従業員にとっての確定拠出年金の資産運用

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リターン大2 運用商品を選ぼう 確定拠出年金は 自分で選んだ商品で運用し その運用結果によって将来の受け取り額が決まります なお 投資信託は預金とは異なり 運用の結果によっては損失が生じる可能性があります ご加入の方からの運用指図がないご資産は 未指図資産という現金相当の資産として管理されます 所定

2013(平成25年度) 確定拠出年金実態調査 調査結果について.PDF

運用商品一覧 作成日 :2019 年 10 月 8 日 規約名 フジ アスティ企業型確定拠出年金 運営管理機関名 第一生命保険株式会社 < 商品ラインアップの選定 > 選定理由 複数の資産に分散投資を行うバランス型投資信託と 基本 4 資産 ( 国内外の株式 債券 ) を投資対象とする単一資産型投資

確定拠出年金(DC)における継続投資教育の効果

○ 問合せ先専用フリーダイヤル

1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題

金融リテラシーと老後への準備-ライフプランの設計に必要な知識が不足している

スライド 1

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各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

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中小企業退職金共済制度加入企業の実態に関する調査結果の概要

も は により が される があります 3 で が した には を に する の が です 1

ファンド名説明 ifree 8 資産バランス 本を含む世界の 8 資産へ均等に分散投資します 株式および不動産投資信託に投資することで世界の経済成 の果実を享受するとともに これらとは値動きの異なる債券にも投資することで安定した収益の確保も期待できます これまで預貯 中 だったお客様が幅広く資産を分

とリスク とは とは 運用を行った結果得られる損益です 収益がプラスでもマイナスでも 投資したからの差額がとなります パターン 1 が変動せずに 利息等の収益金を得た場合 利息等 パターン2 投資した商品の価格が上昇した場合 とリスクの関係 運用するときには低いリスクで高いを得ることが最も望ましいの

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2017 年度税制改正大綱のポイント ~ 積立 NISA の導入 配偶者控除見直し ~ 大和総研金融調査部研究員是枝俊悟

ハッピーエイジング 30 損保ジャパン日本興亜アセットマネジメント バランス資産配分固定型信託報酬 ( 年率 税込 ) % 国内外の株式 ( 新興国含む ) 債券に分散投資 / 外貨建資産の為替ヘッジ 国内外の株式比率は 70% を基本とします 合成ベンチマークを上回る運用成果を目指しま

おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金

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農業者年金の資金運用に関するアンケート 次の各問について あなたのお考え ( 率直なご印象で結構です ) に最も近い回答を 1つだけ選び 同封の回答用はがきの回答欄に記入 ( 該当する記号 ( 英字 ) を 印で囲んで ) の上 11 月 30 日 ( 水 ) までに切手を貼らずにポストに投函いただ

Microsoft Word - 法令解釈通知(新旧)

質問 1 11 月 30 日は厚生労働省が制定した 年金の日 だとご存じですか? あなたは 毎年届く ねんきん定期便 を確認していますか? ( 回答者数 :10,442 名 ) 知っている と回答した方は 8.3% 約 9 割は 知らない と回答 毎年の ねんきん定期便 を確認している方は約 7 割

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1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

孫のために教育資金を支援するならどの制度?

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1

(3) 可処分所得の計算 可処分所得とは 家計で自由に使える手取収入のことである 給与所得者 の可処分所得は 次の計算式から求められる 給与所得者の可処分所得は 年収 ( 勤務先の給料 賞与 ) から 社会保険料と所得税 住民税を差し引いた額である なお 生命保険や火災保険などの民間保険の保険料およ

特別勘定の運用状況一覧 (2018 年 12 月 ) 日本株式型 (M225) 組入投資信託:MHAM 株式インデックスファンド225VA 騰落率基準価額 世界債券型 (MGB1) 組入投資信託:DIAMグローバル ボンド

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特別勘定運用レポートをご覧いただくにあたって 当資料をご覧いただく際にご留意いただきたい事項 当資料はご契約者さま等に対し 三井住友海上プライマリー生命のえがお ひろがる 積立金自動移転特約付通貨選択一般勘定移行型変額終身保険 の特別勘定および特別勘定が主たる投資対象とする投資信託の運用状況を開示す

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1. 期待収益率 ( 期待リターン ) 収益率 ( リターン ) には次の二つがあります 実際の価格データから計算した 事後的な収益率 将来発生しうると予想する 事前的な収益率 これまでみてきた債券の利回りを求める計算などは 事後的な収益率 の計算でした 事後的な収益率は一つですが 事前に予想できる

2018 年度第 3 四半期運用状況 ( 速報 ) 年金積立金は長期的な運用を行うものであり その運用状況も長期的に判断することが必要ですが 国民の皆様に対して適時適切な情報提供を行う観点から 作成 公表が義務付けられている事業年度ごとの業務概況書のほか 四半期ごとに運用状況の速報として公表を行うも

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ご自身の加入限度額は? 加入条件 お さまの 性 自 者 年金 者種 1 者 に確定 年金や 確定拠出年金 ( 型 ) がない 確定拠出年金 ( 型 ) に加入している 2 者 加入できる 確定 年金がある 者 基本的には 60 歳未満のすべての方 にご加入いただけます 国民年金を免除されている方等

過去のリターンが将来も続くとはかぎりません 各資産の年間リターンランキング 第 1 位 % 31.9% 45.2% 40.9% 10.7% 3.4% % 34.1% 1.9%

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日本の富裕層は 122 万世帯、純金融資産総額は272 兆円

4. つみたてNISA 商品のおもな選定理由について (1) つみたてNISA は長期運用 資産分散 時間分散により 投資リスクを低減しながらリターンを目指す制度であることから 商品選定にあたっては 長期運用と資産分散の観点を重視しました (2) 複数の投資信託商品を購入いただき組合せるのではなく

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1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

夢のプレゼントの概要 (1) 仕組図 < イメージ図 > 円で目標設定タイプ 保険期間 10 年 (2) 主な取扱条件 米ドルで入金 3 万米ドル (1 米ドル単位 ) 最低豪ドルで入金 3 万豪ドル (1 豪ドル単位 ) 一時払保険料円で入金 300 万円 (10 万円単位 ) ( 基本保険金額

運用商品ラインアップ 運用商品の詳細および最新の運用実績等については ホームページからご確認ください 区分 商品 コード パッシブ型 商品名 セレクション 日本インデックス 信託財産 信託報酬率 年率 税込 留保額 商品概要 主に日本のに投資します % 委託会社 商品 コード

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第 1 四半期運用実績 ( 概要 ) 運用利回り +1.54% 収益率 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1.02% 実現収益率 ( )) 運用収益額 +3,222 億円 総合収益額 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1,862 億円 実現収益額 ( )) 運用資産残高 ( 第 1 四半期末 )

( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

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移換手続きの手引き (60 歳前に企業型 DC のある企業をご退職されたお客さまへ ) この資料では 確定拠出年金を DC (Defined Contribution) と記載しています 北陸銀行 平成 30 年 4 月現在

基本方針に関する取組状況

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投資信託のとは 投資信託のは 当期に獲得した収益等を決算日に投資家に還元する仕組みで す ただし 過去に獲得した収益を積み立てたもの等からも支払うことができます 投資信託でが支払われるイメージ 投 資信 託のは 投 資信 託 投資信託のとは P3 の純資産の中から支払われます はどのように支払われる

特別勘定運用レポートをご覧いただくにあたって 当資料をご覧いただく際にご留意いただきたい事項 当資料はご契約者さま等に対し 三井住友海上プライマリー生命のラップギフト 通貨選択一般勘定移行型変額終身保険 の特別勘定および特別勘定が主たる投資対象とする投資信託の運用状況を開示するためのものであり 生命

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2 / 5 ファンドマネージャーのコメント 現時点での投資判断を示したものであり 将来の市況環境の変動等を保証するものではありません < 運用経過 > ダイワ マネーアセット マザーファンドを組み入れることで 安定運用を行いました < 今後の運用方針 > 今後につきましても 安定運用を継続して行って

平成23年11月1日

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1 本資料のポイント! そもそも MLP ってなに? 米国のエネルギー関連事業を進める上で重要な資金調達手段 MLP( マスター リミテッド パートナーシップ ) とは 米国で行われている共同投資事業形態のひとつであり その出資持分が米国の金融商品取引所等で取引されています 一般的に 総所得の 90

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2/5 ヘ ーシ Q1. 年金通算とは何ですか? A. これまで各企業や基金では 加入者の老後の安定の一助となるよう さまざまな年金制度をつくり運営してきました しかし 従来の終身雇用を前提とした制度では 現代のライフスタイルに対応することが難しくなってきています 転職など雇用の流動化に対応し これ

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為替リスクについてこの保険は 一時払保険料の払込通貨と契約通貨が異なる場合や 死亡保険金 解約払戻金 年金および定期支払金等 ( 以下 保険金等 ) 受取時の通貨が一時払保険料の払込通貨と異なる場合等に 為替相場の変動による影響を受けます したがって 保険金等を一時払保険料の払込通貨で換算した場合の

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確定拠出年金向け説明資料 スミセイのスーパー積立年金 (10 年 ) 確定拠出年金保険 ( 単位保険別利率設定型 /10 年 ) 商品提供会社 : 住友生命保険相互会社 運営管理機関 : 労働金庫連合会 本商品は元本確保型の商品です 1. 基本的性格 払込保険料は 毎月 1 日に新たに設定される保険

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

( )

メモ 1

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第 2 四半期運用実績 ( 概要 ) 運用利回り +0.09% 実現収益率 ( ) ( 第 2 四半期 ) 運用収益額 億円 実現収益額 ( ) ( 第 2 四半期 ) 運用資産残高 ( 第 2 四半期末 ) 357 億円 年金積立金は長期的な運用を行うものであり その運用状況も長期的に

みずほインサイト 政策 2018 年 10 月 18 日 ideco 加入者数が 100 万人超え加入率引き上げへさらなる制度見直しを 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 naoko. ideco( 個人型確定拠出年金 ) の加入

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受益者の皆様へ 平成 28 年 2 月 15 日 弊社投資信託の基準価額の下落について 平素より弊社投資信託をご愛顧賜り 厚くお礼申しあげます さて 先週末 2 月 12 日 ( 金 ) 以下のファンドの基準価額が 前営業日の基準価額に対して 5% 以上下落しており その要因につきましてご報告いたし

Transcription:

REPORT 従業員にとっての確定拠出年金の資産運用 森義博 生活設計研究部主席研究員 はじめに 本稿の視点 21 年に確定拠出年金制度 ( 日本版 41(k)) が導入されてから 1 年 適格退職年金制度が廃止されることもあり 確定拠出年金はわが国の退職給付制度の重要な柱のひとつに育ちつつある 211 年 4 月現在 企業型年金を実施している事業主数は 14,853 社 企業型年金の加入者は約 398 万人である ( 個人型年金の加入者は約 12.6 万人 ) 筆者は運営管理機関である明治安田生命保険の依頼で 制度導入時の従業員教育や継続教育の講師を務めることがある これまで 3 社あまり担当したが その中でしばしば感じることがある それは関心の低い加入者が多いことだ 6 歳になるまで手にできない遠い将来のためのお金で しかも月々の掛金がさほど多くなければ 関心を持てというほうが無理かもしれない だが 遠い将来だからこそ 僅かな差の積み重ねが想像以上に大きな格差となってしまう 加入者の中には 会社から半ば押しつけられたという意識の人もいるだろうが 決められた制度の中で ほんの少し関心を持ち ほんの少し余計にエネルギーを使うことで 老後の資金が膨らむ可能性があるとすれば 無関心を続けることはとてももったいない なまじ関心を持って商品の変更をしたことで かえって損失が発生した あるいは逆に 加入時に何も考えずに選んだ商品をそのまま放置しておいたら儲かっている という例はいくらでもある 収益は上にも下にも変動するから 関心を持つことが必ず高収益につながるとは限らない しかし 確定拠出年金には 税制面での優遇や 多くの場合 類似の一般の投資信託商品より手数料が安いといった リスクを伴わないメリットがある このメリットを活かしきる場合とそうでない場合では 目先の差は僅かでも 受取り時には大きな違いとなる 本稿では 加入者が老後に少しでも多くの年金を受け取るためには どういった点に留意すればよいかについて 制度の特徴や運用商品の特質を確認しながら 加入者の視点に立って考えてみたい 1 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

Ⅰ 加入者の運用状況 企業年金連合会が 21 年 12 月に発表した 第 3 回確定拠出年金制度に関する実態調査 の結果から 加入者に関係の深い事項に絞って確認してみたい ( 注 1) ( 注 1) ここでご紹介する企業に関するデータは 規約 単位であるが 読みやすさの観点から 本文中ではあえて 企業 や 会社 社 という表現を使用している 1. 制度の設計 (1) 掛金の設定方法掛金を全社員一律に設定している企業は全体の1 割強にすぎない 9 割近い企業が給与等の一定率や 職種 資格 等級別に設定している したがって 加入時の掛金額は少なくても その後徐々に増えていくケースが多い 掛金額の平均は月 11,728 円 年額にすると 14 万円ほどである ただし 図表 1のとおり金額の低いほうに偏って分布しており 月 1 万円未満の加入者がほぼ半数を占める 図表 1 企業型年金の掛金月額の分布 1 万円未満 (49.2%) % 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 9% 1% 5.5 16. 15.6 12.1 16.4 7.5 6.3 4.4 3.1 13.1 4, 円未満 4, 円以上 6, 円未満 6, 円以上 8, 円未満 8, 円以上 1, 円未満 1, 円以上 12, 円未満 12, 円以上 14, 円未満 14, 円以上 16, 円未満 16, 円以上 18, 円未満 18, 円以上 2, 円未満 2, 円以上 出所 : 第 3 回確定拠出年金制度に関する実態調査調査結果 (21 年 12 月企業年金連合会 ) ( 以下 図表 6まで同じ ) (2) 想定利回り 4 社中 3 社が想定利回りを設定している 想定利回りがある企業では 定年退職時の受取額を想定して それまでのあいだ想定利回りで運用できることを前提に掛金を算出している したがって 定年までの平均の実績が想定利回りを下回ると 予定した水準の金額を手にすることができない 退職金制度を旧制度から確定拠出年金を用いた新制度に移行した会社では 想定利回りで運用できた場合に旧制度と新制度の退職金水準がイコールになる設計が一般的である そのため 平均の運用利回りが想定利回りに届かないと 結果的に退職金の水準が旧制度よりも低くなってしまうことになる このように想定利回りはとても重要であるにもかかわらず 意識していない あるい 2 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

は知らない加入者がかなり多いように感じる 筆者が継続教育で訪れた企業でも 想定利回りではなく 元本すなわち運用利回り% に注目している加入者が目立つ この調査結果によると 想定利回りの平均は 2.16% 分布状況は図表 2のとおりである 想定利回りは通常.5% 単位で設定するから 2.% と 2.5% で全体の約 7 割を占めるといえよう 図表 2 想定利回りの有無と分布 想定利回りあり 想定利回りなし (%) 74.1 25.9 想定利回りの分布 (%) 1.5 7.4 9.2 33.7 37.4 7.3 2.9.6.. 超 ~ 1. 以下 1. 超 ~ 1.5 以下 1.5 超 ~ 2. 以下 2. 超 ~ 2.5 以下 2.5 超 ~ 3. 以下 3. 超 ~ 5. 以下 5. 超 ~ 最近は 超低金利や株式市場の低迷を踏まえて 想定利回りを低めに設定する企業が多いようだ 図表 3のとおり 確定拠出年金を導入した時期が遅いほど想定利回りの平均は低い 図表 3 確定拠出年金の導入時期と想定利回りの関係 2.5 2.39 2.4 2.26 2.26 2.29 2.3 想 2.16 2.18 2.2 定 2.2 2.11 2.8 利 2.1 回 2. り(1.86 1.9 %)1.8 1.7 1.6 1 年度 2 年度 3 年度 4 年度 5 年度 6 年度 7 年度 8 年度 9 年度 1 年度確定拠出年金導入年度 2. 運用商品 (1) 元本確保型商品と投資信託加入者が掛金を投入している商品を 大きく元本確保型商品 ( 生命保険 定期預金等 ) と投資信託に分けると 掛金の割合は図表 4のとおり 直近の掛金でみると 元本確保型商品の割合が 56.5% を占めている リスク商品に不慣れな国民性を反映して 元本確保型商品が過半を占めているものの 各企業が制度を導入した時点と直近を比較すると 元本確保型商品から投資信託に4ポ 3 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

イントほどシフトしている 導入から年数が経過するにしたがって 企業や運営管理機関からの情報提供 あるいは継続教育の効果等によって リスク商品に対する関心が少しずつ高まっていく面があるとはいえそうだ 図表 4 掛金の投入割合 確定拠出年金導入時 調査実施時 元本確保型 6.8% 投資信託 39.2% 元本確保型 56.5% 投資信託 43.5% (2) 運用商品の採用本数運用商品数は 法律では最低 3 本以上 うち元本確保型が1 本以上と定められているが 実際の採用本数は平均 16. 本で 図表 5のとおり 11 本から 2 本の企業で全体の 4 分の3を占めている 投資対象別の採用本数は図表 6のとおり 平均像としては 各カテゴリー別の投資信託 ( 国内株式投信は3 本 他は1~2 本 ) に加え バランス型投信を数種類 ( 株式の割合が高 中 低など ) 用意し 元本確保型商品 ( 生命保険 定期預金等 ) が4 本程度といったところだろうか 加入者の分散投資が可能な品揃えがされている様子が見てとれる ( 設問の関係で図表 5と図表 6の合計は一致しない ) 図表 5 運用商品の選定状況 ( 採用本数 ) % 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 9% 1% 11. 38.9 35.7 9.5 3.9 1. 3~5 本 6~1 本 11~15 本 16~2 本 21~25 本 26 本 ~ 図表 6 運用商品の選定状況 ( 投資対象別 ) ( 本 ) 5 4 3.88 3.36 4.29 3 2 1.45 1.89 1.52 1.83 1 元本確保型 日本株式投資信託 日本債券投資信託 外国株式投資信託 外国債券投資信託 バランス型投資信託 その他 4 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

3. 資産額の変動 (1) 適格退職年金からの移換金確定拠出年金の資産額に対し 運用環境の変化はどの程度の影響を与えてきたのだろうか 運用商品の中でも ハイリスクでかつ商品数の多い国内株式に投資した場合をモデルとして見てみよう 代表的な指標である TOPIX に完全連動する商品を選択したと仮定する TOPIX の変動の影響を最もストレートに受けるのは 適格退職年金から確定拠出年金に移行した場合の移換金である 同じ移換金でも退職一時金制度からのものは4 年から 8 年間に分割して投入されるので 後で述べるドル コスト平均法がある程度作用し リスクは分散される しかし 適格退職年金からの移換金は制度導入時に一括投入されるので そのときの相場で購入価格が決まってしまう 図表 7は 各グラフの左上に記載した年月 ( 基準月 ) 末の TOPIX を 1 と置いて その後の変動を指数化し 太い実線で示している 適格退職年金からの移換金が基準月に投入され そのまま預け替え ( スイッチング ) をしなかった場合 資産額はこの実線のとおり変動してきたはずである この TOPIX のカーブの形状は 制度導入時期によってかなり異なっている 確定拠出年金制度発足初期の 22 年から 23 年頃に導入した企業では 導入時の株価が比較的低かったため その後かなりの値上がりとリーマンショックでの急落を両方経験している 特に株価が当時の底を打った 23 年前半に投入された移換金は 短期間だが2 倍以上に膨らんだ時期もある 一方 比較的株価が高かった 27 年 1 月に導入した企業では ほどなく急落し その後低迷が続いている 加入者は移換日を自分の意思で決めることはできない しかし 運用商品の購入日を全く選ぶことができないというわけではない 例えば 国内株式や外貨建の商品といったリスクの大きな商品を希望していて 移換日の価格が購入には好ましくない ( つまり高い ) と思われる場合 とりあえず元本確保型商品 ( 生命保険や定期預金 ) に投入しておき その後価格が下がった時点で希望商品に預け替えをする といった方法をとればよいのである この点に関連して もうひとつ留意したい点がある 制度導入時は 商品を選択してから実際に購入するまで ある程度期間があくケースが多く その間に価格が大きく変動してしまう可能性もある 移換金は投入する日の価格が非常に重要である したがって 一旦商品を選択したらそれでよしとせず 実際に移換金が入金される時期が近付いたときに価格をチェックし 必要なら商品を変更することも大切である 5 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

図表 7 TOPIX の変動実績 ( 投資時期別 :2 年 1 月 3 年 1 月 5 年 1 月 7 年 1 月 ) 22 年 1 月 =1 売却した場合の差益 ( 右目盛り ) TOPIX( 基準月 =1 左目盛り) 平均買付価格 ( 毎月の掛金 =1, 左目盛り) 6, 2 4, 15 2, 1-2, 5-4, -6, 2/ 1 3/ 1 4/ 1 5/ 1 6/ 1 7/ 1 8/ 1 9/ 1 1/ 1 11/ 1 23 年 1 月 =1 2 15 1 5 3/ 1 4/ 1 5/ 1 6/ 1 7/ 1 8/ 1 9/ 1 1/ 1 11/ 1 6, 4, 2, -2, -4, -6, 25 年 1 月 =1 2 15 1 5 5/ 1 6/ 1 7/ 1 8/ 1 9/ 1 1/ 1 11/ 1 6, 4, 2, -2, -4, -6, 27 年 1 月 =1 2 15 1 5 7/ 1 8/ 1 9/ 1 1/ 1 11/ 1 6, 4, 2, -2, -4, -6, 6 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

(2) 毎月の掛け金毎月の掛け金にはドル コスト平均法の効果が発揮される 株価上昇局面でも平均買付価格を示す破線の上昇は緩やかであり 逆に株価の下落には相対的によく反応して低下していることがわかる これにより 27 年 1 月に導入されたケースであっても 株価下落の影響はある程度緩和され 売却した場合の差損は抑制されているようだ Ⅱ 確定拠出年金の運用上の特質と留意点 1. 資産配分 (1) リスク許容度に基づく資産配分加入者が運用商品を選択する際には 自分自身がハイリスク ハイリターンの運用に向いているのか ローリスク ローリターンが適しているのかを確認することが大切である どの程度のリスクをとれるか ( リスク許容度 という呼び方がある) をまず認識した上で それに沿った商品選びをすることが肝要である リスク許容度を左右する要素には 以下のようなものがある 図表 8 リスク許容度を左右する主な要素 低い <<< リスク許容度 <<< 高い 短い --- 今後の運用期間の長さ --- 長い 少ない --- 確定拠出年金以外の資産や収入見込み --- 多い ない --- 金融知識 --- ある ない --- 投資経験 --- ある 慎重 --- リスクに対する考え方 --- 積極的 この中で一般に重視され 加入者教育でもよく取り上げられるのは 運用期間である 長期投資によって価格の変動率が抑えられることなどから 今後の運用期間が長い ( すなわち若い ) 加入者ほどリスク許容度は高いといわれる 年齢に応じて選択することを想定したバランス型の投資信託が確定拠出年金専用商品として多く設定されている 図表 9 バランス型の投資信託の例 成長型 安定成長型 安定型 債券 25% 株式 75% 債券 5% 株式 5% 債券 75% 株式 25% 年齢低いリスク許容度高い 年齢高いリスク許容度低い 7 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

運用期間の長さはたしかに重要であるが リスク許容度の判断材料として頻繁に取り上げられるのは 5つの要素のうち最も客観的にとらえやすく 加入者全員に対して共通に説明できるからだという面もあろう この要素だけに着目しすぎるのはあまり適切ではないかもしれない 筆者は 2つめの 確定拠出年金以外の資産や収入の見込み をより重視すべきだと考える この要素は 説明会などではなかなか具体的に話しにくく 退職金の中で確定拠出年金が占める割合や それ以外に個人で持っている金融資産などを含めて考えましょう といった抽象的な話で済ませてしまいがちだが 加入者一人ひとりにとっては極めて重要な要素である 例えば 老後資金の9 割が公的年金と定期預金で 確定拠出年金の割合が1 割程度だとすれば 確定拠出年金の部分はどれだけハイリスクの商品を選び ( そんなことはあり得ないが ) 仮に資産価値がゼロになっても 9 割は安全であるから 全体としてはリスクの高い資産配分とはいえない 企業型年金の加入者の多くは 厚生年金が老後資金の相当の割合を占める ( 注 2) したがって 確定拠出年金に関しては リスク許容度をかなり高く見積もることができるケースも多いと考えられる 図表 9の 成長型 は 株式の構成割合が 75% であるから バランス型投信の中では相対的にハイリスクな商品と位置づけられる しかし 公的年金や預貯金等を含めた自分自身の老後資金全体の中で 株式がどのくらいの割合を占めることになるか といった見方をすることが 適切な商品選びのためには大切である ( 注 2) 厚生年金の給付額は 厚生労働省によるモデル世帯 ( 夫は平均標準報酬額で 4 年加入 妻は専業主婦 ) の場合 月額約 23 万円 一方 老後に最低必要な生活資金は 生命保険文化センターのアンケート調査によると月額 22.3 万円 (2) 個人での運用資金と確定拠出年金の配分確定拠出年金を導入した企業の従業員が老後の資金準備を考える場合 確定拠出年金以外の退職給付制度と公的年金については個人に選択の余地はないから 自分自身の裁量で行えるのは 確定拠出年金の商品選び ( 預け替えを含む ) と個人での預貯金や投資ということになる そこで 両者を上手に使い分けることが大切になってくる 安全性 流動性 収益性 の3つの観点から考えてみたい 安全性 という面では 同じ種類の商品 例えば定期預金どうし 国内株式の投資信託どうしで比較すれば 確定拠出年金専用商品であるかどうかによる安全性の違いはない 銀行や保険会社が破たんした場合の取扱いも 個人向け商品と共通である 次に 流動性 であるが 確定拠出年金は 他の商品にいつでも預け替えられるという意味では流動性があるが 加入期間中の換金性はない さらに 預け替えをする際に新たに購入する商品の価格決定が3 営業日以上後になってしまう点も 流動性の面で劣るといえるかもしれない しかし 老後のための長期運用という目的に照らせば 問題 8 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

とはいえないだろう 注目すべきは 収益性 である 確定拠出年金には収益性の面での優位性が備わっている 1つは 運用収益が非課税という税制優遇制度である 個人向け商品の場合 預貯金の利子には 2% 投資信託の分配金や換金時の差益には種類に応じ 1% または 2% の税が課されるが 確定拠出年金の場合は非課税である 仮に毎月 1 万円を年率 5%( 月複利 ) で 3 年間運用した場合の受取金額を比較すると 非課税の場合が約 836 万円であるのに対し 運用益に 2% 課税される場合は約 696 万円と 14 万円もの大差がついてしまう もう1つは手数料である 例えば 投資信託の残高に対してかかる信託報酬は 同じ会社が販売する同様の種類の投資信託であれば 個人向け商品よりも確定拠出年金専用商品のほうが低い場合が多い さらに 確定拠出年金専用商品には販売手数料がなく 購入時や売却時にかかる信託財産留保額もないものが多い このため 運用成果が同じであれば 個人向けの投信よりも確定拠出年金専用のもののほうが実質的な収益は大きくなる この収益性における確定拠出年金の優位性を最大限に利用したい 例えば 高い収益の期待できる ( ハイリスク ハイリターンの ) 金融商品は確定拠出年金で利用し 収益性の低い ( ローリスク ローリターンの ) 金融商品は個人資産用に利用するといった使い分けが考えられる 図表 1 老後資金のイメージ例 確定拠出年金はハイリスク商品 個人金融資産はローリスク商品 厚生年金企業年金退職一時金 確定拠出年金 外国株式 国内株式 個人金融資産 個人向け国債 個人年金 定期預金 生命保険 9 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

2. 分散投資 (1) 有効な分散投資運用商品を選ぶ際には リスクを抑えるために分散投資を心がけるよう 加入者教育の中で何度も説明するようにしている そもそも投資信託自体が分散投資されている商品であり 例えば国内株式という1つのカテゴリーで運用する商品であっても 少なくとも数十銘柄には分散投資されている しかし 同じカテゴリーを構成するものの価格は どうしても同じ方向に動きがちである そこで 分散投資の効果をより高めるためには 異なるカテゴリーの商品を併せて選ぶことが望ましい 価格変動の方向が異なる商品の例としてよく取り上げられるのが 債券と株式である 図表 11 は日本の債券と株式の価格の変動の実績である それぞれの平均指標として 債券は NOMURA BPI 総合 株式は TOPIX を用いている 債券価格と株価の動きが逆になる理屈を受講者に説明した後にこのグラフを示して 実績でもわかりますね と話すのだが グラフから直接読み取るのはなかなか難しいかもしれない 図表 11 債券と株式の価格の推移 NOMURA BPI 総合 ( 左目盛り ) 35 TOPIX( 右目盛り ) 33 31 29 27 25 4 年 1 月 5 年 1 月 6 年 1 月 7 年 1 月 8 年 1 月 9 年 1 月 1 年 1 月 11 年 1 月 1,9 1,7 1,5 1,3 1,1 9 7 5 そこで 同じデータをもとに変動率に着目してみた 図表 12 は3カ月単位での変動率をグラフ化したもので 一番左は 24 年 1 月末と3カ月後の4 月末 次は4 月末と7 月末という具合にそれぞれ比較している 債券 ( 上段 ) と株式 ( 下段 ) を見比べると いくつか例外はあるものの プラスとマイナスが逆のケースが多く 特に株価の変動率が大きい時期にはその傾向が明確に表れていることがわかる このため 債券の商品と株式の商品を併せて保有することが リスクを抑制する方向に作用する場合が多い もっとも 図表 12 の目盛りの間隔が 1 対 1であるように 債券と株式はリスクの大きさが著しく異なる したがって 株価の下落を債券価格の上昇で完全にカバーするには 債券を株式の 1 倍程度組み込まなければならない計算にはなってしまう 1 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

図表 12 債券と株式の価格変動率の比較 (%) 2.5 2. 1.5 1..5. -.5-1. -1.5-2. -2.5 4 年 1~ 4 月 国内債券 (NOMURA BPI 総合 ) 5 年 6 年 7 年 8 年 9 年 1 年 11 年 4~ 7~ 1~ 1~ 4~ 7~ 1~ 1~ 4~ 7~ 1~ 1~ 4~ 7~ 1~ 1~ 4~ 7~ 1~ 1~ 4~ 7~ 1~ 1~ 4~ 7~ 1~ 1~ 7 月 1 月 1 月 4 月 7 月 1 月 1 月 4 月 7 月 1 月 1 月 4 月 7 月 1 月 1 月 4 月 7 月 1 月 1 月 4 月 7 月 1 月 1 月 4 月 7 月 1 月 1 月 4 月 25 (%) 国内株式 (TOPIX) 2 15 1 5-5 -1-15 -2-25 (2) 分散投資の効果債券と株式を併せて保有することで分散投資効果が期待できることを紹介したが 複数のカテゴリーに分散投資することによってリスクが軽減できることを 実際のデータで確認してみたい 図表 13 は前項で取り上げた国内債券と国内株式に加え 外国債券 (Citigroup WGBI Index) と外国株式 (MSCI KOKUSAI INDEX) の4 種の指標 さらにその4 種に均等に投資したと仮定した場合の指数の毎月の騰落率 ( 値上がり 値下がり率 年率換算 ) の1 年間の標準偏差 すなわち1 年単位のリスクの大きさを示している 例えば国内株式のリスクの大きさ ( 標準偏差 ) は 年による大小の変化はあるものの 概ね 2% 内外である 正規分布の場合 データが標準偏差 1つ分の範囲に入る割合は約 3 分の2である 騰落率が正規分布すると仮定した場合 標準偏差が 2% ということは 年率換算した騰落率がプラスマイナス 2% の範囲に入る確率が約 3 分の2という計算になる ( ちなみに その倍のプラスマイナス 4% であれば殆ど ( 約 95%) がその範囲に収まる ) したがって 月単位でみて 年率換算 2% を超える 下落 に見舞われる確率は約 6 分の1 つまり半年に1 回ということになる ( 勿論それだけプラスになる期待もあるが ) 一方 ここで注目したいのは 4 資産均等 のリスクである 国内債券のリスクは安定して小さいが それ以外の3 種に比べれば 4 資産均等のリスクが相対的に小さいこ 11 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

とがわかる ある程度大きな収益を期待して株式や為替リスクの伴う商品を考える場合 単独のカテゴリーの商品のみを選択するのではなく カテゴリーを混ぜた分散投資がリスク低減の面で優れているといえる 図表 13 リスク ( 月次騰落率 < 年率換算 > の標準偏差 ) の大きさの推移 3% 25% 外国株式 2% 15% 1% 国内株式 4 資産均等 外国債券 5% % 91 92 93 94 95 96 97 98 99 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 年 国内債券 (3) 投資信託の商品選択既に述べたように 選択できる商品の中に 同じカテゴリーの投信商品が複数用意されていることがあり なかでも国内株式は馴染みがあることもあってか 他のカテゴリーに比べて商品数が多い傾向にある ( 図表 6 参照 ) 加入者にとって選択範囲が広いことはありがたい反面 どれを選んで良いのか迷うところでもある 商品にはそれぞれ特徴があり 商品選択に絶対的な正解はないが 同じカテゴリーどうしであれば 信託報酬の違いに着目するのもひとつの方法だろう 国内株式にアクティブ型とパッシブ型が並んでいる場合を例にあげよう TOPIX などに連動するパッシブ型に比べ それを上回る収益を目指すアクティブ型は一般に信託報酬が高い そのため もし運用成果が同じであれば 信託報酬が安い分だけパッシブ型のほうが実質的な収益で勝ることになる つまり 信託報酬率の差以上に収益率がパッシブ型を上回っているかどうかが アクティブ型を選ぶ価値があるかどうかを決めるポイントといえる 残高から一定率が引かれてしまう信託報酬の水準は 収益率に直接影響を与える 収益率の優劣の原因が 実は信託報酬の差にあったという場合もありうるわけだ なお 投資信託の収益率として発表されている数値は 通常は信託報酬控除後の値なので 各商品の収益率の数値を直接比較すれば 実質的な収益性の優劣を知ることができる また 投資信託の中には信託財産留保額が設定されているものもあるが これも資産残高に対して影響を及ぼすことがある 信託財産留保額は 他の商品への預け替え時に 12 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

取り崩す金額に対して一定率が課金されるものが多く この場合は預け替えをしなければかからない しかし 中には購入時にもかかるものがあり この種の商品では毎月掛金から一定率が控除されることになる もっとも 信託財産留保額が設けられている商品は そのファンドの運用効率を維持するために 現金化などで運用効率を悪化させるおそれのある資金の増減に対して手数料をとるものなので それだけ運用実績が優れている場合もある 信託財産留保額の有無だけで判断するのではなく 運用実績と信託財産留保額とを冷静に比較することが必要だろう 3. ドル コスト平均法の効果ここで リスク抑制方法のひとつであるドル コスト平均法について触れておきたい ドル コスト平均法は 特定の商品を毎回一定額の元金で継続的に購入していく方法である 価格が高いときには購入できる数量が少なく 逆に価格が安いときには多く買えるので 平均購入価格が低く安定する このため 購入数量を一定にして継続的に購入する方法よりも有利といわれる 毎月一定の金額で商品を購入し続ける確定拠出年金は その仕組みがドル コスト平均法そのものともいえるため 加入者教育の中でもその有利性を強調することが多い 細かく頻繁に購入するドル コスト平均法は 購入時に手数料が徴収される商品であれば コスト負担が大きくなり あまりうま味がない しかし 確定拠出年金用の殆どの商品には購入時の手数料がかからないため ドル コスト平均法のメリットが十分に活かせるというわけである 一定の数量を継続購入する場合と 一定の金額で継続購入するドル コスト平均法を単純な例で比較してみた 図表 14 のとおり 後者の平均購入単価が低くなる 図表 14 ドル コスト平均法による投資信託購入例 1 回目 2 回目 3 回目 4 回目 5 回目 基準価額 5, 円 1, 円 12,5 円 8, 円 16, 円 合計 平均単価 (1 万口当り ) 1 毎回 1, 口ずつ購入 購入口数 1, 口 1, 口 1, 口 1, 口 1, 口 5, 口 購入金額 5, 円 1, 円 12,5 円 8, 円 16, 円 51,5 円 1,3 円 2 毎回 1, 円分ずつ購入 購入口数 2, 口 1, 口 8, 口 12,5 口 6,25 口 56,75 口 < ト ル コスト平均法 > 購入金額 1, 円 1, 円 1, 円 1, 円 1, 円 5, 円 8,811 円 図表 14 は単純でかつ価格の変化が極端な例だが 1の平均単価 2の平均単価 という関係は常に成り立つ ちなみに = となるのは価格が不変の場合である 図表 15 に4 種類のモデルを示した 4 種類のパターンいずれのケースでも 平均買付価格は基準価額の平均を下回っている 特に 価格が上昇した後で下落したり 下落した後で上昇した場合は ドル コスト平均法の有利性が相対的に高まる 勿論ドル コスト平均法にも弱点はある 価格の上昇が続く場合は 購入数が少なく 13 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

なっていくので 今後さらに価格の上昇が期待できる場合でも そのチャンスを最大限に活かすことはできず 利益は限定的となる また 逆に価格が下落し続ける場合は 大量に買い増していくことになるため 図表 15 からも分かるように 損失は拡大し続けてしまう こうした弱点はあるものの 価格が上下することを前提とすれば ドル コスト平均法は確定拠出年金の加入者の多くにとって都合のよい仕組みだと思う なぜなら 仮にあまり商品の見直しを行わずに放置していたとしても 高値で大量に買ってしまうことが自動的に避けられるので安心であり また逆に安いときには知らないうちにたくさん買えているからである 図表 15 ドル コスト平均法による平均買付価格試算 パターン 1 一本調子に上昇 パターン 2 一本調子に下落 2, 売却差益 ( 右目盛り ) 基準価額 ( 左目盛り ) 平均買付価格 ( 左目盛り ) 基準価額平均 ( 左目盛り ) 12, 2, 1, -5, 15, 15, 8, -1, 1, 5, 1 2 3 4 5 6 1, 5, 6, 4, 2, 売却差益 ( 右目盛り ) 基準価額 ( 左目盛り ) 平均買付価格 ( 左目盛り ) 基準価額平均 ( 左目盛り ) 1 2 3 4 5 6-15, -2, -25, パターン 3 一旦下落した後上昇 パターン 4 一旦上昇した後下落 25, 2, 15, 1, 5, 売却差益 ( 右目盛り ) 基準価額 ( 左目盛り ) 平均買付価格 ( 左目盛り ) 基準価額平均 ( 左目盛り ) 1,, 14, 8, 12, 1, 6, 8, 4, 6, 2, 4, 2, -2, 売却差益 ( 右目盛り ) 基準価額 ( 左目盛り ) 平均買付価格 ( 左目盛り ) 基準価額平均 ( 左目盛り ) 1, -1, -2, -3, -4, 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 14 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

4. 商品の預け替え (1) 益 を確定する預け替え運用成績の不調な投資信託を見限って好調な商品に預け替えをすると 損 を確定させてしまうということがよく言われる さらに 好調だと思っていた預け替え先の商品の価格が実は既にピークだったことが後で分かるという最悪のシナリオもあり得る しかし あの時思い切って預け替えをしてよかったというケースも勿論ある このように 値が下がっている商品を解約するかどうかは難しい選択である ただ 確定拠出年金にはドル コスト平均法の効果で 我慢して掛金の投入を続けた後に価格が回復に転じれば 収益が出やすい特質があるとはいえる さて ここでは 益 の確定について述べたい 基準価額が上昇傾向にある好調な投資信託は 今後もさらに値が上がり続けることを期待したいのが人情である しかし 一定の目標額に達した時点で 今後の値上がりの可能性にはあえて目をつぶり 元本確保型の商品に預け替えをすれば その時点での資産額が確保され 以後の値下がりを回避することができる すなわち 益 の確定で 益 確定のイメージ ある 特に今後の運用期間が短い一定年齢元本確保型商品以上の加入者にとっては 資産残高の上昇預け替えが確認できた際には この方法が有効な選投資信託 ( スイッチング ) 択肢となろう (2) 長期投資と預け替え運用商品の預け替えは 売却と購入を同時に申し込む仕組みとなっている 売却と購入は一連の手続きであり 売却した資金をリザーブしておいて 新しい商品を好きなタイミングで購入するということはできない しかも 既に触れたとおり 売却と購入には一定のタイムラグがある 預け替え先の商品が購入できるのは 商品の種類にもよるが 売却日から3 営業日以上後になる したがって 安値での購入を狙って預け替えを申し込んでも 実際に購入できるまでに値が上がってしまうこともある ちなみに TOPIX は3 営業日でどの程度変動したのか 21 年 7 月から1 年間のデータを分析してみた 図表 16 のとおり 42.4% は上下 1% 未満に収まったが 2% 以上変動したケースも 26.% あった 2% 以上 上昇 したケースに限れば 13.4% である 購入価格が予定よりも2% 高くなるとすれば けっして小さな話ではないかもしれない この点が確定拠出年金の不便さのひとつだといわれることもあるが 超長期の運用を旨とする制度であるから あまり目先の値動きにとらわれすぎず 長い目で見て優れた商品を選ぶことが肝要だろう 15 生活福祉研究通巻 78 号 October 211

図表 16 TOPIX の 3 営業日での変動実績 (21 年 7 月 1 日 ~211 年 6 月 3 日 ) 25% 2% 2.% 22.4% 18.8% 15% 1% 7.8% 12.7% 1.2% 5% %.4%.8% 1.2% 2.4% 1.6%.4%.8%.4% -17%~ -18% 未満 -1%~ -11% 未満 -4%~ -5% 未満 -3%~ -4% 未満 -2%~ -3% 未満 -1%~ -1% 未満 -%~ -1% 未満 %~ 1% 未満 1%~ 2% 未満 2%~ 3% 未満 3%~ 4% 未満 4%~ 5% 未満 6%~ 7% 未満 8%~ 9% 未満 おわりに 継続教育の際に加入者に尋ねると インターネット等でとても頻繁に運用状況を確認して商品見直しを検討したり実行している人と 全く何もしたことがない人とに二極化していることが多く たいてい後者のほうが多数派である 制度を導入して数年経てば 少なくとも確実にそれだけ歳をとっているし 個人の資産額や将来の収入の見通しが大きく変わっている場合もあるだろう そうなればリスク許容度が変化し 適切な商品の種類や割合は異なってくる また そもそも制度導入時には自分で資産運用を行うという実感がなく あまり真剣に商品を選ばなかった人も少なくないのではないだろうか 確定拠出年金を導入している企業では 継続教育やその他の機会をとらえて 加入者に現在の選択商品が適切かどうかの確認を促すことが大切だと考える その際に本稿の内容が少しでもヒントになれば幸いである 制度発足来の課題だった企業型年金の加入者による掛金拠出 ( いわゆる マッチング拠出 ) が実現することとなった どれだけのスピードで浸透していくかは未知数だが これを契機に加入者の運用への関心が高まれば喜ばしいと思う 16 生活福祉研究通巻 78 号 October 211