なお 民間企業においても 地域の購買力調査の資料として また 事業所の立地計画 など経営施策の資料としても有効に活用されています (3) 市町村民所得推計上の問題点市町村民所得は 市町村ごとの経済活動を明らかにすることを目的としています 所得統計は 数多くの一次統計資料を利用し 所得概念に従ってその

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一般会計 特別会計を含めた国全体の財政規模 (1) 国全体の財政規模の様々な見方国の会計には 一般会計と特別会計がありますが これらの会計は相互に完全に独立しているわけではなく 一般会計から特別会計へ財源が繰り入れられているなど その歳出と歳入の多くが重複して計上されています また 各特別会計それぞ

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平成 23 年北海道産業連関表について 北海道開発局 1 北海道産業連関表作成の趣旨 北海道開発局では 北海道の経済 社会動向を的確に把握し 北海道総合開発計画を立案 推進するための基礎資料として 昭和 30 年表からおおむね 5 年ごとに 北海道産業連関表 を作成しています なお 北海道産業連関表

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主な用語の解説 (50 音順 ) い一般政府県民経済計算では 政府を財貨 サービスの非市場生産者としてとらえている 具体的には 国出先機関 県 市町村 社会保障基金で構成される ( 公的企業として他部門に含まれるものを除く ) なお 一般政府は 通常の経済活動では供給されないような無償あるいはコスト

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が 93SNAではFISIM( 間接的に計測される金融仲介サービス ) として通常の財貨 サービスの一つに位置づけられました 金融機関の中には 借り手と貸し手に対して異なる利子率を課したり 支払ったりすることにより 明示的には料金を課さずにサービスを提供することができるものがあります このサービスの

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波及効果の具体的計算方法 直接効果の推計 1 ( 需要増加額の推計 ) 合計額 ( 単位 : 百万円 ) 開催運営費 10.0 来場者支出額 90.0 飲食費 0.6 交通輸送費 3.0 広報関連経費 1.5 施設 機器レンタル料 1.0 アルバイト人件費 1.6 警備料 2.3 宿泊費

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(1) 相続税の納税猶予制度の概要 項目 納税猶予対象資産 ( 特定事業用資産 ) 納税猶予額 被相続人の要件 内容 被相続人の事業 ( 不動産貸付事業等を除く ) の用に供されていた次の資産 1 土地 ( 面積 400 m2までの部分に限る ) 2 建物 ( 床面積 800 m2までの部分に限る

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市町村民所得の概要第 1 項市町村民所得の概要 (1) 市町村民所得とは市町村民所得とは 一定期間内 ( 通常の場合 1 年間 ) に当該市町村に居住する者の生産活動によって新たに生産された価値 ( 付加価値 ) の合計を貨幣価値で評価したものです この生産活動は 農林水産業 製造業 卸売 小売業 サービス業などの各企業 ( 個人企業を含む ) が 土地 資本 労働などの各生産要素を結合させて 財貨やサービスを生産することによって行われます これを市町村民所得推計では生産といいます 次に生産された付加価値は 各生産要素を提供した者に地代 賃金 利潤などのかたちで分配されるので これを分配といいます さらに その付加価値は個人の消費や企業の設備投資などの支払いに充てられ それが次期の生産の動機として働くことになり これを支出といいます これら生産 分配 支出を通じた活動を経済の循環と呼びます 私たちは この循環に沿った付加価値の流れを把握することにより 市町村経済の姿を理解することができます 図 1 経済の循環 生産分配支出 賃金 消費 付加価値 利子 地代 利潤 投資 (2) 市町村民所得推計事務のねらい市町村民所得は 市町村経済の規模 構造 循環を計量的に把握し 市町村経済の実態を巨視的 ( マクロ的 ) に明らかにする総合的な経済指標となるものです その推計結果は 市町村内総生産 同純生産 市町村民所得 市町村民家計所得 ( 個人企業を含む ) として表示され これにより市町村の経済成長率や労働生産性 人口一人当たり市町村民所得などが明らかとなり 市町村の行財政施策の基礎資料として幅広く活用することができます また 県経済に占める各市町村経済の位置を明らかにしたり さらに 各市町村の相互比較や 地域経済分析 学術研究などに活用されたりするほか 国 県等においても地域分析や地域の行財政資料として活用されています - 1 -

なお 民間企業においても 地域の購買力調査の資料として また 事業所の立地計画 など経営施策の資料としても有効に活用されています (3) 市町村民所得推計上の問題点市町村民所得は 市町村ごとの経済活動を明らかにすることを目的としています 所得統計は 数多くの一次統計資料を利用し 所得概念に従ってその資料を組み合わせて作成する加工統計のひとつですが 基礎となる統計資料の有無によって推計の方法が制約されます 統計は 通常 行政区域単位で作成されますが 表章が全国や都道府県のみで市町村別のデータがないこともあり また毎年作成されるとは限らず 推計の対象年次の計数が取れないことがあります これら不足するデータについては 国 県や関係機関の企業などに照会したり やむをえず県全体の計数を関係指標により市町村ごとに按分したりしていますが 問題がないわけではありません したがって 推計の精度を高めるためには 基礎データの獲得や推計技術において一層の研究改善が必要です 第 2 項市町村民所得推計の経緯及び推計項目 (1)SNAの発展本県における市町村民所得は 昭和 31 年の経済企画庁経済研究所調査部国民所得課作成の 県民所得標準方式 ( 昭和 31 年版 ) を援用し 一部の市町村で昭和 37 年度に 昭和 35 暦年分について推計したことが端緒となっています その後 国民所得統計が昭和 41 年度に新方式へ移行したことに伴って 県民所得統計の標準方式改訂第 3 次案 が提示され これに基づき県民所得統計は大幅な改訂を行いました こうした国民所得統計や 県民所得統計の動きに合わせ 市町村民所得統計も改訂を加え 県民所得との比較を可能にしました その主な改訂点は 市町村内生産所得 を 市町村内純生産 に 市町村民分配所得 を 市町村民所得の分配 にするなど 概念 推計方法 用語に変更を加えたことです また このときから推計対象期間を暦年から年度へ切り替えました その後 国民所得統計は 昭和 53 年から国際連合 (United Nations) が昭和 43 年に提示した新しい国際的標準体系 (A System of National Accounts) いわゆる68SNA( 注 1) に全面的に移行し 名称も 国民経済計算 に切り替わりました このため 県民所得統計も国との整合を図るため 昭和 57 年度に68SNAに準拠した方式 ( 県民経済計算標準方式 ) により 昭和 55 年度分の推計を行い 名称も 県民所得 から 県民経済計算 に改めるとともに 昭和 50 年度までの遡及改訂を行いました さらに 国民経済計算は 平成 12 年から国際連合が平成 5 年に提示した新しい国際的標準体系である93SNAに移行 ( 注 2) したため 県民経済計算も平成 14 年度から93SNA に準拠した方式により 平成 12 年度分の推計を行いました - 2 -

一方 昭和 56 年度まで従来の方式を踏襲してきた市町村民所得は 県との相互比較を可能にするため 昭和 57 年度に 昭和 55 年度実施分について68SNAに準拠した方式で推計を行い 同時に昭和 50 年度まで遡及改訂を行いました その後 推計方法に若干の改訂を加えたのち 平成 14 年度から93SNAに準拠した方式により 平成 12 年度分の推計を行いました ( 注 1)68SNAの計算体系は 経済のフローとストックの記録 を体系化し かつ 統合化するための包括的で詳細な枠組みを提供するもので その目的とするところは 従来個別に開発され発展してきた1 国民所得勘定 2 産業連関表 3 資金循環勘定 4 国際収支表 5 国民貸借対照表の五つの経済勘定を結合し 統合した包括的かつ詳細な体系をいいます ( 注 2)93SNA 移行により国民経済計算の表章形式 項目の名称 概念が変更となりました 主な変更点として 社会資本の固定資本減耗を計上したこと 受注型ソフトウェアを無形固定資産として計上したこと 一般政府から家計への医療給付等が家計最終消費支出から政府最終消費支出へ移行したこと 一部の産業について産業分類が変更されたことなどがあります (2) 市町村民所得の推計項目市町村民所得は 生産 分配 支出を通じた市町村の経済の流れを把握する体系ですから 生産 分配 支出の3 系列による推計が望まれます しかし 1 家計の消費行動を知る市町村別のデータが不足していること 2 事業所の設備投資や在庫投資を市町村別に把握するデータがないこと 3 市町村内から市町村外へ また逆に市町村外から市町村内への財貨サービスの動きを記録するデータがないことなどから支出面の推計は行っておりません また 県では 主要系列表と呼ばれる生産 分配 支出のほか 制度部門別の勘定として 所得支出勘定や資本調達勘定を作成しています 市町村民所得ではこのうち 所得支出勘定の家計部門の考え方を援用して 市町村民家計所得 ( 個人企業を含む ) を作成しています これにより 家計部門に入る所得の総額を把握し 各市町村における家計の生活水準をみるための指標としています 第 3 項市町村民所得の概念 (1)3 面等価の原則市町村民所得とは 市町村の経済活動を生産 分配 ( 支出 ) という経済循環の面から計量把握するものであることは先に述べましたが ここではそれを簡単なモデルで説明します - 3 -

1 モデルの条件市町村における経済活動の主体として 小麦生産者 製粉業者 パン製造小売り業者の 3 者のみが存在し 外部経済 ( 他の市町村 ) と取引のない閉鎖経済を想定する 2 モデルの内容小麦生産者は小麦を 50 万円生産し それを全部製粉業者に売却し 50 万円の所得を得ます そして この 50 万円の所得でパン製造小売り業者から 50 万円のパンを購入し消費します 製粉業者は 50 万円の小麦を使い 100 万円の小麦粉を生産します この小麦粉をパン製造小売り業者に全額売却し このうち 50 万円を小麦生産者への支払に充て 残り 50 万円でパン製造小売り業者からパンを購入し消費します さらに パン製造小売り業者は 100 万円の小麦粉を使い 150 万円のパンを生産し 小麦生産者 製粉業者にそれぞれ 50 万円のパンを売却し 残った 50 万円のパンを自己消費します これを生産面からみますと 小麦生産者 製粉業者 パン製造小売り業者がそれぞれ生産した価値をすべて合計すると300 万円ですが 製粉業者は小麦生産者から小麦粉の原材料として小麦 50 万円を購入し 同じくパン製造小売り業者は 製粉業者から小麦粉 100 万円の原材料を購入しています ( 小麦や小麦粉のように次の生産のための原材料として使われるものを中間財といい その使用を中間消費 ( 又は中間投入 ) といいます ) 一方 パンのようにもうそれ以上原材料として使われることのないものを最終財といい その使用を最終消費と呼びます 図 2 小麦生産者 製粉業者 パン製造小売り業者の生産と取引き [ 小麦生産者 ] 小麦 50 生産 小麦 50 パン 50 小麦粉 100 小麦粉 100 生産パン 50 パン 150 生産 [ 製粉業者 ] [ パン製造小売り業者 ] モノの流れパン 50( 自己消費 ) カネの流れ - 4 -

さて この300 万円のなかには 製粉業者やパン製造小売り業者が購入した原材料費分が含まれていますから 生産活動の純成果を考える場合には これらを差し引きする必要があります まず 小麦生産者は小麦 50 万円を生産しており これは小麦生産者の生産の純成果 ( このような純成果を付加価値と呼びます ) となります 製粉業者は 100 万円の小麦粉を生産していますが これには50 万円の原材料を使用していますので 製粉業者の付加価値は100 万円 -50 万円 =50 万円となります 同様に パン製造小売り業者の付加価値は 150 万円 -100 万円 =50 万円となります このようにして 小麦生産者 製粉業者 パン製造小売り業者はそれぞれ50 万円の付加価値を生産し この合計額は150 万円となります この150 万円を 市町村内総生産 といいます 付加価値の合計 = 市町村内総生産一方 所得 ( 分配 ) 面をみると 小麦生産者は小麦の売却により50 万円の所得を 製粉業者は小麦粉の売却 100 万円から原材料である小麦代の50 万円を差し引き50 万円を パン製造小売り業者はパンの販売 150 万円から小麦粉の購入 100 万円を差し引き50 万円の所得を得ており その合計は150 万円となります この所得の合計を市町村民所得といいます 所得の合計 = 市町村民所得支出面は 最終財 ( このモデルの場合はパン ) への支出により測ることができ 小麦生産者はパン50 万円を消費し 製粉業者及びパン製造小売り業者も同様に50 万円を消費します 最終財への支出 ( 最終需要 ) の合計を市町村内総支出といいます 最終財への支出の合計 = 市町村内総支出そうしますと 市町村内総生産 市町村民所得 市町村内総支出はすべて150 万円となりますが このように 一つの付加価値の流れを生産 分配 支出という異なった面から見たとき これらはすべて同額となるので この経済の循環を3 面等価の原則と呼びます (2) 総生産と純生産前に述べたように総生産は産出総額 ( 生産活動により生み出された財貨 サービスを貨幣で評価し合計したもの ) から原材料費等の物的経費 ( 中間投入額 ) を控除したものとして把握されます また 事業所の生産活動に伴い その使用する建物や機械設備などは年々価値が減少します このため 固定資本の減耗価格を計算する減価償却を行いますが このなかに不慮の事故による損害を加えたものを固定資本減耗と呼び 老朽設備等の更新に充当されます 生産の純成果を考える場合には 総生産からこの固定資本減耗を除く必要があります この固定資本減耗を除いたものが純生産 ( 純付加価値 ) で 除く前を総生産 ( 粗付加価値 ) と呼んで区別しています したがって 両者は次のような関係になります 総生産 ( 粗付加価値 )= 純生産 ( 純付加価値 )+ 固定資本減耗 (3) 市町村民所得の評価の方法 ( 市場価格表示と要素費用表示 ) 付加価値額を表示する方法として 市場価格表示による方法と 要素費用表示による方法があります 市場価格表示とは 文字通り市場で取り引きされる価格で評価する方法です この市場価格は 中間投入 ( 原材料費等 ) と要素所得 ( 生産要素の提供者の受取りである雇用者報 - 5 -

酬 財産所得 企業所得 ) だけでなく 固定資本減耗を補填するための費用 ( 以上を要素費用といいます ) や生産 輸入品に課される税をもその構成費用としています なお 補助金は 価格の引き下げの働きをもつので生産 輸入品に課される税とは逆の効果をもっています 一方 要素費用表示とは 財貨 サービスの生産のために必要とされる要素費用 ( 要素所得及び固定資本減耗 ) によって測定する評価方法です 以上を整理しますと 総生産 ( 市場価格表示 )= 要素所得 + 固定資本減耗 + 生産 輸入品に課される税 - 補助金総生産 ( 要素費用表示 )= 要素所得 + 固定資本減耗となり 両者の違いは市場価格に影響を与える生産 輸入品に課される税 ( 控除 ) 補助金を含むかどうかで区別されます なお 経済活動別総生産は 総支出に対応するものとして市場価格表示が用いられ 要素所得である同純生産及び分配は要素費用表示で示されています (4) 市町村民所得の把握の方法 ( 内ベースと民ベース ) 市町村民所得の把握の方法に 市町村内ベースによる方法と市町村民ベースによる方法があります 市町村内ベースはいわゆる属地主義に基づく考え方で 市町村という行政区域内における個人や企業等の経済活動により生み出された付加価値額を把握するもので その生産にたずさわったものの居住地の如何を問いません 国民経済計算でいえば国内総生産 (GD P) に相当します 一方 市町村民ベースは いわゆる属人主義に基づく考え方で 市町村内に居住する個人やその市町村に所在する企業等が受け取る付加価値額をとらえるものであり 市町村内ベースの付加価値額に 市町村内居住者が他の市町村から持ち帰る賃金 利子 配当を加え 逆に他の市町村に持ち出す賃金 利子 配当を控除して得られます 国民経済計算では国民所得に相当します したがって 両者は次のような関係になります 市町村民所得 = 市町村内純生産 + 市町村外からの流入所得 - 市町村外への流出所得なお 市町村民所得では 経済活動別総生産 ( 純生産も同じ ) は内ベースで 市町村民所得の分配と家計所得 ( 個人企業を含む ) は民ベースで把握しています - 6 -