藤田学園第8回市民公開講座テキスト



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3 尿意切迫感 : 急に起こり抑えられない強い尿意で我慢することができないという愁訴である. 水に触れたり, 流れる音を聞いたり, 水の流れを見たりすると誘発されることが多い. 正常者が感じる排尿を我慢していて徐々に増強する強い尿意とは異なり, 予測できない突然起こる強い尿意である. 4 切迫性尿失

過活動膀胱とは 尿意切迫感 があり 頻尿 夜間頻尿 や 時に 切迫性尿失禁 がある状態を過活動膀胱といいます 過活動膀胱は 膀胱が勝手に縮んだり 過敏な働きをするために起こります 尿意切迫感 頻尿 夜間頻尿 切迫性尿失禁 それまで何もなかったのに 突然トイレに行きたくなり がまんが難しい症状 日中

健康た?よりNo109_健康た?より

前立腺と下部尿路の生理

はじめに 前立腺癌に対する永久留置法による小線源療法は一口で言うと 弱い放射線を出す小さな線源を前立腺内に埋め込み 前立腺内部から癌の治療を行うものです ただし すべての前立腺癌に適応できるものではありません この説明書は小線源療法についての概説です よくお読みになった上で ご不明の点があれば担当医

206 年実施卒後教育プログラム ( 日泌総会 ) 領域等タイトル日時単位 日泌総会卒後 日泌総会卒後 2 日泌総会卒後 3 日泌総会卒後 4 日泌総会卒後 8 日泌総会卒後 9 日泌総会卒後 0 日泌総会卒後 日泌総会卒後 2 日泌総会卒後 3 日泌総会卒後 4 日泌総会卒後 5 日泌総会卒後 6

移動は車椅子 移乗には一部介助必要 更衣には一部介助必要 生活状況食事は箸で自力摂取 入浴は一部介助が必要 会話可能だが排泄失敗時 混乱 興奮がみられる アセスメント日中の排尿回数が少ないこと 1 回排尿量が多いことから 溢流性尿失禁は考えにくく 腹圧性及び切迫性尿失禁の症状はみられないことから 機

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前立腺癌

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前立腺の変化を知る

虎ノ門医学セミナー

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蓄尿時には平滑筋は弛緩括約筋は収縮 排尿時には平滑筋は収縮括約筋は弛緩する この連動がうまくいってはじめてスムーズな排尿が可能である 正常な蓄尿とそのポイント尿がたまる (100ml くらい尿がたまると尿意を感じる 普段は大体 ml くらいで排尿しているはずなので 健常者では回数は 5

腹腔鏡下前立腺全摘除術について

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

泌尿器科領域講習 2015 年実施卒後教育プログラム 日泌総会卒後 1 日泌総会卒後 2 日泌総会卒後 3 日泌総会卒後 4 日泌総会卒後 5 日泌総会卒後 6 日泌総会卒後 7 日泌総会卒後 8 日泌総会卒後 9 日泌総会卒後 10 日泌総会卒後 11 日泌総会卒後 12 日泌総会卒後 13 日泌

第 2 週目 (4 月 9 日放送分 ) Q 夜尿症は排尿機構の発達の遅れが原因ということですが それはどのような仕組みになっていますか? A 尿が作られ 排泄される仕組みはこのようになっています 尿は腎臓で作られ 尿管を通って膀胱に貯められます そして尿をしたいと思ったとき膀胱の出口が緩んでおしっ

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39 過活動膀胱 頻尿 尿意切迫感 尿失禁でお困りの方へ 一般社団法人日本臨床内科医会

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

( 本カードは常に携帯いただくか おくすり手帳に貼ることもできます ) ( 本カードは常に携帯いただくか おくすり手帳に貼ることもできます ) カードの作り方カードの作り方下の図のように下の図のようにおつくりください おつくりください 本カードは必ず服用カード常に携帯ください患者さんへ医療機関を受診

領域等タイトル日時単位 卒後 卒後 2 卒後 3 卒後 4 卒後 8 卒後 9 卒後 0 卒後 卒後 2 卒後 3 卒後 4 卒後 5 卒後 6 卒後 7 卒後 8 卒後 9 尿路感染症 性感染症ガイドライン 4 月 23 日 ( 土 )8:20-9:50.5 VUR の診断と治療 4 月 23 日

藤田学園第3回市民公開講座テキスト

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

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患者必携 がんになったら手にとるガイド 編著 国立がん研究センターがん対策情報センター 発行 学研メディカル秀潤社 患者必携 前立腺がんの療養情報 前立腺がんは 前立腺肥大による排尿困難などの症状や腫瘍マーカー検査をきっ かけに診断されることがふえています 症状や病期などによって無治療による経過 観

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目 次 CONTENTS 1. はじめに 3 2. 下部尿路症状 4 3. 疫学 5 4. 排尿の仕組み 6 5. 下部尿路機能の分類 7 6. 蓄尿障害の疾患 病態 治療 8 1 腹圧性尿失禁 8 2 切迫性尿失禁と過活動膀胱 10 Ⅰ. 抗コリン薬 13 1 トルテロジン 13 2 ソリフェナシ

はじめに 近年 がんに対する治療の進歩によって 多くの患者さんが がん を克服することができるようになっています しかし がん治療の内容によっては 造精機能 ( 精子をつくる機能のことです ) が低下し 妊娠しにくくなったり 妊娠できなくなることがあります また 手術の内容によっては術後に性交障害を

2006 PKDFCJ

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

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医療連携ガイドライン改

がん登録実務について

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

主な手術実績根治的前立腺全摘除術 85 ( ロボット支援手術 85) 膀胱全摘除術 12 ( 腹腔鏡下手術 12) 腎摘除術 23 ( 腹腔鏡下手術 21) 腎部分切除術 18 ( ロボット支援手術 18) 腎尿管全摘除術 26 ( 腹腔鏡下手術 26) ドナー腎摘出術 17 ( 腹腔鏡下手術 17

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

( 例 : 投与 2 週後 以後 3 ヶ月ごと ) に施行することが望ましい さらに 前述の排尿状態悪化の可能性 その場合の自覚症状について患者に十分に説明を行い 排尿困難にかかわる症状を自覚した場合には すみやかに受診するように指導することも早期発見 早期対応のポイントである 2. 副作用の概要

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

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外来在宅化学療法の実際

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連携ニュ−ス発刊にあたって

国際医療福祉大学 診療情報管理学科

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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国立病院機構京都医療センター  泌尿器科 医療連携のための排尿障害診療ガイドライン


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2017年度患者さん満足度調査結果(入院)

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はじめに 連携パス とは 地域のと大阪市立総合医療センターの医師が あなたの治療経過を共有できる 治療計画表 のことです 連携パス を活用し と総合医療センターの医師が協力して あなたの治療を行います 病状が落ち着いているときの投薬や日常の診療はが行い 専門的な治療や定期的な検査は総合医療センターが

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放射線併用全身化学療法 (GC+RT 療法 ) 様の予定表 No.1 月日 経過 達成目標 治療 ( 点滴 内服 ) 検査 処置 活動 安静度 リハビリ 食事 栄養指導 清潔 排泄 / 入院当日 ~ 治療前日 化学療法について理解でき 精神的に安定した状態で治療が

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CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

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甲状腺機能が亢進して体内に甲状腺ホルモンが増えた状態になります TSH レセプター抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺にも影響します 母体の TSH レセプター抗体の量が多いと胎児に甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性が高まります その場合 胎児の心拍数が上昇しひどい時には胎児が心不全となったり 胎児の成

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はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

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1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( / ) 上記外来の名称 ストマ外来 対象となるストーマの種類 コロストーマとウロストーマ 4 大腸がん 腎がん 膀胱がん ストーマ管理 ( 腎ろう, 膀胱ろう含む ) ろう孔管理 (PEG 含む ) 尿失禁の管理 ストーマ外

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がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

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手術の概要 尿道 膀胱 精嚢 前立腺 直腸 手術の目的は前立腺と付随する精囊を一緒に全部とることです 前立腺を摘出した後に膀胱と尿道をつなげます また 前立腺の近くにあるリンパ節を取ることもあります 高リスクの前立腺がんでは出来るだけ広い範囲のリンパ節をとることもあります 摘出部位 麻酔方法 : 全

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27 年度調査結果 ( 入院部門 ) 表 1 入院されている診療科についてお教えください 度数パーセント有効パーセント累積パーセント 有効 内科 循環器内科 神経内科 緩和ケア内科

市民病院のウロギネセンターがめざすもの~骨盤臓器脱と尿失禁~

腹腔鏡補助下膀胱全摘除術の説明と同意 (2) 回腸導管小腸 ( 回腸 ) の一部を 導管として使う方法です 腸の蠕動運動を利用して尿を体外へ出します 尿はストーマから流れているため パウチという尿を溜める装具を皮膚に張りつけておく必要があります 手術手技が比較的簡単であることと合併症が少

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

例えば行為の際に使用する ツール について 行為との関連性をわかりやすくするために イベントの p/o である行為の p/o として記述した 咀嚼する 時に使用するツールである 義歯 は 咀嚼する の p/o でありツールロールを担う として記述する オントロジーに記述する概念は 極力看護プロファイ

2 ている人に膀胱がん膀胱がんが好発することがあります 好発することがあります 一方 ワラビ ゼンマイなどの食べ物や抗がん剤など一部の医薬品も膀胱がんと関係があるといわれています 中東や北アフリカなどの中東や北アフリカなどの発展途上国で発展途上国では住血吸虫症が膀胱がんを引きおこす膀胱がんを引きおこ

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

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藤田学園第 12 回市民公開講座テキスト * 講座名 * くらしと健康 排尿の悩み * 講師 * 排尿のしくみ 白木良一 ( 藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器科学助教授 ) 排尿機能検査について 長嶌和子 ( 藤田保健衛生大学病院臨床検査部検査技師 ) 前立腺の病気と男性の排尿障害 早川邦弘 ( 藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器科学助教授 ) 女性と子供の尿漏れについて 佐々木ひと美 ( 藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器科学講師 ) * 日時 * 平成 19 年 2 月 10 日 ( 土 ) 13:30~16:30 * 場所 * 藤田保健衛生大学フジタホール 2000 学校法人藤田学園 藤田学園医学会

プログラム 第 12 回藤田学園市民公開講座 テーマ くらしと健康 排尿の悩み 開会の挨拶 案内 (13:25-13:30) 辻孝雄 ( 医学部教授 / 実行委員長 ) 学長挨拶 (13:30-13:35) 中野浩 ( 藤田保健衛生大学学長 ) セクション 1(13:35-14:35) 座長 : 中川研二 ( 医学部整形外科学教授 ) 演題 -1 排尿のしくみ (13:35-14:05) 医学部腎泌尿器科学助教授白木良一演題 -2 排尿機能検査について (14:05-14:35) 大学病院臨床検査部検査技師長嶌和子 休憩 (14:35-14:45) セクション2(14:45-15:45) 座長 : 森本紳一郎 ( 医学部内科学教授 ) 演題 -3 前立腺の病気と男性の排尿障害 (14:45-15:15) 医学部腎泌尿器科学助教授早川邦弘演題 -4 女性と子供の尿漏れについて (15:15-15:45) 医学部腎泌尿器科学講師佐々木ひと美 休憩 (15:45-15:55) 総合討論 (15:55-16:30) 座長 : 星長清隆 ( 医学部腎泌尿器科学教授 ) 森本紳一郎 ( 医学部内科学教授 ) 次回の案内と閉会の挨拶 滝田毅 ( 短期大学教授 / 副実行委員長 )

排尿のしくみ 藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器科学助教授 白木良一 尿は血液中の水分と老廃物が 腎臓でろ過されて作られています 腎臓で実際に尿として排泄される量は1 日 1~1.5 リットル程度です 尿は私たちの身体の維持にとって大変重要な役割を果たしているのです 腎臓で作られた尿は膀胱に集まります 膀胱は尿を貯める働きをする袋状の臓器で 自分の意思では動かせない平滑筋でできています 通常 150~300ccの尿を貯めることが可能で その間 膀胱の筋肉は緩んで 低い圧力に保たれています 尿道を閉め もれないようにしているのが尿道括約筋です 蓄尿は 中枢神経と末梢神経の調和のとれた働きで 膀胱と尿道をコントロールしています 膀胱に尿が貯まりいっぱいになると この情報が脊髄を通って大脳に伝えられ尿意として認識されます 大脳からの排尿の命令刺激は脊髄を経由して膀胱 尿道に伝えられ 膀胱の収縮と尿道括約筋の弛緩を起こし 尿が排出されるのです 通常は トイレへ行き 排泄するまでの一連の動作が整うまで尿意を抑制できます 一般的な排尿回数は 昼間は5~7 回 夜間は0~1 回が目安です しかし 高齢者では年齢とともに夜間の排尿回数は増える傾向が見られます また 飲水量や発汗量によって変化しますので 単純に尿回数だけで 頻尿 の判断はできません 膀胱が空になると収縮は止まり 尿道が締まり再び蓄尿が開始されます これら蓄尿機能や排尿機能が調和のとれた働きをしない場合 頻尿や尿失禁などの症状が現れます 慢性的な排尿障害を自覚している方は 排尿日誌をつけて専門医を受診されることをお勧めします 講師プロフィール 1984 年 慶應義塾大学医学部卒業 92-94 年 ワシントン大学 ( セントルイス ) 医学部外科研究留学を経て 95 年藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器科学講師 2000 年 同助教授 現在に至る 専門は泌尿器腫瘍の診断と治療 医学博士

市民公開講座排尿のしくみ 腹部 ( 後腹膜 ) 臓器の構造 藤田保健衛生大学腎泌尿器外科白木良一 男性骨盤内臓器の解剖 女性骨盤内臓器の解剖 膀胱と尿道の構造 蓄尿と排尿の生理機構

下部尿路の構造と機能 蓄尿と排尿の神経支配 蓄尿 排尿 様々な排尿障害の症状 腹圧性尿失禁 過活動膀胱 (OAB) の病態

過活動膀胱 (OAB) の有病率正常な排尿とは ( 成人の場合 ) 1 回の排尿量 200~40 400 ml( コップ約 1 杯 ~2 ~ 杯分 ) 1 回あたりの排尿時間 20~30 秒 1 日の排尿量 1,000~1,500 1,500 ml 1 日の排尿回数排尿間隔 5~7 回 3~5 時間に 1 回 ( 起きている間 ) おなかに力をいれなくても排尿できる 尿が途中で途切れたり, なかなか終わらなかったりすることはない 残尿感がない 尿失禁や尿の漏れはない 排尿後すぐに尿意を感じることはない ふつう排尿のために夜起きること 2 回以上はない 尿意をはっきり感じ, ある程度のがまんもできる 排尿症状の頻度 QOL に最も影響のあった排尿症状 (%) 100 昼間頻尿 :8 回以上, 夜間頻尿 :1 回以上, その他 : 週 1 回以上 (%) 50 昼間頻尿 :8 回以上, 夜間頻尿 :1 回以上, その他 : 週 1 回以上 男性 男性 80 女性 40 女性 60 30 40 20 20 10 0 昼間頻尿昼間頻尿 夜間頻尿夜間頻尿 尿勢低下尿勢低下 残尿感残尿感 尿意切迫感尿意切迫感切迫性尿失禁切迫性尿失禁腹圧性尿失禁腹圧性尿失禁 オムツ使用オムツ使用 膀胱痛膀胱痛 0 昼間頻尿昼間頻尿 夜間頻尿夜間頻尿 尿勢低下尿勢低下 尿意切迫感尿意切迫感 切迫性尿失禁切迫性尿失禁 腹圧性尿失禁腹圧性尿失禁 その他その他 本間之夫他 : 日本排尿機能会誌 14(2):266, 2003 日本排尿機能学会 排尿に関する疫学的研究委員会 排尿に関する疫学調査より 循環動態 ( 夜間多尿傾向 ) 動脈硬化 腎機能障害 糖尿病, etc 睡眠障害 不眠症 昼寝 sleeping apnea( 睡眠時無呼吸 ) 膀胱刺激 夜間頻尿の原因 膀胱機能 ( 蓄尿 ) 障害 温度環境 尿路感染, ほか 排尿障害の主な原因 前立腺の肥大膀胱収縮力の低下前立腺や尿道の筋肉の過緊張前立腺がん尿路結石神経因性膀胱などいろいろな原因があります

前立腺の肥大 < しばしば遭遇する誤解 > 正常な前立腺 肥大した前立腺 Dr. オシッコの調子はどうですか?? Pt. とってもヨー ( ヨク ) 出ます 前立腺が大きくなり尿道を圧迫している Dr. 尿がよく出るよく出るお薬を出します Pt. ヨク出る (??) お薬 近くなる? 利尿剤? 排尿日誌 Good -Stream ( よい流量 )??? 排尿時刻 排尿量 (ml) 尿失禁 event Frequently( 近い )??? 1 : 2 : Urgent( 直ぐに )??? 3 : 4 : まとめ 膀胱は尿を貯める働きをする袋状の臓器で 自分の意思では動かせない平滑筋でできています 蓄尿と排尿排尿は は 中枢神経中枢神経と末梢神経末梢神経の調和調和のとれた働きで で 膀胱と尿道尿道をコントロールしています 御静聴ありがとうございました 一般的な排尿回数は 昼間は 5 7 回 夜間は 0 1 回が目安です 蓄尿機能や排尿機能が調和のとれた働きをしない場合 頻尿や尿失禁などの症状が現れます

排尿機能検査について 藤田保健衛生大学病院臨床検査部検査技師 長嶌和子 おしっこの出が悪くなった 尿漏れしてしまった など 排尿について心配ごとをかかえていらっしゃる方は ご高齢の方を中心に多いと思います しかし 年のせいだから仕方がない 恥ずかしい などと受診をためらう方も少なくないでしょう 今回は検査の立場から正常な蓄尿機能 排尿機能とはどういったものかを具体的に示し 家庭でできる尿の勢いチェックの方法を解説いたします また 泌尿器科を受診された際 下部尿路機能を調べるためにどのような検査が行われるのかを分かりやすく解説いたします 1) 排尿日誌 : 排尿時刻 それぞれの排尿量 尿失禁の有無などについて患者様ご自身で記録していただくもので 生理的な排尿状態を把握するうえで非常に役立ちます 2) 尿流測定 : 排尿困難時の検査のひとつで 排尿状態の良悪を客観的に判断することができます 3) 残尿測定 : 排尿後の膀胱にどの程度尿が残っているか 超音波を使って検査します 診断のみならず治療方針決定においても重要な情報となるため 泌尿器科においては必須の検査項目です 4) 膀胱内圧測定 : 蓄尿と排尿の基本的なサイクルを検査室で再現することにより 蓄尿機能 排尿機能 膀胱知覚 膀胱容量などの評価を行います 下部尿路機能障害は 放置して自然によくなるということはありません まず病気かどうかを確認することが大切です 年齢のせいなどと自分であきらめず 心配ごとのある方は泌尿器科を受診してください 講師プロフィ-ル 1992 年 藤田保健衛生大学短期大学卒業後 臨床検査技師取得 同年 同大学病院臨床検査部入職 2006 年 排尿機能検査士取得 現在に至る

第 12 回藤田保健衛生大学市民公開講座 排尿機能検査 について 排尿とは? 障害 尿意を感じる 障害 おしっこ がたまる 下部尿路機能障害 蓄尿障害 排尿障害 排尿後障害 障害 排尿が終わる 障害 藤田保健衛生大学病院臨床検査部 長嶌和子 排尿を開始する 障害 排尿を維持する 蓄尿機能について 排尿機能について 正常 ある程度で尿意を感じる (150~200 ml) 尿意を感じてからも しばらく我慢ができる 十分な量の尿をためることができる (300~500 ml) 異常 尿意を感じない もしくは感じにくい 尿意を感じると 直ちに排尿したくなる ( 尿意切迫感 ) 少量しかためられない しようと思えばいつでも排尿できる 排尿しようと思ったら すぐ出せる 尿に勢いがある 短時間で終了する (20~30 秒 ) がんばらなくても 排尿できる 完全に終了する 残尿はない 正常 異常 排尿しようとしても なかなか出せない 勢いがない 排尿時間が長い 排尿に努力が必要 しずくがたれる 残尿がある 尿失禁はない 尿失禁がある 正常な排尿とは! 一回排尿量 : 200~400ml 一回排尿時間 : 20~30 秒 一日排尿量 : 1000~1500ml (1~1.5L) 一日排尿回数 : 5~7 回 排尿間隔 : 3~5 時間 下部尿路機能検査 排尿日誌 パッドテスト ( 尿漏れテスト ) 尿流測定 (UFM) 残尿測定 膀胱内圧測定 (CMG) 内圧尿流検査 (Pressure Flow Study) 外尿道括約筋筋電図 ビデオウロダイナミクス 腹圧下尿漏出圧測定 尿道内圧測定 1

尿流率排尿日誌 普段の排尿状態を把握することができます ( 排尿障害のタイプの評価にかなり役立ちます ) 排尿時刻 AM 7:15 AM 9:30 AM 11:40 230 ml 排尿量 250 ml 180 ml コメント 尿流測定 (UFM) 間に合わない 器械に向かって排尿することにより 尿の勢い 排尿量 排尿時間 などを調べる検査です 我慢しすぎず 普段の おしっこしたい という状態になったところで検査をします 痛みは全然ないよ! 普通におしっこするだけ! で ~ へんな ~ (ToT) 尿流測定の結果パタ - ン 正常では! 釣鐘のような形になります 男性 :15 ml/ 秒以上 率( 秒 ) チョロチョロ 最大尿流率 チョロチョロ ( 秒 ) 女性 :20 ml/ 秒以上尿流 高齢者では! 年齢と共に ピ - クの下降が認められます 前立腺肥大症では! 最大尿流率減少 排尿時間が延長します 尿流率( 秒 ) 2

腹圧性排尿では! 尿流パタ - ンの上に突出した波が生じ 排尿がたびたび中断します 尿中断中断中断中断中断流率( 秒 ) あなたもやってみよう! おしっこ の勢いチェック! 用意するもの計量カップ, 秒針付き時計 簡単だよ! やりかた ( 出たおしっこの量 ) ( かかった時間 ) 結果 5 以下病院へかかりましょう! 残尿測定 膀胱の超音波写真 排尿後の膀胱に おしっこ がどのくらい残っているのか 超音波を使って調べます a c 方法 : 仰向けに寝転んで 下腹部にゼリ - を塗り 超音波装置で膀胱の大きさを調べます 痛くないよ! 寝ころんでるだけ! b 水平面 矢状面 a: 膀胱縦経 b: 横経 c: 深さ a b c / 2 = 膀胱体積 = 残尿量 膀胱内圧測定 (CMG) トイレに行きたい感じがしたら 教えて下さいね ~ 蓄尿と排尿のメカニズム 蓄尿時 排尿時 蓄尿する力 排尿する力 膀胱の感覚 膀胱の容量 などを調べる検査です 膀胱 : 弛緩 ( 拡がる ) 膀胱の圧力 : 低い 膀胱 : 収縮 ( 縮む ) 膀胱の圧力 : 高い 3

胱内圧膀胱内圧 (CMG) 測定方法 1. 尿道から膀胱へカテ - テルを挿入します 2. 空気 ( 炭酸ガス ) または生理食塩水を注入しながら 同時に蓄尿時の膀胱の圧力を測定します 3. 初発尿意容量 ( 尿意を感じた時 ) 最大尿意容量 ( 漏れそうになった時 ) をみます 初発尿意容量 : 150~200ml 最大尿意容量 : 300~500ml 4. 排尿して頂き 排尿時の膀胱の圧力をみます 膀胱内圧測定の結果パタ - ン 正常では! おしっこ をためている間の膀胱の圧力は大変低く 最大容量に達した後は 排尿の意志と共に膀胱の筋肉が強力に収縮して膀胱の圧力は高まり 尿を全て排出します 膀胱内圧過活動膀胱 (OAB) 注入量 (ml) 過活動膀胱 (OAB) 収縮収縮収縮 尿意切迫感が主な症状で 他に頻尿及び夜間頻尿を伴います 注 ) 尿意切迫感とは? 急に強い尿意を覚え 漏れそうな感覚に襲われること 原因 : 脳血管障害 脊髄損傷など 10~20% 前立腺肥大 加齢に伴う膀胱変化など 80% 推定患者実数 :810 万人 (40 歳以上の 8 人に 1 人 80 歳以上の 3 人に 1 人 ) 膀胱の筋肉が本人の意思に関わらず勝手に収縮してしまうために 尿意切迫感 を感じます 収縮収縮収縮収縮収縮 間質性膀胱炎では! おしっこ をためている状態にもかかわらず膀胱の圧力はどんどん高まります ( 膀胱の壁がガチガチに硬くなっている状態です!) 膀年のせいとあきらめないで! 素敵なおしっこライフを! 注入量 (ml) 図は なんでもわかる排尿障害 山之内製薬株式会社監修 : 福島県立医科大学教授山口脩より引用 4

前立腺の病気と男性の排尿障害 藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器科学助教授 早川邦弘 高齢化社会における男性の排尿障害は 医学的に大きな問題のひとつで 尿勢低下 尿意切迫感 残尿感などは ある年齢以上の男性で程度の差はあれ自覚されるものです 排尿障害の原因には多くの疾患が関与しますが 代表的なものとして前立腺疾患 特に前立腺肥大症と前立腺癌が挙げられます 前立腺肥大症は加齢に伴い前立腺が大きくなり内側の尿道を圧迫したり 前立腺の筋肉が過剰に収縮して尿道が圧迫されたりするため 排尿障害を起こす病気と考えられています 自覚症状としては 尿の勢いが弱く時間がかかるといった排尿の症状や 我慢できない強い尿意をもよおしたり いわゆる頻尿といった排尿回数が多かったりする蓄尿の症状が見られます 治療は軽度のものでは生活改善を中心とした無治療経過観察から薬物療法 外科的治療などが挙げられます 薬物治療は膀胱頸部や前立腺の平滑筋を弛緩させて尿道抵抗を低下させて排尿障害を改善するα 遮断薬が標準的治療法であり 外科的治療としては内視鏡によって経尿道的におこなう前立腺切除術 TUR-P が標準治療といえます 前立腺癌も排尿障害の原因となりえますが 初期では一般に前立腺肥大に比べて軽度であり 早期発見には採血による PSA 値の測定が極めて有用であります 60 歳を超えた男性の健康診断としては今や必須の項目ともなっていますが 早期に発見できれば充分に根治 すなわち完全に治す事が期待できます 最近では 体内埋込み型の放射線治療である小線源療法もいくつかの施設でおこなわれるようになってきており 治療効果が期待されています いずれの場合でも 男性の排尿障害は決して放置すべきものではなく 是非一度専門の医師に相談されることをお勧めします 講師プロフィール 1985 年 慶應義塾大学医学部卒業 1998 年 東京歯科大学市川総合病院泌尿器科講師 2005 年 藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器科学助教授となり 現在に至る 専門は腎移植 泌尿器科腹腔鏡手術

排尿障害とは 尿勢低下 前立腺の病気と 尿意切迫感 残尿感 夜間頻尿 男性の排尿障害 腹圧排尿 尿線途絶 排尿遅延 排尿後尿滴下 頻尿 下部尿路の構造 ( 正中矢状面 ) 頻尿とは? 男性 膀胱尿管口精嚢腺 頻尿の場合のトイレの回数は? 恥骨結合 直腸 日中 正常 5~7 回 頻尿 8 回以上 射精管 夜間 0 回 1 回以上 * 尿道 前立腺 * 夜間頻尿 : 夜間におしっこのために起きてしまう場合 外尿道括約筋 外尿道口 精巣 山口脩, 他 : 図説下部尿路機能障害 高齢者の夜間頻尿 尿のトラブルの原因 高齢者では抗利尿ホルモンの分泌が減り 夜間頻尿となる 高齢者は睡眠が浅いために目が覚めやすい おしっこのせいで目が覚めたと勘違いしているケースもある ( このような場合は睡眠薬が効く ) 膀胱のトラブル 過活動膀胱 膀胱炎 膀胱がんなど 前立腺のトラブル 前立腺肥大症 前立腺炎 前立腺がんなど 他に 尿路結石 糖尿病 尿道炎 精神的要因 服用中の薬 など 1

尿のトラブルのための検査 検査 問診尿検査血液検査腹部エコー検査尿流測定残尿測定直腸内指診内圧 尿流測定 X 線検査 前立腺肥大症 (BPH) 前立腺肥大症 (BPH) の年齢別患者数 前立腺とは ( 万人 ) 25 20 年齢別 BPH 患者数 (1998 年 ) 男性の膀胱出口の尿道を取り巻いている組織 正常の前立腺はクルミ大の大きさで約 20g 肥大すると, 内部の尿道が圧迫され排尿障害が起こる 15 10 5 膀胱 0 15~24 25~34 35~44 45~54 55~64 65~74 75~84 85~ 年齢 ( 歳 ) 前立腺 寺井章人他 : 泌尿紀要. 46: 537, 2000 より一部改変 前立腺肥大症とは? 排尿困難 前立腺が大きくなり内側の尿道を圧迫したり 前立腺の筋肉が過剰に収縮して尿道が圧迫されるために排尿障害を起こす病気 排尿症状 蓄尿症状 尿の勢いが弱い尿が出るまでに時間がかかるおなかに力を入れないと尿が出ない がまんできない尿意をもよおす 2 時間以内にもう一度トイレに行くトイレに間に合わず もれることがある 前立腺の肥大に伴い排尿困難が生ずるメカニズム機械的閉塞肥大腺腫による尿道の圧迫機能的閉塞前立腺肥大に伴って増加したα 1 受容体による尿道の過剰収縮 排尿後症状 排尿後 尿が膀胱に残っている感じがする ( 下部尿路症状の分類 ) I-PSS 2

刺激によるもの 頻尿 肥大した前立腺が膀胱頸部を刺激することにより尿意を生じる BPH の初期症状としてみられる 残尿によるもの 排尿困難により残尿量が多くなり, 少しの尿が増えても尿意を生じる BPH の中期にみられる 切迫性尿失禁 尿失禁 残尿, 膀胱機能の低下 ( 膀胱壁の肥厚化, 線維化 ), 膀胱の無意識の収縮などにより尿意が強く我慢できず, トイレに間に合わない 溢流性尿失禁 多量の残尿により膀胱内圧が高まり括約筋が耐えられなくなり尿が漏れる 重度の BPH に起こる 尿閉 尿閉は尿が膀胱内に充満しているにもかかわらず排尿できない状態をいう 急性尿閉 BPH の中期以降に起こりやすい 寒冷, 飲酒などにより交感神経が強く興奮することにより前立腺が収縮して尿閉となる 慢性尿閉長期にわたる残尿により膀胱平滑筋がのびきってしまって自力で排尿できず尿閉が起こる 腎障害を起こす可能性がある 前立腺肥大症の治療 無治療経過観察薬物療法外科的治療その他治療尿道留置カテーテル 薬物療法 外科的治療 α 遮断薬 全般重症度が軽症 ~ 中等症の患者が適応となる 薬 剤 抗男性ホルモン薬 その他の薬剤 不明 ( 臨床研究として十分 ( 植物エキス製剤, アミノ に解明されておらず, 今後 酸製剤, 漢方薬など ) の検討が必要 ) 作用備考 膀胱頸部, 前立腺の平滑筋薬物療法の標準的治療法弛緩比較的効果発現が早い尿道抵抗低下, 排尿障害改中長期の効果もあり善効果発現は緩徐前立腺容積の縮小投与中断により前立腺容積下部尿路通過障害改善増大性機能関連の副作用あり 経尿道的前立腺摘除術 (TUR-P) 開放性前立腺被膜下摘除術レーザー切開術 凝固術 侵襲的であるが, 肥大した腺腫を切除できるため, 排尿障害の改善に最も有効性が高い経尿道的前立腺切除術 (TUR-P) は最も普及しており, 前立腺肥大症の外科手術として確立した標準的治療である EBM に基づく前立腺肥大症診療ガイドライン 3

経尿道的前立腺切除術 (TURP( TURP) 内視鏡的前立腺レーザー切除術 凝固術 膀胱前立腺直腸肛門 膀胱 前立腺 膀胱 前立腺 肥大した前立腺 その他治療 排尿困難をおこす可能性のある薬 ステント高温度療法 (thermal therapy) 低侵襲性と安全性の報告はあるが, 他の治療法と比較した有効性ならびに長期成績に関する十分なデータはない 膀胱前立腺尿道 総合感冒薬鎮咳薬頻尿 尿失禁治療薬鎮痛薬血圧降下薬精神安定薬睡眠薬抗アレルギー薬 抗ヒスタミン薬気管支拡張薬抗不整脈薬消化性潰瘍治療薬抗てんかん薬パーキンソン病治療薬三環系抗うつ薬脳末梢循環改善薬 ステント肛門ステント 平岡保紀他 : 薬局 51: 995-998, 2000 杉山高秀 : 排尿 ( 蓄尿 ) 障害をきたす薬剤. 排尿障害の診方, 井口正典編. p. 29, 南山堂,2002 前立腺癌検査の流れ 検査 1 スクリーニング検査 2 確定診断 3 病期診断 前立腺癌 PSA 直腸診 経直腸的超音波診断 前立腺生検 CT MRI 骨シンチグラフィー PSA: 前立腺細胞が作り とくに前立腺癌があると増える物質で早期癌発見に役立つ ( 但し 前立腺肥大症や前立腺炎でも増えてくる ) 直腸診 : 直腸に指を入れて 前立腺の大きさや表面の状態等を調べる 経直腸的超音波診断 : 肛門から診断用プローブを挿入する 前立腺生検 : 前立腺の組織を一部切り取り 癌細胞の有無を調べる 癌か否かの確定診断ができる 4

癌の確50 PSA 値と癌の確率 検査 前立腺癌病期 100% ( 前立腺研究財団 ) 率97% 86% 42% 35% 28% 20% 75% 53% 6% 2 4 6 10 15 20 30 40 50 100 A C 前立腺肥大症で手術を受けた時に偶然発見されるような ごく小さな癌の段階 膀胱 前立腺癌被膜癌が前立腺の被膜外に拡がった段階 病期 B D 癌が前立腺の被膜内にとどまっている段階 癌がリンパ節や骨 肝 肺などに転移している段階 肺 PSA(ng/mL) 脊椎 前立腺癌治療 治療 前立腺癌治療ー密封小線源治療 - 治療 経過観察 手術 放射線療法 病期別治療方針 特に治療せず 様子をみる場合もあります 癌が前立腺内にとどまっている場合 手術で前立腺ごと取り除きます 患者さんの年齢 体力などを考慮します 癌が前立腺の外側にまで広がっている場合 内分泌療法と併用される場合もあります ( 主に病期 A,B) ( 主に病期 B,C) 特徴 前立腺の中に放射線療法の線源を置いておく 手術時間が2~3 時間 ( 入院期間が短い ) 早期の小さい癌が対象 後に手術を行うことは困難 前立腺 膀胱 内分泌療法 癌が前立腺と周囲の臓器 あるいはリンパ節にまで広がっている場合 がんの進行を抑えます ( 主に病期 C,D) 超音波プローブ 内照射小線源 排尿障害を悪化させないために 排尿障害を悪化させないために アルコールを控えましょう 刺激の強い食品を避けましょう 軽い体操や散歩など 適度な運動をしましょう 太りすぎないようにしましょう 適度の水分補給をしましょう 夜間頻尿がある場合は 夕方からの水分を控えめにしましょう 適温でゆっくりと入浴し 全身の血行をよくしましょう コレステロールの多い脂肪 タンパク質をとりすぎないようにしましょう 便秘にならないように注意しましょう おしっこをがまんしないようにしましょう 下半身を冷やさないようにしましょう 長時間座ったままの姿勢を避けましょう カゼ薬や胃薬 精神安定剤などを服用するときは医師 薬剤師などに相談しましょう 5

女性と子供の尿漏れについて 藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器科学講師 佐々木ひと美 女性の尿失禁は最近注目されている疾患であり 時代の流れとともに泌尿器科を受診する患者数も年々増加傾向にあります 女性の尿失禁の原因として最も多く認められるのが 腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁です 腹圧性尿失禁とは出産や年齢の変化によって膀胱や尿道を支える骨盤底筋群の脆弱化により くしゃみや重いものを持ったときに尿が漏れる状態です 一方 切迫性尿失禁は頻尿 尿意切迫による尿失禁です いずれの尿失禁も確定診断がなされ 適切な治療により症状の改善が期待できます 腹圧性尿失禁の場合の検査として 排尿日誌 膀胱造影 膀胱機能検査などを行い 他の尿失禁との区別をした上で 行動療法 薬物療法 手術などが行われます また 切迫性尿失禁に対しては 膀胱の過敏性が原因となっているため膀胱の刺激を抑え 膀胱容量を増加させる薬物療法が一般に行われます 女性の社会進出に伴い 高齢の女性が活動的である現代において 尿失禁が生活の質を著しく損なうことが多く見受けられます 従って 今後泌尿器科領域では注目される疾患のひとつと考えられます また 小児における尿失禁として最も多く見られるのが夜尿症です 5~6 歳以上であっても夜間 寝具や下着をぬらすような尿失禁を認める場合に夜尿症と呼んでいます 夜尿症には尿崩症や神経因性膀胱 腎尿路系の異常を合併する症例もあり 小学校に上がっても夜尿が続く場合には泌尿器科を受診することをお勧めします 夜尿症の治療には 薬物療法や生活指導などを用いることが多いのですが 焦らず 起こさず 怒らず 指導することが重要といわれています 講師プロフィール 平成 5 年 藤田保健衛生大学医学部卒業 同大学病院腎泌尿器科学入局 平成 7 年 東京都立清瀬小児病院泌尿器科 平成 8 年 米国ワシントン大学外科留学 平成 11 年 藤田保健衛生大学医学部腎泌尿器科学助手 平成 13 年 同講師 現在に至る

尿失禁 女性の尿失禁経験者は多い 尿失禁の発現頻度 年齢 総患者数 尿失禁患者数 (%) 腹圧性 タイプ別切迫性混合性 その他 10~19 20~29 30~39 40~49 50~59 60~69 70~ 580 6209 5363 2934 2339 1103 711 51 ( 8.8) 801 (12.9) 1231 (23.0) 1181 (40.3) 1125 (48.1) 466 (42.3) 305 (42.9) 4 298 579 692 648 136 72 29 391 439 234 187 133 117 16 93 188 229 263 182 107 2 19 25 26 27 15 9 計 19239 5160 (26.8) 2429 1530 1078 123 ( 大阪市大産婦人科外来初診患者 19,239 人アンケート調査 : Nikkei Medical 2001 年 11 月号 ) YA 57449-02 1

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女性の尿失禁で特に患者数が多いのは腹圧性 切迫性 腹圧性尿失禁とは くしゃみ せき あるいは重いものを持ち上げるなどお腹に力が入ったときに漏れるタイプ 切迫性尿失禁とは 何らかの原因で膀胱の収縮を抑えきれず 勝手に収縮してしまうために起こり 尿意を感じたら我慢できないタイプ YA 57449-03 3

< 腹圧性および切迫性尿失禁の年代別保有率 > (%) 保有50 40 30 腹圧性尿失禁切迫性尿失禁 率20 10 10 20 30 40 50 60 70 80 以上 ( 歳代 ) 腹圧性は出産年齢から増加し 50 歳代でピーク 切迫性は高齢者で著しく増加 < 女性尿失禁の実態調査 : 1,541 名 > YA 57449-04 受療している頻尿 尿失禁患者は少ない 1. 泌尿器科医による治療を受けている 2. その他の医療機関で治療を受けている 3. 保健婦や看護婦などの指導を受けている 30 ( 26 ( 6 ( 8.1) 7.0) 1.6) 4. 受けていない 合計 男性 (%) 女性 (%) 合計 (%) 370 (100.0) 12( 1.4) 16( 1.9) 18( 2.2) 42( 3.5) 42( 3.5) 24( 2.0) 294 ( 80.3) 728( 88.9) 1,022( 86.2) 831(100.0) 1,201(100.0) (( 財 ) 日本公衆衛生協会による平成 3 年度失禁対策住民調査データ ) 受診しない理由 恥かしいから (29 歳以下の年代 :57.5%) あきらめている (50 歳以上の年代 :49.0%) 女性の尿失禁の潜在患者はたくさん存在する!! ( 大阪市立大産婦人科外来初診患者 19,239 人アンケート調査 :Nikkei Medical 2001 年 11 月号 ) YA 57449-05 尿失禁患者の悩みは多い 尿失禁を有する本人の悩み ( 複数回答 ) 気分が沈む 9.5 6.7 外出できない 13.7 19.2 13.8 人前に出にくい 8.5 周囲に迷惑身辺が不潔に 13.2 8.9 12.7 9.4 とくになし 不明 5.9 3.9 48.1 58.7 0 10 20 30 40 50 60 該当者 (%) 男性女性 女性の社会進出がめざましいこれからの時代において 女性の尿失禁の治療はQOL の面も含めて重要!! < 平成 3 年度失禁対策住民調査報告書 : 財団法人日本公衆衛生協会篇 > YA 57449-06 YA 57449-07 4

女性の尿失禁は 治療できる疾患で 治療薬も存在する! 尿失禁診断に必要な検査 排尿日誌 ストレステスト 検尿 残尿測定 膀胱内圧測定 尿道内圧測定 ビデオウロダイナミクススタディ YA 57449-08 5

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子供のお漏らしー夜尿ー 子供の尿失禁 夜尿はなぜ起こる? 膀胱機能異常説 自律神経異常説 体質の異常説 アレルギー説 睡眠の異常説 心理 環境異常説 等々いろいろありますが ヒポクラテスの時代から原因は不明!! 夜尿症の定義 夜間就寝中に遺尿を生じ 衣類や寝具を浸潤させる状態で その状態が 5-6 歳を過ぎても引き続き診られる場合をいう お昼のお漏らしを認める場合は膀胱機能の異常を合併することがあります すぐに受診を!! 夜尿症にもタイプがあります 尿崩症とは? 一次性 乳児期から引き続く夜尿症 二次性 幼児期から学童期にかけて少なくとも 1 年以上にわたって夜尿が消失したにもかかわらず 何らかの原因で再び夜尿が出現したもの ( 心理的要因や尿崩症 ( ホルモン異常 ) の可能性がある ) 7

治療法 生活指導 起こさず 焦らず しからず 水分摂取の時間の調整 冷え症状への対応 排尿訓練 ( 少しがまんしてみる ) 排尿中断訓練 ( おしっこを途中で止めてみる ) 薬物療法 三環系抗うつ剤 ( トフラニール アナフラニール ) 抗利尿ホルモン剤 ( デスモプレッシン ) 抗コリン剤 ( ポラキスー膀胱容量を広げる ) 小学校に上がっても夜尿がある場合は一度受診を! 林間学校 合宿に行く前の駆け込み受診はやめましょう 8