平 成 16-18 年 度 厚 生 科 学 研 究 補 助 金 ( 子 ども 家 庭 総 合 研 究 事 業 ) 引 きこもりに 繋 がる 小 児 慢 性 疲 労 不 登 校 の 治 療 予 防 に 関 する 臨 床 的 研 究 班 ( 主 任 研 究 者 : 三 池 輝 久 ) 不 登 校 引 きこもりに 対 する 馬 介 在 療 法 の 科 学 的 検 証 分 担 研 究 者 : 倉 恒 弘 彦 1-5 2) 1) 1,3) 研 究 協 力 者 : 大 西 雅 子 西 牧 真 里 田 島 世 貴 芦 内 裕 実 4) 4 5) 秋 元 環 池 田 卓 也 所 属 1. 関 西 福 祉 科 学 大 学 健 康 福 祉 学 部 健 康 科 学 科 2. 内 閣 府 NPO 法 人 ホース フレンズ 事 務 局 3. 大 阪 市 立 大 学 医 学 部 疲 労 クリニカルセンター 4. 服 部 緑 地 乗 馬 センタースポーツ 医 学 研 究 室 5. 日 本 馬 術 連 盟 医 科 学 委 員 会 2) 研 究 要 旨 動 物 の 癒 し 効 果 を 利 用 した 治 療 は 精 神 神 経 疾 患 のみならず 身 体 疾 患 に 対 しても 広 く 行 われており その 臨 床 的 な 有 効 性 については 数 多 く 報 告 されている しかし それぞれ の 動 物 介 在 療 法 が 実 際 に 心 身 のどこに どのような 効 果 を 与 えているのかについて 科 学 的 に 検 証 した 研 究 は 尐 ない 我 々は 共 同 研 究 施 設 においてアニマルセラピーの1つである 馬 介 在 療 法 を 行 ったところ 多 くの 症 例 で 臨 床 的 には 回 復 効 果 が 見 られ 通 常 の 社 会 生 活 が 可 能 なほどまでに 劇 的 に 回 復 した 症 例 も 経 験 してきた しかし 馬 介 在 療 法 が 具 体 的 に どのような 治 療 効 果 を 有 しているのかについては 未 だ 明 かでなく 客 観 的 な 評 価 を 行 う 必 要 性 が 高 まってきた そこで 本 研 究 では 医 師 看 護 士 獣 医 師 臨 床 心 理 士 養 護 教 諭 乗 馬 センターなどが 協 力 してその 効 果 を 科 学 的 に 検 証 することを 企 画 した 平 成 16 年 度 は 健 常 成 人 を 対 象 とした 乗 馬 に 伴 う 騎 手 の 運 動 生 理 についての 検 討 を 行 い 常 歩 (なみあし) 騎 乗 を 用 いたホースセラピーは 男 女 や 年 齢 を 問 わず 有 効 な 運 動 療 法 とな りうることを 明 らかにした また 平 成 17-18 年 度 は 9 名 の 不 登 校 児 と 5 名 の 引 きこもり 成 人 計 14 名 を 対 象 に 1 回 / 週 x5 週 間 にわたって 馬 介 在 療 法 を 実 施 し 1 問 診 表 を 用 いた 自 覚 症 状 チェック 自 尊 心 尺 度 による 評 価 2 心 理 士 による 観 察 3 加 速 度 脈 波 検 査 による 自 律 神 経 系 評 価 4アクティグラフによる 行 動 量 の 変 化 や 睡 眠 覚 醒 リズムの 評 価 5 臨 床 血 液 検 査 などによって 馬 介 在 療 法 の 効 果 を 科 学 的 に 検 討 したところ VAS による 自 覚 症 状 調 べでは 気 分 の 落 ち 込 み イライラ 感 不 安 感 緊 張 に 明 らかな 改 善 がみられ アクティ グラフの 結 果 から 馬 介 在 療 法 を 体 験 することにより 被 験 者 の 睡 眠 時 間 が 減 り 日 中 の 活 動 時 間 が 増 える 傾 向 にあるのではないかという 推 測 が 得 られた また 自 尊 心 に 関 しては その 向 上 が 望 めるのではないかという 結 果 が 得 られ 心 理 士 による 全 体 観 察 評 価 ではすべ ての 症 例 で 馬 介 在 療 法 の 施 行 に 伴 い 以 前 に 比 較 して 表 情 が 明 るくなる 家 庭 での 会 話 が 増 える 日 常 生 活 における 行 動 量 が 増 加 するなどメンタルヘルスの 向 上 が 認 められた さら に 加 速 度 脈 波 解 析 による 自 律 神 経 系 の 評 価 では 交 感 神 経 系 の 緊 張 が 健 常 者 に 比 較 して 上 昇 している 傾 向 が 確 認 されたが 常 歩 (なみあし) 騎 乗 1 時 間 後 には LF HF 比 が 有 意 に 低 下 し 脈 拍 の 揺 らぎ(%CV)が 増 加 しており 自 律 神 経 系 の 活 動 に 影 響 を 与 えているこ とが 確 認 された したがって 本 研 究 により 常 歩 騎 乗 による 馬 介 在 療 法 の 効 果 を 科 学 的 に 検 証 する 1 つの 手 がかりが 得 られた 目 的 不 登 校 引 きこもりは 中 枢 神 経 ホルモン 分 泌 自 律 神 経 免 疫 筋 組 織 な ど 全 身 の 機 能 に 障 害 が 及 ぶ 総 合 的 全 身 的 な 疾 患 である 治 療 としては 高 照 度 光 治 療 法 メラトニン 治 療 のほか 免 疫 療 法 や ホルモン 分 泌 異 常 を 背 景 としたホルモン 補 1
充 療 法 起 立 性 障 害 の 治 療 などが 行 われて きており 臨 床 症 状 の 改 善 とともに 脳 機 能 の 改 善 や 神 経 内 分 泌 免 疫 系 の 改 善 など 一 定 の 成 果 をあげている しかし このよ うな 治 療 で 症 状 が 軽 減 した 症 例 が 実 際 に 社 会 や 学 校 に 復 帰 する 段 階 においては なか なか 乗 り 越 えることができない 1 つの 壁 が 存 在 しており 社 会 復 帰 には 更 なる 一 押 し が 必 要 であることも 指 摘 されている 我 々は 学 校 や 社 会 には 適 応 することは できないが 興 味 を 持 った 場 合 には 乗 馬 ク ラブまでは 自 分 で 来 ることができる 程 度 の 比 較 的 軽 症 の 不 登 校 引 きこもり 児 童 生 徒 を 対 象 に 馬 介 在 療 法 を 実 施 したところ 社 会 への 復 帰 が 可 能 となった 症 例 を 数 多 く 経 験 してきた したがって 従 来 の 治 療 法 に より 症 状 が 軽 減 してきた 症 例 の 次 の 治 療 法 として 馬 介 在 療 法 は 極 めて 有 望 な 治 療 法 で ある 可 能 性 があり その 治 療 効 果 を 科 学 的 に 検 証 する 本 研 究 は 極 めて 重 要 なものであ る 方 法 1 健 常 成 人 を 対 象 とした 乗 馬 に 伴 う 騎 手 の 運 動 生 理 についての 検 討 安 静 時 歩 行 時 ならびに 常 歩 速 歩 駈 歩 の 騎 乗 時 における 心 拍 数 酸 素 消 費 量 を ホルター 心 電 計 ポータブルタイプの 酸 素 消 費 計 を 用 いて 計 測 した 対 象 は 女 性 6 名 ( 年 齢 33.8±8.2 歳 身 長 157.2±5.2cm 体 重 50.0±4.8kg) 男 性 5 名 ( 年 齢 32.0 ±14.1 歳 身 長 171.4±3.0cm 体 重 66.2 ±5.2kg) 男 女 11 名 ( 年 齢 33.0±10.7 歳 身 長 163.6±8.5cm 体 重 57.4±9.7kg) である 2 不 登 校 引 きこもりを 対 象 とした 馬 介 在 療 法 の 科 学 的 検 討 馬 介 在 療 法 を 希 望 する 被 験 者 ならびに 保 護 者 を 対 象 に 研 究 趣 旨 説 明 会 を 行 い 倫 理 委 員 会 の 同 意 書 を 提 出 された 9 名 の 不 登 校 児 ( 高 校 生 ; 男 性 4 名 女 性 5 名 )と 引 き こもり 状 態 の 5 名 の 成 人 ( 男 3 名 女 性 2 名 )( 計 14 名 ;15 歳 ~41 歳 20.5±7.6 歳 ) を 対 象 とした 馬 介 在 療 法 スケジュールは 以 下 のとおり である 見 学 会 厩 舎 見 学 馬 の 見 学 えさやりを 実 施 研 究 主 旨 説 明 会 研 究 主 旨 説 明 同 意 書 の 確 認 診 察 (1 回 目 ) 診 察 生 理 学 的 検 査 血 液 検 査 を 実 施 アクティグ ラフを 装 着 馬 介 在 療 法 プログラム 実 施 実 施 時 間 と 頻 度 2.5 時 間 5 回 / 週 1 回 内 容 検 査 騎 乗 馬 とのふれあい 馬 の 学 習 各 症 状 ( 疲 労 気 分 の 落 ち 込 み イライラ 感 不 安 感 緊 張 意 欲 活 力 体 調 ) の 評 価 については 騎 乗 前 後 に 問 診 表 を 用 いた Visual Analogue Scale (VAS)にて 行 った ( 表 1) 診 察 (2 回 目 ) 診 察 生 理 学 的 検 査 血 液 検 査 を 実 施 アクティグ ラフを 回 収 結 果 説 明 会 検 査 結 果 の 説 明 を 行 う 表 1.VASによる 自 覚 症 状 の 評 価 気 分 の 落 ち 込 みの 程 度 イライラ 感 の 程 度 不 安 感 の 程 度 緊 張 の 程 度 気 分 の 落 ち 込 みは 全 くない イライラ 感 は 全 くない 不 安 感 は 全 くない 緊 張 は 全 くない 気 分 の 落 ち 込 み イライラ 感 不 安 感 緊 張 10cmの 長 さの 中 の 任 意 の 場 所 に をつけて 測 定 する 対 象 者 に 対 しては 1 回 / 週 x5 週 間 にわた って 馬 介 在 療 法 を 実 施 し 毎 回 1 問 診 表 を 用 いた 自 覚 症 状 の 変 化 のチェック 2 心 理 士 による 全 体 観 察 3 加 速 度 脈 波 検 査 に よる 自 律 神 経 系 の 評 価 を 行 うとともに 施 行 前 と 馬 介 在 療 法 後 (5 週 後 )に 大 阪 市 立 大 学 医 学 部 疲 労 クリニカルセンターの 外 来 を 受 診 して 診 察 生 理 学 的 検 査 臨 床 血 液 検 査 を 受 け 馬 介 在 療 法 に 伴 う 生 理 学 的 生 化 学 的 な 変 化 を 検 討 した 結 果 1 健 常 成 人 を 対 象 とした 乗 馬 に 伴 う 騎 手 の 運 動 生 理 についての 検 討 男 性 5 名 女 性 6 名 計 11 名 を 対 象 とし た 心 電 計 と 酸 素 消 費 計 測 系 を 用 いた 検 討 で 2
は 安 静 時 の 心 拍 数 は 83.0±8.3/ 分 酸 素 消 費 量 は 262±79ml/ 分 であったが 常 歩 騎 乗 のみで 心 拍 数 は 103.1±11.7/ 分 酸 素 消 費 量 は 603±132ml/ 分 と 有 意 に 増 加 本 人 が 歩 行 した 場 合 の 心 拍 数 は 98.3±13.4/ 分 酸 素 消 費 量 は 537±84ml/ 分 であり ただ 馬 にまたがっているだけの 常 歩 騎 乗 であって も 歩 行 と 同 等 の 有 酸 素 運 動 になっているこ とが 判 明 した また 速 歩 騎 乗 では 心 拍 数 は 145.2± 17.7/ 分 酸 素 消 費 量 は 1279±305ml/ 分 駈 歩 騎 乗 では 心 拍 数 は 163.1±12.8/ 分 酸 素 消 費 量 は 1516±385ml/ 分 と 自 転 車 エルゴ メーター 負 荷 試 験 の 最 大 運 動 負 荷 に 匹 敵 す るような 有 意 な 増 加 が 認 められた 覚 症 状 の 評 価 を 行 ったが ホースセラピー の 実 施 前 実 施 後 の 評 価 に 有 意 な 変 化 を 見 る ことができていなかった( 図 3) T 得 点 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 T-A D A-H V F C 緊 張 - 不 安 抑 うつ 怒 り- 敵 意 活 気 疲 労 混 乱 図 3 乗 馬 療 法 における POMS の 変 化 実 施 前 実 施 後 酸 素 消 費 量 (L/min) 2.00 1.80 1.60 1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 安 静 時 歩 行 時 常 歩 速 歩 駈 歩 図 1 乗 馬 に 伴 う 酸 素 消 費 量 の 変 化 心 拍 数 ( 拍 / 分 ) 200.0 180.0 160.0 140.0 120.0 100.0 80.0 60.0 40.0 20.0 0.0 11 名 ( 男 性 5 名 + 女 性 6 名 )での 比 較 安 静 時 歩 行 時 常 歩 速 歩 駈 歩 図 2 乗 馬 に 伴 う 心 拍 数 の 変 化 11 名 ( 男 性 5 名 + 女 性 6 名 )での 比 較 2 不 登 校 引 きこもりを 対 象 とした 馬 介 在 療 法 の 科 学 的 検 討 問 診 表 を 用 いた 自 覚 症 状 の 変 化 平 成 17 年 度 の 不 登 校 引 きこもり 5 名 を 対 象 とした 先 行 研 究 では POMS を 用 いて 自 しかし 被 験 者 からは もう 終 わるのは さみしい 非 常 に 楽 しく 過 ごすことがで きました 今 は 部 屋 を 片 付 けたり 久 しぶ りにアルバイトをしようかな と 考 えてい ます 参 加 したことで 気 分 の 落 ち 込 みが 改 善 し 心 身 の 体 調 が 良 くなりました 外 出 の 機 会 が 増 えました などの 前 向 きな 感 想 が 多 く 得 られていた また 毎 回 参 加 していて 楽 しく 過 ごして いたので 体 の 調 子 気 分 は 良 くなってい るという 実 感 があり 生 理 学 的 検 査 では 良 い 結 果 が 出 ているのではないかという 確 信 を 持 っていまが POMS の 質 問 項 目 の 中 に ネガティブな 言 葉 がたくさんあり 自 分 の 中 の 自 信 がないところを 刺 激 して 記 入 の 際 前 回 よりよくなっているという 気 持 ち で 記 入 できなかったので 残 念 でした と いう 実 際 の 声 と POMS の 結 果 との 矛 盾 がみ られていた そこで 平 成 18 年 度 は 不 登 校 引 きこも り 9 名 を 対 象 に 各 症 状 ( 疲 労 気 分 の 落 ち 込 み イライラ 感 不 安 感 緊 張 意 欲 活 力 体 調 )の 評 価 については POMS では なく Visual Analogue Scale (VAS) ( 表 1)にて 評 価 を 行 ったところ 気 分 の 落 ち 込 み いらいら 感 不 安 感 緊 張 の 項 目 にお いて 騎 乗 前 と 騎 乗 後 では 有 意 な 改 善 が 認 められた()( 図 4 図 5) 3
図 4 VAS による 気 分 の 落 ち 込 み イライラ 感 の 評 価 自 尊 心 尺 度 による 評 価 アリス W ポープ/1992 による 自 尊 心 尺 度 を 使 用 して 評 価 したところ ホースセ ラピー 前 には 全 般 家 族 社 会 に 対 して の 自 尊 心 ( 自 分 を 大 切 にする 気 持 ち)が 健 常 児 と 比 較 し 明 らかに 低 下 していた しかし ホースセラピーの 参 加 後 は 全 般 家 族 に 対 して 改 善 の 傾 向 がみられた( 図 6) 図 5 VAS による 不 安 感 緊 張 感 の 評 価 臨 床 心 理 士 による 全 体 観 察 参 加 した 14 例 すべての 症 例 でホースセ ラピーの 施 行 に 伴 い 以 前 に 比 較 して 表 情 が 明 るくなる 家 庭 での 会 話 が 増 える 日 常 生 活 における 行 動 量 が 増 加 するなどの 改 善 が 認 められた 尚 臨 床 心 理 士 による 臨 床 心 理 学 的 考 察 では 下 記 所 見 が 得 られた 表 情 が 明 るくなり また 柔 らかくな ったことから 緊 張 感 が 取 れ メンタ ルヘルスの 向 上 につながったと 解 釈 で きる プログラムに 参 加 することで 他 者 と の 関 係 を 深 めることにつながり 対 人 コミュニケーションスキルの 向 上 がみ られた 交 通 機 関 を 使 って 一 人 で 来 場 する 乗 馬 に 関 してインストラクターやスタッ フに 質 問 したり 会 話 をすすめ 実 際 にそうした 知 識 を 利 用 するというプロ セスを 踏 むことで ソーシャルスキル の 向 上 がみられた 騎 乗 の 内 容 は ステップアッププログ ラムとなっているため 達 成 感 が 得 ら れ 大 きな 自 信 につながったと 考 えら れる 図 6 自 尊 心 尺 度 による 評 価 加 速 度 脈 波 の 周 波 数 解 析 による 自 律 神 経 系 の 評 価 生 理 学 的 検 査 として 行 った 加 速 度 脈 波 の 周 波 数 解 析 による 自 律 神 経 系 の 評 価 では 馬 介 在 療 法 を 行 う 前 に 評 価 した 被 験 者 14 名 の 成 績 は 交 感 神 経 系 の 緊 張 が 健 常 者 に 比 較 して 上 昇 している 傾 向 がみられたが 常 歩 (なみあし) 騎 乗 の 前 後 の 変 化 を 検 討 し たところ 馬 に 騎 乗 1 時 間 後 には LF HF 比 が 有 意 に 低 下 し( 図 7 左 ) 脈 拍 の 揺 らぎも 増 加 しており( 図 7 右 ) 常 歩 騎 乗 は 交 感 神 経 系 の 緊 張 を 緩 和 し 自 律 神 経 系 のバランス を 改 善 させる 効 果 があることが 明 らかにな った 図 7 加 速 度 脈 波 の 周 波 数 解 析 による 自 律 神 経 系 の 評 価 アクティグラフによる 行 動 量 睡 眠 覚 醒 リズムの 評 価 今 回 検 討 できた 症 例 数 は 5 名 と 尐 なく 有 意 差 検 定 は 行 うことはできなかったが 4
騎 乗 プログラムの 実 施 が 始 まる 前 の 3 日 間 と プログラム 終 了 後 からの 3 日 間 で 評 価 した 結 果 を 見 てみると 日 中 の 活 動 量 が 増 えて 中 途 覚 醒 が 減 っている 傾 向 がみられ た また 被 験 者 の 睡 眠 時 間 を 見 てみると 平 均 約 9 時 間 の 睡 眠 をとっていたが ホー スセラピー 参 加 後 では 睡 眠 時 間 の 減 尐 活 動 時 間 の 増 加 傾 向 がみられた( 図 8) 図 8 アクティグラフによる 行 動 量 睡 眠 覚 醒 リズムの 観 察 図 9は 16 歳 男 子 生 徒 のアクティグラフ の 結 果 を 示 しているが プログラム 参 加 前 の 3 日 間 と 参 加 後 の 3 日 間 の 比 較 では 日 中 の 活 動 量 活 動 量 が 増 え 睡 眠 時 間 が 短 縮 している 図 9 16 歳 / 男 子 のデータ (プログラム 参 加 前 の 3 日 間 と 参 加 後 の 3 日 間 の 比 較 ) 内 分 泌 学 的 検 討 平 成 17 年 度 の 5 名 の 検 討 では 血 清 中 の dehydroepiandrosterone salfate (DHEAS)は 5 例 すべての 症 例 が 馬 介 在 療 法 後 (5 週 後 ) に 上 昇 しており 有 意 な 変 化 が 認 められた しかし 平 成 18 年 度 の 9 症 例 を 含 めた 14 名 の 検 討 では 減 尐 する 症 例 も 数 例 みとめ られたため 全 体 的 には 増 加 傾 向 はみられ たが 統 計 学 的 な 有 意 差 はみとめられなかっ た したがって 内 分 泌 学 的 な 評 価 を 行 う ためには 今 後 症 例 数 を 増 やした 更 なる 検 討 が 必 要 であると 思 われる 考 案 ホースセラピーの 歴 史 は 古 く 古 代 ギリシ ャ 時 代 から 負 傷 した 兵 士 の 身 体 機 能 回 復 に 乗 馬 療 法 を 用 いていた 最 近 では ホースセラピーは 医 療 教 育 スポーツ レクリェーションの4つの 要 素 を 併 せ 持 ち 心 身 両 面 への 直 接 的 セラピー 効 果 があるという 馬 の 背 から 伝 導 される 上 下 前 後 回 転 運 動 が 人 間 の 直 立 歩 行 に 必 要 となる 脊 柱 の 対 角 線 上 の 動 きを 学 習 する 刺 激 になると 言 われており 馬 の 動 き による 乗 り 手 の 腰 部 の 揺 れが 回 転 作 用 とな って 伝 わり 脳 幹 が 刺 激 され 機 能 回 復 訓 練 を 促 進 させるという 説 もある しかし 実 際 に 心 身 のどこに どのよう な 効 果 を 与 えているのかについて 科 学 的 に 検 証 した 研 究 は 尐 ない 我 々は 前 回 まで の 男 性 被 験 者 の 検 討 において 特 に 技 量 の 必 要 ない 常 歩 (なみあし) 乗 馬 も 優 位 な 有 酸 素 運 動 になっている 可 能 性 を 報 告 してき た そこで 今 回 は 体 格 の 異 なる 女 性 の 被 験 者 についてもポータブルタイプの 酸 素 消 費 計 を 用 いて 同 様 の 検 討 を 加 えたところ 常 歩 乗 馬 が 優 位 な 有 酸 素 運 動 になっている ことが 確 認 され 性 や 体 格 に 関 係 なく 常 歩 乗 馬 は 有 効 な 運 動 療 法 であることが 明 らか になった また 年 齢 による 差 も 余 り 認 め られなかった このことは 常 歩 騎 乗 を 用 いたホースセ ラピーは 男 女 や 年 齢 を 問 わず 有 効 な 運 動 療 法 となりうることを 示 唆 している 次 に 不 登 校 引 きこもりの 症 例 を 対 象 に 1 問 診 表 を 用 いた 自 覚 症 状 チェック 自 尊 心 尺 度 による 評 価 2 心 理 士 による 観 察 3 加 速 度 脈 波 検 査 による 自 律 神 経 系 評 価 4 アクティグラフによる 行 動 量 の 変 化 や 睡 眠 覚 醒 リズム 評 価 5 臨 床 血 液 検 査 などによ って 馬 介 在 療 法 の 効 果 を 科 学 的 に 検 討 した その 結 果 自 覚 的 には 気 分 の 落 ち 込 み イライラ 感 不 安 感 緊 張 に 明 らかな 改 善 がみ られ アクティグラフの 結 果 から 日 中 の 活 動 時 間 や 活 動 量 が 増 える 傾 向 にあるのでは ないかという 推 測 が 得 られた また 自 尊 心 に 関 して その 向 上 が 望 めるのではない かという 結 果 が 得 られた 心 理 士 による 全 体 観 察 評 価 では すべて の 症 例 でメンタルヘルスの 向 上 が 認 められ 加 速 度 脈 波 解 析 による 自 律 神 経 系 の 評 価 で は 交 感 神 経 系 の 緊 張 が 健 常 者 に 比 較 して 上 昇 している 傾 向 がみられたが 常 歩 騎 乗 5
1 時 間 後 には LF HF 比 が 有 意 に 低 下 し 脈 拍 の 揺 らぎ(%CV)が 増 加 しており 自 律 神 経 系 の 活 動 に 影 響 を 与 えていることが 確 認 された したがって 本 研 究 により 常 歩 騎 乗 による 馬 介 在 療 法 の 効 果 を 科 学 的 に 検 証 する 1 つの 手 がかりが 得 られたといえる 尚 我 々はただ 馬 にまたがっているだけ の 常 歩 騎 乗 であっても 男 女 や 年 齢 を 問 わず 有 効 な 運 動 療 法 となっていることに 気 付 き 報 告 してきた( 平 成 16 年 度 報 告 書 ) した がって ホースセラピーの 効 果 は 有 酸 素 運 動 に 伴 うものであるのか それとも 馬 との 触 れ 合 いが 重 要 なポイントになっているの かの 検 討 も 必 要 である ごく 最 近 関 西 福 祉 科 学 大 学 の 学 生 10 名 を 対 象 に 精 神 作 業 付 加 による 疲 労 時 にお ける 乗 馬 と 有 酸 素 運 度 ( 歩 行 )との 効 果 を 比 較 検 討 したところ 有 酸 素 運 動 だけでも 疲 労 度 活 力 の 程 度 緊 張 の 程 度 意 欲 の 程 度 の 改 善 がみられたが 乗 馬 では 疲 労 度 気 分 の 落 ち 込 み 度 いらいら 度 活 力 の 程 度 不 安 感 の 程 度 意 欲 の 程 度 体 調 の 程 度 に 改 善 がみられ 有 酸 素 運 動 の 効 果 に 加 え 気 分 の 落 ち 込 み 度 や 不 安 感 の 程 度 など のネガティブな 症 状 を 改 善 させる 効 果 がみ とめられた( 図 10 図 11) これは 乗 馬 では 心 理 的 効 果 として 馬 に 乗 ることでその 高 さに 感 動 し 馬 の 温 かさ から 愛 着 が 芽 生 え 更 に 馬 が 歩 き 出 すこと で 伝 わる 振 動 で 自 立 心 安 堵 感 が 芽 生 え てきて 癒 し に 繋 がっているのではない だろうか これまでの 文 献 を 調 べてみても 有 酸 素 運 動 では 不 安 抑 うつに 及 ぼす 影 響 に 有 意 な 結 果 は 認 められていない( 伊 澤 ) 今 回 ホースセラピーを 実 施 することがで きたのは 14 名 という 尐 ない 人 数 であった が さらに 症 例 を 追 加 し 神 経 内 分 泌 免 疫 系 に 与 える 影 響 や 症 状 の 改 善 についてより 理 解 できるような 更 なる 検 査 及 び その 方 法 について 検 討 をし 馬 介 在 療 法 の 効 果 を 科 学 的 に 検 証 することにより 不 登 校 引 きこもりで 困 っている 人 々が 身 近 な 乗 馬 施 設 において 馬 介 在 療 法 を 受 けることの 出 来 るが 日 が 来 ることを 願 ってやまない 謝 辞 本 研 究 の 馬 介 在 療 法 にご 協 力 頂 いた 服 部 緑 地 乗 馬 センターのみなさま 不 登 校 の 子 供 たちを 引 率 頂 いた 向 陽 台 高 校 西 隆 二 先 生 成 人 の 引 きこもりの 方 々の 引 率 を 頂 いた NPO 法 人 京 都 教 育 サポートセンター 谷 圭 祐 先 生 に 深 謝 致 します 4.00 3.50 3.00 2.50 文 献 危 ない! 慢 性 疲 労.NHK 生 活 人 新 書 ( 倉 恒 弘 彦 井 上 正 康 渡 辺 恭 良 編 )NHK 出 版 2004 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 前 疲 労 直 後 タスク 直 後 1 時 間 後 2 時 間 後 図 10 有 酸 素 運 動 ( 歩 行 )に 伴 う 不 安 感 の 変 化 4.00 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 前 疲 労 直 後 タスク 直 後 1 時 間 後 2 時 間 後 図 11 常 歩 (なみあし) 騎 乗 に 伴 う 不 安 感 の 変 化 6