散開星団の解明 班 ( 地学班 ) 須賀 夏輝 実施期間 : 年 1 月 1 日 ~9 年 7 月 日 1 研究の概要この課題研究では 散開星団と呼ばれる天体の色味や年齢について研究した 去年度の先輩たちが散開星団を観測して出した結果に対し疑問を持った そこで 去年度の先輩たちが観測した散開星団にはない特徴的な性質を持った散開星団を見つけ考察することを目的として 研究を行った ぐんま天文台で散開星団を撮像 画像処理し 測光した結果から HR 図を作った その結果 M1 という散開星団が特徴的な性質を持った散開星団であることが分かった 課題の設定 (1) 研究の目的ぐんま天文台の協力の下で 自分で望遠鏡を操作して散開星団を撮像する 撮像した画像を画像処理し 写り込んでいる星を測光する 測光結果から散開星団のHR 図を作成し 各星団のHR 図と 去年度の先輩たちが観測した散開星団の HR 図を比較し考察することによって 特徴的な性質をもった散開星団の有無を確認し 考察する () 研究の動機この研究を行った動機は つある 一つは 小学校の頃から天体に興味があり 今まで自分が 趣味 としていた天体観測を 研究 という形でより探求的に取り組みたいと考えたからである さらに観測のターゲットを絞ることで 一つの実験テーマに関してより知識を深めたいと考えていたからである もう一つは 去年度の先輩たちが散開星団を観測して 散開星団には青みの強い星が多い という結果を出したことに対し それとは異なる性質を持った特徴的な散開星団もあるのではないか? と疑問を持ち 私の研究で確かめたいと考えたからである 3 研究の内容 (1) 研究の予想 ( 仮説 ) 先輩たちが観測した散開星団はあまりにも数が少ない よって青みの強い星が多い散開星団の他に, 色味や年齢の点で異なる特徴的な散開星団が観測によって明らかになるのではないか 星の年齢にばらつきがある 暗い星や赤い星を含む などの特異的な性質をもつ散開星団を観測できる可能性も考えられる () 研究方法 解析方法 1 散開星団を撮像する散開星団を撮像するにあたり ぐんま天文台に二回訪問した そして高精度で信頼性のある天文台の口径 5 センチメートル反射赤道儀と BVR フィルター内蔵の冷却 CCD カメラを利用した ⅰ. 望遠鏡の天体自動導入システムを利用して 撮像する天体をとらえる 撮像する散開星団ごとにためし撮りをして 冷却 CCD カメラの適切な露出時間を判断し 内蔵されている BVR フィルターのうち B( 青 ) と V( 緑 ) のフィルターを使って撮像した これにより 見かけでは天体 - 1 -
そのものの光の色は判断できないが B( 青 ) と V( 緑 ) のフィルターに通して撮像することによって 青色の光と緑色の光の強さを区別し 後の測光作業でカウント値として数値化するための準備ができる B フィルターで撮像するときは Ⅴフィルターで撮像するときよりも露出時間を長くとった これは B フィルターの場合 露出時間が短いのは 背景のスカイと星の識別がコンピューターであいまいになり 測光のときに誤差が大きくなってしまうからである 図 1 撮像風景図 5cm 反射赤道儀 ⅱ. 撮像した天体は M37( ぎょしゃ座 ) M1( お おぐま座 ) M7( とも座 ) の3つである 研究当初 昨年度の先輩たちの研究で扱われなかったこと 比較的明るいこと 時期的に見て観測しやすいことを理由に M37( ぎょしゃ座 ) M1( おおぐま座 ) M( とも座 ) M7( とも座 ) M ( うみへび座 ) M5( いっかくじゅう座 ) の つを観測対象に選んだ しかし 天気の悪い日が多く 観測日数が減ってしまったため この3つを撮像することにしたのである 図 3 M37( ぎょしゃ座 ) 図 M1( おおぐま座 ) 図 5 M7( とも座 ) 表 1 撮像データ 天体名 B バンド露出時間 (s) V バンド露出時間 (s) 撮像回数 ( 回 ) M37 3 5 M1 3 5 M7 5 3 5 5 - -
ⅲ. それぞれの散開星団について複数回撮像した これは 一回だけでは 画像に宇宙線などの余 分な光が入り込んで 研究に使えなくなってしまうことを防ぐためである 以下に 撮影データをまとめておく M37 のBバンド露出時間がⅤバンドのものより長いのは M37 が見かけで明るい星の多い星団であり 測光に支障がないと判断したからである 画像の一次処理をする 天体の画像を一次処理するために 画像解析ソフト マカリ を利用した 取ったままの天体画像には 冷却 CCD カメラの特性によるノイズ ( 画像の荒れ ) やピクセルごとの感度の差が原因で起こる感度ムラが写っている さらに望遠鏡についたほこりが引き起こすドーナツ状のムラも写っている このままでは天体本来の鮮明な画像を得られず 測光の過程で重大な誤差が生じてしまう よってこれらを画像から取り除く必要がある ⅰ. まず 冷却 CCD カメラの特性によるノイズを取り除く まず 天体を取ったときと同じ露出時間でシャッターを閉じたまま撮った ダーク と呼ばれる画像を撮る これにはカメラのノイズだけが写っており これを取ったままの天体画像から 引く 画像演算をすることによって 天体画像からノイズだけを綺麗に取り除くことができる ダーク画像を撮るとき 光は入らないのでフィルターごとに分ける必要はない 図 画像処理ソフト マカリ ⅱ. 次に ピクセルごとの感度の差が原因で起こる 図 7 ダーク画像 感度ムラ 望遠鏡についたほこりなどが引き起こすドーナツ状のムラを取り除く まず とても明るい一様な光源を撮った フラット と呼ばれる画像を取る 具体的には 望遠鏡の鏡筒の先に白いスモークの板をのせて 明るい光源を通して撮像した これには ピクセルの感度ムラやほこりによるムラだけが写っており これをダーク処理した画像から 割る 画像演算をすることによって 天体画像からムラだけを綺麗に取り除くことができる 図 フラット画像 3 画像の測光をする 一次処理を行った天体画像に写っている カウント値が から 3 までの値に収まる星を 3 個ほど選ぶ また 星同士の距離が極端に近いと 複数の星を一つの星として測光してしまうの で 他の星と重なったり近かったりする星以外の星を測光する このとき そのまま測光してしま うと 光害などで明るくなった空自体のカウント値も含んでしまう恐れもあるため 星周辺の空の カウント値である スカイ値 を引く 測光して得たカウント値を露出時間で割った一秒あたりの - 3 -
絶対等級(等級)-1 -.5.5 1 1.5.5 3 カウント値を 以下の計算をすることによって 星の色味を示す色指数を算出する =-.5 logcb/cv HR 図を作る HR 図とはヘルツシュプルング ラッセル図のこ とである 縦軸に絶対等級 横軸に色指数をとった 恒星の分布図のことである 星の色味や明るさが分 かりやすいグラフになるので これを利用した 右下に点がプロットされるほど その星の半径は 大きくなっていく また 左上の青く暗い星は白色 矮星という年老いた星であると判断できる HR 図を作るにはまず 撮像した画像に含まれる カウント値が から 3 までの値に収まる 個の星のカウント値を求める 次にインターネット サービス アラジン を利用して 研究者たちが出 した絶対等級と星それぞれのカウント値から関係式 を求める この関係式は エクセルを用いて次のよ うに求めることができる 個の星のカウント値を 横軸に その正確な絶対等級を縦軸にとったときに CB B カウント CV V カウント できた分布図の近似線の式のことである このとき 見かけの等級を絶対等級に直すので 地球か ら星団までの距離を補正できる その後 残りの星の絶対等級を求め グラフを作り完成する (3) 結果 1 M37 の HR 図 M37 の HR 図 ( 図 ) を見ると 色指数.5 から 1.5 まで点が広がっており 色指数.5 絶対 等級 1 等級付近に特に点が密集してプロットされているのがわかる 絶対等級図 9 色指数 HR 図の例 1 1 図 M37 の HR 図 - -
絶対等級(等級)-1 -.5.5 1 1.5.5 3 絶対等級(等級)-1 -.5.5 1 1.5.5 3 M1 の HR 図 色指数. 絶対等級 等級付近の赤みの強い位置に点が集中しているのが分かる 1 1 3 M7 の HR 図 図 11M1 の HR 図 M7 の HR 図 (1) を見ると 点が色指数 ~.5 絶対等級 ~11 等級付近に集中している 1 1 図 1M7 の HR 図 () 考察 1 M37の場合色指数 1.5 までの広がりが見られるものの プロットされている点の数は少なく 色指数.5-5 -
絶対等級(等級)-1 -.5.5 1 1.5.5 3 絶対等級(等級)-1 -.5.5 1 1.5.5 3 絶対等級 1 等級付近に点が密集してプロットされている このことから M37 を構成している多 くの星は青みの強い若い星であると判断できる 1 1 図 13M37 解説 M1の場合青白く暗い星である白色矮星が存在する可能性が高いと判断できる また 色指数. 絶対等級 等級付近にも点が多くプロットされていた これは 赤みが強く比較的明るい星が多いと判断できる さらに 星同士の色の違いが大きいことで 星それぞれの進化の早さに大きな差があると判断でき 若い星から古い星まで幅広く存在するので M1 は古い散開星団と判断できる 1 1 図 1M1 解説 - -
絶対等級(等-1 -.5.5 1 1.5.5 3 3 M7の場合ほとんどの点が色指数 ~.5 絶対等級 ~11 等級付近に集中していた M37の絶対等級 1 等級付近よりも明るいので M1の多くの星は青みが強くM37の星より若いと判断できる また グラフの形が主系列星のグラフによく似ていたことから M37の星はもともと大きな質量を持った星があまり存在していなかったと判断できる 1 1 図 15M7 の解説 実験全体を通した考察以上の考察をまとめると 3 つの天体の年齢は若い順にM7 M37 M1 となる これを 去年の先輩たちが観測した散開星団の結果と合わせてみると 次のようになる なお 比較の基準としては HR 図における星の分布を色味と明るさで判断している 図 推定年齢ここで 先輩たちが観測した中で最も古いとされた M7 と M1 を比較してみた 先輩たちの作った HR 図によると M7 は色指数が ~1.5 で点が広がっており.5 付近に集中していることが分かる 青く暗い星が多いので 白色矮星が存在する可能性が高く 古い散開星団であることが分かる しかし 二つの HR 図を比較したとき 赤みの強い星があり 色指数に大きな差のある M1 の方が古いと判断できる 確かに M7 にもかつては赤色巨星が存在していて 今では消滅している可能性もあるのではと考えられる しかし M7 のほとんどの星は青みが強く 初めから質量の小さな星が多かったことが分かるので 赤色巨星が存在していた可能性は低いと考えられる - 7 -
M7 1 1-1 -.5.5 1 1.5.5 3 M1 1 1-1 -.5.5 1 1.5.5 3 図 17M1 と M7 の比較 5 実験条件 精度の確認自分が設定した条件のもとに観測 撮像を行えた また 高精度で信頼性のある観測機器を利用したことや一次処理を行ったことで 誤差も小さくすることができた (5) 今後の課題去年の先輩たちの観測した散開星団と今回観測した散開星団の数を合わせても わずか 1 個しかデータが取れておらず 未観測の散開星団が多い よって より多くの散開星団を観測し データを集める必要がある また HR 図の精度を上げるため より多くの星を測光する必要がある M1 を撮像するとき 見かけで明るい星や暗い星が点在していた そこで 後に測光することを考えて 露出時間を長めにとったが これが長すぎたようだった もっと露出時間を短くする必要があった 観測する際 ぐんま天文台の空は雲が多かった よって 雲の流れを見計らって隙間を縫っての観測だったので 星雲にうす雲がかかったまま撮像しており わずかな星の明かりが雲に反射して スカイの値 ( 空の明るさ ) を取るのが大変な作業であった 感想散開星団を観測するときには 各星団の見かけの明るさを考えながら BV フィルターごとに露出とシャッタースピードを微妙に変えて何度も撮像し直した このため 時間がかかり大変な作業であった また 撮像した画像 15 枚を一枚一枚一人でチェックするのは 想像を絶するほどつらかった それだけに ダーク処理やフラット処理がうまくいったときは 研究結果が出た訳でもないのに達成感を感じた 測光をするときには カウント値が小さすぎたり大きすぎたりする天体以外の天体を見つけるのが非常に細かい作業であり 作業中に気分が悪くなったこともあった また 選んだ 個の星とインターネットサービス アラジン の星を照らし合わせながら絶対等級を調べるのも目が疲れた HR 図を作る際 計算式を間違えて何度もグラフを作り直したのも 途方にくれるような作業であった このとき同時進行でパワーポイントの製作もしていたので かなり焦っていた しかも焦ることでパワーポイントが非常に悪いものになってしまうのではないかと心配になり パニックに陥ったこともあった 最終発表会の前日リハーサルのとき 原稿を見るな といわれて若干投げやりになったが 自分の知識と経験を信じて原稿を見ることなく発表できたことをうれしく思った 他人にどう思われて - -
いるのかは分からないが 自分の中ではベストを尽くすことができ 悔いも残らなかった 良いプレゼンができて安心した 観測に協力してくださった天文台の浜根先生には心から感謝したいと感じています 大変お忙しい中本当にありがとうございました 無事に発表を終えることがでた 5 参考文献 アドレス 四季の星座 成美堂出版 月刊天文ガイド 誠文堂新光社 Aladin http://aladin.u-strasbg.fr/aladin.gml 県立ぐんま天文台 http://www.astron.pref.gunma.jp/ - 9 -