特集 : 出版用語の基礎知識その 2 明日使えないムダ知識を あなたに オススメ本紹介 震災学
ニコ生書店員井戸端会議 私自身が零細書店経営者 ( と三文ライター ) で リスナーさんにも書店員さんや本好きの方が多くいらっしゃるので 毎回テーマに沿って出版業界について自由にコメを頂きながらワイワイやっていこう といういきあたりばったり企画 毎号 1 本は書評もやります 注 : 内容がマニアックになる場合があります 分からないことはコメで質問頂ければできる範囲で解説いたします
延勘のべ かん 延べ勘定 の略語 書籍を仕入れる際に使われます 出版物の仕入れルートは複雑で 実はその代金の請求方法もいくつかあります 延勘は一定期間仕入れた書籍の請求を文字通り 繰り延べてくれる 精算方法で 例えば 3 ヶ月延勘 だったら仕入れて 3 ヶ月後に実際の請求が立つ 言い換えればその前に返品をした場合返品分については事実上請求されない という仕組みになります 主に 新刊の委託 などの場合このような延勘請求になる場合が多く 請求が繰り延べされるため 書店にとっては嬉しい仕入れルートと言えます 対義語としては 即請求 注文扱 などがあります 即請求 は文字通り仕入れるとすぐ請求が立つもの 注文扱 は仮にお客さんから注文が入っておらず棚を充実させるために仕入れたもの ( 補充と言います ) であっても 注文扱いとして返品に条件がかかったりする仕入れ といった感じです
重版じゅう はん よく新聞広告などで たちまち重版決定! といった本の宣伝文句があったりしますが 重版 とは発行時に印刷した分を捌ききってしまい 重ねて印刷をして部数を増やすことを言います つまり 出版社にとっては嬉しい状況 最初に印刷した本のことを 初版本 といい 古書市場などでは初版本ということで同じ本であっても価値が高くなったりすることもあります 初版以降重版を重ねる本は 奥付に 第〇刷 と何回目の重版でこの本が発行されたかが明記されています 昔発行された本で 今も継続して売れるような本 ( 児童書や絵本に多い ) だと 100 刷以上重版されている本もあったりします 確か ぐりとぐら は現在 120 刷くらいだったかと思います 最近だと出版不況の影響もあり 業界では 小さく産んで大きく育てる 方法が主流 つまり 初刷りを少なくして売れ行きの動向を探り そこそこ売れそうならすぐ重版をかけるというスタイルが多くなってきました ですので 広告の たちまち〇刷り! という宣伝文句はまぁ話半分くらいに思っていた方が良いかもしれませんね ( もちろん一定数売れたから重版をかけているのでしょうが )
短冊たん ざく ( スリップ ) 短冊 スリップといっても七夕に飾るアレや女性用の下着ではありません よくネットで本を買ったときに そのまま中に挟まっている細長い紙片のことを 短冊 もしくはスリップと言います 現在は POS やネット在庫管理が普及しており その役割を果たしていない書店もありますが もともとは在庫管理や補充発注 出版社への売り上げ実績の報告などに使われる重要なものです 書店では通常 店頭で売り上げた本のスリップをその場で引き抜いて お客様に手渡しているはずです 書店には 売り上げた本のスリップが手元に残り これで売り上げの管理などができます かつ この後いろいろとこのスリップには仕事をしてもらわなければなりません
短冊たん ざく ( スリップ ) スリップをよく見てみると 半分に折り曲げられた片方が 注文カード もう片方が 売上カード となっています これは真ん中で切り離して使います 注文カード には 番線印 ( 自分の書店を取次に特定してもらう符牒のようなハンコ ) を押す欄があり ここに番線印を押して取次に送れば 補充注文 として在庫があれば同じ本を送ってもらえます このようにスリップを廻していけば 原則としては売れた本がそのまま本棚に補充されることになります 売上カード は出版社別に分類して ある程度たまってきたら定期的にその出版社に送ります 出版社はこのカードで どこの書店でどの本が売れたか わかる仕組みになっていて その書店への配本の資料にしたりします また 出版社によっては 販売報奨金 として 書店の利益とは別に 出版社から直接売上に応じたお金が届きます
常備じょうび たまに書店で本を手に取ってみると 先ほど説明した スリップ が 2 枚挟まっている場合があります これは多くの場合 常備 という特別な仕入れルートで揃えられている本です 常備には 取次常備 と 出版社常備 があり いずれも その本が売れたら必ず補充する という約束をしている本です 補充方法はスリップ補充と同じですが もともと本に挟まっていたスリップでは無く 常備スリップ というもう 1 枚のスリップを使用します いわゆる定期的に売れるであろう売れ筋や実用書など 定番モノのラインナップを常に揃えておくための仕入れで 必ず補充するルールになっています 常備企画に入っている本は豊富に取次及び出版社は在庫している場合が多く スムーズに販売 補充することができます ( 常備回転などといいます ) POS を導入している書店などは あらかじめ常備企画データを登録しており レジでバーコードを読み込んだ瞬間に既に補充発注をかけているシステムになっている書店もあります
ムック ムックといっても 緑には負けないですぞ! のアレではありません 一般名詞のようにも聞こえますが出版の流通上は明確な分類があります ムック もしくはムック本とは もともとは マガジン + ブック の造語で 雑誌と本の両方の特徴を持った形態の出版物のことを言います 雑誌のようなサイズや装丁でありながら 内容はある程度専門的で書籍のようなものはよくムックとして出版されます 有名なところでは るるぶ マップル のような旅行ガイド 宝島社 MOOK などの娯楽教養本が代表例です 雑誌の装丁で作られるため 低予算で印刷できて値段も抑えめにできるメリットがあります ムックの裏表紙をみると 5 桁の雑誌コード ( ムックの場合は 6 からはじまります ) と 13 桁の ISBN コード ( これは通常書籍につくもの ) の両方のコードがあります また 雑誌のような装丁なのにスリップが挟まっていればまず間違いなくムックです ムックには雑誌のような厳しい返品期限も無いので 長く店頭に置いておけるのが書店側のメリットですが 出版社も書籍ほどしっかり在庫管理をしているわけではないので 注文した場合品切れになってしまうこともままあります
震災から何を学び 何をしなければならないのか 被災地 仙台で創刊された震災を考える情報発信雑誌 発行元は東北学院大学及び 仙台を拠点とする地方出版社 荒蝦夷 東北学院大学は 3.11 震災後 学内に災害ボランティアステーションを開設し 支援に駆けつけた全国の大学と連携しながら被災地支援の拠点として活動を展開しています そして 被災地の現実を発信する 場 として雑誌刊行を柱の一つと位置づけ 地元出版社協力のもと 震災学 発行に至りました 震災学創刊号 東北学院大学 / 荒蝦夷 1,890 円 2012 年 多方面から震災を考える記事を採り上げ 創刊号では 災厄と経験 震災ブログから振り返る原発事故被災地の一年 被災地の現実ー宗教の立場から 情報ボランティアと東日本大震災ーハイパーローカルメディアとしての実験 ソーシャルメディア時代における地方紙の役割と地方発信の意味 など 震災に関わる様々な側面から識者が寄稿しています 年 2 回の刊行を予定しており 継続して 被災地からの情報発信 を担う出版媒体として 大きな期待が寄せられています テレビやネットでは得られない深くて濃密な震災の現実がここに
電子書籍と出版権 電子書籍の普及によって検討されている 出版権 の改変について解説