平成 25 年度障害学生支援セミナー 発達障害のある人の大学進学 ライフステージを通しての意義と 支援のあり方を考える 高橋知音
概要 個人特性 と 環境 から発達障害を理解する 合理的配慮 とは ライフステージを見通して 教育を受ける時代 に必要な支援について考える 発達障害のある人の大学進学を考える 大学ができること できないこと まとめ
発達障害とはなにか 学習障害 LD 知的能力は低くないしやる気もあるのに勉強がうまくいかない 注意欠陥 多動性障害 ADHD 集中力がない 自己管理が難しい 自閉症スペクトラム障害 ( 自閉症 アスペルガー障害 ) 対人関係がうまくいかない 感覚過敏 いずれも脳の働きにかかわる認知機能の障害
個人特性 と 環境 のおりあい 個人特性 ( 機能障害 ) 環境 発達障害 個人特性 と 環境 のおりあいの悪さから生まれる生活障害 発達障害の A さん というとらえ方を変えよう 4
個人特性 と 環境 のおりあい 個人特性 ( 機能障害 ) 環境 強い機能 興味 パーソナリティ 所属場所の ( 物理的 ) 環境 制度 規則 所属場所 ( 学校 職場 ) でやらなければならないこと 周囲の人の態度 ( 学校 職場 家庭 ) 5
障がい のとらえ方 身体や脳が 多くの人 と同じようにうまく働かない状態になっている 本人の努力や治療で短期間にその状態 が変わらない 機能障害 補助の道具などを使っても 多くの人 向けに作られたもの ( 道具 建築 制度など ) をうまく使えない状態 社会的障壁
合理的配慮とは何か 過度な負担とならない形で 社会的障壁 を減らす 合理的配慮 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 (2013 年公布 2016 年施行 )
合理的配慮の例 視覚障害のある人にたいして音声よみあげソフトを提供する パニック障害のある人の勤務時間を変更する
高校入試における合理的配慮 別室受検 試験時間の延長 問題用紙の拡大 問題文の読み上げ 監督者による口述筆記 学力検査問題の漢字のルビ振り 前日に試験会場の下見 介助者が同席 保護者の別室待機 面接試験の配慮 高等学校については入学者選抜における一層の配慮を行うこと 選抜方法の多様化や評価尺度の多元化を図ることが必要 9
大学入試と特別措置 大学入試センター試験での特別措置 2011 年 1 月のセンター試験より実施 試験時間の延長 (1.3 倍 : 読むことに時間がかかる場合 ) チェック回答 ( 不器用さ ) 例 拡大文字問題冊子の配布 (1.4 倍 : 視覚的困難 ) 別室の設定 ( 集中できない 声を出してしまう じっとしていられない ) 試験室入り口までの付き添い者の同伴 試験室や座席の配慮 ( トイレ 1 階 出口に近い ) 10
入試と特別措置 大学入試センター試験での特別措置 申請書類に含まれる情報 診断書 状況報告 意見書 特別措置が必要な理由 高等学校で行われてきた配慮 高校でも学習への配慮を行ってほしいとのメッセージ 11
合理的配慮とは? 障害のある者が 他の者と平等に 教育を受ける権利 を享有 行使することを確保するために 大学等が必要かつ適当な変更 調整を行うこと 大学等に対して 体制面 財政面において 均衡を失した又は過度の負担を課さないもの ( 文科省検討会報告 一次まとめ より )
特別支援教育と合理的配慮 特別支援教育 幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し その持てる力を高め 生活や学習上の困難を改善又は克服するため 適切な指導及び必要な支援を行うもの
大学進学までを見据えた支援 大学入試で配慮を受けるために 高校の定期試験でも配慮を受けていたという実績 高校入試で配慮を受けるために 中学の定期試験でも配慮を受けていたという実績
特に小学校段階で重要なこと 学習障害に本人 家族が気づくことは難しい 早い段階で気づくことで 権利 としての合理的配慮が受けられる 気づきのポイント 聞く 話す と 読む 書く のアンバランス 特徴的な誤り ( 読み間違い 鏡文字 きゃ などカナ特殊表記の間違い 漢字習得困難 引き算 筆算の困難など ) 関連する行動上の問題 ( 不器用さ )
ライフステージを見通して 教育を受ける時代 に 必要な支援について考える
差別解消法 の中に 合理的配慮が求められるのは 障害者から現に社会的障壁の 除去を必要としている旨の意思の表明があった場合 とある
将来の自立に向けて 発達段階に応じ 将来の自立に向けて 子ども時代から考えておきたいこと 報告 連絡 相談 自己理解 自己決定 支援要請
自立に向けて身につけたいスキル 報告 連絡 相談 ( ほう れん そう ) ができるようになる 一番難しいのは相談 まずは事実を伝える習慣をつける 19
自立に向けて身につけたいスキル 自己理解 自分の得意 不得意を知っている どんなときに失敗しやすいか知っている うまくいくための工夫を知っている 自己決定 自分にとってプラスとなるような決定ができる 20
急に 自分で決めなさい と言っても 失敗経験につながるだけの場合も
スモールステップで 自己決定を育てる 1. 妥当な選択肢を二つにしぼって提示 どちらがよいかな? A を選んだとき B を選んだ結果についての いいこと 悪いこと を提示 ( 図で 文字で ) 2. 選択肢を提示してそれぞれの結果の いいこと 悪いこと を考えてみる 3. どんな選択肢があるか 考えてみる
自立に向けて身につけたいスキル 支援要請スキル どんな支援があればうまくいくか知っている 自分の特性を相手に伝えられる 相手への配慮もしながら必要な支援をひきだせる 23
支援要請スキル獲得を目標に段階的に支援した例 1. 配慮要請の場面に学生を同伴して 依頼の仕方を観察させる 2. 個別面接の中で依頼の仕方をロールプレイで練習した上で 支援者同伴で教員を訪ねて学生が依頼する 3. 支援者が教員に学生が依頼に行く旨を事前連絡し 学生一人で配慮要請に行かせる 4. どのような依頼の仕方がよいかを学生に考えさせ 内容を支援者も確認した後 学生自ら教員にアポイントを取って配慮要請を行う
発達障害のある人の 大学進学を考える なぜ大学に行くのか を考えよう 少子高齢化 入学定員の増加 入試の多様化 大学に行こうと 思えば誰でも 行ける時代
大学の現状 大学への進学者は高校卒業年齢の人の半数程度 入学しても卒業できない人もいる 卒業しても就職できない人もいる 授業料は安くない 大学は - 高校卒業後もさらに学びたい人 - 専門的職業に就くための準備をしたい人が 自分で選んで進学する教育機関 なぜ大学に行くのか を考えよう
大学で学ぶ意義 強みを伸ばす 好きなことを学ぶ 働くとはどういうことか学ぶ 自己理解を深め 弱みを補う方法 支援要請の仕方を学ぶ
大学で学ぶ意義 強みを伸ばす 好きなことを学ぶ 働くとはどういうことか学ぶ 自己理解を深め 弱みを補う方法 支援要請の仕方を学ぶ
問題の先送り はまずいが 戦略的時間稼ぎ なら 意味がある
大学ができること できないこと 大学で学ぶ準備がどこまでできているか? 足りない部分は支援を利用
ノートテイク レポート作成 専門領域への興味 専門領域特有のスキル 読み書き 指示の理解 考え 意見の発表 注意集中 身だしなみ 会話 意思表示 環境への適応等 基本的学習スキル 社会生活技能対人能力 専門領域への適性アカデミックスキル 大学外支援者 障害者支援関連機関 大学内支援者教員等 学習支援センター等障害学生支援室 学生相談室等 金銭管理 規則正しい生活 起床 食事 衛生管理等 日常生活管理基本的な生活習慣 家族 服薬管理 通院 健康管理 障害の理解等 心と体の健康管理 医療機関 学生相談室保健センター 学ぶことへの意欲 大学生活準備性ピラミッド
大学にはできないこと カリキュラムや特定の授業の本質的部分での変更 免除 過度な負担を伴う支援 生活全般にわたる支援
学生からの配慮要請がない場合 本人が困っていることを表明できないときは? 支援ニーズの早期把握 ニーズ把握質問紙 意思表明のプロセスも必要に応じて支援 ( 障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告書 )
支援ニーズがない時はどうするか 本来だったら困るべき状況で困っていない 将来の見通しが悪いために危機感がない 成績評価の規準を明確にした上で 単位を取れない可能性や 卒業できない可能性について直接伝える 不適切な行動で周囲が困っている 身近な教職員が直接問題点を指摘する ( 具体的行動の指摘 ) ルールを明確化する 行動や指導の記録をつける
教育的配慮 指導 ( 教育 ) 専門的相談 ( 医療 心理 ) 合理的配慮 ( 障害学生支援 )
まとめ 個人特性 ( 機能障害 ) と環境からの理解 大学が変わる 合理的配慮 教育を受けている時代に 支援要請 できるようになることを目指す 大学進学の目的を明確化する 大学ができること できないことについて 義務的内容と オプショナルな部分に整理した上で 方針を定めることも必要