人工授精技術者のための牛人工授精マニュアル-人的要因の見直しに向けた確認メモ集-

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乳牛の繁殖技術と生産性向上

通常 繁殖成績はなかなか乳量という生産性と結びつけて考えることが困難なのですが この平均搾乳日数という概念は このように素直に生産性 ( 儲け ) と結びつけて考えることができます 牛群検定だけでなく色々な場面で非常に良く使われている数値になりますので覚えておくと便利です 注 1: 平均搾乳日数平均

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農業高校における繁殖指導とミニ講座による畜産教育支援 大津奈央 中島純子 長田宣夫 飯田家畜保健衛生所 1 はじめに 管内の農業高校では 教育の一環とし て 繁殖雌牛4頭を飼育し 生徒が飼養 いた また 授業外に班活動として8名が畜 産部に所属していた 管理を担うとともに 生まれた子牛を県 飼養管理

の獲得と実用化のための研究に乗り出すこととなった まず 1988 年に Johnson の指導のもとに日本で初めて本技術の導入を行い メーカーのエンジニアと綿密な打ち合わせを繰り返し 当団にとって初代のフローサイトメーターとなる EPICS-753 を導入した ( 図 3の1) この機種の精子選別速

現在 本事業で分析ができるものは 1 妊娠期間 2 未経産初回授精日齢 3 初産分娩時日齢 / 未経産妊娠時日齢 4 分娩後初回授精日 5 空胎日数 6 初回授精受胎率 7 受胎に要した授精回数 8 分娩間隔 9 供用年数 / 生涯産次 10 各分娩時月齢といった肉用牛繁殖農家にとっては 極めて重要

豚における簡便法を用いた産子数の遺伝的改良量予測 ( 独 ) 農業 食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所 石井和雄 豚の改良には ある形質に対し 優れた個体を選抜してその個体を交配に用 いることで より優れた個体を生産することが必要である 年あたりの遺伝的改良量は以下に示す式で表すことができる 年

Microsoft Word - 宮崎FMDマニュアル⑦ 指針別紙(評価)

スライド 1


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年 ( 平成 25 年 )10 月 235 (1) 繁殖管理の基本は? 繁殖管理では 早期の子宮と卵巣の回復 的確な発情の発見 適期授精に気をつけることが重要と言われています 分娩後四十日経っても発情兆候のない牛は 獣医師に検診を依頼することも必要です 二回目(四十日~五十日)に良い発

「牛歩(R)SaaS」ご紹介

ふくしまからはじめよう 農業技術情報 ( 第 39 号 ) 平成 25 年 4 月 22 日 カリウム濃度の高い牧草の利用技術 1 牧草のカリウム含量の変化について 2 乳用牛の飼養管理について 3 肉用牛の飼養管理について 福島県農林水産部 牧草の放射性セシウムの吸収抑制対策として 早春および刈取

参考1中酪(H23.11)

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問い合わせ先など研究推進責任者 : 農研機構畜産草地研究所所長土肥宏志研究担当者 : 農研機構畜産草地研究所家畜育種繁殖研究領域主任研究員ソムファイタマス TEL 研究担当者 : 農研機構動物衛生研究所病態研究領域上席研究員吉岡耕治研究担当者 : 農業生物資源研究所動物科学

(2) 牛群として利活用 MUNを利用することで 牛群全体の飼料設計を検討することができます ( 図 2) 上述したようにMUN は 乳蛋白質率と大きな関係があるため 一般に乳蛋白質率とあわせて利用します ただし MUNは地域の粗飼料基盤によって大きく変化します 例えば グラスサイレージとトウモコシ

体外受精についての同意書 ( 保管用 ) 卵管性 男性 免疫性 原因不明不妊のため 体外受精を施行します 体外受精の具体的な治療法については マニュアルをご参照ください 当施設での体外受精の妊娠率については別刷りの表をご参照ください 1) 現時点では体外受精により出生した児とそれ以外の児との先天異常

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食肉製品の高度化基準 一般社団法人日本食肉加工協会 平成 10 年 10 月 7 日作成 平成 26 年 6 月 19 日最終変更 1 製造過程の管理の高度化の目標事業者は 食肉製品の製造過程にコーデックスガイドラインに示された7 原則 12 手順に沿ったHACCPを適用して製造過程の管理の高度化を

たまみつしげ 2 黒毛和種 琴照重 及び褐毛和種 球光重 ETI が優秀な成績を収めて 種雄牛として選抜される 鳥取牧場で作出した黒毛和種の種雄牛 琴照重 が 産子の肥育成績を調べる現場後代検定により選抜され 精液の供給が始まりました 琴照重 は 同時期に検定を実施した種雄牛 23 頭中 脂肪交雑

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人工授精の流れ 1 発情発見と発情予定日の決定 冷蔵精液は 独立行政法人家畜改良センター長野支場からクール宅急便で送ってもらいます 冷蔵精液 の寿命は数日であるため 精液到着日をメスヤギの発情に合わせる必要があります そのためには 発情 予定日を決めなければいけません ヤギの発情周期は約 20~21

畜産総合研究センター3(15〜20).indd

ローカルコスト負担 65,633 千円その他 相手国側 : カウンターパート配置 44 名土地 施設提供プロジェクト予算 ( 人件費含む ) 3,220,000 千ドン ( ) その他 2. 評価調査団の概要 調査者 ( 担当分野 : 氏名職位 ) 1. 総括 : 星野和久国際協力機

受精卵移植に関する登録取扱要項

国際評価トピックスと概要 月 平成 22 年 8 月 27 日 ( 独 ) 家畜改良センター情報分析課 今回より CD 掲載範囲の変更に伴い 1 国内外の種雄牛の能力 の表示方法を変更しました Ⅰ. トピックス 1 国内外の種雄牛の能力 ( 乳量 ) 表 年生まれの種雄牛

妊よう性とは 妊よう性とは 妊娠する力 のことを意味します がん治療の影響によって妊よう性が失われたり 低下することがあります 妊よう性を残す方法として 生殖補助医療を用いた妊よう性温存方法があります 目次 はじめにがん治療と妊よう性温存治療抗がん剤治療に伴う卵巣機能低下について妊娠の可能性を残す方

卵及び卵製品の高度化基準

たかということになります 従って これからは妊娠率という考え方が必要になってくると考えています もちろん 受胎率という考え方を否定しているのではありません さて 畜産経営の中の繁殖を考える上で重要なことは 繰り返しになりますが受胎率ではなく妊娠率であると考えられます しかし 人工授精や受精卵移植を行

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安全な畜産物の生産と生産性の向上適正な飼養管理家畜の健康の維持 家畜のアニマルウェルフェア (Animal Welfare) とは 国際獣疫事務局 (OIE) のアニマルウェルフェアに関する勧告の序論では アニマルウェルフェアとは 動物が生活及び死亡する環境と関連する動物の身体的及び心理的状態をいう

これらの検査は 月経周期の中で下記のような時期に行われます ( いつでも検査できるわけではありません ) 図中のグラフは基礎体温の変動を示し 印は月経を示します 月経周期における検査の時期 高温期 低温期 月経 月経 血液検査 LH FSH E2( エストラジオール ) AMH 精液検査 排卵日 血

解説 新しい牛群検定成績表について ( その 26) ボディコンディションスコアの判定 電子計算センター次長相原光夫 牛群検定におけるボディコンディションスコア (BCS) は 平成 23 年度から開始した最も新しい検定項目です その活用法は 牛群検定の 4 つの機能 (1 飼養 ( 健康 ) 管理

平成23年度問題別研究会資料|牛における人工授精の現状と今後の研究展開

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特別支援学校における介護職員等によるたんの吸引等(特定の者対象)研修テキスト

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資源を活用したわが国の環境に適した独自の遺伝改良の必要性が増しており 優秀国産種雄牛作出検討委員会 (J-Sireプロジェクト検討委員会 委員長: 菱沼毅 ) は 独立行政法人家畜改良センター (NLBC) の保有する優秀な遺伝子を活用した種雄牛作出にいち早く取り組んできました 同委員会は 2 月

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Microsoft Word p 1 生殖細胞操作

岡山農総セ畜研報 6: 55 ~ 59 (2016) < 研究ノート > 黒毛和種における繁殖性向上を目指した飼料給与体系の検討 福島成紀 木曽田繁 滝本英二 Examination of the Feeding Method Aiming at Improving reproductive Per

解 説 一方 乳成分にも違いが見られた 分娩後30日以内 産牛100頭規模の農場としている 損失額の計算は で乳脂肪率が5 を超える場合は栄養不足で体脂肪の ①雄子牛の出生頭数減少 雄子牛の売却減 ②雌子 過剰な動員が起こっていると判断できる この時期に 牛の出生頭数減少 更新牛購入コスト ③出荷乳

第 7 回トキ飼育繁殖小委員会資料 2 ファウンダー死亡時の対応について ( 案 ) 1 トキのファウンダー死亡時の細胞 組織の保存について ( 基本方針 ) トキのファウンダーの細胞 組織の保存は ( 独 ) 国立環境研究所 ( 以下 国環研 ) が行う 国環研へは環境省から文書

牛体温監視システム

国産粗飼料増産対策事業実施要綱 16 生畜第 4388 号平成 17 年 4 月 1 日農林水産事務次官依命通知 改正 平成 18 年 4 月 5 日 17 生畜第 3156 号 改正 平成 20 年 4 月 1 日 19 生畜第 2447 号 改正 平成 21 年 4 月 1 日 20 生畜第 1

PowerPoint プレゼンテーション

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開発の社会的背景 日本では 家畜用の牛の繁殖の多くが人工授精によって行われている 人工授精を行う際には ストロー状 の容器に封入され凍結保存されていた精液を解凍 ( 融解 ) し 雌牛への人工授精に適した時期に子宮内へ注入する 近年 牛では人工授精の受胎率が低下傾向にあり 繁殖性の改善のため 雌牛の

マイクロボリュームエアクーリング (MVAC) 法によるブタ胚 ( 体内生産胚 ) のガラス化保存方法 - 1 -

熊本県 肉用牛 乳用牛 豚 採卵鶏及び肉用鶏 規模に関係なく実施 飼養衛生管理基準の該当項目第八感染ルート等の早期特定のための記録の作成及び保管 写真写真の説明 貼付場所 ( 取扱が容易なサイズとしてください ) 衛生管理区域入場記録簿 取組内容の詳細入場者記録簿が来場者から一目で分からない場所にあ

(1) 乳脂肪と乳糖の生成反芻動物である乳牛にとって最も重要なのはしっかりしたルーメンマットを形成することです そのためには 粗飼料 ( 繊維 ) を充分に与えることが重要です また 充分なルーメンマットが形成され微生物が活発に活躍するには 充分な濃厚飼料 ( でんぷん 糖 ) によりエネルギーを微

乳牛の繁殖性低下の現状と子宮環境 ており 産歴にかかわらず黒毛和種の精液を授精した方がホルスタイン種の精液より受胎率が若干高くなる傾向が認められている [5] しかし 人工授精用精液の調整法の違いや雑種強勢の影響を考慮する必要があるため この成績だけで黒毛和種の雄がホルスタイン種の雄より受精能が高い

Microsoft Word - H19_04.doc

第 19 回体外受精卵産子枝肉共励会 最優秀賞 中村正志さん ( 熊本県経済農協連 ) 安茂勝 月齢 kg ロース芯面積 67cm 2 BMS No. 8 枝肉単価 2,803 円 優秀賞 ( 農事 ) 松永牧場 優秀賞 加藤牧場 優秀賞 今井牧場 月齢 kg ロース芯面積

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平成 29 年 8 月 22 日 月 ( 国内種雄牛 ) トピックス 1. SNP 情報を持つ経産牛のゲノミック評価値が公表されています ( 独 ) 家畜改良センター改良部情報分析課 ゲノミック評価では DNA 情報の一種である SNP( 一塩基多型 ) 情報を用います 遺伝情報として

11 ウシガラス化保存時のストロー内希釈液の種類と胚の生存性

5. 研究組織 (1) 日本側参加者 たかはし高橋 ( ふりがな ) 氏 よしゆき 芳幸 名 所属 職名研究協力テーマ北海道大学獣医学教授牛胚の体外生産 かさい葛西 まごさぶろう 孫三郎 高知大学農学系教授 牛 水牛胚凍結 かない金井 ゆきお幸雄 筑波大学生命環境科学教授 水牛体細胞の保存 あかぎ赤

平成14年度研究報告

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医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

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背景 消費者の食品の安全性に対する関心 要求は 平成 7 年の腸管出血性大腸菌 O157による食中毒事件を機に一気に高まり 消費者は 安心して食べられる安全な食品 を強く求めています このような消費者の要望に応えるため 食品業界では食品の安全性の確保のため世界的に有効な衛生管理手法として認められてい

不妊外来を受診される方へ

農林畜産食品部 ( 長官イ ドンピル ) は口蹄疫 高病原性鳥インフルエンザなどの家畜疾病防疫体系改善を反映した家畜伝染病予防法が 2015 年 6 月 22 日付けで改正 公布されたことをうけ 後続措置として 家畜伝染病予防法施行令及び施行規則 の立法手続きが完了し 2015 年 12 月 23

アマミノクロウサギ保護増殖事業計画 平成 27 年 4 月 21 日 文部科学省 農林水産省 環境省

HACCP 自主点検リスト ( 一般食品 ) 別添 1-2 手順番号 1 HACCP チームの編成 項目 評価 ( ) HACCP チームは編成できましたか ( 従業員が少数の場合 チームは必ずしも複数名である必要はありません また 外部の人材を活用することもできます ) HACCP チームには製品

第 3 節水田放牧時の牛白血病ウイルス対策 1. はじめに水田放牧のリスクの一つとして, 感染症があります 放牧場で広がりやすい牛の感染症の中でも, 牛白血病は近年わが国で非常に問題となっています この節では, 牛白血病の概要説明とともに, 水田放牧を行う際に取るべき牛白血病対策について紹介します

ことよりもたらされます このエストロジェンが発情や発情徴候を起こします 発情期というのは 発情 ( 雄の交尾を許容している状態 ) を持続している期間 ( 時間 ) をいいます 従来から言われている牛の発情持続時間は 10 時間から 27 時間の範囲で 未経産の牛では平均 14 時間 経産牛では平均

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

システムの構築過程は図 1 に示すとおりで 衛生管理方針及び目標を決定後 HAC CP システムの構築から着手し その後マネジメントシステムに関わる内容を整備した 1 HACCP システムの構築本農場の衛生管理方針は 農場 HACC P の推進により 高い安全性と信頼を構築し 従業員と一体となって

世界初!超低温保存した子豚の精巣をもとに子豚が誕生

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その最初の日と最後の日を記入して下さい なお 他の施設で上記人工授精を施行し妊娠した方で 自施設で超音波断層法を用いて 妊娠週日を算出した場合は (1) の方法に準じて懐胎時期を推定して下さい (3)(1) にも (2) にも当てはまらない場合 1 会員各自が適切と考えられる方法を用いて各自の裁量の

平成24年度自給飼料利用研究会資料|酪農生産における暑熱の影響とその対応

8. 内部監査部門を設置し 当社グループのコンプライアンスの状況 業務の適正性に関する内部監査を実施する 内部監査部門はその結果を 適宜 監査等委員会及び代表取締役社長に報告するものとする 9. 当社グループの財務報告の適正性の確保に向けた内部統制体制を整備 構築する 10. 取締役及び執行役員は

平成 28,29 年度スポーツ庁委託事業女性アスリートの育成 支援プロジェクト 女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究 女性アスリートにおける 競技力向上要因としての 体格変化と内分泌変化の検討 女性アスリートの育成 強化の現場で活用していただくために 2016 年に開催されたリオデジャネイロ

近交回避マニュアル xlsx

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表 1 過剰排卵処置スケジュール 日 処置内容 AM E2:2mg CIDR 挿入 FSH:6AU FSH:5AU FSH:4AU PG:625μ g CIDR 抜去 PM FSH:6AU FSH:5AU FSH:4AU AI(1 回目 )* GnRH:200μ g A

農研機構畜産草地研究所シンポジウム|世界的なルーメンバイパスアミノ酸の利用

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地域における継続した総合的酪農支援 中島博美 小松浩 太田俊明 ( 伊那家畜保健衛生所 ) はじめに管内は 大きく諏訪地域と上伊那地域に分けられる 畜産は 両地域とも乳用牛のウエイトが最も大きく県下有数の酪農地帯である ( 表 1) 近年の酪農経営は 急激な円安や安全 安心ニーズの高まりや猛暑などの

日本スポーツ栄養研究誌 vol 目次 総説 原著 11 短報 19 実践報告 資料 45 抄録

液体容器の蒸気滅菌について 当社の EZTest 高圧蒸気用バイオロジカル インジケータ (BI) の長年のユーザーで 最近自社の増殖培地培地 ( 液体 ) の殺菌を始めました 彼らは以前サプライヤーから準備された生培地を購入していましたが コスト削減策として開始されました 粉末培地の指示書には 1

Transcription:

ISSN 13 47 2 712 畜 産 草 地 研 究 所 技 術 リ ポ ー ト 15 号 人工授精技術者のための 牛人工授精マニュアル 人的要因の見直しに向けた確認メモ集 2014 年 1 月 農研機構畜産草地研究所

表紙の説明 左上 :0.25ml ストロー用シース管の先端部右上 : 精液の注入操作左下 : 牛精子の活性ミトコンドリア染色 (MitoTracker Red CMXRos) 右下 : 消毒用噴霧器 ( 農研機構畜産草地研究所 )

種雄牛の精液採取 擬牝台への乗駕から射精まで 農研機構畜産草地研究所

核 ( 青 ) と活性化ミトコンドリア ( 赤 ) の染色 (Hoechst33342 と MitoTracker Red CMXRos) 核 ( 青 ) と高活性化ミトコンドリア ( 赤 ) の染色 (Hoechst33342 と JC1) ( 農研機構畜産草地研究所 )

技術リポート 15 号 人工授精技術者のための牛人工授精マニュアル の刊行にあたって 本マニュアルは 農林水産業 食品産業科学技術研究推進事業の研究課題 雌を妊娠させやすい雄牛の評価と新規精液凍結法による繁殖性向上技術の開発とその実証 (#23032; 平成 23~25 年度 ) の現地検討会の成果を活用して製作されたものである 読者としては 現場経験が豊富な人工授精技術者を想定している この現地検討会は 平成 24 年 11 月 30 日 人工授精現場で活躍している獣医師や家畜人工授精師を交え 家畜改良事業団家畜改良技術研究所にて開催された それによって この課題で取り組んでいる牛人工授精の研究開発に対する現場の要望を収集すると同時に 彼らが求めているマニュアル像を探った その結果 組織体制の合理化により業務量が増大し 多忙な日々を過ごす人工授精技術者であっても容易に目を通せるような 簡潔でわかりやすいマニュアル という要求が浮かび上がってきた さらに 平成 23 年度畜産草地研究所問題別研究会 牛における人工授精の現状と今後の研究展開 において 現役の人工授精技術者の研修が途絶えている人工授精現場では 受胎率向上のため 人的要因を中心に 技術者自身が見直すべき点の多いことも判明していた それらを受け 1ページの上部には 図表を また 下部には 人工授精技術者が人的要因および管理的要因などを見直す際の参考資料として 確認メモ をそれぞれ配置し 各ページが読みきり形式 の簡潔なマニュアルを作成した 今回のマニュアルが厳しい環境下で日夜奮闘されている牛人工授精技術者に活用され 牛人工授精の受胎率向上 に資することができれば幸いである 平成 26 年 1 月 独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所所長土肥宏志

目次 マニュアル はじめに 1 構造的要因の見直しを 3 衛生 防疫概念の見直しを 4 発情の発見 5 授精適期 6 凍結精液の保管と取扱い 7 凍結精液の融解 8 精液の注入 9 人工授精後の黄体の変化 10 ホルスタイン種の繁殖性 11 ホルスタイン種の繁殖に有用な情報 12 あとがき 13 参考資料 参考資料 1 15 人工授精の技術に関するアンケート調査結果酪農学園大学野田直行 堂地修 参考資料 2 24 乳用牛の人工授精現場において受胎率低下を引きおこしている要因の抽出 ( 独 ) 農研機構畜産草地研究所渡辺伸也 参考資料 3 28 発情発見における留意事項 ( 独 ) 家畜改良センター熊本牧場吉ざわ努 参考資料 4 30 乳用牛受胎率向上のための重要管理点チェックシート ( 家畜人工授精技術者向け ) ( 社 ) 日本家畜人工授精師協会 参考資料 5 32 乳用牛受胎率向上のための重要管理点チェックシート ( 酪農家向け ) ( 社 ) 日本家畜人工授精師協会

マニュアル

1

構造的要因連絡体制情報共有組織体制 P3 人的要因 牛の要因管理要因 雌の要因 P10,P11 雄の要因 技術的要因 現状技術の再点検 P8,P9 管理的要因 P4~7,P12 衛生管理 P4 繁殖管理 P5,P6 管理的要因 資材管理 P7 飼養管理 P12 育種改良により 牛の能力は向上してきました それに伴い 飼養形態も変化しています しかし 牛の恒常性そのものは維持されています したがって 人が変わらなければ解決に至りません 2

構造的要因の見直しを 当たり前の話ですが 意思疎通には大切な内容です 現行の体制を 再度 見直してみてください 連絡体制 : 畜主とのコミュニケーション人工授精技術者は 畜主との日々の連携が必要です 授精に訪問した際 畜主が不在であるような関係は修正すべきです 正確な発情の稟告をしてもらうよう 指導も大切な要因です 情報共有技術者集団で種々のデータを収集 分析することは 今後の展開に必須です 技術普及指導資料 = 新たな知見等の紹介 現状評価資料 = 現行の技術評価に利用 繁殖指導管理資料 = 畜主への指導また 畜主を交えた勉強会や研修会などへの参加や開催に努めることにより 地域内で情報を共有し合うことも大切です 関係団体全体での推進体制の構築を農協 農業共済組合 農業改良普及センター等が組織の垣根を越えて連携できる環境を作ることが理想的です また 組織に所属する人工授精師や獣医師等の連携も大切な要因です 3

衛生 防疫概念の見直しを 牛白血病の発生頭数 農林水産省統計より改変 直検手袋の使用 小型噴霧器による タイヤの消毒 踏み込み槽の設置 確認メモ 近年 牛白血病等の伝染性疾患がまん延しています 人工授 精技術者が農場から農場へ移動する際 疾病を伝播させるこ とがあってはなりません もう一度 衛生に関する概念を確 認して下さい 牛白血病は 直腸検査によって媒介される可能性があります 直腸検査用手袋は1頭ごとに交換し 連続して使用すること はやめましょう 消毒液専用の噴霧器を携行し 農場の出入りの際に車両消毒 タイヤ等 を励行しましょう 畜舎に踏み込み槽を設置していない農場があれば 畜主に設 置をお願いし 疾病の侵入を防止するよう指導しましょう 人工授精技術者専用の長靴を牧場に備えつけることも よい 方法です 引用文献 農林水産省 監視伝染病発生状況の累年比較 http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/kansi_densen/kansi_densen.html 4 4

発情の発見 発情を調べるため に装着した万歩計 提供 坂口 実 氏 ヒート フリーストールにおける マウント スタンディング 提供 堂地 修 氏 ディテクター 畜主 酪農家 が授精適期を 決める際の根拠 堂地ら 2006より改変 確認メモ 発情の確認は 畜主が分担すべき役割です スタンディングが見られる環境があれば ベストです 支出が生じますが 万歩計や補助器具の導入も有効です フリーストールの場合でも スタンディングがみられます つなぎ飼いや少数頭飼育の場合には 発情行動の観察が困難 になるので 一層注意深い発情徴候の観察が求められます 発情の稟告を受けた場合 何を根拠に発情と判断したのか 粘液 挙動 外陰部の腫脹など を畜主に報告させるよう 指導してください 畜主が授精適期を決める際の根拠には 大きな個人差がある といわれています 引用文献 堂地 修ら 繁殖技術 25: 4553 2006 5 5

授精適期 ( 上下変動の図 ) ( 提供 : 濱野晴三氏 ) よく目にする図ですが 基本的な図です 畜主にも提示して 発情前後の牛の挙動を把握してもらって下さい 数多の商業誌には 繁殖講座が連載されています それらを読破し 参考に実践することも一案です 発情開始後 6~18 時間が授精適期 8~16 時間が最適期です ホルモン剤による発情誘起もできます しかし その利用法によっては 人工授精の受胎率が低下する場合もあります 授精の適否の判断には 次のことが参考になります 過去の繁殖歴に問題がないこと 粘液の汚濁がないこと 子宮収縮があること 6

凍結精液の保管と取扱い キャニスターの持ちあげかた 家畜改良事業団 2011より引用 液体窒素の入った容器内 でのストローの仕分け 試験的な空中保持(10回)において 無風状態は牛胚のダメージを抑制 高橋ら 2008 より改変) 確認メモ 窒素容器中の液体窒素量の確認を定期的にして下さい 液体 窒素の枯渇は 大切な精液の損失を招きます キャニスターを持ちあげる際には 窒素容器の口より上にあ げないように配慮します 室温では キャニスターの温度が 急速に上昇します 液体窒素から取り出したストロー内部の温度変化は急激です わずか5秒の外気露出で 50 以上の温度上昇が生じます 凍結精液の取り扱いは 無風状態で行います それにより ストローの温度上昇を最小限にとどめることができ 精子や 胚のダメージが低減されます 引用文献 家畜改良事業団 Sort90人工授精マニュアル http://liaj.lin.gr.jp/sort90manual.pdf 高橋芳幸ら 北海道牛受精卵移植研究会報 27: 2226 2008 7 7

凍結精液の融解 温度計 タイマー 家畜改良事業団 2011より引用 38 のぬるま湯 38 15秒 厳守 確認メモ 凍結精液を融解する際 温度計とタイマーは必須のものです 勘に頼った融解法は 精子の生存性を損ねます 必ず上記器 具を用い マニュアルに従って 融解することが重要です 融解過程の有害温度域(40 15 )を素早く通過させるた め 0.5mℓストローの場合 38 15秒で融解しましょ う ただし 使用する凍結精液において 人工授精事業体が 推奨している融解方法がある場合には それに従います 授精の直前に ストローを1本ずつ 融解するようにしま しょう ストローをまとめて融解すると 注入までの時間が 長くなることで 精子活力の低下が誘発されます 引用文献 家畜改良事業団 Sort90人工授精マニュアル http://liaj.lin.gr.jp/sort90manual.pdf 8 8

精液の注入 陰唇粘膜の消毒 先端の確認 外子宮口 B A 子宮頸管(A)と 輪状ヒダ(B) 子宮頸管深部 への注入 子宮頸管の2cm先の 子宮体への注入がベスト 確認メモ 陰唇粘膜の消毒は 内から外 が基本です 授精時の出血は 不受胎につながる主要因です 注入器の挿 入は 慎重に行いましょう 精液注入後 シース管の先端に血液が付着していないかを目 視し 注入操作に問題がなかったことを確認しましょう とくに厳寒期は ストローを装着した注入器の保温に留意す ることが大切です 発泡スチロール箱に保温剤 湯たんぽ と注入器を入れて運ぶか 専用のウオーマーを購入して利用 するなどの方策があります 精液の注入部位は 子宮体といわれる方が多いですが 子宮 体は思っているより短いものです 直腸腟法で授精する場合でも 腟鏡を用い 腟や外子宮口な どに異常のないことを確認することが大事です 参考文献 杉浦伸二郎 LIAJ NEWS No.140 78 2013 注入器等保温の工夫 9 9

人工授精後の黄体の変化 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 各発育段階の黄体 ( 提供 : 赤木悟史氏 ) 不受胎 退行黄体 排卵予定の卵胞 Ⅳ:day17~20 Ⅰ:day1~4 Ⅱ:day5~10 Ⅲ:day11~17 黄体の発育段階の模式図 ( 提供 : 高橋ひとみ氏 ) 受胎 黄体の発育は Ⅰ~Ⅳ の段階に区分されています なお ほとんどの黄体期の牛 ( 排卵当日から 4 日後くらいまで ) には 卵胞 ( 主席卵胞 退行過程の主席卵胞を含む ) があります 黄体ができなければ 牛側に何らかの原因があると考えられます 獣医師に相談するようにして下さい 発情 排卵後の黄体の発育性は 牛のコンディションによっても変化します 人工授精後 黄体の発育状況を定期的に観察することで 発情回帰の予定日以前に不受胎を推定することも可能です ただし 過度あるいは乱暴な直腸検査は 不受胎や流産の原因になるので 注意が必要です 10

ホルスタイン種の繁殖性 家畜人工授精技術者の声から 全体 フリーストール牛舎 ホルスタイン種における繁殖上の問題点 ( 堂地ら 2006 より改変 ) 近年のホルスタイン種の発情徴候 ( 堂地ら 2006 より改変 ) 近年のホルスタイン種では 泌乳量の増加に伴い 発情徴候が微弱になるなど とくに経産牛の状態が以前とは違ってきています 繁殖上の問題点として 発情微弱や不明瞭を訴える人工授精技術者が増えています 一方で 飼養管理や繁殖管理などを最適化することで 乳生産と繁殖性を両立している牛群も存在しています 引用文献 堂地修ら 繁殖技術 25: 4553 2006 ( 提供 : 堂地修氏 ) 11

ホルスタイン種の繁殖に有用な情報 牛群検定のデータ ( 家畜改良事業団 ) MUN( 乳中尿素態窒素 ) P/F( 乳蛋白質 / 乳脂率 ) BCS( ボディコンデションスコア ) 分娩間隔 MUNからの繁殖障害などの推定 MUN 値 推定される状況 ~8 受胎率の低下 卵巣膿腫 黄体遺残など 8~16 ( 適正値 ) 16~ 繁殖障害 受胎率の低下 ( 相原 2013 より引用 ) P/Fからの繁殖障害などの推定 P/F 値推定される状況授精対象牛における繁殖障害 ~0.7 Pが低い エネルギー不足 ケトーシス Fが高い 脂肪肝 低乳量 0.7~1.0 ( 適正値 ) 授精対象牛における繁殖障害 1.0~ ルーメンアシドーシスなどの代謝障害注 )PとFともに低い 乾物摂取不足と推定 ( 相原 2013より引用 ) 種雄牛評価結果 ( 家畜改良センター ) 産子死亡率 産子難産率 MUNは 雌牛の受胎率低下や繁殖障害を推定するための指標として用いられています P/Fは 雌牛の繁殖障害を推定するための指標として用いられています BCSは 雌牛の栄養状態が適切かどうかを判断するための指標として有用です 国内および海外の 種雄牛評価結果 は 家畜改良センターのWebページに公表されています 遺伝的能力評価検索 引用文献 相原光夫 今日も明日も牛群検定が約束するあなたの酪農経営! デーリィ ジャパン社 2013 12

あとがき このマニュアルの目的は 現在 問題になっている牛人工授精の受胎率低下において その原因となっている部分を明確にし それを解消するためのヒントを人工授精技術者に提供することにある この目的を達成するため 人的要因の見直しに向けた確認メモ集 というユニークな体裁をとっている それに伴い 学術的な詳説や日常業務として人工授精技術者が熟知している授精手順の詳細はあえて割愛してある 原稿作成の過程においては ジェネティクス北海道髙橋芳幸学術顧問 酪農学園大学農食環境学群堂地修教授 信州大学農学部濱野光市教授 北里大学獣医学部坂口実教授 家畜改良センター熊本牧場吉ざわ務場長 家畜改良事業団濱野晴三部長ならびに農林水産 食品産業技術振興協会岡野彰専門 PO より有益なご助言をいただいた また 北海道家畜人工授精師協会 日本 IVF 学会ならびに日本家畜人工授精師協会には 参考資料として掲載した著作物の転載を許諾していただいた さらに このマニュアルの刊行にあたっては コンソーシアム メンバーをはじめ 写真 図表を提供していただいた諸先生など 多くの関係者のご支援とご協力を得た 関係されたすべての皆様に感謝の意を表したい 農林水産業 食品産業科学技術研究推進事業 ( 旧新たな農林水産政策を実現する実用開発事業 ) 雌を妊娠させやすい雄牛の評価と新規精液凍結法による繁殖性向上技術の開発とその実証 ( 課題番号 :23032 平成 23~25 年度 ) 研究総括者渡邊伸也 ( 農研機構畜産草地研究所家畜育種繁殖研究領域 ) コンソーシアム メンバー 静岡大学農学部 : 高坂哲也家畜改良事業団家畜改良技術研究所 : 湊芳明 内山京子 船内克俊 絹川将史農研機構畜産草地研究所 : 渡邊伸也 武田久美子 金田正弘 ( 平成 24 年 9 月まで ) マニュアル執筆者 : 渡邊伸也 武田久美子 ( 農研機構畜産草地研究所 ) 13