フィギュアスケート 観 戦 者 に 関 する 研 究 -NHK 杯 の 観 戦 者 に 着 目 して- A Study on Spectators of Figure Skating. -Focus on the spectators of NHK Trophy.- 井 上 尊 寛 1) 竹 内 洋 輔 2) 荒 井 弘 和 Takahiro Inoue, Yohsuke Takeuchi, Hirokazu Arai 3) [ 要 旨 ] 本 研 究 は NHK 杯 国 際 フィギュアスケート 競 技 会 にて 調 査 をおこない フィギュアスケート 観 戦 者 の 観 戦 行 動 およびフィギュアスケートの 採 点 基 準 から 観 戦 者 が 重 要 視 するコア プロダクトの 構 成 因 子 を 設 定 し 測 定 を 行 った 結 果 からは ジャンプやスピンといった 技 術 的 な 要 素 よりも スケーティングや 音 楽 との 調 和 などの 芸 術 的 な 要 素 を 重 要 視 する 傾 向 がみられた また 観 戦 者 は 女 性 の 構 成 比 が 高 く 国 内 で 開 催 されている 国 際 大 会 の 観 戦 はしているが 国 内 競 技 会 への 観 戦 頻 度 は 高 くないことが 分 かった これ らのことから 音 楽 との 調 和 や 優 雅 さ 審 美 性 などの 美 的 要 素 に 着 目 したプロモーションや スコアの 低 かった 因 子 についての 理 解 を 促 すプロモーションの 有 用 性 が 示 唆 された キーワード:フィギュアスケート ルールの 理 解 回 遊 行 動 1. はじめに 2014 年 2 月 に 冬 季 オリンピックがソチにて 開 催 された その 中 でも 特 に 関 心 が 高 いのがフィギ ュアスケートであろう 代 表 選 考 である 日 本 フィ ギュアスケート 選 手 権 はゴールデンタイムに 2 日 間 に 渡 り 放 送 されている その 他 日 本 国 内 で 行 われている 国 際 競 技 大 会 の 多 くは 地 上 波 にて 放 送 されている 他 の 冬 季 競 技 よりも 露 出 が 多 く 社 会 的 な 関 心 も 高 いことが 伺 える また フィギュアスケートを 対 象 とした 調 査 お よび 研 究 は そのメディア 価 値 の 高 さや 社 会 的 な 関 心 と 反 して 我 が 国 のみならず 海 外 の 研 究 にお いてもほぼみられない 特 にスポーツビジネスの 領 域 においては 全 くと 言 ってよいほど 対 象 とされ ていない これまで 下 位 カテゴリーを 対 象 とした 調 査 研 究 ( 井 上 ら, 2012; 井 上 ら,2013)をおこなってき たが 本 研 究 では 最 上 位 の 競 技 会 であるNHK 杯 国 際 フィギュアスケート 競 技 会 ( 以 下 :NHK 杯 ) の 観 戦 者 を 対 象 とした 調 査 研 究 を 行 った 国 際 スケート 連 盟 (ISU: International Skating Union)は フィギュアスケートの 国 際 競 技 会 とし て 世 界 選 手 権 (World Figure Skating Championships) 世 界 ジュニア 選 手 権 (World Junior Figure Skating Championships) ヨーロッパ 選 手 権 (European Figure Skating Championships) 四 大 陸 選 手 権 (Four Continents Figure Skating Championships) ISUグランプリ(ISU Grand Prix of Figure Skating) 1) 法 政 大 学 スポーツ 健 康 学 部 2) 法 政 大 学 スポーツ 健 康 学 部 兼 任 講 師 3) 法 政 大 学 文 学 部 心 理 学 科 准 教 授 -27-
ISUジュニアグランプリ(ISU Junior Grand Prix of Figure Skating)を 主 催 している 本 研 究 の 対 象 としたNHK 杯 は ISUが 主 催 する ISUグランプリ 全 6 戦 の 中 の 1 つである このグ ランプリの 競 技 会 の 出 場 者 は 前 年 度 の 世 界 選 手 権 上 位 者 前 年 度 までのWorld Standing 上 位 24 名 前 年 度 のシーズンベストスコアー 上 位 24 名 その 他 一 部 競 技 会 の 優 勝 者 から グランプリ 開 催 国 が 招 待 する 選 手 が 決 定 されている 選 手 はグランプ リ 6 戦 のうち 最 大 2 戦 まで 招 待 され 全 6 戦 の 上 位 6 名 がグランプリファイナル(Grand Prix Of Figure Skating Final)に 出 場 する 事 ができる すなわちNHK 杯 は 競 技 力 を 持 った 選 手 が 招 待 され グランプリファイナルの 出 場 権 をかけて 戦 う 国 際 大 会 の 中 でも 最 上 位 の 競 技 会 の 一 つ である 本 研 究 では ビジネスの 領 域 においても 価 値 の 高 いコンテンツであると 認 識 されているフィギュ アスケートのイベントの 集 客 戦 略 及 びマーケティ ング 戦 略 策 定 のための 情 報 収 集 および 分 析 を 目 的 とした 2. 研 究 の 方 法 2.1 研 究 セッティング 本 研 究 は 2013 年 11 月 8 日 ~11 月 10 日 の 間 に 国 立 代 々 木 競 技 場 第 一 体 育 館 にて 開 催 された 2013NHK 杯 国 際 フィギュアスケート 競 技 大 会 の 観 戦 者 を 対 象 とした 2.2 データの 収 集 観 戦 者 の 特 性 およびルールの 理 解 状 況 および 観 戦 者 が 重 要 性 しているコア プロダクトを 構 成 す る 因 子 についての 評 価 を 測 定 するため 観 戦 者 を 対 象 としたアンケート 調 査 を 実 施 した 調 査 員 は スポーツマネジメントを 専 門 とする 大 学 生 19 名 で あり 全 員 が 調 査 に 関 して 十 分 な 事 前 指 導 を 受 けた データ 収 集 は 層 化 抽 出 により 各 調 査 員 が 担 当 した エリアに 来 場 した 観 戦 者 の 男 女 比 および 年 齢 構 成 比 を 観 測 し 標 本 を 抽 出 した 調 査 員 は 競 技 会 開 始 前 競 技 会 の 休 憩 時 間 に579 票 を 配 布 し 574 票 を 回 収 した 回 収 率 は99.1%であった 2.3 調 査 項 目 の 設 定 観 戦 者 が 重 要 性 しているコア プロダクトを 構 成 する 因 子 の 設 定 については 複 雑 なルールの 理 解 が 観 戦 満 足 の 要 因 となることが 示 されたことか ら 採 点 基 準 を 基 にコア プロダクトの 構 成 因 子 を 設 定 した すべての 項 目 は 各 因 子 の 重 要 性 につ いて5 段 階 尺 度 ( 5:おおいにあてはまる~ 1:ま ったくあてはまらない)にて 回 答 を 得 た 具 体 的 にはISUジャッジングシステム(ISU Judging System)における 審 判 員 の 採 点 基 準 から 項 目 を 設 置 した(Figure. 1) 質 問 項 目 の1~4は テクニカル パネル( 技 術 認 定 役 員 )が 判 定 してい るものに 関 して 設 定 をした 質 問 項 目 5はジャ ッジパネルが 採 点 している 技 術 要 素 の 出 来 栄 え から 設 定 した 質 問 項 目 6~9はジャッジパネル が 採 点 している 演 技 構 成 点 の 項 目 ( 参 照 プログラ ムコンポーネンツ 通 覧 )から ( 観 戦 者 からは 評 価 がしづらい)トランジション/つなぎとフットワー クの 部 分 だけ 排 除 し 項 目 として 設 定 した( 竹 内, 2007) 3. 結 果 3.1 基 本 的 特 性 Table 1.は 調 査 対 象 者 の 基 本 的 属 性 を 示 したも のである 観 戦 者 については 女 性 の 構 成 比 が 高 く 86.2%であった 平 均 年 齢 は43.3 歳 で 40 歳 以 上 49 歳 未 満 の 構 成 比 が 最 も 高 く(32.6%) 次 いで50 歳 以 上 59 歳 未 満 であった(23.5%) 同 伴 者 の 規 模 は 平 均 2.0 人 で 友 人 と 会 場 に 来 場 する 割 合 が 最 も 高 く(41.5%) 次 いで 家 族 (32.9%) ひとり (27.1%)であった 応 援 している 選 手 の 有 無 を 問 う 項 目 では いる と 回 答 したものは88.6%であ り 平 均 の 応 援 歴 は 約 8.9 年 であり 応 援 歴 は 7-8 年 と 回 答 した 者 の 構 成 比 が 最 も 高 く(29.0%) 次 いで11 年 以 上 (17.1%) 5-6 年 (16.9%)であっ た 観 戦 者 の 競 技 経 験 は 未 経 験 者 が93.3%であ り やっている(3.6%) もしくは 過 去 にやって いた(3.2%)と 回 答 する 者 の 構 成 比 は 低 かった -28-
Figure 1 フィギュアスケートにおける 採 点 基 準 竹 内 洋 輔 (2007)フィギア スケートの 新 しい 採 点 システム 問 題 点 2006 年 度 グランプリシリーズ 男 女 シングルフリー スケーティングを 例 として スポーツ 運 動 学 研 究 20:pp.69-81 性 別 同 伴 者 (M.A.) 平 均 同 伴 者 数 2.0 人 標 準 偏 差 1.1 年 齢 平 均 年 齢 43.3 歳 標 準 偏 差 11.3 競 技 歴 応 援 している 選 手 応 援 年 数 平 均 応 援 年 数 8.9 年 標 準 偏 差 6.9 Table 1 基 本 的 特 性 n % 男 性 79 13.8 女 性 492 86.2 合 計 571 100.0 ひとり 155 27.1 友 人 237 41.5 家 族 188 32.9 その 他 15 2.6 19 才 以 下 7 1.2 20 代 67 11.7 30 代 108 18.8 40 代 187 32.6 50 代 135 23.5 60 才 以 上 70 12.2 合 計 574 100.0 過 去 にやっていた 19 3.6 現 在 もしている 17 3.2 やったことはない 499 93.3 合 計 535 100.0 いる 468 88.6 いない 60 11.4 合 計 528 100.0 2 年 以 下 31 5.9 3-4 年 81 15.4 5-6 年 89 16.9 7-8 年 153 29.0 9-10 年 83 15.7 11 年 以 90 17.1 合 計 527 100.0-29-
本 研 究 は 観 戦 者 が 重 要 性 しているコア プロ ダクトを 構 成 する 因 子 についての 評 価 を 測 定 する ことを 目 的 としている 評 価 基 準 は 競 技 の 採 点 基 準 の 各 要 素 から 設 定 した 観 戦 者 が 重 要 視 してい る 要 素 は 音 楽 との 調 和 が4.46と 最 も 高 く 次 い で 姿 勢 や 綺 麗 さの 評 価 で4.39 振 り 付 けの 評 価 が 4.36 スケーティングに 関 する 評 価 で4.34であっ た ジャンプやスピンといったメディアでも 注 目 される 要 素 についての 重 要 性 というよりは 審 美 性 や 芸 術 性 といった 要 素 を 重 要 視 する 傾 向 がみら れた(Table 2 ) 因 子 間 の 相 関 関 係 については 全 ての 因 子 間 で 有 意 な 関 連 がみられた また 総 じて 各 因 子 間 で 強 いもしくは 中 程 度 の 相 関 がみられた(Table 3 ) Table 4 は 昨 年 度 の 国 内 で 開 催 された 主 要 な 競 技 会 の 観 戦 における 回 遊 行 動 を 示 したものである 特 に 多 くの 観 戦 者 が 国 際 競 技 会 を 観 戦 しているこ とがわかった また 国 内 競 技 会 に 関 しては 全 日 本 選 手 権 以 外 の 競 技 会 の 観 戦 が 極 端 に 低 くなっ ていることがわかった (Table 4 ) Table 2 パフォーマンスの 構 成 要 素 と 重 要 性 度 数 平 均 値 標 準 偏 差 1 ジャンプの 種 類 の 区 別 514 3.94.987 2 ジャンプの 回 転 数 の 区 別 512 4.05.943 3 スピンの 種 類 の 区 別 512 3.70.981 4 スピン 中 の 姿 勢 と 難 度 510 4.02.884 5 ジャンプ スピン ステップの 出 来 栄 えに 関 する 評 価 513 4.25.836 6 スケーティング 技 術 に 関 する 評 価 512 4.34.825 7 振 り 付 けに 関 する 評 価 512 4.36.769 8 音 楽 との 調 和 に 関 する 評 価 514 4.46.752 9 パフォーマンスや 姿 勢 スタイルの 綺 麗 さに 関 する 評 価 512 4.39.786 Table 3 各 因 子 間 の 相 関 関 係 1 2 3 4 5 6 7 8 9 ジャンプの 種 類 の 区 別 ジャンプの 回 転 数 の 区 別 スピンの 種 類 の 区 別 スピン 中 の 姿 勢 と 難 度 ジャンプ スピン ステップの 出 来 栄 えに 関 する 評 価 スケーティング 技 術 に 関 する 評 価 振 り 付 けに 関 する 評 価 音 楽 との 調 和 に 関 する 評 価 パフォーマンスや 姿 勢 スタイルの 綺 麗 さに 関 する 評 価 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1.764 1.723.651 1.570.623.662 1.558.621.525.734 1.552.553.502.663.756 1.301.311.309.395.443.496 1.296.287.322.388.452.539.831 1.264.288.280.337.404.442.737.749 1 すべての 因 子 は 1% 水 準 で 有 意 ( 両 側 ) -30-
Table 4 2012 年 度 国 内 競 技 会 における 回 遊 行 動 国 内 競 技 会 国 際 競 技 会 競 技 会 名 n % 2012 関 東 フィギュアスケート 選 手 権 大 会 3 0.8 2012 中 部 フィギュアスケート 選 手 権 大 会 12 3.0 2012 東 京 フィギュアスケート 選 手 権 大 会 25 6.3 2012 近 畿 フィギュアスケート 選 手 権 大 会 5 1.3 2012 中 四 国 九 州 フィギュアスケート 選 手 権 大 会 3 0.8 2012 東 北 北 海 道 フィギュアスケート 選 手 権 大 会 2 0.5 第 6 回 西 日 本 学 生 選 手 権 大 会 5 1.3 第 6 回 東 日 本 学 生 選 手 権 大 会 11 2.8 第 16 回 全 日 本 フィギュアスケートノービス 選 手 権 大 会 8 2.0 第 38 回 西 日 本 フィギュアスケート 選 手 権 大 会 / 第 29 回 西 日 本 フィギュアスケートジュニア 選 手 権 大 会 6 1.5 第 38 回 東 日 本 フィギュアスケート 選 手 権 大 会 / 第 29 回 東 日 本 フィギュアスケートジュニア 選 手 権 大 会 14 3.5 JOCジュニアオリンピックカップ 大 会 第 81 回 全 日 本 フィギュアスケートジュニア 選 手 権 大 会 23 5.8 第 81 回 全 日 本 フィギュアスケート 選 手 権 大 会 140 35.4 第 19 回 全 日 本 シンクロナイズドスケーティング 選 手 権 大 会 3 0.8 メダルウィナーズオープン 85 21.5 ジャパンオープン 162 40.9 ISUグランプリ NHK 杯 国 際 フィギュアスケート 競 技 大 会 179 45.2 四 大 陸 選 手 権 大 会 188 47.5 世 界 フィギュアスケート 国 別 対 抗 戦 222 56.1 4. 考 察 および 結 論 本 研 究 は 国 内 のフィギュアスケート 競 技 会 の 最 上 位 のカテゴリーである 大 会 にて 観 戦 者 の 特 性 の 把 握 および 観 戦 者 が 重 要 性 しているコア プロダ クトを 構 成 する 因 子 の 評 価 について 把 握 すること 競 技 会 の 回 遊 行 動 を 把 握 することを 目 的 とした 得 られた 結 果 からは 観 戦 者 の 多 くが 女 性 であ り 競 技 歴 はほぼなく 2 人 前 後 で 来 場 する 割 合 が 高 いことが 示 された また 応 援 する 選 手 を 持 つ 者 が 多 く 応 援 歴 も 7-8 年 と 回 答 する 者 の 構 成 比 が 最 も 高 かった 一 方 で 2 年 以 下 の 新 規 層 が 来 場 する 割 合 が 低 く 会 場 が 定 まっていないフィ ギュアスケート 競 技 会 においては ファン 歴 の 長 い 者 の 観 戦 頻 度 が 高 い 傾 向 がみられた また パフォーマンスの 因 子 にていては メデ ィアでも 注 目 されがちな ジャンプの 回 転 数 やス ピンの 種 類 などを 重 要 視 しているというよりは スケーティングの 出 来 栄 えや 振 付 け 音 楽 との 調 和 などの 芸 術 的 な 要 素 を 重 要 視 する 傾 向 が 示 され た また 審 美 性 を 評 価 している 要 素 間 とジャン プやスピンといった 技 術 的 な 要 素 間 での 相 関 関 係 が 強 いことからも フィギュアスケートのパフォ ーマンスは 技 術 的 な 側 面 と 審 美 的 な 側 面 に 区 分 することができ 審 美 性 を 重 要 視 する 割 合 が 高 いことからも 女 性 特 有 の 競 技 に 対 する 需 要 が 存 在 していることが 示 唆 された また 総 じてパフ ォーマンスの 重 要 性 を 測 る 因 子 において 評 価 が 高 いことも 特 徴 として 挙 げられる 回 遊 行 動 においては 国 内 における 国 際 大 会 へ の 観 戦 の 割 合 が 高 く 国 内 競 技 会 への 観 戦 はあま りしていないことが 分 かった 参 考 文 献 1 ) 井 上 尊 寛 竹 内 洋 輔 (2012)フィギュアスケ ート 観 戦 者 の 特 性 に 関 する 研 究. 法 政 大 学 体 育 スポーツ 研 究 センター 紀 要 30:pp.63-66. 2 ) 井 上 尊 寛 竹 内 洋 輔 (2013)フィギュアスケ ート 観 戦 者 における 観 戦 動 機 に 関 する 研 究. 法 政 大 学 スポーツ 健 康 学 紀 要 4 :pp.11-17 3 ) 竹 内 洋 輔 (2007)フィギュア スケートの 新 しい 採 点 システムの 問 題 点 -2006 年 度 グラ ンプリシリーズ 男 女 シングルフリー スケ ーティングを 例 として-, スポーツ 運 動 学 研 究 20:pp.69-81 -31-