公的資金も脱デフレ 金利上昇を見据え 運用の見直しを検討している状況だ 経済再生担当大臣の下に設置された 公的 準公的資金の運用 リスク管理等の高度化等に関する有識者会議 が昨年 11 月に報告書を公表した ( 以下 有識者会議報告書 以下鉤カッコ内は有識者会議報告書より引用 ) その有識者会議報告

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1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長


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日本株市場を泳ぐ 5 頭のクジラ SMBC 日興証券株式会社投資情報部 2016 年 10 月 4 日更新版

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平成23年11月1日

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< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

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第 1 四半期運用実績 ( 概要 ) 運用利回り +1.54% 収益率 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1.02% 実現収益率 ( )) 運用収益額 +3,222 億円 総合収益額 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1,862 億円 実現収益額 ( )) 運用資産残高 ( 第 1 四半期末 )

2008 年 7 月号 このような状況の中 インフレヘッジの一手段として 物価連動国債 への関心が高まってきている 2004 年 3 月に第 1 回債が発行されて以降 日本の物価連動国債市場は発展を続け 合計発行残高は9 兆円に達している 本稿では 改めてその商品概要 投資効果 留意点 直近の動向な

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受益者の皆様へ 平成 28 年 2 月 15 日 弊社投資信託の基準価額の下落について 平素より弊社投資信託をご愛顧賜り 厚くお礼申しあげます さて 先週末 2 月 12 日 ( 金 ) 以下のファンドの基準価額が 前営業日の基準価額に対して 5% 以上下落しており その要因につきましてご報告いたし

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1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題

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為替リスクについてこの保険は 一時払保険料の払込通貨と契約通貨が異なる場合や 死亡保険金 解約払戻金 年金および定期支払金等 ( 以下 保険金等 ) 受取時の通貨が一時払保険料の払込通貨と異なる場合等に 為替相場の変動による影響を受けます したがって 保険金等を一時払保険料の払込通貨で換算した場合の

( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

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マイナス金利付き量的 質 的金融緩和と日本経済 内閣府経済社会総合研究所主任研究員 京都大学経済学研究科特任准教授 敦賀貴之 この講演に含まれる内容や意見は講演者個人のものであり 内閣府の見解を表すものではありません

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への投資を通じてもたらされる したがって 為替の影響を測定するためにここでは外国債券と外国株式の収益率の過去実績から為替の影響を分析する 図表 2は シティ世界国債インデックス ( 除く日本 ) の円ベースのリターンを年度毎に債券要因と為替要因に分解したものである また 図表 3はリスクについて同様

第1章

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インプライド・キャップレートの算出方法

Transcription:

インフレに対応した運用戦略 目次 Ⅰ. はじめに Ⅱ. 米国における実証分析 Ⅲ. 日本の投資家への適用 Ⅳ. まとめ 年金運用部運用プランナーグループ調査役佐野裕一 Ⅰ. はじめにアベノミクスにより 我々が長年苦しんできたデフレの状態から脱却する動きが見え始めている そうした環境の変化を受け 脱デフレ という世界にどう対処していけば良いのか 脱デフレ (=インフレ) に備えた運用の考え方の整理が本稿の目的である まず 企業年金における国内債券と生保一般勘定の保有状況を確認する 図表 1において 2000 年以降の国内債券と一般勘定の推移をみると 2000 年度は3 割程度であったものが 2012 年度は5 割弱へと増加している 一方 長期金利は 2012 年度末で 0.6% 前後と量的金融緩和で最低水準にあり 今後金利は脱デフレにより上昇に向かう可能性が高いことを踏まえると 金利上昇により資産価格が下落するリスクを抱えているといえる 脱デフレ 金利上昇という環境変化に備えて 運用を切り替えていく 見直していくことが必要なタイミングと思われる 図表 1: 企業年金における国内債券 一般勘定構成比率と国債利回りの推移 50% 40% 一般勘定国内債券 10 年国債利回り ( 右軸 ) 3.0% 2.5% 30% 2.0% 20% 1.5% 10% 1.0% 0% 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 年度 0.5% 出所 : 企業年金連合会 HP 及び Bloomberg より三菱 UFJ 信託銀行作成 1/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

公的資金も脱デフレ 金利上昇を見据え 運用の見直しを検討している状況だ 経済再生担当大臣の下に設置された 公的 準公的資金の運用 リスク管理等の高度化等に関する有識者会議 が昨年 11 月に報告書を公表した ( 以下 有識者会議報告書 以下鉤カッコ内は有識者会議報告書より引用 ) その有識者会議報告書の第 2 章 1 節 国内債券を中心とするポートフォリオの見直し において 国内債券を中心とする現在の各資金のポートフォリオについては デフレからの脱却を図り 適度なインフレ環境へと移行しつつある我が国経済の状況を踏まえれば 収益率を向上させ 金利リスクを抑制する観点から 見直しが必要である と ポートフォリオ全体の見直しについて言及している そして 第 3 章 1 節 運用対象の多様化 において 新たな運用対象( 例えば REIT 不動産投資 インフラ投資 ベンチャーキャピタル投資 プライベートエクイティ投資 コモディティ投資など ) を追加することにより 運用対象の多様化を図り 分散投資を進めることを検討すべきである と脱デフレに備えた投資対象の候補について 提言している グローバル金融市場においても 一足先に脱デフレに向けた動きが出てきている 図表 2 は米国の中央銀行 FRB のバランスシートと米国の 10 年国債利回りの推移である 図表 2:FRB バランスシートと米国 10 年国債利回り 兆ドル 8.5 量的緩和拡大期 量的緩和縮小期 % 5.5 7.5 6.5 米国 10 年債利回り ( 右軸 ) 5/22 バーナンキ議長量的緩和縮小に言及 4.5 3.5 5.5 4.5 9/15 リーマンショック 正常化に伴い バランスシート是正 金利上昇へ 2.5 1.5 3.5 0.5 2.5-0.5 1.5 FRB バランスシート -1.5 0.5 2008/1 2009/1 2010/1 2011/1 2012/1 2013/1 2014/1 2015/1-2.5 出所 :Bloomberg より三菱 UFJ 信託銀行作成 2008 年のリーマンショック以降 FRB のバランスシートは量的金融緩和により拡大する一方 長期金利は低下傾向であった それが 2012 年に長期金利は底打ちし 上昇に転じて 2/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

いる また 2013 年 5 月にはバーナンキ議長が量的金融緩和の縮小に言及している このようにグローバル経済を代表する米国でみると 日本に一歩先を行く形で 量的緩和の時期から経済の正常化に伴い FRB はバランスシートを是正し 景気回復 物価上昇 金利上昇に移行しつつある段階といえる 日本の経済環境の変化は一歩遅れているかもしれないが 物価上昇 金利上昇に強い インフレ対応資産を検討しておくべき時期と考えられる そこで本稿では 物価上昇に強い資産 インフレに対応した運用戦略について考えていきたい 一般的に物価上昇に強いと考えられている資産とその理由は以下のとおりである 図表 3: 物価上昇に強いと考えられている資産 株式 インフレは 売り上げ 利益の上昇を通じて株価上昇につながる 商品 ( コモディティ ) エネルギーなど 物価との関連性が高い 物価連動国債 キャッシュフローが物価指数自体に連動している 不動産 賃料は物価と連動する傾向があり 不動産の価値を押し上げる効果がある 出所 : 三菱 UFJ 信託銀行作成 1つ目は株式で インフレにより商品の価格も上がるため 売上や利益の上昇を通じて株価上昇につながるといわれている 2つ目は商品 ( コモディティ ) で ガソリンなどは物価指数の構成要素であることから 物価との関連性が高いといわれている 3つ目は物価連動国債で 債券の仕組み上 キャッシュフローが消費者物価指数 (CPI) に連動している 4つ目は不動産で 賃料は物価と連動する傾向があり インフレは不動産の価値を押し上げる効果があるといわれている これら4つの資産が物価とどの程度連動性があるか 過去のデータを振り返って検証する Ⅱ. 米国における実証分析 1. 分析の前提日本においては 過去のインフレ局面のデータを取ることが難しく 70 年代のオイルショックや 60 年代の高度経済成長期までさかのぼる必要がある 今回想定するアベノミクスによる脱デフレによる物価上昇 金利上昇とは インフレの水準や内容が大きく異なり また日本経済の構造も 当時と現在では全く異なる そこで今回は グローバル市場の代表として 米国市場の過去データを通じて物価と資産価格の関係を分析する 3/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

また今回 資産のリターンと物価の関係を分析するだけでなく 資産のリターンと景気やインフレのサイクルの関係も分析するため まず景気 インフレ局面の分析上の定義について記載する ここでは 経済成長率 2.5% と物価上昇率 2% を境に景気局面を図表 4のとおり4つに分類している 1 景気後退期は 経済成長率が 2.5% 未満で物価上昇率が2% 未満の月 2 景気回復期は 経済成長率が 2.5% 以上 物価上昇率が2% 未満の月 3 景気加速期は 経済成長率が 2.5% 以上 物価上昇率が2% 以上の月 4 景気減速期は 経済成長率が 2.5% 未満で物価上昇率が2% 以上の月である なお 物価上昇率は消費者物価指数 ( 総合 前年比 ) 経済成長率は実質 GDP( 前年比 ) を使用している 図表 4: 景気局面の判断基準 物価上昇率 :2.0% 2 景気回復期 3 景気加速期 経済成長率 :2.5% 1 景気後退期 4 景気減速期 8% 6% 4% 出所 : 三菱 UFJ 信託銀行作成 図表 5: 景気局面の判断基準 2 3 4 3 3 3 2 3 4 1 4 3 4 4 1 100 90 80 70 2% 0% 60 50 40-2% -4% 物価上昇率経済成長率 30 20 10-6% 1986/01 1986/10 1987/07 1988/04 1989/01 1989/10 1990/07 1991/04 1992/01 1992/10 1993/07 1994/04 1995/01 1995/10 1996/07 1997/04 1998/01 1998/10 1999/07 2000/04 2001/01 2001/10 2002/07 2003/04 2004/01 2004/10 2005/07 2006/04 2007/01 2007/10 2008/07 2009/04 2010/01 2010/10 2011/07 2012/04 2013/01 2013/10 0 出所 :Datastream より三菱 UFJ 信託銀行作成 この4つの景気局面で 1986 年 1 月から 2013 年 12 月までの経済環境を分類したのが 図表 5である 物価上昇率がマイナスとなったリーマンショック後の 2009 年 3 月から 10 月の期間は分析対象から除外している 概ね景気局面は 図表 4の景気局面のグラフを時計回り (1 景気後退期 2 景気回復期 3 景気加速期 4 景気減速期 ) に推移するが 必ずしもきれいには回らず 4 景気減速期から3 景気加速期に戻ったりする場合もある 4/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

2. 物価と株式の関係まず 物価と株式の関係を分析する 図表 6の左図は物価と株式 (S&P500) の相関である 相関とは 2つの関係がどの程度同じように動くか連動の度合いを測る尺度で プラス1からマイナス1の間の値を取る 相関の値がプラス1に近いほど同方向の動き 連動性が高いことを意味し 相関の値がゼロに近いほど連動性が低く関連がないことを意味する また 相関の値がマイナス1に近いほど逆方向の動きとなることを意味する そして 分析の計測期間は 短期 (1 年 ) と中期 (5 年 ) の2パターンで分析している 相関の計測方法は 短期は対象資産の年次リターンと CPI( 前年比 ) との相関を計測し 中期は対象資産の年次リターンの5 年平均と CPI( 前年比 ) の5 年平均との相関を計測している 物価と株式の相関は 短期 中期ともほぼゼロで 連動性がみられない結果である これは 一般にいわれる株式はインフレに強いということと矛盾する結果になっている 図表 6: 物価と株式の関係分析 物価と株式の相関 景気局面と株式の関係 同方向の動きが強い関連ない 相関係数 1.00 0.50 0.00-0.50 株式平均リターン ( 年率 ) 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% 逆方向の -5% 動きが強い -1.00 短期 (1 年 ) 中期 (5 年 ) -10% 景気後退期景気回復期景気加速期景気減速期 出所 :Datastream より三菱 UFJ 信託銀行作成 なぜこのような結果になったのか考えてみたい 図表 6の右図は景気局面別の株式の平均リターン ( 年率 ) である 株式は景気の局面によってパフォーマンスが異なり 景気回復期に最もパフォーマンスが良い一方 景気後退期はマイナスのリターンである 物価の観点でみると 物価上昇率が高いのは 景気加速期と景気減速期の局面である 株式のリターンが高い時期と物価上昇率が高い時期がずれていることが 相関の分析では物価と株式の関連がみられなかった理由と考えられる 図表 7は景気局面や物価と株式の関係を整理したものである 図表 7の左から 景気局面を色分けして示し 景気回復期から加速期 減速期 後退期 そしてまた回復期と推移している 物価は 景気加速期から減速期にかけて上昇する 中央銀行は物価をコントロールするために 物価の動きとほぼ連動する形で政策金利を推移させる 株価はどのように動くかというと 景気後退期から回復期に移行する局面で株価は上昇する 物価と金利が低位で推移する中 株価が上昇する いわゆる金融緩和相場の時に大きく上昇する そして 景気が加速してくると 株価の伸び率が低下する 物価が上昇し 金融引き締めが起こり 株価の伸び率が鈍化する いわゆる金融引締相場である つまり 株価 5/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

は物価や景気に先行する特性があるといえる 図表 7: 株式と景気局面の関係 景気回復期景気加速期景気減速期景気後退期景気回復期 株価 景気加速期 物価 業績改善相場 金融引締相場 業績悪化相場 金融緩和相場 業績改善相場 株価上昇金利上昇 株価下落金利上昇 株価下落金利低下 株価上昇金利低下 株価上昇金利上昇 長期金利 政策金利 出所 : 三菱 UFJ 信託銀行作成 2. 物価と商品 ( コモディティ ) の関係次に 物価と商品 ( コモディティ ) の関係について分析する 商品 ( コモディティ ) といっても様々な種類があり まず全体的な傾向をみるため 様々な商品から構成される商品総合指数 (S&P GS 商品指数 ) で分析する 物価と商品総合指数との相関は短期 中期とも高く想定通りの結果である また 景気局面別にみると景気加速期のパフォーマンスが最も良い結果である 図表 8: 物価と商品の関係 物価と商品の相関 景気局面と商品の関係 同方向の動きが強い 関連ない 逆方向の動きが強い 相関係数 1.00 0.50 0.00-0.50-1.00 短期 (1 年 ) 中期 (5 年 ) 商品平均リターン ( 年率 ) 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% -5% -10% 景気後退期景気回復期景気加速期景気減速期 出所 :Datastream より三菱 UFJ 信託銀行作成 次に 商品総合指数は様々な商品で構成されたものであるため 詳しく構成要素別にみたのが図表 9の左表である ここでは商品の総合指数を構成する4つのセクター ( 商品群 ) について分析する 1つ目はトウモロコシなどの農産物 2つ目は銅などの工業金属 3つ目は 6/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

原油などのエネルギー 4 つ目が金などの貴金属である 各商品 代表例 優位な局面 1 農作物 トウモロコシ 経済活動の影響を受けにくく 景気後退期に優位 2 工業金属銅 3 エネルギー原油 4 貴金属金 出所 :Datastream より三菱 UFJ 信託銀行作成 図表 9: 商品の種類と物価と商品の関係 経済活動の影響を受け 景気加速期に上昇するが それ以外は低位 経済活動の影響を受け 景気加速期に上昇投資家のリスク回避の度合が高まる景気後退期に優位 各商品平均リターン ( 年率 ) 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% -5% -10% -15% 景気局面と各商品の関係 農作物エネルギー 工業金属貴金属 景気後退期景気回復期景気加速期景気減速期 図表 9の右図は景気局面別の各商品のリターンを示したものである エネルギーや工業金属は 経済活動により景気加速期においてパフォーマンスが優位な結果を示す 一方 農作物は経済活動よりも気候変動などの影響を受け また 貴金属に含まれる金はリスク回避資産であるため 投資家のリスク回避度合が高まる景気後退局面に上昇する つまり 商品は景気局面によりパフォーマンスが優位となるものが入れ替る傾向があるといえる また これらの商品は平均リターンが 20% を超える局面もあれば 10% の局面もあり 局面によりブレが大きいという特徴がある つまり 他の資産よりも価格変動のリスクが高いといえる 3. 物価と物価連動国債の関係物価連動国債は 物価の変動に伴い 利子や償還金額が変動する仕組みの債券である 図表 10 は 日本の物価連動国債の仕組みを説明したものである 図表 10: 物価連動国債の仕組み 物価 ( コア CPI) と元金額 利子額の関係 図は日本の物価連動国債の仕組み 前提 発行日のコア CPI を 100 以降半年毎に 1 ポイントずつ上昇 10 年後 ( 償還日 ) 元金額 100 億円 表面利率 2%( 半年利払い毎に1%) 10 利子額 ( 発行日 ) 1.01 億円年満期想定金元金額額元 (100 億円 ) コア CPI 100 0.5 年後 1 年後 1.5 年後 (101 億円 ) コア CPI 101 利子額 1.02 億円 想定元金額利子額 1.03 億円 想定元金額9.5 年後 利子額 1.19 億円 1% 1% 1% 1% 1% 出所 : 財務省 HP より三菱 UFJ 信託銀行作成 (102 億円 ) コアCPI 102 (103 億円 ) コアCPI 103 (119 億円 ) コアCPI 119 想定元金額利子額 1.20 億円 想定元金額購入 (120 億円 ) コア CPI 120 償還金額 120 億円 7/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

発行日に 100 億円で 10 年満期の債券を購入し 年に2% 半年毎に1% のインフレが実現したと仮定する その時 物価 ( コア CPI) が当初 100 だったものが 101 102 と増加し 償還日には 120 になったとする 物価連動国債の利子額は 想定元金額がインフレの分増える形になり 毎回 1% ずつ増え 半年後 1.01 億円 1 年後 1.02 億円となり 10 年後に 1.2 億円となる 利子に加え 償還金額もインフレの分増額するため 償還金額は 120 億円となる このように物価連動国債はインフレの分 投資家のキャッシュフローが物価上昇に完全に連動するという商品特性である ところが 物価連動国債の日々の価格変動は 物価の動きと必ずしも連動しない それを説明したのが図表 11 左図で 物価連動国債の価格変動要因を図解したものである 物価連動国債の価格は 縦軸の実績インフレ率と横軸の実質金利により変化する 確かに実績インフレ率の上昇は価格押し上げ要因になるが 実質金利の上昇は価格低下要因となる そのため 実績インフレ率が上昇しているのに 物価連動国債が下落する あるいはその逆が起こり得る 図表 11: 物価連動国債の価格変動と景気局面の関係 物価連動国債の価格変動 実質金利 = 名目金利 - 期待インフレ率昇 実低下 実質金利 上昇上績 価格上昇インフレ率 低下 価格低下 物価連動国債平均リターン ( 年率 ) 8% 6% 4% 2% 0% -2% 景気局面と物価連動国債の関係 物価連動国債平均リターン対固定債超過リターン ( 右軸 ) 景気後退期景気回復期景気加速期景気減速期 物価連動国債の価格変化が実績インフレ率と連動しない領域 4.0% 3.0% 2.0% 1.0% 対固定債超過リターン 0.0% -1.0% 出所 :Datastream より三菱 UFJ 信託銀行作成 次に 景気局面の観点から どの時期に物価連動国債 ( バークレイズ米国物価連動国債指数 ) のパフォーマンスが優位かを検証したのが 図表 11 右図の棒グラフである 物価が上昇する景気回復期よりも 実質金利低下を織り込む景気減速期が最も良いという結果である ただし 固定債 ( 通常の固定利付債を意味し ここではバークレイズ米国総合指数を使用 ) に対する分散投資として考えるなら 固定債に対する相対的なリターンが重要になる それを分析したのが 図表 11 右図の折れ線で 物価連動国債の固定債に対する超過リターンである 固定債に対して相対的にパフォーマンスが優位なのは景気回復期と景気加速期で この局面が固定債の代わりに物価連動国債の組入れを検討すべき時期となる 8/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

ーマンショック米住宅バブル 2014 年 9 月号 4. 物価と不動産の関係不動産 (NCREIF( 米国不動産指数 )) は物価との相関を分析すると 短期では相関がなく中期では負の相関があるという結果で 不動産はインフレに強いという通説とは異なる結果となった また 景気局面の観点で分析すると 景気サイクルの中でパフォーマンスの差が小さく インフレとの関連性が低い資産といえる 図表 12: 物価と不動産の関係 物価と不動産の相関 景気局面と不動産の関係 同方向の動きが強い関連ない逆方向の動きが強い 相関係数 1.00 0.50 0.00-0.50-1.00 短期 (1 年 ) 中期 (5 年 ) 不動産平均リターン ( 年率 ) 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% -5% -10% 景気後退期景気回復期景気加速期景気減速期 出所 :Datastream 及び NCREIF より三菱 UFJ 信託銀行作成 それでは不動産は何に連動しているかというと 概ね経済規模に連動して推移していることがわかる 図表 13 は 米国の経済規模 名目 GDP と不動産指数の推移である 名目 GDP と不動産指数は 不動産バブルとその反動の時期を除くと 概ね連動し 相関係数は +0.5 と連動性が高い結果となっている したがって 名目 GDP が拡大する経済では 不動産は景気サイクルの影響を受けず 安定したパフォーマンスが出ると考えられる また 不動産のリターンは鑑定結果などを反映したものであることから 経済環境の変化に遅れて変化する傾向があり それが中期的に物価と逆相関がみられた要因となっている可能性がある 図表 13: 名目 GDP と不動産の関係 名目 GDP 2000 年末 =100 米国不動産指数(NCREIF) 2000 年末 =100 220 300 2008.9 リ200 250 180 200 160 米国不動産指数 (2000 年末 =100 右軸 ) 150 140 120 名目 GDP (2000 年末 =100) 100 50 100 0 80 2000/12 2002/12 2004/12 2006/12 2008/12 2010/12 2012/12-50 出所 :EcoWin NCREIF より三菱 UFJ 信託銀行作成 9/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

5. 景気 インフレのサイクルと各資産の関係これまでの分析結果などから 景気 インフレのサイクルと資産リターンの関係を整理したのが図表 14 である 不動産はリターンが安定的で 景気 インフレのサイクルの影響を受けないため 不動産以外の資産がどの局面で優位か示している 左上の景気回復期と右上の加速期では株式が優位で 右下の景気減速期と左下の景気後退期では債券が優位である 次に商品は 優位な戦略が局面により変化し エネルギーや工業金属は景気加速期に 貴金属や農産物は景気後退期から回復期の入口で優位である また 物価連動国債は 景気減速期に優位である ただし 対固定債では債券が優位ではない景気回復期 加速期において 相対的に優位な結果となっている 実際に投資する場合 次にどの景気 インフレ局面が来るかを正確に予測することは難しい そのため 複数の資産を分散して組入れ ポートフォリオ全体として景気 インフレに対応していくことが必要といえる 図表 14: 景気局面と各資産の関係 インフレ率上昇 景気回復期 業績改善相場 工業金属 景気加速期 G D P 成長率上昇 融緩和相場景気後退期業績悪化相場金農産物 国債 株式 債券 貴金属 物価連動債 景気減速期 金融引締相場エネルギー G D P 成長率低下 インフレ率低下 出所 : 三菱 UFJ 信託銀行作成 6. 海外機関投資家のインフレ対応資産の保有状況海外の機関投資家がインフレにどう対応した運用戦略を採用しているか見てみる 海外の年金基金は 給付がインフレに連動したり また大学基金は運用目標が CPI+アルファとしているところが多い したがって もともとインフレを意識したポートフォリオを構築してきた歴史がある 図表 15 は海外の機関投資家の資産構成である 左から 1つ目がカルパース ( カリフォルニア州職員退職基金 ) 2つ目がイェール大学基金 3つ目が CPPIB( カナダ公的年金 ) 4 つ目が英国の企業年金 ( 平均 ) である 10/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

図表 15: 海外機関投資家の資産構成 成長資産 ( 株式等 ) 64% カルパース 流動資産 4% インカム資産 17% 実物資産 ( 不動産等 ) 11% 商品 1% 物価連動国債 3% イェール大学基金 キャッシュ 2% 絶対収益 18% 非上場株 32% 債券 5% 外国株式 10% 不動産 20% 天然資源 8% 国内株式 6% 外国株式 35% カナダ公的年金 新興国株 7% その他債権 5% 国内株式 8% 債券 28% 不動産 11% インフラ 6% 英国の企業年金 ( 平均 ) その他 9% 株式 35% 現預金等 7% 固定債 26% 物価連動国債等 18% 不動産 5% 資産 カルパース イェール大学基金 カナダ公的年金 英国の企業年金 株式 64% 48% 50% 35% インフレ対応資産 15% 28% 17% 23% 債券 17% 5% 28% 26% 出所 : 各種 HP アニュアルレポート等より三菱 UFJ 信託銀行作成 図表 15 の下の表では 資産を3 種類に分けて記載している 1つ目が株式 2つ目が不動産や物価連動国債などのインフレ対応資産 そして3つ目が債券である インフレ対応資産の組入れ比率は 15% から 28% となっており リスク資産である株式の組入比率と比較すると 1/4 から 1/2 程度組み入れる傾向がある また どのようなインフレ対応資産を保有しているかみると カルパースは不動産 商品 物価連動国債と幅広く分散して保有している また 英国はインフレ対応資産のうち 物価連動国債が 18% と非常に多いという特徴がある これは 英国の年金制度がインフレスライドするものが多く 物価連動国債に対するニーズが高いことと 英国の物価連動国債は流動性が高いことが背景としてある Ⅲ. 日本の投資家への適用 1. 制度面からみた場合のインフレ対応の必要性日本の企業年金にとっての 制度面からみたインフレ対応の必要性を考えてみたい 日本の企業年金制度は一般に給付がインフレスライドしないことが多い ただし給与比例で給付が決まる制度では ベースアップを通じて給付額の増加につながる側面がある そういったことがないポイント制の確定給付年金 ( 以下 DB) 制度では収益源泉の一つとして組入れを検討することになる つまり 市場環境の変化に適応するために インフレ対応資産を収益源泉の一つとして組み入れを検討することになる 一方 キャッシュバランス ( 以下 CB) プランでは インフレ 金利上昇対応を検討する必要性が高い 図表 16 左図は CB プランの金利上昇による影響を示したものである 金利が上昇すると 給付見込額が増加するものの 割引率も金利上昇に伴い自動的に上昇するため給 11/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

現在価現在価2014 年 9 月号 付見込額の現在価値 つまり退職給付債務は金利上昇前と変わらない したがって 金利上昇は債務額にはあまり影響しないといえる ただし 多くの企業年金において 資産側のデュレーションは NOMURA-BPI 総合のデュレーションである約 7.5 年程度に対し 債務側のデュレーションは7 年より短いことが多いと思われる その場合は資産側のデュレーションの方が長いため 金利上昇により資産価格減少の影響を受ける可能性が高いことから 脱デフレでの金利上昇を踏まえると 資産のデュレーションを短くすることを検討することが望ましい また 図表 16 右図は CB プランの年金財政上の動きを示したものである 金利が上昇すると 給付見込額は増加する 予定利率は会計上の割引率とは異なり自動的に上昇しないため 予定利率を見直さないと給付見込額の現在価値 つまり数理債務も増加する そのため 債務増加に対応するには 年金財政面からは掛金の増額が考えられ 運用面からはインフレ時に優位なパフォーマンスを示すインフレ対応資産の組入れが考えられる 図表 16:CB プランの金利上昇による影響 CBプランの退職給付会計上の動き ( イメージ ) 給付見込額金利上昇値 割引率が上昇 現在価値 ( 債務 ) は不変 ( ) 金利上昇で給付増加 CBプランの年金財政上の動き ( イメージ ) 金利上昇値 予定利率を変えないと 現在価値 ( 債務 ) が増加 金利上昇で給付増加 給付見込額( ) 再評価率 = 割引率でともに連動することを前提としている 金利上昇リスクも踏まえると債券の短期化が有効 インフレ対応資産の組入れが有効 出所 : 三菱 UFJ 信託銀行作成 つまり インフレ対応したポートフォリオの導入は DB 制度などにおいては 投資効率改善を目的とするものになる また CB プランでは負債のリスク特性の観点から 金利上昇 インフレによる負債の増大リスクへの対応が目的であるといえる 2. 為替リスク最後に為替リスクについて考えてみたい 企業年金に限らず日本の投資家は 長年にわたり円高に悩まされてきた ただし 長かった円高トレンドも転換したといってよい状況になりつつある 図表 17 右図は経常収支と為替動向の関係を整理したものである 経常収支が黒字ということは 外貨を稼ぐ力があり 高い支払い能力があることを意味する これまでは経常収支の 12/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

黒字が為替市場で資金フロー面から円高要因となっていた しかし今後 少子高齢化により家計貯蓄率低下という構造的な変化を受けて経常収支が悪化すると 支払い能力が低下し円安の要因になる 実際に 経常収支とドル円の為替がどのように推移しているか示したものが図表 17 左図である 貿易収支は既に赤字で 経常収支も黒字幅が縮小し 赤字に転落することが懸念される状況である また 金融政策の観点からも 2013 年 4 月の日銀による異次元金融緩和の導入を受けて 円安が進行したことが図表 17 左図から分かる 米国では昨年から量的緩和の縮小が言及されるなど 日米の金融緩和格差の拡大傾向は今後も続くと見込まれ 円高トレンドは転換したといえる したがって 為替ヘッジなしの海外資産を一定程度持つことは 円安による輸入インフレへの備えとしても有効な選択肢と考えられる ドル円 60 80 100 120 140 160 円高 ドル円 経常収支 ( 右軸 ) 図表 17: 経常収支とドル円の関係比率 所得収支他 貿易収支 経常収支(12カ月移動平均) 兆円 5 2011.3 東2012.11 日衆本議大院震解災2013.4 日銀異次元緩和散表明経常収支改善 4 3 2 1 0 現在 外貨受取り > 外貨支払い = 経常収支黒字 = 高い支払能力 ( 外貨を稼ぐ力 ) 外貨受取り 財 サービス輸出配当金等受取等 経常収支赤字 外貨支払い 財 サービス輸入配当金等支払等 180 経常収支悪化円安 貿易収支赤字化 経常収支の赤字転落懸念 200 2008/1 2010/1 2012/1 2014/1 出所 :INDB EcoWin より三菱 UFJ 信託銀行作成 -1-2 将来 経常収支赤字 = 支払能力低下 = 通貨安 ( 円安 ) 3. インフレに対応したポートフォリオ例それでは インフレに対応したポートフォリオの構築例を具体的に考えていきたい 図表 18 は日本の企業年金の資産配分をどのように見直したか示したものである まず 収益源泉の分散を意識して 内外株式のうち2 割程度を不動産と商品に配分する 株式の2 割と比率は高くないが 不動産は流動性が低いため 当初少なめの配分で開始する また不動産は国内不動産だけでなく 海外不動産などもグローバルなインフレへの対応として意味がある 商品については価格変化が大きいこともあり 1% の組入れに留める それから 物価連動国債は国内債券を分散する形で組入れる ただし 市場の流動性が十分ではないため 限定的な組入れに留める必要があり ここでは2% としている もう一つ 短期債を組入れているが これは金利上昇に備えたデュレーション短期化のためである ただし金利が上昇したら 国内債券は利回りが大幅に改善するため タイミングをみて元に戻 13/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

すことになる そのため 流動性があって 金利上昇後において容易に元に戻せる資産としている 図表 18: インフレに対応したポートフォリオ構築例 企業年金 ( 日本 ) インフレ対応資産組入れ その他 9% 外国株式 15% 国内株式 13% 短期資金 4% 外国債券 13% 国内債券等 47% 商品 1% 外国株式 11% 短期資金その他 4% 9% 国内株式 10% 不動産 5% 物価連動国債 2% 外国債券 13% 国内債券 45% 短期債絶対収益 出所 : 三菱 UFJ 信託銀行作成 Ⅳ. まとめ 本稿では アベノミクスによる脱デフレを踏まえ インフレに強いと考えられている資産について 実際のところどうなのか検討した 米国における過去データに基づく実証分析では インフレに強いと考えられている資産は インフレ水準で考えると 資産によっては関係がみられなかったりするが 景気 インフレ局面で分析するとインフレとの関係を把握できることが分かった そして インフレに対応した資産をどのようにポートフォリオに組み入れるかについては 景気 インフレ局面により優位となる資産が異なることから 海外の機関投資家の例を参考に インフレ対応資産を分散して組入れるポートフォリオ構築例を提示した 今回組入れを検討した資産は 流動性などにおいて留意すべき点がある それらの点を踏まえながら インフレに対応したポートフォリオに見直すことが実際には必要である 本稿が日本の投資家の資産運用の一助となれば幸いである ( 平成 26 年 8 月 20 日記 ) 本稿中で述べた意見 考察等は 筆者の個人的な見解であり 筆者が所属する組織の公式見解ではない 14/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

参考文献 証券アナリストジャーナル 特集インフレーションと資産運用 2013.9 公的 準公的資金の運用 リスク管理等の高度化等に関する有識者会議報告書 2013.11 財団法人年金シニアプラン総合研究機構平成 23 年度研究報告書 コモディティ投資に関する調査研究 2012.3 ラッセル インベストメント株式会社 Russell Research インフレと年金運営 2008.12 Werner Krämer, Equity Investments as a Hedge against Inflation, Part 1, 2012.8 Werner Krämer, Equity Investments as a Hedge against Inflation, Part 2, 2012.11 15/16 三菱 UFJ 信託資産運用情報

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