生活に欠かせない食事 食卓には様々な食器が並びます 江戸時代以前の食器は木製品や漆器, 素焼きの土師質土器などが多く使われていました 江戸時代にも漆器が食器として多く使われており, そのほかに陶器や磁器も使われるようになります 江戸時代初期は焼物の食器としては陶器が主に使われます からつ 陶器は当時



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(3) 玉露他茶種に比べて苦渋味成分であるタンニン量がやや少ないが 苦み成分の代表であるカフェインは多い特徴がある そのため アミノ酸類は溶出するが カフェインをはじめとした苦渋味成分が溶出しにくい低温の湯で淹れることがポイントとなる 玉露 濃い緑で艶がある茶葉が特徴 (4) 番茶 ( 玄米茶 焙じ

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平成 25 年 2013 年 2013 加賀市観光 加賀市観光統計 統計 長期推移 大聖寺川 流し舟 舟 片山津温泉 花火大会 山中温泉 鶴仙渓川床 川床 加佐の岬 岬 山代温泉 大田楽 =========================== 目 次 ========================

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アイヌ政策に関する世論調査 の概要 平成 3 0 年 8 月内閣府政府広報室 調査対象 全国 18 歳以上の日本国籍を有する者 3,000 人 有効回収数 1,710 人 ( 回収率 57.0%) 調査時期平成 30 年 6 月 28 日 ~7 月 8 日 ( 調査員による個別面接聴取 ) 調査目的

Ⅱ 調査結果の概要

三 重 県 阿 部 総 務 部 長 三 浦 主 幹 三 重 県 庁 三 重 県 市 長 会 定 例 会 三 重 県 町 村 会 事 務 局 8 月 1 日 8 月 4 日 8 月 5 日 8 月 5 日 8 月 19 日 8 月 20 日 8 月 22 日 8 月 25 日 三 重 県 7 宮 城

結婚しない理由は 結婚したいが相手がいない 経済的に十分な生活ができるか不安なため 未婚のに結婚しない理由について聞いたところ 結婚したいが相手がいない (39.7%) で最も高く 経済的に十分な生活ができるか不安なため (2.4%) 自分ひとりの時間が取れなくなるため (22.%) うまく付き合え

3. 家族とのコミュニケーションを増やしたい さらに 家庭で使いやすい IT ツールがあれば使ってみたい と思う オンライン家族 予備軍は 41.2% 家族とのコミュニケーションに IT ツールを 2~3 日に 1 回以下 の頻度で使っている人の中には 今よりも 家族とのコミュニケーションを増やした

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食用油の購入 購入する容量は少ないが 使い切り期間は長い 一人暮らし 食用油の購入頻度は 一人暮らし 夫婦のみ が 3 ~ 5 ヶ月に 1 回程度 夫 婦と子 は 月 1 回程度 が最も多く また未開封油の平均ストック本数は 一人暮ら し 夫婦のみ 夫婦と子 の順に 2.2 本 3.3 本 4.1

調査概要 (1) 調査実施方法 : 各施設内でアンケート調査を配布し 対象者の自記式による記入後に回収 (2) 調査時期 : 2017 年 1 月 ~3 月 (3) 調査対象者 : 特養 ( 南さいわい ):83 人 特養 ( こむかい ):14 人計 97 人 (4) 回収数 : 特養 :42 人

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更新履歴 変更履歴 版数 リリース日 更新内容 第 1 版 2017/5/15 第 1 版発行 第 2 版 2017/7/13 更新履歴 変更内容を追加 (2ページ) 編集の前に を追加(8 ページ ) ブロックエディタ スマートモード エディタモード の説明を追加 (10~12 ページ ) ブロッ

(1)-2 東京国立近代美術館 ( 工芸館 ) A 学芸全般以下の B~E 全て B 学芸 ( コレクション ) 1 近現代工芸 2デザイン 所蔵作品管理 展示 貸出 作品調査 研究 巡回展開催に関する業務 C 学芸 ( 企画展 ) 展覧会の準備 作品調査 研究 広報 会場設営 展覧会運営業務 D


調査の背景 埼玉県では平成 29 年度から不妊に関する総合的な支援施策として ウェルカムベイビープロジェクト を開始しました 当プロジェクトの一環として 若い世代からの妊娠 出産 不妊に関する正しい知識の普及啓発のため 願うときに こうのとり は来ますか? を作成し 県内高校 2 年生 3 年生全員

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生活に欠かせない食事 食卓には様々な食器が並びます 江戸時代以前の食器は木製品や漆器, 素焼きの土師質土器などが多く使われていました 江戸時代にも漆器が食器として多く使われており, そのほかに陶器や磁器も使われるようになります 江戸時代初期は焼物の食器としては陶器が主に使われます からつ 陶器は当時の高級品であり, 肥前の唐津焼, 美濃の志野焼といっ た県外で生産されたものがみられます 県内での陶器生産は 7 お ど 世紀半ばに高知市の尾戸窯で始まり,8 世紀末には陶器の日用 志野焼向付雑器が県内に広く流通しました ( 高知市西弘小路遺跡出土 ) また, 磁器は江戸時代の初め頃までは中国からの輸入品に限られており, 陶器よりも高級な食器として扱われていました 日 本では江戸時代初めの0 年代に肥前 ( 佐賀県 ) 有田で初めて磁器の焼成に成功し, 伊万里焼と言われるよ み の いまり うになりました 7 世紀前半に作られた伊万里焼は初期伊万里と呼ばれ高級品として扱われました 高知県でも初期伊万里は十数点が確認されており, 上級武家屋敷など限られた遺跡で出土がみられます し の 8 世紀半ばまでは国内産の磁器は肥前産に限られていました その後各地で生産されるようになり, 県内 のうさやま での磁器生産は80 年に高知市能茶山窯で始まりま した 8 年以降は安価な日用品を多量に生産するようになり, 庶民の間でも磁器が使われるようになりました また, 江戸時代中期以降は様々な形の食器がみられるようになります 調理方法も増え, 食事の内容も豊富になり多様化したものとみられます 江戸時代の食器は身分や用途によって種類や数が異なっており, 庶民は一汁二菜または三菜であったようです また, 銘々膳が定着し, 食卓ではなくそれぞれの膳で食事をしていたようです 江戸時代後期の庶民の食器 磁器碗 ( 肥前系 ) 陶器皿 ( 能茶山焼 ) 磁器皿 ( 波佐見焼 ) 酒 陶器貧乏徳利 ( 瀬戸美濃系 ) 陶器燗徳利 磁器徳利 ( 肥前系 ) 陶器徳利 ( 能茶山焼 ) 磁器酒杯 高知県人は酒が大好きであると言われます 江戸時代にも酒に関わる出土遺物が多くみられます 江戸時代中期には酒を日常的に飲むようになり,8 世紀後半には清酒が登場したと言われています 江戸時代後期には清酒が普及し, 発掘調査では薄手の磁器の酒杯が出土するようになります とっくり 徳利は磁器や陶器のものがあり, 酒を温める燗徳利や酒 屋で量り売りをした酒をいれる通い徳利や貧乏徳利とも言われる口の上部が張り出し, 紐で吊るしやすくなっている徳利などがあります かん

煮炊具や調理具など台所にある素敵な道具たち しゃすいぐ煮炊具はこれまで土師質と瓦質であったものに加え, 陶器の鍋がみられるようになります 鍋も把ゆきひらなべ手がついたものや片手鍋で蓋付の行平鍋など形態も多様になります 9 世紀になると県内の能茶山窯で生産された行平鍋もみられるようになります こんろまた, 幕末には食膳で焜炉に鍋をかけて食す鍋料理が流行したようで出土量も増加します ほうろく土師質の焙烙は江戸時代以前からみられるもので, 江戸時代には大きな浅い皿状の形態になります 焙烙はお茶や豆, 薬などを炒るためもので, 城下町ではみられず農村部で出土し, 生活形態の違いをご知ることができます また, 特殊なものとしては胡まい麻煎りなども出土しています 調理具 擂鉢 ( 堺 ) 焼塩壺 ( 関西系 ) 焼塩壺蓋 片口 ( 能茶山焼 ) 杓子 胡麻煎り 煮炊具 土師質土器釜 陶器鍋 ( 能茶山焼 ) 陶器行平鍋 陶器土瓶 陶器急須 土師質土器焙烙 江戸時代になって初めてみられるものとしては土瓶や急須があります 江戸時代後期には庶民にもせんちゃ煎茶の文化が広がり, 農村でも多く出土しています 調理具としては鉢や杓子などがあります 絵画資すりばちこねばち料や文字史料では擂鉢や捏鉢, 片口では練り物や和え物, 麺類などを作ったと言われており, 江戸時代の豊かな食卓が想像できます 注ぐための道具として片口や杓子などもあります 焼塩壺は塩を入れて再度, 土器ごと焼くことで にがり がとれ上質の塩ができるもので, そのまま販売されました 焼塩は高級なものであり県内では城下町で出土しています 喫茶の風習 江戸時代の初めの7 世紀前半には, 茶道で使われる立てるお茶である抹茶が定着したと言われていせんちゃいます 8 世紀中頃に宇治で玉露の製法が発明され, 淹れるお茶である煎茶が幕末には庶民にも普及したようです 煎茶は茶の新芽や若葉を摘んでほうろくい蒸し, 焙烙などで焙り乾かしたものを煎じて飲用するもので, 抹茶よりも簡単であり広く日常的に飲まれるようになったと言われています どびんこんろりょうろそれに伴い土瓶や煎茶用の焜炉である涼炉の出土量が増加し, 碗も容量が小さいものが多くみられるようになります 土瓶小振りの碗

火具や暖房具など寒い冬には恋しいものたち こんろ発掘調査で出土する火具には移動式の焜炉などしちりんりょうがあります 焜炉には七輪や煎茶用の焜炉である涼ろふろ炉, 茶道具である風炉などがみられ, 材質や形態, 構造, 用途は多岐にわたり様々なものがあります 七かまど輪は竈に比べて, とても簡便で熱効率が良く少量の木炭でも火力を得られたことから, 江戸時代後期には多くみられるようになります 七輪は絵画資料によると台所で薬を煎じたり, 酒を温めるための土瓶をかけたり加熱具の他, 屋外での暖房具としての使用例や茶道具に転用する例もみられ, 江戸時代の火具は用途での明確な線引きは難しいようです 火具と暖房具 土師質土器焜炉 陶器火鉢 ( 瀬戸 美濃系 ) 土師質土器火消壺 磁器火入 ( 能茶山焼 ) 瓦質土器火鉢 土師質土器涼炉 灯明具 陶器台付灯明受皿 ( 能茶山焼 ) 土師質土器乗燭 陶器乗燭 ( 肥前系 ) 陶器カンテラ ( 信楽焼 ) 陶器灯明皿 陶器灯明受皿 発掘調査で出土する灯明具には陶器のものが多くみられます 灯明皿は江戸時代以前からみられるもので, 皿に油を入れて灯心を浸して点火するものです 油は高価であり, 灯明皿からこぼれる油を受ける灯明受皿も併せて使われました ひょうそく 乗燭は灯心を立てる専用の台がついているもの で, 灯明皿より油が多く入り灯火時間が長くなるの ひょうそく が特徴です カンテラも乗燭の一種で, 口の部分に 灯心を差して使用します 喫煙の風習 きせる煙管はヨーロッパのパイプをモデルにして江戸時代には日本独自のものができたと言われています 0 年には喫煙が大流行し, その後数度の禁煙令にも関わらず喫煙の風習が深く浸透したようです 江戸時代後期には墓の副葬品にも多くみられるようになり, 庶民の間にも広く流布していたことがわかります ひいれはいふき屋内での喫煙では, 点火用の炭火を収める火入, 灰を捨てる灰吹, 刻み煙草を入れる煙草入, 煙管をまとめて煙草盆に置きました 火入や灰吹は焼物が多く発掘調査でも多く出土します 煙草盆は木製のものがほとんどで板状や箱形など様々な形態のものがあります 煙草盆は茶会でもなくてはならないもので, 工芸に富んだものが多くみられます 喫煙の道具

子ども用の玩具から趣味の道具まで生活を楽しく過ごすための必需品 玩具 独楽 羽子板 泥面子 江戸時代にはそれ以前にはなかった子供のみを対象とした玩具や趣味の道具が多くみられるようになり, 庶民の生活にもゆとりが生まれ日々楽しんでいたことが窺われます 発掘調査で出土する玩具には木製品や土製品な どがあります 木製品では羽子板や独楽など江戸時 代以前からみられ, 現在でも同じ形で親しまれてい どろめんこ るものもあります 泥面子は素焼きの土製品で幕末 に大流行し, 明治時代には紙製の面子になったと言われています 泥面子は県内でも城下町だけでなく農村部などでも出土し, 様々な図柄のものがあり当時の流行を表しているといえます こ ま はとぶえ鳩笛は鳩の鳴き声に似た音を出す土製の笛で, 食膳に置くと幼児が食べ物を胸に詰まらせないという俗信もあります 江戸時代には字を書くこ鳩笛とができる識字層が非常に すいてき増え, 硯や硯に水を注ぐ水滴なども多く出土するようになります 娯楽に使われた箱庭道具や鳥の餌鉢など趣味の道具もみられます 箱庭道具は小さな箱や盤に木や岩を配置し, 橋や灯籠, 舟などを置いて景色を楽しむも文房具と趣味の道具のです また, 鳥や金魚などのペットを飼うことも流 将棋盤 餌鉢 箱庭道具 硯 水滴行し, 豊かな生活ぶりが伝わってきます 土人形は江戸時代に多くみられるもので, 人物や動物など様々な形のものがあります 土人形は玩具としてだけではなくそれぞれに性格をもった信仰に関する遺物でもあります 江戸時代前期は子供の成長を願うような民間信仰に関連するものが多く, ひな中期になると雛など節句関連のもの, 後期には愛玩的なものが多くみられます じんやま南国市陣山遺跡からは土人形と土人形型が多数出土しており, 土人形を作っていたとみられます 陣山遺跡は下級武士 である郷士細木氏の屋敷があったとされており, 副業として土人形作りを行うな土人形土人形型ど, 半士半農の生活を送っていたと考えうちわ 恵比寿 西行 お多福 童と団扇 ( 陣山遺跡出土 ) られます

仏具や神具, いつの時代も変わらないものたち 江戸時代には, 家ごとに仏壇や神棚が設けられてお り, 特に武家屋敷からは神仏具が多く出土します 仏 具や神具などの信仰に関するものは長い間, 形があま ぶっかき ぶっぱんき みきどっくり り変わりません 仏花器や仏飯器, 神酒徳利などは独 特な形をしており, 現在も仏花器や仏飯器はほとんど同じ形をしています 仏花器や仏飯器などは古くは銅製品が多くみられますが, 江戸時代の家庭内の仏具と しては焼物が多かったようです 仏具と神具 磁器仏飯碗 陶器仏花器 磁器仏花 ( 肥前系 ) 磁器神酒徳利 ( 肥前系 ) 南国市田村遺跡群では江戸時代の墓が多数見つかっています 集落の一画に群を形成して確認されていることから, 墓地あるいは墓域であったものと考えられます また, 基が対になっているものも多くみられ夫婦墓の可能性も考えられます 墓は木棺に土葬したものが多く, 木棺の一部や釘, 骨や歯が残っているものもあります 副葬品は磁器の碗や煙管, 寛永通宝などの古銭が入っているものなどがみられます 墓の副葬品 ( 南国市田村遺跡群 ) 江戸時代の墓 ( 南国市田村遺跡群 ) いつの時代にもおしゃれには気を使います 江戸時代の化粧は年齢や身分, 階級, 既婚, 未婚を表すものでもあり, 身なりを整えるための道具も多く出土します 化粧用の口紅を入れる紅皿, 髪飾りであるかんざしなど女性が使うための道具が多いのは現在でも同じようです また現在ではみられませんがお歯黒を塗ったあと口をゆすぐためのうがい茶碗などもあります 男性も使うものでは, 整髪油を入れる髪油壺や整 びんみずいれ 髪料をいれる鬢水入などがみられます 鬢水入は櫛 が浸しやすいように楕円形になっています 化粧道具と整髪道具 うがい茶碗 髪油壺 ( 肥前系 ) 紅皿 ( 肥前系 ) かんざし 鬢水入

高知に運ばれてきた江戸時代の焼物 県内で陶磁器が生産され始めるまでは, 県外で生産された陶磁器が武家屋敷などで出土します 江戸時 はさみ 代後期になると県内で生産された陶磁器のほか, 肥前系や波佐見焼, 瀬戸 美濃系など庶民向けに大量生産 された陶磁器が農村部でも多く出土するようになります また, 擂鉢は県内産がみられず, 堺や明石で生産されたものが多いようです 唐津焼 萩焼 瀬戸 美濃系 肥前系 信楽焼 波佐見焼 堺 県内の主な江戸時代の窯跡 津 佐 戸 尾戸窯跡承応 () 年に藩窯として開窯 陶器を生産 文政 (8) 年に廃窯し, 陶工は能茶山に移る 能茶山窯跡文政 (80) 年に藩窯として開窯 陶器と磁器を生産 明治 (870) 年に藩窯は廃止され, 民窯となる 内原野窯跡文政 (89) 年に開窯 安田窯跡宝暦年間 (7 7) には開窯していたが, 詳細は不明 田野窯跡文政 (8) 年に開窯 幕末頃には閉窯 奈半利窯跡安政 (88) 年開窯 江戸時代の時期区分 前 7

尾戸窯跡 おづ高知市小津にあった江戸時代の陶器の窯跡で, 茶器や日用品の陶器の普及を図るため二代藩主忠義の命 によって開かれた藩窯です 承応 () 年に関西より陶工を招き, 森田久右衛門や山﨑平内が製作にあ たったとされています 7 世紀後半までは茶陶など贈答品や上手の藩用品を製作していました 中でも白土器は 白かわらけ 白土器 三ツ組土器 など記録にあらわれる土器で, 寿文字 高砂文 鶴亀文の三枚セットとして用いられたとみられます 白い胎土と優れた文様が珍重され, 儀礼の場で使用されたとみられ, 前期 中期には贈答品であり, 元禄期 (7 世紀末 8 世紀初頭 ) には土佐の名産品とされました 京都大学構内遺跡 ( 集落 ) や東京大学構内遺跡の加賀藩上屋敷など県外でも尾戸窯の白土器が出土しています 8 世紀前半には藩の財政難のため尾戸窯跡では民間向けの販売品の製作が主体となり,8 世紀末には尾戸窯で作られた日用雑器が県内に広く流通しました 文政 (8) 年, 磁器藩窯の開始に伴い陶工は能茶山に移転し, 明治 (87) 年に藩窯は廃止され, 民間窯となりました 白土器 現在の尾戸窯跡 尾戸窯跡から出土した遺物 左から高砂文, 寿字, 鶴亀文 二点が溶着した陶器碗 焼け損じの陶器皿さや 匣鉢 トチン ハマ ( は窯道具 ) 能茶山窯跡 かも高知市鴨 べ 部 のう能 さやま茶山にあった高知県で初めて磁器を生産した藩の窯跡で, 文政 (80) 年に肥前大村の陶 工である樋口富蔵を招き開窯したと言われています 文政 (80) 年 天保 (8) 年は高級品を大坂 ( 大阪府 ) に売り出していました 80 年代後半以降は赤字経営に陥り, 天保 7(8) 年以後, 日用品を大量に作り土佐国内で安価に販売しました 天保 8(87) 年以後の製品には サ 茶 茶山 などの銘がみられ県内で多く出土します その後, 明治 (870) 年に藩窯は明治維新で廃止され, 民窯として興廃しながら現在に至っています 現在の能茶山窯跡 7 8 県内で出土した能茶山窯の製品 磁器碗 磁器蕎麦猪口 磁器皿 陶器徳利 陶器火鉢 7 陶器餌鉢 8 陶器灯明受皿 能茶山窯製品の銘 編集 発行 高知県文化財団埋蔵文化財センター高知県南国市篠原 7 088 8 07 発行年月日平成 年 月 日印刷共和印刷株式会社 8