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Detection of Driver Drowsiness Level あらまし 近年の交通事故の多くが, 脇見や眠気などのヒューマンエラーが原因であることが知ら れている 著者らは, このような事故を未然に防ぐ手段として, ドライバの覚醒度 かくせいどを事前に 検知する技術の開発を行っている 本稿では, 覚醒度の中で特に眠気に注目し, 心拍揺らぎを用いた新しい眠気検知手法について紹介する 心拍揺らぎの解析では, 従来からLF 成分 (0.04~0.15 Hz) とHF 成分 (0.15~0.4 Hz) を指標とした推定手法について研究報告されているが, 従来法では安定に欠き実用化まで至っていない 提案手法は, 今まで難しかった個人差による精度のばらつきを, 逆に個人に特徴的な固有周波数を追跡することで精度を高めたことに特徴がある ドライビングシミュレータを用いた実験より, 提案手法と顔面表情による眠気評価とがほぼ一致することを確認し, 眠気状態を推定する新しい手法としての可能性を示した Abstract It has recently been established that most traffic accidents are due to human error, such as inattentive driving and drowsiness. For this reason, we are studying a technology to monitor drivers based on a frequency analysis of variations in heart rate. We initially focused on the level of driver drowsiness under the category of driver alertness and introduced a method of detecting drowsiness among drivers. By using an electrocardiographic sensor to obtain a heartbeat signal, we can detect the early signs of drowsiness and cope with individual differences through a unique, coordinated analysis of two specific indexes that denote levels of excitement and awareness. An experiment conducted by using a driving simulator verified that our technology helps detect driver drowsiness before a critical situation could occur. 中野泰彦 ( なかのやすひこ ) ITS 研究センター所属現在, 生体センシング, 画像処理, およびデータ圧縮の研究開発に従事 宮川あゆ ( みやかわあゆ ) ITS 研究センター所属現在, 生体センシングおよび画像処理の研究開発に従事 佐野聡 ( さのさとし ) ITS 研究センター所属現在, 生体センシングの研究開発に従事 416 FUJITSU.59, 4, p.416-420 (07,2008)

まえがきドライバの運転状態を推定する研究が近年, 盛んである (1)-(3) 警察庁の統計データ (4) によると,2007 年中の交通事故による死者数は5744 人で,7 年連続の減少となるとともに,54 年振りに5000 人台となった しかし, 過去 10 年間の交通事故原因をみると, 最高速度違反などの危険運転によるものは半減し減少傾向が顕著であるが, 安全不確認, 漫然運転, 脇見運転などのヒューマンエラーによる事故の数はそれほど変わっていない このことから今後も継続的に交通事故を減らすには, 漫然運転などの原因となるような疲れや居眠りなどのドライバの かくせいど 覚醒度状態を事前に把握することが有効である 著 者らは, 交通事故を未然に防止する技術として, 覚醒度検知の技術開発を行っている ドライバの覚醒度計測手法ドライバの覚醒度を推定する研究事例を表 -1にまとめた 大きく分けて, 人間の生理情報から推定する方法と, 車両情報から推定する方法との2 種類がある 生理情報から計測する方法としては, 脳波や心拍を用いたものなど様々な方法が提案されている 最近では, 人間の挙動, とくに目の動きを非接触センサであるカメラで撮影して覚醒度を推定する方法に各社が取り組んでいる センサが非接触であることで, ドライバへの負担が少ないことが特長であるが, 画像処理が必要になることでコストがかかる 車両情報や車の操作情報から覚醒度を計測する手法も近年盛んに研究されており, 車両の横揺れや白線逸脱を検知しドライバに注意喚起を促すものが一部既に実用化されている これらは車両情報から間接的に覚醒度を推定するので, 必ずしもドライバの覚醒度が直接原因ではないという問題がある 著者らは, このような技術の中で, 比較的古くか ら覚醒度に関係が深いとされている心拍を使った手法を取り上げて検討を開始した 心拍変動の揺らぎを解析することで, 自律神経 ( 交感神経, 副交感神経 ) の活動状況を把握し, 覚醒度, ここでは特に眠気状態の推定を行う 心拍揺らぎによる眠気検知心拍揺らぎを利用した眠気検知の研究は古くからあったが, (3) 一般的な揺らぎ解析による自律神経活動推定は個人差が大きく, 安定した評価が難しいため, まだ実用化まで至っていない 著者らは, 逆にその個人差を積極的に利用することによって安定度を高めることにした 下記にその手法について紹介する 眠気を検知する方法として, 心拍変動の揺らぎを解析する 心拍の一拍と一拍の間隔, すなわち, 心拍間隔は常に一定値をとるのではなく, 心臓血管系の影響を受けて一拍ごとにその間隔が大きくなったり, 小さくなったりして, 揺らいでいることが知られている その心拍間隔の変動を周波数解析することにより自律神経活動を把握して眠気を推定する (1) 心拍データとRRI 系列の取得心拍データを取得する手段としては, 生体センサを用いる 例えば, 電極を埋め込んだハンドルからドライバの心電データを取得できる トレーニングセンタなどでも見かける耳たぶ型の光学式脈波センサでも心拍データ ( 脈波 ) が取得できる 心拍データの取得後, 心拍のピーク ( 心電の場合はR 波 ) を取得し, そのピークの間隔 (RRI:R-R Interval) 系列を取得する 心拍データは個人差があり, 明瞭に現れる場合もあるが, 乱れもあるので, 適切なフィルタや相関法などを用いて整形し, きれいな RRI 系列を取得する (2) RRI 系列の周波数解析整形したRRI 系列を周波数解析する 心拍間隔の 表 -1 ドライバ覚醒度検知の研究事例 計測対象 計測手段 推定手法 脳波 脳電図 α 波,θ 波 心拍 心電図, 脈波 心拍数変化, 周波数成分解析 呼吸 サーミスタ 呼吸数変化 眼球運動 眼電図 活動度 瞬き, 視線 カメラ まぶた瞼閉度継続時間, 顔向き ホルモン 試験紙 コルチゾール, アミラーゼ 横揺れ, 車線逸脱 ステアリング角センサ, 白線検知カメラ そうだ横ずれ量, 操舵パターン FUJITSU.59, 4, (07,2008) 417

スペクトルは生体の状態により変化し, 活動時には HF(high frequency:0.15~0.4 Hz) 成分が低く, リラックス時にはHF 成分が高まることが知られている 従来からLF(low frequency:0.04~ 0.15 Hz) 成分とHF 成分を指標とした眠気推定方法について研究報告されているが, 実際にはLF 成あいまい分とHF 成分との境界が曖昧であることやLF 成分の安定性に課題があることなどから, 信頼できる推定が難しく, 古くから医学的にも心拍揺らぎが眠気に関連することがよく知られているにもかかわらず, まだこの手法では実用化まで至っていない LF 成分,HF 成分を有する, 何か別の安定した特徴量を抽出する必要があった 複数の被験者による実験で, 心拍間隔スペクトルを調査, 解析した結果, 図 -1に示すように, スペクトルのピーク周波数とピーク強度の変化に着目することで, 覚醒状態と眠い状態のときに, その挙動に変化があることが明らかになってきた また,LF 成分より,HF 成分に強い傾向がでることが分かってきた 副交感神経に関係が深いとされるHF 成分のみに着目すればよさそうである こうした知見から, 覚醒状態を推定するための指標として,HF 成分の活動状況に着目することで眠気が推定できると仮定して, さらに実験を行うことにした 図 -2は, ドライバの運転時間による状態変化を上記のアルゴリズムに沿ってプロットしたものである 横軸は,HF 成分のピーク周波数をベースに興奮度として定義し, 個体内の変化に追従している また 縦軸は,HF 成分のピーク強度をベースにし覚醒度として定義しており, 帯域の境界を考慮する必要がない グラフ中の数字は運転開始からの経過時間を表している 処理は下記のステップで行っている (1) HF 領域付近でのピークを抽出 (2) ピークを追跡 (3) 途切れたピークの接続, 異常データの補正 (4) 個人に合わせてスケーリングピーク周波数は個人ごとに異なるが, 個人ごとのスペクトル密度のピークを追跡し, 途切れたピークや乱れを前の時刻や複数の周波数でのピーク情報を利用して補正する 興奮度と覚醒度が状態が起きている状態で, その両方が状態が眠い状態である 運転を開始して眠くなっていくと, 右上から左下に下がっていく傾向が見られる 眠気の評価指標眠気の評価は, 眠気というものが生理的かつ主観的なものであるので一般化するのは難しく, 残念ながら現状で完全なものは存在しない リファレンスとして, 脳波や眼電図を用いるもの, 顔画像を用いるものなどがあるが, 現状で最もよく用いられているのが, 顔面表情から人間の主観により眠気を推定するNEDO ( 注 ) の評価方法 ( 以下,NEDO 評価 ) である (5) NEDOの評価方法を下記に示す (1) 眠気レベル1: 全く眠くなさそう ( 視線の移動 PSD ( パワースペクトル密度 ) (ms 2 /Hz) 10 3 10 2 10 1 10 0 LF ピーク HF 10-1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 周波数 (Hz) 実線 : 覚醒状態破線 : 眠い状態 図 -1 心拍変動のスペクトル Fig.1-Frequecy analysis of RRI. 覚醒度 45 25 35 67 眠気方向 興奮度 15 数字は時間 ( 分 ) 図 -2 眠気判断アルゴリズム Fig.2-New method of detecting sleepiness level. 5 ( 注 ) New Energy and Industrial Technology Development Organization の略 独立行政法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 418 FUJITSU.59, 4, (07,2008)

が早く頻繁である, 瞬きは2 秒に2 回くらいの安定した周期, 動きが活発で身体の動きを伴う ) (2) 眠気レベル2: やや眠そう ( 唇が開いている, 視線移動の動きが遅い ) (3) 眠気レベル3: 眠そう ( 瞬きはゆっくりと頻発, 口の動きがある, 座り直しあり, 顔に手をやる ) (4) 眠気レベル4: かなり眠そう ( 意識的と思われる瞬きがある, 頭を振る 肩の上下動などの無用な身体全体の動きがある, あくびは頻発し深呼吸も見られる, 瞬きも視線の動きも遅い ) (5) 眠気レベル5: 非常に眠そう ( 瞼を閉じる, 頭が前に傾く, 頭が後ろに倒れる ) NEDOの厳密な評価方法としては,5 秒ごとに5 段階の評価点を付けることになっている また,2 名で行うことが推奨されている しかし, 評価においては顔面表情や動作による眠気具合の変化点を捕えることが最も重要と考え, 明らかに表情や動作の変化が起こった時間だけ評価点をつける方法とした また評価は主観評価となるので, ぶれを少なくするために複数名で行うことが推奨されているが, 今回の評価では, 事前に複数名で何名分かの評価を一緒に行うことで評価のぶれをなくし, あとは1 名で残りの評価を行う方法として簡略化した 新しい眠気検知手法の評価本手法の評価を行うために, ドライビングシミュレータを用いて眠気実験を行った 眠気の評価は, 眠気の遷移状態が把握できること, NEDO 評価と比較して相関があること を確かめる ドライビングシミュレータ実験装置として, 市販のゲーム機のドライビングゲームを用い, 実在する国道の周回コースを走行する形とした 実験走行は, トータルで80 分間運転し, この間の心電もしくは脈波を記録する 運転開始後,20 分間は, できるだけ高速で運転してもらう その後, 眠気を誘発するために, 時速 30 km 以下の低速で運転してもらう この状態で40 分運転を続ける 運転開始から60 分経過後, 再度, 高速運転を20 分間行ってもらう 実験の際, 心電データはディスポ電極を第二誘導法で取得し, 脈波データは耳たぶ式の光電型の脈波センサで記録する それと同時に眠気評価のリファレンスとして用いるために運転中の被験者の顔画像を記録した また参考のために, 実験直後に被験者に眠気レベルのアンケート調査を行った 実験途中だとその時点で覚醒するのでNGと判断し事後とした 実験後で記憶自体が曖昧になるので, ある程度大きな時間帯での結果報告とし,1 高速前半,2 後半,3 低速前半,4 中盤,5 後半,6 高速前半,7 後半とし, 眠気を5 段階で自己評価してもらうこととした 評価結果の一例を図 -3に示す 眠気の状態を, 横軸を興奮度, 縦軸は覚醒度で表した2 軸のグラフ ( 以後,2 軸グラフ ) 上の位置で表し, 時間ごとの状態をポイント ( ) で示している 2 軸グラフの下に顔面表情から判断した眠気評価 (NEDO 評価 ) と, 被験者に対して実験終了直後にヒヤリングした眠気の自己申告結果を示している NEDO 評価, 自己評価とも横軸が時間である 2 軸グラフを見てみると, 運転開始から眠気を誘発する20 分頃まではグラフの右上の起きている状態にあり, その後, 時間が経つにつれて左下の眠い方向へ少しずつ遷移していることが分かる 眠気を誘発する低速走行は20 分頃から行っており, このあたりから少しずつ眠気が増していることを示している 低速走行を40 分間継続した時間 ( 図中の60 分のところ ) から再び高速走行に移行しているが, ここから2 軸グラフ上でも右上に遷移して, 起きる方向に向かっていることが分かる 実験中の被験者の顔画像によるNEDO 評価と比較すると, 最初は, 眠気レベル1で全く眠くない状態で, その後,20 分頃から眠気レベルが4まで上がっていき, 最後の20 分で眠気レベルがまた2まで戻っている 2 軸の評価とNEDO 評価はほぼ一致していることが分かる 自己評価についても,NEDO 評価,2 軸グラフでの評価とほぼ一致している このように2 軸グラフによる眠気の遷移状態図は,NEDO 評価, 主観評価との相関性が高く, 心拍変動のスペクトルのピーク周波数とピーク強度の変化をとらえた本手法で, 眠気状態を推定できる可能性が示せた 現時点で20 名程度の眠気評価を行った結果, 上記と同様にNEDO 評価とほぼ一致しており, 本手法の有効性が確認できている 今後の課題眠気状態を推定できる可能性が示せたので, 今後, さらに被験者を増やし検証を進めるとともに眠気レ FUJITSU.59, 4, (07,2008) 419

覚醒度 60 分 2 60 50 30 2 80 70 80 分 眠気方向 20 1 20 分 10 0 分 1: 全く眠くなさそう 2: やや眠そう 3: 眠そう 4: かなり眠そう 40 分 40 3 4 興奮度 0 10 20 30 40 50 60 70 80 時間 ( 分 ) 高速走行低速走行高速走行 NEDO 評価 自己申告 1 2 3 4 2 1 2 2 3 3 2 2 図 -3 眠気評価結果の一例 Fig.3-Driver sleepiness detection. ベルの数値化を自動化する 眠気検知後の警報をどのタイミングで出すかを決める情報として使う また個人ごとの特徴量を用いて眠気レベルを判断するので, 初期データをどのように用意するかも大きな課題である むすび心拍揺らぎ解析を用いた新しい眠気検知手法を検討し, ドライビングシミュレータによる実験を行った その結果, 提案手法と顔面表情による眠気評価の結果がほぼ一致することを確認し, 眠気状態を推定する新しい手法としての可能性を示した 本方式は, 心拍揺らぎ解析で今まで難しかった個人差による精度のばらつきを, 逆に個人に特徴的な固有周波数を追跡することで精度を高めたことに特徴がある 本手法を用い, 眠気の予兆を事前に見つけることで交通事故を未然に防ぐことに役立てたい また今後は眠気検知だけでなく, 酒気帯び検知などへの応用や, 心拍を用いた方式であることからドライバの健 康状態を推定するような技術にも発展させ, 人間に身近で役に立つ技術に育てていきたい 参考文献 (1) 宮川あゆほか : 心拍変動に基づくドライバの覚醒度指標.A-17-9, 電子情報通信学会ソサイアティ大会 2007 予稿集. (2) 大見拓寛 : 画像によるドライバ状態モニタリング, ユビキタス バイオセンシング- 健康モニタリング & 日常ケアのための計測 -. シーエムシー出版,2006.1, p.176-196. (3) 柳平雅俊ほか : 運転状態推定技術の開発.Pioneer R&D,VOL.14 NO.3,p.17-27(2004). (4) 警察庁 : 平成 19 年中の交通事故の発生状況. 平成 20 年 3 月 4 日掲載. http://www.npa.go.jp/toukei/koutuu48/h19.all.pdf (5) 人間感覚計測マニュアル第一編 ( 人間感覚評価指標 ガイドライン ). 産業科学技術研究開発プロジェクト 人間感覚計測応用技術. 420 FUJITSU.59, 4, (07,2008)