北 神 塾 第 五 講 世 界 の 中 の 日 本 日 本 の 外 交 安 全 保 障 防 衛 方 針 2 平 成 26 年 9 月 12 日 北 神 圭 朗 1 中 国 の 軍 事 戦 略 1. 中 国 の 軍 事 費 はすでに 日 本 の 3 倍 を 超 えた しかも 単 純 に 経 済 成 長 に 合 わせて 軍 備 拡 張 が 行 われているのではなく 確 固 たる 長 期 戦 略 に 基 づく 2. 中 国 の 海 洋 戦 略 である 近 海 防 御 戦 略 によれば 海 軍 の 作 戦 海 域 は 今 後 の 比 較 的 長 い 期 間 は 主 に 第 一 列 島 線 と 当 該 列 島 に 沿 った 沿 海 海 域 および 列 島 線 以 内 の 黄 海 東 シナ 海 および 南 シナ 海 である 我 が 国 の 経 済 力 と 科 学 技 術 レベルが 絶 え 間 なく 向 上 することに 伴 い 海 軍 の 力 はさらに 強 大 なものになり 我 々の 作 戦 海 域 は 北 太 平 洋 や 第 二 列 島 線 にまで 徐 々に 拡 大 して 行 くだろう 3.とくに 第 二 列 島 線 を 制 覇 するために 中 国 海 軍 の 艦 艇 が 太 平 洋 に 出 る 場 合 には 海 南 島 からバシー 海 峡 を 経 るか 沖 縄 と 宮 古 島 の 間 の 宮 古 海 峡 を 通 るしかない 2 海 洋 国 家 日 本 と 中 国 の 海 洋 戦 略 は 対 立 1. 毎 年 約 8 億 トンの 原 材 料 を 輸 入 し 約 1 億 6000 万 トンの 工 業 製 品 を 輸 出 することに より じつに5 倍 の 付 加 価 値 をもって 世 界 の 繁 栄 に 貢 献 する 通 商 国 家 である その 輸 出 入 の 99.8%が 海 運 2. 約 38 万 平 方 キロ( 世 界 第 61 位 )の 国 土 の 約 12 倍 に 上 る447 万 平 方 キロの 排 他 的 経 済 水 域 (EEZ)は 世 界 第 6 位 であり 6800の 島 々に 沿 って 海 岸 線 は 米 国 より 長 い 1
3. 我 が 国 周 辺 海 域 は 日 本 海 溝 など 深 海 が 多 く 体 積 で 比 較 すると 世 界 第 4 位 となり 水 産 業 においても 世 界 三 大 漁 場 の 一 つに 数 えられ 海 底 資 源 でもメタンハイドレードや 熱 水 鉱 床 コバルトリッチクラストなど 高 い 可 能 性 を 秘 めている したがって 領 土 領 海 領 空 における 主 権 と 独 立 の 確 保 とともに インド 洋 からマラッカ 海 峡 を 経 て 南 シナ 海 および 西 太 平 洋 に 至 る12, 000キロを 超 えるシーレーンの 安 全 は 死 活 的 に 重 要 3 中 国 の 海 洋 進 出 (これまでの 事 実 関 係 ) 1. 南 シナ 海 は 海 洋 資 源 の 宝 庫 であると 同 時 に 我 が 国 のみならず 米 国 をはじめ 世 界 各 国 のシーレーンが 重 なる 1 1973 年 にヴェトナム 戦 争 が 終 結 し 米 軍 が 撤 退 すると 翌 年 中 国 軍 はすかさ ずヴェトナムに 侵 攻 し 南 シナ 海 に 浮 かぶ 西 沙 諸 島 を 占 領 279 年 から 米 軍 に 代 わってカムラン 湾 にソ 連 の 艦 艇 が 展 開 を 開 始 すると 動 きを 止 めるが 87 年 にソ 連 軍 がカムラン 湾 から 撤 退 したのを 見 届 けるようにして 今 度 は 南 沙 諸 島 に 進 駐 開 始 翌 年 にはヴェトナムと 武 力 衝 突 を 起 こす 391-92 年 にかけてフィリピンのスービック 海 軍 基 地 クラーク 空 軍 基 地 から 米 軍 が 撤 退 すると 中 国 はただちに 領 海 法 を 公 布 南 シナ 海 の 大 半 (および 尖 閣 諸 島 台 湾 )を 自 国 領 域 と 宣 言 し 95 年 を 最 後 に 合 同 軍 事 演 習 が 中 止 となり 米 比 相 互 防 衛 条 約 の 空 洞 化 が 決 定 的 となるや 否 や 中 国 軍 はフィリピン 沖 数 キロにある 南 沙 ミスチーフ 礁 を 占 領 42008 年 ごろから 海 軍 のみならず 複 数 の 海 上 法 執 行 機 関 を 動 員 して 南 シナ 海 全 域 で 新 たな 海 洋 攻 勢 に 乗 り 出 したのである 2
2.わが 国 周 辺 で 中 国 は 1 公 船 や 航 空 機 によるわが 国 領 海 への 断 続 的 な 侵 入 や 領 空 の 侵 犯 2 海 軍 艦 艇 による 海 上 自 衛 隊 の 護 衛 艦 に 対 する 火 器 管 制 レーダーの 照 射 や 戦 闘 機 に よる 自 衛 隊 機 への 異 常 な 接 近 3 独 自 の 主 張 に 基 づく 東 シナ 海 防 空 識 別 区 の 設 定 といった 公 海 上 空 における 飛 行 の 自 由 を 妨 げる ( 事 実 関 係 ) (1)2004 年 11 月 に 中 国 原 子 力 潜 水 艦 が 我 が 国 の 領 海 内 を 潜 没 航 行 (2)2008 年 10 月 に 艦 隊 行 動 として 初 めて 第 一 列 島 線 を 越 え 津 軽 海 峡 を 通 って 西 太 平 洋 に 出 てわが 国 を 周 回 し 宮 古 海 峡 を 経 て 帰 港 (3)2009 年 には 宮 古 海 峡 を 通 って 沖 ノ 鳥 島 海 域 に 進 出 (4)2012 年 4 月 に 大 隅 海 峡 を 初 めて 東 進 (5) 同 年 10 月 に 与 那 国 島 と 西 表 島 近 傍 の 仲 ノ 神 島 の 間 の 海 域 を 初 めて 東 進 (6)2013 年 7 月 には 宗 谷 海 峡 を 初 めて 東 進 した (7)2013 年 10 月 には 西 太 平 洋 で 初 となる 海 軍 三 艦 隊 合 同 演 習 機 動 5 号 が 実 施 (8)このほか 東 シナ 海 においては 中 国 海 軍 艦 艇 による 活 動 が 常 態 化 (9) 中 国 公 船 の 動 向 としては 尖 閣 諸 島 周 辺 のわが 国 領 海 において 08 年 12 月 海 監 船 が 徘 徊 (はいかい) 漂 泊 といった 国 際 法 上 認 められない 活 動 を 行 った その 後 も 11 年 8 月 12 年 3 月 および 同 年 7 月 に 海 監 船 や 中 国 農 業 部 漁 業 局 所 属 ( 当 時 )の 漁 政 船 が 当 該 領 海 に 侵 入 する 事 案 が 発 生 (10)2012 年 9 月 のわが 国 政 府 による 尖 閣 三 島 の 国 有 化 以 降 このような 活 動 は 著 しく 活 発 化 し 当 該 領 海 へ 断 続 的 に 侵 入 している (11)2013 年 4 月 および 9 月 には 当 該 領 海 に 同 時 に 8 隻 の 中 国 公 船 が 侵 入 (12)2010 年 9 月 には 尖 閣 諸 島 周 辺 のわが 国 領 海 において わが 国 海 上 保 安 庁 巡 視 船 と 中 国 漁 船 との 衝 突 事 件 が 生 起 している なお 12 年 10 月 には 中 国 海 軍 東 海 艦 隊 の 艦 艇 が 海 監 船 や 漁 政 船 と 領 土 主 権 および 海 洋 権 益 の 維 持 擁 護 に 着 目 した 共 同 演 習 を 実 施 3
(13)その 間 にも 東 シナ 海 のみならず 南 シナ 海 においても フィリピンやヴェトナムの 海 洋 警 察 機 関 や 漁 船 に 対 し さらには 米 海 軍 の 空 母 部 隊 に 対 し 中 国 潜 水 艦 による 異 常 接 近 や 米 海 軍 調 査 船 に 対 する 妨 害 など 海 軍 艦 艇 を 含 む 中 国 公 船 による 挑 戦 的 な 行 動 が 繰 り 返 された 4 中 国 の 海 洋 進 出 の 戦 略 的 効 果 1.アジア 太 平 洋 地 域 の 海 洋 安 全 保 障 に 詳 しい 米 海 軍 大 学 のトシ ヨシハラ 教 授 は 軍 事 的 なエスカレーションを 抑 制 する 効 果 とともに 政 府 公 船 による 常 続 的 な 巡 視 活 動 を 執 拗 に 繰 り 返 すことにより 相 手 に 戦 略 的 な 消 耗 を 強 いることができ 一 定 の 圧 力 を 背 景 に 外 交 的 な 主 導 権 を 握 ることができる 2.18 年 前 のクリントン 米 大 統 領 は 中 国 を 牽 制 今 かりに 18 年 前 と 同 じことが 今 日 起 こったとして オバマ 政 権 は 当 時 のようなことはできなくなっている 3.18 年 前 に 比 べ 中 国 の 海 空 軍 が 擁 する 敵 の 接 近 を 拒 否 する 能 力 が 格 段 に 向 上 たとえば 新 型 潜 水 艦 戦 力 は 当 時 の 3-4 隻 規 模 から 40 隻 を 超 え 駆 逐 艦 勢 力 も 7-8 隻 規 模 から 40 隻 を 超 えるとともに 第 四 世 代 戦 闘 機 についても 50 機 レベルから 560 機 超 へと 大 幅 に 増 強 DF21 という 中 距 離 巡 航 ミサイルは 空 母 を 精 密 雷 撃 できる 能 力 を 開 発 中 空 から 洋 上 から 海 底 から 米 国 の 遠 征 部 隊 をはるかに 上 回 る 戦 力 で その 接 近 を 著 しく 阻 害 することが 可 能 第 一 列 島 線 は 着 実 に 制 覇 しつつある 4.この 勢 いで 現 行 の 中 国 海 軍 近 代 化 計 画 が 着 実 に 遂 行 されれば やがて 米 国 に 対 する 接 近 拒 否 エリア は 第 一 列 島 線 から 第 二 列 島 線 へと 拡 大 5.しかも 中 国 の 究 極 の 目 的 は 決 して 第 二 列 島 線 の 外 側 で 米 国 海 軍 と 張 り 合 うことでは ない 第 一 列 島 線 と 第 二 列 島 線 の 間 に 広 がる 広 大 な 海 域 における 中 国 海 軍 の 活 動 の 自 由 すなわち 制 海 制 空 権 を 確 保 することに 他 ならない 4
5 我 が 国 のあるべき 方 針 自 国 の 防 衛 能 力 を 強 化 するとともに 米 国 をはじめ 各 国 と 連 携 して 中 国 を 抑 止 しつつ 大 きな 紛 争 にならないように 信 頼 関 係 を 構 築 1. 日 本 独 自 の 努 力 が 必 要 米 国 にただ 頼 るだけではなく 自 ら 望 ましい 環 境 づくりをする 体 制 を 構 築 すべし 1 国 家 安 全 保 障 会 議 の 創 設 2 国 家 安 全 保 障 戦 略 の 策 定 3 南 西 諸 島 の 防 衛 力 の 強 化 4 中 国 に 対 抗 する 国 に 警 察 的 かつ 資 金 的 支 援 ( 武 器 輸 出 全 面 禁 止 原 則 の 緩 和 措 置 政 府 開 発 援 助 (ODA)の 柔 軟 活 用 ) 5 日 米 防 衛 協 力 の 指 針 (ガイドライン)の 再 改 定 作 業 ( 集 団 的 自 衛 権 ) (1) 朝 鮮 半 島 有 事 に 特 化 した 現 行 のガイドライン(1997 年 改 定 )の 射 程 を 南 西 諸 島 方 面 における 不 測 の 事 態 にまで 拡 大 すること (2) 地 域 の 安 定 を 確 保 するため 日 米 同 盟 協 力 のみならず 域 内 の 有 志 国 との 安 全 保 障 上 の 協 力 を 強 化 拡 大 すること (3)これまでは 危 機 が 起 こった 場 合 の 防 衛 協 力 に 比 重 が 置 かれていたものを 計 画 策 定 から 共 同 訓 練 平 時 から 危 機 を 経 て 有 事 に 至 るすべての 段 階 で 日 米 の 連 携 を 強 化 第 一 は 日 本 周 辺 における 各 種 事 態 ( 平 時 から 危 機 有 事 に 至 るグレイゾー ンも 含 むあらゆるフェーズ)に 対 する 日 米 の 協 力 枠 組 みの 再 構 築 第 二 は イン ド 洋 から 南 シナ 海 を 経 て 西 太 平 洋 におけるシーレーンの 安 全 確 保 のための 国 際 的 な 協 力 枠 組 みの 構 築 第 三 は 日 米 を 中 心 とする 地 域 安 全 保 障 システムの 強 化 である 5
2.ただし もう 一 方 で 衝 突 回 避 や 信 頼 醸 成 をもたらす 外 交 的 な 努 力 も 不 可 欠 すなわち 我 々に 求 められる 総 合 的 な 外 交 安 全 保 障 戦 略 は 最 悪 の 事 態 にヘッジを 掛 けるのみな らず そもそもそのような 最 悪 の 事 態 が 生 起 しないよう 国 益 を 守 りつつ 複 雑 に 絡 み 合 う 国 際 関 係 を 構 築 する 外 交 戦 略 をもう 一 つの 車 輪 として 用 意 しておかねばならない 1 現 行 の 国 際 秩 序 に 挑 戦 する ならず 者 に 振 り 回 されるようでは 平 和 は 覚 束 な い 全 く 逆 の 発 想 で こちらが 望 ましいルールや 秩 序 国 際 関 係 の 枠 組 みを 先 に 形 成 しておいて そのルールや 秩 序 に 協 調 的 な 姿 勢 を 取 ることが 相 互 利 益 を 最 大 化 することにつながるのではないか と 中 国 に 対 し 選 択 を 迫 るべきである こち らが 主 導 権 を 握 り むしろ 中 国 を 受 け 身 に 回 らせることが 戦 略 の 核 心 だ 2 そのために 地 域 的 な 信 頼 醸 成 の 枠 組 みを 創 設 価 値 : 日 本 や 米 国 が 先 頭 に 立 って 自 由 と 民 主 主 義 と 法 の 支 配 といっ た 開 かれた 国 際 協 調 主 義 に 基 づくアジア 太 平 洋 地 域 の 秩 序 づく りに 全 力 を 挙 げるべきである 利 害 : 東 アジア 太 平 洋 諸 国 による 地 域 全 体 の 不 安 定 化 を 予 防 抑 止 する 共 同 体 の 構 築 が 急 務 であり 海 賊 やテロ 自 然 災 害 や 世 界 的 感 染 など 国 境 を 超 えた 共 通 の 課 題 を 中 心 にした 公 式 非 公 式 の 安 全 保 障 協 議 を 重 層 的 に 組 み 上 げて 行 くことが 肝 要 以 上 6