体 に 比 して 企 業 経 営 に 対 して 積 極 的 な 規 律 付 けを 与 えない その 結 果 個 人 株 主 が 増 加 した 企 業 では 将 来 の 企 業 業 績 が 低 下 する( 石 川 久 多 里,2014) その 将 来 の 企 業 業 績 の 悪 化 を 市 場 が 合 理 的 に 予 測 し ているならば それを 織 り 込 む 形 で 当 該 企 業 の 株 価 は 低 下 するであろう すなわち 個 人 持 株 比 率 が 上 昇 した 企 業 の 株 式 リターンは 低 下 することが 予 想 される 3 0 7) 対 照 的 に 外 国 人 持 株 比 率 の 4 はプラスに 推 定 されることが 予 想 される (1) 式 のロバストチェックとして 株 式 リターン R t を 従 属 変 数 とした 回 帰 モデルも 推 定 する R t は 当 期 末 の 時 価 総 額 に 期 中 の 配 当 支 払 い 額 を 加 えた 上 で 前 期 末 の 時 価 総 額 で 除 した 株 式 リターンである 8) 株 式 リターンに 異 なる 尺 度 を 用 いても 上 述 した 仮 説 と 整 合 的 な 結 果 が 得 られるかどうかを 検 証 する 3.2 サンプルの 選 択 分 析 対 象 サンプルは 1999 年 ~2014 年 の 3 月 期 決 算 の 上 場 企 業 ( 保 険 金 融 業 を 除 く) 延 べ 31,263 企 業 年 である 9) サンプルの 抽 出 要 件 は 以 下 の 通 りである (1) 分 析 に 必 要 な 財 務 と 株 価 のデータが 日 経 NEEDS-FinancialQUEST ( 日 経 メディアマー ケティング 株 式 会 社 )より 入 手 可 能 である (2)3 月 期 決 算 企 業 である (3) 前 期 と 当 期 の 決 算 月 数 が 12ヶ 月 である
個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 に 関 する 実 証 研 究 ( 久 多 里 ) 259 (4) 各 株 式 保 有 主 体 にかかる 持 株 比 率 の 合 計 が 99% 以 上 100% 以 下 である 10) (5) 当 期 において 各 月 の BHARが 12ヶ 月 間 連 続 で 入 手 可 能 である (6) 当 期 の 自 己 資 本 がプラスである (7) 分 析 に 必 要 なデータに 欠 損 がない 以 上 の 要 件 を 満 たすサンプルは 32,816 企 業 年 であるが 各 年 の BHAR t X t X t に 対 して 上 下 1%の 外 れ 値 処 理 (データの 除 外 )を 施 した 結 果 (1) 式 の 推 定 に 使 用 する 最 終 サンプル は 31,263 企 業 年 となった なお ポートフォリオ 分 析 においては 株 式 リターンの 中 央 値 を 使 用 するため 外 れ 値 処 理 を 施 さない 32,816 企 業 年 がサンプルとなる R t を 従 属 変 数 とした 追 加 分 析 では 1984 年 ~2014 年 までの 3 月 期 決 算 企 業 ( 保 険 金 融 業 を 除 く) 延 べ 49,077 企 業 年 が 分 析 対 象 となる 11) 3.3 記 述 統 計 量 表 1は (1) 式 の 推 定 に 必 要 な 各 変 数 の 基 本 統 計 量 を 示 している IND t の 平 均 値 は 0.03% FORE t の 平 均 値 は 0.38%である この 結 果 は 外 国 人 持 株 比 率 が 時 系 列 的 に 上 昇 傾 向 で ある 事 実 と 整 合 的 である また IND t 1 と FORE t 1 の 平 均 値 から 過 去 15 年 平 均 で 個 人 持 株 比 率 の 水 準 が 39.56%であるのに 対 し 外 国 人 持 株 比 率 の 水 準 が 8.08%であることがわか る 表 2の 相 関 係 数 から 持 株 比 率 と BHAR t の 相 関 は IND t がマイナス FORE t がプラス であり 仮 説 と 整 合 的 であることが 確 認 できる X t や X t との 関 係 は IND t がマイナスの 相 関 を 示 しており 一 方 で FORE t はプラスの 相 関 を 示 している これらの 結 果 も 仮 説 と 整 合 的 である 表 1 基 本 統 計 量 注 1)サンプルは 1999 年 ~2014 年 の 所 定 の 条 件 を 満 たす 延 べ 31,263 企 業 年 である 注 2) 変 数 はそれぞれ BHAR t = 株 式 超 過 リターン X t = 当 期 末 の 利 益 水 準 X t = 当 期 の 利 益 変 化 IND t = 当 期 の 個 人 持 株 比 率 の 変 化 FORE t = 当 期 の 外 国 人 持 株 比 率 の 変 化 IND t 1 = 前 期 末 の 個 人 持 株 比 率 FORE t 1 = 前 期 末 の 外 国 人 持 株 比 率 を 表 す なお X t と X t は いずれも 前 期 の 時 価 総 額 MVE t 1 で 除 している 出 所 ) 筆 者 作 成
260 経 営 研 究 第 66 巻 第 4 号 表 2 相 関 係 数 注 1) 表 2では 年 度 ダミーと 産 業 ダミーに 関 する 変 数 の 相 関 係 数 が 省 略 されている 注 2) 表 2の 左 斜 め 下 はピアソンの 相 関 係 数 を 表 し 右 斜 め 上 はスピアマンの 相 関 係 数 を 表 してい る 出 所 ) 筆 者 作 成 4 実 証 結 果 4.1 ポートフォリオ 分 析 回 帰 式 を 推 定 する 前 段 階 の 分 析 として ポートフォリオ 分 析 を 行 なう 具 体 的 には 年 ごと の 個 人 持 株 比 率 の 変 化 (ΔIND)の 大 きさにしたがって 第 1 五 分 位 (ΔIND-Q1)から 第 5 五 分 位 (ΔIND-Q5)まで 5つのポートフォリオを 作 成 する 作 成 したポートフォリオごとの 株 式 超 過 リターンの 中 央 値 が 前 期 末 から 当 期 末 の 12ヶ 月 間 でどのように 推 移 するのかを 確 認 することで 個 人 持 株 比 率 の 変 化 と 株 式 リターンの 関 係 を 把 握 する また 個 人 持 株 比 率 が 低 下 しているポートフォリオ(ΔIND-Q1)と 上 昇 しているポートフォリオ(ΔIND-Q5)に 対 して 中 央 値 の 差 検 定 を 行 なう 外 国 人 持 株 比 率 に 対 しても 同 様 の 分 析 を 行 なうことで 個 人 株 主 と 外 国 人 株 主 の 結 果 を 比 較 する 図 1は 個 人 持 株 比 率 に 関 する 結 果 である 図 1より 個 人 持 株 比 率 の 低 下 ポートフォリオ (ΔIND-Q1)から 上 昇 ポートフォリオ(ΔIND-Q5)へと 株 式 超 過 リターンが 次 第 に 低 下 していることがわかる ΔIND-Q1の 株 式 超 過 リターンは 緩 やかに 上 昇 しており 当 期 末 時 点 ではおよそ 0.25%に 達 している 一 方 で ΔIND-Q5の 株 式 超 過 リターンは 低 下 傾 向 にあり 当 期 末 時 点 では 0.15%に 至 っている このように 個 人 持 株 比 率 が 上 昇 した 企 業 の 同 期 間 に おける 株 価 は 低 下 する 傾 向 がある また 個 人 持 株 比 率 の 上 昇 程 度 が 大 きくなるにつれて 株 価 下 落 の 程 度 も 大 きくなっている 一 方 で 図 2から 外 国 人 持 株 比 率 については 個 人 持 株 比 率 と 対 照 的 な 傾 向 が 確 認 できる 個 人 持 株 比 率 の 結 果 と 比 較 して 株 価 の 変 動 幅 は 小 さいが 外 国 人 持 株 比 率 の 低 下 ポートフォ リオ(ΔFORE-Q1)から 上 昇 ポートフォリオ(ΔFORE-Q5)へと 株 式 超 過 リターンは 上 昇 していることがわかる 12) 図 1と 図 2で 確 認 したポートフォリオ 間 における 株 式 超 過 リターンの 差 異 について 統 計 的
個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 に 関 する 実 証 研 究 ( 久 多 里 ) 261 図 1 個 人 持 株 比 率 の 変 化 を 基 準 としたポートフォリオ 注 1) 図 1は まず 年 ごとの 個 人 持 株 比 率 の 変 化 (ΔIND)を 第 1 五 分 位 (ΔIND-Q1)から 第 5 五 分 位 (ΔIND-Q5)までに 5 分 位 し さらに 分 位 区 間 ごとのサンプルを 結 合 して 作 成 した 各 ポートフォリオの BHAR( 中 央 値 )の 時 系 列 推 移 である 注 2) 各 ポートフォリオに 含 まれる 企 業 年 はそれぞれ ΔIND-Q1が 6,567 個 ΔIND-Q2が 6,561 個 ΔIND-Q3が 6,560 個 ΔIND-Q4が 6,559 個 ΔIND-Q5が 6,569 個 である 出 所 ) 筆 者 作 成 図 2 外 国 人 持 株 比 率 の 変 化 を 基 準 としたポートフォリオ 注 1) 図 2は まず 年 ごとの 外 国 人 持 株 比 率 の 変 化 (ΔFORE)を 第 1 五 分 位 (ΔFORE-Q1) から 第 5 五 分 位 (ΔFORE-Q5)までに 5 分 位 し さらにその 分 位 区 間 ごとのサンプルを 結 合 して 作 成 した 各 ポートフォリオの BHAR( 中 央 値 )の 時 系 列 推 移 である 注 2) 各 ポートフォリオに 含 まれる 企 業 年 はそれぞれ ΔFORE-Q1が 6,554 個 ΔFORE- Q2が 6,574 個 ΔFORE-Q3が 6,390 個 ΔFORE-Q4が 6,729 個 ΔFORE-Q5が 6,569 個 である 出 所 ) 筆 者 作 成 な 有 意 性 は 確 認 できるだろうか 表 3は 持 株 比 率 の 低 下 ポートフォリオ(ΔIND-Q1もしく はΔFORE-Q1)と 上 昇 ポートフォリオ(ΔIND-Q5もしくはΔFORE-Q5)における BHAR の 中 央 値 の 差 検 定 を 実 施 した 結 果 である 表 3から 前 期 末 後 のいずれの 月 においても 個 人 持 株 比 率 の 低 下 と 上 昇 のポートフォリオ 間 で 株 式 超 過 リターンの 中 央 値 に 統 計 的 に 有 意 な 差 異 が 確 認 できる したがって 当 期 に 個 人 持 株 比 率 ( 外 国 人 持 株 比 率 )が 上 昇 した 企 業 の 株 式
262 経 営 研 究 第 66 巻 第 4 号 表 3 ポートフォリオ 間 の 株 式 超 過 リターンに 対 する 中 央 値 の 差 検 定 注 1) 表 3は 低 下 ポートフォリオ(ΔIND-Q1もしくはΔFORE-Q1)の BHARの 中 央 値 と 上 昇 ポー トフォリオ(ΔIND-Q5もしくはΔFORE-Q5)の BHARの 中 央 値 に 差 異 があるのかを 確 認 するた めに 前 期 末 以 降 の 月 ごとに 差 の 検 定 を 実 施 した 結 果 である 注 2) 表 中 の* ** ***はそれぞれ 10% 5% 1%を 表 す 出 所 ) 筆 者 作 成 超 過 リターンは 同 期 間 に 個 人 持 株 比 率 ( 外 国 人 持 株 比 率 )が 低 下 した 企 業 のそれよりも 統 計 的 に 有 意 に 低 い( 高 い)といえる 4.2 回 帰 分 析 4.1のポートフォリオ 分 析 では 個 人 持 株 比 率 の 変 化 と 株 式 超 過 リターンの 間 にマイナスの 関 係 があることを 確 認 したが 回 帰 分 析 でも 同 様 の 関 係 が 検 出 できるだろうか 表 4は (1) 式 の 推 定 結 果 を 表 している 表 4 左 側 の BHAR t を 従 属 変 数 とした 場 合 の 推 定 結 果 から まず X t と X t の 係 数 がプラスに 推 定 されていることが 確 認 できる この 結 果 から 当 期 の 業 績 水 準 が 高 い 企 業 および 当 期 の 業 績 が 向 上 した 企 業 ほど 同 期 間 における 株 式 超 過 リターンは 高 いことがわかる 注 目 すべきは IND t と FORE t の 推 定 結 果 である IND t の 係 数 は 1% 水 準 でマイナス 有 意 に 推 定 されており 仮 説 と 整 合 する 結 果 となっている 他 の 変 数 をコントロールしてもな お 当 期 において 個 人 持 株 比 率 が 上 昇 した 企 業 の 株 式 超 過 リターンは 同 期 間 において 統 計 的 有 意 に 低 下 している 一 方 FORE t の 係 数 は 1% 水 準 でプラス 有 意 に 推 定 されている こ れらの 結 果 は 従 属 変 数 に R t を 用 いた 場 合 ( 表 4 右 側 )も 同 様 である 久 多 里 (2015)は 当 期 に 個 人 持 株 比 率 が 上 昇 した 企 業 においては 規 律 付 けが 低 下 する 傾 向 があることを 示 しており また 石 川 久 多 里 (2014)は 個 人 株 主 が 増 加 した 企 業 では 経 営 に 対 する 規 律 付 けの 相 対 的 な 低 下 を 通 じて 将 来 の 業 績 が 追 加 的 に 低 下 する という 証 拠 を 提 示 している 先 行 研 究 の 結 果 を 踏 まえるならば 本 論 文 の 分 析 結 果 は 個 人 持 株 比 率 の 上 昇 に
個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 に 関 する 実 証 研 究 ( 久 多 里 ) 263 表 4(1) 式 の 推 定 結 果 注 1) 連 結 データが 存 在 する 場 合 はそちらを 優 先 し 存 在 しない 場 合 は 単 独 データを 使 用 してい る 注 2) 表 中 の t 値 は WhiteHeteroskedasticity-ConsistentStandardErrorsにもとづく t 値 で ある 表 中 の* ** ***はそれぞれ 10% 5% 1%を 表 す 注 3) 変 数 はそれぞれ BHAR t = 株 式 超 過 リターン R t = 株 式 リターン X t = 当 期 末 の 利 益 水 準 X t = 当 期 の 利 益 変 化 IND t = 当 期 の 個 人 持 株 比 率 の 変 化 FORE t = 当 期 の 外 国 人 持 株 比 率 の 変 化 IND t 1 = 前 期 末 の 個 人 持 株 比 率 FORE t 1 = 前 期 末 の 外 国 人 持 株 比 率 Year Dummy t = 年 度 ダミー Industry Dummy t = 産 業 ダミーを 表 す なお X t と X t は いずれも 前 期 の 時 価 総 額 MVE t 1 で 除 している 出 所 ) 筆 者 作 成 ともなう 規 律 付 け 低 下 の 結 果 としての 将 来 の 企 業 業 績 の 悪 化 を 市 場 が 認 識 しており そのマイ ナスの 情 報 を 折 り 込 む 形 で 株 価 が 追 加 的 に 下 落 したと 解 釈 できる 13) 外 国 人 持 株 比 率 について は 個 人 株 主 と 対 照 的 な 解 釈 が 可 能 である すなわち 当 期 において 外 国 人 株 主 が 増 加 した 企 業 は 規 律 付 けが 向 上 し 将 来 の 企 業 業 績 が 追 加 的 に 向 上 する その 将 来 の 企 業 業 績 向 上 を 織 り 込 む 形 で 株 式 超 過 リターンが 追 加 的 に 上 昇 する 将 来 における 企 業 業 績 の 観 点 だけでなく 株 式 リターンの 観 点 から 見 ても 個 人 株 主 と 外 国 人 株 主 の 結 果 は 対 照 的 である 5 おわりに 本 論 文 では 当 期 における 個 人 持 株 比 率 の 変 化 と 同 期 間 における 株 式 リターンの 関 係 につい て 実 証 的 に 分 析 を 行 なった その 際 外 国 人 株 主 の 分 析 結 果 と 対 比 することで 個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 を 明 確 にした 分 析 の 結 果 当 期 に 個 人 持 株 比 率 が 上 昇 した 企 業 の 同 期 間 における 株 式 リターンは 統 計 的 に 有 意 に 低 下 しているという 事 実 を 発 見 した 外 国 人 持 株 比 率 の 結 果 は 正 反 対 である 個 人 株 主 ( 外 国 人 株 主 )の 増 加 は 企 業 経 営 に 対 する 規 律 付 けの 相 対 的 な 低 下 ( 上 昇 )を 招 き 結 果 として 将 来 の 企 業 業 績 が 悪 化 ( 向 上 )する そのマイナ ス(プラス)の 情 報 を 織 り 込 む 形 で 株 価 が 追 加 的 に 下 落 ( 上 昇 )した 可 能 性 がある
264 経 営 研 究 第 66 巻 第 4 号 本 論 文 の 結 果 を 踏 まえると 株 主 優 待 に 代 表 されるような 個 人 株 主 を 増 加 させる 企 業 行 動 は 必 ずしも 企 業 価 値 最 大 化 に 結 びつかないと 言 える 外 国 人 持 株 比 率 の 上 昇 によって 企 業 価 値 が 向 上 するという 知 見 とあわせるならば 企 業 価 値 最 大 化 を 目 指 すためには 個 人 株 主 ではなく むしろ 外 国 人 株 主 のような 経 営 規 律 を 向 上 させる 株 式 保 有 主 体 を 増 加 させるための 取 り 組 み を 行 なうことが 望 ましい 本 論 文 では 当 期 の 個 人 持 株 比 率 の 変 化 と 株 式 リターンの 同 時 的 な 関 係 を 明 らかにしたが 残 された 課 題 も 存 在 する 本 論 文 が 前 提 としたロジックは 石 川 久 多 里 (2014)および 久 多 里 (2015)と 同 様 に 個 人 株 主 の 増 加 によって 企 業 経 営 に 対 する 規 律 付 けが 低 下 し 結 果 とし て 将 来 の 企 業 業 績 が 悪 化 するというものである しかしながら そのロジックに 関 して 先 行 研 究 で 明 らかにされているのは 以 下 の 2 点 である 第 1に 当 期 に 個 人 株 主 が 増 加 した 企 業 の 将 来 業 績 は 低 下 すること( 石 川 久 多 里,2014) そして 第 2に 当 期 に 個 人 株 主 が 増 加 した 企 業 の 経 営 に 対 する 規 律 付 けは 低 下 すること( 久 多 里,2015)である これらの 発 見 事 項 に 加 えて 規 律 付 けと 企 業 業 績 の 関 係 についても 分 析 することで 本 論 文 が 前 提 としたロジックの 整 合 性 を 検 証 していく 必 要 がある また 個 人 持 株 比 率 の 変 化 と 株 式 リターンのマイナスの 関 係 を 説 明 する 要 素 として 規 律 付 けが 重 要 な 役 割 を 果 たしているか 否 かを 精 緻 に 検 討 するために リサーチ デザインを 改 良 していく 必 要 がある さらに 一 般 的 に 指 摘 されるような 個 人 株 主 が 逆 張 りであるという 見 解 を 所 与 としても 個 人 株 主 が 増 加 する ことで 企 業 の 規 律 付 けが 低 下 することに 追 加 的 な 意 味 があるか 否 かについても 検 討 する 必 要 が あるだろう 注 1)AA 型 種 類 株 式 は 5 年 間 の 譲 渡 制 限 が 課 される 点 に 特 徴 を 持 つ 議 決 権 付 き 株 式 であり 当 該 株 式 に かかる 配 当 は 5 年 目 まで 段 階 的 に 増 加 していく 5 年 経 過 後 は 普 通 株 式 転 換 請 求 権 を 行 使 することで AA 型 種 類 株 式 の 一 部 もしくは 全 部 を 普 通 株 式 に 転 換 することが 可 能 であり あるいは 金 銭 対 価 取 得 請 求 権 を 行 使 することで 発 行 価 格 相 当 額 に 経 過 配 当 金 相 当 額 ( 事 業 年 度 の 初 日 から 買 い 取 り 日 までの 期 間 に 対 応 する 配 当 金 )を 加 えた 合 計 額 での 買 い 取 りを 要 求 することも 可 能 である 2)EastonandHarris(1991)は 当 期 の 利 益 水 準 と 利 益 変 化 で 企 業 の 株 式 リターンを 説 明 するモデルを 提 示 している 3) 企 業 iの BHAR i を 以 下 の 通 りに 算 出 する BHAR i 12 m 1 1 R i,m 12 m 1 1 E R i,m R i,m は P i,m P i,m 1 を 表 し P P i,m は 企 業 iの m 月 末 の 株 価 ( 終 値 )を 意 味 する なお E R i,m として i,m 1 TOPIX TOPIXの 変 化 m TOPIX m 1 TOPIX m 1 を 用 いる 4)X t および X t は 分 散 不 均 一 性 を 緩 和 するために 前 期 の 時 価 総 額 MVE t 1 で 除 している なお 時 価 総 額 MVE は 各 年 3 月 末 時 点 の 株 価 ( 終 値 )に 3 月 末 時 点 の 発 行 済 み 株 式 総 数 をかけて 算 出 し
個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 に 関 する 実 証 研 究 ( 久 多 里 ) 265 ている 5) 個 人 持 株 比 率 は 有 価 証 券 報 告 書 に 記 載 されている 個 人 その 他 に 該 当 する 所 有 単 元 数 に 1 単 元 あたりの 株 式 数 をかけた 上 で 期 末 発 行 済 み 株 式 総 数 で 除 して 算 出 している 6) 石 川 (2007)では 当 期 の 配 当 変 化 と 利 益 変 化 の 関 係 性 を 検 証 するために EastonandHarris(1991) に 依 拠 した 回 帰 モデルを 推 定 している 分 析 の 結 果 株 式 リターンと 当 期 の 利 益 水 準 および 当 期 の 利 益 変 化 の 間 にプラスの 関 係 があることを 確 認 している 7) 前 期 末 の 個 人 持 株 比 率 の 水 準 については 注 意 が 必 要 である 本 論 文 における 個 人 持 株 比 率 は 有 価 証 券 報 告 書 に 記 載 されている 個 人 その 他 のデータに 基 づいて 算 出 している そのため 役 員 持 株 従 業 員 持 株 自 己 株 式 などが 含 まれている 可 能 性 がある したがって 例 えば 個 人 その 他 に 占 め る 役 員 持 株 の 割 合 が 高 い 企 業 においては 所 有 と 経 営 の 分 離 が 緩 和 されるという 理 由 から 5 はプラス に 推 定 されるかもしれない あるいは 本 論 文 で 想 定 しているような 一 般 投 資 家 としての 個 人 株 主 が 個 人 その 他 に 多 く 占 めるのであれば 仮 説 と 整 合 する 形 で 5 はマイナスに 推 定 されるであろう 対 照 的 に 外 国 人 持 株 比 率 の 水 準 6 はプラスに 推 定 されることが 予 想 される なお 追 加 分 析 とし て 役 員 持 株 従 業 員 持 株 および 自 己 株 式 を 個 人 その 他 項 目 から 控 除 した 個 人 持 株 比 率 を 用 い て 分 析 を 行 なったところ 本 論 文 の 主 たる 分 析 と 概 ね 同 様 の 結 果 を 得 ている 8)R t の 具 体 的 な 算 出 式 は R t MVE t DIV t MVE t 1 ある 期 中 の 配 当 支 払 い 累 計 額 DIV t は 普 通 株 式 および 種 類 株 式 にかかる 利 益 剰 余 金 からの 配 当 額 と 資 本 剰 余 金 からの 配 当 額 を 合 算 したもの である 9) 一 部 の 変 数 の 計 算 には 前 期 のデータが 必 要 であるため 実 際 には 1998 年 のデータも 含 まれる 本 論 文 では 連 結 データを 優 先 し 連 結 データが 存 在 しない 場 合 には 親 会 社 単 独 データで 代 用 している 10) 各 株 式 保 有 主 体 の 持 株 比 率 は それぞれの 単 元 数 に 1 単 元 あたりの 株 式 数 をかけたうえで 期 末 発 行 済 株 式 総 数 で 除 して 算 出 しているが 各 株 式 保 有 主 体 の 持 株 比 率 を 合 計 すると 100%を 超 過 したり 過 小 であったりするデータが 存 在 する それらの 異 常 値 を 排 除 するため 本 論 文 ではこの 要 件 を 課 している 11)R t の 算 出 には 期 中 の 配 当 データを 使 用 するため 各 月 の 株 式 リターンを 算 出 することはできない し たがって 追 加 分 析 に 使 用 するサンプルは 抽 出 要 件 (5)を 除 く 6つの 条 件 を 課 したうえで 各 年 の R t X t X t に 対 して 上 下 1%の 外 れ 値 処 理 (データの 除 外 )を 施 した 49,077 企 業 年 である 12) 外 国 人 持 株 比 率 の 変 化 を 基 準 としたポートフォリオにおいて 個 人 持 株 比 率 の 変 化 を 基 準 とした 場 合 よりも 株 式 超 過 リターンの 変 化 幅 が 小 さい 点 については 以 下 の 2 点 が 理 由 として 考 えられる 第 1に 個 人 株 主 と 外 国 人 株 主 で 株 式 超 過 リターンの 変 化 に 与 えるインパクトが 異 なることであり 第 2に 個 人 持 株 比 率 の 変 化 の 大 きさと 外 国 人 持 株 比 率 の 変 化 の 大 きさが ポートフォリオで 差 異 があることであ る 図 1と 2における 株 式 超 過 リターンの 幅 の 違 いは 上 記 2つの 差 異 による 複 合 的 な 結 果 であると 考 えられる 13) 投 資 家 の 売 買 行 動 に 注 目 した 際 個 人 投 資 家 は 一 般 に 逆 張 り 型 ( 株 価 が 上 昇 した 際 に 売 り 増 す 投 資 行 動 )の 投 資 を 行 なうと 考 えられる 浅 子 江 口 (1992) 大 村 他 (1998)および 米 澤 末 本 (2006)は 東 京 証 券 取 引 所 における 株 式 保 有 主 体 別 の 売 買 行 動 についてマクロな 視 点 から 分 析 を 行 なっている 分 析 対 象 期 間 は 異 なるが 個 人 株 主 の 投 資 行 動 について 浅 子 江 口 (1992)は 逆 張 り 型 大 村 他 (1998) は 順 張 り 型 米 澤 末 本 (2006)は 短 期 的 には 逆 張 り 型 であると 結 論 付 けている 本 論 文 の 分 析 結 果 に 対 する 解 釈 として 個 人 投 資 家 の 逆 張 り 型 投 資 行 動 が 反 映 されたにすぎないという 指 摘 も 予 想 される しかしながら 本 論 文 は 個 人 株 主 の 投 資 行 動 に 注 目 するのではなく あくまでも 個 人 株 主 の 増 加 が 企 業 経 営 への 規 律 付 けを 低 下 させるという 先 行 研 究 ( 石 川 久 多 里,2014; 久 多 里,2015)と 同 様 のロジッ クを 前 提 とする
266 経 営 研 究 第 66 巻 第 4 号 参 考 文 献 浅 子 和 美 江 口 武 久 (1992) 日 本 の 株 式 市 場 における 投 資 主 体 別 行 動 : 再 論 フィナンシャル レビュー 第 22 巻 117 129 頁 石 川 博 行 (2007) 配 当 政 策 の 実 証 分 析 中 央 経 済 社 石 川 博 行 久 多 里 桐 子 (2014) 個 人 株 主 開 拓 が 将 来 業 績 に 与 える 影 響 會 計 第 186 巻 第 1 号 56 70 頁 岩 壺 健 太 郎 外 木 好 美 (2007) 外 国 人 投 資 家 の 株 式 所 有 と 企 業 価 値 の 因 果 関 係 分 散 不 均 一 性 による 同 時 方 程 式 の 識 別 経 済 研 究 第 58 巻 第 1 号 47 60 頁 大 村 敬 一 宇 野 淳 川 北 英 隆 俊 野 雅 司 (1998) 株 式 市 場 のマイクロストラクチャー 日 本 経 済 新 聞 社 久 多 里 桐 子 (2015) 議 決 権 行 使 状 況 からみる 個 人 株 主 の 企 業 経 営 に 対 する 規 律 付 け 日 本 会 計 研 究 学 会 第 74 回 大 会 自 由 論 題 報 告 予 定 論 文 佐 々 木 隆 文 米 澤 康 博 (2000) コーポレート ガバナンスと 株 主 価 値 証 券 アナリストジャーナル 第 38 巻 第 9 号 28 46 頁 西 崎 健 司 倉 澤 資 成 (2003) 株 式 保 有 構 成 と 企 業 価 値 コーポレート ガバナンスに 関 する 一 考 察 金 融 研 究 ( 日 本 銀 行 ) 第 22 巻 別 冊 第 1 号 161 199 頁 光 定 洋 介 蜂 谷 豊 彦 (2009) 株 主 構 成 と 株 式 超 過 収 益 率 の 検 証 市 場 志 向 的 ガバナンスのわが 国 におけ る 有 効 性 証 券 アナリストジャーナル 第 47 巻 第 1 号 51 65 頁 宮 島 英 昭 編 (2011) 日 本 の 企 業 統 治 東 洋 経 済 新 報 社 米 澤 康 博 末 本 栄 美 子 (2006) 個 人 投 資 家 の 株 式 投 資 行 動 と 株 価 に 与 える 効 果 証 券 経 済 研 究 第 53 巻 1 10 頁 Berle, A. A. Jr. and G. C. Means(1932)The modern corporation and private property, Macmillan, New York. Easton, P. D. and T. S. Harris(1991) Earnings as an Explanatory Variable for Returns, Journal of Accounting Research, 29(1), pp. 19 36. Jensen, M. C. and W. H. Meckling(1976) Theory of the firm: Managerial behavior, agency costs and ownership structure, Journal of Financial Economics, 3(4), pp. 305 360. Lichtenberg, F. R. and G. M. Pushner(1994) Ownership Structure and Corporate Performance in Japan, Japan and the World Economy, 6(3), pp. 239 261. McConnell, J. J. and H. Servaes(1990) Additional evidence on equity ownership and corporate value, Journal of Financial Economics, 27(2), pp. 595 612. Morck, R., A. Shleifer and R. W. Vishny(1988) Management ownership and market valuation: An Empirical Analysis, Journal of Financial Economics, 20, pp. 293 315. White, H.(1980) A Heteroskedasticity-Consistent Covariance Matrix Estimator and a Direct Test for Heteroskedasticity, Econometrica, 48(4), pp. 817 838.
個 人 株 主 の 増 加 と 株 式 リターンの 関 係 に 関 する 実 証 研 究 ( 久 多 里 ) 267 Individual Ownership and Stock Returns: An Empirical Analysis Kiriko Kudari Summary This study investigates the relationship between individual ownership and stock returns across the same period, and found evidence of a significant negative relationship. Moreover, the greater the increase in individual ownership, the lesser the gain in stock returns. This result suggests that an increase in individual ownership lowers discipline in shareholders, and consequently, worsens corporate performance, which is a reasonable investor expectation.